先生は光の戦士 作:暗黒騎士はいいぞおじさん
晴れ渡る空、『先生』はゲヘナにいた。
腹ごしらえを済ませた先生は前回に引き続き散策をしていた。
トリニティに比べ高貴さが薄く、親しみやすさを感じていた『先生』は、しかし治安が悪いということを聞いていたため、護身用に剣を持ってきていた。
しかし、愛剣のカオスブリンガーだと目立つに目立つため、シャーレの地下にあったクラフトチェンバーでクレイモアとそれを入れる鞄を造り出して、それを持っていた。
自分で作ることも考えたが、必要な道具や素材を集めるとなると時間が掛かることが分かったため、断念した。
クレイモアといっても、硬さや切れ味はエオルゼアでも高位に入るであろうものになっているため(流石にカオスブリンガーには劣るが)、『先生』としては問題は無かった。
『先生』はそれを背中にぶら下げながら、見慣れてきたと言っても驚きや興奮をまだ感じさせる新鮮さを楽しんでいた。
そうして辺りを見回していた『先生』は、一つの店を見つけた。
コンビニである。
それを見つけた『先生』は小走りで入っていった。『先生』にとってコンビニはキヴォトスに来てから一番新鮮に感じるものだった。多い品物を低価格(『先生』基準)で、多く買える。
似たものでスーパーなどはあるが、最初に見た、間隔が狭く配置されているなどの理由でこちらの方を気に入っていた。
元の世界の事を考えると、困る人が増えそうだとも思ったが。
そこで『先生』はいろいろなものを見る。
おにぎりや、パン、酒、薬なども少しではあるが置いてある。買いたいものをすぐに買えるというのはやはりいいことだ、と旅好きな『先生』はそう思った。
特にほしいものは無かったためそのまま出ようかと思ったが、一つだけ気になるものが目に入り、それを
コンビニから出て、近くのベンチに座る『先生』。
「……買えた、けど」
そう言いながら『先生』は袋からそれを取り出した。
透明なフィルムに包まれた手のひらサイズの箱。フィルムを剥がして一本の筒を取り出した。
「これが……たばこ」
そう、『先生』が購入したのはたばこだった。
購入時にひと悶着あったが、ユウカに教えてもらった免許証というものを提示すると、あっさり購入できた。
なぜタバコが気になったのか。それは、元の世界ではタバコと言えば葉巻か
紙たばこをじーっと見つめる『先生』。
「未成年は喫煙はダメ。小学生でも分かると思うけど?」
そんな『先生』に、声をかける者がいた。
『先生』は少し悲しくなりながら、声をかけてきた存在に言葉を返した。
「……そんなに若く見える?私」
「?何言ってるの?」
『先生』が顔を向けると、そこには自身より小さく、その身ほどある銃を背負った少女が立っていた。
「これでも、一応大人なんだけど……」
「……つまらない嘘は止めなさい」
「はい、免許証」
ポケットに入れていたカードを手渡すと、少女は目を見開き、だんだんとばつが悪い顔になっていった。
「……その、ごめんなさい。早とちりだったわ」
「いや、ちょっと慣れてきたから大丈夫。……そんなに若いか?私……」
『先生』はアウラ族とあって背が小さく、そしてキヴォトス基準で童顔なためか、若く見えるのだった。余談だが、『先生』の身長は152cm。このキヴォトスではまだ目覚めていない勇者と同じ身長だ。
閑話休題。
少女は何かを思い出したかのように、はっとした顔をした。
「……もしかして、キヴォトスの外から来た先生、ってあなた?」
「うん。そういえば名乗ってなかったね、私は……アゼム」
その名を名乗っていいものかと思いつつも、いろいろな書類に既にその名で登録されていたため、渋々名乗っていた。そもそも固有名ではないが。
「アゼム先生ね。……私は空崎ヒナ。ゲヘナで風紀委員長をしているわ」
「風紀委員長……ああ、チナツが所属している組織の?」
「ええ、その組織よ。チナツが言っていたわ、とても強かった、とか」
「ちょっとだけ戦闘には自信があってね。……そういえばヒナは何してるの?」
「風紀委員として見回りよ。ゲヘナは争いごとが絶えないから……」
そうなんだ、とヒナの顔を見た『先生』は提案した。
「ヒナが良かったら、手伝うよ」
「え?いや、風紀委員の仕事だから別にいいけど……」
「でも、凄い疲れた顔してるし。隈も出来てるよ」
「……大丈夫よ、これぐらい普通」
「自分を救えない者に他者を救うをことなんて出来ない」
「え?」
『先生』はいつの間にか立っていた。その顔にはどこか遠くを見つめながら、しかし近くを眺めているように見えた。
「ヒナがなんで風紀委員になったかは知らないけど、もし、誰かのためとか、何か許せないことがあったからなら、聞いてほしい。無茶出来るのは自分を大切に出来るから、だよ」
それにしては、すぐボロボロになるよね。
そんな声が聞こえた気がした『先生』は苦笑する。
「……まあ、私が助けたい、と思っただけの自己満足だから、ヒナが嫌ならしないけど……」
それを聞いたヒナは、不思議に思っていた。
どうしてこうであったばかりの人にそんなことを言えるのか。もしかしたら、打算があるのかもしれない。けれど、それにしてはまっすぐすぎる眼差し。
……ありがたいけど、多分私よりは弱いだろうし、足を引っ張られても困るし、断ろう。本当に、ありがたいけど。
ヒナが断りの言葉を放とうとした瞬間、爆発音が聞こえた。
「……はぁ、ごめんなさい、今から向かわなきゃ。危ないからここで待ってて」
とても嫌な顔を浮かべながらその音の方向へ駆けていくのを、『先生』は見つめていた。
この日のヒナは連日の不良騒動、万魔殿からの嫌がらせなどで普段の倍の疲れを感じていた。
それでもゲヘナの風紀委員長。次々と不良達をなぎ倒していた。
だがしかし、なぜかというべきか、だからというべきか、ゲヘナの不良はどこから手に入れてきたと言いたくなるほどの数の戦車がヒナを囲んでいた。
「……めんどくさい」
高火力なヒナのデスロイヤーなら倒せないことは無い。
今も高機動で飛び回り、飛び乗り、次々と破壊している。
しかし、三機ほど破壊して飛んだ時、眩暈がした。
一秒にも満たない隙。しかし戦闘中のその僅かな隙は、大きな隙となる。
それを見逃さなかった一つの砲門がヒナを狙った。
「……っ」
死にはしないし、気絶もしない。多少痛いだろうが、それを我慢さえすればすぐに反撃に移れる。
そう思い、来るであろう痛みに耐えるため目を瞑り――
だぁん。
「よっしぁっ!風紀委員長打ち取ったりぃ!……なっ!?」
――音だけが身を襲ったことに首を傾げながら目を開いた。
「なに、これ……?」
ヒナを包むように、黒いオーラのようなものが佇んでいた。
ヒナだけでなく、彼女を狙っていた不良も目を見開いて困惑していた。
しかし、一秒に満たない隙が大きな隙になるなら。数秒も隙が続いたなら。
「後ろが疎かだぞ」
え、という声も完全に発せずに、不良は気絶し、戦車は崩れた。
すた、とヒナの横に一つの影が降り立ち、声を発した。
「悪い、待てなかった」
それは、『先生』だった。
『先生』は肩にクレイモアを乗せたまま、片手でヒナの方へ手を伸ばす。
ヒナは恐る恐る手を取り、立ち上がりながら疑問を発した。
「私を守ってくれたのは、先生?」
「ちょっと、魔法をな」
魔法。いつもならただの冗談を受け取れたはずのその言葉を、ヒナはどこか事実なような気がした。
「まだいるな。いけるか?」
「……ええ。そっちこそ、怪我しないでね」
かたや、ゲヘナ最強の風紀委員長。
かたや、アーテリスを救った英雄。
結果は語らずとも、はっきりとしていた。
死屍累々。そう呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
その光景を背景に、二人はジュースを飲んでいた。
「……ぷはっ。すぐに飲み物が買えるっていいね。自販機って」
「何を当たり前のことを言ってるの……ねえ、先生」
「どうしたの?」
「その……ありがとう。助けてくれて」
「お礼を言われるほどの事じゃない。私がやりたくてやっただけだから」
「でも、助けてくれたのは事実だし。何か、お礼をしたいのだけど」
「えー?あー……」
『先生』は飲み切ったジュースの缶を手で遊ばせながら数秒考え、出来るならでいいんだけど、と前置きをしてから言った。
「もし私が困ったら、助けてほしい。そっちが困ってたら、いつでも助けるから」
「……後者もお願いに入ってるの?」
「もちろん。そうしてくれると嬉しい」
「……ふふ、先生って、変な人ね」
「よく言われる」
二人はそうして笑いあった。
ヒカセンは二十歳過ぎてる成人をイメージしてますが、個人的には25歳くらいであってほしいと思ってます。