ようこそ青春の排球部へ   作:もと将軍

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遅くなりました。
バレー未経験でハイキューで培ったバレー知識のみで書いてますので、ルールなどおかしい点はあるかも知れません。その時は教えてください。

現在、資格試験の勉強であまり執筆の時間が取れません。訂正するものもあるのですが、ちょい厳しいです。
あと、パソコンに書き溜めていたものが、全部消えてしまって…萎え萎えです。



梟谷戦!!

 

「対木兎シフト。今回はストレートを完全に閉める」

 

 コーチが梟谷の試合に向けてのミーティングを開始する。

 

「牛若と逆パターン!!」

 

 復活した日向が騒ぐ。

 

「そうそう、それな。んで、クロスに西谷だ。」

 

 単純な対策だが、慣れていて、かつシンプルなため良案だろう。

 梟谷は準々決勝辺りから調子が良い。鴎台よりも厳しい戦いになるかも知れない。

 だが恐れることは無い。

 乗りに乗っているのはこちらも同じこと。

 流れ 対 流れ。

 コーチの話が終わり、オレに前を譲られる。

 

「オレからは一つだけです。準決勝もそうでしたが、どう足掻いても3セットはします。となると、こちらの体力が心配になります」

「それはお前が無駄に動かせたからだぞ~」

 

 野次が飛んで来る。無駄とは失礼だな。

 

「なので、今回は決まりを作っておきましょう。オレと田中先輩、東峰さんはローテーションで一セットの半分は休みましょう」

「なるほどな、確かに重要なことだな」

「だがお前に休みは必要なのか??」

 

 必要に決まっている…だが、まあ5セット程度なら持つ。

 

「そうですね、病み上がりの日向やバテ島も居ますから、オレが休む時はMBとして出ます。そのセットはWSは休みなしです」

「僕は…人間なんでね」

 

 起伏のある声で言った。

 

「しっかりと突っ込む月島…職人芸だな」

「オレからはそれだけです。互いに武器は出し切っています。真正面からの衝突になるでしょう」

「望むところだぜ」

「うおっしゃあああ!試合だぁああ!!」

「「「うおおおおお「うるさい!!」…」」」

 

 ミーティングは終わり、明日に備え休むことにした。

 

 

▽▽▽

 

 

「ふぅ~~~~」「ああ~~~」

 

 私と雪絵は一緒にお風呂に入っていた。

 明日はいよいよ決勝。最終日だからか、宿泊していた他校は居ない。

 貸し切りの大浴場なため、気を遣わずボーっとしながら声を出す。

 

「いよいよだね~」

「だね、相手はあの烏野か」

「夏合宿の最初は、正直それほど脅威に思えなかったんだけどね~」

 

 確かに、と思った。

 

「最後の最後で負けちゃったから…皆、びっくりしたもんだよね~」

「策を講じてるのが綾隆くんで、それを知っても誰だか分からなかった。試合じゃ全然出てなかったもん」

 

 いつの間にか思い出話に入っていた。

 

「確かにね。清子ちゃんに連れてこられて、あ~居たかな…レベルだった」

「うん、それが何と今では大注目選手となってね~」

「ちょっと、今日怖かったし、こりゃ明日相当厳しい試合になるね」

「気付いてる?烏野、全てストレートで勝ってるんだよ」

「それ!!ほんと意味わかんない…綾隆くんに揺さぶりは効かないし…」

「でもウチも流れは良いよ!」

 

 珍しく、やる気の雪絵。

 

「うん、そうだね。明日勝って、絶対絶対綾隆くんの前でドヤ顔してやろうね!」

「だね~~」

 

 私達は出ないけど、やるべきことは既にやった。気合も十分。

 

 明日絶対に勝つ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 翌日。

 

 東京体育館に入ると、人で埋め尽くされていた。満席だな…。

 

『いっけぇいけいけいけいけ烏野!!』「「「いっけぇいけいけいけいけ烏野!!」」」

『おっせえおせおせおせおせ烏野!!』「「「おっせえおせおせおせおせ烏野!!」」」

 

『『『ふ~くろうだに!!』』』『ドンドンドドンドドン』『『『ふ~くろうだに!!』』』『ドンドンドドンドドン』

 

 決勝戦だからだろう。烏野も梟谷も全校生徒で、この東京体育館まで応援に来ていた。

 そんな大勢の応援を見て、単細胞組が目を輝かせているが、主将の視野範囲では叫ぶことは許されない。黙って扉が開かれるのを待つ。

 

『只今より、春の全日本バレーボール高等学校選手権大会 決勝戦を開始します』

 

『選手紹介』

 

 そう放送が入り、扉が開く。

 

『まずは烏野高校。1番、キャプテン、澤村大地』

 

 一人ずつ紹介され呼ばれたものから中に入っていく。

 主将が入ると拍手が沸き起こる。

 

『16番、清田綾隆』

 

「「「「キャーーーー!!」」」」

 

 なぜか黄色い声援に包まれた。ニヤリとする必要もないのでいつも通りでいると、皆に睨まれた。

 

『……5番、田中龍之介……9番影山飛雄』

 

 皆がそわそわしながら入ってくる。

 

『10番、日向翔陽』

 

「わはははは」

 

 緊張した面持ちで日向。

 

『11番、月島蛍』

 

「蛍ーーー!!」

 

 月島の兄かな?

 

『4番、リベロ、西谷夕』

 

「ヒャッハー!!」

 

『続きまして、梟谷高校』

 

『4番、キャプテン、木兎幸太郎』

 

「ふっふっふ!!遂にいっぽんの指に入るときがきたぁあ!」

 

 ??良く分からないが、それが木兎だ。考えるだけ無駄だろう。それにしても、本当に木兎がキャプテンだったのか……。

 

『3番、猿代……7番、木葉……5番、赤葦……2番、鷲尾……12番、尾長……11番、リベロ、小見』

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

猿代 木葉 小見

尾長 赤葦 木兎

 

ーーーーーーーー

 

綾隆 澤村 日向 

西谷 影山 田中

 

 

「おっ烏野、いつもとローテ違うじゃん」

 

 スーパーのお兄さんが烏野のローテに気付き口を開く。

 

「はい!梟谷のエース対策だそうです」

「だな……完全な木兎シフトだ」

 

 もう一人のお兄さんが言った。

 

「まあ、前の試合もそうだけど、もう烏野の流れは脅威でしかない。日向が居ようがいまいが力づくで点を取る綾隆。超インナーとラインショットをよく決める田中に、東峰も落ち着いてスパイク打ててるからな」

「ああ、これで日向が加わって本来の烏野に戻ったわけか。しかも今回は控えも厚い」

「だけど、梟谷もやばいんでしょ?昨日も凄かったじゃん」

 

 田中さんのお姉さんが言った。カッコいい法被に身を包んでいて、相変わらずの立派な実だ…。

 

「「たっ……たしかに~」」

「ほんじゃ!いくよ!!」

 

 田中さんのお姉さんたちの太鼓と全校生徒の応援が始まった。応援でも火花が散っている。

 

 

▽▽▽

 

 

「さあ、いよいよですね~研磨」

 

 当然だが、音駒も最終日の決勝戦を見に来ていた。

 

「そうだね。下馬評は圧倒的に烏野有利って感じだけど、梟谷の流れも侮れないよ」

 

 前日の準決勝は圧倒的な力を見せつけた両校。どちらが勝ってもおかしくはない。

 

「なるほどね~」

「でも昨日の試合、烏野ヤバかったな」

「それな!まじ圧倒してたじゃん」

「今回日向が二人居ると思ったら、まじ笑えねえんだけど」

「だろうね。でもそこまで綾隆は使わないんじゃないかな?」

 

 研磨は綾隆のマイナステンポは、あの場鎬の物だと考えている。

 

「へ~それはどうして」

「綾隆はマイナステンポを使うとき、かなり威力落ちるでしょ。あれはあくまでも日向の代わりだよ。まあ1.2回はやるかもしれないけど」

「ほ~ん…読まれたら綾隆でも拾われる回数が増えるという事か」

「そう。それを分からない、綾隆や影山じゃないでしょ」

 

 

 

「いよいよだね、優くん」

 

 今日も今日とて、試合を視に来ていたカップル、みかちゃんは楽しそうにし、優は少し緊張した面持ちだった。

 

「……う、うん、そうだね」

「なんで優が緊張してんの?」

「だって…なんか、しちゃうんだよね」

 

 自分が出るわけでは無いが、一回戦から見に来ていたチームの決勝ということもあり、両校の気持ちになって緊張しているようだ。もしくは彼女に上手く解説出来るか心配なだけかも知れないが…。

 

「どっちが勝つかな?」

「まあ烏野の勢いは止められないと思ってたけど、梟谷も昨日凄かった…流れ 対 流れは…少しでもミスをした方が負ける」

「烏野の16番がミスしたことあんまり見たことないよね」

「確かに…あいつは、気持ち悪いからな」

 

 そして、こちらのカップルも決勝戦を視に来ていた。

 

「うっひょ~~~推し同士が決勝戦!!」

「梟谷もかよ」

「楽しみだね~」

「それは同感だ」

 

 どちらのカップルも、試合が始まるのを今か今かと楽しみに待っている。

 観客席ではないが、コート外で試合開始を待っているのは、ユースの監督だった。

 

「あっ監督…来ていたのですか!?」

「そりゃあね~この試合は見逃せないよ。綾隆くんを止める対策とかも考えないとね~あっはっは」

「はあ…??」

 

 

▽▽▽

 

 

『さあ、春の高校バレーを制するのはどちらなのか…非常に気になるところですね』

 

『そうですね…両チームとも先日の試合は圧巻でしたから、予想するのは難しいでしょう』

 

『竹林さんは誰を気にするべきだと考えておられますか?』

 

『そうですね、やはり清田くんは要注目ですよね。この大会で最も得点を挙げていますし、前の試合では見事半分以上の得点を挙げています。そして梟谷の木兎くんも要注目です』

 

『さあ、勢いに乗っているチーム同士の対決。点の取り合いになるのは免れない。田中のサーブから始まります』

 

 

『ピーーー!』

 

 笛の合図がなり、田中先輩がサーブトスを上げる。

 

「んう゛う!」

 

 という声と共に放たれたサーブは、リベロ小見の腕を弾く。ボールは落ちず猿代が繋いだ。

 

「赤葦ラスト!」

 

『初っ端から強烈なサーブーーッ!だが、梟谷これを繋いだ!!』

 

 烏野コートに赤葦がアンダーで返す。

 

「チャンボチャンボ!」

 

 田中先輩のファーストタッチからシンクロ攻撃。

 

『ドンッ!』

 

 小さな烏が一足先に羽ばたく。

 だが、影山が選択したのは、今、ノリに乗ってる田中先輩のバックアタック。

 

「ワンタッチ!」

 

 尾長によるブロックで威力が弱まる。リベロから赤葦へ。

 

「レフトォオオ!!」

 

 木兎に上がったトス。勝負をさせたいんだろう。乗っている木兎が決めれば、それだけで梟谷の流れになる。

 前衛3枚で完全にストレート封じ、クロスへ誘導する。

 木兎は想定通り、クロスへ打った。抜けた先にはリベロ西谷先輩。

 

『ズッッパァァアン!!』

 

 だが、その更にインナーに突き刺さる。

 

「へいへいへ~~い!!」「木兎さんナイスです」「ナイスキー木兎!」「ナイスキーミミズクヘッド」

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

 梟谷の流れになってしまったか。だが先のプレーは仕方ない。

 

0-1

 

 尾長のサーブを西谷先輩が上げる。影山から日向へマイナステンポ。

 だが相手は合宿の時から新マイナステンポに慣れている相手。当然対策はしてきている。

 ブロックで叩き落としはせず、コースを誘導しリベロがきっちり上げる。

 そして、真ん中から鷲尾の速攻。

 

「ワンタッチ」

 

 オレと日向で跳び、日向の上を行くボールをオレがカバーする。

 流れを持っていかれたなら、それは取り返さないとな。

 

『ドォッ!!』

 

 三枚のブロックの上から打ち下ろす。

 

『ズッッドォォオオン!!』

 

『ナァイスキーーーあやたか!!』『『『いぞいぞ綾隆!!おせおせ綾隆!!』』』

 

 うるさ…と感じるほどの応援の熱量。全校生徒に加え烏野応援団が居るからな…。

 コートにいる選手が少しビクッとした。

 

「おおっこれはすげえ応援だな…」

「うおおお!!いい!応援!良い!」

「お前、タイミングがズレてるから上を抜かれるんだぞ」

 

 浮かれてる日向を咎める。

 

「ウ、ウイッス!!…なんか影山みたいなことを言うんだな…」

 

 はあ?と睨むと、ささっとサーブを打つため後ろに下がっていく。

 

 

1-1

 

 

▽▽▽

 

 

 うげっ…。なんて高さ。

 ビデオで見るのとはやっぱり違うね。

 

「ねえ高すぎない??」

 

 監督もそう思ったのか、小声で訊いてくる。

 

「そうですね…やばいですよ、あれ…。」

 

 綾隆くんは鴎台との試合の最後であの高さを出していたけど、あれは火事場の馬鹿力とか思っていた。いや、そう思いたかったんだ。

 崩せそうもない精神力。レシーブ力。そして他者を出し抜く頭脳に、他者を圧倒する身体能力。

 この全国大会で初めて綾隆くんの試合を見て、ズルすぎると思ってしまった。

 稲荷崎という強豪にストレート。そして音駒にもストレート。ギリギリかと思ってた音駒はどうやら綾隆くんがそうさせていたらしいと赤葦から聞いた。

 そして昨日の準決勝では、日向くんが居ないから負けはしなくとも苦戦はすると思っていたら、まさかのストレート勝ち。それも圧倒していた。

 幸い、ウチは木兎が今、絶好調だ。普段ならイジケル場面もその様子を全く見せない。

 なんか、普通のエースになる!とか豪語していたけど、そんなことはどうでも良い。とにかく、綾隆くんを止めるかそれと同等に打ち合うしかないのだ。

 

 この絶好調すぎる木兎にチームがどれだけ付いていけるかが勝負。

 

 頑張れ、梟谷。

 得点力は決して負けてないはず!!

 

『ズッッドォォオオン!!』

 

『ナァイスキーーーあやたか!!』『『『いぞいぞ綾隆!!おせおせ綾隆!!』』』

 

 んぅ~~。

 

 

▽▽▽

 

 

2-1

 

 主将によるサーブを上げ、今回も木兎のスパイク。

 

『バッヂィン!』

 

 西谷先輩が腕に当てるも、弾きコート外へ飛んで行った。

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

 だがそれで良い。未だ音駒の様なレシーブは不可能だが、少しずつ打つコースを絞っていく。この序盤で腕に当てることが出来るようになったのは上出来だろう。

 

2-2

 

「ワンチ!」

「ワンチ!」

「ワンチ!」

 

 子気味の好い声と音ともに相手スパイカーをイラつかせる月島。

 月島のブロックのおかげで、大分と守備がしやすくなった。

 そのまま離せず離されず、ローテが周る。

 

 

 

▽▽▽

 

 

6-5

 

 

「やっぱ…俺、ツッキーにブロック教えない方が良かったのかも…」

 

 黒尾はそう零す。

 

「試合の時と言ってることが真逆じゃん」

「だって、日に日にブロック上手くなっていくんだよぉ~俺が上で見物していられなくなるじゃん」

「なにそれ」

「今度試合するときがあれば、もうツッキーを煽ることが出来なくなるわけ…」

 

 自分が上から物申せる時は無くなり始めていたからだった。

 

「どうして煽る必要があるのかは分からないけど…でも、やっぱ教えて良かったんじゃない?ほら、蛍…何か楽しそうだし」

「ふふっ」

 

 と笑い、確かに…と零す。

 

 

「やっぱ、俺あいつ嫌いだね」

 

 奇しくも似たことを言う優。

 

「11番?ブロックの要??」

「そっ…あいつみたいで嫌いだ」

 

 みかちゃんは誰のことを言っているのか理解したのか、納得!と頷く。

 

「ん~確かに、この序盤から強烈なスパイクに対応してきてるのは、相手からしたら嫌なんだろうね」

「そうそう!」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 月島のサーブを綺麗に上げ、梟谷は一斉に攻撃に参加する。

 再び木兎かと思ったが、ライトから猿杙。

 日向と田中先輩の二枚ブロック。

 ストレートを閉めていたが、強引にストレートを打ってきた。

 

「くっ…すまん!フォ…!」

 

 主将が崩れながらも上げた。だが想定内。

 既に自分の真上に浮いているボール。

 オレの身体の向きから直感でライトへ上げると理解しただろう日向。

 ロングセットアップだが問題ないな。及川のセットアップを見ているため予習は出来ている。

 

『スッパァァアン!』

 

 日向のファーストテンポによるスパイクが決まった。

 

「「「「「おおお~~~」」」」」

 

 歓声よりも驚きの声が会場に響いていた。

 

「なぁんだとお~~」

「木兎さん、落ち着いてください。音駒でもやってましたよ」

 

 木兎と赤葦の会話が聞こえてくる、まだまだ焦ったりはしていないようだ。赤葦もまた準々決勝あたりから何かが吹っ切れたように、動きに迷いが無い。

 

「サンキュー!」

「おお~っす!」

「ナイス…トス」

 

 

7-5

7-6

 

 

 田中先輩のサーブ。

 ルーティーンで精神を落ち着かせている。

 

『ピーーー!』

 

 笛が鳴り、一度目を閉じ、一呼吸吐いてから目を開ける。

 

『ズッパァァアン!』

 

 見事に小見と木葉の間に突き刺さった。

 

『サーービスエェーーーッス!!田中龍之介!』

 

「しゃああああ!!」

 

 鴎台の1セット目最後の得点はチームの士気を高めるだけでなく、自分自身の成長にも大きく変化をもたらしたのだろう。 

 

『ナイスサーブ!!龍之介!!』

 

 そしてこの応援の熱量も田中先輩を後押ししている。

 

8-6

 

 田中先輩のサーブを今度はリベロ小見が上げる。崩れ、セッターには返っていないが、木葉によるセッティング。レフトから木兎が「寄越せええい!」と入ってくるが、真ん中から尾長の速攻。

 

『スッパァァァン!』

 

 烏野コートに突き刺さる。梟谷も崩れていようと全員の攻撃意識の高さに注意しなければならない。

 

8-7

 

 尾長によるサーブを田中先輩が上げる。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。日向が抜け出し、一足先に跳ぶ。

 

 影山は日向を選択し、トスをセットする。ブロックは2枚が付くが、指に当て後方へ飛ばした。

 

「繋げ!」とリベロ小見が後方に飛んで行ったボールを拾う。

 

 木葉が繋ぎ鷲尾が返す。それも研磨の様に日向と主将を牽制する場所へ。

 梟谷も準々決勝あたりから流れが良いと感じていたが、予想以上だった。

 やはり、木兎が良い調子の日は皆の調子も格段に良くなるようだ。

 本来なら、木兎を止めるため策を講じる必要があるが、今回に限ってはその必要はない。

 真っ向勝負でも烏野が負けることは無い。

 

『ズッッドォォォオン!!』

 

『必死に繋いだ梟谷にとどめの一撃ぃーー!これぞ怪物、清田綾隆!!』

 

9-7 

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校…ここでメンバーチェンジです。山口忠を投入します』

 

 点が取りにくいこのローテで点を掻っ攫えというコーチからのメッセージ。

 

「一本ナイッサー!!」

「ナイッサ」

 

 月島の小さな声援が山口の耳に届いたのか、こくっと頷きボールを受け取る。

 オレは何となく、ベンチを見る。東峰さんが声を出して応援している。緊張はしていないようだ。

 全国決勝という舞台なのに、誰も緊張していないのは何故だろうか…。また分からないことが増えたな。

 

『ピーーー!』

 

 山口のサーブはネットを越え、猿杙が取る。だが崩れセッターには返っていない。

 鷲尾が繋ぎ、アンダーで木兎へ。

 こちらは3枚のブロックを揃え跳ぶ。

 体勢の悪い木兎さんならリバウンドをする可能性が高い。

 

「ソフトブロック」

 

 オレは指示を出す。

 叩き落とすことを目的とせず、壁を作る。手のひらに当たり高く浮く。

 

「ああっ!」

 

 木兎が思わず声を上げる。

 万全の体勢からファーストテンポのシンクロ攻撃。

 このタイミングで、オレはマイナステンポでレフトへ入っていく。

 一枚のブロックが釣られ、そして鷲尾も重心がこちらに傾いていた。

 ならば、真ん中から月島の速攻で点を捥ぎ取る。

 

「ナイスキー月島!」

「ナイスサーブだったぞ~山口!!」

「どうも」

「へへへ、ありがとうございます」

 

「くわぁ~やられたぜぇ~」

「ええ、今のは釣られましたね」

「次は止める!!」「「「おおっ」」」

 

10-7

 

『ピーーー!』

 

 山口はサーブトスを上げ、ネットすれすれを狙って打つ。

 ネットの白苔に当たり、前に落ちる。鷲尾が膝を突きながら上げる。これでMBの速攻は消える。

 赤葦から木兎へ、サードテンポ。

 烏野は3枚のブロックで、尚且つソフトブロック。山口のファーストタッチで一斉に走り出す。

 田中先輩がバックアタックでブロックを弾き飛ばす。

 

『ナァイスキーー!!龍之介!!』『『『いぞいぞ龍之介!』』』『『『おせおせ龍之介!!』』』

 

「かっこいいぞぉ~りゅう~うおぉおお!!」

「姉ちゃん!恥ずかしいって言ったじぇねーか!」

 

 言われても止められない辺りが兄弟なんだと、改めて思った。いつも主将に怒られても直ぐに叫び出すからな。

 

「おい、あやぽん…失礼なこと考えてんだろ、コラ」

「考えてませんよ、さっ離しますよ」

「おおよ」

 

11-7

 

 

▽▽▽

  

 

「くっそぉ~良いサーブ打ちやがる~スパイクまで繋げられねぇじゃねえか…!」

 

 木兎は悔しそうに呟く。それに鷲尾が反応し皆も続く。

 

「だな……一気に持っていかれそうだ」

「まあ、持ってかれてるんだけどな」

「俺達やべーじゃん」

 

 危機感は持っているものの、まだ焦りは見られていない。それは何故か…。

 

「まあ、落ち着いて行きましょう。まずは一点です」

「「「「おう」」」」

「おおっだな!あかあし!」

 

 そう、梟谷にも機械的な人間はいる。狢坂高校との試合にて赤葦…だけではなく梟谷は大きく成長していた。

 

『ピーーー!』

 

 烏野の山口からのサーブが放たれる。

 ブレるボールを捕まえるように、猿杙はボール下へ素早く入りオーバーでレシーブする。赤葦から鷲尾へ速攻。

 

「ワンチ!」

 

 月島のブロックで再び梟谷コートへ返っていく。今度はチャンスボール。それでも梟谷は丁寧にセッターへ上げる。

 慌てず、一つ一つを丁寧に。自分の出来ることを最大限にプレーする。

 それが赤葦の強みであり、その行為が木兎を…梟谷を一段階強くした。

 

「レフトォオオオ!!」

 

 レフトで木兎が叫ぶ。セカンドテンポで木兎へ。

 いつも通りのセットアップ。そのトスはドンピシャに木兎にフィットするように上がった。

 木兎は待ってました!と言わんばかりに目を輝かせ腕を振り抜く。

 

『ダァン!』

 

 梟谷コートで叩きつけられたボールを皆は目で追った。

 ネットの向こうでは左腕を上げ、拳を握り「しゃあああああああ!!」と咆哮するメガネブロッカー。

 ソフトブロックを続け、絶好のタイミングでドシャットを食らわす。

 

「木兎さん…まずは一本です」

 

 メガネは呼吸をするように煽る。

 

「んだとぉ~~!!こんにゃろぉ~」

 

 憤慨する木兎だが、月島は無視し自分のポジションに付く。

 

12-7

 

「おっほぉ~ツッキーナイスブロック!」

「うわ…また煽ってる。どこまでも師弟だね…」

「ふっ…ツッキーにブロックを教えておいて良かったぜ。俺はまだ試合にいる…」

 

 キラン...とカッコつけて言う黒尾だったが、研磨はブロックではなく煽り能力について言っていただけに、黒尾を見る目が可哀想な目になった。

 

「……気付いた?今のブロック。綾隆のブロックとの連携のうえに成り立っていたの」

 

 黒尾は察し、直ぐに話を変える。

 

「ストレートは澤村くんが。真ん中よりややクロスを綾隆が完全に封じていたね」

「うん…完全に木兎の超インナーの対策をしてきたな」

「対応はえーな」

 

 話を聞いていた夜久が突っ込む。そう、確かに烏野の対応力は音駒のようであった。

 

「烏の吸収能力……まさにバケモンだよね」

 

 

「烏野…好調だね~」

「ええ、はい…このままだと梟谷が厳しいですね。さっきのスパイクを叩き落とされるのは痛いでしょうし」

「だろうね~でも…」

 

 山口のサーブを完璧に取り繋いだ梟谷を見ながら言う。

 

「さっきの一本で折られるようなら、ここまで来ていないだろうね〜」

 

 再び木兎へ赤葦はトスを送る。

 

「それよか……こんな大舞台に来ても更に上が居るというのは、木兎くんにとってはご褒美なんじゃないかな~」

 

『ズッッパァァアン!!』

 

 ほんの少し、ストレートが甘くなった隙間を木兎は通した。

 

「へいへいへ~~い!!いくぜいくぜぇ~~!!」

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

「はっはっは!うん、こうでなくっちゃね~」

 

 

12-8

 

 

「「ふぅ~~……」」

 

 梟谷監督と雀田のほっとしたため息が被った。

 

「木兎調子良いですね」

「ああ、ほんとにね…赤葦もいつも通りで良かった。またスターとかなんとか言ってきたらどうしようかと思ってたよ」

「そ、それは私も知りませんよ」

 

『ピーーー!』

 

 赤葦のサーブはネットに当たり烏野コートに落ちた。

 

12-9

 

 今度は烏野が綺麗に繋ぎ、影山から月島の真ん中の強行突破。

 

「ワンタッチ!」

 

 赤葦がファーストタッチで、木葉がトスを木兎に送る。

 

『バッヂィィン!』

 

 ブロックを吹き飛ばし、強引に点を捥ぎ取った。

 

12-10

 

 だが『ズッッドォォォオン!!』烏野も取り返す。

 

 

15-14

 

小見 木兎 赤葦

木葉 猿杙 尾長

 

ーーーーーーーー

 

田中 影山 月島

西谷 澤村 綾隆

 

 

『さぁ……回って来てしまいました、清田綾隆のサーブです』

 

 来てしまいましたってどうなんだ?と綾隆は首を傾げるが、それを今考えるべきことではないため、雑念を振り払う。

 

『ピーーー!』

 

 軽く上げ軽く跳ぶ。そして強く打つ。

 

「うぐっ……!」

 

 木兎が急に目の前に来るボールを何とか繋ぐ。崩れた梟谷だが、猿杙がリバウンドを取る。

 そして、赤葦から尾長の速攻。

 

「ワンチ!」

 

 月島のブロック。からのファーストテンポのシンクロ攻撃。

 田中にセットされ、打ち下ろす。

 

「ワンタッチ!」

 

 梟谷も負けじと繋ぐ。ライトから木葉がスパイクを打つ。

 

「ワンチ!」

「ワンタッチ!」

「ナイスレシーブ!」

 

『長いラリー、セッターに返っている。後ろから木兎ーーッ!!……が、これを完璧に清田が上げて見せた!!』

 

 影山から田中へ、ストレートを完全に閉めているブロック。ならと、クロスを選択する田中。

 しかし、クロスは当然、リベロ小見が待ち構えている。

 

 田中は今、階段を駆け上がっているようなもの。

 その蹴上は影山のトスにより、自分に合った高さを選択してくれる。故に飛び越えていく。

 宮治が言っていたこと。「上手そうに食っとるやつ見ると、周りも腹減ってくんねん」「腹減っとるときに一口食うと、余計に腹減ってくる」

 今の田中は正にそれだろう。

 

『ズッパァァアン!!』

 

 木兎同様、超インナーが封じられているなら、更に深く…コート端に突き刺さった。

 

「しゃああああああ!おらあああああ!!」

「「「「「おおおおおおおお!!!」」」」」

 

 皆のテンションも上がった。

 

 

▽▽▽

 

 

16-14

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校が16点に乗りましたので、テクニカルタイムアウトです』

 

「ナイスキーー田中!」

「お前、すげえじゃねえか!」

「あざーっす!」

 

 ベンチで田中先輩が褒め殺しに合っている。

 

「田中ナイスキーだぜ、だがここで交替だ。一旦休め」

「はい!」

 

 嫌そうな素振りは見せず、素直に従う田中先輩。これだけ乗っていれば続けたいと思うのが当然だが、心の成長にも繋がっていたようだ。

 

「旭ぃ緊張してね~だろうな??」

「なんで緊張させようとするの!?」

 

 東峰さんを揶揄う菅さん。だが東峰さんは落ち着いているように見える。

 

「だが大丈夫だ。」

「「「おおっ…」」」

 

 その言葉に皆が感心する。

 

「多分…うん、たぶん」

「「「ええぇ」」」

 

 まあこれが東峰さんだろう。

 

 

『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

 

 鳴り響く応援。

 

「うっひょおおお!ブロック振り向か~~っす!」

「先に行くんじゃね~ぼげ~!」

「お~い、日向は後衛だろう…」

「おっ…!?」

 

 いつも通りの烏野がコートに出て行く。

 それは向こうも同じこと。

 

「へいへいへ~~い!!!負けね~ぜおめぇら!」

「落ち着いてください、木兎さん」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

『烏野高校メンバーチェンジです。2年田中龍之介に代わり、3年エース東峰旭を投入します』

『烏野高校、層が厚いですね…体力温存が目的でしょう』

 

『ピーーー!』

 

 オレは高く前にサーブトスを上げる。

『ボッ!』ボールの核を捉え、勢いよく梟谷コートへ侵略する。

 

『バッヂィィィン!』

 

 リベロ小見の腕を弾く。だが木葉が繋ぎ、尾長が返す。

 

「チャンボチャンボ!」

 

 西谷先輩が繋ぎ、影山から東峰さんへ。出て来た奴にいきなり打たせるのは影山の定石だな。

 

『バッヂィィン!』

 

 東峰さんのスパイクを崩されながらも梟谷は上げる。

 木葉が二段トスで木兎へ。

 木兎は影山の手に当てリバウンドを取る。

 

「もういっちょだぁあ!よこせぇいあかぁし!」

「木兎さん」

 

 再び木兎のバックアタックでブロックを吹き飛ばし点を捥ぎ取った。

 

16-15

 

 木兎の調子はムラがあると分析していたが、春高三日目辺りから安定して調子が良い。

 点を離されてもスパイクを止められても、熱量が増していく。

 

19-18

 

赤葦 小見 猿杙

木兎 鷲尾 木葉

 

ーーーーーーーー

 

影山 月島 綾隆

東峰 西谷 澤村

 

 

「ワンチ!」

 

 月島のブロックで威力を弱め、ファーストテンポのシンクロ攻撃。影山は月島を選択する。

 

「ナァイスレシーブ!」

 

 猿杙が繋ぐ。赤葦から木兎へ。セカンドテンポ。

 ストレートを完全に閉め、クロスへ誘導する。

 

「しゃああああ!」

 

 西谷先輩がAパスで上げた。影山からレフトのオレへ、セカンドテンポ。

 ブロック三枚が凄い勢いで詰めてくる。その3枚の壁がいなくなるまで空中で滞在し、打ち下ろす。

 

『ズッッドォォォォオン!』

 

『ナァイスキーーーあやたか!!』『『『いぞいぞ綾隆!!おせおせ綾隆!!』』』

 

 

20-18

 

 

 主将のサーブは白苔に当たり、前に落ちる。

 

「前ー!」

 

 鷲尾が上げ、木の葉が代わりにセットする。鷲尾と木の葉のスパイクの可能性は排除して良い。そして、木葉の立ち位置から猿杙のバックアタックも消える。

 なら、ライトからの攻撃に絞れる。

 

 ライトから木兎が入ってくる。

 

「せぇ~のっ」

 

 月島の掛け声に合わせてブロックを跳ぶ。ストレートを覆い被さる様に閉める。

 

『ダァン!』

 

 梟谷側で叩き落としたが、惜しくもアウト。

 

「うぉ~あっぶねぇ~」

 

「ドンマイドンマイ!」

「今のは仕方ないよぉ!」

 

20-19

 

 先のは仕方ないと割り切るところ。そして確実に打つコースを無くしていた。烏野のブロックも完成に近付いている証拠だろう。

 梟谷は今、木兎に頼り切っている。これから、もっと木兎以外を封じ込めば、鼓舞する味方が居なくなる。孤独なエース…常にチームを鼓舞して準々決勝からチームを引っ張って来た木兎の価値は無くなる。

 ……

 …

 ふぅ…いかんな…。

 この試合は勝ちさえすれば良いと考えているが、このまま木兎を封じ込めば、どう変化していくのか見てみたいと思ってしまう。

 木兎なら…と期待する気持ちはあるが、それで計画に支障が出ないとは言い切れない。人を終わらせることが目的では無いからな。希望的観測でそのような行為をするのは愚かだろう。

 

「なんか怖いオーラが出ちゃってるよ」

「…そうか、悪いな」

「やりたきゃやれば良いんじゃないの?」

「何をだ?」

「君の悪辣な策をだよ。やりたいんでしょ。実験を」

「お前の笑顔は気味が悪いな…」

「君ほどではないけどね」

「今回はそれは良い」

「はあ??」

 

 何故か不満げな目で睨まれる。

 

「なんだよ?」

「いや、やればいいじゃん」

「それで終わらしたくないしな」

 

 オレは木兎を見て応える。木兎にはまだやってもらう事があるからな。

 

『こちらも強烈なサーブ、木兎光太郎!』

 

『ピーーー!』

 

 木兎の元気玉が勢いよく烏野コートに飛んで来る。

 東峰さんが触るも、後方へ弾き跳んで行った。

 

「うおっしゃああああ!!」

「ナイスです!木兎さん」

「木兎絶好調~~!!」

「ナイッサー木兎!」

 

 木兎に群がっていく梟谷。

 

「くっそ、すまん!」

「ドンマイ、今のは仕方ねーわ!」

「旭さん、ドンマイです!今のはこう!」

「はい、すいません!」

 

 

20-20

 

 

『ピーーー!』

 

『ここで烏野高校、タイムアウトです』

 

『今のは仕方ないですが、追いつかれましたからね。一度リズムを整えたいでしょう』

 

「はぁ~い、落ち着いて~」

「「「はい」」」

 

 水を貰い、ベンチに座る。タイムアウトは木兎の集中を途切れさすことと、皆を落ち着かせることが目的だったようだ。

 

「自分のやりたいことぐらい、やれば良いんだよ」

「ん?」

 

 横に座っていた月島が口を開く。

 

「何をどこまで考えてるのか知らないけど、手を抜いて勝とうとすんなよ」

「別に手は抜いてないが」

「それでも、もっと確実に勝てる策があるんだろ?」

 

 それは確かにそうだ。策はある。だがそれは相手を終わらせてしまうかも知れないものだ。やってみたいと思いつつも、今、するべきではないと考えていた。

 

「なら、やればいいじゃん。

 相手を終わらせたくないだとか、一先ずどうでも良いでしょ。

 目の前の相手をぶっ潰して勝利を勝ち取るのが、この決勝戦のコンセプト。

 相手の力量を勝手に判断して、出せる力を出さず、試合に挑もうとするとか……まったく……ふざけんなよ」

 

 月島らしく、怒鳴りはしなかったが、静かに怒っているのだと分かった。

 オレだけが全力を出せていない。それはチームとして成り立っていないと言うこと。

 

「そうか……」

「おう?おうおう~どうした?珍しく月島に説教でもされてんのか?」

「お前が言ったんだろ?好き勝手やるようになったのは烏野のせいだって。最後まで俺達のせいにすりゃいいじゃん」

 

 菅さんにもそう言われる。

 そんな風に言った覚えは無いが。それに、これも後の計画に響くかも知れないから、やらなかっただけだ。

 

「そうですね…だったら、策を出します。全力で潰しに行きましょうか」

 

 この先もオレの計画は進んでいく。

 

 それでも、このチームで試合が出来るのはこれが最後だ。

 

「梟谷の弱点は、勿論木兎さんです」

「ん?でも、前に木兎で成り立っているチームではないと言っていなかったか?」

「はい、木兎さんが引っ張っているわけでは無く、チーム全員で木兎さんを引っぱっている。ですが、今は木兎さんが絶好調、チームも乗りに乗っている。見ていたら分かりますが、チームを鼓舞するのが木兎さんです。ならこれからはそのチームを止めに行きましょう。木兎さんからチームを引きはがします」

「多少、木兎に点を取られても他の奴らを確実に止めに行くってか」

「はい、それが確実に木兎さんの勢いを止めます。付いて来てくれないチームは木兎さんにとって必要のない物ですから」

 

 木兎の勢いが凄まじく、それがどの程度なのかまだ計り知れない。だが、根本から解決してしまえば、分析する必要はない。

 

「対木兎シフト。サードテンポ以外は二枚でも構いません。他の選手を確実に止めましょう」」

「さすがは悪役だな」

「今更だろ」

「おっし!行くか!」

「「「「「おおっす!!」」」」

 

『ピーーー!』

 

 木兎の元気玉を東峰さんが上げる。少し崩れたものの影山にとっては関係ない。

 真ん中からの速攻で月島にトスが上がる。

 ブロックは一枚。月島はフェイントでブロックを躱す。そして木兎の前を狙った。

 

「こんにゃろ!」

「カバー!」

 

 木兎のスパイクを消し、スパイクをレフトへ絞らせた。

 鷲尾が二段トスで木葉へ。

 木葉の特徴は何でもそつなく熟す。言わば器用貧乏だろう。梟谷の中でも注意する相手だが、真っ向勝負には弱い。

 

「ワンタッチ」

 

 三枚揃えて跳び、オレのブロックで威力を弱める。そして烏野のファーストテンポのシンクロ攻撃。

 このようなラリーが二回ほど続く。

 

『ダァン!』

 

 梟谷コートで響く。

 

『ここでドシャット!!月島蛍!!』

 

21-20

 

『さあ、ここで回ってきました。清田綾隆のサーブです』

 

『ピーーー!』

 

 木兎目掛けて、ジャンフロを打つ。梟谷は木兎を狙い始めたと勘違いするだろう。それで良い。

 前のめりに木兎は上げる。ワンテンポ遅れた木兎の速攻は無い。

 猿杙のレフトからのセカンドテンポ。

 前衛三枚を揃えてブロックを跳ぶ。木兎を考えなくて良いだけで、ブロックの選択が楽になる。

 猿杙はフェイントで前に落とす。それをオレが確実に上げ烏野のチャンスボール。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃で東峰さんが決めた。

 

22-20

 

『ピーーー!』

 

 再び木兎への揺さぶりで回転のかかったジャンプサーブを打つ。

 またも速攻には入れず、鷲尾の速攻。ブロックは二枚だったが、こちらはレシーブが強いローテ。主将が綺麗に上げる。

 月島の速攻で点を取る。

 

 

23-20

 

 今回も木兎を狙ったが確実に取られる。そして木兎のバックアタックで取り返された。

 

 『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

23-21

 

 鷲尾のジャンフロを西谷先輩が綺麗に上げる。もうジャンフロは克服したと見て良いだろう。

 またも月島による真ん中からの速攻。だが、これを小見が上げる。木兎も混じったシンクロ攻撃だが、セットされたのは真ん中からの尾長。

 烏野は三枚で跳び付く。

 

『ダァン!』

 

 これは殆どまぐれだろう。烏野に鴎台のようなブロックの技術はない。リードブロックを続けて来たのは月島くらいのもの。だが、木兎の可能性を排除し、他のスパイカーに的を絞った結果真ん中の速攻に素早く対応することが出来た。木兎のスパイクには最低一人が付けば良いと伝えてあったのが、功を奏した。

 

『ここでドシャットォォォオオ!!!早い攻撃に三枚のブロックが付いてきました!!そして烏野高校セットポイントォオ!』

 

24-21

 

 月島のサーブは綺麗に上げられ、木兎により点を捥ぎ取られる。

 

24-22

 

 木葉のサーブで東峰さんが上げるも、少し崩れた。だが、影山には問題のないこと。アタックラインから日向の超速攻。真ん中を守っていた木兎がダイビングでレシーブする。

 

「「「「「おおおお~」」」」」

 

 と観客はどよめく。赤葦のツー…オレは前へ出て拾い上げる。影山から東峰さんへ。

 三枚のブロックが東峰さんをマークする。タイミングをずらし、ブロックに当て吹き飛ばす。だがこれを小見が後方へ下がりながら上げる。木兎が繋ぎ赤葦が返す。

 烏野のチャンスボール。

 

『ドォッ!!』

 

 三枚のブロックがオレをマークするが関係ない。

 リベロ小見を狙い正面の真っ向勝負。

 

『バヂィィン!』

 

 捉えきれずボールを後方へ飛ばす。

 

『ナァイスキーーーあやたか!!』『『『いぞいぞ綾隆!!おせおせ綾隆!!』』』

 

「「「「「「しゃあああああ!!!」」」」」」

 

25-22

 

『第一セットを先取したのは烏野高校!!やはり烏野高校の勢いは止められないか!』

 

 

▽▽▽

 

 

「なんか…木兎を止めるんじゃくて俺達が狙われているか?」

 

 猿杙がベンチに座り言った。最後あたり烏野のサーブは木兎を狙い始めた。私達は木兎を止めに来たか…と考えたけど、どうやらそうではないらしい。

 

「そうかもな。スパイク打つ時、木兎の可能性を排除していたと思う。メガネはそうでもなかったけど」

 

 木葉もそれを認める。ウチの分析を済んでいるであろう綾隆くんなら、木兎を止めるのではなく他の皆を止めるように指示を出すのも理解できる。

 でもそれは以前までのウチであり、今の木兎は一人でも点を取るエースになっている。

 さっきは急な変化に対処しきれなかったけど、二セット目もその策で来るのは間違っているんじゃないかな…。

 ウチを舐めて貰っては困るね…。

 

「まだ試合は始まったばっかだぜぇ~い!へいへいへ~い!」

「あたぼーよ」

 

 コーチ…。

 

「コホン。一セットを取られたが次のセットを取り返せば問題ない。連続で点を取られても次の得点を考える。焦る必要は無いよ」

「「「「はい!!」」」

 

 

▽▽▽

 

 

「変わったね。烏野」

「ああ。勢いだけじゃなくなった」

「木兎を完全に止められないなら、他を…か」

 

 おれがそう口にすると、もりすけ君とクロが続く。

 

「でも、それで良いのかね~木兎を調子に乗せれば、味方も付いてくる」

「そいつらを完全に止めるのは難しいだろうな」

「うん。でも烏野はおれ達と戦って、鴎台と一林とも戦っている。どの高校もレシーブやブロックが優れていたよ」

「……烏野の吸収力か…」

「ほんっと、決勝の舞台でもやることは変わんねえのな」

「烏野の対応力 対 梟谷の流れか。戦い方は変わったけど、戦い方は変わんねえな」

「やっくん…日本語大丈夫…?」

 

 珍しくクロが正常な反応をしている。でももりすけ君の意見も分からなくはない。結局は真っ向勝負。どちらの力が上回るか。

 烏野にまた新しい戦い方が備わろうとしている。

 

「ふふっ翔陽だけじゃない。烏野はいつだって新しい」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

「相手もそろそろ気付いてんじゃねーかな…」

「そうでしょうね」

 

 澤村の問いに綾隆がすぐに返す。

 

「ですがこのまま行きます」

 

 綾隆はそれでもこの策を続行するらしい。

 

「ほう…この策は、また悪辣な策なのか」

「いつものやつだべ」

 

 みんなの意見を全無視して綾隆は話し出す。

 

「先ほどは向こうが対応に慣れなかったので、とんとん拍子で得点を重ねられました」

「だな。急にリズムが代わって、それが上手くこちらに作用してくれたもんな」

「はい。オレもそう思います。一セット目はどちらに転ぶかはオレも分かりませんでした」

「なら、次はやべーんじゃねえの?慣れて来るだろ」

 

 日向が会話に入っていく。日向もバレーをしている時は頭を使うようになった。

 

「ああ。そうだな。

 なので序盤はリードされるでしょう。ですが、それで良いのです。

 得点は基本的に木兎さんの得点。他の選手の得点は極力なくします。今、ノリに乗っている木兎さんは多少、仲間が崩れようと気にしないでしょうね。自分は更に前へと進もうとする。となれば、そこには木兎さんとチームをの間に低く見えない壁ができます」

「なるほど…」

「中盤。その壁が明確になった時が突き放すときです」

「これが綺麗に嵌るからこえーんだよ」

「だな」

「よく分かんねえけど、そん時になったら言ってくれ!」

「「さっすがあやぽん、こえーやつだぜ」」

 

 やっぱり怖い人だ…みんなはそう言いながらも笑っている。全く…怖いチームなんだろうね…。

 

 

▽▽▽

 

 

 

『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

 

 応援団の声援が更に大きくなっている気がする。それだけ、自分の高校が勝って欲しいのだろうな。

 

『烏野高校、大きくポジションを変更してきました』

 

猿杙 木葉 小見

尾長 赤葦 木兎

 

ーーーーーーーー

 

月島 田中 影山

澤村 東峰 西谷(綾隆)

 

 

『日向翔陽が下がり清田綾隆をMBとして投入。そして田中龍之介を再び戻しました』

 

 オレは後衛スタート。

 

『ピーーー!』

 

 猿杙のサーブから始まる。

 東峰さんが上げるが、セッターには返っていない。だが影山なので問題ない。影山から田中先輩へ。

 三枚のブロックをフェイントで躱し、木兎の前へ落とす。だが木兎も分かっていたのか、素早く移動し上げる。

 赤葦は尾長の速攻を選択。月島と田中先輩、影山が三枚で跳び付き、阻む。

 

「ふふっ」

 

 菅さんが吹きだす。

 

「いや、悪い…なんかすごい我武者羅に跳びついていたから。愚直にお前の策を熟してるんだなって」

「そうですね。今は慣れですからね。月島は慣れてるでしょうけど、影山も田中先輩も無理やり速攻に跳び付く練習なんてしてないでしょうし」

「だな…」

「おれも早くでてーな!」

 

 日向は速く出たくてうずうずしている。

 梟谷のチャンスボールで木兎に上がる。月島と影山が二枚で跳ぶが、甘く空いたストレートに木兎が打ち抜く。

 

『ズッッパァァアアアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

0-1

 

 

▽▽▽

 

 

「このまま行けよぉ~言ってくれよぉ~」

 

 スーパーのお兄さんは神様に祈る様に呟いた。

 だけど…。

 

『ズッッパァァアアアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

 

「くぅ~止まんねぇな…あいつ」

「さすがは全国5本指だな」

 

 さすがは木兎さん。いつもより恐ろしいスパイクを打っている。絶対、腕もげちゃう。

 

「ワンタッチ」

 

 烏野も喰らい付いてるけど、今は梟谷の方が押している。

 

『ズッッパァァアアアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

 また木兎さん…これで4本目…。

 かなり点数を離されてしまったけど、不思議と焦りは無い。

 この不気味さを私は知っている。この静けさを何度か経験したことがある。

 

『ズッッパァァアアアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

 

「あーーーーやべーじゃん…」「これこのまま負けるんじゃねーの?」「頑張って…綾隆くん…」「誰だよ…全国トップクラスのスパイカーがいるって言ったやつ」「これ、直ぐに私達帰ることになるんじゃない?」「折角授業サボれたのにね~」

 

 烏野応援席からは辛辣な言葉が飛び交っている。ちょっっっとだけムカッとしたけど、落ち着け落ち着け。でもこの流れすらも計算なのかも知れない。

 

『ズッッパァァアアアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『梟谷!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

 

 

 梟谷の応援の熱量がどんどん上がっていく。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

2-7

 

『怒涛の勢いで梟谷が押している!一セット目とは真逆の攻防!』

 

『ふ~くろうだに!!』『バンバンバン!!』『ふ~くろうだに!!』『バンバンバン!!』『ふ~くろうだに!!』『バンバンバン!!』

 

 梟谷空気になり、烏野の声が小さくなっているのは気のせいではないだろう。

 

 良い空気だ。

 

 観客・応援団は梟谷が有利だと感じ、選手は烏野の不気味さを感じている。

 

「ワンチ!」

 

 遂に2枚のブロックで木兎のスパイクを上げることが出来た。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。主将がスパイクを打つ。

 だが、相手も上げて繋ぐ。赤葦からレフト木葉へ。

 

『ダァン!』

 

 烏野の三枚のブロックが綺麗に嵌った。

 会場で烏野の武器を多彩な攻撃だと思っている人達はどの程度いるだろうか。勿論、それも合っているが、一番の武器は吸収力。それを知っているのは夏の合宿の時に居た高校や実際に試合をしたことのある高校ぐらいだろう。つまり梟谷は烏野の武器を知っている。当然、今回も新しいことをやってくるのだと警戒していただろう。だが、守備は別。一朝一夕で上手くなるものではない。

 音駒や鴎台と戦ったとはいえ、そんな一週間で守備が上達するはずがない。そう考えていたはずだ。その考え方自体は間違っていない。どこかで烏野の進化を見落としていただけ。

 烏野を警戒している高校も、さすがに和久南戦まで研究してないだろう。

 

 まあ、対応力を身につけたとは言え、この一点でこちらの流れとは行かない。だが、少しずつ壁を高くしていく。

 

3-7

 

 前衛になりコートに出て行く。

 

『ピーーー!』

 

 月島のサーブ。フローターサーブからの速攻は定石。烏野は速攻に備える。

 だが、赤葦はそれを読んだのかツーを選択する。

 

『タンッ』

 

 梟谷コートでボールは弾む。

 それをオレが読んでいないわけがない。

 

「「「「ナイッス綾隆!」」」」

「お前、よく読んでたな!」

「注意していただけですよ」

 

4-7

 

 しかし、梟谷も決してやすやすと止まらない。

 

『ズッッパァァアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

「へいへい~い!いくぜいくぜ!!」

 

 そう上ばかり向いてくれてるとこちらも助かる。

 人は時に振り返り、下を見ることも重要である。止まらない列車ほど怖いものはない。

 

4-8

 

 木兎の勢いを止められなくても、他の選手の勢いは止まりつつある。

 まだ木兎に乗せられ、離されないように気を奮い立たせているのだろう。木兎が決めれば「「「「っしゃああああ!」」」」とハイタッチをしに行っている。

 だが、一セット目ほどの笑顔は見られない。

 

 そして、何度目かのラリーを経て…。

 

『ダァン!』

 

 鷲尾の速攻をドシャット。

 

 木兎以外の攻撃も全てを防ぐことは不可能。だが、叩き落とせる回数も多くなった。

 

 なによりも、ブロックはオレと月島である。

 

 絶対にただでは通さない、と言う圧。

 

 そのブロックは敵に精神的ダメージを与える。

 

 梟谷は木兎が居なくとも十分強豪だろう。だが、注意するような人間はいない。牛若や宮兄弟、光来と真正面から戦ってきた月島にとっては然程脅威ではない。

 

 木兎も月島やオレのブロックを鬱陶しいと思うだろう。だが、それを打ち砕くだけの力がある。対して、木兎以外の選手にはそれだけの力はない。

 

 この決勝という場面でエースに頼り切りになるのは自分のこれまで積み重ねて来たプライドが許さない。

 

 ジワジワと追いついてくる烏野。得点を重ねるごとにエースとの壁が着実に出来上がっていく。

 

 追いつかれて溜まるか、エースに置いてけぼりを食らうか…そう考えているのだろう。だがその思考こそが傷口を広げる行為であり、そう考えれば考えるほど、その気持ちは強くなっていく。

 

 そして、離されて溜まるかという気持ちから…絶対に喰らい付くという気持ちに変わる。それこそが木兎との壁である。

 

 木兎に喰らい付いて行くという考えは無いからな。

 

 やらなければならない気持ちが木兎と自分の壁を高く近付けないようにしていく。

 

 それに…今、この会場は木兎に味方をしている。

 

 その流れに木兎が乗らないわけがない。

 

『ズッッパァァアン!』

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

「おっしゃああああ!!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

『止まらない木兎光太郎!』

 

4-9

 

 木兎の好調でチームは引っ張られ、自分にも寄越せとスパイカー達は跳ぶ。

 それをやすやすと許すわけにはいかない。

 

『ダァン!』

 

『ドシャットォォオ!一年生清田綾隆のブロック!』

 

5-9 

 

 ほんの僅かで良い。本人でさえ気付かなくたって構わない。自尊心をプライドに傷を。

 

 主将のサーブはフローターサーブ。相手からすれば、何も焦る必要は無い。

 だが尾長の動き出しが半歩遅い。大して変わらないレシーブだが、その半歩の遅さが次の動き出しを遅らせ、速攻のタイミングを遅らせる。

 

「ワンタッチ」

 

 ワンタッチで確実に威力を弱める。主将が上げ、オレへのファーストテンポ。

 

『ズッパァァァアン!』

 

「「「「ナイスキー!」」」」

 

6-9

 

 木兎に決められるのはまだ仕方ない。だが確実にその本数は減って来ている。そして他の選手は殆ど得点がない。

 じわじわと追いつく烏野に少しの焦りを感じているだろう。

 

9-10

 

「木葉!」「ほいッ!」

 

 木葉にセットされ、猿杙が打ち下ろす。

 

『バァン!』

 

「ナイス西谷!」

「ナイスレシーブ!」

 

『スッパァァアン!!』

 

 月島が速攻で決める。

 

「ナイスキー!」「ナイス月島!」

 

12-13

 

「レフトォォオ!」

「木兎さん!」

 

「開けます」

 

 三枚のブロックで跳ぶ。木兎はストレート勝負で吹き飛ばした。だが影山が拾い、西谷先輩から東峰さんのバックアタック。

 

『バッヂィン!』

 

 猿杙の腕に当たり後方へ飛んでいく。

 

「おっしゃあああああ!」

「これで…同点!」

 

『烏野!』『『『バンバンバン!』』』『烏野!』『『『バンバンバン!』』』『烏野!』『『『バンバンバン!』』』

 

 同点に追いついたところで烏野の応援も再び勢いが増した。

 

 

 

▽▽▽

 

 

13-13

 

 

 

 綾隆による無慈悲な策略で木兎さん以外の梟谷の士気は下がっている。

 頼り切りになるエースへのトスは予想しやすい。

 

 好調なときの木兎さんほど厄介な存在はない。でもそれは打ちやすいトスを上げる赤葦さんがいてこそ。

 どんなスパイカーだってトスが低ければ捕まる。それは綾隆だって同じこと。

 

 神頼みのエースへのトス。

 

 だけど、ドシャットは狙わない。

 

 同じように木兎さんなら抜ける穴を開ける。

 

 抜けた先にはスーパーリベロ。

 

 こちらの流れにするには、ドシャットよりも天然おだてられ上手の一点。

 

 綺麗に上がり、影山の頭上へ。そのボールをサードテンポでレフト田中さん。相変わらず、バレーのことでは頭の回転が早い。

 

 三枚のブロックを掻い潜り、木兎さんが先ほど見せた超インナークロス。

 

『ズッパァァァアン!!』

 

「しゃあああああおらああああああ!」

「ナイスキー田中!」

「「「ナイスキー!!」」」

「月島もナイスブロック!」

 

『ナァイスキーーーーりゅうのすけ!!』『『『いぞいぞりゅうのすけ!!』』』『『『おせおせりゅうのすけ!!』』』

 

『ここで烏野高校が梟谷を追い抜いたぁ!』

 

 ここからは烏野の番。

 これでこのセットの僕の出番は終わったけど、最後にいい仕事ができただろう。

 あとは日向が点を稼げば良い。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「木兎さん、すいません。トス低かったです。落ち着きます」

 

 自分のミスに気付き、深呼吸をして謝罪する。

 

「それで落ち着けんのがすげーよ」

「さっすが赤葦だぜ。がははは」

 

 梟谷も赤葦の冷静さを見て、皆一度深呼吸をする。

 

 

▽▽▽

 

 

14-13

 

小見 猿杙 木葉

赤葦 木兎 鷲尾

 

ーーーーーーーー

 

東峰 澤村 日向

西谷 影山 田中

 

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校、ここでメンバーチェンジです。月島蛍を下げ、日向翔陽を投入します』

 

『全員が攻撃意識の高い烏野高校にとって交替できるというのは、最も強い攻撃なのかも知れませんね』

 

「レフトォォォ!」

 

 もう元通りになっている赤葦のセットは木兎が打ちやすいトス。

 

『ズッパァァァアン!!』

 

「へいへいへ~い!!」

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

 チームが崩れようと木兎自身が止められようと、上を向いて前を進み続ける木兎だからこその弱点。

 この壁をより高く…戻れないようにしていく。

 

14-14

 

「持ってこぉい!」

 

 日向によるマイナステンポ+ドンジャンプ。

 ブロックの指に当て後方へ飛ばす。

 

「おっしゃああああ!」

「うしっ!」

 

15-14

 

 赤葦から鷲尾の速攻。

 

「ワンタッチ」

 

 バックアタックで入ってくる日向。マイナステンポで釣りに行く。

 影山から東峰さんへ。ブロック1枚。

 

『ズッパァァァアン!』

 

 序盤の梟谷なら、日向にあそこまで付いて行かなかっただろうな。

 徐々に視野が狭くなっているのが感じ取れた。

 

16-14

 

「よこせぇい!」

 

 木兎のバックアタック。叩き落とせないなら…皿。

 

「ワンタッチ」

「なぬっ!?」

 

 オレはサイドに走り出し、マイナステンポで跳ぶ。オレの空いた真ん中へ日向がマイナステンポで入ってくる。

 オレと日向を囮にした。田中先輩のバックアタック。

 

『ズッパァァァアン!!』

 

「しゃあああおらあああ!」

 

17-14

 

「ほぎゃ…!?す、すいません!」

「ぼげぇー!日向ぼけー!」

 

17-15

 

 鷲尾のサーブはジャンフロ。

 これをきっちり西谷先輩が上げる。

 

 オレの速攻でブロックは2枚が跳ぶ。躱し前に落とす。地面に張り付いた足は動かず、『タンッ』と落ちる。

 

『ピーーー!』

 

『烏野高校、ここで一回目のタイムアウトです』

 

「木兎さんを止めましょう。勿論、他のスパイカーも止めに行きますが、木兎さんのブロックの枚数を3枚に戻します」

「「「「了解!」」」」

 

18-15

19-15

19-16

20-16

20-17

 

猿杙 木葉 小見

尾長 赤葦 木兎

 

ーーーーーーーー

 

日向 田中 影山

澤村 東峰 西谷

 

 猿杙の強烈なサーブで、そのまま返っていく。

 赤葦からセカンドテンポでレフト木兎へ。

 

 烏野は3枚揃えて跳ぶ。ストレートは抜かせない。真ん中もクロスも。抜けるのは超インナーだけ。

 突然の三枚ブロックに驚いただろう。セカンドテンポの時は常に二枚だった。

 

 超インナーへスパイクを打つ木兎。だがそこに待ち構えているのは、西谷先輩。

 

「だっしゃああああ!」

 

 完璧に上げた。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃。東峰さんが打ち決めた。

 

21-17

 

 影山のサーブ。

 

『ズッッパァァァアン!』

 

『決まったーーー烏野高校ビッグサーバー影山飛雄!』

 

22-17

 

 次のサーブで影山は前へ落とす。ギリギリで拾い繋ぎ、サードテンポで木兎へ。リバウンドで一度立て直す。

 鷲尾の速攻を二枚揃えて跳ぶ。前に落とされたボールを西谷先輩が上げる。動き出しが早くいつもより好調だと判断できる。

 日向のマイナステンポが決まった。

 

23-17

 

 影山のサーブで崩れた梟谷。頼りのエース。当然三枚のブロックで阻む。

 

『ダァン!』

 

 身長の低いローテ。烏野の壁が最も弱いローテにて叩き落とされるのは、自信を無くすだろう。

 

24-17

 

 再び影山のサーブで相手を崩す。ファーストテンポのシンクロ攻撃で入ってくるが、らしくないな赤葦。木兎へトスが上がると読める。

 

『ダァン!』

 

 再びドシャット。

 

25-17

 

 木兎は「うう゛~」と呻き後ろを見る。俯き元気のないチームメイト。最後も打つ気力があまり感じなかった。

 

「お~い!まだ試合は終わってね~ぞ!今から3セット取れば問題な~し!」

「あ、ああ!そうだな」

「次は俺が取るぜ!」

「任せろよ赤葦!」

「はい」

 

 そう励まし合う声が聞こえるが、強がりにしか聞こえない。

 深くなった見えないエースとの高い高い壁。声は聞こえる、手は届く。

 だがもう遅い。

 前だけを向いて進むのは良い。背中でチームを鼓舞するのだって良い。だが背中に目が付いているわけじゃない。時に後ろを向いてチームを見ることも重要だ。

 

 その壁を乗り越えることが出来る人材は梟谷の選手にはいない。

 

 

 

『二セット目も烏野高校。序盤は梟谷が優勢かと思えたんですがね…』

 

『烏野高校の勢いは劣れませんね…』

 

 

▽▽▽

 

 

 

「…面白くない展開みたいだね」

「まあね!」

 

 クロはいつも通りキレていた。

 

「チームを鼓舞する木兎からチームを取っ払う作戦か…梟谷にはかなり厳しい展開になったな」

「ほんと異常だよね~烏野の吸収力」

「木兎さんを外してたけど、鴎台みたいに3枚で跳んでいたもんね」

「このまま、負けんじゃねえぞ…木兎」

 

 クロは梟谷を応援しているようだ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「うおおおおお、あと一セット!このまま行ったれ~!!」

 

 田中先輩のお姉さんが叫んでいる。相変わらずの元気さに私も力が湧き出てくる。

 

「それにしても、なんつー策だよ。全国5本指をほったらかしにして全力で他の梟谷を抑えるとはな」

「ああ。あんな大砲をほったらかしにするのは怖くてできねえよ」

 

 不気味な策は木兎さんを止めることでは無く、木兎さんからチームメイトを奪うことだったらしい。勿論、木兎さんを完全に放ったらかしにはしていなかったけど…。

 

「全ては繋がってるね~試合の全容が見えてるなら出来るのかも知れねえが、嵌るかどうか分からねえ策を実行する烏野はやっぱいかれてるな」

「だな」

 

 常に新しいことをしてきた烏野には守ると言う選択肢はない。

 それは私もだ。何も知らないままバレーの世界に飛び込み、攻め続ける烏野を見て学んだこと。

 その集大成の試合を今、見せて貰っている。

 

 本当に、この部活に入って良かった。

 

 

▽▽▽

 

 

 

『さあ春の高校バレー決勝戦。この三セット目で烏野高校が勝利を掴むのか、それとも梟谷学園が取り返すのか…運命の第三セットは烏野高校一年生影山飛雄のサーブで始まります!』

 

『ピーーー!』

 

 

猿杙 木葉 小見    

尾長 赤葦 木兎

 

ーーーーーーーー

 

澤村 月島 綾隆

東峰 西谷 影山

 

 

「「「「サッコォォオオオイ!」」」」

「「「「影山、ナイッサーー!」」」」

 

 最後のセットになるだろう。だが、やることは変わらない。

 影山は全力でサーブを打った。

 

「くっそ…」

 

 小見が崩れながらも上げ、木葉から「レフトォォオオ!」木兎と見せかけての鷲尾へ。だがその攻撃はもう見慣れている。

 

「ワンタッチ」

 

 叩き落とせるか確実性がないなら、ソフトブロック。

 影山から日向の速攻で決めた。

 

「ソォォイ!」

「ナイスキーー日向!」

 

『ナァイスキーーーー日向!!』『『『いぞいぞ日向!!』』』『『『おせおせ日向!!』』』

 

 今のは木兎に頼って良いと思ったが、エースに頼らず鷲尾を選択か。それは考えての行動なのか、プライドで上げてしまったのか。

 

 

▽▽▽

 

 

 嘘つき…ほんっと嘘つき。

 策で挑まないと言っていたくせに…。バリバリウチを壊しに来てるじゃん…。

 

『ダァン!』

 

「ナイス月島!」

「うおおおおお!!」

 

6-3

 

 みんなの調子が悪い…いつから…今は目に見えて分かるけど、最初は全く気付かなかった。

 木兎はまだキープしていると思うけど、徐々に捕まる回数が多くなってきた。赤葦の選択肢が狭くなってきている。

 

『ズッッドォォォオン!』

 

『ナァイスキーーーー綾隆!!』『『『いぞいぞ綾隆!!』』』『『『おせおせ綾隆!!』』』

 

 二セット目は殆ど無かった圧倒する高さとパワー…。ここに来てのこの威力には…怯んでしまう。

 

10-5

 

 みんなの顔が暗い。なんとかして上げないと…。

 

『スッパァアン!』

 

『真ん中から超速攻!一年生コンビ影山飛雄、日向翔陽!』

 

「ソォオオイ!」

「日向ナイスキー!」

 

11-5

 

『パサッタンタン』

 

「あっわ、悪い」

 

 ウチのミスも増えて来た…いや、ミスは良い。それはよくあることだから。でも元気が足りない。

 

12-6

 

『烏野』『バンバンバン!』『烏野』『バンバンバン!』『烏野』『バンバンバン!』

 

 烏野の応援団の熱量が上がり、会場内の空気が完全に烏野となっている…。

 私は歯を食いしばりながら、烏野を見る。偶然…いや、違う。綾隆くんもこちらを見て目が合った。

 恐らく「何とかしてみろ」と訴えているのだろう。

 ほんと生意気…上から物を言って…。

 

『ピーーー!』

 

『梟谷学園、一回目のタイムアウトです』

 

 先生が流れを変えるため、タイムアウトを取った。

 目に見えて元気のないウチは…ウチらしくない…。赤葦のいつもの冷静な物言いもない。

 

「相手は格上だ。合宿のときの烏野だとは思わない方が良い」

 

 先生が口を開く。

 

「点は決まらず、決まってもエースだけ。逆に向こうには訳の分からない攻撃で点を取られ続ける。一点を大切にしたいところだが、それが難しく、投げやりになっているのが現状だ。それは何故か……楽しくないからじゃないか?」

 

 はっとみんなが先生を見る。いつもやってたこと。知らず知らずのうちに飲み込まれてしまっていた。

 

「あっ!楽しいを考える!」

 

 木兎が声を大にして言う。

 

「そうだ。楽しくないことは投げやりになる。まあだからと言ってすぐに楽しくは成れねえだろうけど、視野を広くすりゃいいんじゃねーの?」

「よっしぁあ!そんじゃ先生……んぅう~」

 

「「うぇ~~い!!」」

 

 胸でハイタッチをする木兎と先生。

 

「先生はもう歳ですよ」

 

 赤葦のいつも通りの物言いに先生がシュンと縮こまる。あとは皆のモチベを上げるのみ。

 

『バシッ!』

 

「いだぁあ!?なに??」

 

 俯き元気の無かった木葉が突然の痛みに叫ぶ。

 

「気合を入れただけよ。器用貧乏のあなたがカッコよくプレーできるわけないでしょ」

「「「「ひ…ひでぇ…」」」」

 

 本当はこういうのは雪絵の役目なんだけどな…。

 

「おっしゃあ!こいすずめ~!」

 

 木兎が背中を見してくる。

 

「だ、を忘れんな!」

 

『バシッ!』そして皆にもしていくことに。「俺は落ち着いてます」という赤葦にも蹴りを入れる。

 

「俺は蹴りですか……」

「よっし!行ってきなさい!」

「「「「おおおっし!!」」」」

 

 これで元通りなんて行かないだろうけど、私に出来ることはやった。

 あとはベンチで見守ろう。

 

 

▽▽▽

 

 

 雀田さんに蹴りを入れられコートに出て行く。

 自分にできることだけをやってきたつもりだったが、誘導されてしまっていたのか。

 木兎さんに打たせるがあまり、みんなの気持ちをまるで考えてなかった。

 

 コートに入り、周りを見渡すと観客席から掲げられている応援弾幕に一球入魂の文字が目に入る。

 だけど、すぐに違うところに目が行く。

 その応援弾幕の下。どこかの会社の広告だろう。

 

「今を生きる楽しさ」

 

 と言う文字が視野に入る。

 

 今、この試合を放棄するなんて……なんて勿体ない。

 

 視野が更に広くなった。落ち着いて行動できる。崩れたチーム。でも。まだ試合は終わっていない。

 

 

 

▽▽▽

 

 

小見 木兎 赤葦

木葉 猿杙 尾長

 

ーーーーーーーー

 

綾隆 影山 日向

西谷 澤村 東峰

 

 

 東峰さんのレシーブを真正面に移動し、確実に上げる。

 

「あかぁあし!」

「木兎さん!」

 

 木兎へのバックアタック。

 

「ワンタッチ」

 

 梟谷の顔つきが変わったが、それをアシストしてあげる優しい気持ちは持ち合わせていない。

 確実に威力を抑える。

 影山から日向へ。マイナステンポ+ドンジャンプ。

 

『バァン!』

 

 小見が上げる。崩れた梟谷だが木葉から猿杙へ。セカンドテンポ。

 そこから逆サイドへセカンドテンポか……間に合わず、烏野は二枚でブロックを跳ぶ。

 日向のブロックに当て、サイドラインを大きく超えていき梟谷の得点。

 

「ナイスキーー!猿杙!」

 

 梟谷は頑張って声を出している感がまだ否めないが、前を向こうとしている。だがまあ…それでもエース木兎に追いつくのは不可能だが。

 

 

12-7

 

 木葉のサーブを西谷先輩が上げる。影山から東峰さんのバックアタック。

 

「ワンタッチィ!」

 

 相手もブロックで威力を弱める。赤葦から尾長の速攻。

 

「ワンタッチ」

 

 オレのブロックで威力を弱め、影山から日向へのマイナステンポ。

 

「ナイスレシーブ!」

 

 赤葦から猿杙。

 恐らく、先生からのありがたい言葉やマネから気合を入れて貰っただろうが、簡単に元通りに戻せやしない。

 

「レフト止めるぞ」

 

 オレの一言で、三枚揃えてのキルブロック。絶対に止めるという圧を感じただろう。調子を悪くしていたスパイカーの行動は読みやすい。

 

「フェイントォ!旭!」

「ういっす!」

 

 東峰さんがきっちりと上げる。

 影山からオレへ。

 

『ドォッ!!』

 

『ズッッドォォォオン!』

 

『ナァイスキーーーー綾隆!!』『『『いぞいぞ綾隆!!』』』『『『おせおせ綾隆!!』』』

 

 その程度ならこちらに何の影響もない。

 

「すっげーーぜ!見たかよ!おまえらぁ~!あの高さと滞空時間!俺も次やってみようかなぁ~」

「木兎さん。真似してスカぶらないで下さいね」

 

 ただ高さで圧倒しただけのスパイクで、とても高校生には真似できるものではない。普通なら心折れてもおかしくない。

 木兎が変人だってことは理解していたが、やはり完璧には分析できない人だ。

 それに赤葦もいつまでも冷静で居続けている。

 それなりの成長をこの大会中に遂げているということ。

 

13-8

 

 しかし、木兎達がいつも通りのパフォーマンスをし続けても、こちらが上と言うことに変わりはない。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 梟谷が盛り返して少し…ヒュッて心臓が震えたえたけど、それを烏野が力技でねじ伏せた。

 鴎台の時、東峰さんによる得点を思い出した。強打と見せかけてのフェイント。あれはみんなが褒めていた。その意味が今、分かった気がする。

 弱腰になったフェイントは分かりやすい。私も強気で前に進んだから、綾隆にもバレなかったわけで…。

 

「ワンチ!」

 

 月島君の何度目かのワンタッチ。

 

「月島、職人技だな…」「そのセリフも職人技並みに言うよな」

 

 淡々とコースを絞っていくブロックに相手の打つコースが無くなってきている。まだ木兎さんにはごり押しで抜かれることもあるけど。相当邪魔になってるはず。

 

「だっしゃああああ!」

 

 おおっ今回もブロックで誘導し、西谷先輩のレシーブ。からのファーストテンポのシンクロ攻撃。

 だけど綾隆がマイナステンポで入って行き、そのまま決めた。

 

『ナァイスキーーーー綾隆!!』『『『いぞいぞ綾隆!!』』』『『『おせおせ綾隆!!』』』

 

「おお~ここで超速攻…容赦ねぇ~」

 

「「「「「キャー!!綾隆く~ん!!」」」」」

 

 黄色い声援にムカッとしてしまうけど、落ち着けぇ…私。そう、私はいつも見て来たんだ。うんうん。

 

17-10

 

「猿杙さん!」

 

 高く上がったボールをレフトから猿杙さん。烏野は三枚の壁を揃えて跳ぶ。

 

「ワンタッチィィイ!!」

 

 日向のワンタッチで威力を弱める。

 からの再びファーストテンポのシンクロ攻撃。

 

『タン!』

 

 影山くんのツーが決まった。

 

「影山も調子良い!」

「ああ!あいつもこの大会でどんだけ成長してんだよ」

 

19-13

 

 必死に喰らい付いているような雰囲気の梟谷。あまり梟谷らしくない。

 だけど…一人は違う。

 

「レフトォオオオ!!」

「木兎さん!」

 

 今日、何本目だろうか…綾隆よりも跳んでいる。

 

「ワンチ!」

 

 月島君のブロックが阻むが、後方に飛ばされる。でも既に下がっている綾隆。影山くんの頭上にボールを送る。そのまま月島くんの速攻。

 

「くっ…!」

 

 小見さんが上げる。だけど、崩れ猿杙さんが二段トスで木兎さんへ。

 再び烏野は三枚で木兎さんへ跳ぶ。

 

『バァン!』

 

 阻むことには成功したが、叩き落とせは出来ず、高く上がって梟谷のチャンスボール。

 

「レフトォォオオ!」

 

 3回連続木兎さんのスパイク。

 また三枚揃えて跳ぶ烏野。セカンドテンポだったので若干遅れた…ストレートを打ち抜く木兎さん。

 でも…。

 

『バァン!』

 

「「「「ナイスレシーブ!!」」」」

 

 そこは綾隆の守備範囲内。影山君から東峰さんへ。猿杙さんが体に当て、繋ぐ。小見さんが二段トスで4連続木兎さんへ。

 

「まじかよ…4れんちゃん…」

「3セット目終盤で、よく跳ぶぜ…」

 

 苦しいであろう木兎さんの表情は一切の曇りのない笑顔だった。その元気がチームを引っ張るんだろうな…。

 楽しそうな木兎さんは腕を振り抜く。

 

『ダァン!』

 

『ここでドシャットォォォオオ!!烏野高校、3年主将の壁!!』

 

「うぉおおお珍しい澤村の壁!!」

 

 月島君ばかり目が入っていたのかもしれない。前の三人では最も背が低い。クロスよりに固めたブロック。ストレートで急に目の前に出てきたから…。

 

『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』『烏野!!!』『『『バンバンバン!!!』』』

 

 

 もう烏野の応援しか聞こえない。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「クロ…落ち着いて」

「落ち着いてますがぁ?」

 

((((そうは見えねえ…))))音駒の心の声が一致した。

 

「木兎さんの勢いにチームが付いていけてないね。木兎さん以外の選択肢が無くなってる」

「…うん~~これは…きちぃな」

「研磨さんなら、この状況でどうします?」

「無理だよ。梟谷の特性的にエースが鼓舞し味方もそれに乗っかる。でもどれだけ鼓舞し続けても味方は乗ってこれない。頼り切りになったエース。それがどれだけ優れた選手だって、回数を重ねるにつれ止められる回数は増える。木兎さんが今、調子が良いと言ったって、それには限界がある。残念だけど、エースとチームの間に決して乗り越えられない高い壁が出来た時点で、梟谷には勝ち目がないよ」

 

 研磨は長々と説明した。音駒は研磨がそう言うならそうなんだろうと頷く。

 

「いぃ~やっ!あるね」

 

 研磨の考えを否定してのは黒尾。ふっと笑い立ち上がる。

 

「何するき…?クロ」

「ふっふっ…[[rb:高い壁 > ネット]]なら下げてしまえばいいんだよ」

 

 黒尾をは大きく息を吸う。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

20-14

 

 

『烏野』『バンバンバン!』『烏野』『バンバンバン!』『烏野』『バンバンバン!』

 

 もう成すすべがない梟谷。

 

 

「おい!木兎!諦めてんじゃねぇぞォオ!まだ終わってねえ!」

 

 会場内を満たしていた烏野コールを黙らした。その男は意外にも熱血な黒尾。

 

「うぉおおお!夏合宿を思い出せぇ~~!!」

「木兎さ~~ん!3対3を思い出してくださ~い!楽しかったですよ~!」

「まだ終わってねえぞ梟谷!」

「負けたら焼肉奢りだぞォオ!!勝ったら奢ってやる!!」

 

 と、それに続く音駒。

 

「いけぇ梟谷ぃぃいい!!」「がんばれぇえ!!」「まだ終わってねえぞぉおお!!」

 

 そこから応援団の熱量も上がった。

 バレーのルールも知らない単純な観客。その大半が周りに乗せられやすい高校生。一人の熱血な男からの声援で、自分の高校がまだ負けてない。これから盛り返して勝つかもしれないという希望。そしてその奇跡を望む。

 

 

『梟谷!』『バンバンバン!!』『梟谷!』『バンバンバン!!』『梟谷!』『バンバンバン!!』

『烏野』『バンバンバン!』『烏野』『バンバンバン!』『烏野』『バンバンバン!』

 

 若干梟谷の方が大きく感じられる。

 これが他の高校なら良かったんだが…相手は梟谷で木兎という天然おだてられ上手の日向の師匠がいる。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 もう無理かと内心思っていたとき、黒尾くんの声が会場内に響いていた烏野の声援を黙らせてくれた。

 音駒の声援で梟谷学園の応援が大きくなる。続いて会場内の観客も梟谷に味方をする。

 

 この会場内全てがウチに味方をしている。木兎だけじゃなく、みんなも周りを見渡して歓声を感じ取っている。

 3年間も木兎と一緒にいたんだ。木兎に染まっていてもおかしくない。この歓声にみんなが乗ると私は思った。

 

 みんなはコート中央に集まって円陣を組む。

 

「ふくろう~~~だにぃいいいい!!ファイッッ!!!」

 

『『『おぉ~~~っしぃ!!!』』』

 

 楽しくない時間は割とヒョンなことで乗り越える。

 この小さな[[rb:世界 > 会場]]はウチに加勢している。どん底スタート上等…まだ試合は終わってないし、一先ずどうでもいい。

 

 楽しい時間の始まりだ。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 戦っているのはコートにいる選手だけじゃないという事か。

 

「厄介な…」

 

 オレは皆に声を掛ける。

 

「集中してください」

「ああ」

「おいおい…これ俺らが悪役だな」

 

 

尾長 猿杙 木葉

赤葦 木兎 鷲尾

 

ーーーーーーーー

 

日向 田中 澤村

影山 綾隆 月島

 

 

『ピーーー!』

 

 月島のサーブから速攻を使わず、レフトから木兎。ここで流れを持っていこうと言う作戦だろう。

 木兎頼みのトスだが、それが最良だろう。

 

「ンウゥゥ〜〜〜ハッ!!」

 

 3枚ブロックで跳んだが、日向の腕の間を抜いて打ち下ろしてくる。溜めに溜めた力をボールに乗せたその威力は、凄まじい。

 

 だがそれに影山は触る。かなり乱れたが想定内。

 オレから日向へ…ファーストテンポ。

 

 だが、これは読まれていたようで、鷲尾のブロックに捕まる。

 

『ダァン!』

 

 自コートで響く。

 

『『『『ナァイスブロッッックゥゥウウ!!!』』』』

 

 プロのような冷静さを持ち合わせていないが、高校生だからこそ感情的なことで爆発的な成長を見せる。越えられない高い壁も一時の感情で飛び越えてくる。

 理論的じゃないからこそ、計算するのが難しい。だからこそ面白さがあがるが……やりにくい。

 

 

「ナイス鷲尾!!」

「ナイスブロック!!」

 

 と、駆け寄っていく。

 

「クッソォオ…」

 

 日向がぼやく。

 

20-15

 

 こういう勢いに乗っているチームはミラクルを起こす。

 赤葦のサーブは白苔に当たり、誰もいないところに落ちる。

 

20-16

 

 赤葦のサーブをオレが上げる。

 影山から日向へ。中央突破。

 

「ワンタッチ!」

 

 鷲尾が跳びつく。赤葦から木兎へのファーストテンポ。

 二枚のブロックを掻い潜る。

 

 スローモーションにてオレは真正面で迎え入れる。

 

「「「ナイスレシィィブ!!」」」

 

 ファーストテンポのシンクロ攻撃で田中先輩へ。

 三枚のブロックをタイミングを外し、後方へ飛ばす。

 

「繋げー!」

 

 小見が拾いながら叫ぶ。

 

『『『木兎ラストォォオ!!』』』

 

 応援団・観客からの後押し。

 

「木兎!」

 

 二段トスで木兎へ。三枚のブロックの僅かな隙間を抉じ開け、打ち下ろした。

 

『ナァイスキーーぼくと!』『木兎!!』『バンバンバン!!』『木兎!!』『バンバンバン!!』

 

20-17

 

 だが、こちらも流れで負けているわけでは無い。

 影山のレシーブで弾かれたボールをオレがセットする。

 マイナステンポ…ではなく、オレから日向への射線上に位置するライト側主将へのセカンドテンポ。

 ブロック一枚。確実に点を取った。

 

『ナァイスキーーーーだいち!!』『『『いぞいぞだいち!!』』』『『『おせおせだいち!!』』』

 

21-17

 

 こういう押せ押せの空気だからこそ、運も作用するのかも知れない。

 木兎のスパイクが白苔に当たり、白苔の上をコロコロ転がった後、烏野コートに落ちた。

 

「ミラクルゥーー!」

 

21-18

 

 バックアタックから木兎。というかもう跳んでいる。まるで日向の速攻…。

 

『バヂィン!』

 

 ブロックに間に合わないと判断した日向の超至近距離レシーブ。そのまま返っていき、誰もいないところに落ちた。

 

「「「「おおおおおおお」」」」」

 

「お…おっしゃあああ!」

 

 目には目を運には運を…か。

 

「くっそぉおお、今、絶対いけると思ったのに~~さすがは俺の弟子だぜ」

「凄かったですね。まさかあのセットで取られるとは…」

「はいはい、すいませんでしたぁあ!」

 

 梟谷はいつも通りのコントをやっている。

 

「オメェ…ブロックの邪魔になるレシーブだろうが…このボゲェが!」

「う…うっせぇな!」

 

22-18

 

 田中先輩によるサーブ。

 

「俺が取る!」

 

 小見が上げる。

 赤葦から鷲尾へ。何度も繰り返したブロック。

 速攻に対し、三枚のブロックで跳ぶ。

 

『ダァン!』

 

 叩き落としたが、コート外。惜しくもアウト。

 

 

22-19

 

『あぁ~っと、ここで烏野高校お見合い!!』

 

22-20

 

 続く鷲尾のサーブは、東峰さんが上げる。

 ファーストテンポのシンクロ攻撃で一斉に攻撃に参加する。

 

『タァン!』

 

 梟谷コートで落ちる。影山のツーが決まった。

 

23-20 

 

 影山のサーブは惜しくもアウト。

 

「……ちっ…すいません」

「ドントマインド~」

 

23-21

 

『ズッパァァアン!』

 

「へいへいへ~い!追いつくぜ~!!」

 

23-22

 

「あかぁし!」

「木兎さん!」

 

 三枚のブロックを弾き飛ばす。

 

『梟谷高校、土壇場も土壇場で追いついたぁああ!!会場内全てを味方に付けるこの声援!!』

 

『梟谷!』『バンバンバン!!』『梟谷!』『バンバンバン!!』『梟谷!』『バンバンバン!!』

 

23-23

 

 木兎のスパイクを完璧に上げる西谷先輩。影山から東峰さんへ。阻まれ叩き落とされるが、西谷先輩のブロックフォローにて阻止する。

 

「うおおおおおお西谷!!」

 

 菅さんが最後の最後までホットだった。

 主将が日向へアンダーで持っていく。

 日向は体勢が崩れているが、上へ打ち指に当てる。

 

「小見!」

「繋げ!」

「赤葦ラスト!」

 

 帰ってくるが低い。

 

『ズッパァァァアン!』

 

 オレはダイレクトで打ち下ろす。

 

『梟谷!』『バンバンバン!!』『梟谷!』『バンバンバン!!』『梟谷!』『バンバンバン!!』

『あと一点!!』『あと一点!!』『あと一点!!』

 

 

24-23

 

 

『ピーーー!』

 

 オレのサーブ。高く上げ高く前に跳ぶ。

 

「ぐっ…」

 

 木葉が体に当て上げる。地面に落ちかけたボールを小見が繋ぎ、猿杙が返す。

 影山のファーストタッチから月島への真ん中の速攻。そしてここで一人時間差。

 

『ダァン!』

 

 リードブロックを続ける梟谷には効かなかったようだ。

 

24-24

 

 叩き落とされたからで終われない影山。

 再び真ん中からの速攻。

 

『スッパァアン!』

 

『今度は決まったぁ~一年生月島蛍の速攻!!』

 

 

25-24

 

 月島のサーブを綺麗に上げ、レフトから木兎のスパイク。ブロックの狭間を抜いて打ち下ろしてくる。

 

『バァン!』

 

「ナイッスレシューーーブ!!」

 

 オレがそれを阻止する。そのまま攻撃に参加するが、上がったのは田中先輩。

 超インナークロスでレシーブの腕を吹っ飛ばす。

 

「ナイス木葉!!」

「ラスト木兎!」

 

 アンダーで返ってくる。烏野のチャンスボール。

 

『ドンッ!!』

 

 ファーストタッチが影山と分かり日向が入っていく。ここに上げろという圧。

 影山はドンピシャに日向へセットする。

 マイナステンポの速攻が読まれ、三枚のブロックが跳ぶ。

 ブロックの隙間を打ち抜いた。

 腕では捉えきれず、猿杙は体で体当たりレシーブ。

 

 赤葦が木兎へアンダーで上げる。

 

 木兎に三枚のブロック。吹き飛ばし後方へ飛ばされる。が、元より下がっていた月島が繋ぐ。

 

「綾隆!!!」

 

 主将がオレへ二段トス。

 少し割れ打ちづらいトス。

 

「「「「「守れーーーーーー!!!梟谷!!!」」」」」

「「「「「死守だーーー!!」」」」

 

 この会場は梟谷の応援が殆どらしい。烏野の応援は烏野高校だけのようだ。それほど、梟谷の巻き返しは観客の心に響いたのだろうな。まるで漫画の主人公のようだな…木兎は。

 

 

 

 

 だが…。

 

 

 

 だからどうした。

 

 

 

 

『ドォッ!!』

 

 

 

 三枚の壁がオレを覆う。

 

 スローモーションとなった世界。

 

 周りはボヤけ何も見えなくなる。

 

 ブロックの手とレシーブの位置。小見と赤葦の間だけが、くっきりと見える。

 

 ここに打て。

 

 決まる場所を示されている。

 

 そこに打てば決まる。これは決定事項であり、誰にも止められない。答えは分かりきっている。

 

 オレの勝ちだ。

 

 この最後の得点で全国制覇を果たす。いよいよ止まれなくなるわけだ。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 私は今、矛盾したことを考えてる…。

 ずっと全国優勝を目指してきた。だからこの試合に勝ちたい。

 でも綾隆のことを考えると、負けた方が良いんじゃないだろうか…と考えてしまう。

 

 勝ちたいけど…止まって欲しい。

 

 でもそれは叶わない願いだと分かっているから…。

 

 私は綾隆のスパイクを目に焼き付ける。

 

 最後のスパイク。最後の得点。絶対に決まると分かる安心感に悲愴感。

 

 本当は…ずっと……一緒に居たかった…。

 

 

▽▽▽

 

 

 

 ああ。

 

 誰か…否定してくれ。

 

 

『ズッッドォォォオン!!』

 

 

26-24

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 繋いで繋いで。

 

 落として、それでもまた繋ぎだして。また落として負ける。

 

 しかし…負けたからと言って終わりじゃねえのさ。ある者にある高校に託して、より強固にしてきた。

 

 それをまた繋いで落として託して繋ぐ。

 

 それでもまだまだ上には上が居るから…あっけなく負けたりもする。

 

 さて…敗者(繋ぐ者)達よ。お前達は誰に託す?

 

 そして、烏野16番…一体お前はどれだけ託されてきたんだい…。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 激しいラリーを制した烏野は静かに、されど全力で真ん中に駆け寄る。

 皆がタックルで突っ込んで来たとき…。

 

「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」

 

 烏野の魂の咆哮が会場を満たした。

 

『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』』』

 

 遅れて烏野の観客席から、教頭は鬘を自ら脱ぎ、頭のテカリでオレ達を照らしながら騒いでいる。

 

『はっ…春の高校バレー。決勝戦、激しいラリーを見事制したのは烏野高校!!!王者の誕生です!!!』

 

「よっしゃああああ!!!」

 

「うおおおおおお」

 

 叫び方は違いがあれど、皆は喜びに満ち溢れている。

 対して、梟谷は悔やまれる顔だ。

 

「……普通のエースなのに…」

 

 と木兎の呟きが聞こえてくる。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「あぁ~終わっちゃった…」

「そうだね」

 

 優カップルは勝ち負けはどうでもよく、試合が終わってしまったことに残念に思っていた。

 

「結局、勝てなかったね~」

「でも良い勝負したと思う」

「だね。烏野に勝つにはどうすれば良いですかね?」

 

 みかちゃんは優の口元にマイクを向ける。最もマイクは持っておらず、ただ拳を向けただけ。

 

「んぅ~16番って…音駒みたいなんだよね…試合が進むにつれ対応され圧倒される。今後、もっと難しくなってくだろうね」

「つまり分からないと?」

「はい、その通りです」

「ははは。良いラスボスじゃん」

 

 

「あ~負けたかぁ~」

「最後は惜しかったけどね」

「流れで押し勝ってたようにも見えたけどな」

「無理やり断ち切ったね。綾隆が」

「さてはて、どうやって倒すか策を練らないとね」

「さっ帰るぞ!」

 

 音駒は荷物を持って東京体育館を去る。

 

 

▽▽▽

 

 

 

『ピッ!』

 

 ネットを挟み、挨拶をする。

 

「うぐっ…ちゅぎはぜったいにひゃってやるからな!!!」

 

 あまり聞き取れなかったが、言いたいことは分かった。

 

「待ってます」

 

 木兎との会話はそれだけだった。

 皆はナイス試合だったと抱き合ったりして、互いに褒めたたえていた。

 

「………負けました」『バシッ』

 

 相手ベンチに挨拶をしに行くと、雀田さんに背中を叩かれつつ、そう言われる。

 

「オレもギリギリでしたよ」

「あっそ……負けたけどさ、みんなは綾隆くんを倒すことを目標にしていると思うよ?」

「そうですか。それは楽しみですね」

 

 会話はそれで終わり梟谷ベンチから去る。

 

 コートを出ると、涙ながらに抱き着いてくる清水先輩。

 色んな感情を感じ取れる。

 オレは受け止め、優しく撫でておく。後ろでそれを見つめているひとかが見えたが、今はそっとしておく。

 暫くして離れた清水先輩。

 皆で観客席に挨拶をしに行く。

 

「ありがとうございました!!!」「「「「「あっしたああ!!」」」」」

 

「「「「「「すごかったぜぇ~~~~!!!!おめええらああああ!!!!」」」」」」」

 

「おめでとう!!!」「きゃ~~~!!!」

 

 暫くして表彰式が行われた。

 皆は堂々とし、前を見つめている。いや…トロフィを見つめている。

 それが終われば、写真撮影。写真撮影も終了し、バスに乗り込む前にコーチによる最後のミーティングが行われた。

 

「おまえら、まじでよくやったよ!!!最後までよく跳んだ!!!ナイスプレーー!!!」

「ぼぐばう゛れ゛じい゛でず!!!」

 

 月島はと言うと…。

 

「僕は帰って鴎台のブロックのビデオがみたいですね」

 

 アザラシか、と主将に突っ込まれていた。

 そんな皆の笑顔を涙に変える人物が現れた。

 

「俺はもっとこのチームで試合をしていたかったです」

 

 まさかの影山の発言に、誰も涙を流さずにはいられなかっただろう。オレも出ていて欲しいと願う。

 

「それで…お前はなにかねえの??」

 

 オレに振られる。

 

「正直なところ…嬉しいとは思いませんでした。全て予定通りだったので」

「だろうな、おまえらしい」

「それは分かってたさ。その後…これからどうすんのさ」

 

 皆の視線を浴びながら、正直に答える。

 

「…オレは、例えバレーでなくとも違うスポーツや学が必要になるところでも、同じように全国…いえ、世界でも上位を狙えます」

 

 そこで影山と日向を見る。二人もオレの目を見る。

 

「なあ、日向影山…もし、オレがこの先バレーを続ければ、世界のトップに君臨し続けられるだろう。その時、お前達はどうする…オレが居る限り、お前達は金メダルを取れない。それでも…」

 

「「当然、お前を倒しておれ(俺)が金メダルを取る!!」」

 

 それが聞けただけ十分だ。

 

「そうか」

「なんだよぉ~おまえらは…ほんっと変わんねえな!!」

「試合が終わったのに、もう試合の話するとか馬鹿じゃん…」

「月島、お前もさっき似たようなこと言ってたよな?」

「えっ…」

「綾隆の言葉通り、世界の王者で君臨し続けているのなら、皆で倒しに行かないとな!」

「はっはっは、そうだな」

 

 バスの到着が遅れているため、各々の時間を潰した。

 オレは何故か観客に数名ほどサインを頼まれ、菅さんが考えたサインを書いていた。

 観客がいなくなり、外に設置されている椅子に座ってボーっとしていた。

 

「こんな所にいた…」

「清水先輩…」

「またご飯でも食べにいってるのかと思ったよ」

「まさか…」

 

 清水先輩はオレの横に座り、ふぅと息を吐く。

 

「まさか…ほんとに優勝しちゃうなんてね…いまだに実感がわかないよ」

「清水先輩…すいません」

 

 オレは清水先輩の言葉を無視し謝罪する。

 

「ん?なにが??」

「ここまで皆で力を合わせて取り組めば、色んな感情が身につくかと考えてたのですが…」

「うん、分かってる。でも、大丈夫…待ってるって言ったでしょ」

 

 清水先輩はオレを優しく包んでくれた。暖かいものの、それでも恋という感情が分からない。いや恋だけじゃない。

 

「あっ私…いろいろ荷物纏めてたんだった…先行くね。」

「はい」

 

 駆け出して、前へ進んでいく背中をオレは眺めていた。後ろからのため、実際はどうだったのかは分からないが…涙を拭っているようにも見えた。

 

 そんな清水先輩に駆け寄れない。

 

 なぜか進めない、腹立たしさ。

 

 オレはまだ、あの部屋に居るようだ…。

 

 

 

 

 

 春の高校バレー全国優勝はただの過程に過ぎない。

 

 一回だけでは足りない。

 

 繰り返さなければならない。

 

 だが何も難しい話ではない。繰り返せばいい。ただそれだけである。

 

 翌年。2年のインターハイ…優勝。春高…優勝。

 

 繰り返す繰り返す。

 

「やったやった綾隆!また優勝だね!!」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 3年のインターハイ…優勝。春高…優勝。

 

『またしても烏野高校が全国を制す!!』

 

 繰り返す繰り返す。

 

 淡々と繰り返す。

 

 バレーにおいての分析はもう終了したと言える。誰かのやる気を削ぐこともあった。だが、道端の石ころを気にしていられない。

 

 この世は勝つことが全てだ。

 

 

 この3回目の春高も過程に過ぎない。

 

 

 

 それは何処に行っても変わらない。

 

 

 

『2016年のリオでのオリンピック…バレーボールの決勝戦、日本は惜しくも敗れ…優勝はアルゼンチン!!』

 

 

 

 世界でも変わらない。

 

 

 

 勝ってさえいれば、それで良い。

 

 

 

 

 

 

『Vリーグディヴィジョン1はBJが勝利!!』

 

 

 さてと…行くか。

 

 

「清田綾隆。次は負けない。だが今日の試合は楽しかった」

 

「俺は絶対お前には上げやん。今は勝てんやろな、完敗や…けどな…覚えときや。俺はぜってぇいつかお前を倒す。綾隆君が魔王として君臨し続けるなら、俺は…俺らは勇者として、いつかお前に勝ったる!」

 

「別におれが直接戦って勝てなくてもよくない?いつか、皆で勝ちにいく」

 

「ぜったいに…いつか、倒したるからな!!インハイ、春高、また来年勝負じゃ」

 

「うぐっ…ちゅぎはぜったいにひゃってやるからな!!!」

 

「「当然、お前を倒しておれ(俺)が金メダルを取る!!」」

 

 一人ひとりを分析し、人の成長を肌で感じていたあの頃。9年前に言われた言葉は今もなお鮮明に覚えている。

 

 なぜなら…ずっと待っていたからだ。

 

「探してるんです。自分なりの答えを。それとある人物を」

 

「…何か、いつかお前にトスを上げる気がする」

 

 ようやくその時が来た。

 

 

 

 

 

 翌年、2020年。

 

 

『アルゼンチン。言わずと知れたバレーボール世界最強の国。アルゼンチンは6年間無敗です。そして日本は現在、このアルゼンチンに2連敗を喫しています』

 

『話題なのはやはり、アルゼンチン代表のセッターオイカワ。そしてWSのキヨタ。まず、オイカワは高校卒業後、ブランコ監督に師事して単身アルゼンチンに渡り後に帰化。日本に居た学生時代は、ほぼ無名の選手で全国大会出場経験もありません』

 

『それに対して、キヨタは高校3年生では全国大会でも強豪を寄せ付けない圧倒的さを見せつけ、高校生でありながらも世界で大注目選手でした。そしてキヨタは高校一年生の春高から一度も負けたことが無い9年間無敗の絶対的な王者です』

 

『さて日本の注目選手は…ブラジルでのビーチバレーを経て、今回、オリンピック初招集。高校時代は影山と有名な空中戦コンビでした。「最強の囮」日向翔陽!!』

 

『今日こそは……今日こそは……!!このアルゼンチンを下して…この【東京オリンピック】を日本が制したい!!』

 

 

 

 東京オリンピックの会場に着いたオレは、懐かしい日本に目もくれずウォーミングアップを取っていた。

 

「まさか、本当に及川さんにセットされる日が来るとは思いもしませんでしたよ」

「ふっふっ…だろ?及川さんの勘は当たるんだよ」

 

 まあ及川さんに上げて貰うのは今日が初めてでは無いが、懐かしい会話を思い出していたのでそう口に出す。

 

「うおおおお!!綾隆!!今日こそはお前を倒す!!」

 

 反対側から聞こえてくるオレンジ頭の叫び声。懐かしい声だ。

 

「い~や、俺が倒す!」

 

 と相変わらずな影山。

 

「いや、俺だ!」

「いや俺ら仲間やろ!一人の勝ちは全員の勝ちやないか!」

「おれも来たよ、綾隆を倒しにね。まっ試合は出ないけど」

「へいへいへ~い!いつかのリベンジマッチといこうじゃねえか!!」

「清田綾隆、そして及川…お前達を倒す」

 

 懐かしい顔が押し寄せて来た。

 

「な~んか、いっぱい引き連れてきちゃって~及川さんまたモテ期来ちゃった??

 ふぅ…世界一ゼイタクな内輪揉めの始まりだな」

 

「そう何度もリベンジマッチの機会を与えませんよ。

 

 

 

 これが最後の試合だ」

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、最終回





絶対絶対遅くなります!!すんません!
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