ようこそ青春の排球部へ   作:もと将軍

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お待たせしました。
コーヒーとポテチは用意しましたか?

ではでは!


鴎台戦!!

 

「個人で一番厄介なのはレフトの星海光来だな。攻撃は超多彩。サーブも強力だ」

 

 あの音駒と戦った後に立て続けに準々決勝とは…。

 用意しているお弁当以外に何か一般人には知り得ぬ高エネルギーのものでも食べてるんじゃなかろうか…?

 皆、日向や綾隆に似て来た。

 

「でも正直、星海以上に厄介なのは全国最強のブロックを誇るチームってことで…レベルをMAXまで上げた伊達工にユースクラスのエースが居るチームみたいな感じだな」

「Oh…」

「それで…どうします?」

 

 澤村さんが綾隆に腰を低くして聞く。

 

「今の烏野の勢いは、相手からすれば怖いでしょう。音駒と同じように押し切ります」

「うぇ…またしんどくなるじゃん…」

「さいっこうだな!」

 

 月島くんと日向は対称的だね。まあいつも通りで安心感を覚えるけど。

 

「今、乗りに乗っている日向を止める方が不味いかもしれないからな」

 

 綾隆はそう言った。確かに今の烏野の勢いは脅威だ。それは初心者の私でも分かること。

 

「…よし澤村気合入れろ!」

 

 話し合いが終わり、コーチが澤村さんに円陣を組むように言う。

 私と清水先輩を含めて全員で円陣を組み、澤村さんが口を開く。

 

「お気づきだろうか、我々、今、全国ベスト8です」

「おお…!」

 

 おおっ分かってたけど、言われると何だか凄いとこまで来たんだと思う。

 

「ベスト8…思えば遠くまで来たもんだ」

「もっと遠くまで行くけどな」

 

 うんうん。

 

「ぶっちゃけキツイ!音駒の後、ぶっ続けの準々決勝はキツイ!!」

「はははは」

「だが魔の三日目を超えた先には準決勝、センターコートだ…!!!」

「よっ主将!」

「「「「うおおおお」」」」」

 

 目立ちたがりの日向達が、自分たちの時代が来た!と叫ぶ。

 

「今日も勝ってウマい晩飯を食うぞ!」

「「「「「オェーーイ!」」」」

 

 綾隆の声が大きくなった。やっぱり綾隆を釣るなら美味しいご飯だ。こっちもあんまり変わってない。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

「ねえ、ちょっと」

 

 トイレに向かおうとしたが、月島に呼び止められた。

 

「どうした?」

 

 少しモジモジしながら口を開いた月島。

 なんだ…?告白か…?

 悪いが、オレには…。

 

「どうやってブロックアウトって判断する?」

 

 なんだ、そんなことか。ブロックアウトを使う選手…日向や今回対戦する光来の対策だろう。

 オレもそういうプレーをしたことがあるため、恥を忍んで聞きに来たのだろう。別に恥じることでは無いが、ツンツンツンデレな月島は恥なのかも知れない。

 オレは考えていたことを悟られないように言う。

 

「スローモーションにすればいい。そうすれば、これからボールが通る軌跡が見える。それをタイミングよく躱すだけだぞ」

 

 オレがそう簡潔に言うと、月島は顔を顰める。

 

「一度人間になってくれる?」

 

 聞かれたことに素直に言っただけなんだが…。

 

「…人間だが…」

「人間の定義って知ってる?」

「いや、人間だって」

「そんな会話初めて聞いた」

 

 菅さんが突っ込んでくる。

 

「だな」

 

 東峰さんが頷く。

 

「はぁ…この部は、ほんと人間が少なくて困るよ」

 

 日向を見ながら月島は肩を竦める。

 

「うおぉい!今、おれいれただろ!!」

「君は怪人二号だよ」

「なぁんだと!?」

「「「ははははは」」」

 

 全国ベスト8で緊張するのかと思えば、皆は特に緊張した様子は見せなかった。

 

 

【平等な試合】

 

 

 

 

Bコート 男子準々決勝 鴎台VS烏野

 

『ピーーー!』

 

「「「「おねあっいしゃーーーす!」」」」

 

 

『ーーそうですね…WS星海、S影山。両チームとも日本選抜候補の選手を擁する強豪です。』

 

『この試合、どのあたりが注目でしょう?高校屈指のブロックチーム対高校屈指の攻撃力チームですからねーネット際のぶつかり合いが楽しみですね。それとやはり、今大会最小スパイカー対決ですよね。星海光来くんと日向翔陽くん。どちらも相当なポイントゲッターですからね。あとは言わずもがな…清田綾隆くんでしょう。超高校級と言い表すのも生ぬるいと感じますからね。ブロックがどう対処できるか』

 

 

「2Mだろうが高校トップのブロックだろうがネット際負けんなよ!これは激励じゃねえ条件だ。勝つための条件」

 

 コーチからの言葉を受け、コートに出て行く。

 

 

3年…S …諏訪…177㎝

3年…WS…野沢…181㎝

2年…WS…星海…169㎝

2年…WS…白馬…203㎝

2年…MB…昼神…190㎝

1年…MB…別所…186㎝

3年…LI…上林…173㎝

 

 

諏訪 上林 野沢

星海 昼神 白馬

 

ーーーーーーーー

 

日向 綾隆 影山

澤村 東峰 西谷

 

 

 

『破竹の勢いで勝ち進む烏野。じわじわとその頭角を現してきた鴎台。この一戦どんな結末が待っているのでしょうか!』

 

『さあ春の高校バレー全国大会男子順々決勝、鴎台キャプテン、諏訪のサーブで試合開始です!!』

 

『ピーーー!』

 

 ジャンフロで、主将と東峰さんの間に落としてきた。

 

「大地さん!」

「ナイスレシーブ!」

 

 少し短く上がった。

 相手は最強のブロックチーム。少しのレシーブの乱れが命取りになる。

 だが、何も問題ない。

 影山から、日向へ。マイナステンポ。

 それでも、ブロックは付いて来たが、『スッパァン!』と鴎台コートで落ちる。

 試合前に武ちゃんに言われたこと。

 

 空中戦の覇者の証明。

 

 

『2mの壁の上を鮮やかに抜き去った160㎝!!!』

 

「「はあああああああ」」

 

 光来と白馬は不満を露わにする。

 

「烏野高校1年日向翔陽です!以後、お見知り置きを!!」

 

 日向は白馬に胸を張って言った。そう言えば、ぶつかられて無視されたんだったな。

 相手は気付かなかっただけだが。

 

「いや、知ってっけど…さっきビデオ見たし」

 

 それにしても影山はワザと真ん中を抜いたのか。見せつけるために…相変わらずだな。

 

1-0

 

 影山のサーブ。

 野沢が上げる。だが、少し崩れ速攻は無くなる。

 

「レフト!」白馬が。

 

「ライト!」光来が。

 

「光来!!」

 

 諏訪は光来を選択した。

 

『ドンッ!!』

 

 両手を大きく振り、翼を羽ばたかせるように高く跳んだ。

 3枚のブロックで跳ぶが、上を抜かれる。

 

『ズッッパァン!』

 

『ブロックの上から叩きつけた。星海光来ー!!!』

 

 なるほどな、光来のスパイクは空中での安定感によるもの。そのため、空中で打つ場所を変えるのも容易なんだろう。良いお手本になるな…一ページを捲る。

 

『最小スパイカー達が火花を散らす!!!』

 

 それは悪口だろう。オレは言われたくないな。

 

1-1

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 ふっ…。今日の俺はキテる。

 影山のやつ、1発目から良いサーブ打ちやがるぜ。

 次の向こうのサーブはあの無表情だ。目に物を見してやる。

 

『ピーーー!』

 

 俺はエンドラインを越えて、更に歩く。そして振り返る。

 

 見ろ。

 

 高く上げたサーブトス。高く跳び、打つ!!

 

『ビシッ』

 

 あぎゃ!?でも入ってる結果オーライ。いや計画通り。

 

「カゲヤマに張り合ったな」

「そーゆーとこ」

「サーセンッッ!」

 

 バレてたッ。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

「翔陽たち可哀想だね」

 

 研磨は呟いた。

 

「そだね~」

 

 それに反応したのは黒尾。だが投げやりだ。

 

「あんな身長高いのにブロック上手いし。いきなり三枚ついてきたじゃん」

 

「そだね~」

 

「それに翔陽みたいに跳ぶやついるし」

 

「そだね~」

 

「なに…?」

 

「いやぁ、烏野には化け物がいますから」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 日向がマイナステンポで入っていく。

 だが、鴎台は誰もつられない。

 

『ドォン!』

 

 オレにトスが上がる。

 セカンドテンポなのに三枚か。

 

『ズッッドォォォオン!!』

 

『こちらもブロックの上から!清田綾隆!!』

 

『今、ワザと2mの上から打ち下ろしましたね』

 

 悔しそうに、顔に怒りマークを作りながら見てくる白馬を煽る。

 

「低いな」

 

 ガビーン!という顔をする。意外と煽られやすいタイプだな。

 

「ぷっふふぅ~~!!」

 

 後ろで光来が白馬を指差して笑っている。仲間じゃないようだ。

 

「さっすが、化けの皮を剥いできたことだけはあるな」

「おまえ、やっぱ性格わりーな」

 

 振り向くと一斉に悪口を言われた。こっちも仲間じゃないようだ。

 

2-1

 

 オレはエンドラインから四歩下がる。

 稲荷崎ではないが、ビデオを見て来たなら何をしてくるか分かるだろう。

 また煽られたと顔を顰めている。

 

『ピーーー!』

 

 軽く上げて軽く跳ぶ。

 ジャンフロで回転を加えず、アウトを狙う。

 

「ンガッ!?」

 

 アウトだったが、取ってしまったため声が漏れていた。やはり、かなり分析されてるな。

 さっきのは音駒で一度見しただけだ。それなのにもう対応して来たか。

 

 またも光来にトスがセットされる。

 

『ドンッ!』

 

「せーのっ!」

 

 東峰さんの掛け声と共にブロックを三枚揃えて跳ぶ。 

 それを躱し、クロスへ強打。

 オレは先読みし、移動していたため真正面で受け止める。

 

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。日向はマイナステンポで入っていく。

 

 主将へセットされるが、『ダァン!』と叩き落とされる。

 もう日向のビックリタイムは終わったようだ。

 

『鴎台のブロックの要。不動の昼神…!!』

 

「多分、今、アレ言われてるな『不動のホニャホニャ』ってやつ」

 

 相手コートから聞こえてくる。 

 

「いや『不動の』まできたら全部言ったらいいじゃないすか」

「不動って嫌ですよね~動けないみたいじゃないですか」

 

 昼神はそう言い、こちらを向いて日向を煽る。

 

「俺、素早いのにー。俺達の前でチョロチョロしても無駄だよ~」

 

 今度は日向が、ガビーンとショックを受けていた。こちらは見た目通り煽られやすい。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

2-2

 

 

 序盤から接戦。

 しかし、音駒とは違いラリーは然程長くない。点の取り合い。気を抜けば、すぐに差を付けられる。

 

 そんな試合を見て、宇内天満は驚きを隠せていなかった。(宇内天満は、月島兄の後輩で烏野の最も強かった時代のエース。そして嘗ての小さな巨人)

 

「えぇ~これ高校レベルじゃないでしょう…えぇ…」

「やっぱり宇内でもそう思う?」

「月島さん…同じ部活だったから知ってるでしょう…あんな高く跳べないし威力も出せない。それに今、同時に4人…つーかセッターとリベロ以外全員で攻撃に入ってましたよね?あんなのやってなかったですよ」

「確かに…ハハ。ブロック泣かせのシンクロ攻撃だよ。止められたけど」

 

 宇内が居た時代は過去、烏野が最も強かったと言われていた。 

 だから、宇内のレベルが低かったわけではなく、その世代のレベルが低かった訳でも無い。

 バレーは常に攻撃も守備も進化し続けている。停滞した者は置いてかれる。

 置いてかれないように皆が進み続けている。

 

 

 昼神のジャンフロサーブ。

 澤村と西谷の間を狙い、お見合いを誘う。

 

「オーライ!」

 

 少し遅れ澤村が取り、アタックライン近辺に上がる。

 昼神は、この程度の崩しは意味が無いと、瞬時に悟る。

 なぜなら、烏野には影山が居るからだ。

 

 日向がマイナステンポで入っていく。

 

 別所は、やだな~10番やだな~と心の中で思った。

 癖の強い二年生に揉まれてMBを勝ち抜いた別所もまた、かなりの曲者。

 その強靭な精神力で、心を落ち着かせる。

 

 全国のトップクラスのブロックチームは当然理解している。

 ブロックは組織。

 たとえどんな優秀なブロッカーが一人居ても、訓練された組織には敵わない。

 個人はしょせん個人。

 組織でこそ、束になってこそ最強。

 バンチ…リード・ブロック。

 

 堪え、ボールが向かった先に三枚揃えて跳ぶ。

 

 『チッ』と指に当たり鴎台コートに落ちた。

 結果としては日向に点を取られたが、まだ序盤も序盤。寧ろこの序盤から触れる鴎台が異常だろう。

 

「鴎台のブロックは…」

 

 月島がコートに出て行く前に言う。

 

「全員が伊達工の青根さんだと思った方がいい」

 

 その例え、旭には黙っておこうと、菅原は心の中にしまっておくことにした。

 

3-2

 

 日向のションベンサーブが良い位置に落ち、白馬の膝をつかせたが綺麗にセッターの頭上に上がる。

 速攻で来る。瞬時に判断した月島は真ん中で待ち伏せる。

 

「ワンチ!」

 

 貧相サーブからの速攻は定石である。

 レフトから東峰。

 ブロックに当て後方へ飛ばし、点を捥ぎ取るが内心ひやひやしていた。

 ブロックの完成がもう間近になっているからだ。

 烏野としてはここで離しておきたいところだろう。

 

「「「いいぞいいぞ旭押せ押せ旭」」」

 

4-2

 

 次は白馬が点を捥ぎ取る。

 

4-3

 

 白馬のサーブを上げ、繋ぎ、返すだけとなった烏野。

 鴎台はチャンスボールを落ち着いて、山なりのトスを光来へ上げた。

 月島は上に跳ぶ。もう何度も繰り返したことだ。身体が勝手に動く。

 

 ブロックの完成のタイミングを誤らないように、溜めて溜めて跳ぶ。

 

『ダァン!』

 

 月島は叩き落とした。

 

「どぅれぇえい!!」

 

 月島でも選手でもなく…烏養が最も喜んでいる。

 

「星海さんびっくりタイムも終わりですね」

 

 影山がまさかまさかの煽りを入れる。

 

「何か知らねえけどヘンな名前つけるんじゃねえ!ハン。異様なチビには驚かねえってか」

 

 星海は一瞬悔しそうにはしたが、闘志を燃やした。

 

5-3

 

 白馬 上林 星海

 野沢 別所 諏訪

 

 ーーーーーーーー

 

 影山 月島 東峰

 綾隆 西谷 澤村

 

 

 澤村が笛の合図と共に打つ。

 全国にまで行けば、普通のサーブは殆どチャンスボール同然。様々な工夫をしなければ、あっと言う間に点を取られてしまう。

 

 少しレシーブが乱れ、野沢がセッターの代わりにトスを上げる。

 だが、割れた。(※意図せずネットから離れること)

 

「光来!」

 

 レフトから光来が入ってくる。

 当然烏野は3枚のブロック。

 打ちづらいトスだが、光来は抜群の空中での安定感で、打つべき場所を見定め、指に当てて飛ばす。

 

『覆い被さるような壁も技術で切り抜けてきた。エース星海のブロックアウト!』

 

6-4

 

 東峰によるサーブはリベロの手に当たり、サイドラインを越えていく。

 まだ取れるボールだと判断し、星海は走り出す。

 

「芽生!」

 

 コート端から反対側にいる白馬を指差す。

 綺麗な山なりのトスを白馬は叩きつけた。

 

「…ナイス…トス…!」

「そんな渋々言う事?」

 

「だろ???」

 

「見上げながら見下ろしてる」

 

 白馬は悔しそうに光来を褒める。

 光来は最初から上手く他人より優れていたわけではない。

 それを理解しているのは、同じ小さき者…宇内は語る。

 

「…俺は中学でも高校でも県内ではそこそこ通用してたと思ってます。エースっていう自覚も自信もありました。

 でも、全国で上へ行けば行くほど、相手はより大きく・より速く・より賢かった。俺は小さい代わりに技術で勝負するんだって思ってました。でも、小さかろうが大きかろうが技術を磨いた奴が技術を持っている。

 世界は平等じゃなくて平等だ。

 それを星海はとっくに、知ってる」

 

 星海は兄弟の中で一番小さく、デカい兄に勝てるように毎日努力をしてきた。

 続けられた理由…大きくなる方法は無いけど、強くなる方法は幾らでもあるから。

 光来は全てのことを人一倍努力した。サーブ、スパイク、レシーブ。

 

「俺は、俺が弱いことを、とうの昔にしっている」

 

 

6-5

 

 

▽▽▽

 

 

 

 ふぅ~~。

 全国行けば、やっぱりどのチームも強いよね。

 でも、私は特に焦ったりはしない。まあ序盤だからっていうのもあるんだけど…。

 こういう強い人を見れば、ウチは更に燃えるチームだ。

 

「かっけぇ2段トス…!!」

 

 ほら…ベンチから日向が素直に褒め、目を輝かしている。

 あ、相手の5番(星海)…分かりやすく調子に乗ってる。顔がどやってる。意外と流されやすいタイプなのかもしれない。

 

 それにしても、さっきから大人しいんじゃない…??

 

 私、まだ許したわけじゃないんだけど。これで負けたら、歩いて帰らそう。

 私はそう綾隆に念を送る。

 どうやら気付いたようで、目線だけを送って来た。

 

 相手のサーブを綺麗に上げ、影山くんから月島くんへ。

 やっぱり、ブロックが普通じゃない…。三人で一気に詰めてくるからかな…。

 

『ダァン!』

 

 叩き落とされる。

 

6-6

 

 相手のサーブを澤村が上げる。

 

 異様な圧を感じる。

 

 でも私達には馴染のある圧。初めて感じたのはいつだったか…東峰を説得した時だったか。通り魔を倒したときだったか。

 

『ドォン!』

 

 彼は高く跳んでいる。長っ…後から跳んだブロックが落ちている。

 

『ズッッドォォン!!』

 

 相手コートに響く。殆どノーブロックだった。ははっさすがだね…。

 

7-6

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「うわぁ~やられたね、めっちゃ長くない?」

「おのれ…」

 

 鴎台は綾隆のスパイク…というよりは滞空時間の長さに舌を巻く。

 タイミングをずらしてくる敵は今までも居た。別に驚くほどのことでもなかったが、その長さが異常だった。

 

 

 月島サーブを上げ、昼神の速攻。

 

「ワンタッチィ!」

 

 日向が叫ぶ。

 西谷が上げ、日向へマイナステンポで持っていく。

 

「ナァイス!!ワンタッチ!!」

 

 昼神は遂に触れた。

 威力を殺し、上林が上げ諏訪から星海へ。

 ブロックの間を抜き、打ち下ろす。

 

 レフトへ走る綾隆。そして、着地して跳ぶ日向。

 

 澤村が触るも、サイドラインを超えていく。

 

 この位置から、このタイミングで、この角度へ、どんぴしゃなトスを日向に送り出す。

 

『スッパァン!』

 

『き、決まったーーーっ!!いやぁ~出ましたね…変…とてつもない速攻が…』

 

「はぁあ!?」

「かーーっ」

 

 鴎台は驚愕する。

 

「ほわぁいい!?」

 

 鴎台の監督は椅子からひっくり返りそうになるくらい仰け反る。

 完璧に取ったと思った得点をひっくり返された気分だろう。

 

「なぁいすきー日向」

「ナイスセッティングだ綾隆」

「……ナイス…トス」

 

 声の小さい影山だったが、綾隆はしっかり聞き取れていた。

 

「動き出しが遅いぞ、影山」

 

 今はまだ経験値の差で劣る影山に綾隆は煽る。

 

「ああ!?」

「おまえ、さっきの音駒のときのサーブ、まだ根に持ってやがったな?」

 

 澤村が突っ込む。

 

「当然です」

「音駒のサーブ?なにかあったか?」

 

 ミスをし、反省し修正すれば、記憶をポイする影山であった。

 

「おまえな……いや、もう良い」

 

 

 

「おっほっほぉ!パン……パン……パン」

 

 と乾いた拍手を綾隆に送るのは、全日本ユースの監督である。

 

「凄いですね……あんなの見たこともないですよ」

「そうだねぇ~まあ、影山日向君の速攻でさえ世界中を探しても見たことは無かったんだけどねえ。

 あのボール下への速さ。未来でも見たかのようだったねえ」

「いやはや、これはとんでもないコンビの完成ですね」

 

 

『ピーーーー!』

 

『ここで鴎台がタイムアウトを取りました』

 

「はい、落ち着いて」

「落ち着いてる」

「今のは仕方ないよね。まずはエースを止めよう」

「そうだな」

 

 選手は皆、落ち着いている。それは鴎台の監督が常に日頃から精神統一をさせていたからだ。

 どのような場面でも冷静な判断力を養うことで、泰然自若なチームを作り上げた。

 

 

 

8-6

12-10

 

白馬 上林 星海

野沢 別所 諏訪

 

ーーーーーーーー

 

影山 月島 東峰

綾隆 西谷 澤村

 

 

 綾隆と日向のコンビには驚いていたが、すぐに切り替える鴎台。

 東峰が前衛に居て尚且つライトの攻撃がないとき、守備位置を変えていた。

 

『烏野は他チームに比べ、真ん中からの速い攻撃を多用しますが、今回はまだ本数が少なめでしょうか?』

 

『そうですね。鴎台は烏野の真ん中を警戒してますし、実際対応してきてますから。まあ一本とんでもないのがありましたけど…それでもサイドを多めに使ってるんでしょうね。烏野は両レフトも強力ですからね』

 

 澤村サーブを綺麗に上げ、諏訪から別所の速攻。

 これを綾隆が上げる。

 

「レフト!」

 

 東峰がトスを呼ぶ。

 鴎台のブロックの配置は、デディケート・シフト。ブロックを右または左に寄せている。

 そのブロックの寄せられた対面に居るのが、東峰だ。

 つまり、これはあなたを止めます。あなたをマークします、と言われているようなもの。

 

 なら、当然影山は真ん中の速攻を選択する。

 月島が打つが、三枚のブロックが瞬時に移動し『ダァン!』と叩きつける。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

12-11

 

 東峰さんを徹底的にマークか。そして真ん中も通さない。

 ブロックが強いチームだからこそできる芸当だな。烏野では不可能だ。

 

「ドンマイ」

 

 叩き落とされた月島は何か考えているようだった。

 

「……王様、逃げんなよ」

 

 おいおい…。その煽りは駄目だろう。

 

「…俺に???言ったのか???」

 

 顔…。写真に収めておきたい衝動にかられる。

 

「カクニンしただけだってば」

「まあまあ落ち着きなさいよ」

 

 主将が止めたが、睨み会いは続いた。

 

 野沢のサーブから主将が上げ、また月島を選択する。

 

『今度は決めてきました!敢えてもう一度、真ん中で勝負に来たセッター影山』

 

 決めたのに、二人はまだ睨み合っている。

 烏野にはチームワークという言葉が似つかわしくないようで、ちゃんと息の合うプレーが出来ることが不思議だ。

 

13-11

14-12

 

 日向が前衛に回って来た。

 月島のサーブを上げ、星海のスパイクをワンタッチで威力を抑え、後方に下がっていた主将が上げる。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 日向は一人飛び出していくが…相変わらず相手ブロックは揺さぶられない。

 バックアタックで東峰さんに上がった。

 

『ダァン!』

 

 と叩きつけられる。後ろに下がったため、マークは薄くなったと思っていたが…。

 鴎台は徹底してエースを完全に潰しに来ているようだ。

 

14-13

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校、一回目のタイムアウトを取ります』

 

「日向、影薄いな。ブロック寄って来てないぞ?」

 

 オレは日向の自尊心を傷つけるように言う。

 

「ニョ二ヲ!?ぜ、ぜってぇ振り向かす!!」

「まるで恋だな」

 

 菅さんがそう言った。

 

「お前が囮の効果を発揮しないと、東峰さんが気持ちよく打てないぞ」

「わ、分かってます!」

「東峰さんはメンタルが弱いからな、ブロックには傷付けられやすいんだ。お前の囮にかかっていることを忘れるな」

 

 オレは日向にそう言うと同時に、東峰さんにも煽りを入れておく。

 

「お前が一番傷付けてるんだぞ~」

「ほら、みろ…旭、干乾びたじゃねえか」

「それはすいません」

 

 そして、コートに戻って行く。

 今は、日向頼みでも構わない。だが、日向が倒れた後もこのままでは困る。

 

『ピーーー!』

 

 諏訪のサーブを西谷先輩が上げる。

 日向はライトへ、コート幅を活用し走る。

 

 ファーストテンポのため、ブロックは二枚ついてくるが、日向に付いていけていない。

 日向は打ち下ろす。

 だが、これは上林が乱れながらも上げる。

 なら、星海だ。

 三枚のブロックを揃えて、跳ぶ。

 

 抜けた先にはリベロ、西谷先輩。

 そして、再びライトへ走り出す日向。オレはレフトから。東峰さんはバックアタックで助走に入る。

 

 だが、ネットを越え『ストン』と落ちた。

 

『なんっと巧妙な、タイミング!!セッター影山のツーアタック!!』

 

「なんだよ…なんかおれが打つ感じの雰囲気だったじゃん」

 

 日向が文句を垂れる。

 

「だからだろうが」

 

 影山がドヤ顔でそう言った。

 

15-13

 

 次も日向はライトへ走り速攻で打つが、何度も同じことをすれば相手は慣れる。

 上林が綺麗に上げ、野沢の速攻。

 西谷先輩が上げるも、アタックライン近辺。影山がアンダーで東峰さんへ。

 

 バックアタックで打つ。ブロックに当て、コートを出て行く。

 

「ほっ」

 

 東峰さんは安心し、そう零す。

 

16-13

 

 影山のサーブを二回連続で綺麗に上げた上林。さすが、リベロなだけはあるな。

 相手の速攻を主将が上げる。

 

「オープン!ハイハイ!」

 

 日向はオープンを打てるようになってから、レシーブが乱れると騒がしくなる。

 

「旭さん!」

 

 今回も東峰さんに上がる。一気に真ん中に集まるブロックに『ダァン!』と叩き落とされる。

 皆も分かっているのだろう。

 今、こう言った場面で集まるのは東峰さんだと。だから、乱れてもオレや日向には上がらない。

 

『ああーっと、シャットアウト!!』

 

 

16-14

 

 

 光来のサーブでこちらのレシーブが崩される。そして、東峰さんへ。

 一気に三枚のブロックが完成する。

 溜めて強打。

 ブロックに当たり、大きく上に上がる。

 

「チャンスボール!」

 

 鴎台のチャンスボールで、諏訪から白馬へ。2mが打ち下ろすが、西谷先輩が上げる。

 

 乱れるが、上に上がった。

 

「ナイスレシーブ」

 

 上に高く上がれば、影山からすればチャンスボールなんだろう。

 かっこよく言い、ボール下へ移動し、マイナステンポで日向へ。

 ブロック完成前に打ち下ろす。

 だが…。

 

『バァン!』

 

「はぁあ!!」

 

 見事な光来のレシーブだったが、なぜかキレていた。

 そして、光来のバックアタック。

 

「ワンタッチ」

 

 今度はオレがブロック。「はああ!?」と今にも噛みついてきそうな光来。まるで野生動物だな。

 それでも、後方へ逸れたボールを西谷先輩が上げ影山がアンダーで東峰さんへ。

 

『ダァン!』

 

 それでも烏野のコートに叩きつけられる。

 

「スマン」

「おい…励まさねえぞ」

 

 主将が東峰さんに声を掛けたが、励ましではなかったようだ。

 

「なんでわざわざ言った??」

 

 少し笑みを浮かべる東峰さん。少しは励ましになっていたのだろう。

 

 

16-15

 

 

 星海のサーブは東峰さんへ。

 腕に当たるも、上には上がらず、そのまま地面に落ちた。

 

 ふぅ…と息を吐き、集中し直す。

 

 

16-16

 

 

 星海のサーブを今度は主将が上げる。

 そこから日向へマイナステンポ。だが、ブロックで侵入を拒まれる。

 叩き落とされる瞬間に西谷先輩が拾う。

 

「「「ナイスブロックフォロー!!」」」

 

 再び東峰さんへ。容赦ないな…影山。

 だが、『ダァン!』と叩き落とされる。

 再びドシャット。これは精神的にもツライだろう。何よりも、3点差をひっくり返されたからな。

 

 

【道具】

 

 

16-17

 

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校2回目のタイムアウトです』

 

「おおい!世界の終わり顔ヤメロォ。100本中100本、決められる選手なんて居ねえ」

 

 沈み切った東峰さんに、今度は普通に声を掛ける主将。

 

「そりゃあ、旭がいきなし超人になって、3枚ブロック相手にどんなクソトスでもどっかんどっかん決めだしたら最高だよ?他のスパイカー要らねえわ」

 

 今度は菅さんが入って来た。そして続ける。

 

「でもそんなの木兎でも牛若でもあり得ねえべ…と思ったらこんなとこにバケモンが居たな!まあ人間は無理だべ」

 

 オレは無視を決め込む。

 清水先輩に笑いながらボトルで腹を突かれるが、え。オレが何か??みたいな素知らぬ顔でボトルを受け取る。

 まだ菅さんは言いたいことが終わっていなかったのか、最後に声を大にして言う。

 

「調子に乗って凹んでんじゃねぇーーっ!!」

 

 どう言う意味だろうか…。

 まあ木兎語同様に菅さん語を理解できるわけがないか…。

 オレはベンチに座り、汗を拭く。あまり出てないが。

 

「影山…気付いてるか」

 

 今度はオレンジが何か言い始めた。実に止めて欲しい。

 こいつのオレンジ語もオレには理解できない。

 

「?」

 

 影山は顔だけを向ける。

 

「今日、3セット目なんだぜ…」

 

 多分、誰もがまた何か言いだした…と思っただろう。

 

「いや分かるよ。ストレートで勝った方が良いに決まってるし、もちろんいつもストレート勝ちを目指してる。でも最近は綾隆のせいで全てストレートに勝ち進めていってるじゃん?

 3セット目なんて青城以来なんだぜ?

 今日…最高にさいこうだよな?」

 

 オレのせいにしたことは後で良い。今はこの馬鹿の話を処理するために、もう一度ドリンクをがぶ飲みする。

 珍しく影山も同じことを考えたのか、ドリンクをがぶ飲みした。

 

「全無視」

「思考放棄」

「突っ込むのもカロリー要るんだよ。とくに馬鹿相手には」

「初めて全国に来て、あんな通常運転で居られる奴ら居る⁇」

 

 東峰さんがそう言う。

 

「俺もなんだか大丈夫ってなってきたわ」

「ふっふっふ…旭さん!おれが道を抉じ開けます!」

「お前、まだ何も囮としての効果を発揮できてないぞ」

 

 ようやく処理できたオレはそう突っ込む。

 

「うっうるせえな!おっしゃああ!ぜってー振りむかぁす!」

 

 タイムアウトが終わり、コートを出て行く。

 

 

 光来のサーブは東峰さんが上げる。セッターには返っていないが、高く上がれば何も問題ないだろう。

 

 オレに光来に…自分よりも目立たれて、自分のスパイクは簡単に上げられる。オマケにブロックは全く振り向いてくれない。

 普通なら自信を無くすのかもしれない。だが、日向は常に前を向き続ける。

 ブロックに立ち向かうには、『はやさ』か『高さ』か。

 常にどちらかを選択して来た日向。

 だが、どちらも捨てられないし、どちらも選んだ方が強いに決まっている。

 

 マイナステンポ + ドンジャンプ。

 

 影山が上げられる範囲内でのマックスの『高さ』と『はやさ』。

 今までの経験からの直感による逆算。

 ここまで持って来いと日向は影山に伝える。

 それに応えるように影山は日向へボールを持っていく。

 

『速い速い!そして一段と高い!日向翔陽!!』

 

「ボール来たぞ!!ゴッドハンドかこのやろォォォ!!」

 

 日向は影山に飛び付く。「やめろっ」と一蹴されていたが。

 

 

17-17

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

「高くを早くか」

「ちびちゃん、ほんと荒野豆腐」

「そこはスポンジでよくない?」

 

 翔陽は本当に見るたびに新しい。さっき戦ったばかりなのに、もう新しくなってる。

 

『ピーーー!』

 

「さっ、また回って来たぞ、烏野のバケモンさんが」

「クロ何気に綾隆苦手だよね」

「あんなごり押しで勝ってくるやつ嫌だもん~」

 

 綾隆はサーブトスを上げる。

 うわっ出た。

 天井サーブ。

 恐らくレシーブが苦手な白馬を狙った。取りこぼし、星海が繋ぎ、昼神が返す。

 烏野のファーストテンポのシンクロ攻撃。

 翔陽は今回、紛れたのか。

 けど、昼神はついていった。

 ワンタッチで弱め、諏訪から昼神の速攻。これを翔陽がブロックで威力を弱める。

 今回は高さを出せない。翔陽はライトに走っていく。

 ストレートに打ち決めた。

 

『また日向翔陽!!』

 

「ちびちゃん、目立ってきたね~いいじゃないいいじゃない」

「ようやく烏野の本調子に入りそうだね」

 

 ネットを挟んで、白馬が翔陽に何か言ってる。何を言ったのか知らないけど、翔陽は嬉しそうだった。それを見て白馬は気持ち悪そうにする。

 ふふっ…だろうね。

 

 

18-17

 

 綾隆のサーブ。

 今度はジャンフロか。なんか、あんましサービスエースとかは狙わないんだね。

 

「おっまた、ちびちゃんを使うのか」

 

 翔陽に上がったトスを今度は捕らえた鴎台。

 大きく上に上がり、鴎台のチャンスボール。

 

 星海が指先に当てて大きく吹き飛ばす。

 

「俺、こいつらキライ」

「また言ってる…」

 

 クロの言葉は無視でいいや。

 

18-18

 

 昼神のサーブか。この人もジャンフロだったっけ。

 皆、綾隆を狙わないように大きく外して打ってる…。

 

 ジャンフロ苦手な夕が上げて、ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 影山から綾隆へ。だけど、これはブロックに当てもう一度やり直し。

 

 マイナステンポで突っ込む日向。

 横に飛ぶけど、しっかりブロックは付いてくる。

 昼神が手に当てた。

 過信せず、恐れ過ぎずもせず、ただ客観的に見つめている。

 

 後ろに飛んでコート内に落ちそうになったところを、澤村クンが繋ぐ。

 綾隆が繋ぎ、夕が最後に返す…が、白馬がダイレクトで叩き下ろす。

 

『ボンッ』

 

 澤村クンがボクサーの構えのように、腕でガードし上げた。

 

「うおおおおおだいちぃいいいい」

「菅ちゃんが、今日もホットである」

「うん…」

 

 翔陽は幅を使うのか。ライトへ走っていく。

 おっ…。

 幅から高さへ瞬時に切り替えた。槍から剣へ。ごり押しだ。

 

 ファーストテンポ + ドンジャンプ。

 

 昼神が触るも、コートに落ちた。

 

『変幻自在な速攻炸裂!!』

 

 それでも昼神は全く動じていない。

 

「それにしても…翔陽は、どこまで行っても翔陽だね」

「何がだい?」

「翔陽はいつだって高さで勝負してる」

「でも、さっき限界があるって言ってませんでした?」

 

 リエーフがそう聞いてくる。

 

「ここでの高さとは、何メートルジャンプしたかよりもブロックより何センチ高いかだよ」

 

 おれは更に続ける。

 

「翔陽はパワーも技術もミジンコだけど」

「ひでえ」

「そんな事は翔陽が一番分かってる。翔陽はずっと高さで勝負してる」

「同じこと言った」

「研磨は大事なことは二回言う奴だ」

 

 

19-18

 

 

 翔陽のサーブ。 

 まだまだションベンサーブなのに、張り切ってエンドラインまで下がっていく。

 何か秘策が…?綾隆が何か伝授した?

 

『ピーーー!』

 

 翔陽はサーブを打った。

 普通だ。相手は普通に上げた。

 何だったんだろう。レシーブが楽しみだっただけ?

 星海が攻撃に入る。

 烏野は三枚のブロックがついた。

 

「あれ…綾隆、守備位置前過ぎない?」

「ほんとだ…っ!?」

 

 星海はいつものように指に当て吹き飛ばした。けど、アタックライン近辺で跳んだ綾隆がその場で触って上に上げた。

 確かに後方で待っているよりかは、前で待っていた方が、守りやすいし次に繋げやすい。けど、それは飛んで来る位置が分かってないと無理…。

 

「「「「おおお~~」」」」

 

 会場の誰もが驚き、どよめく。

 

「やっぱ、綾隆特殊能力でも持ってんじゃないの?」

「確かにな」

 

 クロがそう言って、衛輔くんが頷く。

 影山がボール下へ移動し、シンクロ攻撃に紛れた翔陽へファーストテンポ + ドンジャンプのバックアタック。

 別所と野沢の二枚ブロックに当てる。

 そして、後方へ飛んでいき、上林が上げる。バックアタックで星海が打ち下ろす。

 

「ワンチ!」

 

 今度は月島が止める。

 綾隆が繋ぎ、旭さんが翔陽へ二段トスでオープン。

 『ドンッ!』高く跳び、打ち下ろすが、また星海が上げる。相当、翔陽には負けたくないんだろうね。顔ががいちいち変顔になってる。

 速攻で別所にセットされるも、綾隆が真正面で待ち構える。

 

「ちっ…なに、あの広範囲レシーブは」

 

 まあ言いたい気持ちは分かるけど。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 澤村クンにあがるけど、『ダァン!』と落ちた。

 あれだけ、長いラリーを取られるのは精神的にキツイんじゃないかな。

 

19-19

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 日向がベンチに下がり、西谷先輩がIN。

 少々、計算が間違えていたか…。

 このセット中盤で日向を脱落させるつもりだったが…しぶとい…。

 多めに日向に回すようにしているが、まだ粘る。だが、もうそろそろだろう。足にきているし、息も荒々しい。

 早くローテーションを回そう。

 

『ドォン!!』

 

『ズッッドォォォン!』

 

20-20

 

「悪い、取り損ねた」

「珍しいじゃな~い」

 

 嬉しそうだな、月島…。

 

21-21

22-21

 

上林 野沢 白馬

諏訪 星海 昼神

 

ーーーーーーーー

 

日向 綾隆 影山

澤村 東峰 月島

 

「ブロック振り向かーす!」

 

 日向が走って出て来た。

 月島のサーブを上げ、光来へ。三枚のブロックで跳ぶ。

 日向を狙ったか…後方へ吹き飛ばされるも、主将がもとより下がっていたため、繋ぐ。

 影山から、東峰さんへ。ブロックに阻まれ、上に高く上がりボールは鴎台コートへ返る。

 光来がサイドラインを越えて走っていく。

 

「幸郎!とべ」

 

 コート外から速攻に繋げる。

 ブロック1枚で打ち下ろしてくる。

 

 スローモーションへ変えて、レシーブ位置へ移動する。

 

「はああ!?」

 

 光来の不満の叫びが良く聞こえてくる。

 影山から日向へ。

 

 マイナステンポ + ドンジャンプ。

 

 今まで、ファーストテンポに紛れ続けてきた。

 バレーボールで高さは絶対。

 大きい者はそれだけで至高。

 

 そんな世界に160㎝が高さで挑んでいる。

 

『スッパァン!』

 

『はやいはやい烏野1年コンビの超速攻炸裂ーーッ!』

 

「なんだよ、まじかよ、すげえなこのヤロウ」

 

 白馬が勢い余って日向を褒める。

 

「びっくりして褒めちゃったよ」

「根が素直だから」

 

 後ろからチームメイトに突っ込まれている。

 

「すげえのはコイツっす」

 

 日向は影山を指差して言った。そして続ける。

 

「おれはとべる。けど絶対に一人じゃ勝てない」

 

 自分が弱いことを、堂々と言える日向に白馬は理解できない顔をする。

 光来もそんなことを言っていたが、それはオレもである。

 幼少期、怖くて悔しくて泣いたからこそ、今、強く生きられる。

 

23-21

 

 影山から東峰さんへ。ブロックに当たり軌道が変化したが、難なく光来は上げる。そして、諏訪から光来へ。

 っ…。

 これは取れんな。

 打つ瞬間に逆を突いたスパイク。

 光来の顔は自身に溢れている。

 

 俺は星海光来だ!!!とでも言いたそうだ。

 

23-22

 

 

 未だ東峰さんをマークし続けている鴎台。そんな徹底マークされた東峰さんに真っ向勝負を挑ませる影山。

 東峰さんは高く跳び、溜めてから打つ。

 昼神ブロックに阻まれる。諏訪が光来へセットアップ。

 光来の空中での安定感は、やはり常人離れしている。

 オレも全く同じことをするのは難しい。それをするには、更に高く跳ぶ必要がある…。

 

『スッパァン!』

 

 光来のスパイクはそのまま突き刺さった。

 

23-23

 

 西谷先輩が、またも星海のサーブを上げ、影山から東峰さんへ。

 ブロックを掻い潜るも、星海が待っている。

 相手もファーストテンポのシンクロ攻撃。

 野沢に上がったが、日向が跳び付きブロックで阻む。

 だが…諏訪が触り繋ぐ。

 

「幸郎!!」

 

 再び光来がセットに入ってくる。

 だが、オレと日向がブロックを跳び、絞る。

 

「ナイスブロック!」

 

 西谷先輩がそう言いながら上げる。

 日向は助走距離を確保する。

 そしてマイナステンポ + ドンジャンプ。

 

 1㎝を1mmを1秒はやく。日向はてっぺんへ辿り着く。それが日向の戦い方。

 

 昼神の重心が僅かに日向へ向く。

 ブロック1枚。レフトから東峰さんが叩き下ろす。

 

『ズッパァァン!』

 

「「ン゛ン゛ーーッ!!」」

 

 東峰さんと日向のガッツポーズが被る。

 

「不動の昼神って動けないみたいじゃんって文句言えなくなっちゃった」

 

 ネットの向こうから聞こえてくる。

 

「不動って異名を甘んじて受け入れよう」

 

 昼神も異名を快く思ってなかったんだな…。オレもそうだぞ。仲間だな。

 

「!」

 

 日向は何か思ったようで顔を勢い良く上げる。

  

「誰かが、おれに名前をつけてくれるなら、おれは最強の囮がいい」

 

 皆が日向に視線を送る。あれほど、エースにこだわっていた日向が…。

 

「自分で自分を囮って思うことは多分、一生ないけど」

「何を今更、俺はずっと言ってんだろうが。最強の囮はかっこいい」

 

 影山が言う。

 

「セッターの次に」

 

 そう付け加えるが、セッターは異名ではない。

 助けて、月島か田中先輩。こいつらに突っ込みを入れられるのはあの二人くらいだろう。

 

「だから、小さな巨人の名前は星海さんどうぞ」

 

 お譲りする日向。

 

「あげます、みたいに言ってんじゃねーよっ最初っから俺んだ!!」

 

 光来はキレた。

 

「はっはっは!!」

 

 とすぐに笑いだしたが。

 

 

24-23

 

 

 オレは日向に近付いて行き、おでこをつつく。

 

「おおぅ…なんだよっ」

 

 突っかかってくるが、ふらっとしたのを見逃さなかった。

 

 来た。

 

「早く持ち場に戻れ、いつまでも浮かれるな」

「わ、分かってます!!」

 

 

▽▽▽

 

 

 

「日向くん、乗って来たねぇ~」

 

 全日本ユースの監督は嬉しそうに言った。

 試合は長いラリーが続いている。

 

「星海も清田くんも、そして日向くんも身長は大きくないけど、戦い方はまるで違う」

 

 星海がスパイクを打ち、綾隆が拾う。そして日向が速攻で打つ。

 見ながら話しを続ける。

 

「はい」

「戦い方なんて一つじゃない」

「そうですね」

「でも…我々が求めているのは、大きくて優秀な選手だから」

 

 残酷だが、それがバレーボールの世界。

 

「でもこの国で大きく優れた選手が育つ時。小さくとびきり優れた彼らが、道を譲るわけじゃないんだ」

 

 光来のブロックで烏野コートにボールが落ちる。

 

「我々は求めない。でも彼らには関係ない。確固たる実力で我々に選ばせにやってくる」

 

 その小さき者たちの威勢、圧に少し険しい顔になりながら言った。

 

 

 

「目の前の相手はすべて、倒さなくちゃいけないと思ってた」

 

 光来はそう言う。

 

「けど、今はちょっと違う。倒してみたい」

「楽しそうな光来くん、ちょっと気持ち悪いね…」

 

 その言葉に痺れた昼神だったが、気持ち悪さが勝った。

 

「てめえ表でろ」

「ごめん、今からサーブだから」

 

 

▽▽▽

 

 

24-24

 

 

昼神 星海 諏訪

白馬 野沢 別所

 

ーーーーーーーー

 

東峰 澤村 日向

西谷 影山 綾隆

 

 

 昼神のサーブを西谷先輩が上げる。日向が跳び出す。

 そして横に飛ぶ。

 見事に釣られ、二枚のブロックが跳ぶ。

 あざ笑うかのように影山は躱し、東峰さんへ。

 東峰さんはノーブロックで打った。

 

『ズッッパァァン』

 

「ふぅーーーーーーー!」

 

 東峰さんが叫ぶ。

 

『珍しく完全にフラれた鴎台ブロック!!』

 

 

25-24

 

 

 月島が前衛に回って来て、日向がサーブ。

 

「逃げんなよ?」

 

 おっと今度は影山が煽る。

 月島は何も言わないが、怒りマークが顔中にこびり付いている。

 

 日向のサーブはネットに当たり、IN。

 あぶな…。ここで鴎台に取られていたら、二セット目に回さなければならなかった。

 

 白馬が飛び込み上げる。

 だが、そのまま返ってくる。

 東峰さんが上げるが、烏野は助走不十分、だが、それは鴎台もだ。

 

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 

 影山はツーを選択するも、三枚のブロックに捕まる。

 が、跳んでいる主将の足に当たり、そのまま鴎台のコートに返る。

 観客からは歓声と笑い声が上がる。ファンキーな主将を見た。

 

 鴎台は繋ぎ、野沢のスパイク。

 

「ワンチ!」

 

 月島が阻み、日向が後方でレシーブ。

 真ん中から月島が勝負。

 ブロックは抜ける。

 

 だが、星海が完璧に上げた。

 

『おおおおおおおおお』

 

 またしても歓声が上がる。

 

 諏訪から白馬へ。

 そして打ち下ろす。

 

 だが、こちらでは日向が完璧に上げた。

 

『わあああああああああ』

 

 またまた歓声が沸き起こる。

 

 そしてマイナステンポで入っていく。

 

 だが、跳べなかった。

 そのまま滑るように倒れる。

 

 そして、そのままボールは落ちた。

 

 

 

25-25

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 化け物は静かにその時を待つ。

 

 『勝つ』ための算段。

 『勝つ』ためなら、誰であろうと利用する。

 

「あれっなんだろ…」

 

 日向は思うように立てず、尻もちをついた。

 

「せんせい」

 

 烏養は武田先生を呼び、日向のところへ向かわせる。

 

『…おっと…これは?何かアクシデントでしょうか』

 

「そいつ、多分熱あります」

 

 そう言ったのは、影山だった。

 日向を担いで一度、ベンチに座らせる。

 清水は影山の言葉を聞き、サッとカバンの中から体温計を取り、日向の脇に挟む。

 

「すげえ運動量だしって思ってあんま気にしなかったけど…さっき、手が異常に熱かった」

「何言ってんだよ、普通だよ!!」

 

 そう反論する日向に、武田先生はおでこに手を当てる。

 

「昨日の夜からヘンでした。初日は風呂すら起きてられなかったのに、昨日はずっとハイテンションで、音駒の試合の後も、いつもなら飛び付く飯を食わない・休まない。ずっとスイッチが入ったままみたいな。

 電池が切れてもおかしくない」

 

 誰も日向の熱に気付かなかったことに悔やんでいるようだ。

 しかし、これは作為的なこと。

 綾隆はずっとこの時を待っていた。

 今、綾隆の心境はどうだろうか…。

 仲間が倒れ心配しているか…するはずもない。

 自分の行動に後悔しているのか…していないだろう。

 なら、計画通りに進みほくそ笑んでいるのか…いや、それもありえない。

 

 なぜなら、この程度のことに心が揺れ動くような、か弱い訓練を受けていない。

 

 つまらない作業。

 

 それが綾隆の本心だった。

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 『ピピッピッ』体温計が鳴る。39.1℃と表示されている。

 

「でも、別にどこか痛いわけじゃないし、動けるし!おれはとべます!!」

 

 日向は立ち上がりそう説得する。コーチを掴み説得を続ける。

 

「ケガじゃないです。ケガじゃないです!!」

 

「…………澤村くんの時と同じです。大丈夫であることを確認してきなさい。さあ、日向くん」

 

 武田先生は日向に説得をするが、日向は引かない。

 「ふーーっふーーっ」と息を荒くし、睨む。その表情は小さくかわいらしい日向からは想像も出来ないほどの圧があった。

 武ちゃんは少し怯むが、引かない。

 

「君が聞きたくないことを承知で君に話します。今、これ以上、君を試合に出すことは出来ません」

 

 武ちゃんは真っ向から日向の目を見て言った。

 そして、日向の手を握り、話を続ける。

 

「君は中学で試合が出来なかった分、試合ができるという喜びを人一倍持っている。悔しさは一入でしょう」

 

 それが日向をここまで成長させた要因であることは間違いない。

 

「…………だから、いいですか日向くん。この先、絶対にこんな気持ちになるものかと刻みなさい。どうしようもないことは起こるでしょう。その度に注意深く刻みなさい」

 

 武ちゃんの言葉は心に響くものがある。オレもそれを感じ取ることは出来た。

 

「君は将来金メダル取るといった。何個も取ると言った。そして君は今、がむしゃらだけでは超えられない壁があると知っている。その時、必要になるのは、知識・理性、そして思考。日向くん。今、この瞬間もバレーボールだ。勝つことを考えてください」

 

 日向の目から涙が溢れ出す。

 

「君の身体はこれから大きくなるでしょう。けれど、ネットという高い壁越しに行う競技で190㎝が小柄と言われるバレーボールの世界では、きっと君はこれからもずっと小さい」

 

 会場は静まり返り、武ちゃんの言葉を全員が聞いているような気がした。それほど、武ちゃんの言葉はこの体育館に響いていた。

 

「他人よりチャンスが少ないと真に心得なさい。そして少ないチャンス。ひとつも取り零すことのないよう摑むんです」

 

 いつの間にか、日向も静かにその話を聞いていた。

 そして、最後にこう言う。

 

「君こそは、いつも万全でチャンスの最前列に居なさい」

 

 その言葉を皮切りに日向は泣き出す。

 

「ごめんなさい…!ごめんなさい」

 

 とひたすらに謝り続けた。

 皆は口々に日向に励ましの言葉を送る。

 励まし方は人それぞれだが、十分届くだろう。

 そして、オレも声を掛けておく。

 

「日向、今のお前くらいオレが代わりを務められる。さっさと直して来い」

 

 日向は無言で頷く。

 

「俺の方が長くコートに立つ」

 

 最後に影山が日向に言葉を掛ける。

 

「今回も俺の勝ちだ」

 

 日向は涙を拭き、影山を見つめ、コートを出て行く。

 

「日向翔陽!!俺はお前を待っている!!」

 

 出て行った日向に、星海は声を張り上げた。日向は一礼して去って行った。

 

 さてと…これからが本番だ。

 淡々と作業を行うとしよう。

 

「田中先輩」

 

 オレは先ず田中先輩の名前を呼ぶ。これだけで意図は通じる。

 

「オレがMBに入ります。影山、合わせられるか?」

「当然だ、ぼげぇ」

 

 何故、ぼげぇと言われなければならないのかは分からないが、まぁ…良い。

 

 タイムアウトが終わりコートに戻る。

 

『2年田中龍之介をWSに投入します。そして、清田綾隆をMBに入れてきました』

 

 コートに出て行く途中、オレはオレが発言した言葉に驚いていた。

 

 「今のお前くらい…」

 

 オレは自分が想像していた以上に日向に期待しているのかも知れないな。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 日向の離脱に会場は騒然としていた。

 だが、敵も味方も喜んでいる人は誰も居なかった。人は…。

 皆が日向の活躍に魅入られていた。

 

「俺行ってくる!」

 

 烏野応援席では、いつまでも悲しんでは居られなかった。

 スーパーのお兄さんは日向のところに駆け出す。

 

「翔陽を任せたよ!」

 

 田中の姉が言った。

 

「烏野を頼むぞ」

 

 

「うわーキツイな。烏野選手層薄いのになあ」

 

 観客も烏野のダメージの大きさに同情する。

 だが、烏野はそんなマイナス思考には陥っていない。

 

「うちのスパイカーはちゃんと皆強い。ですよね?」

 

 影山が言った。誰よりもストイックな影山だからこそ言えること。

 その言葉はまるで詐欺師のようだった。それだけで、皆は奮い立つ。

 

 烏野は一度円陣を組む。

 

「経験不足、準備不足。ぜんぶひっくるめての俺達全力…烏野ファイッ!!」

 

「「「「「「ォア゛ーーーーーーーーーーイッッ」」」」」」」」

 

 烏野の今までと異なる真剣な顔つきに、

 

「流れ…なんか無い」

 

 鴎台はそう零す。こちらも受けて立つと烏野を迎え入れる。

 

 

「研磨」

 

 試合会場の裏側で着替えている日向に近付いて来たのは研磨だった。

 

「ともだちを励ましに来た」

 

 目がうるっとした日向だったが、堪え聞く。

 

「……研磨、試合見れるように出来る?」

 

「ウン、貸しに来た」

 

 研磨はタブレットを日向に貸して、自分は観客席に戻って行った。

 

 

 

白馬 上林 星海

野沢 別所 諏訪

 

ーーーーーーーー

 

月島 東峰 澤村

影山 田中 西谷

 

 

 

 

 田中によるバックアタック。

 初っ端から田中を使って行く影山はいつも通りだ。

 

『バヂィン!』

 

 とブロックに当たりサイドへ飛んでいく。

 

26-25

 

 だが、次の田中のスパイクは捕まり叩き落とされる。

 もう相手はエンジンが掛かっているだろう。

 日向が脱落し、烏野は絶対に負けないと意志を強くし挑んでいるが、どこか暗い。

 

26-26

 

 野沢のサーブはアウト。

 

27-26

 

 東峰のサーブ。

 鴎台を崩し、返ってくる。

 

「レフトォォオオ!!」

 

 田中が叫び、トスを呼ぶ。

 影山はセットする。

 

『ダァン!』

 

 全国のトップクラスのブロック。エンジンが掛かった相手。

 そして、自分はまだ温まっていない。

 いきなりドシャットを食らい、普通なら気分は沈む。

 

 

27-27

 

 

 別所のサーブを上げる。

 

「レフトォオオ!!」

 

 ダセェのは勝負に負けるより勝負にビビること。

 田中はそう考える。

 もう一度、田中にセットされる。

 

 が、ブロックに阻まれ、鴎台のチャンスボール。

 ファーストタッチをそのままセットする諏訪。

 そして、昼神の速攻。

 月島が一枚で跳ぶ。

 昼神が打ち下ろす瞬間…田中が真ん中へ一気に詰め寄り、ブロックに参加する。

 昼神は二枚のブロックを何とか躱し打つが、待っていたのは西谷。

 

「だっしゃあああ」

 

 西谷の咆哮から、ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 澤村が打ち、レシーブの腕に当たり落ちる。

 「「「ふぅ」」」と、烏野は安心したように息を吐く。

 

 田中の顔は険しい。

 

「りゅうちゃん…」

 

 コート外で呟くのは新山女子。田中の幼馴染の天内叶歌だ。

 

(こりゃ今回もやばいんじゃないの?稲荷崎の時も結局決められず終わってしまったし…)

 

 と、もう一人の新山女子は心の中でそう思った。

 

「でも、大丈夫、きっと…」

「ん?」

 

 天内のその自信に疑問を抱きつつも、それを聞くことはせず試合を見ることにした。

 

 

28-27

 

 

 月島サーブになり、綾隆が前衛に回って来た。

 日向不在の中、どれだけ綾隆がMBの活躍が出来るかにかかっている。

 

 綺麗に上げたサーブ。入り乱れて攻撃に参加する鴎台のスパイカー達。

 星海にセットされ、打ち下ろす。

 

「ワンタッチ」

 

 綾隆によるブロックで威力を弱める。

 光来は顔を顰め、綾隆を睨む。

 

「田中さん」

 

 影山から田中へ。三枚のブロックが付こうが関係ない。

 レフトから田中のスパイク。

 

『ズッパァアン!!』

 

『バサッ』

 

 副審の旗が上がる。アウト。

 サイドラインギリギリのストレート…惜しいスパイクだったが、良い感じに打てた田中からしてみれば、これ以上どう打てば良いのか分からなくなる。

 田中は顔を上に上げ、目を閉じる。

 そんな田中に綾隆が声を掛ける。

 

「田中先輩。さっきよく真ん中のブロック跳びましたね。オレなら諦めてました。さすが、『先輩』です」

 

 先輩というパワーワードに頼りすぎているが仕方ないだろう。今は天然おだて上手はいないのだから。

 

(いやいや、やっぱ厳しいよ、これ…私ならもうやめたいな…)

 

 心の中でそう思う新山女子。

 

 

28-28

 

 

 諏訪のジャンフロを崩れながらも上げる澤村。

 そのまま返すだけとなった。

 鴎台の速攻。昼神によるスパイク。

 綾隆がストレートを締め、田中が一気に詰めてブロックを跳ぶ。

 月島は、天然おだてられ上手こわっと思った。

 

 コースを絞られ、東峰が上げる。影山から田中へ。

 だが、鴎台は三枚のブロックで一気に詰め寄る。

 少々怖気づいた田中は、怯みながらも打ち下ろす。

 ブロックに阻まれ、自コートへ落ちていくボール。綾隆がすかさず拾う。

 ネットの上に上がったボールを影山が押し込み点を捥ぎ取った。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

29-28

 

 

 俺は普通の人間だと思う。

 体格とか能力とか、ガキの頃は自分を「天才に違いない」と思っていた。

 …いや中坊くらいまで思ってたかも…いや今でもちょいちょい思ってるな。

 でも多分身長は180に届かないだろうし、運動能力に自信はあるけど、バレー部の中で現時点で俺が一番である部分は無い。

 それが何かを諦める理由にはならないし、言い訳にもならない。

 つーかそもそも普段そんな事考えない。

 でも半年に一回くらい限りなくメンタルがマイナスよりになったときに思う。

 自分は平凡なんだと。

 

 ところで…平凡な俺よ。

 

 下を向いている暇はあるのか。

 

「レフトォォォォォオオオ!!」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 うわ…田中くん、これは辛いな。

 私は木兎と三年間関わって来たから良く分かる。

 これだけブロックに叩き落とされたら、木兎ならイジケルだろう。

 

「レフトォォォォォオオオ!!」

 

 それでもしょげたりしないのは、持ち前のメンタルの強さなのかな。

 こういう人にセッターはボールを託したくなると私は知っている。

 それは多分、木兎も分かっているのだろう。

 今日の木兎はいつもと違った。

 いつもの木兎らしくないようで、木兎らしい木兎が声を大にして言う。

 

「エースの心得。

 一つ!!背中で見方を鼓舞すべし!!

 一つ!!どんな壁でも打ち砕くべし!!

 一つ!!すべてのボールを打ち切るべし!!」

 

 その言葉に赤葦もニッと笑い頷く。

 

 私もさすがにそれは知っている。いつもこれ見よがしに木兎が着ているからね。

 

 エースの心得Tシャツ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 「龍ちゃんが諦めないように、私も諦めない」

 「龍ちゃん、出来るまでやれば出来るよ!」

 

 ブロック…ストレートもクロスも防がれているなら…。

 

 超インナー!クロス!!

 

 ミスしても。何度叩き落とされても…出来るまでやれば出来る!!

 

『ズッパァァアン!』

 

「しゃあああおらあああああ!!」

 

「「「「「おおおおおおお」」」」」

 

 俺はやはり…天才!!

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 田中先輩による歓喜の咆哮。

 慶賀に堪えない田中先輩。いや、そもそも堪えようとしていないが、先程までのストレスを全て乗せ、快哉を叫んだ。

 

 オレはエースにはなれない。

 淡々と熟すオレにはチームの士気を高める一球を打てない。

 

「うおおおおお!ぼうずーーーー!!」「坊主頭いいぞぉお!!あっぱれや!!」「すっげええ!!」

 

 烏野の試合を一回戦の時から見ていた人は意外と多いだろう。稲荷崎との試合で調子を崩し、ベンチへ下がった田中先輩。それを見て、この試合に出て来た時は不安だったはず。

 だが、最後のセットポイントで見事決めて見せた。

 その人達に与える感動は計り知れないだろう。

 

 その一球は間違いなく流れを掴む一本。

 

 逆境を打ち破るその一本は会場内の全ての人を味方につける、そんなスパイクだった。

 

 本当にこの人は…先輩なのだ。

 

 この人のおかげでチームは一段階進化する。

 

 感情は操作するもの。

 

 流れは作り出すもの。

 

「「「「「「た~なか!!!た~なか!!!た~なか!!!た~なか!!!」」」」」」

 

 と烏野側の観客席からコールが始まり、一人また一人と伝染していく。結果として会場中の観客がしているようなほど騒がしくなった。

 

 

「どうよ!見たかね??んがっはっはっは。このコール…まさにモテ期到来!!!」

 

 モテ期とは違うと思うが、そこは触れないでおこう。

 

「さすが先輩ですね」

「一瞬凹んだけど、やっぱ押せ押せの俺はカッコいいだろ?」

「え?あ、はい」

 

 よく分からないが、頷いておく。

 

『第一セットを烏野高校が先取!!この勢いに乗った烏野高校を止められるのか⁉』

 

 コートを移動中、月島がボソッと呟いた。

 

「あ~また二セットで終わりか…」

 

 オレは聞き逃さなかった。そして菅さんもだ。

 

「なんだよ~お前、もう次のセットも取る気で居んのかよ~」

 

 バンバンと叩きながら菅さんは嬉しそうに言い、更に続ける。

 

「あ、ちょっと待って、それは言わ…」

「綾隆みたいだな~!!」

「はぁぁ~~~~おちこむ…」

 

 本気で項垂れるなよ…。

 

「……失礼という言葉を教えてやろうか?」

 

 

【隠し事は無し】

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 2セット目。

 

白馬 上林 星海

野沢 別所 諏訪

 

ーーーーーーーー

 

澤村 月島 田中

東峰 西谷 影山

 

 

「おっ鴎台ローテ回してきたじゃないの~」

 

 二セット目開始前のポジション確認で、一セット目とは違った配置だったことに気付いた黒尾。

 

「だね、多分烏野の最も攻撃が滞るローテに星海のサーブと白馬…2mの壁を持ってきたんだろうね。つまり、鴎台最強のローテだ」

 

 研磨がそう言い、皆がうんうんと頷く。

 

「でも、烏野も何もしてないわけじゃないようだぞ」

「だね…綾隆と月島の位置を入れかえてきた。」

「綾隆ならなんかやって来そうな気が…」

「「「同感」」」

「ああ、そして…」

 

 俺は一度溜めてから言う。

 

「全国最強ブロック高校の最強ローテに、バケモンをぶつける」

「これはまあ監督同士の戦いだね」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

1-2

2-2

 

 オレが前衛に回って来た。

 昼神の速攻。

 

「ワンタッチ」

 

 オレのブロック。

 正直、読みでブロックを跳べば、当たる自信がある。天童のように相手の心を折るブロックをすることは可能だが、今、烏野はリードブロックでリズムに乗れている。それを壊すことは出来ない。

 

 田中先輩にトス。だが、相手もただでは通さない。

 

「ワンタッチ」

 

 昼神によるブロック。

 白馬のバックアタック。

 

「ワンタッチ」

 

 オレも更にブロックで弱める。

 

「ちっ…」

 

 相手の舌打ちが聞こえてくるが、それはこちらも同じ気持ちだ。

 

「チャンボ!チャンボ!」

 

 田中先輩がファーストタッチを高く上げる。

 

 

▽▽▽

 

 

「ファーストテンポのシンクロ攻撃…これが今の俺らにできる最大限…」

 

 菅がそう呟き、更に続ける。

 

「この勢いのまま行けよぉ…行ってくれ~」

 

「「「えっ…」」」

 

 ベンチメンバーが口を揃えて零す。

 

 驚いたのは味方だけではない。

 コーチも清水も敵も観客も驚いただろう。

 

『ドォン!』

 

 真ん中から一足先に跳ぶ、速攻。それは亡き日向のマイナステンポ。

 

 そこへ合わせるように影山はトスを持っていく。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 良い感じだ。

 ボールがしっくりと指に引っ付く。

 コート全体がよく見える。

 

 綾隆の何度目かのブロック。

 クソが…まだ隠してやがったか。

 

「チャンボ!チャンボ!」

 

 田中さんのファーストタッチからファーストテンポのシンクロ攻撃。

 誰に上げる?

 ここは綾隆に上げてやろう。

 

 あ…?

 

 飛び出した綾隆。本気か…?

 

『ドォン!』

 

 似ている。この圧倒的存在感。

 

 あの下手糞に…。

 

 ここに居る。ここに上げろと呼んでいる。

 

 負けねぇ…負けてたまるか。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

『ドォン!』

 

 マイナステンポで助走に入り、高く跳ぶ。

 味方も相手も驚愕しているだろう。それはそうだ。

 

 この助走に何の意味もない。

 

 練習したことないしな。だが、相手はそれがどうか分からない。烏野は常に新しく、勢いに乗っている今ならやってもおかしくないと考えるだろう。

 忘れられない速攻。

 オレの存在感。

 意識したくなくてもしてしまうだろう。

 

 オレに一人ブロックがついて来た。これだけでも十分だ。隣から田中先輩が踏み切ろうとしている。そちらは0枚。

 

 ん?

 

「ぶねっ…」

 

 オレは嫌な予感がし、顔を横に向けると眼前にボールが迫って来ていた。

 ギリギリで顔を傾け避けつつ、ボールを相手コートに押し込む。

 

『トンットトン』

 

 鴎台コートで落ちた。

 

「おっお?お、おお…うおおお!お前ら!危なかったがナイスだぜ~!」

「今のは失敗したのか?」

「と言うか、お前までできたのかよ…音駒のときはどうして隠してたんだ?」

 

 皆がハイタッチをしてくるが、オレと影山は視線を交差させたまま固まる。

 

「悪い」

 

 強烈な顔だ。

 もの凄く悔しそうなことは分かる。だが何を悔しがっているのかは分からない。

 影山が先に口を開き、更に続ける。

 

「いけると思った」

「いや…練習していないのに出来るわけがないだろう…ただの囮だぞ?」

 

 オレは言う。

 

「田中先輩が、さっきフリーだったよな?」

 

 オレはそう続けたが、その発言が駄目だったらしい。

 

「あ??跳んだなら打て。俺のトスは全て打て」

「……う。うす」

 

 圧倒的な圧の前には圧倒的な経験数は役に立たない。

 オレは日向口調で返事をした。

 

「なんだ?まぐれかよ」

「ぶっつけ本番かよ」

 

「君も…」月島が何やらニヤニヤしながら近づいて来た。

 

「日向みたいじゃん」

「それは、悪口だ」

 

 オレは反射的に言った。

 

「いや、それこそが悪口だろ」

 

 まぁ…良い…もう跳ばなければ良いだけだ。

 

「次も上げる。黙って跳べ」

 

 機先を制された。

 あれ、戻ってませんか…?王様に…影山くん。

 はぁ…やるしかないか。

 

 

3-2

 

 

 レフトから昼神の速攻。

 オレと主将の二人で跳ぶ。

 ブロックを躱し打つが、その先には西谷先輩。

 

 うわ…跳べと影山が目で語っている…。

 

 仕方なくマイナステンポで入っていく。

 

『ドォン!』と高く跳び、ここまで持って来いと影山に圧を送る。

 

 スローモーションの世界で、ボールが手元に来るのが分かる。

 タイミングよく腕を振り、ここに打てと示された場所に打つ。

 

『ズッパァン!』

 

 意外と打たせて貰うのも悪くないな。

 

「「「「「おおおおおおおおおおお!!」」」」」」

 

 観客席からも歓声が上がる。

 

『決まったーー!!一年生コンビ清田綾隆、影山飛雄!!』

 

「「「「ナァイスキーー綾隆!!いぞいぞ綾隆!!押せ押せ綾隆!!」」」」

「ナイスキー!!綾隆!!」

「どうも…なんだ、影山」

「ナイスキィー」

「その顔を止めてもらいたい。お前…自分のおかげだとか思ってるだろ…」

「あたりめーだ」

「そっすか…」

 

 

4-2

 

 

 月島のサーブを上げて、レフトから光来。

 

『ドンッ!!』

 

 サードテンポなため、こちらはしっかりと3枚のブロックを付ける。

 が、指を掠め後方に飛んでいく。

 

『今度は鴎台が決めたーー!!やられてばかりではない!!これぞ小さな巨人!!』

 

 光来はハンッとドヤ顔をして、皆にハイタッチをしに行った。

 

 

4-3

 

 

 別所によるサーブ。

 田中先輩が上げる。

 そして、オレが真ん中からマイナステンポで入っていく。

 だが、オレは囮で影山はレフトの東峰さんにセットする。

 

『ダァン!』

 

 と烏野コートで叩き落とされる。

 まだ東峰さん狙いは続くようだ。

 

「ドンマイ!!」

「スマン」

 

 何度も叩き落とされたが、東峰さんはそれほど落ち込んでないようだ。

 日向が不在。こんな所で負けてられなくなった。

 そして、逆境の中、田中先輩が見せた一発。

 自分も下を向いてられるか、と感じているのだろう。

 

 

4-4

 

 

 別所のサーブは東峰さんの前、ネット際に落とされる。

 追い打ちのサーブだな。

 影山から田中先輩のバックアタック。

 

 だが、光来が繋ぐ。

 諏訪から昼神への速攻。

 

 影山がレシーブをし、田中先輩がフォローに入る。レフト東峰さんへ。

 少しネットに近く打ちづらい。

 が、それでも東峰さんは打ち下ろす。

 ピンチを託されるのがエース。上がる限り東峰さんは打ち続けるだろう。

 もう…過去は繰り返さないと…。

 

 だが…ブロックに阻まれる。

 コートに落ちるボール。邪魔をする小さな手。

 

『リベロ西谷、見事なフォロー!』

 

 これ跳ばないと駄目な奴だな…。

 オレは速攻で跳ぶ。

 

 うわ、ボール来た。

 

 相手もうわっ速攻かよ、と思っただろうな。

 

『ズッパァァン』

 

『バタついた状況でも速攻を使って来る烏野…!恐るべき気の強さセッター影山!!』

 

「サンキュー西谷」

 

 東峰さんが礼を言う。

 西谷先輩は何も言わず、ただ親指を立てた。

 

「「烏野リベロかっけえ…何事だよ」」

 

 とネットの向こうで、昼神と星海がそう呟いた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

5-4

 

 俺は仲間のおかげでここにいる。

 思えば、俺が部活に戻ったのだって、綾隆が清水を連れて教室に来てくれたからだったな。

 

 強い仲間、信頼できる仲間。

 

 こいつらと一秒でも長くバレーをしていたいとおもう。

 

 でもただ一人、信頼してこなかった奴が居る。

 こういう…叩き落とされてばかりのときによく思う。「お前はどうせ失敗する」「どうしてできないんだ」「足を引っぱる奴め」と…。

 

 …さあ。相手は強敵だ。

 

 「自分」と戦っている余裕はないぞ。

 

 罪悪感も恐怖心も在って当然ぜんぶ背負って、俺は今日、俺を味方にする。

 

 …バレーに費やした時間と競技そのものにかける執念。

 

 そのどちらも俺の敵わない相手はココに多く居るだろう。

 

 俺には何ができる?

 

 田中のような一点は俺には無理そうだ。

 綾隆のような圧倒する力は俺には無い。

 日向のような存在感は当然無い。

 

 そう思うと俺には特に注目すべき点は何も無いように思える。

 けど、不思議と落ち込まない。

 

 とりあえず、一点は取れるから。

 

 ぐぅ~~~っと伸びをしてダルんっと肩の力を抜く。

 

 大地のサーブを上げて、白馬のバックアタック。

 

「せぇ~の」

 

 三枚揃えて跳び、皿ブロックで威力を弱める。

 

「東峰さん」

 

 影山からのトス。相変わらずの綺麗なトス。

 この先もこのトスを打つ1.2年が羨ましいと同時に少し同情する。

 

 ブロック3枚が付く。

 

 「重い重いエースの重圧?」

 

 仲間が重荷であったことがあるか。

 

 おおっ…良く見える。

 

『ストンッ』

 

 落ちたボール。

 

『ここでっここでブロックの虚を突くプッシュ!!』

 

 仲間の守りと筋弛緩法。自分の力が抜けたら周りの力みを感じた気がした。

 

 今までで一番、コートが俯瞰で見えた気がした。

 

 そうか…。

 

「お前達の感覚ってあんな感じなのかな」

 

 妖怪達の住処をか今見たような気分。緊張が解けたと自分で分かる。

 ふぅ…力みなんか必要ない。

 

「よし。一点獲ろう」

 

 それが俺にできること。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

6-4

 

 

 今のはオレも強打だと思ったな。

 力みが抜けたか。自分が何をするべきか分かったような気がした。

 

 主将のサーブで光来を牽制。

 諏訪から昼神へ。

 

「ワンタッチ」

「レフト!!」

「東峰さん」

 

 東峰さんはブロックを吹き飛ばす。

 だが、野沢が繋ぎ最後に白馬が返してくる。

 

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 

 そしてまたも東峰さんへ。影山としてはここで一発気持ちよく決めさせたいのだろう。

 ブロック二枚を躱しクロスへ。

 だが、リベロ上林が待ち構えている。

 

「しゃああああああ」

 

 静かそうな上林の咆哮。

 諏訪から星海へ。

 二枚でブロックを跳びクロスを締める。

 ストレートを打ち、影山が上げる。

 捕えきれず、サイドラインを超えていく。

 

「綾隆!」

 

 オレに二段トスが上がる。

 『ドォン!!』ブロックに当たり、烏野コートで高く上に上がる。

 

「チャンスボール!!」

 

「レフトォォォオ!!」

 

 影山から東峰さんへ。

 おっ…綺麗な空中姿勢だ。止まっているように見える。

 ブロックがほんの少し崩れたところに打った。

 ボールはブロックとネットの隙間に吸い込まれて落ちていく。

 

『三度目の正直…!打ち切ったエース東峰ーーッ!!』

 

 こちらに向き直り良い笑顔で親指を立てた。

 完全に吹っ切れたようだ。

 

 

7-4

 

 

 主将のサーブを上げて、諏訪が昼神へ。

 

「ワンタッチ」

 

 威力を弱めるが、コート後方まで飛んでいき落ちた。

 

 

 

7-5

 

 

 諏訪のサーブを田中先輩が上げるも少し乱れる。

 影山がアンダーで東峰さんへ。

 

「ワンタッチィ!」

 

 そう何度も簡単には通させてはくれないようだ。

 諏訪から白馬へ。

 

 オレがブロックで阻む。

 鴎台は繋ぎ、昼神から光来へ。

 だが、再びオレがブロックで阻む。少し甘かったか…上に浮いて相手のチャンスボール。

 

 三枚揃えてのファーストテンポのシンクロ攻撃。

 

 白馬に上がったのを見てからオレはブロックを跳ぶ。

 白馬はそのまま打ち下ろしてきたが、当然オレはそれを阻止する。

 

 が、オレの下へ吸い込まれ落ちていく。

 

 回し蹴りの要領で回転しながら後ろに一歩下がる、リフティングのトラップの要領でボールを上に上げ、そのまま回転を利用し日向のように横に飛ぶ。

 

 マイナステンポ。

 

『スッパァン!』

 

 鴎台コートで響く。

 

『なんという動き!あの体勢から速攻へ繋げました!!』

 

「お前、日向みてぇだな!」

「それは悪口ですよ」

「ナイスキー!」

「ふっ、ナイスキィー」

 

 影山は相変わらずだな。

 

 

▽▽▽

 

 

「「はぁ~!?何ですか今のは?」」

 

 偶然にしてセリフが被ったのは、黒尾と優だった。

 一緒に観戦していたわけではないが、気が合うのか重なっていた。

 

「「なんか、怒ってる…」」

 

 こちらも被った。みかちゃんと研磨だ。

 まあ苛立つのも無理はないのかも知れない。

 

「綾隆くんには崩れるということは無いんですか??攻略不可能ですか???」

 

 黒尾が言った。

 

「そうでもないよ」

 

 研磨が否定する。

 

「綾隆は確かに凄い。でも、まったく攻略できないわけじゃない。マイナステンポの速攻では十分な威力は出せてないから」

 

「それだけ?」

「それだけ」

「いや、崩れさす方法はねえのかって聞いてんの!」

「まだ怒ってんの…今はまだ分かんない」

 

 綾隆の理不尽さをまだ理解できていなかった。

 

「それにしても烏野が加速していく」

「うん、龍之介の一発から完全に烏野ムードだね」

「さてはて…どう対処していくのか…」

 

 

▽▽▽

 

 

8-5

 

 

 オレのブロックは…まだ甘いな。

 

 愉快で個人の天童のブロック。

 変幻自在な日向のブロック。

 理智的な月島のブロック。

 強靭な伊達工のブロック。

 執拗な黒尾のブロック。

 無着な鴎台のブロック。

 

 何を取り入れ、教科書を作るか。

 

 ブロックという防御にして最大の攻撃。

 流れを変える最大の武器。

 だが、オレが烏野の流れを作る必要は無い。それは日向や田中先輩の役目。

 オレはそれに繋げられる役目をすれば良い。

 

 鴎台のブロックが防御で最大の攻撃というのであれば、オレは最大の攻撃に繋げるための1回多いレシーブへと変えよう。

 

「ワンタッチ」

 

 キルではなく、ソフトブロック。

 主将が上げ影山が繋ぎ、東峰さんのバックアタック。

 

「「ナァイスワンタッチィ」」

 

 鴎台も繋ぐ。

 

「ワンタッチ」

 

 オレも再び威力を弱める。

 バレーにおいては繋ぐことも攻撃である。音駒との試合で学んだことだ。

 

 絶対にただでは通さない。

 

 繋ぎ、相手に精神的ダメージと肉体的な負荷を掛けさせる。

 影山から田中先輩へ。

 ブロックに当たるもサイドラインを大きく超えて落ちる。

 

「「「ナァイスキー田中!!!」」」

「綾隆ナイスブロックだぜ」

 

 

▽▽▽

 

 

「………はぁ…?なに?また綾隆くん、新しいこと取り入れて来たの?今度はブロックですかい?」

 

 またまた綾隆プレーにのキレる黒尾。

 

「良いブロックだよね。ソフトだからこそ、指先を狙いにくいし、当てても遠くまで飛んでいきにくい」

「案外、指先を狙うスパイカー達にとってはソフトブロックは苦手なのかもな…」

 

 研磨と夜久はそう言った。

 

 

 

▽▽▽

 

 

9-5

 

 

「いや~離されたね~」

「でも昼神さんはいっつも冷静ですよね」

「あっちの16番ほどじゃないけどね」

 

 俺は、ハハッと笑いながら返事をし、続ける。

 

「力を抜くことを覚えたからかなあ」

 

 俺は中学のころ、県一の強豪に入学した。

 中学の時を一言で言うなら、余裕が無い。

 うまくなりたい。スパイクきめたい。サービスエースきめたい。ナイスレシーブきめたい。

 バレーは全部繋がってる。俺のミスは仲間のミス。

 ミスするな。負けるな。

 腹空いてなくても、食わなきゃ筋肉はつかない。

 サーブがいまいちだった時はサーブを何百本と練習した。

 レシーブがまだまだだと感じたときは只管に練習した。

 

 スランプって言ってるやつが居たけど、何の言い訳?と思った。ただの練習不足。

 でも、そんな自分が嫌だった。仲間を苦手と思う自分が。

 

 それでもミスをし試合に負ける俺にイライラした。

 ミスをする自分に、ミスをするこの手に。

 俺は壁に拳を擦りながら歩いた。

 

【何やってんだオマエェーー!!】

 

 後ろから飛びついて来たのは光来くんだった。

 

【…俺、もしかすると…つーか多分、あんまバレー好きじゃないや】

 

【…じゃあ、やめればいいんじゃね?】

 

 衝撃的だった。そんあことを言われるとは思わなかったし、そんな選択があるとは思わなかった。

 

【別に死なねえ。辞めたからってお前が身に着けた、強靭な筋肉は簡単には無くならない】

 

 筋肉?

 

【お前、今、バレーは腹いっぱいなのかもな。あんだけガツガツやってりゃ】

 

 俺はなるほどーって思った。 

 辞めても良い。そう思ったら、なんか視界が開けた。

 そこからは、もうちょいやってみよっかなって思ってなんかまだ続いている。

 

 そうそう、しんどくなる必要は無い。

 いつだって辞めて良い。

 

 烏野のファーストテンポのシンクロ攻撃。

 

 めんどいやつ。でも辞めて良いと思えば視界は広がる。

 5番(田中)に上がった。止める。

 ん~叩き落とせはしなかったか…リベロが繋いでるけど、乱れた。

 でもこんな時だからこそ、烏野は16番の速攻…。

 

 ってうぇ…。囮かよ。その後ろからひょっこり出て来たエースによるバックアタック。あちゃ~やられちゃったね。

 

『ダァン!』

 

 でも烏野コートで落ちた。

 芽が二回跳んで叩き落としたのか。ラッキー。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

9-6

 

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校、一回目のタイムアウトです』

 

「いやー2mこえーな」

 

 木下さんが言った。

 

「チョンって跳んだだけであの高さですもんね…」

 

 山口がそれに続く。そんな二人にコーチが突っ込む。

 

「待て待て、漠然とビビるな」

「同じスロットからの攻撃は危険ってことっすね」

 

 影山が言った。

 

「そっか、前衛の後ろに隠れるようにしてバックアタックパターンは、今まで良く決まってたけど、2度とびで間に合う奴からすれば、ラッキーなのか」

 

 東根さんは理解したようだ。

 

「攻撃の幅か…今まで以上に意識した方が良いな」

 

「そうそう、確かにさっきのブロックはビビったけど、やられた理由が分かれば案外怖くなかったりするもんだ」

 

 コーチが頷きながら言い、更に続ける。

 

「鴎台のブロック。分断できれば最高だけどそう簡単にはいかねえ。でも、奴らだって機械じゃねえ。機械は綾隆だけで良い「ん?」多人数・多方向からの攻撃で相手がブロック処理する情報量を増やすことは、必ず相手に隙をつくるし、ストレスとして蓄積する」

 

 途中、空耳が聞こえたが、気にしないようにしよう。

 

「今、お前達がやってることは決して間違っていないです。コートの幅を意識していけ」

「「「「はい」」」」

 

 コートに出て行く。

 

 光来にサービスエースを取られ、

 

9-7

 

 次は何とか取り返し、

 

10-7

 

 

『さぁ回ってきました。烏野高校ビックサーバー!!』

 

『前回のローテーションの時は影山くん、清田くんでしたが、今回は東峰くん、清田くん、影山くんと続き、相手には絶望感を与えますね』

 

「「「「1本ナァイッサーーー!!あやたか!!」」」」

 

 オレはエンドラインから数歩下がっていく。

 もう何も考える必要は無い。ただ点を重ねるだけ。

 相手は4人でレシーブ位置につく。

 

『ピーーー!』

 

 高く前に上げ、スローモーションへと変える。

 

『ドォン!!』

 

 前へ高く跳び、ここに打てと示されたところに打つ。

 

『ズッッダァァァアン!!』

 

『決まったーーッ!4人のレシーバーを抜いたーーッ!』

 

「「「「ナァイッサーあやたか!いぞいぞ綾隆!!押せ押せ綾隆!!」」」」

「おおっしナイスッサー綾隆!!」

「はい」

 

 

11-7

 

 

『ピーーー!』

 

 軽く上げて軽く跳ぶ。

 強めに押す。

 

「オーライ!」

 

 光来が上げて、昼神から諏訪へ。アンダーで返してくる。

 こちらのチャンスボール。

 それなら当然、ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 オレはマイナステンポで入っていく。一人釣れた。

 レフトから田中先輩が打つ。

 

「へっ!!」

 

 またも変顔をした光来が迫るスパイクを完璧に上げて見せた。

 

「「「ナイスレシーブ!!」」」

 

 白馬が3枚のブロックの上から打ち下ろし、鴎台の得点。

 オレは西谷先輩と交代しベンチに下がる。

 

 

11-8

 

 

「うぃおつかれ」

「はい」

 

 ベンチに下がったオレを菅さんが迎え入れてくれた。

 

「日向が居なくて、ちょっとヤバいかもと思ったけど…杞憂だったかな」

「そうですね。どれだけ集中し直しても、日向の存在に頼って来た烏野の精神的なショックは大きかったはずです」

 

 それは重々承知しているだろう。今まであの存在感のおかげで楽にスパイクを決められていたのは事実だ。

 それを改めて教えてくれたのは音駒だった。日向の存在感が限りなく薄くなり、オレ達のスパイクもほぼ完璧に対処されていた。

 3セット目に突入されていては、勝つことは難しくなっていた。

 

「そこを田中先輩が持ち上げ、東峰さんが繋ぎました。さすがエース達ですね」

 

 チームを鼓舞してこそのエース。

 二人はその役割を見事引き継いで見せた。

 

「だな!!」

 

『バッヂィィィン!!』

 

 星海のバックアタックにより、後方へ飛んでいく。

 

11-9

 

「うへぇ~やっぱ、向こうも止まんねぇな」

「そうですね。研磨の言葉を借りるなら、常にレベルアップしています」

 

 烏野が一段階チームとして進化したとはいえ、相手はあのブロック最強にしてユースのエースがいる。

 そして、烏野と試合をして光来自身も成長している。

 

「それな~勘弁してほしいわ。まったく、勝ちという希望を簡単には見せてはくれないんだから」

 

 菅さんは顔を顰めながら言う。

 

「でも、お前にとってはそう言う心を持った奴を歓迎するんだろ?」

「そうですね。そういう選手を見ているのは面白いです。出来れば、外から見ていたいの…」

「それは無理だな」

 

 外から見ている方が良く分かるため、出来るならそうしたいところだが…やはりそれは叶わぬ願いだったようだ。

 

「…はい」

 

 話している間にも試合は進んでいき…。

 月島のブロック。

 西谷先輩が繋ぎ、影山のトスから月島へ。真ん中から速攻を決めた。

 

 

12-9

 

 

上林 星海 諏訪

白馬 野沢 別所

 

ーーーーーーーー

 

澤村 月島 田中

東峰 西谷 影山 

 

 

 影山のサーブが回って来た。

 

「一年にばっかイイとこ持ってかれてんじゃねえぞ!!!」

 

 菅さんの突然の叫びに内心驚く。

 だが、ベンチメンバーはいつものことなのか、何も驚くことは無く平然としている。

 やはり経験こそ全てなのだろう。

 

「影山…元々簡単そうに上げて見えたけど…最近一段と余裕がある気がする…」

 

 縁下さんが口を開く。その疑問に菅さんが応える。

 

「実際に前より余裕あると思うぞ。セッターの定位置って普通ネット際だけど、ユース合宿以降影山はアタックライン寄りで構えてることが多いんだよ。だからレシーブがどこに上がって来ても短い移動でボール下に入れてる」

「確かにちょいちょいAパス狙ってミスするくらいなら真ん中に高くくれつってますもんね」

 

「アタックライン付近から正確に速攻使える技術があって意味ある事だから、俺には頑張ってAパス返してほい」

 

 キリッとして怠惰を望む菅さん。

 

『ピーーー!』

 

「「「サッコォォォオイイ!!!」」」

 

 影山のサーブに身構える鴎台。

 高くサーブトスを上げ、高く跳ぶ。

 

「「「えっ…」」」

 

 皆が影山の行動に驚く。前に落とすフェイントではなく、コート奥まで伸びる弱いサーブ。ただ入れるだけのサーブだった。

 

「オーライ!」

 

 白馬が声を張り、自分のボールだと主張する。が、その前には野沢が待機している。

 野沢は白馬の声で取らないという選択をした。

 白馬は野沢が一瞬取ろうとした動きでフリーズした。

 

『タン』

 

 何事もなかったようにボールは鴎台コートに落ちた。

 

『なんっと見合ってしまった鴎台ッ!!』

 

「誘ったのか…」

「おほぉ~見てるこっちは怖えよ~」

 

 ベンチでは安堵のため息が零れていた。

 影山はこの強い相手だからこそ、遊んでいるのだろう。

 

13-9

 

 今度は強烈なサーブを打った。

 だが、光来がしっかりと繋ぐ。諏訪から野沢へ。

 

「ワンチ!」

 

 月島のブロックから、田中先輩が繋ぎ影山が東峰さんへ。

 高く跳ぶが対面には、当然のように三枚のブロックが付いている。

 だが東峰さんは怖気づいてはいないようだ。全力で打ち下ろす。

 

『ダァン!』

 

 しっかりと振り抜いたものの、綺麗に叩き下ろされた。

 そう何度も綺麗に抜かしてはくれないようだ。

 

「すまん!!」

 

 それでも落ち込むそぶりは見せない。

 日向が不在で負けるわけにはいかないという意気込みもあるだろうが、それ以上に田中先輩のスパイクを見せられ、エースとして負けてられないと思ったのだろう。

 エースとしての意地が、東峰さんの闘志を燃やし続けている。

 

「旭が何か…成長してるぅ~」

 

 まるで自分の子供の成長を間近で見たような感動をしているのは菅さんだ。

 

13-10

13-11

14-11

 

 

 田中先輩のサーブで相手のレシーブを崩す。

 そんな時は必ず、光来。月島も分かっていたようで、光来へブロックを跳ぶ。

 指を掠め後方へ飛んでいく。

 

「しゃああああ!!」光来の咆哮が轟く。月島を見てしたり顔だ。それを見て月島はイラついている。

 

14-12

 

 野沢のサーブから始まる。

 西谷先輩が繋ぎ、影山から田中先輩へ。

 

「「「ナイスワンタッチ!!」」」

 

 鴎台はいつも通りのワンタッチで威力を弱める。

 そして再び光来へ。

 月島と影山が跳ぶ。

 

 視線は雄弁。

 

 月島はそう思ったのだろう。

 手を広げ、光来が月島の指を狙ったスパイクを避けた。

 

「「「しゃああああああああ」」」

 

 とベンチから喝采が湧く。やめて欲しい…鼓膜が破れそうになる。

 

『ワンタッチは無し!星海のスパイクはアウト!!今、月島君避けましたね…なんという空中の駆け引き!!』

 

『ピーーー!』

 

 鴎台のタイムアウト。

 月島は一歩前に進み光来を見据える。

 

 そして渾身のドヤ顔を披露した。

 

 これは腹が立つだろうな…光来は何とも言い表せない顔をしている。

 

 

15-12

 

 

▽▽▽

 

 

 先の月島のスパイクを躱したプレーを最も嫌悪しているのは、宇内だろう。

 高校時代、身長の低い宇内が編み出した唯一の戦い方を避けられるのは笑えない冗談だった。

 その証拠に、こう零す。

 

「蛍くん、やばいすね………」

「だろ?」

 

 宇内の言葉に嬉しそうに胸を張るのは月島の兄だ。

 まるで自分がしたかのような態度だった。

 

「スパイク避けられた瞬間ヒュン!ってなりました」

 

 

 

「…とは言え、ゲームみたいに技を習得したからって以降、それが全部成功するわけじゃねえけどな」

 

 月島のプレーを見て黒尾は言う。

 

「だが…星海は避けられる可能性があると知ってしまった」

「ゲームだってなんでも簡単に技が出せるわけじゃないよ。メチャクチャタイミングとか難しいコマンド入力だってある」

「すみませんでした」

 

 黒尾はそんな事が言いたかったわけじゃないだろうが…研磨のそんな所は既にご存じだっため突っ込まず、即座に謝罪した。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 だが次は鴎台のブロックに『ダァン』と叩き落とされてしまう。

 どのようなプレーをされても自分たちのスタイルは変えない。それが鴎台なのだろう。

 落ち着き、動じない。

 点の取り合いで烏野が望む展開ではあるものの、鴎台のスタイルは苦手とするところだ。

 

15-13

 

 別所 野沢 白馬

 諏訪 星海 昼神

 

 ーーーーーーーー

 

 綾隆 東峰 澤村

 影山 田中 月島

 

 

「「「ナァイスワンタッチ」」」

 

 鴎台の何度目かのブロック。

 昼神の速攻。

 

「ワンタッチ」

 

 オレもソフトブロックで威力を弱め、次に繋げる。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。

 一斉に走り出す。

 

『ズッッダァァァアン』

 

 オレのスパイクが鴎台コートに刺さる。

 

『決まったー!!ブロックの上から!!』

 

「ナイスキー」

「ナイス綾隆」

 

16-13

 

『ズッッパァァン!』

 

 今度は烏野コートで轟く。

 

「しゃああああ!!」

 

 そして光来の咆哮も轟いた。

 

16-14

 

『バッヂィン!』

 

 鴎台のブロックに当て、サイドラインを大きく超え落ちる。

 

「おっしゃあああ!!」

 

 東峰さんの咆哮が響く。

 

17-14

 

『バヂィン!』

 

「へっ!!」

 

 光来がドヤ顔でこちらを見てくる。

 

17-15

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 向こうの5番(星海)…。

 また調子あげてきやがった。

 俺達が上げたら、すぐに食いついてくる…。

 絶対離されねえって。いや、もう追い越してやるって。

 一人の力だろうが、みんなの力だろうが。点を捥ぎ取っていく。

 

 すげえ。かっけえぜ。

 

 これがエース。

 

 エースの心得だ。

 

 チームを背中で鼓舞してんだ。俺も負けてられねえ。

 

「レフトォォォオ!!」

 

 俺に二段トスで山なりのボールが上がる。

 ブロック3枚。

 

 上等!!

 

 少しだけクロスを締めているブロック。なら…極上ラインショット。

 

『ズッパァァァアン』

 

 どうだぁあ!俺の渾身の一撃!

 

「ほぉおいさあああああああ!」

「ナイスキーー田中!!」

「「「「ナァイスキーー田中!いぞいぞ田中おせおせ田中!!」」」」

 

 

18-15

 

 

 ノヤっさんのレシーブでちょい乱れて影山がコート外へ走っていく。

 影山も綾隆のプレーに痺れたんだろうな…。そんなこと言ったらぜってぇ怒るけど…。

 マイナステンポで綾隆が入っていく。

 俺もそれに続く。ファーストテンポで影山から綾隆のライン上に跳んだ。

 ボールは綾隆…を通り越して俺にセットされる。

 綾隆に三枚のブロックが付く。

 鴎台相手にブロック0枚。

 

 おおっ…すっげえ綺麗にコートが見える。

 

 俺は鴎台コートに打ち下ろす。

 

 

19-15

 

 

【全ては烏野の責任】

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

『ここで点差が開いたー!!』

 

「これは…悔しいね」

 

 研磨がそう言った。今の流れで何を思ったのだろう?

 というか、研磨が悔しいってどういうこと…!?

 

「え、えっと…何が?」

「おれ達は烏野と接戦を繰り広げていたと思ってた」

 

 接戦だったろう…という突っ込みをいれるよりも早く研磨は続ける。

 

「確かに接戦だった。でも、そうなるように仕向けられていた」

「んん…?どういうこと??」

「思い出してみて…試合してた時、翔陽が多く使われていたでしょ?」

「まあ…確かに」

「誰が見てもチビちゃんの大活躍だったな」

「うん。今回も一セット目の中盤までそうで、終盤倒れて出て行った。その結果、龍之介が出て来た。

 龍之介は稲荷崎で調子を崩してたけど、今、ここで本領を発揮し、沈みそうだった烏野を復活、いや…更に今まで以上に上げて見せた」

「それはりゅうが凄いからじゃねーのか?」

「うん、勿論そう。でも、それを綾隆は利用したんだよ」

「「「「…」」」」」

「龍之介の土壇場でのメンタルの強さ、逆境への強さ、エースの資質」

 

 更に続ける。

 

「で、今、綾隆が超速攻なんて打ってさ、チームを盛り上げてるじゃん。それまで、日向任せだったのに…龍之介が盛り上げたタイミングで本領発揮してきた」

「で、でも…それだど、綾隆はチビちゃんの体調不良を計算したことになりますよ…??」

 

 チームメイトですよ??と俺は訊く。

 

「うん…だから、俺達と試合したときも、自分の存在感を下げ、日向任せになるように仕向け、日向の熱を上げることにしたんだと思う。それができる冷酷さも含めて綾隆なんだろうね…」

「で、でも…綾隆ならもっとごり押しでも今、勝っていけるよね??」

 

 俺は認めたくなかったのだろう。否定できる材料を必死に探す。

 

「それが…悔しいよねって…綾隆は多分、チームの成長とかを最も大事にしているのかもしれない。最強の部隊とかを作るために…その士気を高めたり、成長させるために、皆、利用されていたんだよ…」

「「「「…」」」」」

 

 ダメだ…否定する言葉が見つからない。

 

「これは…」研磨は椅子に深く座り直し、続ける「いつか…攻略しないとね」

「いつかって…まぁ研磨なら来年もあるがな…俺らには」

 

「違うよ」研磨は否定し、こう言う「別におれが直接戦って勝たなくてもよくない?いつか、皆で勝ちに行く」

 

 研磨は、それはもう!超大人気シリーズの新作のゲームを買ってきた!!!みたいな顔をしている。

 

「それは………悪くないね」

 

 バレーは繋いで繋いで、数での勝負だから。今じゃなくて良いってこと…うん、面白いじゃない。

 最後に皆で綾隆に勝てれば、それで良いのだから。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「はっ…」

 

 思わず言葉を零してしまった。

 僕の横に立っていた菅原さんが反応し、聞いてくる。

 

「どうしたんだ?」

「いえ…まあ、その…嫌なことに気付いてしまったな、と…」

「ん?何がだ?」

 

 菅原さんがそう言い、皆の視線も話せ。と問いただしている。

 

「また、綾隆の掌の上だったなと思いまして」

「また?また何かあいつやったのか?」  

 

 皆、呆れた表情で綾隆を見る。

 

「音駒の試合の前日…あいつが言ったこと覚えてます?」

「言ったこと?」

「あぁ~変化を貰ったから、とか?あと、だから、烏野と音駒らしい戦いをしようとか言ってたっけ?」

 

 縁下さんが言った。

 

「はい。それ…その時からここまでの策だったんでしょうね。厳密に言えば稲荷崎から」

「ええっ!?そんなとこから??」

「あいつ…やべーな。それで?どういう策だったんだ?」

「音駒の1セット中盤から日向に上がる回数が多くなりました。」

「綾隆はいつもよりは若干、目立ってなかったな」

「トスで目立ってたべ」

「はい。たった二セット。しかし、日向は3セット…いえ、4.5セット分の働きをしました。そうさせていたのは紛れもない綾隆です」

「「「ああ~…」」」

「そして、稲荷崎では調子を崩した田中さんをこの試合の一セット目終盤で入れ、あの最後の一本を決めさせた」

 

 僕は試合を見ながら話しを続ける。

 

「綾隆は田中さんがあの場で、自身を成長させてくることも計算に入れてたんでしょうね。日向が熱で倒れたころで田中さんを投入。あの感動的な一本でチームの士気は上がり、烏野はまた一段階成長したといえるでしょう」

「うっわ…なんてヒデェ奴だ」

「お前…それ、言わない方が良かったんじゃないか?」

 

 それはそう。言わない方が良い。

 でも…。

 

「まあ…綾隆の計画が狂うのは見ていて気持ちが良いですからね。へっ」

 

 失笑してしまっているだろう。

 

「お前もお前だな…」

「仲間だぞ~」

「来年、いや再来年大丈夫かよ…」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 日向があそこまで粘るとは…計算が誤ったが…結果的に最後の最後でまで、力を出し切った日向のプレーにより、皆が引っ張られる形となった。

 こちらとしても、予想以上の結果だった。

 そのまま、離して終わらせたいところ。

 

 オレはサーブ位置につく。

 

『ピーーー!』

 

 高く前へ飛ぶ。全力で打ったボールは、光来へ。捉えきれず、ボールはそのまま返ってくる。

 ファーストタッチを影山。

 そして、そのままオレもマイナステンポのバックアタックで入っていく。

 

『畳みかける烏野!!はやい攻撃!!』

 

 影山から正確に届いたボールを打ち下ろす。

 

『バァン!』

 

 横に飛びながら綺麗に上げた光来。

 ただ真剣に、丁寧なレシーブだった。

 

「諏訪さん!」

 

 レシーブして終わりではない。

 光来はすぐさま立ち上がり、攻撃に参加する。

 

 そしてセットされたボールを月島の躱した腕の間を抜く。

 

 エースとしての意地だな…。

 

「しゃああああああ!!」

「「「ナァイスキーー!」」」

 

19-16

 

 こちらも予想を超えてくるな。 

 油断は出来ず、足も止めてられない。

 精神も肉体も疲労が出てるなか、より強い力が求められる。

 技術かパワーやスピード、バネか、予測か、精密さか、それとも流れか。

 それは何でも構わないのだろう。人それぞれで違う。その力を相手より強くしていく。

 その結果、この試合の中で互いに高め合い成長していっている。

 

 オレは西谷先輩と交替しベンチに戻ると、なにやら嫌な視線を感じる。

 

「なんでしょう…?」

 

 オレの問いかけに菅さんが答えてくれた。

 

「おまえ…もう少し仲間を大切にしろよ~まったく…隠す気もなくなったか」

 

 なるほど、多分月島が気付いて話したのだろう。

 

「ええ。隠す必要は無いと教えていただいたのは烏野なので」

 

 白鳥沢の試合後の時しかり、伊達工のときの影山を見ていて気付いたことだ。

 

「うっわ…こいつ開き直りやがった」

「しかも、ひでえことに俺らのせいかよ…」

「はい」

 

 オレは全力で人のせいにしておいた。

 

「ワンチ!」

「ワンタッチ!」

 

 と聞こえてくる。このローテは本当に長いな。

 

 だが問題が起きた。

 月島が足を攣り、跳べずそのままボールはコートに落ちた。

 

 

20-17

 

 

『あ~筋肉疲労でしょうかね月島くん。烏野まさに満身創痍!!』

 

 コーチは誰を出すかで迷っているのだろう。

 

「今のローテと点数なら山口だと思います。影山、前衛なら俺上げて影山参加攻撃ありですけど、今、後衛だし。あと学年なら関係ないんで」

 

 菅さんが山口を連れて説得をしに行った。

 この人は凄い人なんだろうな。3年間積み上げて来て、負ければ事実上の引退。最後くらい…と出たい気持ちはあるだろう。

 それでも結果を優先し、自ら考えて行動する。良い先輩だ。

 

「ブロックコート全体見て!サイドとの間開けないで!!」

「「「はい!!」」」

 

 月島が去り際に言った。

 

 白馬のサーブを上げ、初っ端から影山は山口に速攻で打たせた。やはり影山だな。

 

21-17

 

 しかし、月島の抜けた穴は大きい。そしてそんな絶好の機会を鴎台が見逃すはずもなく。

 着実に追い詰められていく。

 

21-18

21-19

21-20

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

22-21

 

 別所 野沢 白馬

 諏訪 星海 昼神

 

 ーーーーーーーー

 

 綾隆 東峰 澤村

 影山 田中 西谷

 

 

 月島くんを医務室に送り届け、返って来た私はベンチに座って記録を取り直した。

 やっぱり月島くんがいない穴は大きい。

 でも綾隆が今、前にいるこの状況が最大のチャンス。

 

 相手のサーブを上げて、影山から綾隆へ。真ん中から超速攻。

 あっ、左。

 私ですら忘れていた。

 最近、あまり使っていなかったから。

 抜けたスパイクは勢いよくコートに落ちた。

 

「おおっ…すっかり忘れていたぜ」

「そうですね、多彩なので一つやらなくても気付けませんね」

「本当に恐れいるわ。そこで左を選択する綾隆にも、それを難なく合わせる影山にもな」

 

 確かに可笑しなことだ。影山と綾隆は特に仲が良い訳ではないのに、なんでそんなに合わせられるんだろう…?

 日向と影山のようにケンカばかりしてるわけでもないのに。

 

 ん~分からないな。

 

23-21

 

 澤村のサーブから6番(昼神)の速攻へ直ぐに繋げてくる。

 

「ワンタッチ」

 

 綾隆のブロックで弱める。

 西谷のレシーブから影山のセット。東峰へ。

 

「「「ナァイスワンタッチ!!」」」

 

 相手もブロックで威力を弱める。

 

「なんか、攻撃…いや守備?が落ち着いてますね。影山くんがそこまで移動していないような…」

「ああ、それは綾隆のブロックだろうな」

「月島くんとは違うのですか?」

「綾隆は常にソフトブロックで、ただ繋げるだけのブロック。月島もリードブロックで繋げるブロックだが、あくまでも叩き落とすことを目標にしているブロックだ」

 

 コーチがそう説明する。

 

「綾隆が前衛に居る時は、大火力のスパイク軍団だ。ブロックで叩き落とせるか分からないのなら、ソフトで余裕の持てるブロックで繋げることを優先したんだろうな」

「なるほど…レシーブが安定すれば、影山くんも安定して攻撃も安定…ということですね」

「そうそう、そう言う事だ。だがまあ日向のような下手ッピがソフトブロックにしても、あんまし変わんねえけど…あいつ、ブロックも出来んのな」

「多分、今、取り入れたんでしょうね」

「はっは…そうかもな」

 

 まあ綾隆がソフトブロックに変えたところで、相手の最強の壁が弱くなったりするわけではない。

 大火力 対 最強の壁の真っ向勝負。

 行方はどうなるか…。 

 

 長々と続いた後、5番(星海)が点を捥ぎ取っていく。

 なかなか決められない。

 

23-22

 

 諏訪 上林 野沢 

 星海 昼神 白馬

 

 ーーーーーーーー

 

 影山 綾隆 東峰

 田中 西谷 澤村

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 一戦一戦を大切にし、対戦したチームを肌で感じ分析してきた。

 正直、もっと早く勝てる試合もあった。だが、オレはそれをするのは勿体ないと感じていた。

 人を観察しているのは、楽しいと感じていたからだ。

 だが、もう終わらせよう。

 

 

 

「田中!」

 

 再びネットに当たり入って来たボールを田中先輩が繋ぐ。

 

「はいよ!」

「影山フォロー!」「はい!」

 

[寄越せ]

 

 影山からオレへセンターオープン。

 

 目の前に立ちはだかる三枚のブロック。セット終盤、誰もタイミングを外したりしないだろう。

 

『ドォッ!!』

 

 最高到達点が350㎝と言われ、明らかに落ちていると感じた。

 ホワイトルームでの記録は教えて貰ったことはないが、もっと跳べていた。

 運動量が減った分、仕方のないことだが、それを取り戻すまで少し時間が掛かった。

 

 今、取り戻せたと言っても良いが、大して高さは変わらないだろう。数センチ高くなった程度。

 それでも、その数センチが空中にいる時間をずらす。

 

 光来の空中での安定感と同等のものを出せるだろう。

 

 ブロックが落ち、レシーブの位置を把握してから、空いているところへ打ち下ろす。

 

『ズッッドォォォオン!』

 

 オレは誰であろうと負ける気はしない。

 

 いつでも挑戦しにきてもらいたい。

 

 日向と同様、光来は負けず嫌いであり、常に上を目指す選手だからこそ…今、叩き潰しておく。

 

『た…高い!更に一段と高く…そして、空中での時間が長かった!』

 

「「「「ナァイスキーー!!」」」」

 

「たっけぇな。おい」

「すっげぇ、安定感……」

「よし、あと一点取るぞ!!」

 

「「「「「あと一点!あ~と一点!!」」」」」

 

 応援団の最後の一点コールが会場を満たす。

 当然かもしれないが、鴎台はまったく動じず次のサーブが来るのを待ち構えている。

 心なしか集中力が上がっている気さえする。 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「たけぇな」

「高かったね」

 

 みかちゃんと優は同じことを思ったようだ。

 

「まだ全力じゃなかったって言うのか??」

「とんでもない選手だね。ほんとに高校生??」

 

 優の疑問に疑問で返す、みかちゃん。

 

 

「うっひょぉおお!!たっけええ!」

「そうですね…」

「えぇ…まぐれだよね…?」

 

 木兎はいつも通りだったが、赤葦は驚き雀田は火事場の馬鹿力であることを願っていた。

 

「俺もまぐれであって欲しいです」

「綾隆くんが自信家なのも頷けるね~」

 

 雪絵がそう言った。

 

「それは…まあ確かにだけど…」

 

 

「「「「「…」」」」」」

 

 音駒高校は皆が押し黙った。

 

「あとでボコる?」

 

 ようやく口を開いた黒尾は物騒なことを言った。

 

「隠していたかは別として、あの安定感は厄介だよね」

「そうだな…終盤、あれやられたら適応できねえもん」

「まったくだぜ……」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

24-22

 

 

 烏野のマッチポイント。東峰さんは静かにコートの奥へ下がっていく。ボールを腹の位置で持ち、深呼吸をし前を向く。

 相手からの圧をものともせず、前を見据え打つべき場所を考えているのだろう。

 

『ピーーー!』

 

 高く上げ、高く跳ぶ。そして打つ。

 上林が横にダイビングをし、上げる。強烈なサーブでそのまま落ちていてもおかしくは無かった。相手が凄かったと賞賛するべきだろう。

 諏訪からレフト白馬へ。

 烏野は三枚でブロックを跳ぶ。

 

「ワンタッチ」

 

 オレのブロックで威力を弱め、西谷先輩が上げる。

 東峰さんによるバックアタック。昼神のブロックで阻まれるが、吸い込み落ちていく。だが、状態を逸らし上げる。

 こちらも一度経験したことは繰り返さないようだ。

 諏訪が野沢へセットする。

 

「ワンタッチ」

 

 またもソフトブロックで弱める。

 烏野のファーストテンポのシンクロ攻撃。

 

 今、最も乗っている田中先輩にセット。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃でブロックが3枚付いてくるのはさすがとしか言えないな。

 

「うおぉれい!」

 

 それでもそのブロック3枚を掻い潜り、打ち下ろす。

 

「へっ!!!」

 

 綺麗に抜けたスパイクを光来が綺麗に上げた。

 3枚で入ってくる鴎台。諏訪から昼神へ速攻。

 

「ワンタッチ」

 

 決して強いスパイクは通させない。

 西谷先輩が上げ、何度目かのファーストテンポのシンクロ攻撃。

 主将のバックアタックだが、ブロックに阻まれる。落ちそうになったところを西谷先輩が繋ぐ。ボールは鴎台に返って行った。

 

「チャンボチャンボ!」

 

 相手もファーストテンポのシンクロ攻撃、三枚だ。

 光来へセットされたトス。

 

 想定内。

 

 オレは手を前に出し、止めると圧を掛ける。

 今までソフトブロックだったが、何も止めないとは言っていない。

 そして、一瞬手を引くモーションをするもタイミングよく戻す。

 

『ダァン』

 

 高校生という未熟な精神。読み合いでオレが負けることは無い。

 高揚していただろう。

 もっとしたいと、まだ試合を終わらしたくないと思っていただろう。

 押されていても流れは悪くなく、調子も好調だった。

 光来の調子の良さにより、他の選手も釣られて乗っていた。

 このチームなら絶対に勝てると思ったはずだ。実際、こちらが危ない場面はいくつもあった。

 

 だが。

 

 どれだけ信用している仲間が居ても、それでも勝てないことはある。

 

 今、オレがそれを教えた。

 

『ピッピピー!』

 

 

25-22

 

2-0

 

 烏野高校勝利。

 

 

「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」

 

 

 審判の笛の合図とともに皆が駆け寄ってくる。

 相変わらず…重たい…この人数を持ち上げるのは不可能だと、理解してほしい…。

 

『最後は烏野高校、一年生清田綾隆によるブロック!!烏野高校の勢いを止めることは出来るのか!!?』

 

『烏野高校、ベスト4進出です!!』

 

『ピーーー!』

 

 ネットを挟んで挨拶をする。偶然、オレの対面は光来だった。

 

「ぜったいに…いつか、倒したるからな!!インハイ、春高、また来年勝負じゃ!!」

 

 涙ぐんだ光来はまるで幼稚園児のようだった。それほど悔しいのだろう。

 だが、その気持ちを持っていることに、分かっていたが安心する。

 

「いつでも受けますよ」

「はっ…!生意気な!」

 

 そのまま烏野応援席まで挨拶をしに行く。

 

「りゅう~~~!!かっこよかったぞ~~~!!」

 

 相変わらず、田中先輩の姉が吠えている。

 

「ありがとうございましたぁ~~!!」

「「「「あっした!!」」」」

 

 これで今日の試合は終わりか。

 

「疲れた」

「嘘つきの顔じゃん」

 

 いや、本当なんだが…。

 コーチや先生に迎え入れられ、褒め殺しの刑にあう。

 だが…。

 

「綾隆、最後なんか跳んでなかった?」

「確かに、いつもより跳んでた?」

「だな」

「さては、まだ手を抜いていたのか…??」

 

 勝利の余韻はそんな簡単に、終わるものなのだろうか…皆の視線が怖い。

 

「そんなわけないじゃないですか」

 

 オレは否定してから言う。

 

「学校で測ったとき、身体能力が落ちていると感じました。まあ、運動量が減っていたので仕方ないことなのですが。それを取り戻すために少々時間が必要だっただけです」

「「「「「…」」」」」

 

 皆は静まり返った。そして主将が真っ先に口を開く。

 

「聞いたか…少ない運動量だってよ」

「そこまでは言ってませんよ…」

「馬鹿にされたな」

「だな」

「やる気を削ぐこと言いやがったぞ」

 

 どうやら、あまり言わなかった方が良かったみたいだ。

 まあ何はともあれ、雰囲気は戻り、コートを出て行く。そして待っていた音駒や梟谷に捕まった。

 

「おつかれ~どうだった?二試合は?え?もう動けませんってか?」

 

 黒尾が主将を煽る。

 

「俺らはな。一人は少ない運動量だったみたいだが」

「ノンノンノン!人間に聞いてるんだよ」

 

 数多くの視線を無視し、水を飲むふりをする。

 

「へいへいへい~!俺らも勝つぜ~!!んがっはっはっは!!」

 

 僕とは皆にハイタッチをして去って行く。

 オレもここを去ろうとしたが、止められる。

 

「凄いね~最後もまた一段と跳んでいて驚いたよ~またご飯行く?奢ろうか?」

 

 と雀田が詰め寄ってくる。この人、こんな性格だったか…?

 

「かおりちゃん」

 

 冷たい声が後ろから聞こえてくる。

 

「あ、清子ちゃん!おめでとう」

 

 こちらは元気に挨拶をする。

 

「ありがとう、でも止めてくれるかな?」

「ん?」

「まあ雀田さん…勝負はちゃんと受けますから。変な揺さぶりはもう勘弁してください。前は良いようにやられましたよ」

「それは良かった。じゃね。あんまり頑張らなくていいよ」

 

 と言って去って行く。危うく戦場になるところだった。

 

「ご飯行くつもりだった?」

「行きません」

 

 即座で否定する。

 

 

 

 

 翌日の準決勝。

 

『セットカウント3-0で烏野高校が決勝戦に進出!!烏野高校の勢いは止められない!!』

 

 熱を一日で直してきた日向だったが、武ちゃんに「ダメです」の一言で出られなかった。

 それでも烏野の勢いは止まらず、25-20、25-16、25-15と一林にストレートで勝った。

 

 

 

 準決勝を終え、決勝戦の相手となる学校を見るため弁当を頬張りながら、観戦する。

 

 そして、こちらも怒涛の勢いでストレートで勝った。

 

 

 明日の決勝戦が決まった。

 

 

「おお~~へいへいへい~遂に俺達で試合だな!!楽しみだな~!」

 

 木兎が駆け寄ってくる。

 その後ろには赤葦と雀田、白副もいる。

 

「ああ、負けてやらねえからな」

 

 主将がそう返す。

 

「望むところだぜ~!おっつっきー?つっきーつっきーあれ?つっきー??」

 

 心底鬱陶しそうにする月島。諦めて木兎に向く。

 

「まあ、よろしくお願いしま「おお~っつっきーがやる気出してる~これは面白くなってきた!」はぁ…」

 

 オレは静かにここを離れようとしたが。

 

「あっ綾隆~??あれ、お~い」

 

 見つかった。ハンターにでも追いかけられてる気分だ。

 

「いつかのリベンジといこうじゃねえか!楽しくなってきたな!!」

「楽しむですか」

 

 オレの一言で皆がこちらを向く。構わない。

 

「それが出来たら良いですね」

 

 失礼します。と言ってこの静まり返った場を去る。

 オレも楽しみたいとは思っている。だが、それが出来るかは別問題だ。

 策で勝とうとは考えていない。真っ向勝負で挑むが点の取り合いになるかは分からない。

 そして、今、最も重要視していることは、また別にある。

 

 全国で優勝する。

 

 それだけで良い。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 綾隆が過ぎ去った場はシーンと冷たい空気が流れていた。

 先ほど準決勝を勝った学校の雰囲気ではなかった。

 

「あ~なんかすまんな。最近、やる気は入ってんだが」

 

 澤村は謝る。

 綾隆の過去を少なからず知っているので、多少の冷酷さは理解しているが、梟谷は何一つ知らない。

 

「いや…俄然、燃える!!」

 

 そう言って握りこぶしを作った木兎はいつもより真剣だった。

 それを見た澤村は安心し、木兎の肩を叩きながら言った。

 

「そうか、そうであってくれて良かった」

「ところでさ」

「?」

「俄然って使い方あってる?」

 

 木兎はいつもの木兎だった。

 

「…」

 

 烏野も梟谷も負けるつもりなど毛頭ない。

 だが梟谷は最強の敵となった烏野を深く視る。

 烏野は綾隆に負けじと勝つという気合を入れ直し、梟谷を視る。

 

 お互いが最高の流れを持ったチーム。

 

 点の取り合い。激しいスパイク合戦になると分かり切っている。

 

 楽しく…ではない。

 

 叩き潰す。と意気込み、顔を見合わせてから両校この場を去る。

 

 

 東京体育館のファサードに大きく掲げられた看板。

 その看板に目一杯大きくと書かれた文字。 

 

 

 春の高校バレー男子決勝戦。

 烏野高校 VS 梟谷学園

 

 

 

 




次回決勝戦ですね。
完全なオリジナルとなります。
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