それと、11巻読みましたか?感想はヘルニアには気をつけましょうね。はやく治してほしいですね!
【謀略】
春高2日目の夜。
稲荷崎を倒したオレ達は宿で祝勝会…ではなく、次の音駒との試合のミーティングを行っていた。
「さて…綾隆、今日も頼んます」
コーチに前を譲られオレは皆の前に立つ。
「音駒と烏野は相性が悪い。最悪です」
「ええ~」
「それ言うかよ~」
「まあ、分かっちゃいたが…」
皆が灰になりかける。恐らくそう言ったことは意識しないようにしていたんだろう。
苦手であれ、理解しているからこそ対応できるものはある。
だが、知らないふりをし続けるのは良くない。苦手でも考えることが重要だ。
「だから、策を考えてきました」
「「「「おお~~」」」」
皆のテンションが戻る。
「それを今、ここで話そうと考えていたのですが…」
「「「ですが??」」」
「やっぱり止めておきます」
「「「「ええ…」」」」またも灰になりかける。
「今日の試合を見ていて気が付いたんです。この策で戦いたくないと…」
「そう言えばお前、今日の試合が…最も楽しみです、とか言ってたよな~」
「菅っハハハ、似てるけど…変化を与えてくれるだっけか?それで気が変わったのか?」
「まあ、そうですね」
「ほほぅ…さすがは稲荷崎だったってわけだ、綾隆を変えちまうとは」
「それで、どう戦うんだ?」
「音駒の戦い方は身に染みているとは思いますが、守備です。とにかく粘る。最初は決まっていた得点が次第に決まらなくなっていきます」
「ああ…ほんとにな…」
「打つとこねぇもんな…」
遠い目をしながら、うんうんと首を縦に振る。
「はい。対して、烏野は新しい攻撃、多彩な攻撃が特徴です。なら…対応してくるなら、更に上からねじ伏せましょう」
「脳筋だな」
「ノウキン…?能力トレーニング…か?」
キンの要素は何処へいったのだろうか。
「王様…なんか微妙に惜しいけど違うから。余計なことに脳のリソースを使わないで」
「でも、それ、なんか悪役っぽい…」
日向がそう言い、
「綾隆がいる時点でヒーロー側とかありえないでしょ」
月島が言い、皆もそれに納得した。
そこで納得してほしくはなかったが、突っ込まなかった。
オレもそう言われることには慣れているし、自覚している。だから無視だ。
「だから、作戦は必要ない。烏野 対 音駒らしい戦いをしましょう」
「ああ!ゴミ捨て場の決戦!!絶対勝つ!!」
「「「「「おおおおおお」」」」」
皆の気合も十分だ。その後、自分が思う事を口に出し、それについて皆で話し合っていた。
▽▽▽
『勢いに乗っている烏野高校に、音駒高校なんとか食らい付いていってほしいですね』
カッチィーンとくる言い方ですこと…。
「こんにゃろっ!俺達が下みたいな言い方すんな!」
「下馬評は烏野有利って感じだよね?強いとこいっぱい倒してきてるし」
研磨が言った。
「バカヤロっ俺達だって強いとこ倒してきたから此処にいるんでしょうが!!」
あ、研磨のやろー自分だけ布団引いてやがる。
「えーでもさあ、おれ達に牛若とか宮ツインズ倒せるかな?」
うーーん…それは分からん…。
「やってみなきゃ分かんないと思いまーす。それにグーはチョキに勝ててもパーには勝てないと思います!」
恐らく烏野は。パーを出す相手でも最強のグーでごり押しで勝ってきたんだろう。
ならば、こちらが最強のパーの役目をすれば良いのである。まあ…言うは易く行うは難しだけど。
「まあ、どっちでもいいよね。それを確かめるためにわざわざ試合に来てんだし」
おおっ珍しく研磨がやる気出してる。
「日向に綾隆…最高のラスボスだからね」
どうもゲーム感覚のようだ。
▽▽▽
春高三日目。
「おはようございます」
「おはよ」
「おはよ!!」
朝から元気な二人と挨拶をし、朝食を取る。
「たんとお食べ」
空になった茶碗に山盛りのご飯を装われた。
「どうした?そのキャラは…」
「ひとかちゃんは緊張を紛らわしているんだよ」
「き、緊張…ま、まだ慣れない…」
「ひとかは……」
そこで止める。ひとかは出ないだろうと言いそうになった。言っていたら怒られるな…。
最近そういうことも分かるようになってきた。
「ん?なに?」
とは言え、途中で止めたため、ひとかは首を傾げ聞いてくる。
「あ~いや、今日も勝つさ」
「おっ!?うん!!頑張って!」
「ふふ…気合は入ってなさそうだけどね」
「そ、そうでもないですよ」
清水先輩はエスパーだろうか?
朝食を終えすぐに体育館に向かう。
朝はもう少しゆっくりしたいものだ。
春高。
男子3回戦。
烏野高校 VS 音駒高校
体育館に移動しコートに入る。
「行くぞお!」
「「「「おおおお」」」」
『いっけぇいけいけいけいけ音駒!』「「「いっけぇいけいけいけいけ音駒!!」」」
『おっせぇおせおせおせおせ音駒!』「「「おっせぇおせおせおせおせ音駒!!」」」
『いーーーーっけ!』「「「フェイッ!」」」
『おーーーーっせ!』「「「フェイッ!」」」
『ねーーーーっこま!!』「「「ふぇっしょーーい!!」」」
さすがに全国の舞台となると、どこも応援団の力の入れようが凄いな。
何を言っているのかは分からないが。
『では両チームのスターティングメンバーの紹介です。まずは烏野高校。
1番・キャプテン烏野の「支柱」WS澤村大地。
3番・WS烏野の「主砲」エース東峰旭。
16番・要注目、今大会最高到達点を誇る「怪物」WS清田綾隆。
9番・注目度急上昇の一年生S影山飛雄。
10番・こちらも要注目大会最少MB日向翔陽。
11番・チーム最長身のブロックの要MB月島蛍。
リベロは4番守護神にしてムードメーカー西谷夕。
率いるのは武田一鉄監督。
そしてバレーボール未経験の武田監督に代わり、実質の指導は烏養繋心コーチが努めます。
練習試合では負け越しているという烏野高校。「今日は勝ちに来ました」と若き闘将気合は十分。
続いて音駒高校。
1番・キャプテン黒尾鉄郎オールラウンダーなMBです。
2番・攻守に安定した実力、常に冷静な3年生WS海信行。
4番・2年生エース山本猛虎音駒の主砲。
5番・音駒の頭脳S孤爪研磨、今大会その曲者ぶりが表れつつあります。
6番・変幻自在なコースウチに注目2年生WS福永招平。
11番・その体躯とセンスで音駒の主力となりつつあります。1年生MB灰羽リエーフ。
リベロは3番「守りの音駒」守備のエース夜久衛輔。
率いる猫又育史監督。
一度監督を引退しましたが、2年前に復帰見事音駒を全国の舞台へ導きました。
烏野高校は昔からのライバルにあたりますが「勝ちに来た」という烏養コーチに対し、笑顔で「受けて立つ」と返しました。
こちらはベテランの風格』
「ぷっ」
「どうした月島」
横で急に笑った月島。
「君、既に実況アナウンサーにも怪物って認識されてんじゃん」
「…オレは別に何もしてないんだけどな」
実況の人達に何も悪い事はしてないはずだ。
「滲み出てんだよ」
「そうですか…」
確かに最近は自分を偽ったりはしていないが…それでもそれはないだろう。
▽▽▽
「良かった~間に合った」
「ウチ(音駒)のバレー部って強かったんだね~」
「バレーの試合生で見るの初めて」
音駒高校の全校生徒が、この東京体育館に来ていた。
地元ということもあり、全国で活躍するバレー部を全校生徒で応援をしに来た。
普段見ないその真剣な姿に、女子たちは「カッコいいぃ」だとか言っている。
だが、それは残念と言わざるを得ない。
なぜなら…。
「黒尾さんどうしよもう一回うんこ行きたいかも」
「まじかよ残便野郎かよ」
そんな仕様もないことを話し合っているからだ。その内容を聞いた女子たちの反応を想像することは難しくない。
「でもね~敵にすっごい強い子がいるんだって~」
「うへぇ~これで帰る可能性濃厚ってこと?」
「いや、そこは勝つって信じようよ!」
「ま、楽しみだね~」
「ねっ」
きゃぴきゃぴ話しながら、試合開始を今か今かと待っている。
「いーなーー!俺も烏野と音駒ともやりてーなーー!」
「そうですね」
こちらでは、木兎と赤葦が二人仲良く試合を見に来ていた。
▽▽▽
「あーー練習試合では負けこしてるワケだが…「ええ~~今それ言わなくても言いべや~~」」
「!うるせっ。忘れろ、苦手意識は宮城へ置いてきた」
「大分カッコよさげに言ったな」
主将が言い、菅さんと東峰さんが突っ込む。
「ハジケ過ぎて空回んのだけはナシだぞ!」
「「ウっス」」
コーチに言われ、自覚があったものは自ら返事した。
「「喰らい散らかすぞア!!!」」
音駒の円陣と被り、より大きな掛け声となった。
言っている意味はよく分からないが、多分…きっと、これはノリと言うやつなんだろう。
「「「「オェーーーーーーーーーーーイ!!!」」」」」
間違いない。
絶対理解を示していない日向影山が叫んだんだ。
この掛け声の意味はあまりないのかもしれない。
「田中先輩」オレは田中先輩を呼ぶ。
「大丈夫だ。いつでも任せない!」
田中先輩はいつでも任せろ!と気合十分だった。
まあ、それがこの試合であるかはまだ分からないが。
「そうですか」
コートでポジション確認を行う。
その間、実況が喋る。
『予選で「全国3大エース」牛島若利擁する白鳥沢学園を下し、更には昨日、優勝候補「宮ツインズ」の稲荷崎をも退けた烏野高校。
「未知の古豪」が勢いのまま頂を見るのか!
それとも「護りのネコ」が阻むのか!
最初のサーブは烏野。
昨日怒涛のサービスエースを捥ぎ取った影山飛雄のサーブで始まります。
さあ、試合開始!』
『ピーーー!』
【ゴミ捨て場の決戦開始】
孤爪 福永 夜久(黒尾)
灰羽 山本 海
ーーーネットーーー
澤村 日向 綾隆
東峰 西谷 影山
『ピーーー!』
初っ端から影山のジャンプサーブが音駒を襲う。
だが、慌てることなく海が上げる。
さすがは音駒だ。
一人一人のレシーブ力の高さには、敬意を表する。
オレもここでレシーブの技術力は学んでいこう。
研磨はリエーフへセットした。
そこへオレと日向がブロックを跳ぶ。
左サイドを空け誘導する。
抜けた先はリベロ、西谷先輩。
「ナイッスレシーーブ!」
[寄越せ]
オレに持って来いと、圧を出す。
フワッとした綺麗な放物線を描いたトス。
当然、三枚のブロックがついてくる。
『ドォン!』
高く跳ぶ。
指先に当てて飛ばす技術力。ブロックのタイミングをずらす空中姿勢。右か左か。目線の誘導。
そんな小手先の技術は今はいい。
ただ、全力で。高さとパワーだけでの勝負。
オレの全力に慣れて見ろという気持ちを込めて打つ。
『バッヂィィィイイン!!』
ブロックの手を吹き飛ばしコート奥までボールは飛んでいき落ちた。
『ナァイッスキィ~~ア~ヤ~タ~カ!!いぞいぞ綾隆!!おせおせ綾隆!!』
『ドドンドドンッカッ!!』
選手からの叫びよりもはやく、田中先輩の姉率いる和太鼓軍団の応援が会場を満たす。
「ナイッスキーーー!綾隆!」
「ナイスキ…」
「さっすがだな…」
何故かショボくれた日向と東峰さん。
「あっぎゃーーーーー!!!」
ネットの向こう側では、自分の手をふぅふぅと息を吹き冷ましているリエーフ。
『実況を忘れさせるほどの威力!!スタートから全開!「怪物」清田綾隆!!』
遅れて実況がなにやら言っているが、歓声であまり聞こえなかった。
▽▽▽
「おいおい、こりゃとんでもねぇな」
猫又は綾隆のスパイクを見るのは、初めてだ。
一番最初の練習試合では、少しレシーブが上手いやる気のない選手だと思っていた。だが、今、最も厄介な選手と理解する。
「練習試合のときに戦えていたら、もっと対策は取れてたかもしれないんですが」
「まっ、それは仕方ない。それにしても鬼と金棒に化け物か…これは研磨も…いや、研磨ならこれこそが楽しい攻略ゲームなのかもしれないな」
「ははは、ですね」
その証拠に、研磨…だけでじゃなく、音駒の目は普段より輝いていた。
「てっ手は大丈夫だよね?ハーフ君」
「あんなの、絶対腕もげるよ…」
「バレーは体育だけで十分だね…あははは」
音駒の学生達は、その威力に引いていた。
『ピーーー!』
笛と同時に影山はサーブトスを上げ打つ。
だが、またも海が上げる。
「くっそ…」
影山が小さく呟く。
速攻か…綾隆と遅れて日向がブロックを跳ぶ。
綾隆の手に当たり、音駒コートに返っていく。
「山本!」
「はいっ!」
山本が拾う。
だが、ネットの真上に上がり、灰羽が押し込む。
身長さもあり、押し合いは日向が不利。
押し込まれたボールを澤村が拾う。
クロスに日向が走り、跳ぶ。
ドンピシャに影山が合わせ、日向のスパイクは研磨の腕を弾いて後方へ飛ばす。
「もう一回が無い試合だ、研磨!!」
日向が研磨に言う。ニッと笑う研磨。
『じ…実況も置き去り!怒涛のラリー…!!からの速い速攻!!』
2-0
またも影山のサーブを上げた海、そしてまた灰羽へ。
今度は音駒が決めた。
『これは高い灰羽リエーフ!強気の速攻対決!』
2-1
ローテが回り、灰羽のサーブ。
「入ってくる!日向!」
『サーブはネットイン!』
ネットに当たり烏野コート側に落ちる。
日向が上げ、影山から澤村へ。
『レフトから澤村、足の長いスパイク。レシーブ上がっているが…』
「うごっ…!?」
呻きながらも上げる灰羽。
「チッ。ショボレシーブ」
ベンチで夜久が灰羽のレシーブを見て舌打ちをする。
『ボールはネットを超えるが…』
ネットの真上に来て、日向がダイレクトで返そうと跳ぶが…。
『際どいところ黒尾押し込むッ』
黒尾は影山を狙い押し込んだ。
『セッター影山ファーストタッチ』
『狙って返しましたね黒尾くん』
『烏野の多彩な攻撃を封じます』
実況はそう言った。
しかし、烏野の武器は多彩な攻撃である。
それは何もセッターからの攻撃だけではない。
影山はセッターの位置に上げる。
バックゾーンから跳びオーバーで上げる西谷。
西谷からのトスは東峰へ。
『バヂィィン!』
東峰のバックアタックはブロックを弾き飛ばした。
『後ろからエース東峰!強烈な一発!!』
「「「「いいぞいいぞ旭おせおせ旭!!」」」」
烏野応援団が騒がしくなる。
「すっごい音~」
「ぐぅ~」
音駒の観客席にいる、灰羽のお姉さんとツインボブの女子も敵ながら感嘆としている。
「…当たり前ですけど、初めて練習試合した時とは全く別チームですね…一年たっていないのに…」
「おっかねえなあ!雑食も雑食、よりでかい相手を喰らって育ってきた」
音駒の監督と先生も烏野のことは既に認めている。
だからこそ…。
「さあ~どう倒す?」
攻略対象とみて烏野を分析し策を練る。
▽▽▽
3-1
『さあ…来ましたこの男のサーブ。「怪物」清田綾隆』
その紹介の仕方…止めてもらえないだろうか?
日向影山なら喜びそうだが、オレには恥ずかしい。
オレはサーブの助走距離を確保するため、エンドラインを超え更に下がっていく。
なぜだろう…この異様な静けさは。
応援団はもっと声を張り上げないと駄目なのでは…?
まあそんなことをオレが気にしていても仕方ないか。
『ピーーー!』
オレは一度、夜久さんを見る。
来ると分かっただろう…息を吐き、備えているのがよく分かる。
高く上げ高く前へ跳ぶ。
スローモーションに変化し、『ここに打て』と打つ場所を示される。
『ボッ!』
ボールの核を捉えた音がし、腕を振りぬく。
『バヂィィン!』
夜久さんの腕を弾き後方へ跳ぶ。
「「「「「ナイッスサーブ!!」」」」」
「音駒のリベロから取るとは…」
「うおおおおおおしゃああああああ」
主将や東峰さんが駆け寄って来るが、一番騒いでいるのはコーチだった。
リベロが取れないとなるとかなり精神的にキツイからな。
だが、これを何回も繰り返していれば、すぐに慣れるだろう。
『決まったあーーー!音駒のリベロから力づくで点を捥ぎ取った!!これぞ「怪物」!!』
4-1
『ピーーー!』
もう一度、同じ所へ同じ強さで打つ。
『バヂィン!』
今度は乱れながらも上に上げた夜久さん。
福永が繋ぎ、黒尾が最後に返す。
「チャンスボール!」
一斉に走るファーストテンポのシンクロ攻撃。
主将が打つも、福永が上げる。
研磨のトス。
直前に目線のフェイントを入れ、日向の動きを止める。
レフトから黒尾がクロスへスパイクを打った。
「「「押せ押せ音駒!!」」」
「しゃぁぁあ~」
『音駒高校、清田綾隆のサーブを切った~!さすがは「護りのネコ」です!』
4-2
▽▽▽
「研磨、いつもより動きにキレがあるな!最初だけか!最初だけなのか!」
山本が騒ぐ。
研磨は、うるさいなあと思いながらも無視を決め込んだ。
「やっぱり研磨はいつになく気合入ってますね…!」
「ん~~途中でプッツリキレなきゃいいけどなあ」
「確かに」
音駒の監督と先生の会話の内容を聞いて、すぐ近くにいたカメラマンは(研磨ってあの5番だよな⁇気合⁇えっどのへんが⁇)と口には出さないものの心の中でそう思っていた。
監督たちがそんなことを考えているうちにも試合は進んでいる。
東峰がスパイクを打ち、研磨が拾う。
『攻める烏野!しかし音駒上げている!が…』
東峰がすぐにまた跳ぶ。
『東峰ダイレクトで叩く!!』
「ほぐぁっ」
だが、これは山本が拾う。
『素晴らしい粘りですが烏野の強力な攻撃に防戦一方の音駒高校…!』
「あああ…」
実況はそう言い、音駒の観客席でも焦りの混じった声が零れた。
だが、それこそが音駒なのだ。
そして音駒の選手、それから先生、監督が思っていること。
烏野が前と同じだったことなんか無い。
いつも通り、探って、慣れて、見極める。
またも東峰はブロックを弾き点を捥ぎ取る。
得点は5-2で押されているが、今は見極める時間。
試合はまだ始まったばかりだから。
音駒の頭脳は静かに烏野を観察する。
だが…。
烏野には、視線に敏感な選手が…1人。
「[[rb:東峰 > マネアズ]]ヤバくね!?なあヤバくね!?」
「はい、そうですね」
自分のチームの主将の発言を適当に流し、赤葦は考える。
(音駒はスロースターターって言われることが多いけど、違うと思う。エンジンはかかってるけどエンジン音が静かなだけだ。
でも本調子になる前に点差をつけられたらひっくり返すのは難しい。
今の烏野相手にこれまで通りの音駒で勝てるのか?)
「メガネ11番ブロックの要!あってる??昨日言ってたやつ!」
「あってるあってる!」
優の彼女が前衛にきた月島を見てそう言った。
それに嬉しそうに反応する優だが、一気に暗くなる。
「…俺、烏野と戦ったことないのになーーーんか嫌なんだよな。あの一年メガネ…なんだろうね…」
月島がポジションに着くと、研磨にも嫌そうな顔で見られていた。
それは多分、音駒の黒尾の弟子だからだろう。
ネチネチブロッカーとして嫌われる月島であった。
日向のサーブを上げて、一斉に走り出す音駒。
守りの音駒は何も消極的という意味じゃない。
三か月前にしたのが最後の練習試合。
その時から成長しているのは、音駒だって同じ。
ファーストテンポのシンクロ攻撃…3枚。
研磨は海を選択しトスをセット。
「ワンチ!」
一切の動揺なしに月島はブロックを跳ぶ。
今度は烏野がファーストテンポのシンクロ攻撃…5枚。
影山は主将にトスをセットするが…。
『ダァン!』
烏野コートで響く。
音駒も同じように動揺せず、主将にブロックを跳んで叩き落とした。
流石は、ベテランブロッカーだ。
『早くもブロックポイントが出ました音駒高校…!!』
「「「「いぞいぞ鉄郎!!押せ押せ鉄郎!!」」」」
ブロックで叩き落とし音駒の士気も高まった。
「手は前っつったでしょ。ノブカツくん」
黒尾は煽るようにいう。
「アドバイスなんて相変わらず余裕ですね」
「いや煽ってるだけ」
煽る様ではなく煽っているらしい。
「5人全員で攻撃なんて…なんて無茶するの烏野…!」
敵だが、素晴らしい攻撃を見てキュんと胸を抑える音駒女子。
「すごいねー!でもどこ見ればいいのかわかんなくなっちゃう」
対してリエーフ姉はあわあわとしている。
「どこ見たってイイの!ボールを見てもいいし、ボールに触ってない選手がどう動いているのか見てもいいの!コートの中に面白くない人は居ないの!」
「!わかった」
5-3
海のサーブを上げた烏野は、東峰へセットした。
だが、抜けた先にはリベロが待ち構えている。
そして、レフトから福永。
これは綺麗に決めた。
5-4
『コートの深いところへ決めてきました福永招平。その前に素晴らしいディグも出ましたリベロ夜久衛輔』
『ブロックが上手くコースを絞ってましたね』
『なるほど』
『キャプテン黒尾くんは、本来はそこまで目立つ選手ではないんですが、確実に取るワンタッチとフロアディフェンスの事をよく考えたブロックで、黒尾くんは「最も相手スパイカーを不快にするブロッカー」と言えるでしょうね』
『あ、褒めてます』
実況はそう付け加える。
「「「「いぞいぞしょうへい、おせおせ音駒!!」」」」
応援団の熱も更に上がる。
少しずつじわじわと追い詰めていく音駒。
次は海のサーブがネットに当たり、烏野コートに落ちる。
まぐれでも一点は一点。
「「「「ナイスサーブ!!!」」」」
「どーも」
「おまえ今日ついてるんちゃう?影山のサーブ取りっぱだし」
選手もエンジンが完全にかかっているようだ。
「「「「「いいぞいいぞのぶゆき!!おせおせ音駒!!!」」」」
『音駒乗ってきましたね~~』
『そうですね。ドシャットから音駒ムードになってきていると思います』
『このまま音駒が点を取り続けていくのか…』
観客もスティックバルーンを叩き、音駒を応援している。
完全音駒の雰囲気となった会場。
5-5
『ズッッダァァアンン!』
「「「「…」」」」」
観客も選手も実況も黙らせる一発。
音駒のコートで勢いよくバウンドし、コート外へ飛んでいく。
「「「「「うぉおおおおおおお」」」」」」
「「「「「ナイッスキーーー!!!」」」」
今度は烏野側で騒がしくなる。
一気に流れを変える。
それが…化け物の一点。
「うぉおおおおでたぁあああ!!!やるなぁ綾隆!!」
「そうですね。やばいですね」
「早く試合してぇ~~」
綾隆のプレーを見て士気を高める者もいる。
「きゃ~~~見て!見た!見たよね!さっすが16番!」
「くっ…」
興奮しスタンディングする者もいる。
「はあ~~なんだよそれ…ブロックお構いなしか…」
「優くん、ちょと顔怖いよ…?」
「あ、あぁ~ごめんなさい!!!ちょっと…ね」
キレる者もいる。
「ぷっひゃひゃひゃ!さっすが16番!おもしれぇ~」
(なんで自分ので見ないんだ…だが、確かにすごい…まけねぇ!)
白鳥沢学園の妖怪とおかっぱは仲良くタブレットで見ていた。
一人は笑い音駒に同情し、一人は闘争心を燃やした。
6-5
澤村のサーブを上げ、再び研磨から福永へ。
だが、これは綾隆が上げる。
「「「ナイスレシーーブ!!」」」
『綺麗に上げて見せた清田綾隆!』
『レシーブも上手ですね』
化け物は翼を広げる。
狭い鳥かごの中、最大限に、自由に、高く、跳ぶ。
跳べば跳ぶほど、鳥かごの中だと理解しながらも。
深い闇に飲み込まれようと、抜け出せない籠の中で翼を羽ばたく。
『ドォン!』
三枚のブロック。
『ズッッダァァアアンン!』
ブロックの上から打ち下ろす。
音駒は苦笑いを、烏野には飛び切りの笑顔を与える。
7-5
『ピーーー!』
たまらず音駒はタイムアウト。
「やっぱバケモンだな」
「それは分かってたことだろ?」
「今は仕方ない。それよりも翔陽を止めよう」
「綾隆は放っておくの?」
「今はね。翔陽を止めれば、綾隆にボールが集まる。綾隆だって人間、常にあんな高い位置から打てるわけじゃない」
研磨は言ったが…。
「「「「「ん~~」」」」
皆、首を捻る。
「多分だけど」と研磨は続ける。「綾隆は確率の高い方法を選択してるんだよね」
「AIみたいだな」夜久が突っ込む。
「そう、まさにそれだよ。人工知能を搭載された人間みたいな感じ。だからペース配分まで完璧に管理しているから、いつだって崩れずに全力で跳べていた」
「つまり、チビちゃんを潰し、影山の選択肢を絞るってことだな」
「うん。影山に綾隆以外の選択肢を無くすんだ。
そして、綾隆にトスを集める」
研磨は一度溜めてから言う。
「ちょっと早いけど、綾隆を止めるためにも、そろそろサーブで打ってほしいんだ」
試合前日、音駒はミーティングをしていた。
フローター組はサーブで番号を狙う。番号はコートを9分割し、研磨が割り振った。
そこへサーブを狙えというものだ。
「それで、翔陽の助走を邪魔する。加えて、バックアタックの助走も邪魔をしていこう」
「りょかいっす」
『ピーーー!』
▽▽▽
夜久 海 山本
福永 研磨 灰羽
ーーーーーーーー
綾隆 影山 月島
西谷 澤村 東峰
東峰さんのサーブを山本が上げる。
「ワンチ!」
相変わらず月島が、小気味好い声を発する。
真ん中から速攻で月島へ。
「ワンタッチィ!」
リエーフが叫ぶ。
こいつがリードブロックを……。
音駒も一人一人が以前とは違うということだな。
夜久さんが上げ、リエーフの速攻で決められる。
7-6
8-7
研磨のサーブ。
前衛の日向に揺さぶりをかけるサーブ。
ネットギリギリ、「オーライッ!」日向は何も考えてないな…。
綺麗に上がったボールだが、日向はなぜかそこから動かず、何かを期待する表情で影山を見つめている。
あ~あ~これは後で怒られるな…。
怖いから離れていよう。だが、影山のトスはオレへセットされる。
三枚ブロックの上から叩き下ろす。
「「「ナイスキー!!」」」
「「「いいぞいいぞ綾隆!押せ押せ綾隆!!」」」
「おめーレシーブだけで満足してんじじゃねーぞ!ぼげぇー!」
ほら出た…。
9-7
影山のサーブはネットINで音駒コートへ。だが、山本が上げリエーフが決める。
9-8
リエーフのサーブで再び日向をネット際でレシーブさせ、速攻に入らせない。
『ドォン!』
三枚ブロックの上から叩き下ろすも、「ボフッ…!?」リエーフが身体に当て、繋ぐ。
そして、黒尾の速攻で決められる。
9-9
『ここで追いつきました音駒高校』
音駒もかなり成長しているとはいえ、サーブはリエーフである。
ネットギリギリを狙えば、『パサッ』ネットにかかりこちらには来なかった。
「もーーっ」
音駒の観客席でリエーフの姉だろうか?が恥ずかしそうに手で顔を覆っていた。
10-9
『再び回ってきました。「怪物」清田綾隆のサーブです』
もう何も言うまい…。
オレはエンドラインを超えサーブの助走を確保する。
オレはサッカーを経験したことはないが、ボールを蹴ったことはある。
同様に野球をしたことはないが、野球ボールを投げたことはある。
『ピーーー!』
オレは高く上げ高く跳ぶ。
蹴るのと投げることは全く異なるが、カーブを掛けるコツは同じだ。
経験は全て繋がっている。
曲げようと、変に手を曲げたり足を曲げたりしても回転だけがかかり、ボールは曲がらない。
だが、足の形や指の向きなど、形さえしっかり保てば、後はストレートを投げるのと同じ要領で、カーブを掛けることが出来る。
それは、テニスでもバドミントン、ボウリングでも同じことだろう。
つまりバレーでも同じことだ。
『バヂィン!』
夜久さんは寸前で曲がると判断し移動するが、取り損ね後ろへ逸らした。
こちらを振り返り苦笑いが浮かんでいる。
『き、決まったーーー!!』
『いま、曲がりましたね…』
「「「「うおおおおお!」」」」
「い、いま…ぎゅるって曲がったんだけど…」
日向がまだネットの向こうを見ながら呟く。
11-9
▽▽▽
「おいおい~やっくん、狙われてるんじゃないの~」
俺は煽る。
何もしょげる必要なんてない。
励ましの言葉もこの男には必要ない。
「おまえな…チームメイトを助けるっていう気持ちはないのかよ…」
ない。
勝手に乗り切る!やっくんなら出来る!
そう信じている。
「え~ど~せやっくんが取れなかったら誰も取れないでしょう」
「はぁ…」
やっくんは諦めたようで何も言ってこない。
けど、楽しそうだ。
▽▽▽
「「「あ~やたか~もう一本!」」」
『ピーーー!』
もう一度、高く上げる。
『ドォン!』高く跳び、打つ。今度は左手で。
回転に釣られ、少し左に寄った夜久さんだったが、ボールは一直線に進む。
今回は変に手を曲げ回転だけ。全ては使い方である。
手を伸ばし、ボールを拾うが崩れる。
だが、繋いではいる。
それが音駒の在り方だ。
「チャンスボール!」
返って来たボールをオレは影山へパス。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
崩れた音駒を畳みかける烏野。
これが烏野の在り方。
『影山、誰を使う…レフトから東峰ー!』
音駒の守備は少し下がった。
東峰さんには2枚のブロックがつく。
「ブロックラッシャー!!」
コート外から菅さんの叫び声が聞こえて来た。
東峰さんはブロックに当て、後方へ吹き飛ばした。
だが、下がっていた山本が繋ぎ、セッターの位置へ綺麗に上げた。
最初のオレと東峰さんのスパイクを見て、もう対策を立てて来たか。
黒尾の速攻でブロックアウトで大きく外へ飛んで行った。
11-10
山本のサーブは、オレが上げる。
影山からオレにセット。
だが…。
「ワァンチィ!」
黒尾がワンタッチで威力を弱めるも後方へ飛んでいく。
だが…。
『後方へ吹き飛ばされたが…山本、居るーーッ!そして、繋ぎ海へセット』
影山がディグ。
西谷先輩がセットポジションに入り、東峰さんへ。
「ワァンチ!!」
これも繋ぐ、音駒。
そして返ってくる。
「チャンスボール!」
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
日向は飛び出し、マイナステンポで入っていく。
レフトからノーブロックで主将が打つ。
「ふぐっ…」
ギリギリで夜久さんが繋ぎ、再び返ってくる。
『ドォン!』高く跳ぶ。
オレへセットされたボールを三枚ブロックの上から叩き下ろす。
『ズッッダァァアン!』
「「「「ナイス綾隆ーーッ!!」」」」
「ちっ…しっかし、テンポ変えて来たじゃないの~」
黒尾が舌打ちをし、オレに言ってくる。
確かにただ全力で打つだけではなかった。出させられたのも認めよう。
「オレは体力ないんですよ。粘らないでください」
「「「「その冗談は面白くない」」」」
真顔でそう返された。というか、後ろからもそう言われた。味方では…?
「「「「いいぞいいぞ綾隆!!押せ押せ綾隆!!」」」」」
日向が後衛に月島が前衛に来た。
「行けっ月島っ黒尾に負けんなっ!!」
菅さんは相変わらず、見た目とテンションが合っていないな。
月島は後ろを振り返って冷静に言う。
「無理ですよ」
こちらも相変わらずだな。
菅さんはスンと静まり返った。
『ピーーー!』
「言うと思った!」
日向は笛の音に気付きコートを出て行く。そして、山口と替わる。
「僕、格上の誰かに勝とうと思った事なんかないんです」
月島はネットを挟んで対面している黒尾に言い、更に続ける。
「黒尾さんに勝とうなんてまさか!そんな!僕一人で勝とうなんて1mmも思ってません」
「かれは一人でも勝つ気じゃないかい?」
黒尾は山口を見て、月島に言った。
「…そうですね。あいつは僕の先を行く男なんで」
月島はオレに背を向けているため表情を見ることは出来ないが、それでも笑っているのが分かった。
『ピーーー!』
山口はサーブを放った。
ジャンフロ。
白苔ギリギリを通過し、山本へ。だが、海が替わりにオーバーで掴み上げた。
セッターへ返り、真ん中から黒尾…ではなく、レフトから福永へ。セカンドテンポ。
「メガネくんさ~弱々しいんだよな、ブロックが!」「手は前つったでしょ?ノブカツくん」
月島は合宿の時、よくそう言われていたな。
ボールを打つ瞬間、月島は手を前に持っていく。
『ダァン!』
冷静な盾と盾の思考をクリアにする矛。
サーブ&ブロック。
『こぉこでブロック…!!まさに流れを作る一本!!』
月島は後ろへ歩いていく。山口は前へ歩いていく。
互いに両手を上に上げ、振り下ろす。
『パァン!』
良い音が響き渡る。
「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」
「ツッキー…最近のバレーはどうだい」
「本当におかげさまで、極、たまに、面白いです」
月島からその言葉が出るとはな。
牛若を止めた時から、バレーにハマったのは分かっていたが。
……
…
オレは無言でポジションに戻り、構える。
13-10
次は夜久さんが綺麗に上げ、海により決められた。
13-11
15-13
一つ一つのラリーが、今までのどの試合よりも長い。
もう一時間が経過しようとしている。一セット目の中盤だが、皆、かなり息が上がっている。
東峰さんのサーブをきっちり上げ、リエーフの速攻。
オレと月島の二枚ブロック。
「ワンチ!」
月島が威力を弱める。
『ドォン!』オレへセットされる。
…さすがに対応が早いな。もうタイミングを遅らせるスパイクについてきた。
二枚のブロックを躱し、クロスへ打つ。
が…待っていたかのように夜久さんが真正面に立つ。
「ぐっ…」
上げはしたものの、セッターには返らなかった。
速攻は無い。
だが、研磨はサッと動き、アタックラインまで移動しリエーフへトスをセットする。
『スッパァン!』
これに驚いたのは烏野だけでなく。音駒まで驚いていた。
「孤爪さんて、動くんですね」
影山が心底驚いたように言った。
「…まあ、一応生きてるからね…」
まあ…足に根が張っているような人物が、急に俊敏な動きをすれば、誰だって驚くか。
15-14
▽▽▽
孤爪もボールコントロールは非情に優れている。
今までは、それを発揮する状況を仲間が作ってくれていた。でも今、自らその状況を作りに行くようになってきている。
音駒も進化しているということ…。
日向封じによる周りの邪魔。
そして、対綾隆。
音駒は試合が進むほど、厄介さが増すチームだ。
もたもたしてっと爪が届く…。
なんとかしねぇとな。
▽▽▽
16-14
一点を取るために、体力面だけじゃなく、神経をすり減らす。
それは烏野も音駒も同じことだ。
しかし、常にこの内容を熟している音駒は、烏野よりも経験値がある。
まだ、一セット目中盤。
しかし、一点を積み重ねるだけで、皆の息遣いが荒くなっていく。
福永 夜久 海
研磨 灰羽 山本
ーーーーーーーー
日向 綾隆 影山
澤村 東峰 月島
月島によるサーブ。
音駒にとってはチャンスボールのようなサーブ。夜久が綺麗にセッターに返す。
灰羽による速攻。
相変わらずの高さだが、今、対面にいる綾隆は今大会最高の高さを誇る。
完璧なタイミングで手を前に出し、ドシャットを食らわせる。
だが、ボールが落ちる寸前、ボールと床の間に手の甲が邪魔をし、気持ちの良い音が鳴るのを阻止した。
『上げたーーーッ!リベロ夜久!!見事に上げて見せた!』
「「「「ナイッスブロックフォロー!!!」」」」
山本へセットされ、スパイクを打つも。
「ワンタッチィ!」
今度は日向がブロックを跳ぶ。
日向は助走を取り、マイナステンポで攻撃に入っていく。
だが、囮で東峰によるバックアタックも控えている。
レフトからは綾隆も助走に入る。
影山の対面には灰羽がボールを追いかける準備をしている。
月島は思った。
(灰羽ってもっとチョロかった筈なのに…)
だが、そう思うのも仕方のないこと。
以前の灰羽なら簡単に日向に飛び付いていただろう。
日向にセットされる。
マイナステンポだが、灰羽は跳ぶ。
コースを締め、誘導するブロック。
日向はこっちは駄目だ。と打つ方向を変える。そこへは待ち構えている福永がきっちり上げる。
「ナイスレシーブ!!」
からの音駒はファーストテンポのシンクロ攻撃。
レフトから山本が打ち決めた。
16-15
『決めたーーッ!第一セット中盤、音駒がじりじりと追い上げてきます!全国3本指・5本指の様なスパイカーが居なくとも、きっちりセッターに球が帰りさえすれば、音駒にも多彩な攻撃がありますからね』
「音駒の守備…仕上がり始めましたかね」
試合を観戦していた赤葦が言った。
木兎は何も言わず、見ている。
研磨によるサーブ。
先と同じようにネット際、日向の前に落とす。
膝をつきながら、上げる。
そのため、マイナステンポに入っていけない。
囮無しで最も安全な人物、綾隆にトスがセットされる。
『ドォン!』
『バヂィィン!!』
今度はタイミングをはやく打ち、ブロックの完成前に叩き下ろす。
だが、ギリギリで反応し、夜久が腕に当て繋ぐ。
灰羽が最後に押し込む。
日向への揺さぶりでまたも前に落とす。日向はなんとか繋ぐ。
アンダーで影山は綾隆にセット。
綾隆は助走無しで跳んでクロスへ打つ。
『パァン!』
今度は綺麗に上げた夜久。
ただ拾って攻撃し返す。ただし万全の体勢で。
単純で、でも困難なそれをごく当然の様にやる。強烈なスパイク・ブロック・サーブで圧倒してくるわけじゃない。でも気付けば背後に迫っている。
それが音駒だ。
ファーストテンポのシンクロによる音駒の攻撃。
福永が打った。
「ふぐっ」
西谷が辛うじて上げる。
「よっよし押してる押してるよ」
音駒女子は声を張る。音駒の流れになってきているのが目に見えて分かる。
赤葦が言ったように守備は完成に近付いているから。
だが、烏野は上がれば十分。
素早くボール下へ移動する、影山。
難しい体勢から日向へボールを送り出す。
ドンピシャなトス。
『スパァン!』
当然の様に跳んでいた日向が決めた。
『こ、こぉれは何と強引に!しかし鮮やかに!!速攻をねじ込んできた烏野一年生コンビ!!』
「なんなのぉ~~~」
音駒女子は胸を抑えていた。
「分かってたよ。百も承知二百もがってんですよ」
黒尾は言った。
何故、がってんと言ったのかは分からないが、音駒もそんな滅茶苦茶な烏野を承知している。
烏野には影山がいることを。
「いや~慣れないっスワ~~」
「相手の攻撃をキッチリ攻略してカウンターに転じるのが音駒で、相手の攻撃は攻略しきれなくても強引にカウンターはかましてくるのが烏野」
観客席で見ていた親善高校も、嫌だね~と零す。どちらも戦いたくない相手だろう。
【猫の爪】
17-15
『ピーーー!』
『シュルルルル』
影山はボールを回し止める。
高く上げ高く跳んだ。
影山が狙った場所は常に取られ続けている、海。
海も狙われると理解していたのか、ボールの真正面へすんなりと移動する。
だが、グリっと曲がる。
『バサッ』
副審が旗を上げる。惜しくもアウトだった。
海は内心、冷や汗を流していた。
はんすう中の影山、グリって曲がったんだけどグリって…と怯える日向。
17-16
灰場のサーブ。
日向を狙った、ネット際のサーブ。
「ライッ!!」
だが、拾ったのは西谷。
そこから烏野の多彩な攻撃…とはならなかった。
逆サイドへ移動しようとした日向の動線を西谷が潰してしまっていた。潰させられたからだ。
その一瞬の躊躇で、日向は攻撃の参加から外される。
そして、バックアタックの助走も日向で潰されていた。
空いているレフトへ影山がトスをセットする。
『ドォン』
『ズッダァァアン』
綾隆がブロックガン無視で決めた。
18-16
夜久 研磨 福永
山本 海 黒尾
ーーーーーーーー
東峰 澤村 日向
西谷 影山 綾隆
「ひえぇ~~もう回って来たの!?」
「はやっ」
「腕捥げサーブの人…」
音駒の応援団は綾隆のサーブが回って来たことに嘆いていた。
一つ一つのラリーが長かったため、ローテが早いわけがない。が…そう言った嫌な事は人間の体感を崩す。
『ピーーー!』
綾隆はサーブトスを上げる。
軽く上げ、軽く跳ぶ。
そして、強めに押すように打つ。
白苔ギリギリを超え、向かう先はリベロ、夜久。
音駒は、この物好きが…と思った。
烏野は、また相手を虐めてる…と思った。
綾隆は試合が始まってからリベロを狙い続けている。
この展開は稲荷崎からもあったため、誰も疑問に思わなかった。
故に何故、リベロを狙っているのか誰も聞かなかった。
それも計算の内なのだろう。
先までジャンプサーブだったのが、ジャンフロになり、対応しきれず、腕に当てただけとなった。
山本が繋ぎ、福永へ。
日向と澤村の二枚でブロックを跳ぶ。
「ワンタッチィ!」
日向は叫ぶ。
着地し、すぐに助走を取り、マイナステンポで入っていく。
影山は日向へトスを持っていく。
ブロックを掻い潜るが、待ち構えている夜久。
レフト山本にセットされる。
日向、澤村がまたもブロックに跳び、抜けた先に綾隆が待っている。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
東峰さんへセットされ、ブロックアウトを狙うも、繋いでくる。そして、研磨が空いているところに押し込む。
烏野も崩れながらも繋ぎ、影山から日向へマイナステンポ。
『ダァン!』
烏野コートに叩き落とした。
「「「「しゃああああ!!」」」」
『ここで音駒にブロックポイントーー!これは読んでいたのか、日向翔陽にブロック3枚ィーーー!』
『ピーーー!』
烏野のタイムアウト。
灰羽は無意識に口に手を当て考えていた。そして、理解し口を開く。
「研磨さんてコワい…」
「気持ちは分かるよ」
海は灰羽に便乗する。
先の日向への超速攻は研磨が読み、三枚のブロックで跳ぶように指示を出していた。
崩れた時だからこそ、烏野は超速攻を使う傾向にある。
それを読んでいた。
「日向が俺のサーブで崩されて、十分な助走を取れないなって思う場面は何回もありましたね」
「お前は殆ど、サーブミスったじゃねーか」
灰羽の発言に夜久が突っ込む。
「烏野はMBを多用するチームだし、それが強さの要因のひとつで多少レシーブが乱れても影山なら難なく、速攻をねじ込んでくる。
でも日向自体を牽制できれば、あの速攻も使いようが無い」
「翔陽も多分それを感じてて。絶対苛立ちとか焦りは出てくる。綾隆ばかり目立ってるし」
と研磨は息を整えながら言い、更に続ける。
「跳ぶの大好きな翔陽。さっきは綺麗に決めて勢いに乗った翔陽に今回も上がると思った」
「研磨さん怖いです」
灰羽が再び口に出した。
「なら、今んとこイイ感じなんじゃないの?」
「そうだね…綾隆に集まってるし、翔陽も動いてはいるけど、ボールは然程集まらないし、余り決められていない」
点。だけじゃなく、線。翔陽の動線を断つ。助走は翔陽の翼だね。…と研磨は一人心の中で思い、完全に日向を封じる王手を掛けた。
一方、烏野は…。
「完全な日向封じか…どうするんだ?」
澤村は綾隆を向いて問う。
「試合前に言った通りです。対応してくるなら、更に新しいことをするだけ。上から捻じ伏せます」
綾隆は淡々と言った。ドリンクを一口飲んでから、更に続ける。
「いけるよな、日向。動線を断たれるなら、更に動いて動線を増やせば良い」
「ああ!当然だ!!」
烏野の方針は変わらない。
「ちなみに動線ってなんだ??」
「「「…………」」」
両者コートへ出て行く。
18-17
山本 夜久 研磨
海 黒尾 福永
ーーーーーーーー
東峰 澤村 日向
西谷 影山 綾隆
山本のサーブ。
ジャンプサーブの為、日向は狙わない。
サーブは綾隆が取る。
日向へマイナステンポで影山がボールを持っていく。
さっきの今で、怖がらず持っていくのは、いつだって強気の影山だからこそ出来ることだろう。
だが、ブロックを掻い潜った先に待っているのは、リベロ夜久。
真正面で日向のスパイクを迎え入れる。
音駒の守備が烏野の攻撃に適応した証拠だ。
音駒によるファーストテンポのシンクロ攻撃。
黒尾にセットされるが、影山が取る。
「綾隆!」
綾隆がセットに入り、日向へマイナステンポ。
二枚のブロックに阻まれるが、弾き横へ出て行く。が、福永が拾い、研磨が繋ぎ、黒尾が返す。
「チャンスボール!!」
烏野は一斉に走り出す。
日向は一人飛び出し、入っていく。
横へブロード。
クロスを締められ、ストレートを打つ。
『スッパァン!』
副審が旗を上げる。
アウト。
「あれっ?」
日向の素っ頓狂な声が響く。
『意気込み過ぎたか日向翔陽!スパイクは惜しくもサイドラインを割ります!』
「へっへーん!日向俺にビビったんだろ!」
灰羽は得意げに日向に言った。
「ニョ二ヲッ!?ちっげーし!!」
分かりやすく動揺する日向。
「違わねえ、もっと落ち着けボゲ」
影山はいつだって厳しい。
『そして、ここで音駒高校、烏野高校の背中を捉えた!!』
18-18
しかし、次の山本のサーブは惜しくもアウト。
19-18
日向のサーブだが…「すんませぇんっ!!」「ぼげぇ日向ぼげーー!」日向は西谷と交代しベンチに下がる。
19-19
そして偶然か必然か、ポンポンと互いに決まっていき、颯爽とローテが回っていく。
20-19
21-19
21-20
22-20
22-21
23-21
すぐに日向が前衛に回って来た。
福永 夜久 海
研磨 灰羽 山本
ーーーーーーーー
日向 綾隆 影山
澤村 東峰 月島
▽▽▽
なんだろ…嫌な感じだ。
日向が前衛に回って来たのに、良くない感じがする。
この試合、中盤から日向の得点が、少なすぎる。
端から見たら、日向は点取りマシーンみたいなイメージがあるのかも知れない。
でも、日向の得点は、実際は物凄く多い訳じゃない。多いは多いけど…。
日向の一番の武器は囮。
だから、得点が少ない時もある。
でも、この試合は極端に点が取れていない。
スパイクを打っているのに、全く点が取れていないし、囮として跳ぶ機会も少ない。
これが…音駒の適応だろうか。
何かして、日向…。
多分皆、そう思っている。
日向が動けば皆が点を取りやすくなるのだから。
▽▽▽
月島のサーブを綺麗に上げ、ファーストテンポで入ってくる。
リードブロックでオレと日向の二枚で跳ぶ。
「ワンタッチィ!」
日向が叫び、着地したと同時に走り出す。
オレにトスが上がる。
三枚のブロックが付くが、ブロックを弾き飛ばす。
だが、福永が後ろで待っている。
研磨が山本へ上げ、山本がブロックに当てる。
サイドラインを大幅に超え、落ちる。
「今のは仕方ない!切り替え切り替え!」
23-22
研磨によるサーブで、日向をネット際で固定する。
日向は上げてすぐに、クロスへ走り出したが、上がったのは東峰さん。
『バックアタック東峰!!』
日向の顔はどこか浮かないようだ。
動こうとしても、動線を増やそうとしても、そう簡単に解決できるものではない。
24-22
『さあ、じわじわと追い上げつつある音駒ではありますが、烏野のマッチポイントであり、今日絶好調の影山のサーブです!』
『あ、音駒は影山のサーブに対して、先程まで三人対応だったんですが、強烈なサーブに対して前衛レフト山本もレシーブに加えて守りを固めます音駒。攻撃への攻撃が遅くなってしまう可能性もありますが…誰に来てもいいぞってことなんでしょうね』
『ピーーー!』
影山はジャンプサーブを放った。
ボールは福永へ。
綺麗に真正面で上げて、レフト山本が決めた。
「んんーーー!!」
音駒はガッツポーズを作った。
『ビッグサーバー影山のサーブを一本で斬りました音駒高校!』
24-23
▽▽▽
『ピーーー!』
サーブの笛が鳴ると同時に灰羽はサーブを打った。
サーブは澤村が取る。
これこそ、音駒の計画。
それは少し前、タイムアウトの時。
「最強の囮を邪魔できればブロックは格段に動きやすくなる。綾隆一本に絞れたら尚良いね」
研磨はベンチに腰を下ろし言った。皆は黙って聞く。
「迷ってくれるだけでもいいんだ。
翔陽は今、絶対レシーブの意識が高くなってる。
その意識の高さが迷いを生むし、迷いが一歩の遅れを生む。
翔陽はきっと全部頑張る。レシーブも助走の確保も。
でも頑張って何でも出来るわけじゃない。
スピードのかく乱も190㎝のブロックとも戦えるジャンプも一歩遅れるだけで全部遅れて、あの存在感は霞んでしまう。90%であっても台無しなんだ」
よく観察している研磨は、物事を的確に分析する。
そして、よくゲームをしてきた研磨は、攻略するためにその特技をバレーでもフルに発揮する。
今回もその攻略の糸口は掴んでいた。
「だって100%で跳べない翔陽に影山は興味なんか無いでしょ?」
研磨は最後に言った。
「でも…」と黒尾が口を開く。「大丈夫なの…?綾隆とか、なんか大人しくない?」
「確かに大人しいな」
「多分、更に上から捻じ伏せるってのが、今回の烏野の戦い方なんじゃないかな?」
「なにその、脳筋」
「でも烏野からしたら、それが一番勝ちやすいと思うよ。今、勢い乗ってるし、変に策を投じない方が良いと思う」
「な~るほど」
「これは俺らが、ちゃんとパーの役目を果たさないとね」
黒尾がそう言った。
だが、数人は何のことって顔を傾けている。
とまあ、そんな会話をしていた。
日向の助走を潰し、囮の役目をさせない。
ついでに、バックアタックからの東峰、レフトから澤村の助走も潰していた。
ライトから綾隆の一択。
三枚のブロックが綾隆に着く。
綾隆はブロックに当て、またも吹き飛ばす。だがやはり後ろで待っている灰羽。
研磨は繋ぎ、海へ。
三枚のブロックを吸い込むように烏野コートに落ちる。
「しゃあああああ」
『音駒高校、土壇場で追いつきました!』
24-24
灰羽のサーブはネットに当たり、IN。日向は膝を付きながら上げたが、ネットの真上で黒尾に叩きつけられる。
24-25
しかし、次の灰羽のサーブは届かず、アウト。
25-25
『烏野のビッグサーバーはもう一人います。清田綾隆!』
笛が鳴り、綾隆はサーブトスを上げる。
軽く跳び、回転を掛けたジャンフロ。
「アウト!」
サイドラインより少し外側。
音駒はそう判断したが、直後、俊敏な動きで夜久が、コートへ入ってくるボールを上げた。
「カバー!」
山本が繋ぎ、研磨が日向へ返す。これもネット際で日向を助走へ参加させない。
だが、出来る限り高く上へ上げる。体勢の悪いときに上へ高く上げるのは難しいのだ。
日向はその少しの余裕でクロスへ走り跳ぶ。
だが、十分な高さではない。
残酷ではあるものの、影山は十分な高さでない日向に興味を示さない。
「レフトー!」
レフトから東峰が入っていき、ブロックに当てコート外へ。
「うお~アブねぇ」
本音が漏れる東峰。
26-25
『ピーーー!』
『バヂィィィン!!』
夜久がまたもギリギリで繋ぐ。
だが、今度はジャンプサーブだったため、当てただけで高く上がった。
研磨から黒尾へ。
「ワンタッチィ!」
日向のブロック。
綾隆が上げ、影山から日向へマイナステンポ。
ブロックに当て、コート外へ出そうとするが、きっちり対策を取っているのか、夜久が上げる。
そして、研磨が繋ぎ、黒尾が日向に返す。
上げて、助走距離を確保する。
そして、もう一度スパイクに入っていく。
『ドォン!』
綾隆にセットされ、二枚のブロックが付くが、叩き下ろす。
だが、これも夜久が繋ぐ。
そして、また烏野コートに返ってくる。
今度は、東峰にセット。
そっとフェイントでブロックを躱し音駒コートに落ち…ない。
これも、音駒は繋ぎ、返す。
日向に上がるがブロックで阻み、高く上がり烏野コートへ。再び烏野のチャンスボール。
『ドォン!』
ファーストテンポのシンクロ攻撃から綾隆にセット。
『バッヂッィィィン!』
最後はブロックを抉じ開け、打ち下ろした。
『よ、よ~~やく!コートに落ちました!最後の長い長いラリーを制したのは烏野高校!!』
『第一セットを取ったのは烏野高校!!』
「出たな…音駒。もう本調子って感じ」
「音駒が?でも、烏野が取ったよ?」
「うん、でもあの16番も力任せに打った感じだった。ギリギリだったんじゃないかな?」
「守備が完成するってこと?」
「そうそう!そうなんだよ!」
音駒のことは、まだ気に入らない優だが、彼女がバレーのことを理解してくれていることが何よりも嬉しかったようだ。
▽▽▽
「ふぃ~~~何とか一セット目乗り切ったな!」
「危なかったぁ~」
「と言うか、これ何セット目?今から5セット目かぁ?」
タオルで額を吹きながら、東峰さんが言った。
「まだ1セット目っすよ」
「そうですよ!今から2セット目が始まります!!」
「あと、3セットマッチなんで5セット目は無いですね」
「ウン、そうだね…」
日向影山が突っ込む。暑苦しい…あいつらはかなり動いているはずだが、元気だな…。
「はい、綾隆」
清水先輩からボトルを受け取り、キャップを外し口の中に流し込む。
オレも思いのほか、飛ばされたな。
「というか、サーブでの日向狙いえぐいな…俺達が尾白アランにやろうとしたことを、日向にやってきてるわけだな」
菅さんが言った。
日向はその言葉で、目を輝かせた。
大方、全国5本の指とイコールで結ばれた!なんて考えてるんだろう。
「うるせえ」
影山も同じことを考えたのか、まだ何も言ってない日向に突っ込んだ。
「ンまだ何も言ってねえし!!」
日向は突っ込む。
「言ってないだけで、考えただろ?同じことだ」
オレもそれに乗っかることにした。
「考えることも駄目なのかよ!」
「そんなことを考えてる暇があるなら、レセプションのことを考えてろ。
お前が囮として機能しなければ、チームは機能しないぞ」
「わ、分かってます!!」
「つっても、前に出てレシーブして助走しに戻ってスパイクって、無理があるからなあ」
「どうすれば良いか…」
皆がオレの方に向く。
「こいつの場合、ボールの落下点の予測が遅いんですよ。余裕のある体勢でレシーブすると同時に後ろへ下がるだけでいい」
「それが難しいんです!!」
「なら、もっと動け。お前の唯一の得意分野が何も発揮されていない」
「唯一じゃねーし!」
「だが、日向…今、お前に残された選択肢は、いつもより運動量を増やすしかないだろ?」
サーブで狙われる。それはエースがよくされるが、今回は日向がマークされている。
点取りマシーンで囮という役割を持つ日向を封じ込むためには、それが最も効果的だ。
サーブを拾わないという選択肢はなく、誰かが代わりに拾っても、その誰かのスパイクは潰れ、下手したら多くのスパイカーの動線を潰しかねない。
結局は日向自身が何とかしなければならない。
「うっ…そ、そうですね」
コートへ出て行く。
▽▽▽
「ふうぅ~~~~」
烏野がギリギリ1セットを取れたことで、ようやく息を吐くことができた。
あと、少し遅かったら三途の川を渡っていたかも。
「やっちぃ~お~い」
あ、木兎さんと赤葦さん。
「こんなとこに居たんだ。ちっこくて見えなかった」
「ウ…ウス」
それは少し刺さる…。
「おんもしれえ試合になってんなあ~」
「ハイ…心臓に悪いですけどね…ハハ」
「負けるとか考えて水を差しちゃだめだよ。水を差すの使い方合ってる?」
「合ってます」
「後の事じゃなく、今、見て。俺達がどのくらい強くなったかを見て」
「木兎さん、ちょっと圧が強いです。ごめんね」
「いえっ…今までの自分に無かった思考を思い知るのは痛気持ち良いです」
【不変】
第二セット。
福永 夜久 海
研磨 灰羽 山本
ーーーーーーーー
日向 綾隆 影山
澤村 東峰 西谷
音駒はローテーション変えて来たか。
日向狙いのサーバーを増やしてきたな。
まあ、有難いことだ。
『ピーーー!』
「「「サッコォォイ!」」」
福永が、サーブで日向を狙う。
ここは日向…ではなく、その後ろの主将が上げた。
だが、日向だけではなく、主将の助走も潰された。
ここで、セットされるのはオレか東峰さん。
『ドォン!』
オレは高く跳ぶ。
『バァアン!』
ブロック三枚を躱し、スパイクを打ったが、夜久さんが待ち構えていた。
「「「ナイスレッシーブ!!」」」
研磨から灰羽への速攻。
オレと日向の二枚ブロック。
「ワンタッチィ」
ブロックに当たり威力を弱める。
日向はすぐに助走を取り、マイナステンポで跳ぶ。
後ろから、東峰さんのバックアタック。
だが、またも繋いで返してくる音駒。
そのラリーが四回ほど続き、最後はオレがブロックに当て、コート外へ飛ばした。
「「「「ナイッスッキー……」」」」
皆、既に疲れたぁという顔をしている。
『最初から怒涛のラリー。既に疲労の色が見えます』
1-0
「「「影山一本ナイッサー!」」」
『ピーーー!』
一セット目終盤と同様に、音駒は4人で影山サーブに対応する。
影山がサーブを打つ。
綺麗に福永が上げた。
研磨からリエーフにセット、速攻か。
オレと日向でブロックを跳ぶ。
なるほど、オレにも揺さぶりを掛けているのか。
良い手だ。
「ワンタッチ」
西谷先輩が上げ、影山から東峰さんへ。
「ワンタッチィ!」
リエーフが叫ぶ。
今度もリエーフへの速攻。
あっ…。
『カスッ…』
リエーフの指先に当たり、烏野コートにストンと入って来て落ちた。
この…下手糞が。
「ぶわっはっはっは!リエーフ、お前恥ずかしいとこ見せんじゃねえ!」
コート外から笑いながらキレていたのは黒尾。
「リエーフ…張り切りすぎ、合わなくなるから止めてってつったじゃん」
研磨が咎める。
「は~い、ドンマイ。仕方ない仕方ない」
主将が手を叩き切り替えるように促すが…。
「ぷっふっふっふ」
日向が失笑する。
「お前も人のこと言えないだろ。下手糞」
影山が突っ込む。
「何だと!」
「本当の事だ」
オレも影山に便乗する。
「うっ…」
『ちょ~っと今のは、合わなかったか音駒高校…ぷ』
実況にも笑われ、更に顔を赤めるリエーフ。
奥の観客席で、顔を赤らめているリエーフの姉が見えた。
1-1
研磨のサーブはやはり日向狙い。とは言っても、直接日向を狙ったわけではなく、西谷先輩を使って動線を潰した。
影山からオレへ。
『ドォン』
『バッヂィン』
ブロックに当たり、夜久が拾う。
福永が繋ぎ、研磨が返す。
それも全て日向を狙ってくる。
前に跳び、日向が上げる。
『絶対ただでは返さない。曲者孤爪研磨!!』
『孤爪くん本当によく見てますね。しかし日向くんもナイスレシーブ!』
出遅れた日向は使われず、オレにトスが集まる。
まるで牛若になった気分だ…。
オレのスパイクを拾い、研磨からレフト山本へ。
『バッヂィン!』
もう数えきれないほど跳んでいるが、レフトまで走っていき、日向は跳んだ。
そして、夜久さんの体に当て、落ちた。
まるで跳ぶのは別腹です!とでも言いたそうだ。
『ここでブロックが出るーー!!』
『日向くん速かった!』
『おっとこれは…どうやらタッチネットがあったようですね。音駒命拾い』
「「「「ラッキラッキ音駒ー!!押せ押せ音駒!!」」」」
「日向すげーなっ」
リエーフが日向に絡む。
「おれは跳べる」
「結果はタッチネットだけど!武虎さんをビビらせたぜ!んがははは」
渋い顔になる二人。
どうやらリエーフは本当に凄い奴だったようだ。
敵味方関係なく、同時に煽るテクニックを持っているようだ。
1-2
またも研磨のサーブは主将と日向の間で日向を牽制した。
主将が取ったものの、速攻には入れずオレへ上がる。
ブロックに当てリバウンドで一度仕切り直す。
日向を牽制するのはオレとしても構わないが、日向が動かないのは、こちらとしては良くないことだ。
水を得た魚のように日向は走り出す。
そして、マイナステンポで跳ぶ。日向へセットされるが。
嘗て、青城との試合のときに、ブロックで誘導されたように、ストレートだけに絞らされた。
打った先に居るのは、夜久さんできっちり上げられる。
「「「ナイッスレシーブ!」」」
研磨から海へ。
オレと日向で跳ぶが、ブロックアウトで点を持っていかれる。
1-3
次は何とか取り返す。
2-3
オレのサーブだが、夜久さん狙いで上げられ、決められる。
2-4
▽▽▽
綾隆が何を狙ってるのかは知らないけど、何もしてこないならこっちは突き放すチャンス。
俺はリエーフに指でサインを出す。
6
翔陽の後ろ辺り。
リエーフに意図は伝わったかな?
リエーフのサーブにより、またも翔陽を牽制する。
翔陽がライト位置に居る時の攻撃で多いのは、澤村くんと入れ替わって真ん中に切り込むパターン。
でも今日、翔陽は自分が狙われるのを分かっててレシーブに加われる位置に構えてる。
そして、ライトから攻撃に入る時、外へ大きく開いて助走を確保。
だから澤村くんと翔陽の道を…綾隆で封じる。
リエーフのサーブは想定通り、綾隆が上げた。
そこから絞り込めるのは、エースだよね。
二枚のブロックがつく。
「ワァンチ!!」
クロがブロックを跳ぶ。
明確に翔陽を足止めできないけど、ここまで翔陽の存在感を薄めさせられたのは、正直予想以上だった。……予想以上……?
一斉に走るファーストテンポのシンクロ攻撃。
これはまだ烏野のように全員では出来ないけど…。
「俺も居るぞ!!」
えぇ~後ろからリエーフが出て来た。
さっきミスったばっかじゃん……決めたけど。
まあいいや。
リエーフにセットする。
ブロック一枚だけ。
『スッパァン!』
と烏野コートで響く。
「急にやんのやめてっつってんじゃん……」
でもリエーフは笑顔で返してきた。
「でもできました!」
翔陽がこちらを見ているのは分かるけど、でもごめんね。
面白くない。面白い翔陽が終わったから。
あとは綾隆だけだね。
翔陽と同等、それ以上の運動量を見してる。
未だに、底が見えないし、何考えてるのか分からないけど。
バテさせれなくても、ほんの少しだけ頂上から降ろせれば良い。
それが出来れば、ウチなら上げられる。
2-5
▽▽▽
『烏野高校、離されましたね』
『音駒高校らしさが出てきましたね。相手の攻撃に慣れ始めたことでしょう』
『ピーーー!』
リエーフのサーブは「アギャッ!?」とネットにかかった。
3-5
日向は研磨の様子を伺い、かなり屈辱的な顔をしている。
研磨はもう日向に興味を削がれたようで、オレに視線を向けている。
今度はオレか…。
だが…日向である。それは忘れない方が良いと思うが…。
日向のサーブはチャンスボール。
綺麗に上げてレフトから山本が決めた。
3-6
日向は西谷先輩と交代をし、下がっていく。
山本のサーブでオレを牽制。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
影山から東峰さんへ。
「ワァンチ!!」
音駒は黒尾が。
「ワンチ!」
烏野は月島が。
オレとしてはさっさとローテを回したいが、こいつらは粘りに粘る。
「ワァンチ!!」
「ワンチ!!」
「ワァンチ!!」
「ワンチ!!」
「ワァンチ!!」
「ワンチ!!」
何度か繰り返され、ようやく音駒コートで落ちた。
長いな。
一つ一つのラリーが長すぎる。
基本的に3セットの試合は1時間から1時間半掛かる。が、この試合は二セット目序盤で既に2時間が経過しようとしている。
いつになくミスの少ない烏野だから仕方のないことかも知れないが…。
4-6
主将のサーブ。
上げて、直ぐに攻撃に転じる音駒。
研磨から、黒尾へ速攻。
強打ではなく、フェイントか。
主将が取ると同時に東峰さんの助走を阻む。月島がオレへ二段トス。
ブロックに当て、いつもより後方へ飛ばす。
ギリギリで繋ぎ、返ってくるが、またも東峰さんと主将を牽制する。
「綾隆!」
オレへ三枚つく。
左で三枚を躱すように打つ。
が、読んでいたのか、海が上げる。
研磨からレフト福永。
「ワンチ!」
月島がブロックで阻むが、サイドラインを越えて出て行く。
主将が繋ぎ、影山から東峰さんへ。
だが、ブロックで阻まれ、返ってくる。
西谷先輩が上げ、ファーストテンポのシンクロ攻撃。
オレにセットされる。
『バッヂィィィン!』
コート外へ出て行った。
「「「「しゃあああああ」」」」
ようやく決まったためか、皆は快哉を叫ぶ。
5-6
だが、次はすぐに決められた。
5-7
海のサーブを上げて、ファーストテンポのシンクロ攻撃。
バックアタックで主将。
「下がれ!!」
黒尾が指示を出し、ブロックゼロでスパイクを歓迎するようだ。
主将はあまり高さが無い。
そのため、打ち下ろすことはまず無い。コート奥を突いてくると読まれたようだ。
それでも、ブロックなしでレシーブできるのは音駒の守備力あってのもだろう。
音駒のファーストテンポのシンクロ攻撃。
月島のブロックに当たり、烏野コートで落ちる。
5-8
海のサーブを西谷先輩が上げる。
二段トスで主将から東峰さんへ。
音駒のレシーブが可能性のあるポジションに着き、準備が完了した。
ブロックはストレート気味を締められ、クロスには夜久さんが待っている。
逃げるように放たれたスパイクは、サイドラインよりやや外。
アウト。
『このスパイクはアウトーー!!音駒高校、差を広げます』
上がって行く守備力。
繰り返し拾われるストレス。
そして疲労。
余程、精度の高い攻撃をしなければ、拾われてしまう。
必要以上に守備を意識してしまうが故の、ミス。
これが、守備の完成形か。
5-9
▽▽▽
「ワンチ」
「ワァンチ」
月島も向こうのトサカヘッドも良く粘りやがる…。
いつも以上のラリーの長さは、ウチにはキツく音駒にとっては通常通り。
東峰も澤村もかなり牽制されている。
やはり、狙われているのは…綾隆か。
予想を上回るのは、ウチの専売特許では無い…か。
あのプリン頭の策略にはいつも舌を巻く。
「綾隆」
影山からの綾隆頼みのトス。
『ドンッ!』
ッ…。
『バァン!』
綾隆のスパイクは4番(山本)に上げられた…いつもなら、リベロしか上げられていなかった。上げられても繋ぐだけだった。
それに…高さが少し…足りていなかったように思える。
体力不足…いや、そうは見えない。
だが、疲れが溜まっているのは仕方のないが。
最高高さが維持できなくなったか…?
「ワンチ!」
月島のブロックから、影山からまたも綾隆へ。
今度はブロックに当て、横へ大きく飛んでいく。
「ふぅ~~」
腹に溜まった息を全て吐く。
これは何とかしねーと…。
田中か…いや、まだだ。
取り合えず、今は…頼むぜ…最強の囮。
6-9
▽▽▽
次はもがく良い。籠から出たくて焦りと苛立ちから抜け出すための、近道を探して目先の新しさを求めて、そうすればきっと次は、チーム全体のバランスが崩れていく。
▽▽▽
6-10
7-10
7-11
7-12
日向が前衛に回って来た。
月島サーブだが、『ピーー!』交代で菅が入る。
「うおおおお!?」
日向が急に自分の頬を叩く。
何か嫌なことを思い出したのか…?
「はい上げて上げてーー!こんなお祭りそうそう無えのに、二セットだけで終わるなんてもったいねえべや」
「それはこのセットを落とそうという事か?」
「ん?あ、そうだったそうだった、一セット目はウチが先取したんだったな!わりぃわりぃ何か暗いから一セット目も取られてこのまま終わっていくのかと勘違いした!」
ワザとらしく言う菅に皆が笑みを見せる。綾隆はいつも通りだが。
「別に下がってない」
珍しく突っ込む旭。
「あ、そう?」
『ピーーー!』
菅が打つ。
全力で点を取りに行く。
それは常に変わらない。
でもたとえ得点に直結しなくても、万全のチャンスボールを勝ち取れ。
今まで数えきれない程、道を作ってもらってきた。
菅のサーブで6番(福永)を牽制。
速攻で灰羽。
俺は真正面で受ける。
スイッチ。
菅と影山が入れ替わる。
攻撃5枚。
ファーストテンポのシンクロ攻撃。
「戦略的ワンポイントチューセッターーじゃ!!」
田中の姉…。
噛んだな…。
今なら日向を使えそうだが、菅は影山を選択。
4番(山本)が体に当てる。リベロが繋ぎ、孤爪が菅の少し前に落とす。
相変わらず…嫌なとこを。
スッと菅の目の前に飛び込む日向。菅と日向を同時に牽制か。
「ナイスレシーーブ…!」
でも、孤爪が日向をレシーブで閉じ込めても、決して日向はどちらかを選ぶはずが無い。
レシーブが無ければ、スパイクも無い。ボールが落ちたらバレーは始まらない。
点を取るのに近道が無いってことだけは、日向が一番知っているから。
すぐさま、日向が助走距離を確保し、攻撃に参加する。
それに釣られ、灰羽は一瞬フリーズした。
そこから旭へ。これで綾隆も少し休める。
ブロック一枚半。
『バッヂィン!』
リベロが上げる。相変わらず、もの凄い反射神経と読み。
だが、こちらに返ってくる。
「「「「チャンスボール!!」」」」
全員助走距離を確保。
だが、日向が汗で滑りボールはコートに落ちる。
『あ~~~っと!?これは汗ですね』
よりによってこんな時に…でも日向の顔は悔しいとか残念だとか、マイナスの顔ではなかった。
いつも通りの日向。
それで十分だ。
7-13
▽▽▽
研磨が日向をサーブで牽制する。
日向はすぐに助走距離を確保をする。
これは慣れといつも以上の運動量によるもの。
影山から東峰さんへ、決まり烏野の得点。
8-13
福永 夜久 海
研磨 灰羽 山本
ーーーーーーーー
澤村 日向 綾隆
東峰 西谷 影山
影山によるサーブ。
『ピーーー!』
サーブトスを上げ、『ボッ!』打った。
『ズッパァァン!』
海の横、コートギリギリに落ちた。
「「「「ナイッスコーーッス!!」」」」
9-13
もう一度、影山のサーブ。
今度は福永が上げ、夜久さんが繋ぎ研磨がまたも嫌らしく、日向主将を牽制。
少しお見合いし、上げる。
西谷先輩が繋ぎ、オレが返す。
音駒のファーストテンポのシンクロ攻撃。
日向と主将が、リエーフにブロックを跳ぶ。
世界がスローモーションへと変わった。
いや……変えてしまった。
リエーフが狙う位置が見える。
影山の位置が分かる。
影山の腕を弾いたボールはサイドラインを出て行くのが分かる。
「オレは影山のようには出来ない。」前に言ったセリフだ。
圧倒的な才能の前では誰も勝てないからだ。
だから、ここから速攻につなげるのは不可能であり、影山以外が速攻に繋げることはできない。いや、影山でもこれは無理だな。
この弾かれたレシーブからでは、繋げることさえ厳しい。
繋ぐことが出来たとしても、烏野の多彩な攻撃は死ぬ。
日向と言う圧倒的な存在感は無に等しくなる。
これこそが音駒の狙い。これを続けられたら負けるだろうな。
……
…
まだスパイクは打たれていないが、オレは走り出す。
1~10では足りない。A~Z、Ⅰ~Ⅴ、これまでのあらゆる経験から11を…20を100を導き出す。
圧倒的な才能で天才に負けるのなら、圧倒的な経験数で天才を圧倒する。
凡人が天才に勝てる唯一の方法。
影山がレシーブする前に走り出し、ボールが通る下へ潜り込む。
影山のような技術で劣るなら、早く動きセット位置へ。
日向は着地し、オレを見て勘づいたか、再度跳ぶ。
日向の急な変化に対応できないなら、あらゆる日向の動きを計算しオレが日向の跳ぶ位置を誘導する。
この位置から、このタイミングで、この角度へ。正確に日向へボールを送り出す。
どんぴしゃ『スッパァン!』
「「「「「…」」」」」
静まり返る会場。
どこであろうと変わらない。
分析し、学び、自分の力へと変えていく。淡々と繰り返す。
はあ…。
「力を持っていながら使わないのは愚か者のすることだ」
嫌な言葉だ…結局、オレはまだあいつの掌の上なのかもしれない。
オレが活躍すれば、父親を肯定してしまうのだから。
『『キュ…』』
静寂に包まれた会場で動けたのは、オレと日向だけだった。
その音ともに『ピッ!』審判が笛を鳴らす。
『決まったーー!!ここで来た日向翔陽!!何というセットアップ、清田綾隆!!』
「しゃあああああああ!!」
一目散にオレに飛び付いてくる日向。
オレは引きはがし、頭を鷲掴みにし持ち上げる。
「よくやった」
「何で上から!?」
「よく上げた」
後ろから強烈な圧を出した影山に褒められた。
「「ど、どうも」」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
と皆が喜び勇んでいる。
『パンッ…パンッ…パンッ…』
コーチが渇いた拍手を送ってくる。だが、顔は笑顔だ。
▽▽▽
「このぉ…綾隆までも…奴らには、もう少し危なげない道を選ぶという選択はねえのかね…!?」
黒尾はそう零す。
研磨は何も言わず、苦渋な表情を露わにする。
「ほっほぉ…烏野16番、なんてセットしやがる…せっかく封じ込めた烏を放してしまったではないか…。
まったく、俺達の全力を次の瞬間に超えてきやがる。
これだからこいつらは嫌いなんだ。
そして…面白い」
猫又はそう一人ごとのように呟いた。
「なんだよ…今の…」
「あんなの、あり~~」
音駒観客席では不満の声が上がり、呆然としている。
「なんて…くぅ…なんて…くぅ」
「あかねちゃん…まず息しよ」
音駒女子は胸のトキめきが止まらなかった。
「おいおいおいおい~なんじゃ今のは…何であそこにレシーブされるって分かったんだよ…なんで跳んでたんだよ」
優は何故か苛立ち、貧乏ゆすりが止まらなかった。
「優…くん、なんでそんなに怒ってんの?凄かったじゃん?」
「あ、ああ~ごめん!いや、だってさ、未来でもみたかのような動きだしだったじゃん?」
「レシーブ前から、ビャッて動いていたね」
「それだけでも意味が分からないのに、烏野10番はなぜか跳んでいた」
「なるほど~信頼だね信頼」
「うおおおお!!うげぇぜ!!」
「木兎さん…日本語…ですが凄いですね。正直自信なくしました」
木兎語を正確に解釈し、素直に感心する赤葦。
「ほぉっ…ほぉっ…ちゅ…ちゅごい…」
過呼吸気味に喜ぶ、ひとか。
「や、谷地さん…息しよう」
「綾隆やべーーな!未来見えてんじゃん!!」
「あんなのどうやってセットまで持っていったのか分かりませんね」
再び、綾隆を見て褒めたたえる赤葦と木兎。
「谷地さん!しっかり!」
「やっちゃん!気絶している…」
ひとかはもう試合を見ていられなかった。
「はっ…なんやねん!俺の真似ばっかしよって!」
観客席からキレる宮侑。確かに体勢は宮侑に似ていた。恐らく綾隆は真似をしたのだろう。
「お前、あんなんできんやろ」
冷静に突っ込む宮治。
「出来るわ!たぶん…きっと…いつかできる」
「何で、正直に言うたん」
皆、先のプレーに目を奪われていた。
▽▽▽
「すっげぇ…」
「えぇ…凄いですね」
コーチと先生が感嘆の言葉を零す。
私も口を開くことは出来ても、何と言えば良いのか分からず、固まっていた。
「これが本気か」
「綾隆くんは以前言ってました。自分が本気を出すことはチームにとって良くないと…」
「そう言えば、言ってましたね」
「多分、綾隆くんは今までの過酷な環境から、分析し何でも自分のものにしてしまう。だから、皆のやる気を削いでしまうと考えていたのかも知れませんね」
「……」
「でも、それは間違いだった。
皆さん、違いはあれど、誰も落ち込んだりしていない。
闘志を燃やしてますよ」
「はい」
「そうだな」
▽▽▽
10-13
俺は今、猛烈に熱い。
猛烈と言う意味はわかんねけど。多分あってるはず。
『ピーーー!』
サーブトスを上げて、いつもより高く前へ飛んだ気がする。いける!!
あいつを超える!
あっ。
俺のサーブは一直線に進み、俺の前に立っている奴の後頭部を直撃…はしなかった。
寸前で避けやがったか。
というか、後ろの球をなんで分かんだ?
「ちっ…悪い」
俺は素直に謝罪してやる。
「……舌打ちしたの聞こえてるからな。今のは危なかったぞ」
詰め寄ってくるが、無視する。
別に当てようと思ったわけじゃねえ。
熱くなり過ぎた。
はんすうはんすう。
「あははは。王様ーナイッサー」
コート外から月島の声。
なんだとっ……月島が俺を褒めただと……。
「「「影山惜しかったな」」」
「あのな……」
皆もそう言ってくれる。音駒からもそう言われた。
皆、良い笑顔だった。これなら、俺も選手の状態が把握しやすい。
やはり、さっきのは良いサーブだった。あのまま冷静に打とう。
10-14
『ピーーー!』
孤爪さんのサーブはまた日向を狙った。
日向の動線を潰したか。
多分、レシーブの時の迷いも計算に入れてんじゃねえかな。
日向に打つ気があるからと言って、中途半端な状態で打たなければ、ブロックの餌食。
ミスになれば泥沼……。
すげえな、面白えな。
日向がある程度足止めされても致命的じゃない。
攻撃はサイドを中心に決まっている。
なんと言うか…きゅうくつなバレーだ。
音駒も完全に日向を封じようとは思ってないはず。日向絡みの数点を削ぐこと。
その数点をどう取り戻すか。
危険か…試す価値はあるか。
つーか、日向は使える状態か…。
さっきの綾隆のトスがあれば日向は復活するだろうな。だが今の俺には…無理だ。今はだが。今は…。
スパイカーの前の壁を切り開く。
その為のセッター。
抉じ開けるもんじゃねえ。断じてそれは違う。
スパイカーに時間(みち)をつくれ。
俺はボール下へ移動する。
日向に高いボールは上げたことはあるが、ファーストテンポかセカンドテンポのみ。
「オープン!!!」
オラ!とべ!!
高い山なりのトス。サードテンポ。
助走距離をしっかり確保した日向。
『ドンッ!!』
高いジャンプ。いけ。
『カスッ』
日向のスパイクはブロックを超え、落ちた。
このド下手糞が。
▽▽▽
11-14
高いな。今までも高いジャンプはあったが、更に高かった。
相変わらずの下手さだが。
だが、面白いな。日向に敢えてのセンターオープンか。
「あはははは日向ダセーーッ!!」
リエーフが言ったが、こいつはさっき自分が同じことをやったのを覚えてないのか?
「お前もさっきやっただろう」
夜久さんに突っ込まれていた。
「「くっ…」」
「クソションベンスパイク!!」
影山も人の事は言えないはずだ。さっきのサーブをオレは決して忘れない。
『ピーーー!』
「綾隆ーーッ!一本ナイッサー!!」
『ズッダァアン!!』
左の回転サーブが相手コートに突き刺さる。
日向の熱は38℃手前。まだまだ持つだろうが…もう夜久さん狙いは終わりだ。
いつ倒れて貰っても構わないが、2セット目中盤まで持ったのなら、次の試合に倒れて貰うのがベストだろう。
『ノーーーッタッチエェーース!!これぞ清田綾隆!!』
「「「「ナイッサーーー綾隆!!押せ押せ綾隆!!」」」」
12-14
『ピーーー!』
今度は右のジャンフロで相手のレシーブを崩す。
返って来たボールを影山がまたも日向へ。オープン。
日向の話を聞く時、よくママさんバレーや素人にトスを上げて貰っていたと聞く。決して、オープンが苦手なわけではないのか。
三枚のブロックが日向に付くが、構わず上から叩き下ろす。
「「ッシ!!」」
「まあまあのジャンプだったな」
「お前のトスはチョーすげえ」
何故か嫌そうな顔をする影山。
「褒めたんですけど」
もう速さに囚われる影山は、もう居ないようだ。
13-14
【コンセプトの戦い】
翔陽、ハイセットもちゃんと打てるのか。
ブロックの上から。
そっか。空中に居る時間が違うんだ。
タイミングが難しいんだな。綾隆と同じか。
そうだよね…。
魔法攻撃・間接攻撃。封じられたり効果がなくても、物理攻撃でブン殴ればいい、だよね。
おれは先生を見る。
先生は、言われるまでも無え、と頷いた。
もう一度、綾隆にサーブで決められた。
というかリベロ潰し辞めたんだ。
また一つクリアしなきゃダメな課題が増えた。
14-14
『ピーーー!』
『海信行に代わり一年生の犬岡走を投入します』
『ブロックが得意な長身選手ですね。これで大分、前衛が高くなります、音駒高校』
孤爪 福永 夜久
灰羽 山本 犬岡
ーーーーーーーー
東峰 澤村 日向
西谷 影山 綾隆
「頑張るぞーー!!」
おれは皆にブロックのタイミングを我慢するように伝える。
頼んだよ、変人速攻キラー。
綾隆のサーブ、守備を四人に増やした。
福永が取り、おれから犬岡へ。
上手く決めてくれてこちらの得点。
14-15
リエーフのサーブで翔陽を牽制。取ったのは澤村クン。綺麗に上げられた。
翔陽はマイナステンポで入ってくる。
リエーフ…それから犬岡が詰めて入っていく。
急に出て来た。犬岡には気付かない。
ブロックで叩き落とすけど、影山が落ちるのを阻止する。
それでもサイドラインを越えていく。あっ…!やっばい、またあれだコート外から翔陽への変人速攻。
でも、それは皆も分かっている。
翔陽に三枚のブロック。
『チッ…!』
目を瞑っていない…。翔陽はブロックの指先を当てて飛ばした。
「鬼と鬼だな」
先生がそう言った時も「でもやっぱり翔陽は金棒じゃん」て思ったんだ。
多機能・高攻撃力の金棒じゃんて。でも違った。
『今日向君、多分ブロックの指先狙って行きましたね…!いや~~恐ろしい…!ブロッカーからしたら本当に嫌な相手ですね、日向君!』
次は何が起こるかな。ワクワクが止まらない。
15-15
「すんせぇん!」「日向ぼげええ!!」
15-16
こっちのサーブを上げて、旭さんへセットされた。
『バヂィン!』
おっ…犬岡が上げた。でも、あんま驚くことじゃないか。あれだけ練習してたもんね。
俺はリエーフへ上げる。
15-17
16-17
16-18
「この烏野のローテ、俺キライ」
クロが突然そう言った。でも分かる気がする。
本当に…しつっこい!!
綾隆の広範囲レシーブ力、リベロによる技術力、澤村クンの安定したレシーブに加えて、前衛にはねちねちメガネがいる。
「クロのせいでしょ」
「なんでよ、ツッキーが自分で成長したからでしょうが」
文句を言う割には笑顔だ。
でも、このローテは本当にボールが落ちない。
はあ~布団入りたい。
17-18
17-19
『ピーーー!』
『リリーフサーバーですかね?音駒はここで一年生の手白球彦を投入します!』
クロと交代し球彦のサーブ。ワクワクする。
球彦のサーブは天井サーブ。皆、うわっこれかって顔をしている。
天井サーブっていいよね…空間とか空気とか証明とか全部利用してる感じが好き。
今時はやる人もあんまいないから奇襲感もある。でも、綾隆もできるとは聞いてない。
それでも、されるのは嫌なはず。
でもね、球彦…綾隆にだけは止めてってっつったじゃん。
「チャンスボール」
ほら、無機質な声がここまで届いた。
なんか煽られてるし…。
影山から旭さんへ。
ブロック二枚でストレートを締める。
クロスへ打ち、球彦が体に当て上げる。
福永が繋ぎ、俺が返す。
空いているところへ、綾隆を牽制できる場所。
でも、綾隆がサッと入り、後ろに下がりながら上げた。助走距離も確保されたか。
ほんっと攻略難易度難しすぎじゃない…?
『ドォン!!』
もう回復してるし、チートじゃん…。
旭さんへセットされ、ブロックに当てコートに落ちる。
18-19
翔陽がもう前衛に回って来た。いや、やっとか…。
疲れたし、全然攻略できないし。
帰りたい、風呂に入りたい、布団に入りたい。
でも…終わって欲しくない。
「ふふっ…」
矛盾してる。
攻略したら更に新しいクエストを出される。いわゆる無理ゲー。
さてと…どう攻略しようか。
▽▽▽
月島くんのサーブを上げて、プリンさんからハーフさんへ。
東峰さんが体に当てて上げた。
「ハイ!ハイハイ!オープン!!」
西谷さんが繋ぎ、日向に二段トス。
あっ…ネット近い!
でも、ブロックに当ててリバウンド!
「おお~いよっ!俺の一番弟子~!」
そう言えば、日向は木兎さんに教わったって言ってたっけ?
もう一度、西谷さんから影山君へ、そこから日向へ。じゃない!私も引っ掛かった。
綾隆へのセカンドテンポ。
ブロック1.5枚!
『ズッダァァァアン!』
よっしっ!
「うおおおお~~~綾隆来たぁー!!」
「はいそうですね」
木兎さんの叫びはこれで何回目だろうか。持つのか私の鼓膜。
だけど、私はあることに気付く。
「おお~!!追いついてた!」
今度は私の咆哮が会場に響く。
横でビクッとした赤葦さん。
「はっ…すいませんでしたっ!」
「大丈夫だよ」
ごめんなさい、赤葦さん。うるさいのに挟まれて。
19-19
だけど、今度はハーフ君に決められた。
19-20
6番の人のサーブを西谷さんが上げる。
「やっぱり、まだ日向潰しは継続ですね」
「はいぃ…」
でも、日向は速いだけじゃない。
「オープン!」
影山君が日向へ高いトスを送る。
三枚のブロック。
「今回はブロックのタイミングが完璧だぜ~」
高さ勝負は無理!
ブロックの隙間を日向が通した。
でも、待ち伏せしていたリベロさんに真正面で受け入れられた。
「うおお~すげえ」
「はい、凄いですね」
プリンさんから4番さんへ。
ああ~決められた。
「今、ブロックの隙間に完全に待ち構えてましたね。日向なら抜けるだろう。ギリギリの道をあえて作っていた…作らせていた」
赤葦さんがそう説明してくれる。
「ほ~ん」
木兎さんがそう返す。
「クソクソクソクソクッソかっけぇ~~」
西谷さんがそんなに言うなんて…余程、凄かったんだろう…。
19-21
『ピーーー!』
6番さんがサーブを打った。
外から見ていると、本当に良く分かる。まあ、試合には出たことないから、見ていることしかないんだけどね。
皆の感覚がどんどん研ぎ澄まされていく。
序盤からハイレベルなラリーが続いたけど、今はそれ以上だ。
こんな楽しい試合。
高揚し、一人ひとりがレベルアップしているこの試合に、取り残されないように。
置いて行かれるなんてもったいないから。
今度は西谷さんが飛び込み完璧に上げて見せた。
そして、サッと動き、エースのバックアタックの助走を確保する。
あれは、合宿終わってから、影山君に怒られていたことだ。
西谷さんは影山くんを見て、ノヤッとドヤ顔をしていた。
「こっちも良いレシーブすんな~!」
「ええ」
置いて行かれない。寧ろ、追い返すように前を進み続ける。
互いが互いの師になっているんだ。
▽▽▽
20-21
福永 夜久 犬岡
研磨 灰羽 山本
ーーーーーーーー
澤村 日向 綾隆
東峰 西谷 影山
『ここで回ってきました!一年生影山飛雄のサーブ!!』
影山のサーブを犬岡がきっちり上げる。
リエーフの速攻、オレと日向の二枚で跳ぶ。
「ワンタッチィ!」
主将が繋ぎ、影山から東峰さんへ。
ブロックを吹き飛ばす。サイドラインを大きく超えていくが、福永が繋ぐ。
ネットの真上、研磨が跳び片手を伸ばす。
研磨の目の前に跳んでいる黒尾が打ち下ろす。
「うおおお、らあああ!」
西谷先輩が上げた。
影山から日向へマイナステンポ。
ブロックはリエーフと山本の二枚。
日向は真ん中へフェイント。
だが、研磨に読まれ、研磨は落ちる場所に向かう。
が、日向はプッシュした。
研磨の上を通り過ぎていく。
『タン』
弱々しくもコートに落ちる。
『怒涛のラリー!!最後は落とすと見せかけてのロングプッシュ!!クレバーな一本で決めた、日向翔陽!!』
研磨は汗で滑り、ペチャッと倒れるようにコケた。
「おい、研磨大丈夫か!?どっかやったか?」
駆け寄る黒尾。
烏野の皆も研磨を見る。
「たーのしー」
大きくないその声が会場を静寂へと変えた。
音駒も烏野も目を見開いている。
「ン゛ア゛アッッシ!!!!」
日向は全力でガッツポーズを作り悦んでいる。
そう言えば、日向はそれを言わせるために音駒と戦っていたんだったな。
急な静寂から、日向の試合に勝ったような喜びに会場の全員が首を傾げる。
当然だが、このことに理解できるのは、この場で戦っているオレらにしか分からないだろう。
21-21
21-22
22-22
22-23
23-23
23-24
「上に跳べ」
耳を澄ませば、月島の呟きが聞こえてくる。
合宿のときを思い出してるのだろう。
福永のスパイクを捕らえる。が、夜久さんが繋ぎ、返ってくる。
月島が真ん中から速攻。
「ワァンチ!」
黒尾のブロック。
研磨から山本へ、前へ落とされる。
主将が繋ぐが、ネット真上、月島と黒尾の押し合い。
黒尾が勝ち、烏野コートに落ちてくる。
それをオレは読み、拾い上げる。
「なぁいす!綾隆!」
影山から月島へ。速攻だが、黒尾のまたも「ワァンチ」に邪魔される。
こちらも月島の「ワンチ」で繋ぐ。
「リードブロックは最後に咲うブロック」
黒尾が口癖のように言っていた。そしてこう続けていた。
「頭で分かってたって遂行できるとは限らない。ブロックの理想は当然スパイクを止めること。ドシャット決めて一気に盛り上げたい。もう本能のみで動いてしまえ。疲れたり劣勢になるほど、そんな風に考える。でも…絶対にただでは通すな」
「ワァンチ!」
「ナイッスレシーブ!」
「ナイスレシーブ!」
「ワンチ!」
黒尾が月島がブロックでスパイカーの邪魔をする。
ワンタッチで、時にコースを誘導し、しつこくネチネチとスパイカーにストレスを溜めさせていく。
『ズッダァァァアン!!』
疲弊しきったところにオレがとどめを刺す。
「はぁはぁツッキーあんま頑張んないで!ラリー長引くと疲れるでしょ!!」
「黒尾さんが頑張んなきゃ、はぁ、すぐ、終わるんじゃないですか!」
月島は疲れてくるとキレるタイプらしい。
「ツッキーの徹底ネチネチブロックにさ、皆が腹立つワケじゃん?」
黒尾が言った。
「文句言いづらかったら、俺が殴ったろか?」
主将が言った。
「そんでさ、良かった間違ってなかったって思ったんだよね」
黒尾が言う。
高まる集中力。誰も下を向いたりしない。
▽▽▽
24-24
東峰さんのバックアタックを誘導するかのようにリエーフがコースを締める。
「ちゃんと止まって上に跳べ」「ブロックの面積広げろ」「リードブロックは最後に咲うブロック」
ああ、クソ。勝てない。
競えるとしたらネット際だけ。
絶対にタダでは通さない。
「ワンチ!」
怖いからこそ、思考の猶予を与えない。最短の真ん中、高さ勝負。
「日向と僕じゃ元の才能が違いますからね~」「それがお前がバレーにハマる瞬間だ」「お前がレギュラーで出れば良いんじゃないの?」
ブロック1.5枚を打ち抜く。
「ツッキー。最近のバレーはどうだい」
ええ、ほんと……おかげさまで。
▽▽▽
25-24
まったく…。嫌になるよ。
ツッキーも綾隆も俺らがやる気を出させてしまったんじゃない?なぁ木兎。
あの時、あんなカッコいいセリフ言わなければ、今、もう少し楽な試合が出来たかもしれないのにねぇ。
「ワァンチ!」
やる気を出させた者として、俺らには責任がある。
最後まで師としてやり通す責任が。
綾隆…もう拾うなよ~。ツッキーいつまで粘る気だい?
「上へ跳べ」「手は前へだ」
疲れても丁寧にだ。
音駒らしく繋いで繋いで、対応する。
サームラさんのバックアタック。
さっきまではノーブロック対応だから、今回は…。
『ダァン!』
ふっふっ…リードブロックは最後に咲うブロックさ!
▽▽▽
25-25
この雰囲気に身を任せてはいけない。
目を凝らせ。思考しろ。
ツー。
俺は前へ飛び出る。
翔陽が触り俺を越えていくボール。
頭のてっぺんから足指の先まで今の俺の筋肉は必ず応える。
左踵を上げ、ボールを踵で蹴る。
会場を一番盛り上がらせるのは、すんげえスパイクじゃねえ。
絶対取れねえと思ったボールを取ったとき。すなわち!スーパーなレシーブが出たときだ!
「「「「「「わああああああああああああああ」」」」」」
▽▽▽
26-25
烏野エースのボールが俺に飛んで来る。
先生にWSって言われたとき、灰羽に負けたと思った。
MBとして負けたと思って一瞬悔しかったけど、すぐにそれどころじゃなくなった。
「目ぇ瞑んのやめる」
烏野対稲荷崎を見て思った。
レシーブも磨いて行かなきゃ日向には勝てない。
止まらない。止まれない。
ちょっとでも止まれば、もう追いつけない。
「ナイスレシーブ!」
海さんの声が聞こえて来た。
でも、レシーブして終わりじゃない。
レフトへ走り出す。
『バヂィン!』
コートに落ちる音は気持ちぃ。
「よっしゃああああ」
▽▽▽
26-26
「なんか田中嬉しそうだな、悔しくないのか?」
「悔しいに決まってる!!」
いつもの田中か。
いや、違うな…いつも以上に闘志が燃えているように見える。
「こんな盛り上がってるのに出られねえのは悔しい。
でもそれはそれ!音駒も烏野も一つ一つのラリーで成長していってるのが分かる。
外で見ねえと気付かないこともある。
次の試合、出番があるってあやぽんが言った。
そん時にぜってぇ俺も会場を沸かす!!そして、綺麗なお姉さんに声を掛けてもらう!」
「田中ーー、後ろで泣きそうになってる女の子いるぞー」
「ええっ…」
そうだよな、こいつはこう言う奴だよな。
地味に二年で部活を続けたのは田中だけだった。
『ズッダァァァアン!!』
うっほーっ。終盤でも威力落ちね~。
▽▽▽
27-26
繋ぐ。
今、翔陽が思ってること、多分、おれ、わかる。
魔王を倒すべく死にかけの自分を操りながら、いつも矛盾したことを考える。
まだ死なないでよ。
翔陽の前に落とす。
「ふんぎっ!」
翔陽は上げる。ネットの真上にきたからそのまま、下に落とす。
「ふんぎっ!」
翔陽はあげるも、ネットに引っ掛かる。
「なんかお前らって不思議だよな。うーんライバルなのか?」「え、普通にともだちだけど」
面白い存在だよね、翔陽は。
▽▽▽
27-27
目の前に立ちはだかる高い高い壁。
昔は怖かった壁。
でも、今は何も怖くない。
おれの身体がおれの言う事をきいている。
コート外からの綾隆から送られてくるこのどんぴしゃなトス。
目の前の犬岡の手の間を打ち抜く!
止まってはいられない。先へ行くんだ。先へ先へと。
『日向翔陽ーーーっ!!止まらない!もうこれで何本目だーーっ!!』
▽▽▽
28-27
タイムアウトはまだ残っている。
烏野があと一点でも取ればこの試合は終わる。
終わらしたくないと言うのが本音。
タイムアウトを取って少しでも時間を延ばして、この皆のプレーをもっと見ていたい。
でも、止められない。この良い流れを止めたくない。
たとえ、負けたとしても。
なあ、烏養…お前が引退したとき、もうお前とは、このキラッキラのピカッピカの体育館で試合なんて出来ないと思っていた。
今もお前じゃないけどな…。
「バカッ!!ボール!!まだ落ちてない!!!!」
なんと研磨が…。
苦しいだろう。しんどいであろう。
それでも繋ぐということを忘れずに、試合をしてくれている。
『バッッヂィィィン!!』
烏野16番。なんて威力だ。さすが化け物。
思えば、最初から異様さはあった。次第に薄れて行ったか。合宿のとき、少し残念に思っていたのが懐かしいな。
そして、今、こんなにも大注目選手となって、我々の前に立ちはだかっている。
そして、10番も…研磨がやる気を出すようになった一番の要因だろうな。
リベロが繋ぎ、エースが繋ぎ、10番が返す。
衛輔が繋ぎ、ネットの上へ。10番がダイレクト。
リエーフがブロックで返す。主将が上げて、こっちに返ってくる。
研磨が繋いで、犬岡が繋いで、夜久が返す。
リベロが上げ、セッターから16番。三枚のブロックを躱し、ラインショット。
犬岡が上げたっ。
何故だか、夏の合宿の時を思い出した。懐かしい。
やる気のない16番は、あんなスパイクを打たなかった。
ほんの数日前までの犬岡なら、あのスパイクは上げられなかった。
誰がこんな試合が出来ると予想できただろうか。
ボールは研磨へ。
あっ…。
汗で滑った。
いや、らしい終わり方だ。
その汗は一人ひとりがしっかり繋いだ証。
負けか。
負けたところで死にはしない、でも悔しいなぁ。
ボールがもう…落ちる。
残念だ。もっと見ていたかった。あのとき、タイムアウトを取っておけば良かったのかも知れない。でも…。
『タンッ』
ありがとう。ナイスゲーム。
『熾烈を極めるラリーの末、制したのは烏野高校!!!』
「クロ、おれにバレーボール教えてくれてありがとう」
…いかんな。この歳になると涙もろくなる。
「待て待て待てちょっと待てバカ野郎!!!」
ふっ…若者も同じか。
『ピッ』
ネットを挟み挨拶をする。
俺も烏野のコーチ、先生と挨拶をするべく立ち上がる。
繋心と握手を交わす。
テレビで見ているんだろう。
そんな感じがした。
ようやくだな…大会でお前と戦えたのは。
ありがとう。
「研磨!来年もやろうな!!」
「うん、やろう」
ふふっ…。そうだな来年も。
▽▽▽
「今日は随分と疲れてるね」
「まあ跳びましたからね」
「知ってる。長かったね。5セットマッチみたいだったよ」
「そうですね。かなり粘られました。まだ試合があると言うのが信じられませんね」
今日はまだもう一試合ある。
かなり時間が空くため、完全に回復する。何も問題は無いが…。
「日向」
「んう?」
「着てろ」
オレは日向にジャージを投げる。
横で、梟谷が試合をしている。音駒も烏野もその場で見ることにしたようだ。
暫くして、試合が終わり、木兎達がこちらに近付いて来た。
「お前らの試合見て、絶対ぇ負けねって思った。もっと会場を沸かす、試合してやる」
木兎はかなり高揚しているようだ。試合を見ていてミスが少なく、いじける場面でも全くそのようなそぶりは見せなかった。
オレ達の次の相手はまだ決まってはいないが、ビデオを見た予想では鴎台だろう。
だが、問題ない。
まあ鴎台の試合までもかなり時間はあるし、なによりも…分析は全て完了している。
昼飯にするか…。
オレはこの場を離れようとし、カバンの中を覗くと携帯が震えていた。
一通のメールが届いており、内容は…。
近くの鍋屋さんで一緒にご飯を食べない?
定食もあるよ。
あと、奢るからね。
だった。
ふむ…。
定食があるなら、十分なご飯を食べられるな。
いや…そもそも奢りだ。
迷う必要は無い。
オレは速攻で、分かりました。と送信する。
それが罠だとも知らずに…。
次回は試合ではありません。
ポテチとコーラは3週間後に用意を!!