先生は光の戦士   作:暗黒騎士はいいぞおじさん

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第7話

《『先生』と猫》

 

カタカタカタと、タイピング音が鳴り響くシャーレの部室には影が一つあった。

 

「……」

「……」

 

正確には、二つ。重なっているため大きな影になっている。

『先生』は何とも言えない顔をしながら、仕事に集中していた。

その腕には、二つの腕と二つの尾が巻き付いている。

 

『先生』の横には、猫……キキョウが座っていた。

 

「……」

「……先生。手が止まってるよ。このままじゃ仕事が終わらない」

「いや、キキョウ……」

「どうしたの?」

 

 

「邪魔……」

 

 

『先生』の腕には、二つの腕と二つの尾が締め付けてられていた。

 

「……」

「ご、ごめん。でも仕事がやりづらい……いや、まあいっか。いったん休憩にしよう」

「分かった。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「コーヒーで」

 

突然素早く離れるキキョウに、『先生』は苦笑いを浮かべながら考えていた。

キヴォトスで見た動画だと猫ってあんな感じだな。そういえば、猫と言ったら……

 

「おまたせ」

「はやっ!?……ありがとう」

「……何、考えてたの?」

「え?」

「私を見て何か思い出してた。そんな目をしてたから」

 

心でも読まれてるんじゃないか、そう思いながら『先生』は大人しく答えた。

 

「私がいたところでは、キキョウみたいに、猫みたいな耳と尻尾が生えた種族がいてね。思い出してたんだ」

「ふーん……?」

 

ミコッテ族。『先生』が言うように、人の体に猫の特徴を加えたような種族で、狩人や冒険者のような職業を好み、大成するものが多い。反面、都市国家での暮らしを嫌う……のだが、特に関わりのある二人は研究や調べ物をよくしていたな、と『先生』は思う。

 

仲間の空賊にも猫はいるけど、今回はこっちの話をしようと『先生』は決めた。

 

『先生』は時たま、担当の生徒に元居た世界……アーテリスの話をしていた。

 

「いろんな知り合いがいるんだけど……思い出してみれば、術士で関わること多いような……インパクトが一番強いのは一番頼れる事件屋の助手だけど。でも、やっぱり語りたいのは……」

 

そこで思い出したのは、二人の暁。

 

「ヤ・シュトラとグ・ラハ、だね」

「へぇ、不思議な名前だね」

「ちゃんとした命名法則はあったはずだけど……よく覚えてないや」

 

そもそも、私も本名はアウラの命名法則からかなり外れているし、と『先生』は心の中で言った。

 

「ヤ・シュトラは凄腕の魔法と、その知識量から魔女って呼ばれるんだ。そして、名乗り始めた」

「魔女……普通は嫌がりそうな呼び名なのに、喜んで名乗ってるんだね」

「まあ、あそこでも魔女が悪い意味で使われることもあるけど、私にとってはいい意味の方が強いね」

「へぇ……ところで、魔女ってことは女性なんだ」

「?そうだね、頼れる大人のお姉さんだよ」

 

トゥルルル、アワワ……『先生』はそこまで思い出しかけ、すぐに頭を振って忘れた。

 

「どうしたの?」

「い、いや、なんでもない……ん"ん"、ともかく、彼女は私にとって最も頼れる黒魔法使いの魔女だよ」

「私は先生しか魔法を使う人を見たことないけど、そこまで凄いの?」

「うん、攻撃だけじゃなくて、回復、防護も得意だし。というより、私は魔法が得意じゃないのもあるけど……」

 

それをあらゆる術士が聞けば、「お前も十分規格外だ」と言われるだろう。

 

「ふぅん。でも、先生の方が凄いと私は思うけど」

「そんなことないよ。私は冒険しか得意なことないし」

「そう?人の心を掴むのも得意でしょ?」

「そうかな……いい人達に巡り合えただけな気がするけど」

「……それで、次はグ・ラハって人だったね」

 

グ・ラハ。

『先生』が彼の名を呟くと、頬が緩むのをキキョウは見逃さなかった。

 

「好きなの?」

「え?」

「彼……か彼女か知らないけど、そんな顔させるほどあなたにとって大切な人なの?」

「お、落ち着いて、キキョウ、何を言いたいかよく分からないけど、恋仲ではないよ。ただ……」

「ただ?」

 

キキョウはいつの間にか詰めていた体を元の位置に戻しながら次の言葉を待った。

 

「猫の話題で出したけど、どっちかというとあいつは犬みたいな奴だな、って思って。つい笑っちゃった」

「犬?」

「うん。どうやら、私のことを慕ってくれてるみたいでね……いろんなことを聞いてきたり、暇さえあれば冒険に誘ってくれ、なんて言ってくれて」

「……」

「うーん、可愛い弟分、な感じがするな。詳しい年齢知らないけど」

 

そう語る『先生』の顔は、とても楽しそうな顔をしていた。

 

「ふぅん……ヤ・シュトラって人より、楽しそうに喋るね?」

「えっ、そうだった?うーん、どっちが上とかは無いんだけど……怒らせたら怖いのは、ヤ・シュトラだからね……言葉を選ばなきゃいけないから」

「あの先生が言うほど?」

「こっちが大体悪いんだけどね……と、今はグ・ラハの話だった。グ・ラハはね、ヤ・シュトラに引けを取らない程いろんな魔法を知っていてね。その魔法で皆を守る剣と盾を生み出して戦ったりもするんだ」

「……やっぱり、魔法を知っているとはいえ、すぐには受け入れがたいね……別の世界から来てるから当たり前だけど」

 

魔法ではなく、神秘というものが漂っている世界。その神秘のことすらまともに知っているのはごくわずか。

そんなキヴォトスでは魔法というのは異質も異質だった。

 

「まあ、ここはエーテルが無い世界みたいだしね……多分、デュナミス(あれ)はあるから何とか生きてるけど……」

「あれ?」

「ううん、気にしないで」

 

『先生』はまだ未熟な子ども達に特殊なエネルギーを教えたくなかった。

正確には、キヴォトスに蔓延る悪い大人達に伝わらないように、子ども達がそれに自分抜きで対抗できるまで黙っておこうと決めていた。

 

「今日の話はこれぐらいかな」

「ふーん……先生がその二人のことが大切ってことが分かったよ」

「うん、暁の皆はとても、大事な仲間なんだ」

「……でも、私がいるのに、別の()の話をするのは嫌だった」

「え?」

 

キキョウは椅子に座っていた『先生』の前に立ち、そのまま覆い被さるように乗りかかった。

 

「ちょ、ちょっとキキョウ!?」

「これは先生への罰。我慢して」

「でも、「重いって言ったら許さないから」いや軽すぎなくらいだけどっ、これじゃ仕事が……」

「……んふふ」

 

お手上げだ、と手を挙げる『先生』を見て笑うキキョウ。

 

まだまだ自分の知らない人がいるものだ。『先生』はそう感じながら、どう退いてもらうか思考するのだった。

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