そして、お待たせしました。
翌日登校すると…
全校生徒から注目を浴びていた。
右手に巻かれた包帯だろう。
放課後…
体育館に移動し、部活は見学すると言うことを皆に伝えた。
見学と言うか、マネの簡単な仕事を手伝うこととストレッチをすることになった。
「おい〜!!綾隆!死ぬなぁ〜!!」
と、日向に抱きつかれる。
「おい、殺すなよ」
と、周りから突っ込まれていた。
「「綾隆先輩!!良くぞ、清子さんを守ってくれた!!」」
と、謎に先輩呼ばわりをされた。
「あわわわわわあわわわわ」
ひたすらに、あわあわ言ってる人もいる。
影山も月島も何も言ってこないが、オレの手を見て心配そうな顔をしている。
まぁ色んな反応をされたけど、皆心配してくれていた。
清水先輩は元気がなく、目も腫れていて、静かだった。
ひとかは頑張って話しかけてくれている。それでも昨日のショックはまだ残ってるのだろう。
さて…いよいよ明日から一次予選だ。
皆は今日も練習に励む…
「清水先輩が元気ないとチームの士気が保てないですよ?」
「…分かってる…ホントにごめん」
「そんな何回も謝らないでください…オレは元々、ベンチからこのチームが戦う姿を見たかったので、特にショックな事なんて何もないんです。」
「また、あなたはそうやって…」
「それに、ベンチに座って見れたら、オレは清水先輩と一緒に観戦できると言うことですよ?良いことじゃ…ぶな」
また平手打ちが飛んでくるが躱す。
「あなたは私に興味ないんでしょ」
「そう言う努力をしてるんです。」
これは本音だ。
駒以外の何かを得たいと思っているのは事実だ。
「そう言うことにしとく…それとあなたはケガして出られないからベンチにすら入れないわ」
「そうですね…」
「でも、そうだね…私が凹んでいてもダメだね…
わたしのせいで怪我したから、部活終わったら料理くらい振る舞う…」
「ええ…また夜遅くになるので危ないですよ」
「…」
それで気持ちが楽になるならいいか…
「分かりました…なるべく早く帰るようにしましょう」
「ごめんね…気を使わせちゃって」
部活が終わり、清水先輩とひとかを家に招待しご飯を作ってもらって一緒に食べる。
食べ終わった後は、食器を洗ってもらいながら軽い雑談をし、遅くならないうちに家まで送り届けた。
そして、一次予選…当日
すっかり立ち直ったひとかと清水先輩にみんながホッコリとしながらバスに乗り込む。
春の高校バレー
宮城県代表決定戦 一次予選
第4・5組試合会場 加持高等学校
オレ達烏野は会場に入り、準備をしていた。
「あれだよ、ほら烏野」
「え?」
他校から噂をされてるな。興味は無いため、聞こえないふりで移動する。
しかし、今は大問題なことがある。
日向が盛大にコンビニで吐いた。
スッキリはしたらしいが、顔がげっそりしている。
「日向大丈夫?」
ひとかが心配し、声を掛ける
「大丈夫大丈夫、来る途中で吐いたしスッキリした。お腹空っぽだけど…」
「朝から大量にかつ丼食べて来るとかウケる。そら酔うわ」
月島が煽り、
「日向ぼけぇ!日向ぼけぇ!」
影山が怒る。
「影山の罵倒ボキャブラリーは、ボケだけだなあ」
主将が影山に対し冷静に突っ込む。
「頑張って増やします!!」
「勝負の日はカツ食うだろ普通!」
「普通とは一体」
「だが、吐いたらお腹空っぽになったんだろう?
ただげっそりした人になったな」
オレも一応煽る。
コンビニの店員に謝罪したのはオレだからな。
「う...うっせぇな!!」
他にも山口や東峰さんが吐きそうになっていたり、2年の馬鹿どもが日向を煽ったりとしている。
うん…いつも通りで何よりだ。
一次予選
第二回戦(烏野高校は初戦)
烏野 VS 扇南
オレとひとかはベンチに入れないので、二階の観客席に移動した。
なんか、相手と揉めてるな...主将に怒られないといいが...
「烏野ファイ」
「オース!」
「オース」
主将の掛け声に、ひとかも小さく合わせていた。
さすが、純情少女だ。
「お?アンタも見に来たのか?」
横にいたおじさんが、近付いてくる子供連れのおじさんに声を掛ける。
「烏養先生」
へぇーこの人がコーチの...
「かわいい孫のチームだもんな」
「そんなんじゃねーよっ」
その言い方…ツンデレか?
いや、誰も得しないな。
「お姉ちゃん高校の人だよね?なんでここにいるの?」
「マネージャーは一人しか入れないんだよ?
知らないの?」
ムスッとして言う。
小学生に煽られる高校生...
「お兄さんは?」
「ん?オレはケガをしてな」
「うぇ~痛そう!大丈夫⁉」
ひとかは顔を俯かせる。
オレはひとかの頭に手を置き安心させる。
「ああ、大丈夫だ。
何の問題もない」
「ほう…小僧が繋心が言ってたやつか」
「なんて言ってたんですか?」
「烏野のことは大体聞いたけどな、とんでもない策士がいた。とか言ってたな...梟谷を倒したそうじゃないか...」
「あれは、烏野の成長スピードを目の当たりにし、終始こちらのペースだったからですよ。オレは特に何もしていません」
「ふははは、そうか」
ひとかは何故かこちらを睨んだ。
ひとかに睨まれても何も怖くないが…寧ろかわいく見える。
頭を撫でてやると、途端に笑顔になった。
試合内容は…実力の差は歴然であった。
第一セット終了
25-16 烏野のリード
しかし、何があったか知らないが、
「烏野を倒す!!一次試験予選突破!!打倒白鳥沢!!!」
扇西の1番が突然吠えた。
さっきまでは、やる気の欠片もなかったのにな…
ひとかは横で怯えている。
「何か急にやる気出してきたよ…大丈夫かな?あわわわ…」
「大丈夫だろ」
背中に手を置きそう答えると。
「うん」
急に真剣な眼差しになって、首を縦に振った。
「受けて立ぁーつ!」
田中先輩がそれに答える。
第二セットが始まる。
しかし、いくら急にやる気を出して、粘るとはいえ実力の差はそう埋まるものではない。
25-13 烏野の勝利
ひとかは飛び跳ねて喜んでる。
「嬉しくないの?」
ムスッとした顔で聞いてくる。
「嬉しいが、飛び跳ねて喜ぶのはな…」
動きが固まった。
急に恥ずかしくなったんだろう…どんどん縮こまっていく。
元々小さいのに更に小さくなる。
オレはそんなひとかを抱えて、みんなを迎えに行く。
選手は、挨拶をするためまだ残っているので、一番最初に出てきたのは、清水先輩だった。
「あれ?ひとかちゃんどうしたの?」
「ああ…自分の精神年齢の低さに気が付いたとたん、こうなっちゃいました。」
「あなたが何か言ったからでしょ?」
「…最近分かったんですが、こう言う感情がハッキリと表に出る人を観察するのは、オレの中で楽しいに分類されるのだと知りました」
「そ……そう」
「そんなんで、楽しくなられるのは嫌!」
ひとかが再起動した。
「そう言うとこだぞ」
「ううぅぅ…」
「ふふ…でも、そういうところはひとかちゃんの良いところだよね」
「そうですか⁉」
「ええ!」
「ふふふふふ…」
自信を取り戻したか…
そうこうしている内に、選手が出てきた。
そして、すぐに次の対戦相手を見るために移動する。
一人だけ異様に際立っている。
角川学園の9番の身長が跳び抜けていた。
身長は2mもある。飛ばずともネットを超える腕、ブロックの上から放たれるスパイクは最早凶器であった。
その光景を目の当たりにしたひとかと日向は震えあがっている。
「ヒィッ」
いや...東峰さんもビビり倒している。
「次の対戦相手決まったな」
「あの2m倒さなきゃ代表決定戦には進めない…!!」
「おーい!ミーティング始めるぞ!」
「「「「「「はい!」」」」」」」
試合を観戦したオレ達はコーチの周りに集まって、ミーティングを始めた。
「綾隆、何か策はあるか?」
何故オレに…
「...そんなに手ごわい相手に見えませんでしたが?」
「え⁉だって、お前2mだぞ⁉どうするんだよ」
「日向…お前さっきの試合ちゃんと見てたのか?」
「見てた!」
なら、気付け。
「…あの2mはまだ初心者だろう。
レシーブはできない、ただ高く上がったボールをクロスに叩き落とすだけ…なら、対策は簡単だろう」
「ああ…そうだな、攻撃では2mを狙い、高く上げさせない」
「お、おお!なるほど!!」
「ブロックもどこへ行くか見てから飛んでいたから」
「あれが使えるってことか」
「おお!天才だな!綾隆」
目をキラキラと輝かし、日向が詰め寄ってくる。
「単細胞以外には分かるだろ」
「う、うっせぇな!」
余裕ができた日向だったが、山口が余計なことを言った。
「201㎝と162㎝か…」
「四捨五入すれば、おれは163㎝です!」
「四捨五入すれば、200㎝と160㎝だ」
だが、オレもそれに乗っかった。
「あ?どこを四捨五入すればそうなる⁉あ、さては…」
「40㎝差か」
そして、月島が煽る。こいつはもう煽らないと生きていけないやつだな。
「聞けよ!」
「よっ40㎝なんてキーていちゃんと同じサイズだよ!そんなに大きくないよっ」
ひとかの止めのフォローが入る。
「フジクジラも」
既に灰となって散った日向だが、月島はまだ煽る。
「何それ」
「サメの一種」
「おお!」
と、話が脱線する。
日向はどんどん小さくなる。
「ま、まぁそう言うことだ。
いつもの点取り合戦になるだろう!
お前たちらしく戦ってこい!」
「「「「「「「はい!!!!!」」」」」」」
烏野 VS 角川 開始
「一回でも負けたら終わりなのに、相手が2mなんて…」
ひとかはまだ、不安そうだ。
「仲間を信用できないか?
さっき話し合ったように大丈夫だ」
「仲間…?」
鋭くなった目でこちらを見る。
「あ、ああ」
オレが肯定すると。
「そうだね!」
笑顔になって頷いた。
試合は序盤こそリードされていたが、すぐに対応し巻き返した。
日向は、まだ単体では脅威にならないか...フェイントしても2mの壁に防がれていた。
しかし、影山とのコンビを組めれば、最強の囮に化ける。
バレーにおいて、最も重要な点は...慣れだな。
最強と思われた日向と影山の超速攻でさえ、見慣れると止められ始める。
それは、2mだって同じこと、次第に2mの対応もできるようになってきた。
2mはクロス打ちしかできないようで、ストレート捨ててクロスに絞る...それだけでも十分対応できるようになった。
「だっしゃあああい!!」
「おおおっ上げたっ」
「リベロかっけぇぇぇ!!」
主に西谷さんがレシーブをする。
安定して取れるようになれば、攻撃に転じやすくなる。
そして、超速攻が決まる
「うおおおおお!!
出た!!IH予選でやってた超速攻!!」
(ふふふ…それとはチョット違うんですな、ふふふ!!)
顔に書いてあるとはこのことか…
「ひとか...別に我慢する必要ないぞ?」
「ハッ…!見てた…?」
「いや...見てたから言ってるんだが」
「ううぅぅ…」
「やっちー顔変だよ」
小学生にも揶揄われている
「ぐはっ…」
そのまま倒れていった。
日向が活躍すれば、周りもいつも以上を発揮する。
そのままの勢いで点を取って行き
第一セット終了
25-22 烏野リード
「おおおお!!取った取った!!!」
復活したひとかが、隣で大はしゃぎをしていた。
「先生!!翔ちゃんのあの速攻も1stテンポなんですかっ⁉」
烏養先生に子供たちが質問する。
「テンポのことはちゃんと覚えてるか?」
「はい!!
高ーく上げたトスに合わせて余裕を持って助走を始めるスパイクが…サード・テンポ
トスが上がるのと大体同時に助走を始めてトスに合わせて打つのが…セカンド・テンポ
スパイカーが先に助走に入ってきてそこにトスを合わせるのが…ファースト・テンポ
皆が速攻って呼ぶやつ!」
「ブロックに勝つという事は、ブロックよりも高い打点から打つという事。チビ太郎対2mより先にてっぺんに到達した者が勝者。
チビ太郎のアレは厳密にはファースト・テンポではない。
セッターがトスを上げる時点でスパイカーの助走及び踏切が既に完了している状態…マイナス・テンポだ」
「マイナス・テンポ!!」
子供たちは憧れの表情をするが...
「真似しようと思うんじゃねぇぞ」
「え?なんでですか?」
「あんなことができるのは、あのセッターのトンデモ技があるからだ。
それにしてもチビ太郎のマイナス・テンポは単品では確かに凄いが、使い方がもったいないな」
烏養先生もそう思っているらしい。
第二セット開始
烏野が得点を重ねていくが、急に2mがバレー魂に火がついたようで、点の取り合いだった。
点の取り合いはこちらも見ていて面白いな。
角川は2mが。
烏野は多彩な攻撃で。
両者一歩も引かない戦い...しかし、2mが後ろに下がると一気に烏野の押せ押せモードになる。
ずるずると烏野がリードして行き、迎えたマッチポイント。
2mがスパイクをするが、それをソフトブロックで弾く。それを何とか繋ぎ、田中先輩がトスを上げるが、ちゃんとした助走ができていない。
そして、相手ブロックは2mだ。
誰もが、不可能だと思ったが…
日向は上に向かって打ち、2mの指に当て、見事なブロックアウトだった。
日向も入れるのか…
第二セット終了
25-19 烏野勝利
「やったあああああ!!フジクジラいなくても勝ったアア!!」
と、抱き着きながら喜んでくる。
「ああ…良かったな」
落ち着きを取り戻したひとかは、顔を赤らめて離れていく。
「ごごごごめんなさい!!」
「問題ない」
「やっちーと綾鷹、ばいばい!!」
「漢字が違うんだが...」
「なんで分かるの⁉ばいばい~」
オレ達は烏養先生と別れた。
今日の試合が終わったため、撤収するので荷物を片付ける。
オレはケガをしているので、自分の荷物だけを持って帰る準備をする。
「「清子さん!荷物持ちます!!」」
2年の馬鹿二人がそう言う。
「もう大体持って貰ったから」
「おーい、行くぞ!」
「私最後に忘れ物無いか見てから行くから、ひとかちゃんも先行ってて」
オレ達が移動すると、日向が叫ぶ。
「ハァッ!!弁当箱忘れたっ!」
と言って、急いで戻る日向。
清水先輩が居るとはいえ、迷子になるかもしれんな...
「オレも一応ついていく」
「わかった~」
階段を上がると、日向が怯えながら隠れていた。
「どうした?」
「あ、綾隆!あれぇ~」
指を指された方を見ると清水先輩が他校に絡まれ、迷惑そうにしていた。
「オレが行く」
「え⁉ええ⁉」
怯える日向を無視し出て行く。
「ウチのマネージャーに何かようですか?」
「あ、綾隆」
一斉にこちらを見るが、無視して清水先輩を連れ出して帰ろうとすると肩を掴まれた。
「待て待て話の途中じゃん」
と言ってくるが、無視して進もうとすると、オレの肩を掴む力が強くなる。
思わずため息がつきたくなるのを我慢し、振り向く。
「…」
「「っ…」」
何も言ってこなかったため、踵を返し歩き出す。
「行きましょう」
「え…ええ。また、助けられたね…」
清水先輩は申し訳なさそうにするが、これくらいで感謝される方がむず痒い。
それよか2年の馬鹿二人なら喜んで助けるだろう。
「こんなこと…助けた内には入らないと思いますが?」
「…ありがとう」
「…はい」
「綾隆ぁ~ありがとう~」
半べそをかいた日向を回収し、みんなの元に戻る。
帰りのバスは日向の弁当箱のことで盛り上がった。
次の試合は10月末であり、かなり時間が空く。
だが休みは勿論、放課後も練習でびっしりと予定が埋め尽くされている。
正直なところ、気乗りはしない。だから、少し負けることに期待した。これは、口が裂けても言えないが...
だが…
少しだけ勝てたことに、ほっとしている自分がいることに気付いた。
何とも感慨深い気持ちだな。