先生は光の戦士   作:暗黒騎士はいいぞおじさん

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日常回。




第3話

「ああああああ!!!」

 

とある日の早朝、シャーレの部室で珍しい奇声が駆け回っていた。

『先生』の声である。

 

「し、死にそう……」

 

そう言いながら机に突っ伏してしまうのは、毎日同じ光景だった。

 

『先生』は死ぬほど書類仕事が苦手だった。

最近まで一介の冒険者で、こんなものに触れる機会は無いまではいかないとしても、そうそう無かった。

なぜか見知らぬ言語は読めるし、物覚えは早い方の『先生』のためパソコンの使い方も大体分かっていた。

 

しかし仕事になると話は別だった。

脳が拒否反応を起こすレベルで理解を拒んでいた。

 

「…………よし、出掛けるか」

 

数日かけて一、二枚しか終わっていない仕事をほっぽりだして、『先生』は散歩に行くことにした。冒険欲が溜まってしょうがないらしい。

 

 

しかし、そんな先生に一人の少女が道を阻んだ。

 

 

「せ~んせ~い~?」

「ゆ、ユウカ?」

 

上着を手に取って羽織りながら部室を出ようとすると、怒った顔で手を腰に当てたユウカが立っていた。

 

「仕事をサボってどこに行こうとしてるんですか!」

「え、えっと……ちょっと見回りにでも行こうかなって……」

「もう知ってますから、先生の仕事進んでないって。手伝ってあげますから、やりましょう」

 

どこからそんな情報を、と思いながら『先生』は渋々自分の椅子に座った。流れるようにユウカは『先生』の向かい側に座った。

 

そうして『先生』とユウカの手伝いによって仕事は始まったのだが。

 

「……?」

「えっ……と、今言ったこと、全部分かりませんか?」

「分からない」

 

ユウカは目の前の?を浮かべまくる先生に唖然としていた。

仕事の基礎について聞いてみても、分からない。何をしなければいけないのかも、分からない。

それどころか一部の一般常識でさえ分からないと言っていた。

 

「あの、馬鹿にするつもりとかは無くて、その、本当に単純な疑問で聞きたいんですが……」

「いいよ、言ってみて」

「義務教育とか、受けましたか……?」

 

本当に失礼な質問だが、ユウカは聞いてみたくなってしまった。

その答えはというと、『先生』は首を傾げて

 

「ぎむ……きょういく?」

 

と完全に分からないという顔をしていた。

ユウカはそれを見て唖然とし、そして沸々と怒りが湧き出してきた。

 

「もう!連邦生徒会長は何考えてるのよ!」

「……ごめん」

 

突然そう叫んだユウカに困った顔で『先生』は謝った。

ユウカはああいや、と即座に違うと否定する。

 

「先生に怒ってるわけじゃなくて、ええと、その、なんていうか……得意不得意、ってあるじゃないですか。それなのに先生にこんな難しいことを任せるなんて、と思いまして……あれ?ということは……」

 

そこまで言葉を放ってユウカはとあることに気付いた。

 

「先生ってもしかして、キヴォトスに来る前は先生じゃなかったり、しますか?」

「うん。私も知らない連邦生徒会長に任命されて、ここにいる」

「やっ……ぱりそうですか……」

 

本当に何考えてるの!?とユウカは心の底から叫びたくなった。

 

「……」

「……」

 

ユウカは空気が少し重くなってしまったことに申し訳なさを感じ、どうにかして変えようと『先生』の話題を選んだ。

 

「先生が前まで先生じゃないなら、何をお仕事にされてたんですか?」

「冒険者をやってたよ。今もその気持ちだけどね」

「……もう一度聞いてもいいですか?」

「冒険者」

 

ユウカは信じられないものを見る目で『先生』を見た。

 

「……どうやら、普通じゃないみたいだね」

「いっ、いえ!」

「大丈夫大丈夫、自分でもキヴォトス(ここ)と違う存在、って分かってるから。むしろ変なところを教えてくれると嬉しい」

「先生……分かりました!私が誠心誠意、仕事のやり方も含めて教えてあげます!」

 

先までの失礼のお詫びも含めて、自信満々な顔で説明を始めるユウカに、『先生』は仕事はしたくないなぁ……などと思いながら、微笑みながら聞いていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時は進み、トリニティ。

『先生』はそこで出会ったハスミと喫茶店でお茶をしていた。

 

「ここのケーキ美味しいね。紅茶とよく合う」

「でしょう?私も気に入っていて、よく来るんです」

 

なぜ二人がこうしてケーキとお茶を楽しんでいるのか。それは『先生』が大きい地区は散策しておこうとトリニティまで来て、そこでたまたま休みだったハスミと出会い、どうせならお茶をしようということになったからである。

 

ハスミはカップをソーサーに置き、気付いたことを話した。

 

「そういえば先生。今日はあの大きい剣は持ってきてないんですね」

「ああ、キヴォトスでは目立つこと知ったから。必要な時以外は持たないことにしたの」

「そうなんですか。しかし、それでは襲われた場合、どうするつもりですか?」

「一応奥の手はあるよ。本当にピンチの時にしか使わないけど」

 

その時は本当に任せたよ、フレイ。と心の中で呟く。

 

「そうですか……ですが、出来るだけ襲われないようにしてくださいね。先生の安全が一番ですから」

 

ハスミがそう言いきった瞬間、爆発音が鳴り響いた。

それを聞いた『先生』は勢いよく立ち上がり、聞こえた方向へと駆け出した。

 

「話を聞いてましたか!?」

 

ハスミはそう叫びながらも、愛銃を持って『先生』を追いかけた。

 

 

 

『先生』が向かった先には、いかにもな不良達と対峙する見知った顔の少女がいた。

その見知った顔の少女が隠れている遮蔽に、『先生』とハスミは並ぶようにして駆け寄った。

 

「スズミ、大丈夫?」

「先生!?どうしてここに……ハスミさんも」

「たまたま近くにいた。で、あの子達が暴れてるの?」

「ええ。突然の暴動で、近くには私しかいなく……」

「参りましたね……先生は武器を持ってなくて、そうなると私を含めて二人しか戦える者はいない……」

 

『先生』はその言葉を耳に入れながら、思案する。頭上を飛び交う銃弾を眼にしながら、ふと一つの考えに至った。

 

「ねえ、上手くいくかは分からないんだけど……少し試してもいい?」

「……どのようなことであれ、私は先生を信頼しています」

「私もです」

「ありがとう、二人とも。

……じゃあやるか。私の指揮に従ってくれ」

「「はい!」」

 

考え、それは『先生』自身が指揮をするというものだった。

『先生』は指揮というものをあまりしたことがない。本人の記憶の中では、ゴールドソーサーのゲームでぐらいだ。

 

だが、歴戦の冒険者だからか、それとも限界を超える力の持ち主だからか……細かいことは定かではないが、『先生』はある程度の敵の行動を予測することが出来た。

 

「スズミ、隠れろ。ハスミ、三秒後右の敵を撃て」

 

そして運良く『先生』は、指揮の才能に恵まれていた。

 

 

つまり。

 

 

「戦闘終了、もう敵はいないはず」

 

そこに立っているのは三人だけということだった。

 

スズミが驚いた表情で呟く。

 

「……凄いです、無傷で終わらせることが出来るとは」

「ええ、まさか後方での指揮もお手の物とは、流石ですね、先生」

「初めてだったけど……上手くできてよかった」

 

後からやってきた正実委員と自警団達が、倒した不良を回収していくのを三人は見ていた。

 

「少し気になったのですが」

「どうしたの?ハスミ」

「些細なことですが、先生は戦闘中口調が変わりますよね、何か理由があるんですか?」

「ああ、それは私も気になっていました。声のトーンも少し下がりますね」

「んー、戦闘中は一秒遅れただけで大惨事、なんてざらだからね。ぱっぱと報告するのは大事だから」

 

それと……と『先生』は続けて言った。

 

「あっちが素に近いんだよね。あんまりビビらせるのは良くないから普段はこの喋り方になる様にしてるけど」

「そうなんですね。どちらの喋り方もいいと思いますよ」

 

ありがとうと『先生』は微笑み、それじゃあまたねと別れを告げた。

 

 

 

「……それにしても、先生、可愛らしい声をしていますよね」

「思いました。それでも威圧感は出るものなんですね……」

「ええ、なんというか……まるで、本当の殺し合いを知っているかのような……」




うちのヒカセンは出来ることなら突っ込んで殴るだけしたい脳筋。
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