先生は光の戦士   作:暗黒騎士はいいぞおじさん

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あけおめ


第8話

《『先生?』とハナコ》

 

暗く、街灯と月明かりしか道しるべを作れないような、そんな夜更けに、トリニティのベンチに、一つの影があった。

誰かを待つようにその影は、足を組んで座っていた。

 

その影の周りは、不自然に一つも人の気配が無かった。

 

ふと影は、何かに気付いたようににこりと笑った。

 

「バレてるよ、ハナコ」

「……あら、ダメでしたか」

 

そう声を発したのは、影のすぐ後ろにいた、浦和ハナコだった。

バレていたことに気付いたハナコは、駆け足で同じベンチに座る。

一瞬の静謐の後、ハナコから話を切り出した。

 

「……先生は、無理されていませんか?」

「うーん、何とも言えないとこだね。本人は楽しそうなんだけど……嫌な事も、進んでやるからね」

「やっぱり、お人好しすぎですね」

「ね。僕もそう思うよ」

 

影とハナコは、困ったように笑いあう。

 

「そこがいいところではあるんですが……やっぱり、心配になりますね」

「うん、本当に。しかも、僕の事は忘れてないから、なおさらたちが悪いよ」

「……()()()さんを、ですか」

 

影……フレイは、うん、と頷いた。

 

フレイ。

見た目は、完全に『先生』と同じ姿の彼女はしかし、『先生』とは少しだけ雰囲気が違っていた。

フレイは『先生』の負の感情、そのもの。

どうして彼が現れたのかは、数行で纏められるものではない。

 

しかし言えるのは、『先生』はフレイ(負の感情)に心配されている、ということ。

 

ではどうして、フレイとハナコはこうして、話しているのか。

それはとある夜の事だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

その夜、ハナコはいつものように水着で徘徊していると、見慣れた人影が街灯の下で、背を向けるようにしてぽつんと立っているのを見かけた。

ハナコは、(本人はあまり自覚してないが)嬉々として走り寄り、声をかけた。

 

「あらあら、先生♡こんな夜更けに、なにを……」

 

違う。

ハナコは手を伸ばすことが出来る距離になってようやく気付いた。

自分の知っている『先生』とは違うことに。

何故か、眼を背けたくなることに。

 

『先生』には()()()()はない。摩訶不思議な魔法で隠されていたら、気付くことは出来ないなと思いながら、ハナコは目の前の女性を警戒した。

女性は振り返り、ハナコの目を見た。

 

「……ああ、ははっ。そういうこと、か」

「?」

「ふふ、いや……気にしないでよ。少し、話をしてもいいかな?説明したいから」

 

そうして、彼女……フレイと、ハナコは出会った。

 

 

近くのベンチに二人は横並びで座り、そしてフレイが静かに語り始めた。

 

自らは、君達の言う、『先生』の負の感情である。

 

何故この場に現れたのかは、分からなかったが、ついさっき分かった。

 

『先生』は今寝ているため、この体は『先生』ではない。

 

君達の事は『先生』を通して知っている。

 

他にも、いろいろなことを。

 

 

「……どう?信じられる?」

「……正直、疑いの心は強いのですが……魔法を使える、というのがとても不確定な、代物で……具体的な判断は難しいというか」

「だろうね。まあ、僕……『先生』に聞いてみればいいよ。首は傾げるだろうけど」

 

ハナコは少なくとも、目の前の彼女は襲ってくることは無いだろう、そう考え分かりました、と答えた。

 

ではもう一つ、お聞かせ願っても?とハナコは言い、フレイは水着で寒くないんだろうか、と思いながらいいよと承諾した。

 

「本来、フレイさんは単独で行動することは出来ず、そしてヘイローも無いのですよね?」

「うん。間違いないよ」

「では何故、今私の前にいるのでしょうか?」

「ヘイローがついてきた理由は分からない。でもなんでここにいるのか、それは分かったよ」

 

それはね、フレイは軽く微笑み、言った。

 

「君が、ここに来たからだよ」

「……え?」

 

そう言われたハナコは、目を丸くして驚いた。

何故、私が?と。

 

「何故、って顔をしてるね。それはね……君が似ていて、真反対だからだよ」

「……誰、と?」

『先生』()と」

「……は!?私と、先生がですか!?」

 

真反対はともかく、似ているというのは、どう考えても、違う。ハナコは珍しく狼狽えるように驚いていた。

 

『先生』は私が脱いでも、困ったように笑うだけ。脱ぐことをあまりおかしいと思っていない。

 

私が淫語を喋っても、理解できない。

 

履いていた靴下を渡しても、普通に仕舞う。

 

……それに、私は『先生』のようには……

 

「『彼女』も、押し付けれたんだ。君のように」

 

思考の渦に巻き込まれていたハナコは、フレイが突然言った言葉に引き戻された。

 

「私の、ように……?」

「……元々は、ただの、旅好きだったんだ。困っている人を見つけたら助けるぐらいの、お人好しでね」

「……」

「本当に、お人好しでね……いつしか周りは、『彼女』を英雄と、祀り上げた。『彼女』は優しかったから。逃げたい、なんて一度も言わなかった」

 

ハナコは、震えていた。

何かに、怯えるように。

 

()()()()()、逃げてもよかったはずなんだ。僕も、そうするべきだと。誰も『君』自身を見ていない。『君』自身でさえも。でも、『彼女』は進むと決めた」

 

だから僕は言った。

僕を殺して世界を護るか、世界を護って()を殺すか。

 

「……それで、どうなったのですか?」

「僕が負けたよ。そして、『彼女』は知ってくれた。痛みを、哀しみを、苦しみを。そして……世界を護って、『私』()を救った。……ここまで、話せば分かるよね、君なら」

「……あなた、は……」

「共鳴したんだ。『私』()に似ていて、それでいて違う道を進んだ、君の心と」

 

要は、今の僕は君の負の感情だよ。この瞬間、この場だけだけどね。

そう付け加えて、フレイは説明を終わらせた。

 

ハナコは、ああ、そうなのか、と受け止めていた。

その説明だけでは、論理的なことは何も言っていない。しかし、本能で理解していた。

理知的なハナコには珍しい理解の仕方だった。

 

「今の僕には分かるよ。君は自らの負の感情を見つめているようで、眼を逸らしていた。だから知ってほしかったんだ。今の君は、ちゃんと強いこと」

「……そんなことはありません。私は、私の力を、自分のためにしか使っていませんから」

「それでいいんだよ。(『彼女』)も、自分に為にしか使ってないから」

「あんなに、お人好しなのにですか?」

「誰かを助けるのは、自分で決める。そう言ったからね。君と変わらない。君は大切な人達のためだけに使う。(『彼女』)はちょっと、君より大切なものが多いだけだから」

「……強いですね」

「君もだよ」

 

ハナコはその言葉を聞き、微笑んだ。

 

その時だった。

フレイの体が、ゆっくりと影のように薄くなっていった。

 

「……ああ、もうすぐ、『彼女』が起きるみたいだ。早起きだからね」

「そう、ですか。……出会えて、良かったです」

「また、話そうよ。君はまだ、見つめきれていないから。『先生』のことも、いろいろ教えてあげるから」

「……ええ。また」

「うん、またね。……己が痛みを、哀しみを、苦しみを、真に理解し、前へ進めるようになる者よ。また、暗闇に染まる時に」

 

そうして、フレイは完全に消えた。

 

ハナコはいつの間にか手にしていた、黒い石……ソウルクリスタルを、強く、両手で、握っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そうして、二人は度々出会い、語り合っていた。

過去や今の『先生』のことや、最近会ったハナコの出来事。

 

未だ、彼女は己が事を全ては、受け入れられない。

 

だが、いつかは、子が大人になるように、手にするかもしれない。

 

自分を認める力を。

 

一歩を踏み出す力を。

 

大きな世界にある、小さな、小さな、大切な者達を護る力を。

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