私を含め3年が泣きやんだあと、コーチにより集合がかかった。
「見事な試合だったぜ」
「僕ばぁ嬉しいですぅ〜!!」
武田先生だけは、いつまでも泣き止まなかった。
でも、本当に嬉しい…悲願の春高だから…
「「「「「「ありがとうございます!!!!」」」」」
皆も嬉しそうな表情をしている。
彼は…
これでも駄目なのか…
「あやぽ〜ん、お前嬉しくねぇ~のか?」
「ホント…変わんねぇ表情だな」
「いえ、嬉しいですよ」
それが、本当かどうかも分からない。
「綾隆!次は全国だね!」
ひとかちゃんが笑顔でそう言う。
だけど、綾隆は何も言わない。
「……」
「…綾隆……??」
ひとかちゃんは心配そうに名前を呼ぶ。
「オレがお前と清水先輩と約束したのは春高に出場することだ。
それが叶った今、オレが出ることはもうない。」
え…
頭が真っ白になり、言葉が出てこない…
皆も綾隆に視線を向けたまま何も言わず固まっている。
「ど…どうして…?」
「だから、約束したのは春高に出場することだ。
春高になれば、東峰さんも戻って来る。
このチームにもうオレは必要ないはずだ。」
そんな訳がない!
今回だって綾隆が最も多く得点を上げた。
必要ない訳がない…
「「「そんな訳がないだろう!」」」
「お前が一番点決めただろ!春高でもお前が必要になる!」
皆も同じ思いだ。懸命に説得をする。
「田中先輩と東峰さんには圧のかけ方を、日向にはジャンプの仕方を見せた。
もうオレが教えることはありませんよ。」
「そうじゃないよ!
綾隆楽しそうだったじゃない!
もっと皆でバレーしようよ!」
ひとかちゃんが一番必死に説得するけど…綾隆には響かない…
「確かに楽しいとは思ったし、楽しいという感情を理解した。
だが…ここは高校生がバレーで競う場。
この場にオレという存在は相応しくない。
それを今日…改めて思った。」
「そんな事ないよ!」
皆も口々に言うけど、綾隆には何もは響かなかった。
このまま…終わり…?
ようやく…一緒に歩んでいけるとおもったのに…
どうして…何も響いてくれないの?
どうして…私達のことを分かってくれないの…
『コツ、コツ、コツ』
タイル張りの会場に革靴の足音が響く。
この会場に似つかわしくない革靴の音に、腫れた目でそちらを見ると、一際目立つスーツを着た男の人がこちらに向かって歩いてきていた。
『パチパチパチ』
その男性は近づきながら拍手をした。
皆も気付きそちらを見る。
「 烏野高校…宮城県代表決定戦、優勝。おめでとうございます」
にこやかな表情でそう言った。
お偉いさんかな…詳しくない私でも着ているスーツは高級だと分かる。
「あ、ありがとうございます。え…っと…失礼ですが、どちら様でしょうか?」
武田先生が前に出て聞いた。
しかし…
「申し訳ございませんが、あなた方に用はありません」
「え…は、はあ…では…」
武田先生の言葉を遮りこちらに向き直る。皆はキョトンとして、その男を見ている。
「外の世界に解き放たれた化け物が、こんな所でバレーボールを楽しんでおられるとは、想像もつきませんでした。」
「「あ?化け物?」」
田中と西谷が前に出るが澤村に抑えられた。
でも、化け物と言う言葉に皆は1人に視線を送る。
「私は上から回収を命じられたのです。」
男は綾隆を見て言った。
でも…回収…?
「オレは行きませんよ」
綾隆は断るが、私には…私達には何が何だか分からない。
「でしょうね。そう言うと思っていました。」
なぜだろう…今…綾隆を見ているのに、綾隆の目を見れないのは…
「あなた方にもオレを連れ戻す必要はもうないはずですが…」
「ハッキリ申しますと、上は臆病なんですよ。回収が不可能なら抹殺でも構わないと言われまして」
「「「「は…?」」」」
誰を…え…綾隆を…?
「怖い言い方をしますね。話なら誰も居ない所で出来たはずですが?」
「誰が一対一であなたと会話をすると思いますか?
上が臆病になるのも仕方のないことです。貴方が国のお金を利用し施設を潰したお陰で、上の首が危うくなりましたからね」
え…?つまり…国民が払った税金を綾隆が利用したと…?
「誰かが見ているところではオレは手を出さないと…?」
「その通りです。清田君の行動を観察していれば良く分かります。本気を出さないのも周囲の人に怖いと思われたくないからでしょう。
環境とは残酷なものです。
それを外に出て知ったことでしょう。自分の異常性を…昔の君を倒すのは不可能でしたが、今の君を倒すことはできます。」
「…」
誰も発さない。
日向もひとかちゃんも表情が青い。
先生もコーチも黙っている。
「まぁ…ですが、私は連れ戻す気はありませんけどね」
ん…?何で…?だとしたら何でここに来たの?
「なぜです?」
「それは当然、私は死にたくはありませんからね。君に楯突くなら上に楯突く方が賢明でしょう。倒せると言ってもそれは可能性ができたと言うだけのことですし、倒すなら1人で来たりしませんよ。
それにね…清田君。私は君に何の恨みもありません。全ては我々大人の醜さに君を巻き込んでしまったことが原因です。」
「だったら、何故ここに来たんですか?」
「さあ…どうしてでしょうね。恨みは無いと言っても国が得られるお金が減った結果…私のお財布も厳しくなったことに腹を立てていたのかも知れません。
と、言うわけで清田君…君は自由です。
君にはもう親のしがらみなんてない。
政府とも何も関係ない。
君が一生懸命バレーボールをするのならこちらが何かを言うつもりはありません。寧ろ、こちら側に二度と帰ってこないでください。
我々の利益のために行動した結果、君のような怪物を創り出してしまった。完全な自業自得と言う奴ですよ。
清田君…君が起こした事件により失ったお金は税金を上げたので問題ありませんし、巻き込んだ子供達は…貴方が最後にご自分で助けたのでしたね。
ほらね、君には何も罪はありません。
これからは外の世界を思う存分に楽しんでください。」
「……」
「面白いですね。たかだか、県大会でここまで熱い試合ができるのは…自分の小さい頃、ボーイスカウトに熱中していた時期を思い出しましたよ」
男はそう言って、左手を前に綾隆の前に出した。
「ま、先程お会いしたばかりですが、お別れです清田くん。握手してもらえますか?
私はずっと君を見てましたので…ファンなんですよ。これからはバレーボール選手としての第一号のファンです」
綾隆も同じように左手を差し出して握る。男は満足したのか、それで帰っていった。
皆は呆然として、男の背中を見ていた。
▽▽▽
男が去っていった。
そう言う事か…
オレは政府関係者がオレを連れ戻しに来るときのために準備はしていた。ぬかりもなかった。
だが、オレに好意的な人物が政府にいるなんて考えていなかった。考える必要が無かった。
それが今回付け入る隙を与えてしまったか…
オレが烏野に溶け込めていないのを理解したんだろう。
オレの事を知っていれば、オレが過去を皆に教えるなんてことはしないと分かる。
だから、オレが話せる場を作るために政府の闇を一般人に知られるにも関わらず話に来た。自分の首が物理的に飛ぶかも知れないと言うのに…
これは一本取られたな…
しかし、これからどう話せばいいか…
仲間想いなチームだが…
大丈夫なのか…
▽▽▽
綾隆は微動だにしない。
無表情で男の背中を見ている。
私も皆も何て言えば良いかわからない。
綾隆が今まで話さなかったのも頷ける。それを知りたいって言う自分が恥ずかしく思えた。
だけど、この静まり返った空気をものともせずに綾隆に話しかけるお馬鹿がいた。
「綾隆!お前、政府と何か関係あったのか!?いいなぁ!!何かかっこいいよな!!」
皆の顔が残念そうな顔に変わる。
「おれも、何か…こう…裏で暗躍するぅ〜ラスボスみたいな感じで〜こう…やりたいよな!!」
本当に日向は馬鹿だ…最後も結局何も思いつかなかったんだろう。
「単細胞には裏でどうこうできないでしょ」
月島くんがツッコミを入れるといつもの烏野に戻った。
「だな…まぁ!俺なら色々できそうだがな!!」
「んがははは!いいや!俺のができるな!」
「お前らじゃ無理だろ…」
それを菅が突っ込む。
西谷も田中も暗躍とは程遠い。
「影山は何か見た目だけは、暗躍してそうだよな、見た目だけは!」
「あ!?何で2回言った!このボゲェ!!」
「うるさい!!お前ら!うるさい!」
「私も何かこうやってみようかな!」
ひとかちゃん…
綾隆は手を伸ばし、日向の頭を鷲掴みにした。
メキメキっとした音が聞こえる。
「あぎゃーーー!!頭がぁ!ぁだー!!!」
日向は簡単に宙に浮かされ、もがいている。
日向の馬鹿な行動を皆で微笑ましく見て、綾隆の顔に目をやると…涙が溢れてきた。
表情は殆ど変わっていない…
でも、少しだけ口角が上がっていた。
ようやく見れたその顔を私は生涯忘れることはないだろう…
「まぁ、綾隆には聞きたいこととかもあるだろうけど、取り敢えずはここを出るぞ。もうすぐ体育館も閉めるだろうしな」
「「「「「「「はい!」」」」」」
皆が自分の荷物を持ち、私が忘れ物の確認をした後、バスに乗った。
皆疲れて眠っている。
体力面だけじゃない、精神的な疲労もあり爆睡している。
ひとかちゃんも私に寄りかかって寝てしまった。
通路を挟んだ隣にいる綾隆はいつも通り起きている。
「まぁ…取り敢えず綾隆くん、今日もお疲れ様でした。今日は一段と活躍していましたね。」
「ありがとうございます」
「何かすげぇ話を聞いちまったが、もう良いのか?」
「ええ、あの男がそう言いましたので」
「なら…良いが…あぁ〜そのぉ」
「聞きたいのなら話しますよ。巻き込みましたし…」
「フガッ…もみゅ…?」
ひとかちゃんも起きてきた。本能で起きたほうが良いと思ったのだろうか?
「まあ…話してくれるなら…」
それから…過去を話してくれた。
「オレが生まれ育った場所はホワイトルームと言う教育施設です。真っ白い無機質な部屋の中で、ありとあらゆる英才教育が0歳のころから施されます。
最初は、70人近くいた子供たちも9歳になる頃には、オレ1人だけになっておりました。
その結果、オレはホワイトルームの最高傑作と呼ばれるようなりました。
しかし、13歳を迎える頃にVRで外の世界のことを知り、今までなかった感情が一気に溢れてくるのを感じました。
オレは[外の世界を知りたい]そう思うようになり、外に出ると言うことだけを考え、他のことは切り捨て行動に移りました。それが、先程の男が言っていたこと…オレの下の世代、政府を巻き込み、ホワイトルームを壊滅させてから、この高校に逃げてきました。」
「「「「………」」」」
誰も何も発せない…私達の想像の遥か上を行く過去に私は、口をポカンと開くことしかできなかった。
「オレはここに居るべき人間ではないと思っています。皆からしてもオレと言う存在は怖いでしょう…」
私は自然と言葉が出てきた。
「私はそれでも綾隆と居たい…それはきっと皆同じ想い。
それを気にしている人は誰も居なかったでしょ?
それに気付いて、綾隆はさっき笑っていたんだよね?」
「そうだよ!私たちがいつ綾隆と一緒に居たくないって言ったの?私たちが一緒に居てほしいんだよ!」
「…笑っていたのか…?」
「「うん!」」
綾隆は何も言わずホッとした顔をしている。
「あぁ〜お前の話には心底驚かされたが、その事と俺等には関係ないだろ?あの男が言ってたようにお前にはもう何のしがらみもないんだから、ここにいろよ…お前の力なくして全国優勝何かできねぇからな。
あ!後、お前!お前のせいで税金高くなったんだろ!?その分をバレーで貢献しろ」
「あははは…まあそう言うことですよ。綾隆くんがここに居て楽しいと思うのなら居てくれれば良いのです。」
「それなら、そうさせて貰います」
ホッとした。
心の底から安堵する。
先程までの緊張が途切れたからか私もひとかちゃんも眠ってしまった。
目を覚ますと、もう烏野高校についていた。
綾隆は窓の外を眺めている。
化け物か…確かに敵になれば恐ろしい…だけど、味方ならこれほど頼もしい事はない。
そして、ようやく綾隆の事を知れた喜びと、あと半年もしないうちにお別れすることへの悲しみが溢れて、また涙が頬を伝った。
▽▽▽
バスを降りてミーティングをするため、体育館に集まった。
やけに心が落ち着いている。
いつもは自分で調整していたものだが、今は自然と心が落ち着いている。
「まあ…何はともあれ良く頑張ったな!」
「「「「「ありがとうございます!!!」」」」
「綾隆は無事、ここに残ってくれるみたいだしな。
次は春高だがらな!練習も厳しくなるぞ!」
「うおっしゃあ!春高ぉー!」
「目指すは全国優勝だ」
「ああ、ここまで来たならそれしか無いよな、旭も戻ってくるし」
「俺も頑張んないとな、エースの座がやべぇ」
「綾隆!行くぞ!春高!!そして、お前にも負けねぇ!」
何故か、日向の一言で皆がこちらを見た。
「ですが…全国で優勝するのは不可能じゃないですか?」
オレがそう言うと、一切に静まり返る。
「何でだよ!?おれたち頑張ってやってきたから!白鳥沢倒せたじゃないか!」
日向が突っかかってきた。
「そうだぞ、無理だと思って諦めるなんてことはしねぇ」
「まあ…俺も今回ばかりはこいつらの意見に賛成だけどさ、理由を言ってみろよ」
「え?理由ですか…?」
もしかして…忘れているのか?
主将までも…?
「「「「「あたりまえだろ!」」」」」
なんか、凄い気迫だな。
先生、コーチ、マネ、選手全員がオレの次の言葉を待つ。
先生も…もしかして…
「お忘れなんですか?後7日で中間テストですよ?」
静まり返っていた雰囲気は凍えるような雰囲気と悪化した。さっきまでの優勝の余韻はもうない。
「中間テストで赤点の場合は、放課後に補修を受けることになります。そして、12月に期末テストが…1月には全国模試があります。どれも落とせば練習の時間は無くなります」
「おおおおお前!こんなこと…優勝した日に言うんじゃねぇよぉおおお!!!」
日向がオレの胸ぐらを掴みながら叫ぶ。
だが、オレは事実を言ったまでだ。
何も悪いことはしていない。
「なら、いつ言うんだよ」
「え?今でしょ?」
月島…
それはオレも最近知ったが…
「いや…大丈夫大丈夫…俺等は前回やり遂げたじゃないか」
現実逃避をしようとする、田中先輩に現実を突きつける。
「前回は、一ヶ月の時間があったからですよ。今回は7日です。そして、当然、難易度も今回の方が難しいです。」
清水先輩もひとかも表情が【無】だった。
先生は何やら独り言を言っている。
コーチは他人事のように携帯を弄りだした。
「終わった…無理だったんだ…春高なんて夢のまた夢だったんだ!」
主将………と東峰さん、菅さんはまた三人で抱き合って泣いている。
「まあ…勉強合宿でも開けばなんとかなるんじゃないですか?」
「この馬鹿四人がそれでいけるのか…??」
「…厳しいですが、やらなければ不可能でしょう…」
「はい!!私が教えます!今度こそ一発合格させてみせます!」
ひとかが手を挙げて自信満々に言う。
「西谷と田中は…」
「縁下さんですね…」
「え!?俺?」
オレはそう言い…離れようとするが、肩を掴まれた。
「全員綾隆に見てもらえば良いんじゃない?」
「え?何を言って…」
「綾隆は前に私の勉強を見てもらったことがあったから」
あ~手を怪我して料理を作ってもらっていた時に、少し勉強する時間があったな…その時に間違えてる箇所を言ったか…
いや、そもそもさっきの話を聞いていたらそう思うのも当然か…
「お前!3年の勉強までできるのか!?」
「えー!?いいなぁ!?」
「マジでなにもんだよ」
まあ…政府との繋がりがバレた時点で、もう余り気にしていないから、まあいいか…
「まあ…少しだけですよ…」
「「「「お願いします!!!!」」」」
「主将達は自分でできますよね?」
「俺たちは受験勉強の方もやらないとな」
「え〜」
「なんだ?先輩の人生を面倒くさそうに言うじゃねぇか…」
「ああ…いえ、そう言うわけでは…」
「なら、頼んだぞ!」
「私が言ったことだけど、大丈夫だった?」
ふぅ~向き合うと決めたからな…
一呼吸付き、オレは言う。
「この世で解が存在するものならオレは全て解ける。分からないことがあるなら、聞いてください」
「「「「「「かっ…かっこいいいい」」」」」」」
皆に羨望の眼差しで見られた。
こんな風に見られるのは…悪くないな…
「ふぅ~何とかなりそうだな…」
さっきまで他人事のように携帯を弄っていたコーチが入ってきた。
コーチが、約束していたバーベキューはテストが終わってからと言って締めくくられ、今日は解散となった。
そして、翌日…
放課後…オレはいつになく憂鬱であった。昨日はあんな事を言ったが、今になって心底めんどくさい…よし、やっぱり帰ろうか…そもそも勉強できない奴が悪いんだ。オレは悪くない。
しかし、教室を出ると…
「お疲れ!授業終わった?行こっか!」
「なぜ、ひとかがここに?」
「ん?何か…清水先輩に逃げ出す可能性があるから見張っておいてって言われたから!そんなことしないのにね!」
そのひとかの純粋な言葉と笑顔に、グサッと心臓に突き刺さった。
「あ…ああ当然だ」
やってくれたな…清水先輩
「あら、サボらずに来たのね」
「サボりませんよ」
「ふふ…あ、日曜日行っていいかな?」
「いいですよ。何か久しぶりですね」
「そうだね」
しばらくして、暗い顔した奴らが入ってきた。
「はい、ではよろしくお願いします。綾隆先生」
「「「「「よろしくお願いします!!!!」」」」」」
「やめてください…」
「はい!綾隆先生!ここ!」
「だから…ここはSinを動かせば…」
「サインって何?」
「帰れ」
みっちり2時間勉強し、解散となった。
影山はもう消えかけていた。
明日は土曜日だが、練習せず勉強しろとの事で学校に集まってやるらしい。
日曜日に、ひとかと清水先輩がオレの家に来る。
少しの勉強と雑談会をするらしい。
清水先輩は受験近いのに大丈夫なのだろうか…?
「お邪魔します」
「どうぞ」
清水先輩が先に家に来た。
中へ入った清水先輩は辺りを見渡しオレに聞く。
「ひとかちゃんは?」
「そのうち来るんじゃないですか?」
オレがそう答えるとソワソワしだした。
「そう…」
「どうかしましたか?」
「…ううん、何でもない。
ん?何か独特な香りがする。
何か作ってるの??」
クンクンと匂いを嗅いでそう聞いてくる。
その動作を田中先輩達が見たらキュン死にするだろう。
最近ひとか達といるからか、そういった言葉もわかるようになってきた。
「金曜の夜に急にトムヤムクンが食べたくなりましたので、急遽昨日…アジア食材を買って作ってみたのですが……オレはこのココナッツミルクの独特の風味が苦手でしてね…
食べ切れずに置いてあるんですよ。
少しずつ食べようかと思いまして。」
オレはここまで言って気付く。
ヤバいと…
「ふ~ん。なるほどね…
昨日学校に来なかったのはアジア食材を買いに行ってたからなんだ…
ふ~ん…私達の進路よりもトムヤムクンの方を選んじゃったんだね…
皆も昨日は怒ってたよ?言っちゃおうかな…?」
「止めて下さい…
今日ちゃんと教えますから…」
「ふふ。よろしいよろしい。
なら、私が食べても良い?」
「良いですけど、余り味は保証できませんよ?」
「うん、食べてみたいだけだから」
「では、温めてきますね」
清水先輩にトムヤムクンを食べさせるため、台所に移動しガス焜炉の火を点ける。
うっ…慣れてきたからマシになったが、どうもこの匂いは受け付けないな…
「ねぇ…」
「何してるんですか?」
具をかき混ぜていると、急に後ろから抱きつかれた。
いや…ホントに何してるんだよ…
こんなの誰かに見られたくないんだが…もう少しでひとかが来るのに…
「抹殺って言ってたけど…ホントに……大丈夫なんだよね…?」
その事か。
確かに、それを聞いた人たちからすれば、恐怖するだろう。清水先輩は震えていた。
「あぁ…大丈夫ですよ。
あの男も本心で言ったわけじゃないようですし」
「そうなの?」
「はい」
「…そっか」
「清水先輩。オレの過去を話しましたが、今後はその話をしないほうが良いですよ。
オレもこの件に二度と関わりたいとは思わないので」
「そうね。ごめん。こんな話をしちゃって…」
「いいえ。それより出来ました。」
オレは温まったトムヤムクンを皿によそってテーブルまで運んだ。
もう匂いが駄目だと語っている。
「「いただきます」」
2人で食べ始める。
やっぱり苦手だ。
「私は結構いけるけどね」
まじか。全部食べてくれないかな…
「そうですか…」
「うんうん。全部食べて上げようか?」
心を読まれたのか…?
「…では、お願いします」
『ピンポーン』
「あ、ひとかちゃん来たかな?」
玄関の扉を開くと、ひとかが笑顔で待っていた。
「清水先輩、もういる?」
「ああ。中にいるぞ」
「やっ、ひとかちゃん。ひとかちゃんも食べてみる?」
「これトムヤムクン?」
「ああ。オレは苦手でな」
「昨日、これを作るために勉強会来なかったんだって」
清水先輩がそれをバラすことは、予想していた。そのため、ひとかの耳をふさぎ聞こえないようにしておいた。
清水先輩からは舌打ちを貰い、ひとかは首かしげながらもトムヤムクンを食べる。
オレがあの場で、皆との関わりを辞めていたら、こんな風に集まることは無かっただろう。
政府との関わりが無くなった今、もう過去を気にする必要はない。その点を教えてくれたことには、あの男に感謝だな…
まあ、だからといって警戒を怠る気は無いが…それでも、襲ってくることはもう無いだろう。
あの男から、そのような雰囲気を感じ取った。 そもそも、本当に上からオレを回収するように言われてきたのかが疑問である。
「あやたか?」
「…悪い。どうした?」
「勉強!教えて」
いつの間にかトムヤムクンを食べ終え、勉強モードになっていた。
分からないところを教えて、良い時間となったところでお開きだ。
翌日からの学校では、毎時間日向影山が勉強を教えてとオレの元に来る。
面倒臭いと思うが、こいつらが居なければ、烏野は勝ち上がってはいけないか…オレは我慢して二人を教えることに尽力した。
そうして1週間みっちり勉強に励んだ。
テスト当日。
日向影山は開始数分前まで、頭に詰め込んでいた。
テストが終了すると、二人とも力を使い果たしたかのように、灰となっていた。
それは2年の馬鹿達も同様だった。
テストは意外にもすぐに返却された。
オレは全て満点を取り、学年一位。
日向影山は40点ギリギリ…
2年の馬鹿達も同様だった。
何とかテスト期間を乗り越えた烏野高校バレー部は、全国優勝を目指して部活動を再開する。
オレが体育館に向かうと、先程まで抜け殻だった日向影山は、もういつも通りコートでケンカしていた。
A対Bで試合となり、オレはBとして出る。
「しゃぁあ!いっちょ来いやぁ!」
日常になった、このバレーボール。
バレーを好きになった訳では無い。
バレー以外のスポーツやスポーツだけでなく、もっと色んなことをしたいと思う気持ちはある。
だが…今、オレの唯一の居場所となったこのバレー部を辞めるという選択肢は、もうオレにはない。
この白い心に、何色が混ざったのだろうか…
もうあの頃の白い心に戻ることは無いだろう。
オレが外に出て成長したと言う事か…
あり得ないと諦めていたことだった。
やはり…外の世界に出て、正解だったな。
これからのオレは何色を吸収して、どのような成長を遂げるのか、楽しみだ。
『ドォン!!』
床を蹴り、高く跳ぶ。
高い壁を乗り越えたオレは、ネットの向こう側がいつもより鮮明に見えた。
皆の顔は真剣だ。
こうやって、皆で1つの何かを成し遂げるのは、青春だろうか…
なら、オレも全国で優勝を目指すとしよう。
そして、オレが頂点に君臨し続けよう。
それが更にオレを変えるものとなるだろう。
後衛の日向目掛けて、全力で打つ。
これからこいつが、活躍するにはレシーブは出来ないとな。
今どれくらい反応出来るか…
日向は腕だけ前に出し、硬直した。
ボールは手前でバウンドし、股間に吸い込まれていった。
「ホグッ!?」
声にならない声を出し、そのまま前のめりに倒れた。
「ひ、日向ァ〜!!」
「キュキュキュ救急車!?」
「ぷっはははは」
「月島!笑ってる場合か!」
「日向大丈夫か?」
「つ、潰れました…」
どうやらオレは、一人の男の人生を潰してしまったようだ。
また全力を出したら、一人の人生を奪ってしまった…やはり、オレは全力すらも出さないほうが良いのかもしれない………
「おら!今日は最高到達点を測るんだ!試合は程々に!」
コーチがズカズカと体育館に入ってくる。
「「「「はい!!」」」」
最高到達点か…懐かしいな。
「最高到達点!影山勝負だ!」
日向はゴキブリの親戚だろうか?
元気ピンピンだった。
「ぐんぐんヨーグルト1週間分」
「上等!」
一人ひとり、バスケのゴールドリングのバックボードに手を触れ、測定する。
「337センチ」
「おお〜…残るは日向と綾隆か…」
「行きま〜す!」
駆け出し、床を蹴る。
『ドン!』
「「 何センチ!?」」
「338センチ」
「うぉおおお!」
「くっ……」
影山が悔しがっている。
恐らく、正確な飛び方を知らなかったら影山が勝っていたかもしれない。
影山には悪い事したな…
「次、綾隆」
「はい」
皆から視線を向けられるなか、跳ぶ。
『ドォン!!』
「ギョっ…」
「350センチ…」
少し落ちてるな…やはり、あの時の運動量は異常だったのだろう。
「まじか…ダントツじゃん…」
「皆!いる!?」
いつも通りに武ちゃんは慌てて参上する。
「集合!!」
武ちゃんを囲むように集まる。
「どうしたんですか?」
切らした息を整えてから話し始める。
「あ、えっと…影山君と綾隆君に全日本ユースの誘いが来てます!」
えーとですね…
僕はあまりよう実からは綾小路以外を出したくないと考えております。そのため、今回もホワイトルームの内情を書きたくはなかったのですが…ここで綾小路が烏野に溶け込ませるためには、過去を知っもらう必要があると思い、まあ月城さんですが、出しました。
完全に作者の力不足です。すいません…
まあ…反省はここまでにしておきまして、残り10 話??ほどとなったハイキューですが、試合内容がまだかけておりません。
数週間単位で出します。
基本火曜日に出します。最後まで見てください!!
因みに…トムヤムクンの話しは作者の実体験です。