アニマ   作:リメイクです

3 / 5
最低限が最大限

自分の新しいおもちゃを自慢する子供のように、きらきらとした瞳を向ける男性に、黒田は少し溜息を吐いた。悲しいことに自分の上司は、自分の部隊がこの先で意気揚々と戦闘訓練をしているのを喜ぶタイプらしい。そう感じた。黒田は、早速この舞台にした事を後悔していた。部隊今すぐやめたいんだけどと。だがそれと同時に、聞いた質問に答えてくれる事実に悪い人間ではないだろう。最低ではないだけましなんだろうな、と心に言い聞かせていた。

 

少し落ち着きを取り戻してから、「あの」と言葉を発する。

 

「番号はアルファとかそう言う感じじゃないんですね」

「アニメや漫画の見過ぎだ。アルファなぞ、無線でもない限り逆に使われないぞ?軍じゃあるまいし」

「え、部隊って言ってましたよね?」

 

部隊と言うからには軍の方だと黒田は思っていたが、そうではない事実に驚愕する。その様子に気づいたように男性は、「あぁ、そういうことか」と一人納得したような声をだす。

 

「前提が違うんだ。いいか?うちは軍じゃない。というより軍だと上から睨まれやすいから、表向きはチームとしてしか扱っていない」

「睨まれるってことは過剰戦力ってことじゃないですか?」

 

国が主導ではない事実に、少し喜びを覚えながら追加で湧いた疑問を返す黒田に、笑顔と肯定を以て返す男性。その肯定は黒田が最も求めていないものであり、一瞬の安堵が苦虫を噛みつぶした表情へとひと時も持たずに変貌させるには十分だった。

 

「まぁ過剰戦力でも、軍から大体お目こぼししてもらえるけどな」

「腐ってんじゃねぇか軍」

「そう言ってやるな。こちらも色々技術や金を積んでいるから出来る関係だ」

「それなんて言うか知ってます?」

「ああ、知っているぞ?協力関係だろ?」

「ずぶずぶの癒着関係だよ」

 

思わずツッコむ黒田の反応に、男性にとってその反応が新鮮なのか大笑いをする。その様子に、苦虫とシュールストレミングのミキサーでも追加されたような、逃げたいような表情を浮かべることになるのは当然であった。

 

「ハハハ!口に出してはいかんからな~。ほら、そのままでいいから入れ入れ。今からお前の性能テストを行うからな。後、そのままだとキモいからこれ被っておけ」

「ちょっと待ってくださいよ!?キモいって言いましたよね!?」

 

黒田は、男性が懐から出したニット帽を目元近くまで被せられて、部屋内に押し出される。黒田は『この野郎!俺の事キモいって言いやがった。俺が一番気にしてるのに!ノンデリパワハラクソ野郎め!』と心の中で思いつく限りの罵詈雑言と呪詛と愚痴を唱えながら扉を通ると、そこには毛むくじゃらな男と、目の鋭い女と、とてもきれいなブロンド髪の少女がいた。

 

黒田は一瞬にして少女に目を奪われた。その姿、その立ち振る舞い、その優し気で明るい雰囲気。それら全てが黒田にとってストライクであった。少し見えたもふもふの尻尾や、美脚も、こと細かく好きと言ってしまう程に

 

「あっ、新人さんかな~?」

 

無論声もドストライクであり、太陽のような笑顔も勿論好みであった。

 

自然と黒田はボーっとしてしまい『結婚したい』と思う程であった。

 

どれほどボーっとしてしまったかと言うと、

 

「ぼーっとしている暇があるのか?お前、説明聞いてたか?」

 

目的を忘れ、説明すら聞き漏らすほどであった。言われたもののおどおどとしていると「分からないのか?」と男性から問われるもので、はっきり「分かりません」などと言えばどうなるのか火を見るよりも明らかであった。だが、黒田は条件反射的に答えてしまう程に目を、思考を奪われてしまっていた。

 

「何をすればいいんですかね?」

「聞いてなかったのか?シンプルだ。戦闘だよ戦闘。対人性能が何よりも欲しいからな。まぁ今すぐじゃなくてもいい。なんせ少し上の空になるほど弱っているんだろう?病み上がりなのもあるから今日じゃなくてもいいぞ?」

 

これが本当に全快で聞いていなかった場合は、男性の見た目的にスパルタ指導される可能性が十全にあると今更ながら黒田は気付いた。男性がたまたま黒田にとって都合よく捉えてくれていたため、内心大いにほっとしていた。

 

「なるほど・・・いや、こういうのは後回しにすると大変なので今やります」

「ふむ、なら駄目そうならストップするからな?」

「是非ともそれで」

 

後からやるのは面倒なのもそうだが、それに加えてちょっといいところを見せたいと考えた黒田は『ほどほどにかっこつけて戦えそうな相手』と失礼極まる相手の選別を始めた。

 

ぱっと見ゴリラ、ぱっと見怖いけど普通そうな女性、ぱっと見天使とそれぞれ判断を下す。その中で、戦い辛いのはゴリラ、天使と決まり消去法で、ちょっと怖い女性を選ぼうと考えた。入りたての新人のお願いとして聞いてもらおうと、意気揚々と上司の方に向き直って頼もうとする。

 

しかし、図々しくも頼みいるには、少し熟考しすぎたようでそれを見かねた先輩が動き出すのは当然であった。

 

「戦う相手って選べま「おう!新入り!俺とやらないか!」せんよね~・・・はい」

「そんなに嫌だったか?俺は恵原智一ってもんだ。カズ、カズさんってよく言われてるぞ。よろしくな!」

「あ、お手柔らかにお願いしますぅ・・・」

 

ゴリラのような先輩である智一が、黒田の肩をしっかり掴み屈託のない笑顔で誘う。その瞬間思惑が打ち砕かれ、さっきまでの元気が嘘のように引き攣った笑みを浮かべる。嫌そうな態度に智一は少し気を使うが、その気遣いが黒田の断れない気持ちを強くするのだが、それに智一が気付くことは無かった。『嫌な人じゃなさそうだ・・・何でここに居るんだ?借金でもしたのか?いやまぁ戸籍を売ることはなさそうだけども』とどこか調子の外れた思考をしているが、現実逃避である。

 

智一は黒田の返事を快く見た後、男性に向きなおってにやっと笑った。

 

「にしても隊長自らがスカウトしてくるってことは、よほど凄いアニマなんだろうな!何のアニマなんですかい?」

「隊長?誰が・・・あっ」

 

にやりとした上司改め隊長の笑顔が黒田に向けられた。まさかと思う黒田は、想像以上に自分を連れてきた男性が高い地位にあることに驚愕と苦笑いを禁じ得なかった。

 

「私だよ。964号君。それとも本名の方がいいかな?」

「あ~なるほど~。俺をここに連れてきてくださった方は隊長だったんですね~」

「棒読みの敬語をありがとう。君の主な仕事は鉄砲玉でいいかな?」

「隊長!あなた様に最大の敬意を!」

 

せめてもの抵抗を完全なオーバーキルのカウンターが突き刺さる。にやにやとした笑顔と回答が黒田の退路を完璧にふさぎ込んだように思えた。

 

黒田は『あぁ、俺この性格が悪そうな隊長の元、働かなきゃいけないんだなぁ』と半ば諦めた表情を浮かべるしかなかった。

 

隊長と呼ばれたその男性は、先ほどの嫌みな笑顔は程々に次の瞬間には顔を引き締め、全員を見回してから口を開いた。

 

「結構。では、改めて紹介させていただこう。私の名前は梓。柴田梓というものだ。ここ、アニマ部隊3の隊長をしているものだ。そして」

 

黒田は説明に合わせて背中を押し出される。勿論、全員によくみられるようにである。詰まるところ、黒田は心の準備をする前に天使のように思っている少女の前に押し出されたわけで「うぇ!?」と言う声が出るのも当然であった。

 

そんな黒田の様子を知っていて無視しながら隊長は次の言葉を紡いだ。

 

「諸君、よく聞いてくれ。新しい仲間のことだ。私が連れてきた新人君。名は【黒田光】。君たちと同じ実験棟から来たもので、君のアニマは・・・隠している方が好都合だろう?君としてもな」

 

様になったネクタイを締める仕草を、少し羨ましそうに、同時に恨めしそうに見る。しかし、投げられた疑問に黒田は瞬間で思考した――――

 

『え~クロゴキブリのアニマ?キッショ』

 

――――致死量の毒かつ最悪の結末を。

 

天使と思うその少女から、到底思い当たらない、しかし年頃の少女からは容易に口から出るだろうと想定が出来る発言できる。それが、余りにも致命傷であった。想像するだけで思わず口から血がドバドバと出る黒田に周囲は驚愕と唖然を禁じ得なかった。

 

「涙を流しながら血を吐いてどうした!大丈夫か!?」

「えぇ・・・隊長の気遣いに感謝の余り吐血してしまいました」

「とりあえずバイタル・・・なんも悪くないぞ!?なんで吐血してるんだ!?」

「へへ・・・これはメンタルダメージってやつですよ。まじで隊長ありがとう」

 

黒田は滂沱の涙をながして感謝する。今後彼は隊長に足を向けて眠ることなどできないだろう。




やぁ、今回の担当は隊長と呼ばれている柴田梓だ。
今後この名前は忘れられてしまうかもな。
役職だけでも覚えておいてくれ。
さて、今回お察しの通り黒田君は吐血したのだが・・・何々?気にするな?
そうは言われても気にはするだろう。
まぁ、気を付けてくれ。本当に。
そんなところで次回予告だ。次回「予想外か奇想天外」
題名からは何も思いつかないが・・・とりあえず変なことが起こることは分かるな。
では、この辺で失礼させていただこう。
楽しんでくれたまえ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。