【】これ、章のタイトル的なやつ。
【尽心・下】
『結果より過程が大事…と大人が言うて、子供はいまいち納得せん。
俺は大人に大賛成や。
俺を構築するんは毎日の行動であって結果は単なる副産物にすぎん。
過程のあとに結果がついてくる。繰り返せば、一つ一つを大切にできるんや。
喝采はいらん。ちゃんとやんねん』
「この世は結果が全てだ。
誰に何を言われようと変わることはないだろう。
最後にオレが勝っていればそれでいい。
過程は関係ない。どんな犠牲を払っても構わない。
誰を利用しようと勝ち続ける。
喝采は必要ない。淡々と繰り返すだけだ」
【2人の男】
「試合前のトイレは危険だ」
どこかの馬鹿が言っていた。何故かオレンジ頭の発言が頭の中に残っていた。
まあ、今は試合前ではなく、終わったばかりだが…
日向が、星海と相対して目を逸らせなかったように、今、オレも目を逸らせないでいた。
なんとなく似た雰囲気。だが、決定的に何かが違う。
それを感じ取り、オレと目の前にいる男は、トイレの前のドアで視線を交差させ固まっていた。
「烏野高校…」
先に口を開いたのは、相手だった。ウィンドブレーカーの左胸には、稲荷崎の文字が入っていた。
ビデオでは、あまり見れなかった選手。
稲荷崎の主将…北信介。
「稲荷崎の…」
オレもそう言った。
「君が清田君か…」
「知ってるのですか…」
「ウチの侑がな…なんや、えらい化け物がおる言うてハシャイどったわ。それに白鳥沢戦のビデオを見たから、元々知ってたしな」
「そうですか…化け物は人のこと言えないと思いますけど…」
「それはそうやな。まぁ、次の試合、楽しみにしとるで」
「楽しみに、ですか…そうですね。それはオレもです」
北が去って行き、オレもその場を去る。
バスに乗り、トイレするの忘れた…と嘆く。
「皆はどこと試合するのが、楽しみなんだろうか」
オレはそう呟く。それに反応したのは横に座っている月島。
「はぁ?別に、どこが楽しみって考えないでしょ」
「おれは!どことも試合するのも楽しみ!でも、やっぱり、音駒との試合が楽しみだ!!」
聞いていた日向が声を大にして言った。
「まあ…俺たちは音駒に負けっぱなしだしな…公式戦で絶対戦うと約束しているから、音駒だろうな」
「そうだよな…音駒だな…」
「俺は、バレーが出来るならどことでも…」
「分かってんだろうな!音駒との試合が楽しみと言うのは良いが、一戦一戦を大切にしろよ⁉特に次、稲荷崎だ」
「はい、分かってます」
オレはただ独り言のように呟いただけなのだが…いつの間にか皆が会話に入り、自分の戦いたい相手を言い合っていた。
「それで、お前はどこが楽しみなんだ?」
前の方から主将がオレに、逆に問いかけてきた。
「オレは…自分に変化を与えてくれるところですかね」
「お前に…?そんな相手滅多にいないだろ」
「ええ。そうですね」
「お前に変化を与えられる奴がいそうなら、お前はやる気を出すのか?」
「まあ…そうですね。だから、次の稲荷崎は…」
オレはそう言って、顔を上げる。
「個人的に、最も楽しみです」
オレにとって、最も大切にしたい試合だ。
「おぉ…それは、何と言えばいいか…」
「やる気のある君ほど、不気味なものはないね」
「綾隆に、そう言わせるほど稲荷崎に何かを感じ取ったのか?」
「直感ですけど…」
「ほぉ…それは楽しみになってきたな」
宿に着き、ミーティングを始める。
「相手はIH準優勝チームだ。
まず、ポイントゲッターは4番の尾白アラン…高さもパワーもあって梟谷の木兎同様、全国三本の指に最も近い…というか調子さえ良ければ、それも超える可能性すらある。対牛若と同じだ。
MBの10番、角名倫太郎…身長はMBにしたら低い方だけど…センスの塊って感じの奴。
これが、稲荷崎の主砲だが、厄介なのは、やはりSの宮侑。影山はユース合宿で会ってるよな?」
「はい」
「高校NO.1セッターて言われてるやつだよな…」
ピクッと反応し、嫌そうな顔をするが、影山が侑について話す。
「スパイカーが上手くなったと錯覚するセットアップらしいです。確かに凄え打ちやすいっす。ブレない乱れない」
影山がそう侑を褒める。
「それと、綾隆と同じで、スパイクサーブとジャンプフローターの二刀流です」
「どっちで来るかギリギリまでわかんないってことか…」
「いや、綾隆と違って、宮さんにはルーティーンがあります。歩数で使い分けてるみたいです」
「ほえ~綾隆はどっちでくるか分からないからな…お前、ほんとめんどい奴だぞ?」
菅さんはオレをジトっとした目で見ながら言った。
そういうのは、女子にされたいものだ。
「味方なのでいいじゃないですか…」
コーチが話を進めるために、コホンと咳払いをして、皆の注目を集める。
「それでも、取りづらいことに変わりはない。で、今回はローテーションのコンセプトを変えようと思う」
一試合目を勝ち進んだオレ達だが、どこか雰囲気が重い。だが…
「全国の一番と二番両方とやれるってことか…!」
「第一シードのイタチ山が決勝まで来ればだろ」
「そうか、でもイタチ山に勝った奴が居たらそこが一番じゃん」
「…そうか…そうか?」
日向影山は相変わらずだな…
だが、皆の暗い雰囲気は何処かへ取り払われた。
1月6日(大会2日目)
朝からアップを取り、体育館に入っていく。
「宮侑が二人!!」
「昨日言われただろ…双子の治だ」
影山は双子に近付いて行き、挨拶をしに行く。
「しゃぁああす」
影山が首を振りながら挨拶をする。
「見分けついてへんのバレバレやで」
確かに似ているが、髪色で分かるだろ…早速頭の悪さを披露していきやがった。
▽▽▽
全国大会は、一般客も多い。
だから、カップルで来る観客もいる。
「今日最初どこ見る?」
「ん~~新山女子まだだから~~やっぱ稲荷崎かな宮兄弟!」
彼女はバレーを過去に経験していたが今は辞めている。だがそれでも、宮兄弟は知っているようだ。それほど、高校バレーでは宮兄弟は有名だった。
「お、稲荷崎の相手は、アレじゃん!昨日のトンデモ速攻チームじゃんトリ…じゃなくて烏野か」
「ああ~!あたし!あのチームも好きなんだよね。ちょ~っとしかでてないけど、鮮烈を与えて行ったあの16番!楽しみ~~」
こんな風に、綾隆は着実にファンを増やしていた。
「ハン!」
▽▽▽
「気合入っとんな~~飛雄くん」
アップ中、影山に話しかけて来たのは侑だった。
「今日、頑張ってな??俺、下手糞と試合すんのほんま嫌いやねん」
侑は日向を見て言う。
「それはすみません。俺はへたくそじゃないです」
「知っとる知っとる」
「あいつは下手糞ですけど…弱くはないです」
影山がそう言った。
オレはふと後ろを見ると北が居た。目が合い、近付いてくる。
「清田君は、なんでバレーやっとんや?」
「最初は成り行きでした。ですが、今は全国で優勝するためです。勝ち続ける。それだけです」
ここで探り合いは必要ない。
本心を語る。
「なるほどな…同じ雰囲気なのに、どこか違う思たんは、そう言うとこやったか…俺にはその考えはよく分からん。結果より過程が大事やでな」
「そうですね。オレは結果が全てです」
視線が交差する。
「まあ、ほな、よろしゅうな」
「はい」
差し出された手を握り返す。
「ああっ…!セカンドユニフォームになってもやはりノヤさんの主役感!!」
「…だろ??」
今回は稲荷崎も同じ黒なので、オレ達が予備のユニフォームだ。
それについて、皆は騒いでいた。
「あっ!田中さんさっき美女となに話してたんすか!!?」
「ハッ!?お前っ見ッなんっべつにっ」
日向が田中先輩に聞くと、田中先輩は取り乱した。
それを見た月島は煽る。
「え何?何スカ、どうしたんすか田中せんぱーい」
「なんでもねぇーし。子供にはわからないことです」
何やら言い合っているが、いつも通りで何よりだ。
前の試合が終わり、いよいよオレ達の番だ。
扉を開くと『ドン!ドドドドン!ドン!ぢゃんぢゃン!』と、稲荷崎の応援で会場は満たされている。烏野は相変わらず少ないな。
稲荷崎は吹奏楽も強いらしく、学校全体で戦っているような感じだ。
「よし、行くぞ」主将が言ったが、相手の応援に掻き消され、オレにさえ聞こえてこない。
「行ぐぞあ!!!!」
「「「「おおーー!」」」」
春高バレー2回戦
稲荷崎高校 vs 烏野高校
『ピーーーー!』
挨拶をしてから、コーチのところに集まる。
「誰も烏野が白鳥沢に勝つなんて思わなかった。また皆をびっくりさせましょう」
「「「おおお!!」」」
武ちゃんからありがたいお言葉を頂き、皆の士気が高くなる。
▽▽▽
「ええか?早い所、あの16番を出させるんや。ほんで、はよ慣れろ」
稲荷崎ベンチでも監督が選手に指示を出していた。
やはり、恐ろしく不気味な16番を引きずり出したいのだろう。
だが、そう考えているのは、稲荷崎だけではなかった。
「何で、あの16番は出てこない!?」
「まあまあ、落ち着いて、光来君」
鴎台の昼神は子供をなだめるように言ったが、その顔は残念そうにしている。
「ええ~まだ綾隆出てこないの~~」
「まあ、烏野に取っての切り札ですし、どうやってカードを使うのか、選択肢が多いのが烏野の良い所でもあります」
こちらでも、観戦していた梟谷の二人は残念な表情をする。
「ちっ…何だよ、若利君倒したっていう16番出てないじゃん。はよ出せよ」
「何か調子が悪いんじゃないの?お前みたいにっ」
イタチ山のお二人とも、16番のプレーを見ておきたかったようで、そう言った。
どこもビデオでしか見ていない綾隆のプレーを生で見たいのだろう。
そう多くの人の不満を募らせながら試合は開始した。
【清田綾隆という男】
赤木(背番号15、3年Li)
宮侑(背番号7、2年S)
大耳(背番号2、3年MB)
尾白(背番号4、3年WS)
銀島(背番号5、2年WS)
角名(背番号10、2年MB)
宮治(背番号11、2年WS)
STARTING ORDER
宮侑 赤木 尾白
銀島 角名 宮治
________
影山 月島 東峰
田中 西谷 澤村
初っ端から、宮侑のサーブ。
定位置に着き、笛が鳴ると左腕を上げて、グッと握る。
今まで五月蝿かった応援がシーンとなった。
だが…
「そおおおおおおおれっ♡」
稲荷崎側の応援席から、掛け声を言ってしまった。知らずに来てしまったのだろう。宮侑に睨まれ、震えあがる。
サーブは西谷と田中の間に突き刺さり、いきなりサービスエースを取られる烏野。
「おーい、身構え過ぎんな固えぞーナイフが飛んで来るわけじゃねぇんだからー」
烏養が皆に声を掛ける。やはり緊張しているのだろう。動きがどこか硬い。
だが、次はコート外でこちらの得点。初っ端から離されるという最悪の出だしは無かった。
東峰さんのサーブだが、『ドンドンドン!』『パチパチパチ』と稲荷崎の応援団に勝手に拍子を作られ、リズムをずらされた東峰さんはネットにかけてしまった。
▽▽▽
『両校強気のサーブで早くも流れの取り合いが始まっています!
さて、羽深さん今回の試合の注目はやはり高校NO.1セッターの呼び声高い稲荷崎の宮侑でしょうか?』
『そうですね。それと今回は烏野のセッターにも注目したいですね。烏野高校、影山飛雄。こちらもユース候補になっている有望な選手ですね。中学ではあまり目立っていなかったですが、これから注目度がどんどん上がってくる選手だと思います』
『正に東西セッター対決!』
実況が聞こえてくる。
私は周りを見渡し、観客の顔を見る。
セッター対決、早く綾隆を出してほしい。そう思っているのだろう…でも、ふふふ…皆、何か忘れてる。
烏野代名詞を…そうやって、大きな力に目を向けると、小さい烏を見逃す。
いつもは囮として本領を発揮する日向だけど、今日、この一回だけは、皆を囮にして跳ぶ。
高く跳んだ小さい烏は、会場の皆の視線をくぎ付けにした。
ブロックのいないところへ、最速のトス。
マイナステンポ…超速攻。
このインパクトは誰も頭から離れないだろう。
『スッパァン!』
相手コートに突き刺さる。
『日向翔陽走り込んで決めたーー!!これははやい!烏野高校1年生コンビ必殺のブロード炸裂!』
「うおぉっし」
コーチもガッツポーズを小さく作る。
良い流れ。
▽▽▽
先ほどまで、綾隆を気にしていた人たちは、皆、10番のとんでも速攻に目を奪われた。
特に、光来は衝撃的だったようで「はあああ?」と顔を歪ませている。
木兎や赤葦は見たことのある攻撃なので、テンションが上がっただけだったが、他の人達にもかなり鮮烈だっただろう。
日向影山の攻撃を序盤で決めることが出来た烏野だったが…稲荷崎の応援団がなかなか厄介だった。
皆、リズムをずらされ、思うようにサーブを打てていない。
その影響もあり、サーブではミスるが相手のサーブは決められる悪い流れが続いた。
そんな負の循環を断ち切るため、一人コートに降り立つ。
3-7
4-7
『ピーーー!』
『烏野高校、早くも選手交代!一年生清田綾隆を投入します!やはり、サーブ強化ですかね?』
『ええ、交代した田中くんの調子は悪く見えませんでしたし、先程からサーブで点を落としていますからね』
まさかの早々の登場に、皆が息を飲む。
稲荷崎は気を引き締めるように構える。
木兎たちは、「よ~~~やく、出て来た!なっなっ赤葦!」「はい見てます」と言って喜々として見ている。
サクサ、光来は黙り綾隆を注視する。
また、ある人は「や~~~ん!出て来た!出て来た!」と騒ぎ「ちっ」彼氏は舌打ちをする。
「早いな」
「そんなやばい?」
「あやぽん、はやすぎじゃねーか?」
綾隆の登場に驚いたのは、敵だけじゃなかった。
「そういうわけではありません。まあ、田中先輩の姉が到着するのが遅いですからね。それまで繋ぐだけです。それに、元々どこかで少し出る予定ではありました」
「そうだったな」
「おしっ一本ナイッサ!」
綾隆はサーブの定位置に着く。
相変わらず、稲荷崎の応援が会場を満たし、笛が鳴ると勝手にリズムを作る。
サーブトスを上げる。
だが、低い。
自分の身長ほどのサーブトス。
走らず、跳ばない。腰を低く構え、腕を下から上へ振り上げる。
天井すれすれまで上がったボールは、最高点に達し落下する。
急降下するボールは、尾白アランへ。
眩しかったのか、目を細めオーバーで掴もうとしたが、取りこぼしギリギリで繋ぐも烏野のチャンスボールだ。
そして日向影山の超速攻で決めた。
『決まった~~!またも烏野1年生コンビ!』
『いや~まさかサーブが天井サーブとは思いませんでしたね…』
「お前、それであの時変わったのか…」
「あやぽん!今度打ってくれ~!」
チームメイトが綾隆にハイタッチをしに行く。
「うわっ!なんやあいつ!」
「びっくりしたなぁ」
「あんなの持っとったんか!いや、前の試合でコピーしたと言うんか…」
「なんや、ツムがまた嘘言っとるわと思たけど、ほんまに超人やな」
「嘘つかへんわ!」「いつもついとるやんけ」
稲荷崎は素直に綾隆を認めていた。
「きゃ~~見た?今のあれ、絶っっ対、昨日のチームのを真似したよね??」
「わ、わからんやろ…元々できてたかも知れん…」
こっちのカップルはいつも通りだ。
「綾隆すんげぇぜ!天井サーブ何ていつ練習したんだ」
「そうですね。白鳥沢の時も使ってませんでしたが…」
こっちもいつも通りだった。だが、光来とサクサは、またも顔を歪ませ呻いている。
しかし、それで綾隆の出番が終わりというわけではない。
「綾隆~~~もういっぽ~ん!!」
今回も勝手に拍子を作られる。
そんなことをものともせずに…
高く上がったサーブトス。高く前に飛ぶ。
『ズッダァァァアン!!』
尾白アランとコート端の間に突き刺さる。
『サービスエース!!稲荷崎コートで轟音が鳴り響く!』
『その緩急は取りづらい!』
『清田綾隆は一年生ながら最高到達点350㎝と今大会、最高の高さを誇ります!その高さから放たれるサーブは最早スパイクのようなものでしょう!』
「「「「ナイッサーブ!!」」」」
烏野には笑顔を稲荷崎には苦渋を…そんなサーブを綾隆は披露する。
だが、綾隆にはまだまだサーブに種類がある。
『ピーーーー!』
軽く上げられたボールを押すように打つ。
そのボールは変化しながら、相手コートへ…尾白アランはアンダーで取ろうとするが取りこぼし、床に落ちる。
『また決まったーー!』
『凄い凄い!!いくつサーブの種類があるんでしょうか!?』
実況もかなり興奮している。
「うおぉおお三連続!!」
「ナイス!そして追いついた!」
「もう一本いったれ!」
烏野は追いついた。そしてそこへ…
『トぅ~とゅ~とるる~』
『ドドン!ドンカッ!』
和太鼓の音と篠笛のキレイな音が聞こえてくる。その音は稲荷崎の応援を掻き消す。
ついに田中の姉が到着した。
遅れた理由は、ただ迷っただけだった。
「なんやねん!俺もやったるし!」
「あほ、やめとけ」
「アラン、次や!」
「ああ、スマン」
「よっしゃああ、次一本とろかあ!」
まだまだこれからやと、声を出していく稲荷崎。
怪物、綾隆はその光景を見てどう思っているのか…その無表情からは推し量ることは難しい。
「はああああ?はああああ?はああああ?」
「こらこら、光来君、試合中に乱入するつもり?」
こちらでは出て行こうとする光来を止めるのに必死そうだ。
「綾隆、まじじゃん!おんもしろくなってきた!」
「こんな相手としたくないですね」
「ええ~俺は早くやりたい!」
常にいつも通りなこの二人は安心感を覚える。
「きゃ~~~すご~い!ファンになっちゃいそう!あ、もうファンだった!」
「おのれ…」
こちらもいつも通りで安心だ。
そして、春高予選で音駒に惜しくも敗北した戸美学園の大将優も彼女を連れて来ていた。
「ぜ…ぜんこくこえ~」
「凄いね~」
ただ感心していた。
だが、そんなものである。会場のバレーに詳しくない人も詳しい人も皆が口を揃えて感嘆としている。
全日本ユースで指導していた監督もそうだった。
「やっぱり、彼は凄いね~稲荷崎が、どう彼を対処していくのか…興味深い」
「ユース合宿来てくれなかったのは…ちょっと残念でしたね」
そう二人が述べていた。
だが…まだ、綾隆の攻撃の手札は残っている。
『ピーーーー!』
笛が鳴ると同時に、高く上げて高く跳んだ。
打つ手は左手。
威力は多少劣るが、牛若を真似たスピンは、牛若ほどでなくとも取りにくいだろう。
またも、尾白アランの方へ向かう。
苦戦するも、何とか上げる。セッターとしてスパイカーに打ちやすいトスを与える宮侑は、誰よりも早く駆け寄り、レフトの銀島へセットする。
見惚れるほど綺麗なセットアップ。
銀島はブロック一枚だったため、クロスへ打ち決めた。
『ここは決めた銀島!綺麗なセットアップでしたね!』
『はい。いや、しかし、清田くんはいくつサーブの種類があるんですかね…左で打ってましたよ』
「しゃあああ!!」
「ナイス侑!」
「ほんま、さんきゅーな!」
7-8
…
8-9
宮侑 大耳 尾白
銀島 角名 宮治
ーーーネットーーー
影山 月島 東峰
綾隆 西谷 澤村
『さあ、来ました宮侑のサーブ!』
試合が始まり、二度目のサーブ。
4歩下がったため、ジャンプサーブ。
「「「サッコォオオイ!」」」
烏野レシーブは迎える。
『ドッ!』と音がする。
同じジャンフロでも綾隆や山口とは違った。
あっと言う間に西谷の目の前に…そして、オーバーで摑まえようとした手をはじく。
西谷はオーバーを苦手とする。
だが、山口や木下と毎日練習を積み重ねた。その西谷が取れないとなると、いささかチームの士気に関わる。
『またもサービスエース!こちらも強烈なサーブを二種操ります、宮侑!!!』
『いやーー良いサーブ!それにしても、両者高校生とは思えないサーブを打ちますね!』
実況が言うように高校生とは思えないサーブの応酬。それはプロであろうと通じるだろう。
烏野が、切り替えるために声を掛け合う中…稲荷崎も話し合っていた。
「なあサム」
「何やツム」
「攻めるタイミングは逃したらあかんよな」
宮侑は意味深なことを言って、エンドラインまで下がる。
そして4歩更に下がる。またジャンフロだ。
そして、また狙ったのは西谷。
「ふんっ!」
西谷は何とか繋ぐが、そのまま稲荷崎に返すだけとなった。
宮治はさっきの会話で宮侑が何をするのか分かったのだろう。
助走に入るタイミングはサードテンポでなければ、セカンドやファーストテンポでもない。マイナステンポ。
日向影山の超速攻だった。
この位置…頃合い…この角度、どんっぴしゃり。
宮侑から宮治へ。正確なトスがセットされた。
影山だけが、ブロックを跳ぶ。
だが、殆どがら空きとなったコートへ打ち下ろす。
『パンッ!』
コートに落ちる音は聞こえなかった。
待ち構えるようにその場に移動した綾隆が、宮治のスパイクを真正面でレシーブをした。
「「なっ…」」
稲荷崎は驚愕する。
「「「「ナイスレシーブ!!!」」」」
『あ、上がったーー!!!というか、今のは烏野コンビの速攻!?』
『しかし、まだボールは落ちていない!』
影山から月島へ。
『烏野速攻!しかし、稲荷崎もこれは拾う。そして後ろから~~尾白アラン!!』
『これも上げた清田綾隆!!』
「影山」
綾隆が影山を呼ぶ。
『ドォン!』
高く跳ぶ。
跳躍だけでなく、空中の姿勢の良さからタイミングが異なるスパイクにより、ブロックの上から打ち下ろした。
『ズッパァァアン!!!』
尾白アランの真下で響く。
『決まったぁ!また清田綾隆!!!』
『あの高さは高校生ではありえない…』
『ピーーーーー!』
『あっと、ここで選手交代?田中龍之介を戻します。清田綾隆が下がりました。』
『作戦…なんですかね。ですが、一回しか交代はできないので、もうこのセットは出てこれません。次のセットが楽しみです』
綾隆をベンチに下げた。
この短い間に、大量に得点を重ね、その上、渾身の超速攻を一発目から止められた稲荷崎はどう思ったのか…
「なんっやねん!はあ…嘗めてますん?」
「落ち着けやツム」
「あれは嘗められてるな」
角名もそう思ったようで話に入る。だが、一番気に食わないのは尾白アランだろう。
サーブで狙われ、スパイクは止められスパイクで決められる。
何も返せなかったわけだ。
稲荷崎の雰囲気は悪くなる一方だった。
▽▽▽
本気だ。
綾隆…これは、この策は…相手を本気で潰しにいっているの…?
私はそう思った。
いや、皆、そう思っている。
良い空気なはずなのにピリッとした緊張感がある。
「綾隆…お疲れ」
「ありがとうございます」
綾隆にドリンクを渡すと、いつも通りの雰囲気でお礼を言った。
その無表情からは何を考えているのか分からないけど…
本当に綾隆が全国で優勝するために戦っているのだと、今更ながらに実感した。
「オレはいつも通りですよ」
何も言ってないけど、考えていることを読まれた。
「…そう。このまま頑張ってね」
あ、もう一セット目は出れない…落ち着け、私…!
▽▽▽
ベンチに戻ったオレは皆にハイタッチで迎えられた。
まだ試合は9-10で稲荷崎がリードしている。だが、稲荷崎にとっては良くないリズムだろう。
これから、どうするのか…見ものだな。
「まさか、日向影山の超速攻を使われるとは…なんで、お前は分かったんだ?」
菅さんがオレに聞く。
「日向影山と同類だからです。失敗しても行動に移さないと気が済まないタイプ」
「なるほど…確かに似てるな」
「そして、烏野と同じく、それらを支える人が稲荷崎に居ます。だからこそ、好き勝手出来る」
「それだけで、来ると分かるか?」
「まさか…ただ、来るかもしれないと、頭の中に入れておいただけです」
「それだけで反応できるのが凄いがな…それにしても…」
菅さんは腰に手をあて、上を向き背筋を伸ばす。
「烏野と同じタイプか…いつも以上の点の取り合いになるな」
確かに烏野も稲荷崎も力づくで点をもぎ取ることを好む傾向がある。
だが、点の取り合いになるかは、これから分かることだ。
東峰さんのサーブを上げ、アランにセットされた。3枚のブロックがついた。
「ワンチ!」
月島がワンタッチで威力を弱める。レフトの田中先輩がスパイクを打ち、ブロックアウトにより烏野の得点。10-10
東峰さんのサーブが綺麗にコート端に突き刺さり、またも烏野の得点。だが、次は惜しくもアウトで稲荷崎の得点に。11-11
角名のサーブを上げ、影山のツーが決まる。12-11
月島サーブを上げられ、速攻で来るが日向がワンタッチで威力を抑える。東峰さんへセットされブロックをはじき飛ばした。東峰さんはかなり調子がよく見える。13-11
もう一度、月島サーブ。運よく、若干お見合いをしてもらい、セッターに届かず大耳がアランへ上げた。
『ダァン!』
稲荷崎コートへ落ちた。
影山によるドシャット。
烏野の勢いは更に強まり、稲荷崎の空気は更に悪くなる。
14-11
次は決められ、
14-12
月島が西谷先輩と交代し、ベンチに来た。そして、オレに言う。
「ほんの少しのリズムのズレが、良い感じに効いて来ているみたいだね」
アランが調子良い日は、ブロックの上から叩き落とされている。だが、今はブロックに良く捕まっている。
「そうだな」
「君の策略なんだろうけど、どうしたの?今回はホントにガチじゃん」
「言っただろう。楽しみだって」
「何をそんなに稲荷崎に対して感じることがあったの?」
「オレは結果が全てだ。だが、相手の1番は過程が大事だと言った」
「で?」
「バレーの練習量は烏野と同等、もしかしたらそれ以上かも知れない。
だが、その今まで積んできたことが本番で壊されて、結果も振るわない。それで過程が大事と言えるのだろうか…過程が悪くとも結果が良ければ、良かったと思うことが出来る。」
「過程か…その考えが君に変化を与えると?」
「ああ。だから、まず一人壊した。
今、稲荷崎の一人は潰したも同然だ。
稲荷崎の空気は悪い。
試合中、積んできた過程が崩れ去る。
それでもまだ過程が大事と言っていられるだろうか……オレならそうは思わないな。その答えを教えてもらいたい」
「相変わらずだね。
悪辣非道と言うか、悪辣無比と言うか…平気で悪辣なことをするね、もう人になる努力は辞めたの?」
嬉々とした表情で月島は言った。なぜ嬉しそうなのかは分からないが。
「躊躇の無さ!だが…なんでだろうな、お前だからか、ほ~んって感じで聞いていられたよ」
菅さんには、すんっとした表情で言われた。…オレもそう言う反応されると思っていた。
「オレは一般的高校生だ」
オレは大様に言ったが、その後、言葉が返ってくることは無かった。
悲しい…
▽▽▽
烏野vs稲荷崎の試合は中盤から烏野が押せ押せムードだった。
稲荷崎の双子速攻などで点を取れてはいるが、尾白アランの攻撃が精彩を欠いていた。
その一人のリズムの狂いが、チームを少しずつ狂わせ、じわりじわりと楽しくない空気にさせる。
烏野の観客席でも綾隆のいつもと違う戦い方を話していた。
「なんか…こえぇ」
「ああ。だな…今回の作戦も綾隆が考えてるんだろうな…」
「そうなの…!?私には分かんないや」
「敵の一人を完全に潰しにいってるんだよ。白鳥沢のときも青城のときもそんなの無かった。前は正々堂々って感じだったんだけどな」
「ふ~~ん。それはいけないの?」
「いや…いけないわけじゃないし、一人を潰しにいくことはよくあることだ」
「なら、いいじゃん」
「良いんだが…ちょっと烏野らしくないなってだけだ」
「烏野は常に新しくっだろ!?」
「おっ…あ、ああそうだな」
烏野にまた新しい風が吹く。
春高という三年生にとって最後の大会。そんな大事な試合でも烏野は新しいことを取り入れていく。
烏野の武器は常に新しく。
それはどれほど難しいことなのか、本人達も理解できていない。
綾隆という冷徹な人物を誰が受け入れられただろうか…
誰であろうと、どのような物であろうと受け入れる器の大きさこそが、烏野の武器だろう。
【北信介という男】
14-12
宮治 赤木 銀島
尾白 大耳 宮侑
ーーーーーーーー
日向 田中 影山
澤村 東峰 西谷
試合は烏野が押していた。
まだ、相手は様子見で尾白アランを変えていない。
宮治のサーブから始まる。強烈なサーブに返すだけとなった。
レフトから尾白アラン。ブロックを掻い潜るも西谷の真正面に打ってしまった。「チッ」と舌打ちをし、苛立ちを隠せないでいた。
そして、影山が日向へトスを送る。超速攻。
だが、宮侑はこれを読んでいた。
(規則的な不規則やで、飛雄くん!!)
『ピッ』
審判の合図は、タッチアウト。
『アウトに見えた球はブロックに当たっています。烏野高校の得点!!』
日向はブロックの指に当てていた。
これで、二点差。
稲荷崎には嫌な一点だった。
15-12
そして17-14
烏野が三点のリードで月島が前衛にきた。
「日向ぼげー!日向ぼげぇ!」
日向がサーブをいつものようにミスった後、影山の罵倒が飛ぶ。以前、澤村に言われてから、ぼけーの種類が増えたようだ。
大耳のサーブを上げる。
(どいつもこいつも強烈なサーブ打ちやがって…!)と澤村は心の中で愚痴る。
「ナイスレシーブ!!」
月島が後ろに下がる。
「ツッキーが跳ぶ気だ」
真っ先に何かを感じ取ったのは、試合を観戦している木兎だった。
影山は月島へトスを上げる。(ここまで来い!)と高さを指定する。
(この…)と月島は思ったが、負けず嫌いを発動し、その高さまで跳んだ。
ブロックに飛んだ角名は思った(これ絶対白鳥沢のときより高いじゃん)
『スパァン!』
ブロックの上から叩く。
気持ちの良い音が稲荷崎のコートで響いた。
『決まったーー!!攻守に輝きを見せます月島蛍!!』
18-15
宮侑は思った。
(ユース合宿からそんな時間経ってへんやん。飛雄君に何があってん。まさか、またあいつのせいか…)
とばっちりを受ける綾隆だが、それはもう仕方ないだろう。
烏野ばかり良い試合を見せられる稲荷崎は、少しずつ点を離されていった。
澤村からのサーブ。
『尾白、綺麗に上げる。さあ宮侑誰を使うか』
銀島にトスを上げたが、少しネットに近くなってしまった。
だが、強引に押し込む。
「ワンチ」
『月島蛍、これを阻む。影山、田中龍之介に送った』
「ナイスレシーブ!!」
『ああっとここはリベロ正面。そして、流れるかのように宮治へ!!』
『バヂィン!』
『これも月島が阻む!だが、稲荷崎のチャンスボール!宮侑!ファーストタッチをセット。宮治へ!』
だが、これを予期したかのように月島がブロックを跳ぶ。
だが…
『再びこれをセットーー!そこから尾白アラーーン!』
空いたスペースに宮治はセットする。
そこへ、尾白アランのバックアタック。
▽▽▽
ほんの少しのリズムの変化が、少しずつ視野を狭める。
日向影山の超速攻、影山の成長、オレという存在。
対して、稲荷崎は新しい速攻を止められ、尾白アランは序盤以降、点を決められていない。そして、オレを早く出させたいのだろう…
そんな少しの焦りから狂い始める。
侑がファーストタッチを取りに行ったため、角名と銀島が助走に入ってくるのをワンテンポ遅らせた。
ライトの治に月島が当たる。
これを躱すように治はセットする。
誰に…?当然、空いている尾白アラン。
影山と主将が二枚で跳ぶ。
『ダァン!!』
『シャットアウトーーッ!!』
『一年生影山飛雄、エース尾白をまたも止めたーーーッ!!』
「「「「ナイッスドシャットォオ!!」」」」
烏野は更に勢いに乗る。
19-15
次も烏野が取り、20-15で『ピーーー!』審判が笛を鳴らした。選手交代か…
『稲荷崎高校、ここでメンバーを入れ替えます。4番尾白アランに替わり、1番キャプテン北信介が入ります』
この人が入って来たか…録画では見られなかった。
分析は出来ていない。だが、なんとなく想像はつく。
まあ、取り合えずお手並み拝見だな。
▽▽▽
なんや…久しぶりにコート入る気がするな。
祖母ちゃんが昔言うてたことを今、なぜか思い出した。
「誰かが見とるよ。神さんはそこらじゅうに居るからな」
よくそんなことを言うてたな。
「アラン。ベンチから見ときや。いつもの調子やなかったやろ。揺さぶられ過ぎや」
「ス、スマン」
「銀」
一先ず、俺はやるべきことをせなな…
「さっき何で強引に打ったん?」
「…烏野に行きそうな流れを食い止めんとと思て…」
「ブロックに掴まって流れはこっちに来んの??」
俺がそう言うと、稲荷崎の寒かった空気が余計に冷えた。
それでも俺は俺のやるべきことをやっただけに過ぎん。
大事なんは継続やからな。
「「「「サッコォオオイ!!!」」」」
まだまだ、ウチは元気いっぱいや…こっからやで清田君。
相手の主将のサーブを俺が上げる。
「「「ナイスレシーブ!!!」」」
大袈裟なくらいの掛け声やな。
俺が上げたボールを侑はツーで返した。
『ここでツーアタック!!虚を突かれた烏野は動けない!』
侑のサーブで一点獲るも、次はアウトで烏野の得点。
それでもまあ、追いついて来とる。焦る必要なんかどこにもない。
21-17
「「「「サッコォオオイ!!!」」」」
三番のサーブ…強烈やったな。
けど、俺はいつも侑や治、アランのサーブを受けとるからな、練習で取れてたことは本番でも取れる。
「「「ナイスレシーブ!!」」」
治が打つも上げられ、三番のバックアタック。これは吹き飛ぶな。
後方にふきとばされたボールを繋ぐと、烏野は驚いていた。
毎日の練習で身に着けた動きや。
なんも凄いことあらへん。
でも、皆、試合になると、途端にできやんなる。
俺にはその気持ちが良く分からん。けど…君は分かるやろ?
清田君も毎日を繰り返しとるんやろ。
毎日繰り返し練習する。俺を構築するんは毎日の行動や。
それが、今、活きとる…だから過程が大事なんや。
治よりに上がり治がトスを上げた。
速攻で倫太郎へ。
ブロックにはいつものように11番がつく。…けど。
『スパァアン!!』
烏野のコートに叩きつけた。
皆、調子を取り戻してきた。
治や侑、烏野の9番10番…
ああいう連中は理解できんけど見とると確かに心沸き立つ。
俺は流れを変えるような選手やないけども
この突っ走らずにおれん奴らの背中、少しでも守ったらなあかんと思う。
▽▽▽
21-18
烏野にジワジワと近づいて来た稲荷崎。
「おいおい~烏野追いつかれてきたじゃん」
「あの16番が出てないからじゃない~?」
「そんなにファンなのか…」
「いや~~ソンナコトハナイヨ」
「でも、16番が下がったからじゃない。稲荷崎の1番が出て来てから、段々と戻りつつある。いや…丁寧さが出て来た」
「ふ~~ん」
この試合の流れを理解し彼女に説明する。ドヤ顔で。
試合の流れが稲荷崎側に傾き始めていたが、このセット終盤での3点差は大きい。
そして、綾隆が作り出した流れを稲荷崎に持ってかれた烏野が、当然このままで終わるはずが無い。
▽▽▽
『ダァン!』
『決まったーー164㎝が183㎝をブロックー!稲荷崎高校には手痛い得点だ!』
日向のブロック⁉
私は驚いていた。
一人、寂しく見ている私だけど試合の流れに感情を動かされていた。
ちょっと、ちょ~~っと押され始めた烏野だったけど、日向が稲荷崎の超速攻をとめてくれた!
ふふふ…やはり、経験値が違うんですね~~あれだけ練習して来たんだもん。当然当然。うんうん。
「おい…あの子一人で笑ってるぞ…」
「でもちょっと可愛い」
おっ…コホン…でも可愛いってそんな…えへへへ。
あっ…ネットの上にボールが…今度は押し合い。頑張れ日向!
『ネット際の攻防は稲荷崎が押し切ったー!!やはり身長の差は大きいか。烏野高校、じわじわと追いつかれます』
あ~やっぱり押し合いは不利だよね。
「あれ?思てたより手ごたえないな」
グギギギ…行ったれ綾隆!
と思ったけど、綾隆はもう一セット目は出てこれないんだよね…
今は22-19。あともう少し!頑張れ!
▽▽▽
『ピーーー!』
烏野がタイムを取りベンチに集まる。
「稲荷崎はもう変人速攻に対応してきてる。紛れるを解禁しよう」
「おぉ…おおっす!計画通り!」
「お前…忘れてただろう…」
「最初は頭に入ってたけど、双子の速攻を見てからは俺の方が早いとかばっか考えてたとかかな?」
図星だったんだろう。日向は悔しそうに顔を歪ませながら震えるしかなかった。
「もっと落ち着け。押し合いは高さだけじゃない。ブロックも跳ぶだけじゃない。分かってるな?」
「う、うっす」
タイムアウトが終わり、皆がコートに出て行く。
稲荷崎のサーブから始まり、西谷先輩が上げる。
影山が田中先輩へセットする。
『ダァン!』
今度は返されてしまったか…さっきの月島のブロックを躱した事と言い、スロースターターの角名が調子を上げてくるのが早いな。
22-20
▽▽▽
脳内サービスエース27本目。
良い感じだ。
落ち着いている。
この強くなったチームで俺の出番があるかは分からないけど、俺も皆のように活躍したい。
俺が出る時はピンチサーバーの時だけだ。
だからいつでもいける準備だけをしておく。
やってやるさ。
▽▽▽
ほんまに腹立つで、綾隆君。
はよ出て来いや。
なんや北さんと張り合っとるようけど、俺らは眼中にないってか…
ウチのアラン君を調子悪くしてな…調子乗っとんちゃうか?
でも、俺は今日…過去一番ん!心沸き立ってるわ!
ぜってえ勝ってドヤ顔かましたんねん。そんであの無表情、動かしたるわ!
「侑ーーーー!!一本ナイッサーー!」
分かっとる。当たり前やろ。
こっちの一人を潰したちゅうんなら…そっちも一人徹底して潰さんとな。
四歩下がる。
それを確認して烏野のレシーブは少し前に出た。
それがどうした。分かっとっても止められへん。
俺のサーブはお宅らのジャンフロとは一味違う。
そのチッコイ指吹っ飛ばしたるわ!!
フワッと上げて強く打つ。
「西谷ー前ー!」
バヂィンと響いてコートに落ちた。
どや?取れへんやろ?
俺はもう一度定位置に着き笛が鳴るのを待つ。
「ふっ。ふっ。ふっ。」
相手コートから聞こえてくる。
指立て伏せをして、ダン!と跳んで構える。
真剣な表情。絶対取る。諦めへん。
そんな顔をしとる。
なんや、折れへんのか…これだけではダメっちゅうことか…
けど…
「さいっこうや」
22-21
▽▽▽
再び、侑のサーブが烏野を、西谷先輩を襲った。
完璧には上がってはいないものの、繋がり影山からの月島へ。
『そこから速攻を使うか⁉』
オレ達には見慣れたものだが、これが普通の意見なのだろう。
『スパァン!』
相手コートに落ちた。
「ナイッスキー月島!」
「あ、はい」
23-21
東峰さんのサーブを上げ、侑から治へのトス。
「ワンチ!」
月島が阻む。
「チャンスボール!」
「田中さん!」
影山から田中さんへのトス。
だが…
三枚のブロックが付き『ダァン!』烏野コートで響く。
23-22
「うぅ…田中さん大丈夫かなぁ」
オレの横で日向が心配そうにしている。
確かに先ほどから田中先輩は叩き落とされている。
「大丈夫だろ」
オレはそう答える。
「なんで??」
「何でって…お前、それは田中『先輩』だからな」
「うぉ~そうだな!」
田中先輩の一番の武器はメンタル。
だから、オレが何かをしなくとも勝手に調子を取り戻すだろう。
だが………
今じゃない。今じゃなくて良い。
オレは選手のリズム、調子さえもオレが操作したい。
完璧なタイミングで田中先輩の調子を上げることに成功すれば、烏野の勢い、選手の成長具合はどうなるのだろうか…
それを間近で見てみたい。
『ピーーー!』
烏野がタイムを取る。
「月島、次相手の「分かってる」…そうですか」
どうやら、何も言わなくても良かったようだ。
「影山、もう少し月島を使ってもいいかもな」
「おう…でもこいつ、すぐバテ島になるが…」
「き…君たちと比べないでほしいんだけど」
「影山!ツッキーを煽るな!!」「山口うるさい」「ごめんツッキー」
「大丈夫だ。二セットで終わる」
「「「「「お…」」」」」
「まだ一セットも終わってないと言うのに…どこから来るんだ?その自信は」
菅さんが後ろから突っ込んでくる。
「まぁ…一セット目はかなり接戦になるでしょうが、それさえ凌げば二セットで終わります」
「なら…頑張らねぇとな」
主将が言った。
「相手のブロックの完成度は早くなっている。速攻を多めに使って気を引き付けたほうがいいな」
「分かった」
『ピーーー!』
タイムが終わりコートへ出て行く。
銀島のサーブはネットINで烏野コートへ入ってくる。
「西谷ナイス!」
西谷先輩が滑り込み上げるが、そのまま返るだけとなった。
銀が上げ、侑から治へ超速攻。
『ダァン!』
稲荷崎コートに叩き落とした。
「月島ーー!ナイス!!」
「これ…止めてみたかったんですよね」
「ギョ…」
「おぅっ…」
やはり月島も読んでいたか。
セット終盤、この大事なところだからこそ、宮兄弟はやる。
『ピーー!』
24-22
月島が後衛に下がったタイミングで、木下さんを投入した。
「ナイッサ」
「うん」
月島がベンチに戻って来て、少しどや顔を見せてきたのには、少しイラッとしたが…まぁ今はどうでも良い。
▽▽▽
脳内サービスエース28本目。
静かな体育館。集中したからか、稲荷崎応援団の声援も聞こえない。
ネットの白苔の少し上を見つめる。
打つべき場所も見えている。
行ける…!!
軽く上げて軽く跳ぶ。
押すように打つ…!!
良い感じ!
ボールはゆらゆらと揺れ、5番へ。
崩れながらも上げた。宮侑がトスをあげ、1番へ。そのまま、俺の前に落ちた。
『ピーーー!』
笛の音が遠くに聞こえる。でも、何をするべきか分かっている。
月島と交代し、ベンチに下がる。
決まるハズだった…
強烈な一年を見て、すげえって興奮して、自分とは違う人種だしと思って…でも、自力でヒーローになった山口。いざってとき駆り出されてきっちり仕事した縁の下、成田。
突如、出て来てスーパーヒーローのように活躍した綾隆。
あいつらのようになれなくても、俺もどっかで劇的な活躍が出来るんじゃないかって…一瞬だけヒーローになれるんだって勘違いしてたんだな…
「すんません」
「惜しかったな、良いところ狙えてたぞ」
菅さんや山口が声を掛けてくれるが、何も返せず俯いていた。
「おいぃ!お前がここぞってところで活躍できる時は、別に今日で終わりってわけじゃねぇんだからな!」
「はいぃ…」
でも、三年生は今日で終わりかもしれないのに…俺は何もやってない…
「木下さん。コーチも言っていましたが、全てのプレーは繋がってますよ。それが試合中以外のことでも…」
「え…?」
「木下さんの敵は西谷先輩が取ってくれますよ」
「えぇ…」
綾隆はやっぱり…変わっている。俺死んでないんだが…
「お前、勝手に人殺すなよな!」
「いや…今のは…」
「君が言えば、本当のことになるよ」
「おい…」
そうだな…西谷に期待だ。
24-23
▽▽▽
角名のサーブを上げ、日向へ超速攻。
だが、リベロがそれを上げる。
「ナイス!レシーブ!!」
「銀!」
銀島のスパイクを西谷先輩が拾う。
そして、そこからシンクロ攻撃。
東峰さんが打つが、またも上げる。
「ナイッス!!レシーブ!!」
そして、またも超速攻。今度は決められた。
『今度は決まったぁ!稲荷崎!追いつきます!!』
24-24
デュースとは長いものだ。
互いに決められまいともう一度気合を入れ直す。
そのため、ミスが少なくなり、なかなか決まらない。
交互に点を取って行く。
27-27
『さぁ…再び宮侑のサーブです。ここを凌げるか烏野高校』
『ピーー!』
審判の合図とともにサーブトスを上げる。サーブは勿論、ジャンフロ。そして狙った先は西谷先輩。
前の方に落ち、滑りながら取る。
だが、向こうのチャンスボール。
そのまま決められた。
27-28
またも侑のサーブは西谷先輩へ。
だが、今回はネットにかかり、東峰さんが拾い影山へ渡る。
『ストン!』
「なななナイス!影山!」
影山のツーが相手コートで落ちた。
再び同点。
28-28
東峰さんのサーブだ。
なにやら渋い顔をしている。
懲役10年くらいの人に見えるな…多分、相当集中しているんだろう。
高く上げ、高く跳んだ。
『ズッパァン!』
ボールはコート端ギリギリに突き刺さる。威力も十分だった。
「ノータッチエーーース!」
「しゃあああああああ!」
「旭がいつになく頼もしいな!」
隣で菅さんが言った。確かに、とオレも思ったが、口には出さないようにする。どうせオレが言っても何か小言を言われるだけだ。
「綾隆もそう思ってるんだろ?な?」
「……いえ、別に…」
29-28
▽▽▽
『今度は烏野のセットポイント!第一セットから死闘です!』
「なんや、腹減ってくるな」
「あ?」
「烏野、飯食うとるみたい」
侑たちが、なんやまた言い合いしとる。
なかなか、相手もくずれんな…さすが、君が率いとるだけあるな。まあ主将が率いてるんかもしれんけど。
でも、俺はやっぱり変わらんで。
結果を構築するんは、過程があるからや。
アランだって、すぐ復活する。
過程があるから結果が生まれる。結果は単なる副産物や。
清田君がどんな人生を送って来たか知らんけど、結果だけに囚われるんは、視野が狭いんちゃうか?
▽▽▽
旭のサーブをギリギリで上げる稲荷崎。
宮侑が上げ1番にセットした。これを月島が阻む。
が…
ふわりと浮き相手のチャンスボール。
再び、双子が入ってきた。双子速攻か…
「あっ!」
宮侑が思わず声を上げた。
双子速攻は合わず、ボールは落ちる。だが、1番がフォローに入った。
はっとした。
俺はいつの間にか守りに入っていたのかも知れない。
綾隆に作戦を考えて貰って、その通りに動けば良いと考えていた。
違うだろう。
俺がこのチームの主将であり、支えなければならない。
烏野は全員の攻撃姿勢が大事だ。
守りに入っていては駄目だ。
「チャンスボール!」
影山にパスし、一斉に走り出す。
バックアタックは正直苦手だ。
だが、そんなことは言ってられない。
俺が烏野の主将として挑戦することから逃げることは許されない。
「ふっ…!!」
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
俺にセットされたトスを全力で打つ!
相手の1番の腕に当たるが、後方へ飛んで行った。
1番は俺が打つと思っていなかったのか、驚きこちらを振り返った。
そして、少し笑っていた。
「「「しゃああああ!!」」」
『最強の挑戦者稲荷崎に対し、未知の古豪が第一セットを搔っ攫った!これは波乱の幕開けです!』
稲荷崎から一セットを取った。
それだけで皆のテンションが上がりハイタッチをする。
▽▽▽
「烏野の相手は宮ツインズか」
「おっでも一セット先取してんじゃん」
まじかよ、まじありえねぇし…
途中からしか見てないけど、綾隆出てないのに稲荷崎から一セット取りやがったし…
「おい、研磨…これはちとヤバいんじゃないか?」
「なんで?」
「いや…あぁそう言えば、綾隆のプレー見たことなかったよね、研磨は」
「まぁね、クロがそんなに言うからちょっとだけ、楽しみになってきたよね」
「おぉ~研磨がやる気を出してる!」
「まあまあ、席に座りましょうよ」
俺達は冷えないようにジャージを着て、空いている観客席3列分を占領した。
全く、嫌になっちゃうよ。
これで綾隆が出てきたら…どんなラスボスになるだろうか。
▽▽▽
「うぃ!お前ら、よくやった!」
謎テンションのコーチが選手を迎え入れる。
「すんません!!」田中先輩が急に声を大にして言った。「俺…役に立たなかった…最後の最後まで決められなかった!」
月島を多めに使えと指示を出した結果、田中先輩にトスが上がる本数が減った。
稲荷崎からすれば、今まで多めに上がっていた元気の塊のような奴が急に静かになる。
その結果、月島からの攻撃といつ来るか分からない田中先輩を警戒するようになる。
そこへ、東峰さんではなく、あえての主将のスパイクにより稲荷崎は完全に不意を突かれただろう。
だが、田中先輩からすれば、不満が溜まっていくのは当然のことだ。
「いや、田中を警戒してブロックを完全に振れたから、最後俺が決められたんだ」
主将が言った。
「俺、最後…助走に入るのが怖いと思ったんだ…チクショウ」
田中先輩は頭を下げたまま、こう続ける。
「あやぽん…!俺と替わって欲しい………」
「……」
「作戦でお前が出るのを減らしてるのは分かってる。でも、チームの足を引っ張ってまでいるのは…俺が嫌だ!」
田中先輩らしい発言。
男気が溢れ、チームには迷惑を掛けたくない。
その言葉を待ってました。
「……分かりました。オレが出ます。ですが、田中…『先輩』。烏野には田中先輩の攻撃が必要不可欠です。いつでも、出られる準備はしておいてください」
オレは先輩を強調して言った。
「…良いのか田中?」
「はい!」
頭を上げて返事をする。
「そうか、ま、綾隆の言う通り、田中の攻撃は必要だ。いつでも出られるようにはしておけ」
「はい」
「おっし!それじゃ、ストレートで勝って気持ちよく先に進もうや!」
「「「「「おおおおお」」」」」」
作戦を練る時間が無くなってしまったため、コーチがそれだけ言う。
コートに入っていくと、やけに視線を感じる…やり難い。
【壁は乗り越えるもの!】
第二セット
大平 北 宮治
宮侑 銀島 宮侑
ーーーネットーーー
綾隆 影山 月島
西谷 澤村 東峰
『さあ!第二セットが始まります。一セット目はまさかの展開!このまま烏野高校が2セット目も掻っ攫うのか、それとも稲荷崎高校が阻止するのか!』
『烏野高校、一年生清田綾隆を投入。一セット目序盤はかなり活躍していただけに、二セット目どのようなプレーをされるのか非常に楽しみです』
「旭、1本ナイッサー!!」
「東峰ーーナイッサー1本!」
東峰さんのサーブから始まる。
『ピーーー!』
笛の音と共に、サーブトスを上げる。
『ズッパァン!』
治の横、コート端ギリギリに突き刺さる。
「しゃああああああ」
今まで、励まされてきた西谷先輩が狙われ、一番悩んでいたのは東峰さんなのかも知れない。
その溜まっていた鬱憤を乗せたかのようなサーブ。
東峰さんはガッツポーズを作りながら、快哉を叫んだ。
「東峰さん、ナイスサーブです」
オレはそう言ってボールを渡す。
少し不意を突かれたのか、目を丸くした。ボールを受け取り、ニッと笑いエンドラインまで下がっていく。
『いきなり強烈なサーブ!二セット目、早くも流れは烏野か!』
1-0
また同じ所にサーブを打つ。
今度は乱れながらも上げてみせた治。
だが、セッターは侑である。ボール下へサッと移動し、速攻へ繋げてくる。
角名の対面に月島が立つ。
だが、抜かれた。
『スパァン!』
烏野でボールの弾む音が響く。
全国は色んな奴がいて面白いところだ。
「ナイスキーや」
「どうも」
稲荷崎もまだまだこれからと気合が入っている。
1-1
そして…侑のサーブだ。
狙われるのはやはり西谷先輩だ。物好きと言えばその通りだろう。
誰がわざわざ点の取りにくいリベロを狙うだろうか。
だが…作戦としては、妙案だろうな。
エンドラインから四歩下がり、振り返る。
笛が鳴り、腕を上げグッと拳を握る。稲荷崎の応援団がそれで静寂となった。
狙われていると分かっている西谷先輩は構える。
放たれたサーブは、ゆっくりとコートを出て行く。
「「アウト!!」」
オレもそう思った。
だが、カーブを描きコートに入った。
『タンッタッタッ』
ボールが弾んでいく。
「いぇえええええ!!」
「「「「ナイスキー!!」」」」
稲荷崎が騒がしくなる。応援団もより大きな音を出すようになった。
『もはや何本目なのか!ビッグサーバー宮侑!!初っ端からまたもサービスエース!』
「ドンマイ!今のは仕方ない!」
主将が西谷先輩を励ますが、西谷先輩の表情は良くない。
1-2
続く侑のサーブはネットにかかり、烏野コートに入ってくる。
反応が遅れた西谷先輩がなんとか上げる。
「影山ぁ!」
バックアタックから東峰先輩。
『ズッパァン!』
「しゃあああああ」
「ナイスキー旭!」
「旭さん、ナイスキー!」
「あざーっす!」
それを見た西谷先輩は少し笑みが浮かぶ。
まさにチームを背中で引っ張るエース。頼もしいが、これを常に継続してもらいたいものだ。
2-2
ローテが回り、月島がサーブで、日向が前衛に上がってくる。
「おっしゃああ」
元気な日向はようやく出番がきたと目を輝かせてでてきた。
月島のサーブは相手のチャンスボールとなり、稲荷崎に攻撃の幅を増やした。
「日向、コミット」
オレは、稲荷崎がレセプション(サーブをレシーブすること。※サーブレシーブ以外のレシーブをディグ)した直後に日向に指示を出す。
「おう!」
日向はすぐに治に向かって走り、来るか分からないがブロックを跳んだ。
稲荷崎の超速攻は、早いだけが厄介ではない。
オポジットにいるやつが超速攻を使うことが面倒だ。通常、速攻を多用するのはMBだ。
だが、稲荷崎はWSが超速攻をするためにMBが空く。
超速攻をコミットで潰し、あとの攻撃をオレと影山で対応するしかない。
角名の速攻…やはり来るか。
オレはブロックを跳ぶ。
だが、角名は態勢を変えオレを掻い潜る。相変わらず…良い見本だ。
主将の腕を弾き後方へ飛んでいく。
「「「ナイス!角名!!」」」
「君もブロック上手いよ」
角名はそう言って戻って行く。
稲荷崎の応援は更に上がって行く。
2-3
銀島のサーブを主将が上げる。
日向がクロスに走るブロード。
オレは助走に入るセカンドテンポ。
『ドォン!』
跳ぶ。
ブロックは一枚でがら空きだ。日向の囮は効果抜群だ。
『ズッパァァアン!』
稲荷崎コートのリベロ横に突き刺さった。
「「「「ナァイッスキーーーー!!!」」」」
『レフトから清田綾隆ーー!!会場を黙らせる一撃ーーっ!』
『いやぁー高校生とは思えない…』
3-3
▽▽▽
「うっわ…まじか」
「これは予想以上だね」
おいおい…隠してたのにもほどがあるだろ…
高っ…威力やばっ。
「練習試合で受けてたら対策は出来たのに…」
「うっへーーやべーな綾隆」
「やっくんはそう言えば、綾隆とはよく話してたよね?知らなかったの?」
「全然。綾隆はあまり自分のことを喋らねえからな」
「あまりじゃないよね。全くだよ」
「さっさ、どう対応するか考えないと…」
「まだ、烏野が勝つか分かんないよ」
「……だな」
俺としたことが、少しばかし視野が狭くなっていたようだ。
▽▽▽
『ここで回ってきました。烏野のビッグサーバー清田綾隆』
「一本ナイッサー!!」
「ナイッサー!」
サーブトスを高く上げ、高く跳んだ。
インパクトと同時に腕を止める。
威力はそこそこだが、稲荷崎コートのネット際に落ちる。
身構えたレシーバーは飛び込み上げる。が、烏野コートに返ってくる。
ファーストタッチは影山。日向が飛ぶが…
オレも着地したと同時に走り再び跳ぶ。
そこへ影山がオレに上げるファーストテンポ。
『ズッパァァン』
『またも決まったーー!読んでいたかのような動き!』
「お、おれの役目…」
「ナイスキー綾隆」
「どうもです」
「もう一本行ったレ」
「はい」
4-3
もう一度高く上げ高く跳んだ。今度は全力で打つ。
『バッヂィン!』
リベロが上げる。セッターの位置には返っていないが、侑が駆け寄りそのまま治へ。
治はブロックアウトによりコート外へ大きく飛ばし、点を掻っ攫った。
4-4
角名のサーブを上げ、一斉に走り出す。
紛れた日向に上がり決めた。
「よっしゃああああ」
「ナイスキーー日向」
5-4
日向がサーブになり、前衛に上がって来た月島。
相手は心底嫌そうな顔をしている。
だが、月島にとってはそう思って貰えることが良かったのか、薄ら笑いが浮かんでいる。
人から嫌われることがそんなにも嬉しいものなのか…月島はよくオレや日向影山を変人と言うが、月島も立派な変人だ。
考えていることを読まれたのか、前衛にいる月島に振り向かれ睨まれた。オレは自然に後ろを向く。
あっ、カメラがこちらを見てる。
陽キャならピースをするところだろう。
だが、未だにオレは陰キャの鑑であるため、カクカクと前を見る。
そんなことを考えている場合では無かったな…
オレは試合に集中し直す。
「ワンチ!」
月島のブロック。
熟練感が出て来たな…日向のヘボサーブも月島のブロックのおかげでブレイクしやすい。
一斉に走り出すファーストテンポのシンクロ攻撃。
東峰さんが打つ。
「うぐっ」
乱れながらも繋ぐ。
治が上げ侑へ。双子の補完…これは面倒だな。
「ナイスブロックアウト!!」
「ナイスキーや」
『宮侑が決めました!』
『双子の連携が凄いです!』
5-5
北によるサーブはジャンフロ。
オレにきたためオーバーで摑まえる。
「ナイスレシーブ!!」
『ドォン!』
オレは跳ぶ。
三枚のブロックがついてくるが、関係ない。
『ズッパァァアン!』
「「「「ナイスキー!」」」」
『流れを全て持っていくようなスパイク!!清田綾隆!まさに「怪物」』
おい、変な渾名が生まれようとしているではないか…
6-5
その後も点を取っては取られを繰り返す。
7-7
ここで侑のサーブが回って来た。
『さあここでビッグサーバー宮侑!!』
四歩下がり、こちらを向く。
笛が鳴ると、右手を上げグッと拳を握り静寂へと変えた。
その異様な雰囲気の様変わりに、空気を完全に稲荷崎に持っていかれている気さえする。
だが、西谷先輩は真剣に侑を見つめている。
侑のサーブはネットにかかり烏野コートに落ちる。
西谷先輩が半歩遅れて飛び込み上げた。
普段の西谷先輩ならもっと早くに動けている気がするが。
『ドォン!』
オレに上がったボールをブロックを避け叩き下ろす。
『パヂィン!』
「おっ…」
「ナイスレシーブ!!」
北がオレのスパイクを上げた。
空いたコースに来ると読まれたか。
やはり、この人がコートに存在するだけで、一セット目の序盤の稲荷崎とは全く異なるな。
角名の速攻。オレも月島と同じ様に跳ぶ。
『スっパァン!』
またも決められた。
二セット目に入って以降、角名の速攻が多く使われることになってきた。そろそろだろう。
『ブッ、ブレーーーイク!!!ここで逆転!!』
7-8
『ピーーー!』
烏野が一回目のタイムアウトを取る。
ベンチに座り、すぐに西谷先輩が喋り出す。
「俺、超ガキの頃、すげぇビビりだったんすよ」
全く想像つかないな。皆も同じ気持ちだったのか固まる。だが、西谷先輩は続ける。
「あんま覚えてねぇけど、小学校上がるくらいまでかなー、虫がこわい、犬がこわい、トリがこわい、おばけがこわい、三輪車がこわい」
「えっと…前世とかの話?」
東峰さんが突っ込むが、「ガキのころつってんじゃないすか!」と西谷先輩は言う。
「ウチはじいちゃんがリアル獅子の子落とし野郎なんで大体克服しましたけど」
なるほど、幼少期は確かにオレも恐怖を感じたものだ。
「蛾と生のタマネギは今もキライだけど」と付け加える。覚えておこう…
「宮侑のサーブの時、脚が床に張り付いて、なんか懐かしい気がしたんす」
顔を上げて堂々と言う。
「こわいって思う事が」
それを正直に言えることは感心する。
皆は「こわいが懐かしい」と言うワードに首を傾げる。
「でもじいちゃんが言ったんすよ。こわがることの何が悪いか…もったいねぇからさって」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
タイムアウト終了。
コートに出て行く。
『さあタイムアウトが終了しても絶望的なサーブはまだ続きます!これ以上離されたくない烏野高校、宮侑のサーブを切れるのか!』
『ピーーー!』
西谷先輩が駄目だと判断していれば、オレが取っていた。
だが、そうしなかったのは、西谷先輩はオレにはない考え方を持っているからだ。
オレが怖いと思わなくなったのは、圧倒できる術を持ったからだ。
そして、オレ以外の誰かが傷つこうとオレには関係ないため、恐怖することがなくなっていった。
だが、西谷先輩はこわいということを楽しいと捉えている。
それは過去にそういう経験を積んでいるからだ。
だから、こわいと理解した今、西谷先輩にとって超えたい壁。
それを態々、オレが潰すわけにはいかない。
「西谷ー!まえー!」
西谷先輩は前に出て、オーバーで摑まえた。
綺麗に影山の頭上に上がった。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
オレがレフトから『ドォン!』と高く跳ぶ。日向は真ん中から、マイナステンポ。
振り分けられたブロック。
あざ笑うかのように、東峰さんにセットされたトス。
ノーブロックで東峰さんは打ち、『ズっパァン!』と相手コートに轟かせた。
「「「「ナイッスキーーーー!!!」」」」
「しゃああああああ」
「「オァーーーイ!!」」
西谷先輩と東峰さんは腹でハイタッチをする。その腹でする意味は分からないが、余程嬉しかったんだろう。こちらまで深々と伝わってくる。
西谷先輩はベンチの方を向き、木下さんに向けて指を指す。
そして、ガッツポーズ。
木下さんも伝わったのか、ガッツポーズを取った。
過去の経験が大切なことはオレも良く理解している。
過程を楽しむことで壁を越えられるかもしれないということか…これはまた、新たな発見だ。
8-8
▽▽▽
「ふぅ~さすがは西谷だな…」
コーチが安堵しつつ言った。
「まあ西谷ですから」
「あとは…」
ベンチを見てコーチは言う。
「田中も大丈夫ですよ」
私はマネとして皆のことはよく観察している。おバカ二人…三人はこの程度の壁で挫けたりしない。
「そうだな…こっからこっから」
▽▽▽
影山のサーブ。
稲荷崎コート、北のコートの端に落ちた。
『ノォ、タッチエェーース!!こちらも強烈なサーブ!!』
「あれは…穏や影山」
また日向がよく分からないことを言ったのでオレは聞く。
「何言ってるんだ?」
「その名の通り、穏やかな影山。目瞑らない速攻が成功した時とか、月島の打点を引き上げた時と同じ感じです。なんか色々キレキレな状態を言います。ただし穏やかな顔というだけで凶暴性は変わりはないので注意が必要である。強者を前にしたときに発動することが多い」
途中から説明書みたいになっていた。
「まあ、調子が非常に良いということか」
「そう言う事ですっ」
9-8
『シュルル』
と手の上でボールを回転せ止める。影山のルーティーンのようだ。
影山はもう一度同じコースへ打った。
「信介っ!」
『バァン!』
『強烈なサーブを主将北、きれいに上げた!宮あつむは誰を使うか…』
侑から角名へ。
オレと日向でブロックを跳ぶ。
それを嘲笑うかのように角名は避けスパイクを打つ。
『バァン!』
後ろで守っている西谷先輩が綺麗に上げた。
月島が試合前日に言っていたこと。
角名のスパイクは止めに行くと躱されやすくなる。
なら、普通にブロックを跳んで、レシーブに慣れてもらう。
一点を考えるのではなく、総合的に多く上げることを選んだ。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
トスは東峰さんへ。
『バァン!』
だが、稲荷崎も簡単には決めさせてくれない。
北がまたも上げる。
「ナイッスレシーーブ!!」
『両校、高レベルなレシーブ!』
治が入ってくる。
超速攻か…日向がコミットで跳ぶ。
『バヂィン!』
ブロックに当て後方へ飛んで行った。
「ドンマイ!日向」
「ウイッスゥ…」
▽▽▽
バレーボールは全て繋がっている。
耳にタコができるくらい聞いたな。
あのメガネから化け物…意図的に、ずっとクロスだけ塞いできたのか?
「毎回気持ちよく打たせてくれてありがとう」
「気持ちよく打てなかったら、すぐ心折れるだろ?」
この無表情が…序盤、心折に来たやつはどいつだよ…
意図的か…
こいつら…自己主張薄すぎんか…?
▽▽▽
9-9
『ピーーー!』
『稲荷崎高校、ここでメンバーを入れ替えます。1番北信介に替わり、4番エース尾白アランが入ります』
「またいかんようになったら俺が出るで気楽に行きや。けど…侑は俺よりアランが出た方が良いやろな。アランが出た方が楽しそうに上げんねん」
アランと替わるときに、そう言うた。
「あ、ああ」
まだ怖いようやけど、俺じゃこの雰囲気を変えることは出来んからな。
▽▽▽
北は確かに後衛でこそ実力は発揮するのだろう。
だから前衛に来たタイミングで交代するのは理解できる。
だが、もう戻って来たのか。
銀島 宮侑 大平
角名 宮治 尾白
ーーーーーーーー
澤村 日向 綾隆
東峰 西谷 影山
銀島のサーブを綺麗に上げた西谷先輩。
[寄越せ]
オレは影山だけでなく皆に伝わる様に圧を出す。
影山はオレに山なりのトスを送る。
ブロックは三枚、クロスにはアランがいる。
『バッヂィィン!!』
オレはクロス側、アランがいる方を狙って全力で打つ。
ブロックの手を弾き飛ばし、ボールはコートを出て行く。
出て来たのなら追い出すまで。
『これは強ーーッ烈!!レフトから清田綾隆!』
「ナイスキー!」
「綾隆!次一本ナイッサー!!」
『ピーーー!』
『ここで稲荷崎高校タイムアウトを取った』
10-9
▽▽▽
「あんま気にすんなや」
北がアランに声を掛ける。
「…」
だが、若干恐怖を味わったアランの表情は暗い。
「アラン、一人で勝とうとせんでええ、誰もあんなバケモンに一人で勝とうと思とらん。
いつも通りに、跳んで打てばええんや。
レシーブは繋げば、侑が上げる」
「あ、当たり前ですよ!任しといてください!!」
北の言葉に反応した宮侑は、慌てて応える。
「ああ、そやな…」
まだ吹っ切れてはないが、深呼吸し心を落ち着かせた。
「なるほどね…」研磨が言った。
烏野と稲荷崎の試合を観客席で眺めていた音駒高校。
一セット目は見ていなかったので、今がどういう状況なのか呑み込めていなかった。
そこへ研磨が理解したように言ったため、皆が研磨に注目した。
「何が??」
「なんでエースが全く出てこないんだろうと思っていたんだけど…多分一セット目のどこかで綾隆に集中狙いされたんだろうね。
それで、調子を崩して主将が出ていたんだと思う」
「それで、漸く出て来たと思ったら、また狙われてタイムを取ったのか…」
黒尾も理解し、言った。
「ようしゃねぇ~」夜久が言った。
「烏野も力づくだけじゃないってことか…」
「でもあれは力づくだよね??」
「ん~~確かに…」
音駒も以前の烏野とは少し違うと理解し始めたようだ。
「なぁ~~んか、雰囲気違うよね?多重人格??」
タブレットで試合を見ている二人は白鳥沢学園の三年と一年。
「はい、何か違います」
「うぅ~俺らもこんなやつと試合してたんだね~ヤダね~~」
「来年は絶対勝ちますよ!!」
「うん、頑張ってね~」
他人事のように妖怪天童は言った。
「ちょっと可哀想だね…」
「うん…でも、これはルール的にはありだし、戦略としても何も間違っていない…寧ろ、勝つためなら俺達だってする。
でも、なんでだろ、16番がすると反則に思うのは」
「だね~」
優カップルも稲荷崎に同情していた。
▽▽▽
『烏野高校、逆転し更に勢いに乗ります。そしてここで、清田綾隆のサーブがやって参りました』
『ピーーー!』
何度もイメージでシミュレーションをする。
軽く上げ軽く跳ぶ。
打つ寸前に力強く押す。
まだ少々甘いか…
「ぐっ…!?」
それでもレシーブを乱し、アンダーで返ってくる。
侑が影山に送った。
それならオレだ。
オレはセッターの位置に入る。日向がマイナステンポで入ってくる。
マイナステンポに合わせてブロックは二枚ついて来た。
レフトに上げればいい。
セカンドテンポで東峰さんへ上げる。
ブロック一枚で東峰さんが決めた。
「しゃあああ」
「ナイス!旭!」
「旭さんナイスキー!!」
「あざーーーっす!!」
西谷先輩に敬語で礼を言う東峰さん。先輩はどっちだか…
11-9
▽▽▽
「あああ!来ると思ったのに…!?」
宮侑が悔しそうに叫ぶ。
白鳥沢のときに、一回だけ綾隆から日向へ超速攻が使われていたのを見ていたからだ。
だから、今回はそれを待っていた稲荷崎だったが、それを利用されてしまった。
「読まれとったな…」宮治が言った。
「こっからやで!」銀島はいつも熱い。
「治、下がってサーブレシーブ参加せぇ」
落ち着きのない侑は治に命令する。
「あ?なんで上から言われやなあかんねん。サーブ真似されたからってキレんなや」
「はあ!?まだ俺の方が凄いわ、ぼけぇ!もうあいつに取らすなや!」
図星を突かれた侑は、更に取り乱した。
「はぁ…しゃあないなあ」
▽▽▽
「あいつ、ほんっと真似するのうめえよな…」
「そうですね、分析が得意だからですかね」
「綾隆くんは本当に…敵なら最悪の相手ですね…」
武田先生が言った。確かにその通りだと思う。
私なら諦めているだろう。
「い~や、先生…それはどうかな」
「え?」
「ほら、稲荷崎の選手の顔を見てみろよ」
「ん?…な、なるほど…」
皆、諦めるどころか目がギラギラ輝いている。
強ければ強いほど燃える、という事だろうか…
これがバケモン達ってことだろうね…そして、それらを歓迎する綾隆は化け物の王様のようだ。
▽▽▽
綾隆のサーブはまだ続く。
『ピーーー!』
綾隆は高く跳ぶ。
今度は左によるサーブ。
牛若のような回転がかかったサーブが稲荷崎を襲う。
リベロ赤木が真正面に移動し上げる。
絶対離されへん!という強い意志を感じる。
「ナイッスレシーブ!!」
多少乱れたものの、宮侑がいるため誤差の範囲。
高い山なりのトス。尾白が高く跳ぶ。
『バヂィン!』
後方へ飛んだボールをオレが拾う。
そこからマイナステンポで日向が打つ。
だが、それも今度は治がブロック。
烏野コートに叩き落とされる。…寸前、西谷が手の甲でギリギリで上げた。
「「「うおおおおおお」」」
「「繋いだーーー!」」
観客席からの歓声が沸き起こる。
そして、再び日向へ超速攻。
稲荷崎も日向にはコミットで対応する作戦らしい。
だが、日向は嘲笑うかのように躱した。
『ストン!』
胸にストンと落ちるように、稲荷崎コートでボールが落ちた。
絶対に取りたかった点だろう。それだけにこの一点は痛い。
12-9
『今度は日向翔陽が決めたーー!一気に引き離す!!』
綾隆はもう一度、エンドラインまで戻る。
そこから相手を煽るように、四歩下がる。
綾隆は振り返る。
そして気付く。顔だけで相手を殺せそうな表情をした宮侑に睨まれていることを。
もう二度とやらないでおこう、と綾隆は心にそう誓い、軽く上げて軽く跳ぶ。
強めに押した。
治が取るがセッターには返っていない。
ボールは低く人の腰付近くらいの高さだ。
そこへ宮侑は駆け寄っていき、オーバーで大耳へ速攻。
『スッパァン!』
12-10
「「「「しゃあああああ」」」」」
稲荷崎から歓喜の咆哮。
『パチパチパチパチ』
宮侑のセットアップに烏野コーチ、烏養は拍手を送る。
今の素晴らしいセットアップを見せられれば、敵に称賛を送るのもやぶさかではない。
「ほんとよくあの体勢から上げるよねえ」角名が言った。そしてこう付け加える「アンダーで良いじゃんあれは…」
誰でもアンダーで上げるだろう。影山だってそうする。
その角名の意見に宮侑は、こう応える。
「セッターはセットするんが仕事やで?適切な位置にボールをセッティングするんや」
「で?」と角名は続きを求める。それだけでは、アンダーでも良いはずだからだ。
「アンダーは腕2本、オーバーは指10本。よりいっぱいのもんで支えたんねん。セッターやもん」
笑顔で楽しそうに愉快に言った。
誰もが認めるセッターの鑑。
ネットの向こうで「俺も、ここに来れて良かった」と影山も刺激を受けたようだ。
「自由人で勝ち気、高圧的」
ネットの向こうで呟きが聞こえ、稲荷崎はネットの向こうを見る。
「それでも…スパイカーに対して誰よりも真摯で献身的。なるほど…」
化け物は見定める。そして言う。
「初めて興味が湧いた」
化け物は言った。興味が湧いた、と…。
奮い立つ稲荷崎は獰猛な笑みを見せる。
それはこれからの試合が点の取り合いになる始まりのようであった。
▽▽▽
「腹減ってくるな、サム!」
「せやなツム」
双子はやる気満々や。いや…双子だけやない。ここにいる6人、ベンチの皆も先生、監督、やる気が漲ってる。
俺は…俺はなんで早よ終われと思うとんの…?
いや理由は…分かっとる。
怖いと思ったからや。
圧倒的な高さから狙われるスパイク。
圧倒的なパワー。
打っても決まらんレシーブ。
壁の向こうが手しか見えないブロック。
打っても決まらん。
ネットの向こう側が見えやんかった…やから、もう…打ちたくなかった…
でも…なんで皆、楽しそうにするんや…そんなん見とったら俺も打ちたくなる。
「またいかんようになったら俺が出るで気楽に行きや。けど…侑は俺よりアランが出た方が良いやろな。アランが出た方が楽しそうに上げんねん」
北がそう言うなら…と出たくなった。打ちたくなった。
「アラン君!!」侑が俺を呼んだ。「俺が打たしたる!!」
胸張って、ようそんなこと言えるな…しかも俺先輩やで。
「なに偉そうなこと言うとんねん、あほか」
「あほってなんや!失礼な!!」
「あははは、頼んだで双子」
「「はい!!」」
なんや、ちょっと勇気出たわ。
12-10でまだまだ試合は分からん。
角名がサーブを打って、向こうの16番のスパイク。
身体が硬直しそうになる。けど、自分だけ諦めるわけにはいかん。
クロスを締めて三枚で跳ぶ。
『バッヂィィィン!!』
いっ…手がジンジンする。アドレナリンが全く出てないような気さえしてくる。
後方へ吹き飛ばされたボールは銀がギリギリで上げた。
「繋げ繋げ!」
「アラン!」
赤木が俺に二段トス(味方のパスが乱れたときに後方やコート外から高くゆるく上げることが基本)を上げた。
三枚ついてくる。
でもこのチッコイ10番狙えば!
俺は10番の上から叩き下ろす!
『バァン!』
なんでやねん…16番によるディグ。なんでそこに来ると分かるんや…
3番エースのスパイクに俺らは三枚ブロックで跳ぶ。
「ワンチ!」
ブロックにより威力を抑えたため、チャンスボールになった。
侑が俺に上げるって、雰囲気で言うとる。来る、またや。
「俺が打たしたる!」えらい懐かしい言葉や。
「アラン、一人で勝とうとせんでええ、誰もあんなバケモンに一人で勝とうと思とらん」
北が言ったことやったな。
あいつは本当に機械みたいや。
いつも通りやるって、それは最も難しいことや。
でも支えてくれる仲間が居て、俺を気持ちよく打たしてくれる奴がおる。
もう一度打ちたいと強く思った。
高く跳ぶ。
良いトスや。
ブロックも良く見えるし、向こう側がよく見える。
16番の位置も見えた。
誰がお前んとこ打つかい。
クロスへ。
全力で打つ。
『ズッパァァアン!!』
北…俺はやっぱりいつも通りなんて無理や。
いつだって俺は全力で気持ちよく打つんやで。
「しゃあああああああ」
「「「ナイスキーーー!」」」
【過程と結果】
12-11
▽▽▽
復活されてしまったか。
それに面倒な相手が勢いづいてしまったな…
角名がサーブを打つ。
ファーストテンポのシンクロ攻撃で取り返す。
尾白が調子を取り戻し、稲荷崎に流れが向きそうでも、北が居なくなって守備は少しばかし甘くなった。
13-11
日向のチャンスボールサーブにより相手の選択肢が絞りづらい。
だが…
『攻撃は大耳の速攻!っしかし、烏野の壁、月島阻むー!』
月島がしっかりとブロックの仕事を熟す。
が、ボールはそのまま返っていく。
「もっかいもっかい」
「治!!」
侑が入ってくる。
『これは宮侑、ファーストタッチを直接セットしたー!宮治も…待っている!!』
だが、これは月島も読んでいたのか宮治にブロックを跳ぶ。
しかし、治はスパイクからトスへ切り替える。ボールの行方はアランへ。
『宮治、自分にセットされたボールを再びセット⁉完全にフラれた烏野ブロック。そこへ後ろから尾白アラーーン!』
試合序盤でもあったプレーだが、今回は序盤とは異なる。
誰も邪魔しないセットなため、誰が来るか絞れなかった。
主将がストレートを完全に締めているとはいえ、殆どフリーで打つようなもの。
アランは容赦なく打ち下ろす。
そこへ、静かに待ち構えているオレンジ頭、日向。
偶然…とは違う。
凝縮された思考による状況判断で日向はそこを護った。
そして、威力を殺し後ろへ倒れる。
回転も緩く、影山の頭上に綺麗に上がった。
日向を知っている者なら誰もが驚いただろう。
目を見開き驚愕しているものもいる程だった。
オレも影山も月島だってそうだ。
だから思わず、こう零す。
「「「ナイスレシーブ」」」
『リベロ不在ながら強烈な攻撃を完璧に上げてみせたMB日向翔陽ーッ!』
『うわっはっはは!ナイスレシーブ!』
アラン復活による稲荷崎に傾いた流れ。それをひっくり返す日向のレシーブ。
この一本を制した方が勝利へと近付く。
稲荷崎は。
「死守や!!!」
烏野は。
「カウンタアア」
影山から東峰さんへセットアップ。
それを侑が取る。
「フォローーー!」
双子の補完、治がセットする。レフト、銀島へ。
三枚のブロックがつくが、ブロックに当て後方へ飛ばした。
だが、それも読んだように、後方へ下がっていた日向がジャンプして上げる。
「か、げ、や、まああああ!!!」
日向が後ろから猛ダッシュでスパイクを打とうとする。
『日向翔陽が繋いで…⁉しかもあんな後方から攻撃に入ろうとしているー⁉』
稲荷崎は日向に注意が向く。
『ドォン!』
そこへオレは高く跳ぶ、ファーストテンポのバックアタック。
だが、それも囮で東峰さんへセットされる。
ノーブロックで打つ。
銀島の腕に当たり後方へ飛んで行った。
だが、リベロが走り足で上げる。
侑が最後にアンダーで返した。
全員助走を取るため、後ろに下がる。
『パサッ…タンッタン』
だが…ギリギリネットにかかり烏野コートに落ちる。
13-12
『互いに素晴らしいラリーでしたが。勝利の女神は稲荷崎に向いたのか…!!』
稲荷崎からは大歓声が、烏野には苦渋の表情が。
これは少し不味い流れだな。
『ピーーー!』
『ここで烏野高校、2回目のタイムアウト』
皆は静かだ。
それほど、先の点が痛いのだろう。
「見たかよ⁉さっきのおれのレシーブ!!」
日向は影山にそう言う。余程褒めて欲しいのだろうな…オレに来ていたら蹴り飛ばしていただろう。ムカつく顔をしているからな。
「…………見てない」影山は嘘を吐いた。
その顔は写真を取りたい思うほどに滑稽だ。
「ウッッッソつけ!!??ナイスレシーブって言ったの聞いてっからな」
どうやら、影山の賛辞は聞こえていたようだ。
オレのは…聞こえていなかったはずだ。オレは何も言っていないからな。聞こえるはずが無い。
何か言ってきたら、病院を進めよう。
日向はコートを指差し、笑顔で言う。
「じゃあ、次取るやつ見てろ!」
日向の言葉は、太陽のように明るく、皆から笑いを引き出した。
タイムアウトが終わりコートへ出て行く。
熱…そう感じるほど、皆の集中力が上がった気がした。
先の点で完全に稲荷崎に流れを持っていかれると思ったが、その心配は杞憂だったようだ。
『ここで宮治のサーブが回ってきました。烏野高校、ここを防げるか!』
『ピーーー!』
笛が鳴り、きっかり8秒かけてサーブを打ってくる。
オレは真正面に移動し、上げる。
「「「「ナイッスレシーーブ!!」」」」
『ドォン!』
三枚ブロックの上から打ち下ろす。
『ズッパァァァアアン!』
『稲荷崎コートで轟音が鳴り響く!!すさまじい威力!近付かれたら離すまで。烏野高校、リーサルウェポンの一撃!』
烏野も稲荷崎も今が最も乗っているように感じる。
14-12
主将のサーブを上げ、アランへセットした。
クロスを締め、ストレートに西谷先輩。念のため、オレはクロスを護る。
西谷先輩がアランのスパイクを上げる。
ネットよりに上がったボールを影山が押し込む。
押し込まれたボールを侑が取った。取らせたわけだが、双子の補完がある。
そのまま侑は入ってくるが…マイナステンポの入り方…
『スッパァアン!』
烏野コートに突き刺さる。
そう何回も同じことはできないかもしれない。
だが、その脅威は変わらない。
『ナァーーイスキィーーあーつーむー!ナイスキー侑!飛べ飛べ侑!もう一本!!』
最早、人間が発しているのか疑問に思うほどの声援が会場を包んだ。
14-13
『ズッダァァアン!』
『カッ…会場を黙らせる清田綾隆!決して追いつかせない!』
15-13
尾白 宮治 赤木
大耳 宮侑 銀島
ーーーーーーーー
綾隆 影山 月島
西谷 澤村 東峰
東峰さんのサーブ。
『ピーーー!』
『ズッパァァン!』
東峰さんのサーブはアランとコート端の間に落ちる。
「しゃああああ」
「「「「ナイッスサーブッ!!!」」」」
『サーーービスエーーーーッス!!東峰旭!!』
「もう一本!!」
16-13
今度は、きっちり上げたアラン。
侑から大耳へ、速攻。
『バヂィン!』
オレと月島の二枚ブロック。
叩き落とせはしないものの、こちらへの侵入は許さず、相手スパイクを防ぐ。
2段トスで銀島へ。
だが、三枚揃えてブロックを跳ぶ。
『バヂィン』
同じように防ぐ。
稲荷崎は崩れながらも繋ぐ。
だが、一歩目が早い侑のセットアップ。
ブロック三枚を揃えられない速さで、治へセットした。
『ズッパァァン!』
16-14
大耳のサーブを上げ、月島の速攻。
「ワンタッチィィ!」
侑から治へマイナステンポの速攻。
「ワンチ!」
月島が阻む。
『ドォン!』
高く跳んでスパイクを打つ。
「ぐふッ…」
アランは身体でボールに突っ込み、コートに落ちるのを阻止する。
ボール下へ駆け寄り、侑は角名へ速攻。
月島がブロックを跳ぶも躱される。だが、そこへ主将が待ち構えている。
一つ一つラリーが長く、体力的にしんどい時間が続く。
どちらも一歩も引かない展開。
「カウンター!」
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
ボールは東峰さんへ。ブロックに当てコート横に飛んでいく。が、侑が繋ぐ。
治のセットアップ。侑への攻撃はない。
これは、角名へのCクイック。
オレと月島で跳ぶも、またも躱す。
そこへ主将が取る。
だが、乱れてオレがセットする。
ライトの影山へトスを送る。
影山はブロックを躱し、侑へ打つ。
侑から治へ。治から侑へ、マイナステンポの速攻。
「ワンチ!」
月島が阻む。
▽▽▽
綾隆の圧倒的なパワー、スピード、高さ。
技術ではなくごり押しのスパイク。慣れれば、敵は対応してくる。
なら、どうセットすれば良い?
どう打たせれば決まる。
いや…それは俺が決めることじゃない。
もっと、ギリギリ。
もっと、広く。
スパイカーに選択肢を。
▽▽▽
アンテナまで伸びる綺麗なトス。
打ちやすい。
クロス。
ストレート。
ブロックの隙間。
どれも狙いやすい。
角名と侑のブロックの隙間を抜く。
『ズッパァァアン!!』
上手いセッターはスパイカーに錯覚まで起こす。
これが…そう言うことか。
「「「ナイッスッキーー!!」」」
『怒涛のラリーを終わらせた清田綾隆!!』
『見事に分散されたブロックの隙間を打ってきましたね!』
▽▽▽
影山のセットアップを見た宮侑は、不可思議な事実を突きつけられていた。
(こいつの…こいつのオリコウサンはどこへ行った。この短期間に何があった)
そして、もう一人今日の試合を見に来てはいないが、携帯で見ていた大王様、及川は…イヤホンを取り、「ハンッハァーーン!!」と叫びながら走り出した。
勿論周りの人達には訝し気な目で見られていた。
だが、及川はその後も何をとち狂ったのかは知らないが「ハッハンハーーーーン!」と続けた。
▽▽▽
17-14
18-14
19-14
20-14
『烏野の連続得点が続いたーーッ!一気に点差を離す。稲荷崎、厳しいか!』
ちっ…
烏野の3番のサーブも何本目や…あの16番に何本決められとんねん。
9番10番にどれだけ振り回されたんや。
いちいち一年坊主共にテンション上げよって…なぁにが高校No.1セッターじゃ。
俺に打たせぇや。
双子速攻、マイナステンポ…ああ!?
『スッパァン』
倫太郎が決めよったか…俺に上げろや、このポンコツ。
『宮兄弟の速攻は打数自体は、それほど多くないんですが、印象が強いので効果的に使われていますねえ』
▽▽▽
20-15
『ここで宮侑のサーブ!稲荷崎としてはここで追いつきたいところです』
高く上げて高く打つ。
が、ネットに当たり、そのまま烏野コートに落ちた。
『ナァイスサーーーーブ!!いぞいぞあつむ!押せ押せ侑!!もう一本!!』
どんな得点であれ、ここで連続得点を許すのは痛いな。
しかし、ここで烏野のミスもあり失点が続いた。
20-16
20-17
▽▽▽
うぅ~~じわじわと追いついて来たよ…
劇的なスパイクを決められたわけではないのに…この流れは良くない。
まだまだ初心者の私だけど、良くない雰囲気は分かる様になってきた。
『ズッッパァァアン!』
稲荷崎コートで轟く。
流れを強引に引き戻す一点…さすが、綾隆。
あんなの受けたら腕が捥げる…触らぬ神に祟りなしですよ…??
そのスパイクには触らないことをお勧めします。
綾隆の一点で烏野は調子を取り戻した。
21-17
22-17
一つ一つのラリーが長いけど、烏野が少し押しているよう見える。
東峰さんが、日向が、澤村さんが、月島君が、そして綾隆が全員が攻撃に入りブロックを振り分けていた。
そして、影山君がファーストタッチで綾隆へ。
そこから日向へ超速攻。
『スッパァン!』
『決まったーー!日向翔陽、走り込んで決めたー!』
『いや~ほんと綾隆くん何でも出来るんですね。マイナステンポですよ…今の』
23-17
前々から思ってたけど…やっぱり…カッ…カッコイイ。
いつもよりも輝いて見えた。
やっぱり…好きだなぁ。
でもなぁ…
ダメダメ!今は試合中なんだからダメだよ!
私は両頬を叩き、煩悩を振り払い試合に集中する。
▽▽▽
綾隆から日向への超速攻が決まり、音駒は…か~な~り、ビビっていた
「うおぉっ…マジかよ」夜久がそう言い、
「研磨、これは本格的にヤバいぞ」といつものように研磨に頼る黒尾。
「さっきからヤバいしか言ってなくない?」冷静に突っ込む研磨。
とまあこれが粘りの音駒の実態だ。
「仕方ないでしょうが!なんで、綾隆までもがチビちゃんにマイナステンポを使えるんだよ…」
「烏野は常に新しいからね。そう言うものだよ」
「えぇ~研磨が前向きなんですけど~熱でもあるんですか~?」
黒尾が嫌そうな顔をして言った。
「難しい話したからだろ」
「やっくん…今のどこに難しい要素があった?」
特に策が決まることなく、別の話に変わって行った。
これが、音駒である。粘りの…対応して適応する…音駒である。
「はっはっは、全く恐れ入るね~彼には…」
ユースの監督も驚いていた。
「終盤になっても彼はやってくれますね」
「うん~いいね~面白いね」
「まじかよ、全国こわっ」
「優くんが彼を止めるならどうする?」
「えぇっ…そ、それは………どうだろ…」
彼女に良いところを見せようとしたが、良い策が出てこなかった。
▽▽▽
セットも終盤になり、一つのラリーが精神的に負荷を与える1点に繋がる。
絶対にミスれないラリー。そのプレッシャーは計り知れないだろう。
だが、誰もミスしたくないという気持ちで臨んでいない。
自分に寄越せ、オレが決める。そんな圧が飛び交う。
全員が活き活きしているのが分かる。
良いものだ。
その楽しいという感情が人を更に上へと進めるのだろう。
過程が大切。
確かにその通りかもしれないな…
中盤から覚醒し始めた影山のサーブを上げる。
そこから、アランへセットされる。
三枚揃えて跳ぶ。
「ワンチ」
後方に飛ばされたボールを影山が拾う。
東峰さんからの二段トスでオレへ上がった。
「ワンタッチィ!」
銀島の咆哮が響く。後方へアランが走り上げ、侑が後方から治へセットされる。
「ワンチ」
再び阻む。今度はこちらのチャンスボール。
影山がセットポジションに着き、日向へトスを送るが合わなかった。
そのまま、コートに落ちた。
「バテ山か…」
失言。失言とは、うっかり言ってしまうことだ。
つまり、うっかりっしていた。
自然と口から言葉が出ていた。
気付いたときには時すでに遅し…強烈に睨んでくるバテ山、もとい影山。
「俺をバテ島と一緒にすんじゃねぇ」
「すまん…悪いと思って…ます」
ここはしっかりと謝っておかないと、こいつは全てのトスをオレにセットしてくるかも知れないからな。
「ぷっ」
小さく笑ったのは日向だ。オレが怒られているところが余程、嬉しかったのだろう。
ムカッときたのはいつぶりだろうか。
「あぎゃー!」
日向のおでこを片手で握り潰s…ん…?
23-18
銀島 宮侑 大耳
角名 宮治 尾白
ーーーーーーーー
澤村 日向 綾隆
東峰 月島 影山
『ピーーー!』
笛が鳴り、銀島がサーブを打つ。
「「オーライ!」」
西谷先輩と東峰さんが、若干お見合いをしてしまい、乱れる。
影山から主将へトスが上がるが、ブロックに阻まれる。
「しゃあああ」
西谷先輩がブロックフォローで拾う。
崩れながらも、影山がアンダーで日向へ速攻。
『そこから速攻使うか、烏野!しかし…稲荷崎、これを繋ぐ!』
『が、繋げるが』
リベロ赤木が上げるも、侑の腰程度の高さ。誰もがアンダーで上げると思ったが、侑は膝を曲げ、ブリッジの要領で腰を低くする。
そこから、角名へ速攻。
こっちも負けず嫌いだな…だが、打つ方もよく跳んでいたな…
『スッパァン!』
角名お得意のブロック躱しで決められた。
23-19
▽▽▽
「こんな終盤きてもいっっこも乱れんし、烏野がなに考えてるかわかってるみたいやわ。侑君のセット…天才ってやつか…同じポジションきっついわ」
「清田?影山のサーブもやばいやろアレ…俺も才能欲しいわ…」
後輩二人が後ろでそんなことを言うて、俺は清田くんを一度見てから言う。
「…いつやったか、聞かれたことあった。
自分はレギュラーでは無く、後輩に天才が居て辛いと思ったことはないですか?って。そもそも天才の定義がわからんけど聞かれとることは分かった。
侑たちのような奴について理由なく最初から優秀なんやと思うとる奴が居る。
俺が毎日1から10やっとるところを侑みたいな連中は1から20やっとんねん。あるいはより密度の高い10。ほんでたまに1から10やなくA~Zやってみたらどんなやろ?おもろいんちゃう?って考えたりする奴やねん」
俺は毎日同じことを繰り返しとるだけに過ぎん。
清田君もそれは同じやろ?
でも、なんで君がそうなれたんか不思議でしゃーないな。
俺は続ける。
「それで失敗しても、時に他人に嫌われても疎まれても正しくても正しくなくても俺らやったら、大事にするようなナニカを蔑ろにしても、やらずには居れん奴らやねん。
喉から血ぃ出ても走りたくてしゃあない奴らやねん。世の中には敵わんと思う人達はいっぱい居って、そういう相手を凄いなあと思うのは当然や。突っ走れることは才能やと思うし、あいつらを何て呼んだってええねん。天才は悪口やないしな。
けど、あいつらの事を最初から優秀なんやと思うことは、勝負するまでもなく負けとるちゅうことやし、失礼やと思うねん」
おっ、侑と治の速攻、また決めた。凄いな。
23-20
「悪気ないんは分かっとんねん。スマンな。ムキになった」
「や…この場合、悪気ない方がアカン奴なんで…」
「け、けど…やっぱりバケモンは居ると思います」
「せやな…俺も思う。
見てみぃ…烏野の16番。バレーを愛しとるわけやない。俺と同じように毎日を繰り返しとる人間や。やのに、あの異常さ…あれが本物のバケモンや。
16番に嬉々として挑む侑達。それを歓迎する16番とバケモン達。高揚するやろ。こんな試合、そうそう見れるもんやないで…俺はバケモン達の宴に混ざれた人間や。ラッキーやなあ」
▽▽▽
『それにしても烏野は終始全員が攻撃に入ってきますよね!全員の攻撃意識の高さ。一つ烏野の強さの根源でもありますが、2セット目にして相当疲労が溜まっているように見えます』
銀島のサーブを西谷先輩が上げる。
疲れていようと、全員で攻撃に入る。
数での翻弄。
それが烏野の武器であるならば、やらないという選択肢はない。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
影山から主将へ。
ブロックとネットの間に吸い込まれる。
だが、バックステップをしながらアランが上げる。
角名がアンダーで治へ。
主将がスパイクを打ってからすぐに、烏野コートに返って来た。
稲荷崎はまだ体勢が整っていない。
攻めろ、攻めろ。はやく、相手よりはやく。
そんな気持ちがあるのだろう。烏野の攻撃リズムが一段階上がった気がした。
影山から日向へ、超速攻。
『はやいはやいっ畳みかける烏野!リベロ赤木上げているが…』
「ゆっくりゆっくり!」
コーチが必死に叫んでいるが届かない。
侑からレフト、アランへ。こちらも速攻並に、はやい攻撃。
それでも三枚ブロックを揃え跳ぶ。
余裕のない体勢からクロスへ打つが、主将が上げる。
ボール下へ入り、影山はオレへトスを送る。
これは…きついな。
オレはブロックに当て、リバウンドをする。
このはやい流れを断ち切らないとな…
「オーーーライッ!」
視野が狭くなり、コーチの叫び声でさえ聞こえなくなっていた烏野。
そこへオレンジ頭が、高いボールを影山にパス。
一呼吸。
皆のリズムが戻った。周りがよく見え、よく聞こえる。
楽な助走、楽なリズム。
オレンジ頭以外が先のことをしても、誰も何も驚かなかっただろう。
はやさこそ全てみたいな奴が、自ら速さを捨てるファーストタッチ。
一年合宿の成果なのかは知らないが、よくここまで急成長をしたものだ…日向。
稲荷崎も余裕を取り戻したが、問題はない。
真っ向勝負。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
『ドォン!』
オレへトスがセットされる。
二枚のブロックだが、関係ない。上からクロスへ叩き下ろす。
『バチィン!』
赤木が上げるも、そのまま烏野コートの奥、エンドラインギリギリに落ちそうになる。
ギリギリ、西谷先輩が掌で上げ、影山が繋ぎ、東峰さんが最後に返す。
赤木がファーストタッチ。
『後衛の宮侑が飛び出している…⁉』
治から侑へ、マイナステンポのバックアタック。
ドンピシャにセットされ、治がスパイクを打つ。
『ダァン!』
オレと日向によるブロック。
侑を囮に使うこともあったが、迷わずに跳んだ。
『ここでドシャットーー!!双子速攻を止めました!烏野高校、日向翔陽、清田綾隆のブロック!!』
「見たか、おれのブロック」
「お前に叩き落とす技術なんかないだろ」
「あ、ある!」
「うおおおおおお前らナイスブロック!」
「あ、あざーーす!」
オレはネットの向こう側で絶望しているであろう稲荷崎を見る。
試合はまだ終わっていないが、烏野のマッチポイントだ。点差は4点差、そして先の攻撃を防がれたことで心を叩き折ったはずだ。
だが、稲荷崎…特に双子は高揚しているように見える。
その理由はオレには分からない。
オレが稲荷崎の立場だったとして、ここから逆転はほぼ不可能に近い。
そんな中での絶対に諦めない、その意志の強さは素直に尊敬し、感謝する。
「あやたかーーー!ナイッサー一本!!」
24-20
オレはエンドラインに立つ。サーブの助走距離を確保する。
『烏野高校のマッチポイント!ですが、まだ稲荷崎高校は諦めていない!』
『ですが、ここで清田くんのサーブです。既にプロでも通用するサーブを果たして一本で乗り切れるのか…』
稲荷崎はこの程度の差で諦めるかと、笑止千万という顔つきをしている。
『ピーーー!』
笛が鳴る。
▽▽▽
「いよいよか」やっくんが言った。
「そうだね。これでマッチポイント」
研磨が応え、次のサーバーを見る。
「いやいや、ここから逆転なんてことも考えられるよん」
俺はそう言うが、俺も次のサーバーから目が離せないでいた。
「でもまぁ…次のサーブは…」
「だね」
「何で来るか…俺なら手堅くジャンプサーブ。右の」
「まあ、クロの言う通り、綾隆は多分、勝てる可能性が高い選択肢を選ぶ…」
「なら、研磨はどれだと思う?」
「俺も右のジャンプサーブだと思う」
「俺はジャンフロかな」
「やっくんとしても取りづらいの?ジャンフロは」
「どちらかと言えばな」
「俺は!絶対左のジャンプサーブです!」
『ピーーー!』
「「「「おっ…」」」」
「マジかよ…」
▽▽▽
「最後だね~~!」
「はんっまだ分かねえよ」
「どのサーブで来るかな??」
「俺なら、ジャンフロ」
「そんなに取りづらかったっけ?」
「そう!あれは取りづらいんだよ」
『ピーーー!』
「えっ…」
「マジか」
▽▽▽
「さすがにこれは烏野ですかね」
「ここから逆転は難しいだろうねぇ~だけど、稲荷崎の目はまだ死んでないよ」
「綾隆君がどのサーブを選択するか…」
「あの子のサーブの種類は多すぎるからね~あっはっはっは」
『ピーーー!』
「うぉっ…」
「さっすが…多いね~」
▽▽▽
「優君…どのサーブでくるかな??」
「う~ん…それは多分、左のジャンプサーブだと思う。まだあまり使われてないし、なにより左は取りにくい。サービスエースを取れなくても崩すことはできる…」
「ほへ~」
『ピーーー!』
「うそっ」
「まじか…ここで」
▽▽▽
「何で行くか…ここで決めたいところだ」
コーチが一人でぶつぶつ言っている。
「そうですね、綾隆くんはいつもサーブで1.2点は取ってくれますからね」
「はい、綾隆は基本的に右のジャンプサーブのときが最も得点が多いです。
なので、右のジャンプサーブですかね」
「あぁ…それを見越してのジャンフロかもしれないがな」
「もはや…凶器ですね…あと左もありますし」
『ピーーー!』
「「「えっ…」」」
▽▽▽
『ピーーー!』
オレはサーブトスを上げる。
低いトスによりコート全体を見渡せる。
稲荷崎は、皆一瞬目を見開き準備をする。
オレがコートに出てきて初めて放ったサーブ。
当然記憶しているだろう。
だが、少し忘れかけていたのも事実だろう。
下から上へ腕を振り上げる。
天井サーブ。
稲荷崎は皆一様に上を見上げる。
だが…訝し気な表情をする。
それも当然だ。
ボールは天井まで上がっていない。
そして数秒。
「前ーーーーーっ!!」
一足早く気付いた侑が、指を指し叫ぶ。
オレはインパクトの瞬間、一瞬腕を止めた。
拳の先に当たったボールは低空飛行でネットを超え、稲荷崎コートに侵入する。
勿論、ボールの威力は低いため、分かっていれば、ただのチャンスボールに過ぎない。
だが、この最後の得点。
負けられない試合。
そこへ、不意の天井サーブ。そしてそれもフェイク。
緊迫した状況だからこそ引っ掛かる。
「くっそ…」
リベロが飛び込むが…『タンッタンッ』と、リベロの目の前で弾む。
試合最後の得点はあっけなかった。
誰も声を出さず、弾むボールを見ている。
オレはこの試合で少し変化を頂いた。ありがたい、感謝する。
だが、それでもオレは結果が全てだという考えは変わらない。
結果は過程があるからというのも理解している。
だからこそ、結果のために過程を操作する。
感動的なラストなどいらない。
強いスパイクも強いサーブ、歓声が沸き起こるレシーブもいらない。
喝采は必要ない。淡々と熟す。
この世は『勝つ』ことが全てだ。
【勝つ】
『ピッピピーー!』
『かっ…最後はあっけなく…烏野高校が宮兄弟擁する稲荷崎高校を打ち倒したぁ!早くも今大会、最大級の波乱です!』
実況が再起動したことにより、会場内の人達も再起する。
「「「「「「うおおおおおおお」」」」」」
最後の得点はあれだったが、優勝候補の一角を潰したことによる歓喜の咆哮が会場を埋め尽くす。
最後が感動的でなくとも喜べるのが勝者である。
そんなオレ達を静かに稲荷崎は見つめていた。
勝者と敗者。
ネットを挟んだ両者の空気はここまで違う。
それが結果だ。
「お前…ホンっと何なんだ!」
菅さんが飛び込んでくる。いや…皆一斉に飛び込んで来た。これはさすがに重い…
『ピッ!』
ネットを挟み挨拶をする。
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」
「少しは伝わったやろうか?」
「ええ、まあ」
「そうか…少し残念やな。まあ俺も変わらん。俺が大事なんは過程や」
「そうですか」
「君がこれから、頂点に君臨し続けてたら、誰かが教えに来てくれるやろ」
「そうかもしれませんね」
「まっ…試合に負けたんは悔しいけど、楽しかったで清田君」
「オレもです」
北はコートを出て行く。
「おい…綾隆君」今度は侑が話しかけて来た。
「俺は、絶対お前には上げやん。今は勝てやんやろな、完敗や…けどな…覚えときや。俺はぜってぇいつかお前を倒す。綾隆君が魔王として君臨し続けるなら、俺は…俺らは勇者として、いつかお前に勝ったる!」
魔王?勇者??…最後の方で何を言ってるのかよく分からなくなった…だが、多分、きっと。これはいつかオレを倒すと言いたいのだろう。
「それは楽しみにしてます」
「けっ…」
そう吐き捨て、今度は日向の方へ向かっていった。
『優勝候補の一角、宮兄弟擁する稲荷崎高校、初戦で沈む!春高二日目、早くも今大会最大級の波乱です!!』
『いやあー全国大会の恐ろしさですね』
「集合ー!」
「ありがとうございました!」
「「「「「あっした!」」」」
烏野応援団に挨拶をした後、コートを出て行く。
「うぐっ…」
走って来た清水先輩に腹を殴られた。
だが、涙を零しながら、笑っているため、嬉しくて感極まっているのだろう。
一頻り清水先輩のか弱いパンチを受けた後、今度はひとかにも同じことをされる。
「なあ…その行為は全力で戦ってきたソルジャーに対する仕打ちじゃないぞ…?…お~い…聞こえてます?」
一向にやめないひとかにオレは暫くサンドバックとなっていた。
女の子に殴られ続けるのも、悪くは…コホン…新しい癖に目覚めそうになるのを咳払いで考えを一掃する。
「なら、俺も混ぜて貰おうかなぁ~」と、田中先輩が。
「俺も俺も~」続いて西谷先輩も。
「お~っ綾隆殴り放題⁇おれも日頃の恨みを…ヒィ、ごめんなさいぃ」とは日向が。すこし睨めば、田中先輩の後ろに隠れて行った。
「そんなサービスはしてませんよ」
この人たちはオレがイチャイチャしていることが非常に気に食わないらしい。
烏野の荷物を置いている広場のようなところで、オレ達は荷物を纏めていた。
「西谷そこで寝るなー」
「月島までシャットダウンしかけてんの、初めてだな…?」
「跳んでましたからね、読めないセッターでしたし」
二セットで終わったとはいえ、疲労が溜まる試合だった。
「でもいつも真っ先に気絶する奴が起きてますね」
「うん」
起きているのは日向だ。
今日、もう一段深く、バレーボールにハマった日。
その瞬間を間近で見れたことに満足だ。
その後、烏野は宿に向かうためバスに乗り込む。
乗り込む前に、オレは確認しておくべきことをする。
日向に近付いていき、頭を鷲掴みにして持ち上げる。
「あだだだだだだっ、何すんだ⁉」
日向は突然の出来事にもがくが、抵抗が軽い。
オレは仕方なしに離す。
37.2℃か…
「悪い、やはりお前は軽いな。それではスパイクもさぞかし貧弱だろう」
「な…何故いきなり貶す!!」
「なら、もっと食わないとな」
「う、うっす」
バスに乗り込むと、山口が言う。
「日向、今日は元気だな!」
「試合の興奮収まらん…!すぐにでも試合したい…!」
目を輝かせながら日向は言った。
「…きもちわるっ…」
月島が本音を零した。
日向はその言葉に反応する。
「月島それ、イヤミじゃなく本気の奴だろ傷ついたぞ!!」
後ろから飛びつこうとする日向に、月島はデコピンで反撃する。日向はドシャットを喰らい席に沈んだ。
軽すぎだろ…それはあり得るのか…?などとオレはくだらないことを考える。
「おっ…そう言えば、今日のおれのスーパーなレシーブを見たかよ?みなさん??」
「でたよ…」
日向がそう言い、月島が溜息をつく。影山は寝たふりをしたようだ。
皆は苦笑いを零す。
「ふっふっふ…おれはまた一段階、進化したのだよ」
誰も何も言ってないが、日向は続けた。
「日向、今日は大活躍だったもんね」
山口が今日は、という部分を誇張して言った。
「今日は、じゃねーし!!」
バスの中が笑いに包まれる。
だが、すぐに静寂へと変わる。
「そうだな、日向…ナイスレシーブだった」
オレが言った。
感情をコントロールし、目を見て言った。
月島も日向も山口も全員が、オレの言葉に驚いている。
いつもの抑揚のない喋りじゃなかったからだろう。
まあ日向を褒めるのはあまり無かったからというのもあるのかもしれない。
「だろだろ!?そうだろ??ああ~~早く試合して~~な!」
日向は更にテンションが上がったようだ。
オレは暴れる日向から目を離し、窓の外を見る。
上がれ上がれ。
もっと上げろ。
高揚しろ。
明日は一段、ギアを上げろ。動け。動いて動いて動きまくれ…倒れるまで。
それが、明日の勝ちに繋がる。
そして、烏野はもう1段階進化する。
僕は漫画や小説で魅力のある男性キャラは?と問われれば、綾小路だと答えますが、好きなキャラは?と問われれば、ハイキューの北信介、物語シリーズの貝木泥舟と答えます。
しかし、だからと言って宮侑より北信介を多く取り入れたかと言いますと、それは違います。
綾小路に変化を与えられる人は北信介だと思ったからです。
リベロは自由に後衛でセンタープレイヤーと交代できますが、そのほかの選手は1セット6回までです。
タイムアウトは1セット2回まで。
スターティングメンバーは、ベンチに下がった後に同一セットで1度だけコートに戻ることができますが、自分と交代して入ったプレイヤーとしか交代できません。
選手交代でコートに入ったプレイヤーがベンチに戻った場合はそのセットではもうコートに入る事はできません。(サブのメンバーは1セット1回だけの交代になります)