新マネをゲットしたオレ達烏野高校バレー部は、さらに活気に溢れていた。
しかし、4人を除く。
2年の先輩達と日向影山だ。
理由は単純明快であり、テスト期間に入り、部活の時間が減ったからだ。
バレー部は今、部活の前に一つの教室を借りて勉強をしている。
オレとしては少し嬉しい気持ちになったが、それは口が裂けても言えない。
「何か...綾隆は嬉しそうだね…?」
清水先輩...なぜバレた。
いや...なぜそれを今言った。
「そんな事はありませんよ…体を動かしたいくらいです」
「お…なら、綾隆は行ってきていいぞ?」
ええ…最近オレの扱いが酷い…
だが…今回はそれに救われた。
「……そうですね。ちょっと体を動かしてきます」
「「「「「「ええっ…!?」」」」」」」
この場にいる全員が驚愕し、オレを見て固まった。
失礼すぎる…そんなに驚くことではないだろう…
「…ダメでしたか?」
「ん?あ、ああ…良いぞ。行ってこい」
「ええ~!!いいな!キャプテン!オレも行きたいです!」
「日向はそれをやったらな」
「うげぇぇ〜〜」
オレは一人教室を出る。
部室に行き、着替えてから体育館へ移動する。
昼休みの時に使われていたため、既にネットは張られている。
倉庫からボールカゴごと引っ張り出して、エンドラインまで移動させた。
ボールを一個取り出し、ネットと向き合う。
助走をつけるため、数歩後ろに下がる。
ボールを高く上げる。
高く跳ぶ。
ボールが落ちてくると同時に全力でスイング。
『カスッ』
『トンットントントン』
指の先に当たり、1メートル先で落ちた。
だろうな…だが、これで良い。
このミスからどう修正すれば良いのかを計算していく。
もう一度サーブを打つ助走距離を確保する。
だが、ボールは持たない。
ただ、助走をつけ高く跳ぶ。そして、スイング。それを数回繰り返す。
次はサーブトス。ただ上げるだけ。自分の最適な高さを見つけ出す。
オレは天才ではない。
凡人が1から10やって11の事を理解でき、天才が1やれば11を導けるのだとしたら、間違いなくオレは前者だ。
オレのやっていることは、今までの経験を足し合わせることで11を導けてるだけに過ぎない。
レシーブはあの部屋に居た時、似たようなカリキュラムを体験したことがある。それらをつなぎ合わせることで一朝一夕でできた。スパイクもそうだ。
だが、ジャンプサーブは別だな。
自分で上げたサーブトスにタイミングよく跳び、打つ。それだけだが、意外に難しい。
だからこそ、何かあったときの為にも打てるようになっておいて損はないだろう。
試合には出る気など無い。だが、このジャンプサーブがまた別の事で役立つ可能性はある。
今は幸い一人で少しの間だが練習ができる。
一つ一つの動作を組み合わせて行く。
そして、目を閉じて頭の中で見本となる人物を思い浮かべる。
青城の及川だな。
頭の中でシミュレーションを何度も繰り返す。
目を開ける。
そして...
高く上げ、高く跳ぶ。
タイミングよく跳び、スイングして打つ。
『バンッ!』
『ダンッタッタットントントトン』
五割くらいの力で打った。ボールの中心を捉え、ネットの向こう側のコートに落ちて転がって行った。
もうそろそろ皆が来る頃だ。
特に喜ばしい気持ちになることなく、散らばっているボールを集める。ボールカゴに全部しまい、体育館を出てトイレに行く。
帰ってくると皆が出てきており、本当にやっていたのか詰め寄られた。
そして、あっと言う間に期末テストが過ぎ去った。
「ハーイ、じゃあテスト返すぞぉ」
オレの点数は70点前後で、ばらつかせておいた。
「どうだったん...」
言いかけて辞めた。
顔を見れば分かる…何故あんなにもやって赤点をとるんだ?
こいつら…オレの計画(サボるための)を簡単に破って来やがる馬鹿さだ...やられた。
「あ、あああああ綾隆ぁ!!どうしよう!見てくれよ!解答欄がズレてただけなのに!!」
テスト用紙を破りそうになりながら迫ってきた。
「俺は…暗記系に…絞って…覚えたから…あぁ…終わりだぁ」
影山のこんな姿、初めて見た。
『パシャッ』
写真撮っておいた。
部室に移動し、先輩たちにテストを見せる。オレは若干睨まれたが、何とかスルーされた。
その後、先輩たちに東京遠征を諦めるように言われた日向影山だったが…
「走るか」
「チャリだろ」
こいつら…行く気か。
「おい、お前ら赤点は1個だけだな?それなら補習は午前中で終わるハズだ。そしたら俺が救世主を呼んでやろう」
田中先輩が助け船を出す。それは、オレにとってもありがたい。
合宿の前日、オレ達は夜中に学校に集まった。
そして、オレ達は馬鹿二人を残して、バスに乗って眠りにつく。
目的地に着いたオレ達はバスを降りた。
「オオッあれはっあれはもしやスカイツリー!!?」
やめてほしい...あれがスカイツリーなわけがない。
しかもあれは赤色だ。どちらかと言えば東京タワーだろう…
東京タワーでもないが…
「おい!あやぽん何距離を取ってるんだ?」
「いやー」
「いや、あれは普通の鉄塔だね」
「ぶっひゃひゃひゃひゃ」
と、真面目に答えてくれたのは音駒の副将で、笑っているのは主将である。
音駒とは、ライバルでもあるが仲が良いため、すぐに五月蠅くなった。
体育館に入ると、他の高校は揃っていた。
アップをし、いきなり試合が始まった。
対戦相手は梟谷で、全国の5本の指に数えられる大エースが存在する。
第一セットはあっと言う間に取られ、2セット目も16-25で負けた。この負けた後にやるペナルティはめんどくさいな…
負けた数だけやらされないといけないのか…その後も何度も負け続けていたが、日向たちがようやく来た。
「主役は遅れて登場ってか?腹立つわ~」
そんな声が何処からか聞こえてくる。
ようやく、オレはベンチに戻ることができた。そして、日向たちが森然に勝つことができたので、フライング練習をしなくて済んだ。
まぁ、その後の試合はいつも通りフライングをしたが。
「綾隆あまり汗かいてなくない?」
と、ひとかは意地悪な顔をしてタオルを渡してくれた。
全く…いつからこんなに意地悪になったのか…と、思ったが、後ろでニヤニヤ笑ってる清水先輩の入れ知恵か...
「…ありがとう。
オレは最後はベンチだったからな…汗はもう渇いているさ」
「その後はフライング練習だよね?
疲れなかったの?」
そんな純粋な顔で聞いてこないでくれ...
「……」
無視を決め込むことにした結果、しょんぼりして清水先輩のところに戻って行った。
後でオレが怒られるな…
日向は何か思うことがあったのか、考え込んでいる。
今日の試合はもうないため、いつも通りマネの仕事を手伝ってから上がることにした。
翌日
いきなり日向の超速攻が音駒のミドルブロッカーのリエーフに止められた。
しかし、日向は楽しそうだった。
その楽しさのあまり、視野が狭くなったか、東峰さんのボールを奪おうとし、空中で接触してしまった。
地面に叩きつけられた日向…
「だだだだちょちょちょ」
と、もの凄く焦っているメンタル最弱の東峰さん。
すぐに日向は起きて謝る。
「すっすみません!!!つい、ボールだけ見てて…!!すみません!だいじょうぶですか?」
「ちゃんと周り見ろぼけぇー!!何のための声掛けだ!たこぉぉ!!」
「ぼけー!!日向!!ボケー!!」
叱咤の声が飛ぶが、皆に緊張が走る。
日向の貪欲な姿勢にエースとしての立場を奪われる可能性を感じた東峰さん…そして、その意気に乗せられ、皆が真剣なまなざしになる。
そして、日向は自分が前に進むことを決めたようで、影山に宣言する。
「おれ...目ぇ瞑んのやめる」
「あ?」
影山にそう言ったが、影山は嫌な顔をした。
「今のままじゃだめだ。オレが打たせてもらう速攻じゃだめだ」
しかし、日向も引き下がらない。
一気に二人のムードが悪くなった。
そのまま...全員に緊張が走った状態で、試合は続いた。
多分オレだけなのかもしれない…この烏野のムードを見て心躍っているのは。
人が成長する瞬間を目の前で見られそうだ。
「皆さんはここに居るチームの中で、一番弱いですね??」
と、ニコニコしながら武ちゃんは生徒に言った。
しかし、言い返せない生徒たちは悔しそうであった。
「どのチームも公式戦で当たったなら、とても厄介な相手…彼らをただの敵と見るのか、それとも技を吸収すべき師と見るのか、君たちが弱いということは、伸びしろがあるということ、こんな楽しみな事無いでしょう!」
さすが、武ちゃんだ。
良いことを言う...
生徒たちもコーチも難しい顔が吹っ切れたようだ。
「今なんか先生みたいで頼もしかったぜ!ありがとな!」
「あ…僕、一応教師...ですけども」
皆は周りを見る。
何を吸収すべきか...
サーブこそが究極の攻め...生川高校
コンビネーションの匠…森然高校
大エース擁するチーム…梟谷学園
とにかく繋ぐ…音駒高校
オレなら...音駒だな。
攻撃は守備があってこそ始まる。
特にバレーボールはサーブから始まりそれを上げられなかったら、試合にならない。
だがまぁ…オレには関係の無いことだ。
日向たちは、体育館を出て行き何か話し合っているようだ。
次の試合が始まるため、オレはベンチへ移動しようとしたが…
「綾隆、日向と替われ!」
「え…あ、はい」
「日向…今日はコートの外から見ていろ」
「ヴぇ!!」
全く...なんで、オレが…成田さんでいいだろ。
オレは一応WSだ。
そのまま、今日の最後の試合までさせられた。
今日が終われば、一度帰り次は再来週にまた来る。
今度は夏休みの合宿か...
学校ぽいイベントで楽しみではあるものの、めんどくさいと言う気持ちもある。
学校に着き、バスから降りる。
「はい!皆さんお疲れさまでした」
武ちゃんの話を聞いて解散となった。
オレはマネの仕事を手伝い終わったので、帰ろうとしたが、ひとかが血相を変えてこちらに来た。
「うぅわあああああ...あっち!しぬぅぅうう!!」
何を言ってるのか分からなかったが、取り合えず指をさしている方向に行ってみると、体育館の中で日向と影山が取っつかみ合いをしていた。
「おい。お前らやめろ」
そう言ったが無視される。
「やめろって言ってるだろ」
と、言って二人の間に入る。
「「ああ!?」」
と、二人とも熱くなりすぎてオレの胸倉を掴む。
ひとかが更に怯えるのが見え、仕方ない…
オレは二人の腹に一発入れ、大人しくさせる。
「おお...」
ひとかはオレにビビって、何歩か下がった。
「お前らな…熱くなりすぎだ。
オレの大切な一人の時間を無駄にするな」
つい、圧を掛けて話してしまった。
「「あ…はい」」
「今日はもう帰ったらどうだ?新しいことをそんな急に始めても上手くいくわけがないだろう」
「「うう…分かった」」
腹を抑えながら二人は片づけを開始する。
オレは帰ろうとしたが…
「全く…合宿終わりくらい休みなさい…」
と、体育館に入ってきて片づけを手伝い始める清水先輩…
オレは腕を掴まれたため、諦めて手伝うことにした。
その後…また、一緒に帰ることになった。
帰り道は日向が延々と謝り、満足したら自転車に乗って帰って行った。
「大丈夫かな…?」
ひとかは日向の心配している
「大丈夫だろ…あいつらのケンカなんていつものことだ。
逆にケンカをしない二人なんて違和感しか感じない…
言いたいことを言い合えるのが、あの二人の良いところだ」
紛れもない事実。
言いたいことを言い合える仲なんてそう簡単に見つからないだろう。
現にオレは一人もいない…言ってて悲しくなってくるから考えるのは辞めよう…
「そ…そっか」
「良いこと言うね。
それにしても喧嘩も強かったのね?」
「いえ…あれは、熱くなってた二人を止めただけで、そういうのじゃないですよ」
「はいはい」
聞く耳持てよ…
「うん…ホントに強かったよ!私、少し、怖いと思ったもん」
「...」
翌日の練習から、皆の練習が異様に変わった。
こないだの練習試合で学んだことを試しているのだろう。
オレは変わらない。
いつも通り、マネの仕事を奪って、練習をサボりコーチに連れ戻される。
そして、練習が終わり、皆が自主練に励む中、オレは帰る。
月島もオレと同じく帰るので、よく話すようになった。
「おつかれ」
「おつかれ、自主練は?」
「いや…言わなくても分かってるでしょ」
「そうだな…よくやるよな」
「…全く、僕にはなんで、あんなに一生懸命に頑張れるのか分かんないよ」
「あいつらにとっては、大事なんだろな。
楽しくて仕方ないって顔してるからな」
「楽しいか…たかが、部活だろ」
月島にも何かあるんだろうな。
しかし、月島は結構な負けず嫌いだ。
2週間後
練習が終了し、今から自主練をする皆の為にオレはマネと一緒におにぎりを作っていた。
「みんな、自主練の前におにぎり要る?」
「「「「要ります!!」」」」
みんなが飛びつく。
「清子さんの握ったおにぎり超うめぇっす!」
「それ、オレが作ったやつですね」
「ああ!?」
そして、おにぎりを出し終わったオレは帰宅する。いつもの事…
みんなは見違えるほど成長している。後は…試合で使えるかどうかだな。
二日後の夜…
「やべー!やべー!夜中に出発するってドキドキする!」
前回は遅刻だった日向が騒いでいる。
バスに乗り寝て起きると、もう着いていた。
「なあなあ!スカイツリーどこ?」
「えっスカイツリー?」
日向が音駒のセッターに聞いている…本当にやめてほしい。
ここは東京ではない…埼玉だ。
そんなバカの会話を聞き、オレ達は体育館に入った。
そして、いきなり試合だ。
相手は梟谷学園
結果だけを見ると惨敗だったが、内容は酷いものではなかった。
それぞれが、自分の成長具合を試した。
その結果ミスが続き、負けてしまった。
やはり、練習と試合は違うのだろう…だが、後は慣れだな。
何回も繰り返せば、その内できるようになる。
日向の空中でボールを操るバランス力
影山の落ちてくるトス
東峰のサーブ
西谷のトスからの東峰のバックアタック
全員参加のシンクロ攻撃
どれも...まだまだだが、良い成長具合だな…
「今回の罰は森然限定!さわやか!裏山深緑坂道ダッシュ!!だな…じゃあヨーイGO!!」
主将の合図に一斉に走り出す。
それからも
GO
GO
GO
…
何回も走った。
そして、夜になり暗い空を見上げながら、芝生に寝転がる。
良いな...清々しくて気持ち良い。
「はい、お疲れ!」
と、ひとかはそう言ってタオルを渡してくれた。
「ああ。ありがとう」
「大変だね!走りっぱなしで」
「まぁ…寝転んでいると気持ちいいから、走った甲斐があるな」
「なんか...ズレてるね」
ひとかがオレの発言に何処か呆れている。
「そうか?ひとかも寝転んでみたらどうだ?」
オレがそう言うと、オレの隣で仰向けになって夜空を見る。
「ん?そう?わぁー星が綺麗だね!!夜だから少し肌寒いのがまた良い!!」
「だな...」
「綾隆は自主練しないの?してるところを見たことが無いけど…」
ひとかは夜空を見るのをやめて、オレの顔を見ながら聞いてくる。
「ああ…オレはしない…今のこの感じがいいんだ」
「そっか…私としては本気でやってるところを見てみたいとも思うけど...」
「ちゃんとやってないのは月島もだろ?先に帰って行ったし…」
「まぁ…それはそうだけど…」
「みんなに抜かれちゃうよ?」
「それは仕方ないだろ…皆、真剣に取り組んでいるからな」
「…」
オレがそう淡々と返していると、口を結びどこかへ行ってしまった。少し、機嫌を悪くしてしまったか...
オレはしばらく夜空を眺めてから、帰って風呂に入ってから寝た。
そう言えば…月島は?
▽▽▽
あああやっちゃった…
自分の感情を優先してしまった。
綾隆の所から離れてお風呂に入って心が落ち着き始めたころ、後悔の念に駆られていた。
「ああああああああああ」
と、唸っていると…
「ひとかちゃん!?大丈夫…?」
清水先輩が入ってきて声を掛けてくれた。
「あ…実は…」
私は清水先輩にさっきのことを話した。
「あははは…綾隆らしいね」
「どうしましょう……」
「気にしなくてもいいんじゃない?綾隆も気にしてないよ」
「で…でも」
「まあ...私も綾隆がやる気を出しているとこを見てみたいんだけどね…」
「で…ですよね!?」
清水先輩も同じことを考えていたので、嬉しくなった。
「彼も皆のやる気に乗せられてくれたらいいんだけど」
「そっすね…入ったときもあんな感じだったんですか?」
「入ったときは今以上に目立ってなかったよ。今はマネの仕事も手伝ってくれたりしてるけど…前からプレーは一切変わってない...」
「経験者だったんですね…なのに抜かれても悔しいとか思わないのですかね?」
「ああ…綾隆は初心者らしいよ?」
「ええ!?なのにあんなに上手いのですか!?益々もったいない...」
「だね…綾隆曰く、チームにとってお荷物にならない立ち位置でいられたら良いとか言ってた。」
「ええ~...」
結局不満は溜まる一方だ。
私が俯いていると、清水先輩が問いかけて来た。
「ひとかちゃんはどうして綾隆がちゃんとやっているところを見たいの?」
「え…」
「ん?」
「そう言えば...何ででしょうか…」
何でだろう…?なに?……ん~分かんない……
「ふふ…」
「なんですか!?」
「いや…なんでも!」
上せたからか、真っ赤になってお風呂から上がった。
▽▽▽
翌日
GO
GO
と、昨日と同じことを繰り返す。
休憩時間になると、マネ達がスイカを差し入れしてくれた。
「月島君一切だけでいいの?」
「うん」
月島と入れ違いに音駒の主将が来て謝罪をした。
「あースマン」
「?なんだよ」
「昨日お宅のメガネ君の機嫌損ねちゃったかもしんない」
「え??」
なるほど、昨日月島がいなかったのはこの人に捕まっていたからか…
事情を聞いた主将達は、驚いていた。
「へー!あの月島が成り行きとは言え自主練に付き合ったのか」
「で何か言ったのか?」
「お宅のチビちゃんに負けちゃうよ~って挑発を…」
月島は日向に引け目を感じてるからな…惜しい190㎝って感じだ。
先輩たちも同じことを話していた。
「まあ、気にしなくて大丈夫だ。
うちにはそう言うやる気のない奴もいるんだ…」
こっちを見ながら言わないでくれ...
皆がこちらを見て、うんうんと頷く。
「なに?君もやる気なし君なの?」
「いえ…オレは常に真剣にやってますよ」
「こいつはいつもマネの仕事を盗んでサボってんだよ...まぁ助かってはいるんだけど」
盗んでるとは失礼な。
「へぇ~なかなか個性的なチームだね」
「もう少しやる気を出してくれれば何も言うことは無いんだが…」
オレは居心地が悪くなったため、ここから離れることにした。
「あ、あの綾隆...」
ひとかが近付いて来て話しかけてきた。
「どうした?」
「昨日はごめんね…綾隆のこと何も考えずに言っちゃった」
「なにも気にしてないぞ、謝る必要もない」
「ありがとう…でも、私はやっぱり綾隆がちゃんとやってるところ見たい!いつかは見せてね!」
「まぁ…いつかな」
ひとかは自分の思っていることを言うだけ言って、去って行った。勝手な奴だな。
GO
GO
GO
残りの試合も全敗でその日は終了した。
月島と帰っている中、山口が奇声を発しながらこっちに来た。
「ヅッギィィィィ!!!!」
「!!?」
オレ達は振り返る。
「ツッキーは昔から何でもスマートにカッコよくて俺いつも羨ましかったよ。」
え…いきなり何だ?何が始まるんだ?
「だから?」
「最近のツッキーはカッコ悪いよ!!!!
日向はいつか小さな巨人になるかもしれない!
だったらツッキーが日向に勝てばいいじゃないか!
日向よりすごい選手だって実力で証明すればいいじゃないか!!
身長も頭脳もセンスも持ってるくせに!
どうして『こっから先は無理』って線引いちゃうんだよ!?」
オレがいることは完全に忘れているな。
月島は言い返す。
「例えば、烏野の一番の選手になったとして、その後は?
万が一にも全国に行くことができたとしてその先は!?
果てしなく上には上が居る。
例えそこそこの結果を残しても絶対に一番にはなれない!
どこかで負ける!!
それを分かってるのに皆どんな原動力で動いてんだよ⁉」
「そんなモンッ!プライド以外に何が要るんだ!!!」
山口は月島の胸倉を掴んで言った。
「まさか、こんな日が来るとは、お前いつの間にそんなカッコいい奴になったの」
月島の顔は確かに笑顔だった。
「でも納得はできない。
ちょっと聞いてくる」
と言って、月島は去って行った。
山口はオレに目を向ける。
お前も行けってことなんだろう...オレは何も言わず、月島の後を追う。
それにしても上には上か…あの部屋ではオレより上は存在しない。
外に出てからでもまだ見たことは無い。
しかし、バレーと言う一つの事でならどうだ?
面白い存在ならいる...
月島が向かった先は、梟谷と音駒の主将がいるところだった。
そう…今目の前で、驚いた表情から興味深そうな目になって、月島を迎え入れようとしている、この梟谷のエースもその面白い存在の一人だ。
「おやおやおや?」
「おやおやおや」
と、二人がこちらに近付いてくる。
そんな二人に月島が言う。
「聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
「「いいよーーー」」
月島の質問に主将達は快く受け入れた。
月島は少し面食らった顔をしたが、すぐにお礼を言って質問する。
「すみません、ありがとうございます。
お二人のチームはそこそこの強豪ですよね。全国へ出場できたとしても優勝は難しいですよね」
何とも率直な質問だな。
「ムッまあね!!」
「不可能じゃねぇだろ!?」
「まあまあ聞きましょうよ、仮定の話でしょ」
と、梟谷のセッター...赤葦。
「僕は純粋に疑問なのですかどうしてそんなに必死にやるんですか?バレーはたかが部活で将来履歴書に書けるくらいの価値じゃないんですか?」
その言葉に主将達は顔を顰める。
「ただの部活って…なんか人の名前っぽいな...」
「おータダ・ノブカツ君か!いやちげぇよ!たかがぶかつだよ!」
本当に仕様もないことだった...オレ帰ってもいいか?
「あーっメガネ君さ!」
梟谷のエース。
木兎さんが何かを思い出したように月島を呼ぶ。
「月島です」
「月島君さ!バレーボール楽しい?」
「……?いや...特には…」
「それはさ、へたくそだからじゃない?
俺は3年で全国にも行ってるしお前より上手い!
断然上手い!」
「言われなくても分かってます」
月島はイラッとしている。
「でも、バレーが楽しいと思うようになったのは最近だ。
ストレート打ちが試合で使い物になる様になってから。
元々得意だったクロス打ちをブロックにガンガン止められて、クソ悔しくてストレート練習しまくった。
んで、次の大会で同じブロック相手に全く触らせずストレート打ち抜いた!
その一本で俺の時代キタァー!くらいの気分だったね!!ンがっはっはっ!」
こちらを鋭く見る。
「その瞬間が有るか、無いかだ。
将来がどうだとか、次の試合で勝てるかどうかとか、一先ずどうでもいい。
目の前の奴ぶっ潰すことと、自分の力が120%発揮されたときの快感が全て!!
まぁこれは俺の話だし、誰にだってそれが当て嵌まるわけじゃねぇだろうよ。
お前の言うたかが部活ってのも俺は分かんねぇけど間違ってはないと思う。
ただ…もしも、その瞬間が来たらそれが、お前がバレーにハマる瞬間だ」
カッコいいことを言うな。さっきの木兎さんのおちゃらけた雰囲気はなく迫力があった。
その快感をオレは知らない。
「はい…質問答えたからブロック跳んでね?」
言い終わった木兎さんは月島を捕まえてコートに連れて行く。
さらばだ……月島。
「え…ちょ…」
「君もだよ?」
オレは踵を返し帰ろうとしたが、オレの肩に手がおかれオレも捕まってしまった。
「え…オレでは練習相手にはなりませんよ…」
「はいはい」
「君はサボり上手だと聞いてるよ。」
オレ達は連行された。コートへ。
しかし、オレは少し興味が湧いて来た。
この梟谷の木兎さんは全国で戦う強者だ…
「いくぞー!!」
オレと月島でブロックを跳ぶ。
「月島…ストレートを完全に切ってくれ」
「お…おう」
木兎さんは一瞬、打つ方を目で確認した。
そこにオレはタイミングよく手を移動させ叩き落とす。
『ダァン!』
相手コートに良い音が響く。
皆はその光景に驚いている。
「おいおい…まじかよ」
「木兎さん。ドンマイです」
「木兎さん…抜けるといいですね…」
オレは煽る。
「おおんもしれぇ!!」
その後も何回もブロックを飛ばされ、気付けば食堂が閉まる時間ギリギリだった。