「えー…えっと、清田綾隆です。
その、えー得意な事は特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので、えー、よろしくお願いします」
四月
烏野高校に入学し、一週間がたったが自己紹介に失敗したオレは一人で過ごすことになった。
これが、学校か…思ってたのと違う…友達とは…何だこの勉強は…くだらない授業に二日目から飽き飽きとしていた。
しかし、学校にはまだ退屈を紛らわせる存在がある。それは部活だ。だが、強い部活には入りたくない。
なるべく弱く、部活と言うものを体験できるもの...そんな部活を探すべく、オレは掲示板の下へ向かった。
そこで、余り悩むことなくバレー部を選んだ。
探していた条件に合っていたし、バレーボールは世間知らずなオレでも知っている。
オレはバレー部の顧問...武ちゃんと呼ばれている先生に入部届を出し、三日後の土曜日から参加することになった。
部活か...オレにとっては色んなことが初めての体験で楽しみであった。
三日後...
放課後になり、体育館の前でキョロキョロしていると、声をかけられた。
「あの…新入部員の方ですか?」
黒髪黒目で口の横にホクロがある綺麗な方に声を掛けられた。
こんな美人な人と部活に励めたら楽しいのだろうなと思った。
「あ、はい…清田綾隆と言います。どこに行けば良いのか分からなくて…」
「ああ…こっちだよ。
私は清水潔子、バレー部のマネージャーをしてる。
よろしくね。
案内するから着いてきて」
「お願いします」
おお、マネージャーか…こんな美人がマネージャーとは運が良い。
清水先輩に着いていき、体育館に入った。すると、オレに気付いて近付いてくる1人の男…
「お!君が綾隆くんかな?俺は澤村大地だ。このバレー部の主将をしている。よろしくな!」
「あ、どうも。清田綾隆です。よろしくお願いします。」
ハキハキとした声で話しかけて来たのは、バレー部の主将だった。
「さっそくで悪いんだが、今から3対3をやることになっていてな…綾隆もそれに入ってほしい。まぁ歓迎会のようなもので、新入部員がどれくらい出来るのかを見るだけだ。気楽にやってくれればいいからな!」
嘘だろ…オレはさっきバレーのことをネットで調べてようやくルールを知ったばかりだ。
普通がどれくらいなのかも分からん…
オレは三人の方に放り込まれ、交代でやると言われた。
「あ、どうも、清田綾隆だ。よろしく頼む」
「僕は月島蛍。よろしく」
「あ、俺は山口忠。よろしく!」
「こっちのチームには俺が入るからな、三人で交代でやれよ」
「「「はい」」」
「月島ぁ!負けねぇからな!」
オレンジ頭がネット越しで叫んでるのを無視し、オレたちは誰が先に出るかを決める。
オレは先に見ていたかったのだが、ジャンケンと言うものをやってみたかったオレは、その案に乗ってしまい勝ってしまった。その為先に出ることになった。
「あーオホン…小さいのと田中さんどっち先に潰し…抑えましょうかぁ。
あっそうそう王様が負けることも見てみたいですね」
え…何でいきなり煽りだしたんだ?
「月島いい性格してるな」
「特に家来達に見放されて一人ぼっちになっちゃった王様が見ものですね」
「ねぇねぇ…今の聞いた?あ~んなこと言っちゃって、月島くんてばもうホント、擦り潰す。」
田中さんが挑発に乗って怒気を込めて言う。
え…こいつら仲悪くないか?
今は敵とはいえ、仲間…?なんだろ?
試合開始の合図と共に、田中さんがサーブを打つ。
オレは観察する。
きっちりと上げる主将の動きを…そして、そのままツーで打つ月島のスパイクを吸収していく。
と、ここであることに気付く。
あれ…?初心者オレだけじゃないか…?
1人だけ初心者って目立つな…
月島のスパイクを何とか上げる田中さん…上がったレシーブを再び田中さんへセットアップし、田中さんがスパイクを打った。
そのスパイクはオレの方に来たため、先程見たレシーブを真似して上げる。
月島のトスに主将が打つと、そのままコートに突き刺さった。
「綾隆、良く上げたな!ナイスレシーブだ!」
凄く褒められた。
レシーブをした時、皆が「おお〜」と歓声を上げたのは、さっきのが凄かったからか…?
まぁ…レシーブが得意ってことにしておけば問題ないな
2-1
田中さん達が、リード。
影山のトスから小さなオレンジ頭が高く跳んだ。
おっ…凄い跳んだな。
皆も驚いている…
しかし、いくら高く跳んでも身長が低いため、月島と言う高い壁に阻まれ、ブロックで叩き落とされた。
ドシャットってやつか
「昨日もびっくりしたけど、君よく飛ぶねぇ!それで後、ほ~んの30cmあれば大スターだったのかもね」
また、月島が日向を煽る。日向はかなり悔しそうにしている。
なるほど…見えてきたぞ。
こいつらはつい最近何かあったんだな…オレはそこに巻き込まれたと言うことか…
そこからも何回も月島によってドシャットを喰らっていた。
「ほらほらブロックにかかりっぱなしだよ?王様のトスやればいいじゃん。
敵を置き去りにするトス!
ついでに仲間も置き去りにしちゃうヤツね」
また月島が煽る。こいつ...息をするように煽るんだな…
それにしても、さっきから王様王様とか言ってるが、どう言う意味だ?
「…うるせぇんだよ。
速い攻撃なんか使わなくても…勝ってやるよ」
月島に煽られた影山は月島を指さしながら宣言した。
影山はサーブトスを高くあげ、走り出し跳んだ。
その勢いから放たれるサーブは皆のサーブと一線を画していた。
サーブにも色んな種類があるんだな…
しかし、主将はその速いサーブを軽く取った。
一年...特に影山、日向は驚いていた。
「何点か稼げると思ったか?
突出した才能は無くとも2年分、お前らより長く身体に刷り込んで来たレシーブだ。
簡単に崩せると思うなよ?」
主将の言葉に月島が更に煽る。
日向が言い返すと、月島が王様について説明しだした。
「噂じゃ、コート上の王様って異名…北川第一がつけたらしいいじゃん。王様のチームメイトがさ…
意味は…自己中の王様、横暴な独裁者。
噂だけは聞いていたけど、あの試合見て納得いったよ。
横暴が行き過ぎてあの決勝、ベンチに下げられてたもんね」
なるほど、今試合では大人しいのにはそう言う理由があったのか…
「ああ…そうだ。
トスを上げた先に誰も居ないっつうのは、心底怖えよ」
影山の正直な感想が静かな体育館に響く。
「えっ、でもソレ中学のハナシでしょ?おれにはちゃんとトス上がるから別に関係ない。
どうやってお前をぶち抜くかだけが問題だ!」
「ハハ」
「プッ」
日向の純粋無垢な、意見に田中さんと主将が笑う。
「月島に勝って、ちゃんと部活入ってお前は正々堂々セッターやる!そんでおれにトス上げる!それ以外になんかあんのか?」
やはり、オレは巻き込まれたのか…歓迎とか言ってなかったか…?
全力で手抜きを遂行しよう。
「そう言う...いかにも純粋で真っすぐみたいな感じ、イラっとする…気合で身長差は埋まらない。
努力で全部何とかなると思ったら大間違いなんだよ」
月島も月島で、何かあったのか…
しかし、ここに居る皆は負けず嫌いで、向上心がある。
互いに譲らず、自分の意見を素直に言える。
こいつらを見ているのは中々面白いな…
田中さんのサーブから始まり、オレがスパイクを打つが綺麗に影山の頭上にレシーブされた。
日向がレフトから走り出して跳ぶ。
だが、まだトスは上がっていない。
「居るぞ!!!」
田中さんへ上げようとした影山は日向の言葉につられ、日向に正確にセットアップした。
たった数回のセットアップを見ただけだが、影山はトスがダントツに上手い。
ポジションがセッターと言うのもあるのかも知れないが、それでも他よりもずっと優れているのだと分かった。
「凄いな…そんなに正確に上げられるなら、もっと上手く日向を使えそうだがな...」
「「??」」
オレが影山にそう言うと、影山日向は疑問符を浮かべながらこちらを見る。
「お前らの才能は凄いと思えるが、発揮できてないことにもったいないと感じただけだ。」
それを聞いて何か閃いたのか、影山たちは三人で作戦会議を開いた。
そして、月島のサーブを日向が上げ、走り出す。
だが、影山の最速のトスに日向が付いていけず、空ぶった。
「おい何してる!もっと速…」
「でたー王様のトス」
その後も何回か同じことが繰り返された。
そこで、菅さんが影山にボールを渡すついでにアドバイスをする。
「なんかうまいこと使ってやれんじゃないの!?」
「仲間の事が見えないはずがない!!!」
菅さんの言葉は、影山にちゃんと届いたようだ。
日向を後ろに連れて行き、また作戦を練り始めた。
レシーブをしたと同時に日向が駆け出す。
そして、日向が腕を振り下ろすと同時に影山がトスを日向へ持っていく。
ドンピシャに当たる日向の手からはじき出されたスパイクはオレの方に来る。
スローモーションになった世界
正確にはそう感じているだけだが…
視界はボヤケて見える。
しかし、スパイカーの目線、向きは良く見える。あいつ…目を閉じてやがる。仕方なく身体の向きのみを見る。
そこから導き出されるボールの軌道が、スッキリとくっきりと見える。
視界がボヤケたためなのかいつも以上に音が良く聞こえる。
後ろで見ている先輩たちの位置が何となく分かる。
ホワイトルームにいたときに、自分自身で身に着けた感覚。
速く目で追えないなら、止めてしまえばいい。
ゆっくりに見え、必要な情報さえ入ってこれれば速さなど関係ない。
オレはその状態に自分で入れる。
日向のスパイクで放たれたボールの軌道上にオレは移動する。
日向のスパイクはお世辞にも威力が強いとは言えない。
オレは、普通に上げた。いや…上げてしまった。こんな攻撃があるのかないのか知らないオレには普通のスパイクに思えた。
しかし、皆は影山日向の攻撃に驚愕しており、一歩も動けていなかった。
オレが上げたボールは誰も繋ぐことをせず、コートに落ちた。
「え⁉あぁ…うおおお」
「すっげぇ速かった」
「てか、それを上げたし…」
周りの先輩は今の光景に心底驚いていた。
しかし、日向が一番驚いていた。
「手に当たったああああ!!!」
「手に当たった?大げさな」
「いや、日向は目をつぶっていたからな」
「「「はぁ⁉」」」
「なぁ何⁉今の何⁉当たったんだけど!!手に!!今おれの!!」
「うぉいお前ぇぇ!目ぇ瞑ってたってなんだ!!」
日向の思いもしなかった行為に影山も驚いている。
「だって今信じる以外の方法わかんねぇもん!!」
この攻撃が日向たちの反撃ののろしになるのか…
しかし、次もその次も影山のトスは日向の顔に当たった。
それでも、この二人は諦めた顔をしていない。
「理解不能、さっきのはマグレだろ。なのに懲りずに何回も...」
「…でも多分、日向はまた…何回でもボールを見ないで跳ぶんじゃないかぁ...
確かに理解不能だよなぁ。
他人を100%信じるなんてそうできることじゃないもんな。
しかも因縁の相手なのにな」
確かにオレには誰かを信用なんてできないな
また、日向が走り出す。
最初は油断していた月島だったが、日向の圧倒的な存在感に何か感じたのか…
「綾隆!!お前もこい!2枚で止める」
月島に一緒にブロックを止めるように言われ前へ出る。
月島…本気だな
日向は跳ぶ寸前で躱し、逆サイドで跳ぶ。
その小柄な体格が、月島のような身長の上を行くために、一秒を速く頂へ辿り着く。
一番高い場所にはまだ、月島は届いていない。
ブロックなしで、打った日向は目を開けその景色を見ている。
その景色は日向には今まで見れなかったものなんだろう...
嬉しさがオレにまで伝わって来た。
「「オシ!!!」」
日向と影山はガッツポーズを決める。
日向の攻撃が決まりだし、向こうのチームが勢いに乗り出した。
日向の攻撃に釣られ、月島はブロックを取る。
しかし、打つのは日向ではなく、田中さんだった。
そこからはずっと向こうのターンで、一セット目を取られた。
2セット目はオレと山口が交代したが、勢いを止められず負けた。
「どうだった?三対三」
主将が月島に声をかける。
「別に…どうでも。」
月島はつらつらと言い訳を述べるが、若干の悔しさが紛れていた。
それを主将も感じ取ったのか…
「その割には、ちゃんと本気だったじゃん」
「キャプテン!!」
「何…?」
日向と影山が主将に近付いて来て入部届を出す。
汚な…こいつら…字もまともに書けないのか…
「清水、アレもう届いてたよな?」
清水先輩に主将は尋ね、清水先輩は頷いて体育館を出て行った。
すぐに帰って来たが、段ボールを抱えていた。
その中身はオレ達への物で、烏野のジャージだった。
おお...学校ぽくて部活らしい..
日向影山はすぐにそれを着て、皆に見せびらかしている。
「お前らも着てみろよ~」
菅さんにそう言われ、オレも来てみる。
月島はいやいや着せられていた。
「これから、烏野バレー部としてよろしく!」
ふぅ…これで一先ず、平穏な暮らしができそうだ。
「組めた!組めたよーーっ!!練習試合っ!!相手は県のベスト4!青葉城西高校!!」
まじかよ…いきなり練習試合…
しかし、皆は嬉しそうにし、滾っていた。
先生はオレ達に気付き
「あ!今年からバレー部顧問の武田一鉄です!
バレーの経験は無いから技術的な指導はできないけど、それ以外の所は全力で頑張るからよろしく!」
「おす!」
「いやぁあちこち練習試合のお願いに行ってたから全然顔出せなくて」
「先生、青城なんて強い学校とどうやって…!」
「また土下座を⁉」
土下座…?
優しそうな先生だが、意外と熱血なのか..
「してないしてない…ただ、条件があってね..」
「条件?」
「影山君をセッターとしてフルで出すこと」
「なんすかそれ、烏の事態は興味ないけど、影山だけは取り合えず警戒しときたいってことですか?」
田中さんの形相が凄いことになっていたが、菅さんがそれを止めた。
「良いんじゃないか?こんなチャンスそう無いだろ?俺は日向と影山のあの攻撃が4強相手にどのくらい通用するのか見てみたい」
主将が菅さんの気持ちを汲み取り
「先生詳細お願いします。」
「日程は来週の火曜日、短い時間だから一試合だけ。学校のバスを借りて行きます」
武田先生の話を聞き終わり、選手だけでミーティングが開かれた。
「練習試合のポジション何だけどこれで良いと思うか?」
主将が小さめのホワイトボードにポジションを書いて皆に見せる。
主将と影山で考えたらしい。
ーーーーーーーーーーーーネットーーーーーーーーーーーー
田中(WS) 日向(MB) 澤村(WS)
影山(S) 月島(MB) 綾隆(WS)
嘘だろ…オレ出るのか…
山口は1年で一人だけ外れたことにショックを受けていた。
「影山と日向はセットで使いたいし、月島は烏野で数少ない長身選手だ。綾隆は全て満遍なくできたからな。
青城相手にどのくらい戦えるか見てみたい。」
武田先生が話に入って来た。
「ちょちょちょっとポジションおさらいしていい?
セッター(S)トスを上げる。チームの司令塔
ウィングスパイカー(WS)攻撃の中核を担うなどオールラウンダー
ミドルブロッカー(MB)ブロックで相手の攻撃を阻み主に速攻で得点
こんな感じで良い?」
「他にも守備専門のリベロとかもあるんですけど今回はそれでOKです。」
オレが呆然としている内に話は進んでいて、気が付けば日向がショートしていた。
どうやら緊張が爆発したようだ。
そして、足取りが重たかったためノロノロと歩いていると、かなりの量の荷物を運んでいる清水先輩が見えた。
「手伝いますよ」
「あ、ありがとう。」
荷物の大半をオレが持ち運ぶ。
選手のビブスやドリンクの洗い物、段ボールなどを運ぶ。
「マネージャーって大変なんですね」
「ああ…いつもはこんなにも多くはないよ。
綾隆は来週の試合スタメンなんだよね…頑張ってね」
「…はい」
「いやなの?」
「いえ…初めての試合なので心配で…」
「そっか、でもまぁ練習試合なんだし一杯失敗しても大丈夫だよ。
綾隆はレシーブも攻撃もできてたじゃん。
自信持ちなよ」
「あ、はい」
「ありがと、ここまででいいよ」
「ここまで来たら手伝いますよ。これ洗うんですよね?」
「あはは...じゃ、お願いしようかな」
▽▽▽
こんなにも表情が変わらない人を私は見たことが無い。
あまり表情が変わらない人は何人か見たことがあるけど、綾隆はその人たち以上に変わらない。
そのため、何を考えてるのか分からない。
最初は、あまり話さない人かなと思ったけど、今普通にお話ししている。
会話も続くけど、表情は変化しない。
バレーをしている時も全然表情が変わらなかった。
日向のあの速い攻撃も初見で簡単に取っていたけど、その後は簡単なボールでも取りこぼしたりしていた。
手を抜いているのだろうけど、余り踏み込むのは良くないかな...
無表情で無機質な瞳。
試合をしても一切の疲れを感じさせなかった、無尽蔵な体力に一年なのに澤村と同等のレシーブ力。
「今日は楽しかった?」
「はい、楽しかったですよ」
何の感情も籠ってない言葉...それが本当かどうかも分からない。
でも、私には不気味とは感じなかった。
ミステリアス…
意外と好奇心の強い私には興味の方が上回っていた。
いつか...彼の笑顔も見てみたいと思った。
その日を境に綾隆とはよく話すようになった。
▽▽▽
青城との練習試合、皆は絶対に勝つと言っていたがオレは目立たないように最低限のことだけをした。
一セット目は日向が、緊張しまくって色々やらかしていた。
最後に影山の後頭部にサーブを当てて、影山が真顔で自分の後頭部をバンバン叩きながら日向に詰め寄っているのは、滑稽だった。
二セット目には復活した日向が点を稼ぎ、日向の囮のおかげでフリーになったオレや田中さんが決めて行った。
終盤になって、向こうの正セッター...及川と呼ばれたセッターがピンチサーバーとして出て来た。
影山よりも威力の強いサーブで、月島が狙われ点差を埋められていく。
しかし、何とか上げ日向がコートの端から相手コートの端へスパイクを打つと決まった。それが最後の得点だった。
試合後には武ちゃんが、一人ではしゃいでいた。そして、武ちゃんの名台詞を聞き体育館を後にした。
帰り道…及川が、宣戦布告とレシーブを磨いておけと言って去って行った。
「確かに、インターハイ予選まで時間は無い...けど、そろそろ戻ってくる頃なんだ。
烏野の守護神」
「しゅ…守護神⁉」
その後、烏野の体育館に戻り練習を再開した。
「なんだこれ?この二つのモップ危ないから捨てちゃっていいですか?」
山口が二つに折れたモップを見つけ菅さんに聞いた。
「いいんだ!それは!直せばまた使えるだろ…」
菅さんは何か悲し気な表情で答えた。
何かあったのだろうか…
オレはまた清水先輩の手伝いをして帰ることにした。
そして、皆が帰った部室で一人で着替えて部室の鍵を返してから帰る。
「お疲れ、最後まで手伝ってくれてありがとね」
校門で清水先輩が待っていた。
「お疲れ様です。先に帰ってもらっても良かったのですが…」
「手伝ってもらっておいて、自分が先に帰る事なんてできないよ」
こうやって、一緒に女子と帰るのは青春と言う奴なのだろうか…
美人の先輩と帰れるってのは感謝した方が良いのかも知れない。
「そう言えば、今日の片付けの時...」
清水先輩にモップの件のことを聞いてみた。
「ああ…それね。
もうそろそろ帰ってくるリベロとエースの間で色々あってね…」
「リベロは主将に聞いていましたが、エースがいたのですか?」
「…うん、前の試合でブロックに何回も引っ掛かっちゃって、最後トスを呼ばなくなったの。
その結果試合には負けて、エースは自信を無くして来なくなった。」
「そんなことがあったんですね」
「元々メンタルが弱かったのもあって、責任を人一倍感じてしまうの…
それで、トスを呼ばなっかったエースとリベロが揉めたときにモップを壊しちゃったらしい。
それを大事にしているんだと思う」
「なるほど…明日、一度エースを紹介して貰えませんか?」
「えっ⁉ど、どうして?」
思っても見なかったのか驚き、そう聞いて来た。
「烏野が勝っていくには、リベロもエースも必要ですので」
「でも、いいの?
帰ってきたら綾隆は出られないかもしれないけど…」
「それは仕方ないですよ。
上手い人が出た方が、勝ち進めますから...そこに不満はありません」
「…自分が出たくないから...とかないよね?」
ギクッ...
「そんな事はありませんよ」
「ふーん、まぁ明日の昼休みでいいかな?」
「はい、お願いします」
「じゃ私はこっちだから。お疲れ」
「お疲れ様でした。気を付けて帰ってくださいね」
翌日の昼休み
オレはルーティン化したボッチ昼食を終えて、窓の外を眺めていた。
「すみません...綾隆はいますか?」
清水先輩の声がし、一気にクラス内が騒がしくなる。
「え?誰?てか綾隆って誰?」
それは泣くぞ…
「めっちゃ美人…」
「何かエロい」
「「え...綾隆くんが…」」
と、女子の声も聞こえる
「すみません...わざわざ迎えに来てくれまして」
「ううん…いいの」
オレは清水先輩に連れられてエースの元へ向かった。
エースは東峰旭と言うらしい。
「あ、いたいた。
東峰!ちょっと良い?」
「え⁉清水⁉なに?」
驚きつつも教室の外へ出てきてくれた。
「すみません。
オレは清田綾隆です。一年で最近バレー部に入りました。
オレが紹介してほしいと清水先輩にお願いしました。」
「おお~一年かあ」
優しそうな人だな...
「それで何か用か?」
「エースがサボっているから…と、連れてくるように主将に言われたんです」
「⁉⁉」
清水先輩が後ろで驚いているのが分かる。
「え?いや...何で1年のお前に??」
「1年に言われたら、さすがに出てくると思ったのかも知れませんね」
「…そうか。でも…悪いな。
俺は高いブロック目の前にしてそれを打ち抜くイメージみたいなのが全然見えなくなっちゃったんだよ…
必ずシャットアウトされるかそれにビビって自滅する自分が過るんだ…」
「それ…逃げてるだけですよね?」
少し突っ込んだ質問をしてみた。
「…ああ、情けなく思っただろうがその通りだ。」
「東峰さんはもう一度、スパイクを打ちたいと思わないんですか?」
「……」
何も答えないその顔には、打ちたいと言う思いで溢れていた。
「東峰さん…前言撤回します。
あんたは逃げてるわけじゃない。
ただ、顔を背けているだけだ。
たかだか数本叩き落とされただけだろ?
それだけのことなのに、何も行動に移さず、背けているだけで満足しているんですか?
逃げることを選択するなら、退部届は出さないと…」
オレがそう言うと、東峰さんに胸倉を掴まれた。
「ちょ、ちょっと!」
「お前に何が分かるんだよ!
どんなけスパイクを打っても全て叩き落とされる!
西谷に拾ってもらっても全然決められねぇ!
エースとしての責務を果たせないし、もう…トスを呼ぶのも怖くなっちまった。
行きたくても...怖いんだよ」
胸倉を掴む東峰さんの手は震えている。
東峰さんの大きい声に周囲はこちらを見る。
「なら…決められるようになるまで練習すれば良い。
怖くなくなるまで、練習すれば良い。
怖いからと、顔を背けていても前には進めない。
今のままでは、後退の一途をたどるだけ。
あんたのそのバレーへの想いがあるなら、変われるはずだ。
そして何よりも、このチームがあんたを見捨てるはずが無い。
何度叩き落とされたって、何度でも付き合って貰えるだろう。
そんなチーム2度と巡り合えないだろうな」
「……」
手を放して俯く。
「東峰さん…打ちたいと思うなら打てばいい。
バレーが好きなら戻って来たら良いんです。
生意気言って、すみません...放課後待ってます」
そう言って、オレはこの場を去った。
その後を清水先輩は追いかけてきた。
「綾隆ってあんな事するんだ…意外だった。」
「……清水先輩、ありがとうございました。
もうすぐチャイムが鳴るので失礼します」
「ええ…また、部活でね」
その後、教室に戻ると皆に詰め寄られた。
「お前ぇ~あんな美人な先輩と付き合ってんのか!?」
「そうなの!?付き合ってんの!?ねぇ!」
「てか、お前一緒のクラスだったんだな」
今日4月下旬…オレがクラス全員に認識された日となった。
放課後
部室で着替え、体育館に出て行くと聞いたことのない声が聞こえて来た。
「清子さぁ~~ん!!!貴女に会いに来ました清子さぁ~~ん!!」
『ベヂ~~ン!!』
オレは後ろから清水先輩が本気で誰かにビンタしているのを見ていた。
うわ…痛そう
「どうも」
オレは礼をして体育館に入っていく。
「おう!!また新しい奴来たな!俺は西谷夕!よろしくな」
「あ、はい…
オレは清田綾隆です。
よろしくお願いします。
貴方が噂のリベロの西谷さんですか」
「おっ!?う、噂!?女子にカッコいいとか言われちゃってる!?」
「いえ…主将が西谷さんのこと守護神とか言ってましたので…」
「な…!?だ、大地さん!?」
「うん?本当の事だろ?」
「うぉおおおお!!」
う、うるさい…耳元で騒ぐな…
「綾隆…今日来るかな…?」
清水先輩が心配そうな顔をして聞いて来た。
「さぁ…分かりません」
あの顔なら来るだろうと思いながらそう返しておいた。
「そっか…来てくれたら良いね」
「そうですね」
「あぁ!?お前!綾隆!何でお前は清子さんと話しておきながら無表情何だよ!!」
そう言ってオレの顔を掴もうとして来る。
「お前は!お茶みたいな面白れぇ名前しときながら何で笑わねぇんだ!
よし!今日からお前は[あやぽん]だ!」
い、意味が分からん……
「何でですか…」
「おお~いいじゃねぇか!面白くて!」
良くないし、面白くない。
だが、もう何を言っても無駄だろう…
「で、旭さんは??戻ってますか?」
西谷さんが先輩たちに向き直り聞く。
「……いや。」
「あのォ!…えっ!?」
顔に怒りの表情が浮かび上がったが、体育館の入り口の方を見て収まった。
「旭さん…」
西谷さんがそう言い、皆は釣られるように出入り口の方を見る。
「「「旭!!」」」
「旭さん!!!」
「「え、誰?」」
「烏野のエースだよ!」
三年の先輩が東峰さんの方へ向かい、田中さんが一年に説明する。
「戻って来てくれたのか!?」
菅さんが感極まった表情で東峰さんに突撃していく。
「ああ…悪かったな…菅に西谷も」
「良いんですよ!!」
「だけど...オレはまだスパイクを打つのは怖い…」
「それでも!戻って来てくれただけ嬉しいよ!」
菅さんの満面の笑みに皆が微笑む。
そして、主将からの一言
「お前がまだバレーを好きでいてくれて良かった。」
「ああ、俺はやっぱり打ちたい!」
「そっか…そっか」
菅さんはまた涙が零れていた。
「清水先輩、マネの仕事手伝いますので用意しに行きましょう」
「え?今?何で??」
「いいから行きましょう」
「え?う、うん」
オレと清水先輩は体育館を出て行く。
「ところで旭…なんで急に来ようと思ったんだ?」
主将がそう聞く。
「え?いや...大地が指示したんだろ?」
「指示??俺はそんな事してないぞ?」
「えっ!?いや…だって...」
オレが体育館を離れて暫くたってから…
「こらぁーーーー!!綾隆ぁあああ!!」
と、聞こえて来た。
これは、暫く帰らない方がいいな。
やっぱり、主将の名を勝手に使ったのは駄目だったか…
「綾隆...それを読んで逃げて来たのね」
「…主将って怖いんですよ」
「なら、あんな事しなければよかったのに…」
「あの時は…東峰さんを連れ戻すのに手一杯だったんですよ」
「ふ~ん…人を誘導することをそんなにも簡単にするんだね…
私も誘導されてそうで怖くなっちゃう」
笑いながらそう言ってきた。
「人聞きの悪いことを言わないでください…
そもそも、あれは偶々上手く事が運んだだけです。」
「ふふ…そう言う事にしておこうか」
信じてもらえない…
「まぁ…なんにしても良かったですね」
「うん…本当にね。ありがとう」
「…偶々ですよ。」
「それでも綾隆のお陰だよ」
「……」
時間をおいてから戻ったが、こってり怒られた。
東峰さんを連れてきたことには感謝をされた。
その間、日向がオレを見てニヤニヤしていた。
後で、潰す。
今回、主人公の能力??のようなものを書きました。
これは、僕が小学生の頃サッカーをしていたときに実際、たまーにそのような状態になれた事をそのまま書いております。
それを主人公は自分から入れるようにしております。
そう…何を隠そう、作者はバリバリの脳筋です。
考えてプレーなんてしたことない。