ようこそ青春の排球部へ   作:もと将軍

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前回、バレーのルールついて指摘してくださりありがとうございます。
ちょっと資格試験に埋もれており、しばらくお待ち下さい!


1点の力

 

 春高3日目。

 通称魔の3日目が終わり、私達烏野高校バレー部は春高中、宿泊しているホテルに、無事今日も泊まることができた。

 

 日向不在で心臓が止まりかけたけど、みなさんの頑張りのおかげで、私の心臓は今も動いている。その活発な心臓に再び危機が訪れようとしているのが、私には分かる。だってそれは、私の心臓であり。心であり。ハートであり。胸がときめく所だから。

 

 この半年で私はどれだけ成長出来ただろうか。あの日、バレー部のマネージャーを断っていたなら…私に太陽が差すことはなかっただろう。

 バレー部のマネジャーとして、太陽に照らされ月の明るさを感じ、時に闇を見て成長してきた。

 最前線で戦えなくても、みんなの戦いを近くで見守りサポートしてきて、当然、気付くことが多い。

 例えば月島くん。高さと頭脳を持ち合わせているけど、それでも上には上がいることを理解している。一人では勝てない。そんなことは知っている。でも勝てないから戦わないわけじゃない。チームとして勝つことを目指したり、たった一回だけでも、その格上に勝つことを目指している。

 そして、月島くんと日向。日向と影山くん。影山くんと月島くんのように味方ではあるものの、時に超えるべき敵と見たりしている。

 

 私にとっての格上であり敵とは…清水先輩である。

 

 

 

 日向が眠り、私達マネの仕事も終えたので、大浴場で疲れを癒やすことにした。身体をサッと洗い湯船に浸かる。

 

「あ~良いお湯だね〜」

「あの…清水先輩…!」

「ん?なに??」

 

 二人きりの大浴場。負けた高校から居なくなっていく。春高3日目にして…私達が宿泊しているホテルはもう烏野だけ。

 この静かな大浴場で2人だけというのは寂しく、何故か落ち着かない。最初はもっと雑談をしてから自然と聞くつもりだったけど、その妙な緊張から単刀直入に訊いてしまう。

 

「し、清水先輩は…綾隆のこと好きですよね!?」

 

 少し目を見開き、驚いている。そんな姿も、う…美しい…。

 清水先輩は微笑みながら言う。

 

「…うん。好きだよ」

「そうですよね……では…この時だけは…敵ですね!」

 

 また考え無しに、発言してしまった…!慌てて謝罪する。

 

「す、すいません!私ごときが敵って…」

「そうだね…敵とは違うかな……ライバルだ」

 

 恋敵と書いて強敵。勝てっこないのは知っている。でも挑まないわけには行かない。

 私と清水先輩は顔を見合わせ、何故か笑っていた。のぼせたのか、恋による熱なのか、将又自分の戦いに意気込むためなのかは分からないけど、悪い気はしなかった。

 

 

 翌日、準決勝。

 

 日向は不在。だけど、烏野の勢いは凄まじかった。田中さんが東峰さんが、そして綾隆がスパイクで強引に流れを持って行って、見事勝利を掴んだ。

 

「楽しめたら良いですね」

 

 という綾隆の発言に、みんなに緊張が走る。

 この場を去っていく綾隆の背中を見て、もう止まらないんだろう、と思った。

 綾隆の過去を少なからず知っている。綾隆の怖さも愚かさも理解している。だから、止めようなんて考えてない。

 でも……その背中を見て、どうしようもない気持ちになる。すぐ傍には私達がいることを知っておいて欲しいから…。

 

 私は、今日……私の気持ちを伝える。

 

 

 

 お昼ご飯を皆で食べて、烏野は決勝のミーティングを行う。それからは各々の時間を過ごす。マネはこういう時が仕事だ。ユニフォームの洗濯やボトルを洗ったり、救急箱の確認などの雑務がある。

 仕事が終わると、すっかり日が暮れていた。

 私は携帯で綾隆を呼び出す。返事が来てから、私も外に移動する。暫く歩いた先に公園の前にある長椅子を発見し、そこに座って待つことに。

 バクバクと心臓がうるさい。何度も時計を確認し、まだ30秒しか経ってないと、それが更に緊張を催す。

 

「そんな薄着で来たのか…」

 

 後ろから無機質な声が聞こえてくる。それと同時に私の肩に掛かるのは、温かいウィンドブレーカー。

 

「あ、ごめん…ありがとう」

「いや、構わない。それでどうした?」

 

 私の横に座る。

 まずは雑談から始めることにした。昨日と同じ轍は踏まないように。

 

「明日は勝てそう?」

「ああ」

 

 その淡泊な返答に安心感がある。

 

「ふっ…綾隆らしいね。今日の梟谷も凄かったのに」

「それでも今の烏野の勢いには敵わない。もしオレが居なくても勝てるだろう」

「ちゃんと出るよね?」

「当然だ。やるべきこともあるしな」

「それは…この先のため?」

「そうだ」

 

 綾隆は自分のやるべきことを明確に決めているのだ。何となく私にも分かる。暫く会えない日々が続くんだろう…な。

 

 だからこそ…今、言わなくちゃ…。私は綾隆の顔を見て、しっかりと双眸を見て言う。

 

「綾隆」

 

 顔をこちらに向ける。

 私は察した。綾隆が私が何を言おうとしているのかを察したことを察してしまった。

 

 私は開き、想いを声に出そうとしていた口を閉ざす。

 

 それから数分見つめ合っていたかも知れない。言葉を発さず、ただ視線を交差させていた。

 綾隆は他人を分析し、その人の限界点すらも導き出してしまう。私という臆病な人間の限界点も分かっているんだろう。私から言われる言葉の返しも、今、その頭脳で考えた何通りもの選択肢から選んでいるのだろう。

 私が綾隆の心を動かすのは不可能なんだ。

 だって綾隆は、紛れもなく格上の存在。言わば勝てない存在。

 でも私もちゃんと成長している。学んだことは多い。勝ちたいから挑む。いや…違うよね。

 

 一回だけでも勝てれば良いんだ。

 

 

 

 震える手を綾隆の頬まで伸ばす。

 

 

 頬を掴み顔を引き寄せる。私も顔を寄せると綾隆の呼吸音が聞こえてくる。さ、更に震えて来た…でも私は止まらない。

 

 ちょっと顔を傾け、唇を当てる。

 

 2秒くらいで離れると綾隆と目が合う。少し目を見開いていた。

 

「好き」

 

 と、短く発する。答えなんて分かりきってる。行動だけで十分だったのかも知れない。でもずっと言いたかったこと。前も言ったことだけど、怒鳴らず、面と向かって伝えたかったこと。

 

「付き合って欲しい」

「……正直かなり驚いた」

 

 続きを黙って待つ。

 

「だが…悪い。ひとかの想いに答えることはできない」

 

 分かってたこと。うん、と頷いて目を合わせる。

 

「清水先輩が…好きなの?」

「…いや、オレはまだ恋愛感情は分からない」

 

 なら…と欲が出てくる。だから…今すぐに否定して欲しい。それが伝わったのか綾隆は更に続ける。

 

「だが、オレがもし恋愛感情を手に入れたとしても、それがひとかに向くことはないだろう。それだけは分かる」

 

 聞きたくない言葉だけど、綾隆が私と分かり合おうとしてくれている。

 だから決して目を逸らしたりはしない。涙を流したりもしない。

 

「…ひとかが言ったように清水先輩に向くだろう。だが、ひとか。ありがとう」

 

 そう言って優しく抱きしめてくれる。

 そのありがとうは、どう言う意味だったのか分からなかったけど、綾隆の顔が爽やかになっている。綾隆の心をほんの少しでも動かせたのなら、それは私の勝ち…だよね。

 

「ねえ…」

「なんだ?」

「やっぱり何でもない」

 

 その後の言葉は必要ないと思った。それは行動の方がちゃんと伝わるから。

 

「そろそろ帰ろうか」

「うん」

 

 2人並んで宿に帰る。

 

「あれ?綾隆身長伸びた?」

「そうかも知れないな」

「男子って良いよなぁ…私はもう…」

「ひとかは小さいが故に可愛らしく見えるがな」

「私は綺麗になりたいんですぅ!」

「なら、フジクジラが必要になるな」

「フジクジラ足したら綾隆抜かしちゃうよ〜?」

「…それは…困るな」

「そしたら、私がバレーボール選手として活躍できるかもしれない!」

「ひとかは運動神経が……」

「あっ……なんて…残酷な世界…!?」

 

 そんな下らない何の役にも立たない雑談が、永遠に続いて欲しいと思った。でも……残念ながら、宿が見えてきてしまった。

 

「来年再来年もここに来る。また話をしよう」

 

 やっぱり私の考えてることは綾隆には筒抜けなようだ。

 

「いやいや、半年後にはインターハイですよ?」

「それもそうだな。それじゃおやすみ。ひとか」

「おやすみ、綾隆」

 

 宿で別れる。さてと、明日は決勝戦!!

 私は気合を入れて、颯爽とベットの中に潜り込む。

 

 目を閉じると涙が伝り、ベッドに冷たい感触が滲んでいた。

 

 

 

 朝、気持ち良く起床する。

 

 朝食の用意をするため、顔を洗い髪を整えてから食堂に向かう。

 暫くして、みんなが起きてきた。

 

「あっ、綾隆、おはよ!」

「おはよう。元気だなひとかは」

「えへへ。今日は絶対勝とうね!」

「あたりまえだ」

 

 いざ、決勝戦へ。

 格上だろうと関係ない。

 私の…じゃない。私達の戦いだから。

 

 勝てないなんて気持ちは無く、ただ勝つことだけを考えて。

 

 私達は東京体育館に踏み入る。

 

 

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