ようこそ青春の排球部へ   作:もと将軍

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 合宿から帰って来た次の日は普通に学校があった。

 皆は眠たそうに授業を受けているんだろうな…と考えながら、オレは退屈な時間を過ごしている。

 

 周りを見渡す。

 

 うん。そうだな…

 

 左から順に、一番左後ろは…話したことないな。

 

 うん。次だ。

 

 その前は男子で、飛ばしてその前の子は…話したことないな。

 何をしているのか。それは恋愛の教科書となる人物を探している。

 

 うん。次だ。

 次だ。

 次。

 つぎ。

 つ。

 ぎ。

 

 

 どうやら、オレは恋愛を体験できないようだ。

 

 

「何周りばっか見てんだ?

 おめぇはモテねぇ存在だから、周りを気にする必要はねぇよ!

 中学でインターハイにいったことのある俺のようなイケメンは周りの視線を常に気にしないといけないがな!」

 

 と、オレの後ろの席の男が話しかけてきた。

 入学から数ヶ月が経ち、オレも偶に話すやつができた。まあ後ろのやつは正直どうでもいいのだが。

 オレと正反対のやつで何と言うか気持ち悪い存在。

 確か名前は、[[rb:黒部屋 尻作 > くろべや けっさく]]だった気がする。覚えなくても良い存在だ。

 まぁ男子とは、少し話すようになった。

 だが、女子とはまだ会話がない。

 どう話しかければ良いのか分からないし、奇跡的に話しかけられることなどありえない。

 

 清水先輩やひとかを実験の材料として、使いたいとは思わない。もし付き合えたとしても、先輩たちに何を言われるのやら…

 

 一先ず、当初の計画通り、恋愛は中盤だな。

 

 

 

 

 今日は部活が休みだ。

 

 そのため、オレは授業が終わり次第帰ることにした。

 しかし、日向達だけでなく菅さん達も自主練をしている。

 帰るのはオレと月島くらいだ。

 そして、月島とも一緒に帰るわけではないので、オレは一人で帰ることにした。

 下駄箱でひとかと遭い、校門前でばったりと清水先輩に出くわし、また一緒に帰ることになった。

 

「合宿お疲れ」

 

「「お疲れ様でした」」

 

「綾隆は、自主練いいの?」

 

 と、ニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「休みも仕事の内って言いますよ…」

 

「あはは…そうだね」

 

「綾隆が自主練してたら次の日は台風が来るね」

 

 ひとか…失礼すぎないか?

 

「オレは見えない所で努力してるんだ」

 

「「はいはい」」

 

 もう全く信じてもらえない。

 

「あ、こないだ言ってた青春っぽいことしようよ」

 

「あー例えばどんな事ですか?」

 

 オレは全く思い浮かべられなかったので聞いてみることにした。

 

「んーそうだね…」

 

「あ、私!タコパとかやってみたいです!」

 

 ん…?タコパ…?

 

「タコパってなんだ?」

 

「「ええ!?知らないの!?」」

 

 二人に驚かれたが、普通知っていることなのか?

 

「…はい…知らないです」

 

「なんか、抜けてるよね」

 

「なら、タコパでいいんじゃない?

あ、タコパって言うのはね…家でたこ焼きを焼いて食べるパーティのことよ」

 

 へぇーだが…たこ焼きって食べたこと無いな…

 

「良いですね、やりましょう」

 

「どこでする!?」

 

 ひとかが急に張り切りだした。

 

「ひとかちゃんテンション高いね。」

 

「あ…ごめんなさい」

 

「ううん、私もこう言うのあまりしたこと無いから楽しみだ」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、バレー部って大変だからね…あまり休みとかないし」

 

 確かにあまり無いな。

 

「なら、今日やりますか…今日くらいしか休みないですし」

 

「良いけど、ひとかちゃんは?」

 

「私はお母さんに連絡すればいつでも大丈夫です!」

 

 と、胸を張って敬礼しながら言う。

 

「なら、今日にしよっか…どこでする??」

 

「機材だけ買えば、オレの家でも構いませんよ」

 

 と言うか前はオレの家に行こうって話になっていたしな…

 

「良いの?急にお邪魔しても、家の人とか大丈夫?」

 

「ん?オレは一人暮らしなので、何の問題もありませんよ」

 

「「ええ!?そうなの?」」

 

 二人とも驚いていた。そう言えば、誰にも一人暮らしをしているとは言ってなかったな。

 

「はい」

 

「なら、お邪魔させてもらおうかな…スーパーがすぐそこにあるから、そこで買おう」

 

「はい!!」

 

「はい」

 

「それにしても、一人暮らしって凄いね!私はできるかな…」

 

「慣れれば楽だぞ?

一人だから気楽でいいしな」

 

「そっか…でもやっぱり凄いよ!」

 

「そうかな…」 

 

 スーパーについたオレたちは具材や機材を買い揃え、オレの家に向かった。

 

「どうぞ」

 

「「お邪魔しま〜す」」 

 

「うわ…何も無い」

 

「まあ物欲ないですから…」

 

「広く感じるね!余計にさみしく感じそう…」

 

 ひとかは笑顔になったり寂しそうにしたりと感情が忙しそうだ。

 

「そうか?オレにはよく分からん」

 

 さっそく、清水先輩とひとかは具材を切り始めた。

 オレはしたことがないため見ていた。

 

「綾隆って変なとこで抜けてるよね…」

 

「そうですよね!その割にはあんな策を出したりして、やってることがめちゃくちゃです!!」

 

「そうか?」

 

「ねぇアイスも初めて食べたの?」

 

 何とも答えづらい質問だ。

 

「まぁ…はい…」

 

「やっぱりそうだったんだ…あんまり深入りはしない方がいいかな…」

 

「できれば…」

 

「なら、しないけど…これからはいっぱい知ってもらうためにも色々と連れ回すことになりそうだね」

 

 それは、なんとも嬉しいことを言ってくれる。

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「ふふ…楽しみだね!

ひとかちゃんも一緒に行こうね」

 

「はい!!」

 

 半球の窪みに出来た具材を流していく。

 そして、暫く経ってからピックで裏返しにする。

 オレもやらせてもらったが初めてのことは上手く行かないな…

 そんなオレを見て、二人は嬉しそうだった。

 

「なんか…嬉しそうですね…」

 

「だって、綾隆ができないことって珍しいじゃない?」

 

「そうですか?できないことは結構ありますけど…」

 

「例えば?勉強は手を抜いてるもんね?」

 

「…手は抜いてませんよ」

 

 痛いところを突かれる。

 

「信用できないね」

 

 やはり信じてもらえないな。

 

「綾隆は凄く賢いと思いますよ!

前に少しだけ、一緒に勉強したのですけど、スラスラと解いてましたし…頭の回転も早いですから」

 

「ほらね」

 

「…」

 

「言い返さないと言うことはやっぱりそうなんでしょ…」

 

「前も聞いたけど、なんでそんなに手を抜くの?

そっちの方が面倒臭くない?」

 

「…面倒臭くても面倒事に巻き込まれないためにやってるんだ」

 

「それ、もう遅いでしょ…」

 

「…確かにそうですね…」

 

「なら、もういいんじゃない?」

 

 と、二人とも笑顔でオレの目を見る。

 もう出すしかないでしょ…とでも言いたげな顔だ。

 

「気分が乗れば…」

 

「はぁーはいはい」

 

 出来上がったたこ焼きにソースを塗り、青のりを振りかければ、出来上がり。

 人生初のたこ焼きだ。

 買ってきたジュースで…

 

「「「かんぱーーーーい」」」

 

 オレはまず、たこ焼きを頬張る…

 ん…うまい

 

「やっぱり、食べている時の顔は出るんだね」

 

「うんうん!可愛いね」

 

「見られると、食べ難いのですが…」

 

「あははは…ごめんごめん」

 

 オレが食べるのを見た後、ひとかが食べ始めた。

 ひとかは、たこ焼きをまるまる一個を口の中へ入れた。

 それは…熱すぎるだろう…

 

「お、おいひい!!恋のような味がします!」

 

「ひとかちゃん!そんな一口で食べたら火傷するよ!」

 

「ん?恋?」

 

 この味が恋なんだろうか…?

 いや…これはあれか。例えばこれが丸焦げの肉を食べたなら「人生の味がする」とか言うのだろうか。

 と、オレはそんなどうでもいい事を冷静に分析をしていた。

 

 そんな珍事件もあった。

 

「ホントだ美味しい!」

 

少し無言で食べ続け、休憩に差し掛かる。

腹をぱんぱんと叩いて満足げにしているひとかにオレは問う。

 

「なんで、オレにちゃんとやってほしいと思うんだ?」

 

「うっ…」

 

 聞かれたくなかったのか、ひとかは俯き、清水先輩に目をやる。

 

「まあ、綾隆がちゃんとやればもっとチームは強くなると思うし…」

 

「そうてすかね…オレには今のチームは十分強いと思いますよ?」

 

 曖昧な返しをするオレに

 

「だって、綾隆だけ楽しそうじゃないんだよ!」

 

 と、俯いていたひとかが立ち上がって勢いよく言う。

 その顔は真面目だ。

 

「みんな笑ってるわけではないけど、真剣な眼差しで、取り組んでる…月島くんだって最近はあれが基本で、やる気はあるんだって分かったし、イキイキしてるのが分かる…でも…綾隆は何も無い」

 

「オレは表情に出にくいだけで、ちゃんとやる気は…」

 

「嘘だよ…綾隆はいつもそんなことばっかり…」

 

 オレは木兎さんとのブロック練習で少しはやる気がでたが、それをひとか達は知らない。

 最後の試合もやる気が出たわけではない。

 

「綾隆さ…前に自分が全力を出すと悪くなると言ってたことと関係あるの?」

 

「…」

 

 何も答えない。

 

「なら…少し深入りするけど、それを話せば楽になったりしない?

話すだけで、楽になったりするもんでしょ?」

 

 この人たちの純粋な優しさが痛いな。

 

「なりません」

 

 それでも、オレは断る。

 ここから先は入ってきて欲しくないところ。

 二人を拒絶をする。

 二人は握りこぶしをギュッとして、俯く。

 

「ですが、最近は木兎さんたちと練習をしてから少しずつやる気は出てきてます。

だから、これからはちゃんとやっていきますよ」

 

「それで、綾隆は楽しめそうなの?」

 

 ひとかは妙に痛いところをついてくるな…楽しいか、なんて考えていなかった…

 言葉が詰まる。

 

「…」

 

「ほら…やっぱり…一人だけ楽しめてないって辛いよ?」

 

「それで、この仲のいいチームに邪魔になるようなら抜けるさ」

 

「っ…そんな事は言ってない!」

 

 ひとかは叫んでオレを強く睨む。

 清水先輩も何も言わないがオレの言葉に、怒っているようだ…

 どうやら言葉選びを間違ったようだ。

 

「…悪い」

 

「綾隆はどうしたら楽しめるようになるの?

平穏な暮らしでサボり続けて何か変わった?」

 

「………」

 

 何も答えれないな…正論だから。

 

「だったら、変わろうよ!私はここに来て変われたんだよ!」

 

 ひとかの震える手を見て、やっぱりオレと一緒にいることは良くないと思う。

 生きる世界が違う。

 

「オレは…オレがどれだけ愚かで恐ろしい人間かを理解している。

 自分の力を使うと言うことは、過去と同じことを繰り返すことになる。

 オレとひとかでは分かり合う事はできない」

 

 拒絶するように言う。

 しかし、涙を堪らえようともせずに、泣きながら胸ぐらを掴まれ押し倒された。

 

「何も話してないのに、何も知らないのに分かり合えるわけがない!!

分かり合おうとする努力くらいしてよ!!」

 

 いつもの天然で弱々しい、ひとかとは思えない。そんな迫力があった。

 だが、オレもこれより踏み込まれるわけにはいかない。

 ひとかを押し返し、拒絶する。

 

「なぜ…そこまでオレに構う…オレは過去を話したいと思わないし、分かり合えなくても良い。お前と分かり合いたいと思ったことは…」

 

[パチン!]

 

 と、乾いた音がこの狭い部屋に響き渡る。

 清水先輩に平手打ちをされた。清水先輩も涙目だった。

 

「…」

 

清水先輩は何も言わず、ひとかがこう言う。

 

「そんなの…私が…綾隆のことが好きだからに決まってるじゃん!」

 

「え……」

 

 人生で初めて異性から告白を受けた。

 オレの脳内で今までのひとかの言動や表情を思い浮かべ分析されていく。そして、恋愛感情と言うものが1ページ目となった。

 

「だから…知りたいんだよ!

綾隆の考えてることや綾隆自身のことを!

綾隆に言われて自分を見つけれたし、一緒にマネージャーの仕事をして、下校したり、昨日は焼き肉を食べた!今はたこ焼きを一緒に食べてる!

私はこんなにも楽しかったのに…綾隆は何とも思ってなかったの…?」

 

 何と言えば良いか分からない…

 恋愛もまだ外の世界に来てから見ていない…

 こう言ったカリキュラムは無かった。

 教科書に載っていないことはできない。

 これがオレの短所だ…

 

「綾隆は本当に何も思っていなかったの?」  

 

 清水先輩も聞いてくる…

 

 …どうするか…自分の気持ちを伝えるしか無いが…それが正解なのか。

 

 

「…楽しいと言う感情をオレは知らない…

でもその感情を知りたいとは思う。

ひとかや清水先輩…皆と居ることは悪くないと思ってはいた」

 

自信の無い言葉…

 

初めて、感情を言葉にした。

 

「そっか…悪くないか……」

 

 ひとかは涙目で笑う。清水先輩は微笑んでいる。

 これは…正解だったのだろうか。

 

「綾隆の不安そうな顔…発見だね…」

 

 と、清水先輩が言う。

 

「ホントだ…」

 

 ひとかが続く…

 

「あーでも、これ振られちゃったってことかな…」

 

 と、また泣き始めるひとか…

 オレは座り、優しく抱き寄せる。

 抵抗されないということは、正解なのだろうか。

 

「その知りたいって思ってるってことは、これから一緒に乗り越えていけるってことかな?色々と…」

 

「…努力します」

 

「良かったね、ひとかちゃん…分かり合っていくのはこれからだよ」

 

「ひとか?」

 

 反応のないひとかの顔を見ると眠っていた…泣きつかれたのか…

 オレはベットに寝かせて、冷めているたこ焼きを一つ頬張る。

 

「ごめんね…はたいちゃって」

 

「いえ…まあ、お陰様で効きました。」

 

「結局あなたのことは何も分からないままか…」

 

「すいませんね…話したくは無いもので…」

 

「ああ…ごめんごめん、気にしないで…あなたが私達と共に歩んでいっていくれるだけで嬉しいからね…」

 

 そう言ってくれる清水先輩だが…

 オレには疑問に思っていることがあった。

 

「ところで、清水先輩はどうしてここまでしてくれたんですか?」

 

「え!?」

 

 少し顔が赤くなってる…この表情…オレは一度見たものは分かる。

 聞くのは野暮ってやつか?

 

「冗談ですよ」

 

「な…生意気な!」

 

 そう顔を真っ赤にしながら、プンスカ怒っている。

 普段見られない清水先輩の可愛いところが見れたので良しとしよう。

 

「すいません…オレの為にここまでしてもらって…」

 

 オレは頭を下げて謝った。

 

「いいって…私が…あなたと関わりたいと思ったから、綾隆の事情を鑑みずに動いちゃったんだから…元はと言えば、私のほうに非があるよ」

 

「そんなことは…」

 

「はい、もうやめやめ!こんな話、続けても気分が下がるだけね」

 

 清水先輩は大げさに手を交差させこの話を止めた。

 

「そうですね…どうしますか?もう結構遅い時間ですよ…」

 

「ひとかちゃんが起きるまで待っていようかな…手を出させないように」

 

「出しませんよ…」

 

「ふふ…冗談冗談」

 

 ひとかが起きるまで、片付けをして話をしたりしていた。

 

「ひとかちゃんは良い子だよね…可愛いし…」

 

 と、言いながら髪を撫でていると、ひとかが起きた。

 

「 ん……ん?…………ハッ!!」

 

 どういう状況か理解できると、立ち上がりベットから出て、全力で土下座した。

 

「すいませゆでした!!」

 

「いや…謝る必要は無い。」

 

「でも、怒鳴って叫んだ上に、遅くまで寝ちゃったし…」

 

「悪いのはオレの方だからな…親に連絡するか?」

 

 ズバババと携帯で連絡を入れ、こちらに向き直った。

 

「…」

 

 何を言えば良いか分からないようだ。

 俯き、口が開かないひとかを見て、清水先輩が代わりに言う。

 

「まあ…これから一緒に歩んで行けば、分かり合えるよ…綾隆はそう言う努力をしてくれるようだしね」

 

「…はい、努力します…」

 

 とは、言ったものの…オレにそんな事がてきるのか分からない。

 

「そうだね…いきなり踏み込もうとしすぎた…前も反省したのに…」

 

「いや…あのままではオレは成長しようともしなかった…ありがとう」

 

 オレはひとかの頭に手を置き、そう言った。

 

「うん…」

 

「さて、そろそろ帰ろっか…」

 

「そうですね…送ります」

 

「お言葉に甘えようかな」

 

「ありがとう」

 

 帰り道は、特に気まずい雰囲気になること無く、会話も弾んでいた。

 

「あ、ちょっとトイレに寄ってもいいですか?」

 

 コンビニのトイレを借りることにした。

 オレも外に出ると、トイレに行きたくなったため、オレもコンビニに入っていった。

 清水先輩はコンビニの外で待っていてくれた。

 

 しかし、それが不味かった…

 

 オレがトイレから出て、コンビニの中から外を見ると黒いフードを被った男が、清水先輩に近づいていく。

 雰囲気で分かる…あれは危険なやつだ…以前、主将が言ってた通り魔ってやつか。

 オレは急いで、コンビニから飛び出す。

 清水先輩は少し離れた場所にいて、近づいていく男にまだ気付いていない…間に合うか…

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 コンビニの外で風に当たってボーとしていた。

 新しく入ってきた一年生で、初めは何の害も無さそうな後輩だった。

 ところが、マネージャーの仕事を手伝ってくれるようになってから、気になりだした。

 不思議な人…ミステリアスで知りたいと思うようになった。

 テストの事で、やっぱり手を抜いていたんだと確信した。部活で手を抜いていることにも…

 

 私は彼に良く話しかけるようになった。

 普段無口な人だけど、話すことが苦手と言うわけではないようだ…でも未だに笑顔が見れない。怒った表情を見たことがない…

 いつか、彼のことを知れる時が来れば良いのにと考えるようになっていた。

 

 だけど、その時は突然やってきた。

 家でタコパをすることになった。

 これはチャンスだと思い、踏み込んだ…その結果、彼は私達のことを何とも思っていなかった事が分かった。

 そして、分かり合う気などないと言われそうになり、感情の赴くままにはたいてしまった。

 でも、彼は楽しいと言う感情を知りたいと言ってくれたし、努力するとも言ってくれた。

 

 楽しいを知らないって…本当にどんな生活をしてきたのか…

 

 コツコツと音がする…

 

 大きくなるその音で、意識が引き戻される。

 顔を上げると道路側からこちらにむかってくる黒い男が真っ直ぐにこちらに向かってきていた。

 ポケットから出てきた手を見ると、銀色の物が際立っていた。

 

「ヒィ…え…」

 

 身体が強張り動けない…男はそのまま、銀色の物…ナイフで私の胸辺りを目掛けて突く…あ、終わった…

 

 しかし、左肩を引かれ後ろに下がる…が、眼の前は血飛沫が飛んだ。

 

あ…手が…

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 何とか間に合ったか…まさか通り魔に遭遇するとは…

 しかし、こちらは刺されたんだ…刺されなくても防犯カメラがあるから大丈夫だろうが、これで何しても良いと言うことだ。

 それに…しばらくの間、試合に出なくても良くなった。

 

 刺された方の手で、全力で握り返す。

 

 ボキボキと、音がなる。

 

 男は、驚愕し持っていたナイフを離そうとするが、オレが骨を砕き、手を掴んでいるため逃げることはできない。

 

 そのまま、地面に全力で叩きつけ、相手の意識を奪う。

 

 そして、ナイフが突き刺さった手をオレの背中の後ろに隠し、清水先輩に問いかける。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ…あ…手…手を!」

 

 清水先輩は混乱していて、上手く話せていない。

 コンビニの中を見ると、悲壮な顔をしたひとかが、こちらを見ている…

 

 オレは取り敢えず、無事だった左手で清水先輩を抱きしめ、背中を擦る。オレの胸の中で暴れている。オレの手を見るために離せと言う意味だろう。

 

 だが、オレは強い力で抱きしめることで、清水先輩は少し落ち着いたようだ。

 

「救急車を呼ばなきゃ!あれ、携帯」

 

 清水先輩は鞄の中から携帯を探すが、焦っているときほど探しものは見つからない…そうこうしている内に、コンビニ店員が駆けつけてくれて、救急車と警察を呼んでくれた。

 

「大丈夫ですか!?

今、救急車と警察を呼びましたので!」

 

 店員の大きな声に、ハッとしたひとかがこちらに来た。

 

「あ…あや…綾隆!しなないでぇ〜」

 

 大袈裟な…

 

「これくらいでは死なないぞ」

 

「ごめんなさい…私がボーっとしていたから…ごめんなさい」

 

 何度も謝る清水先輩…

 

「問題ないですよ…手を怪我しただけなので病院行って治療すれば良いだけですし、清水先輩に何も無くて良かったです。」

 

「…違うでしょ!この大切な時期に怪我を…」

 

「オレが出なくてもこのチームは強いです。

清水先輩に何かある方が、チームの士気を落とします。」

 

「な、何で綾隆は平気なの!?手に穴が空いてるんだよ!?」

 

 ひとかが号泣しながら言う。

 

「さあ…何でだろうな」

 

 ここで救急車が着き、オレは乗る。

 清水先輩はようやく携帯を見つけ、先生に連絡した。

 二人とも救急車に乗りついて来た。

 

 病院に着き手当てを終え、待合室に戻ると武ちゃんとコーチ、清水先輩、ひとかが居た。

 

 二人は未だに泣いていた。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

 と、オレに気付いたコーチがこちらに来る。

微かに血が滲んだ包帯を見て、

 

「救急車!救急車!」

 

 と、武ちゃんが取り乱して病院の中で叫んでいたのは傑作だった。

 

「特に問題無いですね…一ヶ月と少ししたら治るみたいです。」

 

「そうか…まあ大事に至らなくてよかったぜ」

 

「いや~もう本当に心配しましたよ!」

 

 泣き続けている二人に近づいていき、声をかける。

 

「二人とも…この程度大丈夫ですから…」

 

「「この程度じゃ無いよ!」」

 

「…オレには清水先輩の平手打ちのほうが痛かったですよ…」

 

 と、割りと本気で言ったが…

 

「今は冗談言ってる場合じゃないでしょ!」

 

 と、怒られた…

 オレは今から警察に事情聴取を受けなければならない…いい体験ができる…

 直ぐに終わると思っていたが、結構長かった。

その為に、22時を有に過ぎていたので、親を呼ぶことになった。

 

 しかし、

 

「オレ、一人暮らしなので居ないんですけど…」

 

「なら、連絡だけさせてください。

そう言う決まりですので…」

 

「…」

 

 沈黙するオレに皆がこちらを見る。

 

「どうかされましたか?」

 

「あ…いえ…オレは親はいません」

 

「「「「「え…」」」」」

 

「そうですか…親戚でも宜しいのですが…」

 

「…いません」

 

「…そうなりますと、先生方に送り届けて貰うしかないのですが…」 

 

「すいません…先生、お願いしてもよろしいですか?」

 

「あ、はい!僕は全然大丈夫です!」

 

 その後、迎えに来た二人の両親…特に清水先輩の両親に深く感謝され、こちらも遅い時間に出歩き、危険なことに巻き込んだことを謝罪した。 

二人とも最後の最後まで泣きながら謝っていた。

 

「それでは、先生宜しくお願いします」

 

「ええ!任せてください!」

 

「…」

 

 車を出した武ちゃんはオレに話しかけて来た。

 

「清水さんや谷地さんを守ってくれてありがとうございます。

 残念なことに、綾隆くんは一次試験に間に合わないですが、きっと烏野は勝ってくれますよ!

 あんなに練習したんですから!

 なので、今は大人しく手の治療に謹んてください」

 

「はい…このチームは強いですから、きっと勝つでしょう」

 

「はい!それから…踏み込んだ話になりますが…先程…家族がいないと言ってましたが、何か不便な事とかありませんか?

 僕で良ければ力になりますよ」

 

「今のところはありません…何か不便な事があれば、お願いします。」

 

「はい!何でも言ってくださいね!」

 

 本当に…ここの人達を見ると…今までのオレの人生を否定される気分になる。

 人に付け入る隙を、自らよく見せれるな…

 

 

 家に帰ると、妙に静かに感じた。

 普段聞かないが、携帯で音楽を鳴らす。

 

 そして、右頰を擦りながら思う。

今まで何度も殴られ、骨が折れることもあった。

 今回は手に穴があいたが…清水先輩の平手打ちが一番痛かったな…

 

 そして今日はひとかに告白まがいのことをされた。恋愛という1ページ目を理解することができた 。

 

良い日だ。

 

 

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