ようこそ青春の排球部へ   作:もと将軍

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えー言うのが遅くなりましたが、2話目と3話目は白鳥沢戦を書いていた時に、この話を書かなければ!と思い書きました。
なので、本来書くつもりは無かったです。

しかし、まあ書いていたら何故書いているのか忘れちった………
ダチョウの脳みそなんで……すいません。


大会

 

翌日

 

「集ごっ…え!」

 

「紹介します。今日からコーチをお願いする烏養くんです。」

 

金髪のヤンキー見たいな人が入ってきたと思いきや、まさかのコーチか…

 

「えっ!?コーチ?本当に!?」

 

「音駒との試合までだからな」

 

「…はぁ」

 

ちゃんとしたコーチじゃないのか?

 

「時間ねぇんだ。

さっさとやるぞ!

お前らがどんな感じか見てぇから6時半から試合な!

もう相手は呼んである!」

 

「えっ!?相手!?」

 

「烏野町内会チームだ!」

 

6時半になると四人ほどの30手前くらいの男達が入ってきた。

 

「お前らの方からセッター1人貸してくれ」

 

そう言われ、出ていったのは菅さんだった。

だが、それを影山が止める。

 

「スガさん!?

俺に譲るとかじゃないですよね?

スガさんが引いて俺が繰り上げみたいなのゴメンですよ?」

 

「俺は…影山が入ってきて…正セッター争いしてやるって思う反面どっかで…ほっとしてた気がする。

セッターはチームの攻撃の軸だ。

一番頑丈でなくちゃいけない...でも俺はトスを上げることにビビってた…

俺のトスで、またスパイカーが何度もブロックに捕まるのが恐くて圧倒的な影山の陰に隠れて…安心…してんたんだ…!」

 

菅さんは悔しそうに言った。

 

「スパイクがブロックに捕まる瞬間考えると今も怖い…けど!もう一回俺にトス上げさせてくれ、旭!

だから、俺はこっちに入るよ影山。

負けないからな」

 

「俺もっス」

 

ん?東峰さんに西谷さんが向こうに入るってことは、俺…また出ないといけないのか…

縁下さんに代わってもらえないかな…

 

「じゃあ...こっちは綾隆!お前が出ろ」

 

「……はい」

 

主将には逆らえない…

試合が始まり、何度かローテーションが回った。

 

「そこのロン毛兄ちゃんラスト頼む!」

 

ビビりながらも東峰さんは入っていく。

 

「止めんぞ!」

 

「命令しないでくれる」

 

「本気でいくっす旭さん!!」

 

東峰さんは全力で打つもブロックに阻まれ叩き落とされる。

だが..

 

「うぉお!?上がった!?」

 

「ナイスフォローッ」

 

西谷さんがギリギリで上げて東峰さんに言う。

 

「壁に跳ね返されたボールも俺が繋いでみせるから、だから!もう一回トスを呼んでくれ!!エース!!!」

 

非常にカッコイイセリフだな…

その叫び東峰さんの心に深く響いただろう…

オレのような感情を操作した言葉ではない。

心の底から願っている気持ちを言葉へと変換した。

その西谷さんからの言葉は当然、東峰さんに届いた。

 

「スガァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!

 

もう一本!!!!」

 

嶋田さんに上げようとした菅さんだったが、東峰さんの叫びを聞いて

東峰さんに上げる。

 

「旭…!!」

 

吹っ切れた顔をしている。

もう大丈夫だろう。

その証拠に東峰さんの打ったスパイクは、ブロックをぶち破いてこちらのコートに落ちた。

 

その後の試合内容は、日向の超速攻などが決まり、おじさん達はかなり驚いていた。

日向がエースに憧れて、顔面にスパイクを食らい、途中試合が止まったりもしたが、日向も吹っ切れたらしく囮を遂行していた。

結局試合は烏野が負けてしまったが、西谷さん、東峰さんがちゃんと帰還してくれたようで何よりだ。

 

これで、オレはベンチに下がれる…

 

試合が終わったオレたちはコーチの周りに集まって話を聞く。

 

「…とにかくっレシーブだ!」

 

コーチが力強くそう言った。余程足りなかったんだろう。

 

「それができなきゃ始まんねぇ。明日からみっちりやるからな!!」

 

「あざしたーー!!」

 

「おう、ストレッチサボんなよ!」

 

 

▽▽▽

 

 

「そんなにレシーブ酷かったですかね?」

 

「まぁ…出来てるやつもいる…主将やリベロ、セッター、あと綾隆っていってたか…あいつらはレシーブが上手い。

だが、他の奴らはねぇ~

綾隆も攻撃力を考えると、やはりあの坊主なんだよな…

 

はぁ~選ぶ側ってのも色々悩むモンだよな…」

 

烏養君も初めてコーチになったことでやはり迷うところはあるんだろう。

僕はバレーを指導することができないから、烏養君に頼ってしまったけど僕自身も頑張んないと

 

5月3日

 

今日も今日とて烏養君は迷っている。

 

「…あ、もしかして…試合のメンバーでお悩みですか?」

 

「ああ...綾隆は本当にどこでもできるな…MBもWSも...だから戦略的な交代でも使えるから良いんだが……セッターに迷う…」

 

烏養君の話を聞けば、どうやら3年生と1年生と言う学年の違いで迷っているようだった。

当然3年生にとっては最後の年だから、出たいと思うものなのだろう…

烏養君自身も自分の過去からそう考えてる。

僕としては、選手が満足できるような采配をしてほしい…

 

 

▽▽▽

 

 

合宿のため、部活動合宿用施設に泊まるらしい。

しかし、オレは家が近いためご飯食べたら帰れるため、むさ苦しい中で寝ることを回避できた。

 

「あ、綾隆!もう帰るの?皆は自主練してるよ?」

 

下駄箱で清水先輩と鉢合わせた。

 

「オレはそこまで体力お化けではありませんので」

 

「……はぁ…綾隆がもう少し真面目にやってくれれば烏野も、もっと強くなるんだけどな」

 

「オレが居ても変わりませんよ」

 

「まぁいいや…私も帰るから一緒に帰ろ」

 

「はい」

 

暫く雑談をしながら歩き、段々と会話が無くなってきたところで、オレがここ最近感じていたことを話す。

 

「あの…オレもマネージャーの仕事を手伝ってもいいですか?」

 

「え?どうして?」

 

「ベンチに下がることになりましたが、皆のやる気を見ていると自分だけ何もしていない感じで居心地が悪いんですよ」

 

「………まぁ、辞めないでいてくれるなら…それでも良いか…」

 

清水先輩は少し考えてから了承してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

「でも、ちゃんと練習にも参加すること」

 

「はい、それはもちろん」

 

「オレ、コンビニに寄って行きますね」

 

オレは腹が減っていたし、コンビニにあるチキンを食べてみたかったため寄ることにした。

 

「あ、なら私も寄ってくよ」

 

清水先輩もついて来てくれるようだ。

 

▽▽▽

 

急にマネの仕事を手伝うと言ってくれたことには驚いたけど…

それでも、残ってくれるだけ良いと判断し了承した。

相変わらず何を考えているのか分からない。

先日の東峰の説得のときはいつもと雰囲気が違っていた。

やっぱり…自分が出たくないからだよね…皆、試合に出たいために練習しているけど、そう言う人もいるんだろうか…?

彼がコンビニに行くと言うからついていくことにした。

彼はチキンを頼み私はポテトを頼んだ。

コンビニを出てから袋を開けて食べ始める。

やっぱり、表情の変化はなしか…

 

「どう?美味しい?」

 

美味しかったのか分からなかったため、そう聞いた。

 

「まぁ美味しかったですけど、これならおにぎりの方が美味しいですね」

 

と、返ってきた。

 

「え…?初めて食べたの?」

 

「…はい、あまり身体によく無さそうだったので」

 

「そう…」

 

親が厳しかったとかかな?

一緒に居ればいるほどミステリアスな人だと思う。

 

「ねぇバレー楽しい?」

 

「はい」

 

それだけか…

悪いけど、全くそんな感じがしない

 

「清水先輩はどうして、バレー部のマネージャーを?」

 

珍しい…綾隆から聞いてくるなんて…

 

「何となくだよ」

 

「そうですか…オレもです。」

 

「あはは…一緒だね」

 

「そうですね…

帰りますか…明日も早いですし」

 

「そうだね」

 

ちょっと名残惜しくもあるけど、明日の練習に寝坊したら駄目だ…合宿中は一緒に帰れるだろうし、話す時間はある…

私達はそこでお別れすることにした。

 

▽▽▽

 

そして、音駒との試合がやってきた。

練習試合であったため、ベンチメンバーもでることになり少し出ることになった。

オレはいつも通りのプレーをしていたが、音駒の監督に褒められた。

 

「君はなかなか良いレシーブをするな…それでやる気がもう少し出れば、凄く良い選手になるだろう。

ウチに欲しいくらいだ。」

 

「はぁ…どうも」

 

「ふほぉっふほぉっふほぉっふほぉっ、次に見る時を楽しみにしているよ」

 

「…はい」

 

正直何のやる気もない。

試合の内容は、日向影山の超速攻が止められるようになり点差をつけられたが、日向が普通の速攻を覚えて超速攻と使い分けができるようになった。

そこから巻き返した烏野だったが、[繋ぐ]事を大事にしている音駒を崩せず、負けてしまった。

オレならこうするのにな…と、思ったがオレはそう言うことを考えないように頭を振った。

日向が、「もう一回!」と何度も我儘を言ったが、さすがにもう帰らなければならないため猫又監督の言葉で締めくくられた。

 

「またウチとやりたいなら、公式戦だ。

全国の舞台、沢山の観客の前で数多の感情渦巻く場所で、ピカッピカキラッキラのでっかい体育館で【ゴミ捨て場の決戦】最高の勝負、やろうや」

 

「「「「「「「はい!!!!」」」」」

 

元々、因縁のあった高校同士だったらしいが、今回戦って互いを好敵手と認めたからか、試合終わってからも睨みあっている人もいれば、逆に仲良くなっている人もいた。

オレも音駒の夜久さんと話すようになった。

コーチは音駒との練習試合までだったが、音駒の猫又監督に煽られて本格的に指導することになった。

 

 

翌日からの練習は以前より厳しくなった。

 

「大地さんナイスレシーブ!」

 

「ブロックフォローちゃんと入れ!見てんじゃねーぞ!

これが最後の一球!常にそう思って喰らいつけ!

そうじゃなきゃ、今疎かにした一球が試合で泣く一球になるぞ!!」

 

コーチの気合も凄かった。

オレはマネの仕事を手伝うため偶に抜け出せるので、心の底から良かったと思えた。

 

 

▽▽▽

 

 

「なぁ清水…綾隆と仲いいよな?

あいつ…どうだ?」

 

澤村が綾隆について聞いて来た。

 

「どうって?」

 

「旭に聞いた綾隆といつもの綾隆では全然違うから…」

 

「うん…確かに全然違った。

いつものような抑揚のない喋り方じゃなかったし…雰囲気が全然違ったと思う。」

 

「……そうか、まぁ旭を連れてきてくれた事は素直に嬉しいんだがな」

 

「そうだね、そこには感謝しないとね。

でも、綾隆の事は私もよく分からない。

最近、マネの仕事を手伝って貰ってるから一緒にいることは増えてるんだけど…知れば知るほど謎が増えてるかな…」

 

「そうかぁ…あいつも、もう少しやる気を出してくれたらな…」

 

「バレー部に入ったのも何となくって言ってた。

私も何となくで始めたけど、いつの間にか本気になってたし、綾隆も時間をかければやる気になってくれるかも…

だから、今は辞めずにマネの仕事を手伝ってくれるだけ良いと思うよ」

 

私はそう言ったけど、不安があった。

綾隆にはまだまだ時間があるから、高校にいる間に本気になる可能性は十分にある…

でも、私は…もうこの一年が最後だ…

これが私の我儘と言う事は理解している。

そんな感情を優先してはいけないことも理解している。

でも…底知れぬ不安が押し寄せてくる。

私がここに居る間に見れるのだろうか…

綾隆が真剣にやってるところを見てみたい。

もっと寄り添って行けば…

 

「ああ、そうだな!もっと関わって行けばやる気を出してくれるかもしれんな!

そのためにも試合で勝ち続けないとな!」

 

「うん」

 

そうだ…勝ち進めれば一緒にいられる。

私は試合には出られないけど、私ができることは全部やろう…

 

▽▽▽

 

「ねぇ綾隆、ちょっと手伝ってくれない?」

 

「はい、良いですよ」

 

「あやぽん…いいなぁ~俺はいつも…手伝います!!って言っても拒否されるのに……なぁ…」

 

オレが清水先輩に頼まれているのを見て、田中さんは沈み切ったテンションで言ってきた。

 

「え?田中さんはこのチームに無くてはならない存在じゃないですか。

ムードメーカーであり、切り込み隊長なんですから練習中でもなるべく抜けないで欲しいって清水先輩は思っているんしょう。

オレ達1年もかなり頼りにしているんですよ?田中先輩」

 

先輩を強調して言った。

今言ったことは、殆ど本音だった。

素直に田中さんの良いところを言った。

 

「分かってんじゃねーか!さすが!あやぽんだ!!がはははは!」

 

一瞬にして、ハイテンションになった。

これからは田中先輩と言おう。

西谷さんも西谷先輩の方がいいか…

オレは清水先輩の手伝いをするために後ろをついていく。

 

「綾隆、やっぱり人を誘導することが得意なんでしょ」

 

いたずらっ子な顔でそう言ってきた。

田中先輩なら、一発で気絶するだろう…

 

「あれは、本心を言っただけです。」

 

「あれは…?なら、やっぱり東峰のは誘導したのね」

 

笑顔で言ってるから冗談なんだろうか…

 

「……さっ、オレは何をすれば良いのですか?」

 

「あ、逃げた…これを出して掃除したいんだよね」

 

黒い汚れた布…結構重いな。

二人で、掃除をすることになった。

二人とも水浸しになったが、こんな経験も普通に暮らしていてはできなかっただろうか…

良い経験ができた。

掃除が終わって帰るのは、9時前になっていた。

 

「ありがとね、こんなに遅くまで付き合ってもらって」

 

「大丈夫です。

元々オレがマネの仕事を手伝うと言ったことなので問題ありません。」

 

「でも、お礼にコンビニで何か奢るよ」

 

「良いんですか?」

 

「うん!遠慮しなくていいから」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

帰り道の途中にあるコンビニに寄って、もうすぐ6月になり販売が終了する、おでんを奢って貰った。

 

「普通はもっと寒い時期に食べる物だけど、暖かい日に食べるのも良いでしょ?」

 

と、清水先輩がそう言ったがオレはおでんを食べるのは初めてなので良く分からない。

だが、確かに美味しいな。

 

「はい、美味しいです。」

 

「ふふ…ちょっと口元が緩んでるよ」

 

「これだけ美味しければ緩みますよ」

 

「そんな顔初めて見た」

 

と、笑っている。

オレも清水先輩がこんなに笑っているのは初めて見た。

 

 

 

 

そして、IH予選前日

 

「あっちょっと待って!もう一つ良いかな⁉」

 

部活が終わり解散する直前に、武ちゃんが割り込んで解散するのを止める。

 

「清水さんから!」

 

「激励とか、そういうの……得意じゃないので…

綾隆手伝ってくれる?」

 

「あ、はい」

 

オレが例の物を持って上に上がる。

 

「せーのっ」

 

オレと清水先輩で黒い大きな布を体育館の二階から吊るした。

 

「「「「「おお!!」」」」

 

「こんなのあったんだ!」

 

「掃除してたら見つけたから綺麗にした」

 

「うおおおお燃えて来たぁぁああ!」

 

「さすが清子さん良い仕事するっす!」

 

二人で掃除をしていたものは、横断幕だ。

背景は真っ黒で、【飛べ】と短く白い文字で書かれている。

それを見た選手たちは騒ぎだしたが、主将が止めた。

清水先輩はオレをチラチラ見てきた。

代わりにやって欲しいという事だろう。

 

「こう言うのは清水先輩がやらないとダメですよ」

 

そう言うと、キッと睨まれたが落ち着きを取り戻して皆の方に向き直った。

顔を赤面させながら短くこう言った。

 

「……が…がんばれ」

 

そう言いながらオレを残して先に帰って行った。

皆の方を見ると目から涙が飛び出していた。

主将ですら号泣していたが、2年の馬鹿達は声が出ていなかった。

その後はまさに阿鼻叫喚。

 

「一回戦絶対勝つぞ!!!!」

 

「「「「「うおおおおおおおす!!!!!!!」」」」」

 

今までで一番やる気に溢れていた。

 

「良かったですね…喜んでもらえて」

 

「うっ…黙って」

 

赤面している顔を見られたくないのか、オレに背を向けて言った。

 

「嬉しい時は喜んで良いんですよ」

 

「黙ってって言ってるでしょ!」

 

「こちらを向いてくれたら黙りますよ」

 

少しからかってみたくなり自分らしくないと思いながらも言ってしまった。

 

「っ~~!!」

 

オレがそう言うとオレの腹に手刀が跳んできた。

 

「ぐえっ…何するんですか」

 

「あなたが生意気だからよ」

 

「すいません…清水先輩の恥ずかしがってる顔はなかなか見れませんから」

 

「っ…もう!」

 

そっぽ向いて去って行った。

こんなにも取り乱した清水先輩はこの先見られないかも知れないな…

 

 

 

そして、翌日6月2日

 

全国高等学校総合体育大会

 

宮城県予選の一日目

 

オレ達は一度学校に集まってからバスで会場に移動する。

会場に着くと、柄の悪さからなのか異様に目立っていた。

そして、集団になって歩いていると伊達工業が前から歩いて来て向かい合った。

眉毛の無い怖い顔をした男が前に出てきて、東峰さんを指さした。

 

「ちょいちょい!やめっやめなさいっすいません!すいません!」

 

伊達工の主将らしき人が眉無しの人を止める。

宣戦布告ってやつか…

その後、何も言わず去って行った。

烏野の陣地を確保し、荷物を置く。

さっきから横で一名ほど震えている。

 

「おい、また腹が痛いとか言うんじゃないだろうな」

 

影山がさっきから震えている日向に強い口調で言った。

 

「む…むひゃ…むやうるいだ…だっ!!!」

 

全然言えてない…

 

「武者震いって言ったんじゃない?」

 

「いや、普通に震えてるだけだろ」

 

そんな日向に東峰さんがアドバイスする。

 

「今までで最恐だったことを思い出すんだ。

それが恐ければ怖いほど、これから起こることがそれより恐いハズがない平気!ってなるから」

 

日向は必死に思い出しているようだ。

そして、影山を見て震える。

あの後頭部を当てたときのことを思い出したんだろう。

 

「あっもう大丈夫です」

 

悟りを開いた日向に緊張と言う文字はもう存在しなかった。

オレが最も怖かったことって何だろうか…?

拳銃を突き付けられた時は…返り討ちにしたな。

特に思い当たらない。

恐怖したことなんて、幼い時くらいだ。

 

「対処法分かってんのになんで伊達工と戦った時、あんなに凹んだんですか?」

 

「うっ…そういう妄想する余裕が無くて…」

 

と、たらたらと言い訳をする東峰さん

 

「オレは東峰さんより恐い人は見たこと無いですけどね」

 

「「「えっ⁉」」」

 

「いや…胸倉掴まれて怒鳴ってきた東峰さんはとても迫力がありましたよ」

 

「す…すまん…」

 

「いえ、だから自分より恐い人はいないと思って戦ってください」

 

「はい…」

 

「何か先輩と後輩が逆みたいだな!」

 

 

 

時間になり1試合目が始まるためコートに入る。

 

「緊張する」

 

皆が緊張していて自分もその感覚が知りたかったため、何となく声に出してみる。だが、全く緊張して来ないな…そもそもオレは試合に出ることはないしな。

 

「全くそんな感じはして無さそうだけど…」

 

後ろからオレの独り言を来ていた月島に突っ込まれた。

 

「……している」

 

「いや…間がありすぎでしょ。明らかに嘘だよね…?」

 

「まぁそんな事はどうでも良いだろ…オレが出なくて済むように頑張って来てくれ。」

 

「相変わらず変な奴…」

 

「失礼だな、オレは最も普通の高校生だ。」

 

「そうは思えないけどね」

 

「…まぁ頑張って来い」

 

『ピーーーーーー!』

 

笛が鳴りコートの真ん中に走っていく。

相手選手と挨拶を交わしたのちベンチに下がる。

 

 

 

 

 

一試合目を難なく勝ち進み

 

二試合目まで時間があるので、お昼にすることになった。

正直試合には勝っても負けてもどうでも良いと思っている。

だが、外から色んな選手を見ていて、負けて悲しんでいる選手、勝って喜んでいる選手、中には試合中に成長する選手を観察することができ、面白いと思った。

他校の選手はオレとは何の関係のない奴らだ。

壊れたってどうでもいい…

実験をするなら良い相手だと思ったが、思いとどまる。

オレはそれを後悔して逃げて来たんだったな…

 

「綾隆は嬉しくないの?」

 

隣で食べている清水先輩がそう言ってきた。

 

「?嬉しいですよ」

 

「その割には嬉しい顔をしないんだね」

 

「表情に出すのが苦手なんですよ」

 

「……そう…私としてはもっと違う表情を見てみたいけど…」

 

「もしかして、赤面しているところを見られたことをまだ、根に持っているんですか?」

 

オレがそう言うと図星だったのか、ギクッとして睨まれた。

 

「…図星ですか。

オレとしては清水先輩の普段見られない表情が見れて嬉しかったですよ」

 

「…ほっ…ホントに生意気!」

 

そうは言うが吹っ掛けて来たのは清水先輩の方だ。

面白い人だな。

と、ここで何を思ったのか知らないが、オレの口端を摘まんで上に上げた。

おい…皆が見ているのに…

田中先輩と西谷先輩は絶望して声も出てない。主将も怖くなってるし…

 

「にゃにするんでしゅか?」

 

「笑顔にしてあげてるの…でも…ふっ…怖い…ふふふ」

 

勝手に顔を弄られて非難を浴びせられた。

ようやく放してくれたので、皆も落ち着いたようだ。

 

「次も勝てると良いですね」

 

「うん…でも、次の相手が…」

 

「東峰さんが叩き落とされた所ですか?」

 

「ええ…ブロックがホントに強いの…一気に詰められて速攻なんかも止められる。」

 

「そうなんですか、まぁ烏野の速攻は普通じゃないですよ」

 

「うん!そうだね。」

 

 

そして、2戦目…伊達工戦は西谷先輩のカッコいいセリフと共に開始した。

 

『ダァン!』

 

と、烏野コートで気持ちの良い音が何度か響く。

それでも、得点は烏野が有利だったが、押しているのは完全に伊達工だった。

だが…そんな伊達工ムードな会場の空気を変えたのは日向影山の超速攻だった。

伊達工は驚愕し、観客は歓声を上げた。

日向が光ることで、相手は他のスパイカーを見失う。

前回の試合で、完膚なきまでに叩き潰された東峰さんのスパイクは日向に釣られブロックが何もない状態で打つことができた。

そして、超速攻で翻弄し1セット目を取った。

 

2セット目も特に変わらず、日向の超速攻で翻弄していった。

しかし、さすが鉄壁と言われるだけのことはある…終盤には日向の超速攻に慣れて来たようだった。

だが、勢いに乗っていた烏野を止められず、最後は西谷先輩が足で上げて、東峰さんがブロックをぶち抜いて決めた。

試合が終わり、日向と西谷先輩が何語か分からない言葉で詰めよった。

 

「俺はエースだけど、お前らはヒーローだな」

 

「うおおおおっヒーロー!」

 

そう言われて、日向はともかく影山まで嬉しそうにしていた。

 

「ありがとうな、綾隆。

お前があの時、声を掛けてくれなかったら、俺はこの幸せを味わえなかった。

一生後悔していたかもしれん」

 

「オレは何もしていませんよ。

東峰さんなら一人ででも復帰できたでしょうし…」

 

「ハハハハ」

 

何か可笑しかったのだろうか、東峰さんは笑って去って行った。

 

 

 

続く三回戦目

 

青葉城西との試合が始まった。

ウチとしては珍しくミスは少なく皆は集中しているようだった。

途中影山が調子を崩していたがすぐに復活して挽回していた。

それでも…青城の方が上だった。

最後は日向影山の超速攻をドシャットされ烏野は敗北した。

泣きそうになり謝ろうとした日向を主将が「ミスじゃないから謝るな」と、言って止めた。

 

IH宮城県予選は3回戦敗退で終わった。

これで三年生ともお別れなのか…いや…まだ残る選択をすれば、三年はいるのか。

オレには関係の無いことだな。

 

コートを出て体育館を後にする。

 

「よし、じゃあ飯行くぞ。もちろんおごりだ」

 

やった!一人暮らしのオレには凄く嬉しいことだ。

 

「飯…スか…いや、でも」

 

「いいから食うんだよ」

 

気分が乗っているのはオレだけなのだろか…?

真っ先に店の扉を開け、店内に入る。

後ろから痛い視線を感じるが無視しそのまま席に着く。

 

「おばちゃん悪い、開店前に」

 

「なぁんのお~こんなの前はしょっちゅうだったじゃないの~」

 

店のおばちゃんがせっせとできた料理を運んでくる。

オレも流石にここでくらいは働かないとと思い、席を立ち料理を運ぶ。

料理が机に並んだところでコーチが話始める。

 

「走ったりとか、跳んだりとか筋肉に負荷がかかれば筋繊維が切れる。

試合後の今なんか筋繊維ブッチブチだ。

それを飯食って修復する。

そうやって筋肉がつく。

そうやって強くなる。

だから食え。

ちゃんとした飯をな」

 

なかなか良いことを言うな…

 

「い…いただきます」

 

主将がそう言い真っ先に食べ始める。

それを見てオレも食べ始めた。美味いな…

 

 

 

翌日

 

バレー部の皆は静かだった。

それを見た奴らはオレの下に来て、何があったのか聞いてくる。

めんどくさい…

 

放課後、部活に行くために部室に行くと体育館から奇声が聞こえて来た。

この声は日向だな...オレは体育館に行くのを辞めトイレに行こうと角を曲がると清水先輩と鉢合わせてしまった。

 

「あ、どうも…」

 

「綾隆は変わりなさそうね」

 

「悔しい気持ちはありますけど、オレは出ていたわけではありませんから…」

 

「ふ~ん、それでどこに行こうとしていたの?」

 

「トイレです」

 

「体育館で奇声が聞こえているのに止めようとは思わないの?」

 

「オレが行っても何もできませんよ。

それに、どうせ日向たちでしょう…いつもの事ではないですか」

 

「はぁ…はいはい、でもまぁ付いて来て」

 

「ええ…」

 

ええ…話を聞いてくれない。

 

「止まってる暇はない」

 

日向たちの声が聞こえて来た。

 

「でも、あんまり奇声を発しないようにしなさい」

 

「きっさっ清水先輩…!!あっあの!」

 

オレも後ろにいるんだが…

全く気付かれなかった。

 

「なに?」

 

「三年生は残りますよね…??

キャプテンは春高行くって東京のでかい体育館で戦うって言ったの変わらないですよね⁉」

 

「うん。変わらない」

 

「!!!!ありがとうございます!!」

 

「ちわっす」

 

「ウぉ⁉綾隆!居たのか!?」

 

「…ああ」

 

その後、全員が来ていつもの練習風景に戻った。

皆はどんどん成長していく。

だが、オレは変わらない…

これからも、マネの仕事を手伝いながら適当に部活を続けるだけだ。

くだらない日常…つまらない生活を過ごしていく。

 

……いつか…面白く…楽しいと思えるような生活ができるようになるのだろうか…

 

無理だな…

 

 

 

 

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