アニマ 作:リメイクです
隊長に連れられて、黒田は長めで少し暗いの廊下を歩く。なんとなくではあるが、全力疾走の感覚を、自身の速さの限界値を感じられたからこその、謎の達成感を感じていた。その様子に満足そうにしながら、隊長は説明を始めた。
「と言うことで個別訓練に入るにあたって何をするかだが、まずはどれだけの速度が出るのか。次にどれだけの時間走り続けられるのか。最後に、そのアニマの出力をチェックしていくぞ」
「了解です!ちなみに、出力って何ですか?」
思った通りの質問をした方が、双方に利があるのはさっきで分かっているので、積極的に質問をする。出力と言われても黒田には、どういう意図でつけられているのかが分からなかった。想定していなかった質問のようで、隊長はうんうん唸ってから重々しく口を開いた。
「そうだなぁ・・・説明が難しいんだが、100%になるとそれは人ではなくなり人の知能を持った、暴れる動物になる・・・と言った感じだ。0%が普通の人間って訳だな」
「上げすぎちゃダメ、でも低めなら恩恵があるって感じですかね?」
「そうだな、基本的に40までならどうにかなるはずだ」
「ちなみに智一さんは?」
「常時10%、瞬間だけなら30%まで引き上げれるぞ」
その時黒田の脳内に、浸食度というような認識が生まれた。『10%と言ったら10%ゴキブリ、つまり90%しか人間じゃなくなるのではないか?』そう考えた瞬間に身震いした。
まだ情報や、代償など気になることが多くあると考えた黒田は、質問を続けることにした。
「出力の違いは?」
「身をもって体験しただろ?人間と同じ大きさの動物を考えて、どれだけ再現できるか、と言ったところだ」
そこで、浸食度と言う考えを改めた。黒田には浸食度というより適応度と言ったように感じられたのだ。強さ的にゴキブリを人間大にする、それであのスピードが出る。そう考えると納得できるところが多くあった。人間の瞬間時速はそれほどないが、ゴキブリが人間サイズになったら?黒田にはその結論がとても恐ろしく、同時に使えるものだとも感じられた。
一息考えてから、重ねて質問をする。
「高すぎるとデメリットってあったりします?」
「良い質問だな。脳みそが動物側に寄る」
「具体的にはどんな支障が?」
「物によるが、大体は理性が飛ぶ。お前の場合は特にな。それに出力を多く引き出しても、50を超えると簡単に戻ってこれなくなるから気を付けてくれ。引き出し方は大きな感情がトリガーだ」
ゴキブリ。その生態には一番恐ろしいものに、悪食と繁殖力がある。なぜならば同族であってもその体を喰らって糧とする。また、1匹いれば30匹居ると言われる繁殖力、生存能力があるからである。
黒田は自分で考えたその可能性にぞっとする。
「なかなかに爆弾では?」
「お前が雌雄同体の虫じゃなくて心底よかった思ってるよ」
「そうだったら?」
「・・・とりあえず走ってみろ」
「その間は何なんですか!?ねぇ!返事してくださいよ!」
顔を逸らしながら答える隊長に返す言葉も見つからず、黒田は苦しい気持ちのまま最悪の考えが嘘でないことを感じる。
それに加えて戦闘を行う時に感情を昂らせてはいけない。感情を制御できないと出力が上がってしまう。その事実がどうしようもなく不安を煽った。
どうにか否定して欲しく思い、幾度となく「ねぇ!何か言ってくださいよ!」等不毛な質問をしていると、黒田達は競技場のようなトラックのある大きなフィールドに連れてこられた。
結局返事をしてくれない体調を尻目に溜息を付きながら、黒田は口を開いた。
「もういいです。で、全力で走ればいいんですよね?」
「ああ、ついでに回れそうならトラックを回っててくれ」
「了解です、じゃあちょいと行ってきます」
クラウチングスタートの姿勢を取り、一歩踏み込む。
さっきと同じ感覚、それに安堵しながら二歩目を踏み込んだ瞬間に、黒田は大きく跳び上がってしまった。瞬間、圧倒的な加速感。そして浮遊感。そして急激に迫る壁足をばたつかせても、そもそも足が地についていないからか動けない。
それが意味することは、壁への直撃であった。
「ぁぁぁぁああああああああああああああ!?!?ぐへっ」
「やっぱりか・・・」
激突。後から来る知覚としての激痛。
普通に走るつもりでも、脚力が強すぎて跳ねてしまう。それが現状黒田を壁にめり込ませる原因となっていた。
その黒田を抱き起こしながら、隊長は自らが行った考察を述べる。
「お前の体は今ゴキブリのアニマによって、加速力に人外じみた強化が入ってる。あと、気流の流れを無意識に搔い潜ってるようだな。触覚を出してみろ」
言われるがまま帽子を外すと、黒田には確かに【風をつかめそうなほど感じられた】。
今なら、目を開けなくてもぶつからずに走れそうだと錯覚させるほどに。
「その状態で、四つん這いになれ。膝をつくなよ?手でブレーキをかける感じで走ってみろ」
「えっ・・・了解です」
言われたままの姿勢を取り、腰を高くする。恐らく普通なら雑巾がけぐらいでしか取らない体勢。羞恥心で震えそうではあるが、何故かしっくりきた。ゴキブリならば、行ける。そう感じ、黒田は意識を集中させる。
足で加速、手で抑制、触覚で風を感じて無駄なく一気に動く。それを意図した走りは、本能的に曲線をいかに曲がるか、いかに進む角度を曲げるかを直感的に理解させた。
ただし、思った通りに動けるのであれば、誰しも苦労はしないのである。
「ああああああああああああああ!!!?いっっっっけた!」
されど黒田はどちらかと言えば感覚派であったことが幸いし、曲がることはできた。その際の加速で大きく外に吹っ飛び、壁に激突することに目を瞑れば、ではあるが。
隊長が黒田に手を差し伸べる。黒田はそれをありがたく掴み起こしてもらう。
「最初の一歩目からトップスピードの感覚は狂うか?」
「えっもしかして、この足って初速から最速出るんですか?」
「ゴキブリの生態を余り知らないのか・・・いや知ろうとしないか。ゴキブリは最初の一歩目でトップスピードに至って、その直後と移動を止める。それなのに、お前は無理に追加の加速をするから、走りが崩壊する、と考えらえるな。あとシンプルにバランスが悪い」
ゴキブリの走り方を再現するという、少し屈辱的な行為をしなければならないのか・・・そう感じた黒田は、少し溜息を吐きながらも言われた通りに構える。
その時に、ふと足が気になってみて見ると、ズボンの裾から見えるその姿は見知った形ではない。慌てて裾を巻くってみると足が、虫のように黒く固くなっていた。
「あれぇ・・?足が虫っぽくなってる??」
「なるほどな、もう進行して足だけそうなってたか。だからこそ、体勢を保てなかったんだろうし曲がり切れなかったんだな。その辺は訓練で慣れていこう。しばらくお前はここで、一人で練習してもらうか」
「進行って何です?それに、一人?」
「アニマの進行だ。シンプルにより動物に、お前はゴキブリに近づく。あと1人なのは、私も他のメンバーも暇じゃないから致し方ないな」
「最終的にゴキブリになるってことですか!?」
「いや、出力を上げすぎると進むだけだ。今を保てればさほど変わらない」
ゴキブリ化が進んでいる事実に愕然とするが、それと同時に1人でこれと向き合わなければいけない。その事実が何よりも黒田を苦しめる。
どう足掻いても1人でどうこうできる気がしないからである。
「踏んだり蹴ったりじゃないですか!」
「諦めろ。とっとと使いこなせばいいだけだろ?それに感情もコントロールできるようにな」
「・・・やってやりますよ!」
ぐうの音もでないが事実正論である。使いこなせば出力も上がりすぎず進行もしない。
妥当である、それが故にこの言葉以外何も返せなかったのである。奇しくもモチベーションの上昇と危機感を感じさせるという、理想的なダブルパンチを差し込まれたのであった。
隊長はその様子を満足そうにしつつ、「ああ。そうしてくれ」と言い言葉を続ける。
「最後のチェックだが、出力のほうは細胞を出してくれればいい。あとはこちらで計測しておくからな」
「細胞ってどれぐらい取るおつもりで・・・?」
「口開けろ。口内から取れる少しで十分だ」
綿棒で口の中をこする。ただそれだけだった。本当にそれで分かるのだろうかと、黒田は少し半信半疑になりつつも、それだけで済むならばと内心喜んでいた。
「あとは自主練だが、このトラックは基本的にアニマ部隊3の所属であれば自由に使える。好きに使え。大規模な破壊をしたら随時私に話を通せばいい。ほらこれが通信機器だ」
「あっすっごいウェアラブルなやつ。画面とかついてる端末は無いんですかね?」
最新機種が大体液晶端末とセットであることを知っている黒田は、明らかに高そうなそれを耳に着けながら聞く。
すると、隊長は耳をトントンとするジェスチャーを返す。
その行動になぞらえて端末をタップするとホログラムの画面が黒田の眼前に表示された。
「それでタッチ操作できる。説明はそれ以上要るか?」
「全く!完全な回答です!ありがとうございます!」
「ちなみに、連絡先だがアニマ部隊3の全員のものが入っているが、私用で連絡は控えろよ?特にやらかしそうだからな」
「えっ」
「女性陣に対するメッセージ機能と通話機能取り上げてもいいんだが?」
「いえ、何があろうと私用で使わないことを誓わせていただきます!」
「あと、メッセージとダウンロードする物は監視されてるからな。裏切りとかは一発でばれるから考えるなよ。ソシャゲとかやってもいいけど課金は出来んからな」
「了解です!」
メッセージの監視等々、考えるほどにブラックすぎる職場を感じさせた。だが、一定以上の自由も認められていることが分かる。
その事実に黒田は『なんか、思ったより緩いけど怖い』という漠然とした恐怖を感じ、身が引き締まる思いをした。
「では、励めよ」
さらりと言ったその声は、とても柔らかく。ふっと笑ったその顔は、とても優しく。
あぁこの人に守られてるのかもしれないと思わせるほどの物だった。
これが洗脳?と感じずにはいられなかった。
『圧倒的に俺を使い潰す側なんだから気をつけねば・・・絆されるな俺!』
自分を鼓舞せずには、うっかり隊長の全てを信頼してしまいそうになる。そう感じた黒田は、一回自分の顔を両手で打った。
両頬に赤い紅葉が付いており、それを智一達に笑われるのは帰ってからの一膜であることはここに記しておこう。
と言うことで黒田光二回目です。
思ってるより瞬間でアニマは進行するんだなと思わされたね・・・もうちょっと気をつけねば。
でも恋の衝動か、怒りか分からないのが一番怖いところだよね!
ということで次回!「閑話・ゴリラとゴキブリ」ではちょっとした裏話かも?
カッコいいところが見せられるまであと何話かかるんだろうか。作者はよしろ!