ようこそ青春の排球部へ   作:もと将軍

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始動

 

 夏休みが終わり

 日常的な生活をおくっていた。

 いや…一般的な男子高校生が送れないような生活を送っていた。

 

 部活が終わると、女子二人と下校し、身の回りの世話をしてもらっている。

 主に3年の先輩に…

 ここまで楽を覚えると、さすがに前の生活に戻りたくないなと思う自分もいる。

 二人はこれくらいしないと、自分の気が収まらないと言って、自らしてくれるのだが…日に日に不満が溜まっているのが見て取れた。

 

 勉強道具を一切持っていないのにどうやって勉強しているのか…

 何故、笑わないのか。ちゃんと努力しているのか。不満はないのか。

 等々を聞かれるが、何一つちゃんと答えないオレに腹を立てた。その結果チクチクとした口撃が痛い…

 

 彼女たちは十人が十人とも美人、可愛いと言うだろう…そんな彼女たちに世話をしてもらえることは素直に嬉しい。

 だが、それでも過去を話したいとは思わない。

 

 今日も家に来てもらって料理をしてもらっている。

 ひとかは家の用事で来ていないので、清水先輩と二人きりだ。

 オレが一人で考え事をしていると…

 

「できたよ」

 

「ありがとうございます」

 

 おお…これはもしや…

 

「今日は肉じゃがね」

 

 自分でも作ってみたいと思っていたものだ。一口食べる。

 

「美味しいですね」

 

 清水先輩が作るご飯は絶品だった。

 

「ご飯食べてるときは分かりやすいのに...」

 

「最近...不満が溜まってきてませんか?」

 

「はてさて、何の事かな」

 

「言い方に棘がありますよ」

 

「…ごめん」

 

 口先を尖らせて謝る。

 

「…聞くだけなら聞きますよ」

 

「あなたの事だけどね」

 

「ですよね…」

 

 まぁ…それは分かっていた。

 だが、ストレスは誰かに話してしまえば、割と収まるものなのだろう。

 オレはストレスなど溜まらないので分からないが…

 

「良いの?言っても」

 

「まあ言いましたし…」

 

「綾隆に信用してもらえないのが腹立つ...こんなに一緒にいるのに一向に距離が縮められないことに腹が立つ…綾隆に守られてばかりの自分に腹が立つのよ…」

 

 なるほど…オレにではなく、清水先輩自身に腹を立てているようだ。

 

「守られてばかりって…まだ試合の時のことを言ってるんですか?」

 

「考えてしまうんだから仕方ないでしょ」

 

「そうだとしてもたった2回ですよ…オレはいつも料理を振舞って貰ってるんです。

それで貸し借りは無いはずですが…」

 

「貸し借りって言い方は止めて」

 

「すいません」

 

 また、言葉の選択を誤ったようだ。

 どうもこの手の事では、よく間違えてしまう。

 

「...ごめん」

 

 涙が溢れながら謝る。

 

「何で清水先輩が謝るんですか?」

 

 横に移動し、背中を擦る。

 清水先輩は思っていることを口に出す。

 

「あなたのことが何も分からない」

 

「…オレは今まで、誰も仲間だと思ったことは無かったですよ...ですが、ここ最近ではひとかや清水先輩に怒られてそう言う努力をしたので、少しずつですが仲間だと思うようになりました。

距離は縮まってると思いますが…」

 

「それで納得できるのはひとかちゃんだからよ!私には時間がないんだから…私がここに居る間にあなたのことを知りたい…」

 

「……なら、今度の休みの日にどこか遊びに行きますか?」

 

「え…?」

 

「オレは自分の過去を話したくはありません。

確かにオレの人格を作り上げたのは、過去の出来事があるからです。

ですが、それを知ったところでどうしようもないことです。

それに誰かにオレの過去の事を知ってもらいたいと思ったことはありませんし、関わって欲しくありません。

なので、話しません。

ですが、オレの性格が知りたいだけなら、関わっていく内に知って貰えばいいこと…時間がないのなら、会う時間を増やせばいいんじゃないですか?」

 

 清水先輩は目を見開いて驚いていた。

 

「そうね…そんな簡単なことも思いつかない何て…周りが見えていなかったね…今度の休み遊んでくれるかな?」

 

「ええ…良いですよ」

 

「本当に先輩らしくなくてごめんね…」

 

「謝る必要はないですよ。悩んだときは視野が狭くなるものですから」

 

「後輩とは思えないね…」

 

「…まあ、食べましょう」

 

「そうだね」

 

 

 

8月末

 オレの怪我は順調に治っている。とは言え、まだ運動していいわけではなかった。

 10月末に行われる代表決定戦までの間で、練習試合を行うため東京へ向う。

 オレは運良く怪我をしているためマネの仕事をするだけである。

 この2ヶ月の間に2回行くらしい…後の一回はオレも参加しなければならない…

 

 木兎さんや全国で戦う猛者と対戦してみたいと言う気持ちはあるが…外から見ていたいと言う気持ちもあり、なかなか自ら参戦しようとは思えなかった。

 バスを降りると早速煩いのが来た。

 

「へいへいへ〜い!ツッキー!あ〜やたか!ブロック跳んでくれぃ!!と言うか一次予選俺らはなかったぜぃ!!へいへいへ~い!」

 

「すいません…オレ手を怪我してしまいまして…」

 

 オレは包帯にぐるぐる巻にされた手を見せる。

 

「おお!?大丈夫か?あ~でも、これじゃできないじゃんかよ~…ツッキーは?」

 

 しょんぼりしながら月島に聞く。

 

「はい…お願いします」

 

「うぉおお!?」

 

 聞いた本人が一番驚いている。

 烏野側も驚いていた。

 

 オレはマネの仕事を手伝っていたため、男子からの視線が痛かった…

 

「嬉しそうね…」

 

 普段見られないツンとした清水先輩を見て、オレもこの人のことをまだまだ知らない事があるんだと思った。

 だが、別に嬉しいと思ってはいないのだが…

 

「それは…嫉妬と言うやつですか?」

 

「黙りなさい」

 

 と、言ってオレの背中を叩く。

 なるほど、これが嫉妬と言うやつか。また一ページ捲ることとなった。

 

「痛いです…」

 

「黙って働きなさい」

 

「…はい」

 

 ビブスを回収したオレは体育館に戻る。

 

「ひとか、これ洗ったばかりのビブスな」

 

「うん!ありがとう!!ねぇ、今烏野に必要なことってないの?」

 

「ひとかが気にすることなのか?」

 

「そりゃあ、少しでも勝ちたいじゃん!」

 

「そうだな…まあ今は新しく手に入れた武器を使いこなせるようになることだな」

 

 そう答えると何だか嬉しそうに顔を向けてきた。

 

「なんだ?」

 

「いや~何か普通にアドバイスしてくれるようになったと思って!」

 

「そうか?」

 

「うん!前の綾隆なら適当に誤魔化してた!!」

 

「そうか…まあオレも変わってきているのかもな」

 

「きっとそうだよ!良かったね!」

 

「あ、ああ」

 

 夏も終わりとはいえ、マネの仕事をしていると、暑く汗が出てくる。

 日が沈むと涼しくなり、ちょうど良い気温になる。

 やがて、練習試合が終わり、皆自主練に移る。

 オレはさっさと風呂に入り食堂に向かった。

 そこには、マネ二人がいて一緒に食べることになった。

 

「今日の夜…夜景見ない?」

 

「夜ですか…寝不足になりますよ?」

 

「いいじゃない…」

 

 少し不安そうな顔になる。

 

「ええ…分かりました」

 

「私もいいですか?」

 

「うん、もちろん」

 

「楽しみだね」

 

 ご飯を食べ終え、オレ達は外へ出る。

 皆自主練を終える時間だ。

 

 鍵を借りれたため、屋上に出て三人横に並んでパラペットに腰かける。

 東京とはいえ、田舎にある学校だから星がキレイに見える。

 何とも感慨深い気持ちになる。

 

「キレイだね…」

 

「そうですね」

 

「うわぁ〜!東京でもこんなキレイなところあるんですね!」

 

「そりゃ田舎だからね」

 

「…」

 

 少しの間、誰も話さずに星空を見ていた。

 

 今は8月末で、三年が引退するまで後、約半年である。

 半年後には今の先輩はいなくなるのか…清水先輩も…

 こんなにも他人を道具として見なくていい世界があるなんてオレは知らなかった。

 

 環境が変われば、人は変わる…オレも少しずつ変わり始めている。

 

 この二人…いやバレー部に入らなければオレは変わらなかっただろうな…

 そう思うと、オレに存在するはずのない感情が湧き出てくる。

 

 感謝。

 

 今の三年の先輩たちに何が出来るのかを考える。

 しかし、そんな事をすれば他人に付け入られる隙ができる。

 それにオレが本気を出せば、必ず誰かが不幸になる………馬鹿らしい…自分が自分ではないようだ。

 他人など、道端の石ころのはず…

 

 だが…この先輩たちに何を返せるのか…オレと言う存在を先輩達の心に刻めるのか…そう考えると…もう止まらない、止められない…頭の中で始められた、戦力分析を止めることはもう誰にもできない。

 

「何を考えてるの?」

 

 清水先輩が聞いてくる。

 

「清水先輩…あなた達3年の目標ってなんですか?」

 

「え、どうしたの…?急に…」

 

「…」

 

 黙って目を見る。

 

「それは…春高に出場することだよ」

 

「そうですか、分かりました」

 

「え、本当に何?どうしたの?」

 

「綾隆…熱あるの?」

 

 清水先輩は理解できず、ひとかは…いつも通りだな…

 

「オレは一度考えを改めようと思います。

先輩達が春高の出場を望むのなら、オレも目指します」

 

「ん!?!?ん!!?」

 

 ひとかは驚きすぎて、目を見開き口をあんぐりしている。

 清水先輩も似たような状態だった。

 

「駄目ですか?」

 

「「駄目じゃない!」」

 

「でも、どうして急に…?」

 

「秘密です」

 

「え〜またそれ!?」

 

「今日はもう寝ましょう…明日も早いですよ」

 

「もう!またそうやって逃げる!!」

 

 オレが立ち上がって、歩き出すと二人とも文句を言いながら後ろをついてくる。

 

「まあまあ…ひとかちゃん、やる気を出してくれただけ良いんじゃない?」

 

「そ、そうですね…ごめんなさい」

 

「いや…気にしなくていい」

 

「さっ!寝よっか!」

 

「「はい」」

 

 皆、もう寝てるな…起こさないようにオレは寝床についた。

 

 

 

▽▽▽

 

 

「どうしたんですかね!?」

 

 寝室につき、ひとかちゃんがこそこそと聞いてきた。

 

「私も分からない…」

 

「でも、良いこと…ですよね?」

 

「うん…きっとね」

 

 ひとかちゃんの笑顔で少し安心した。

 

「夜景に心を奪われちゃったとか?」

 

「あははは…それはそれで、なんか嫌だね…」

 

「そうですね…私達がどれだけ歩み寄っても心を開いてくれなかったのに、夜景で一発と言うのはショックです…」

 

 あーひとかちゃんがどんどんしょぼくれていく。

 

「あーごめんごめん…そうだね、きっと私達が何度も諦めずに言ったからだね」

 

「ですね!?」

 

「ひとかちゃん、静かにね」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「もう寝よっか」

 

「はい、おやすみなさい」

 

「おやすみ」

 

 

▽▽▽

 

 

「コーチ…今良いですか?」

 

「お?どうした?」

 

「対戦相手やプロのビデオってありますか?」

 

「ビデオなぁ〜…え!?な、何でだ!?」

 

「オレは分析が得意なので、何が足りてないのか調べようかと」

 

「ん!?うぉ〜!?」

 

「どうしました?」

 

「い、いや…あるぞ、明日持ってくる」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

代表選抜まで

 後、3週間となった日…オレの手は完治した。

 完治はしたが、マネの手伝いはしている。

 

「何か、寂しくなるね…」

 

「…いつでも来て大丈夫ですよ」

 

「え!?もう治ったから用済みなのかなって…」

 

「そんな鬼畜なことは言いませんよ」

 

「…じゃあ、部活ない日に行こうかな…」

 

「そうしてください」

 

 

三週間までのとある一日。

 

 練習が終わり皆は各々の自主練をし始めた。

 

 オレが向かったコートには、日向影山それからボール出しとしてひとかがいた。

 三人はオレが現れたことで驚いている。

 普段は決して自主練とかしないオレが急に顔を出せば、それは驚くか…

 

「えっえっえっ⁉どうしたの?綾隆が...自主練⁉」

 

「まぁそうだ」

 

「え~~~~⁉明日は雪が降る~~!!」

 

 失礼だな。

 

「ななななどうしたんだ⁉あやたか!?」

 

「え?雪?はっ⁉これがあれか…地球温暖化ってやつか…?」

 

「「「……」」」

 

「少し手伝って貰いたいことがあってな」

 

「なに?」

 

 日向がボールを頭に乗せ近付いてくる。

 

「日向影山の超速攻の目を瞑る方をやってくれないか?」

 

「「お?いいけど」」

 

 何も聞かず、快く引き受けてくれた。

 数回繰り返してもらう。それを目に焼き付け頭の中で何度もシミュレーションする。

 

「日向、オレが上げる。お前はさっきと同じように入って来い」

 

「「「え?」」」

 

「影山は悪いが見ていてくれ」

 

「お、おう」

 

 驚きながらも場所を譲ってくれた。

 

「ひとか、頼む」

 

 ひとかが上げ、日向が入ってくる。

 日向が振り下ろす瞬間にボールを持っていく。

 

『バヂン』

 

 当たりはしたものの、ボールはコートを大きく外れた。

 なるほど、これはかなり精密なトスが必要になるな。

 影山にアドバイスを貰いたいが、どうせ「こんくらいの力でバキュンバキュン」と、訳の分からないことを言われるだけだろう。

 

「悪い。もう一度、同じ要領で跳んでくれ」

 

「でも、手に当たったぞ?今、当たったぞ!」

 

「くっ…」

 

 日向は嬉しそうに影山は悔しそうにしている。

 そして、4回目。

 ひとかが上げ日向が入ってくる。

 

 位置。

 

 角度。

 

 捉えた。

 

『スパァン!』

 

 日向の手に当たり勢いよくコートに落ちる。

 

「うっほぉーーー!あたったぁー!!」

 

「すごぉーい!!あやたかすごいね!」

 

「くっなっなナイストシュ」

 

 二人は飛び跳ねながら近づいて来た。

 

「言っておくが、オレは影山のように打点で止めるなんてできないし、真正面を向いていないとできない。

影山がファーストタッチのときにのみ使えるものだ。

一試合に一度あるかないかの手札だからな」

 

「うぉー何か隠し技みたいでカッコいい!!」

 

「オレが出ていて、影山がファーストタッチしたならオレに渡せばいい」

 

「お、そうだな。分かった」

 

「ひとかはこれ黙っておけよ」

 

「え?どうして?」

 

「皆の反応が楽しみだろ?」

 

「おお!…あ、本当はなるべくでないようにするため?」

 

 オレの顔を覗き込んでそう言う。

 さすがにもうバレるか…

 

「まぁそれはなんでもいいだろう」

 

「よくない!」

 

 

 

 そして、時間はあっという間。

 遂に代表決定戦当日…

 

「うぉーキター!!仙台市体育館再び!」

 

12月25日全国バレーボール高等学校選手権大会…通称…春の高校バレー。

宮城県代表決定戦…IH予選のベスト8+春高一次予選を勝ち抜いた8チームの計16チームで一つの代表枠を争う。

 

「絶対リベンジっ」

 

 主将の言葉に皆、緊張の顔が見られるが…

 

「うおおおお」

 

 日向が駆け出していった。こう言う時は単細胞が役に立つな。

 雰囲気を日常に戻してくれる。

 

「フライングすんじゃねーボケェー!!」

 

「日向と影山は脊髄反射で生きてる感じだね」

 

「虫みたい」

 

「ギャッ」

 

 日向が他校の選手とぶつかった。今日対戦する条善寺高校だ。

 

「あれってことはメガネちゃーん!今日こそ番号教えてね〜っ」

 

 田中先輩と西谷先輩が飛び出すが…

 

「あっ!?あの時の殺し屋がいるぞ!」

 

「えっ!?逃げるぞ」

 

 と、オレに気付いてそそくさと中へ入っていった。

 

「「「「「殺し屋?????」」」」」

 

 皆がオレを見る。

 

「オレは関係ないですよ?」

 

「お前以外にいねぇだろ」

 

「何したんだ?」

 

「前に絡まれた時に、綾隆が助けてくれたの…その時に綾隆が一睨みしたら、それ以上追いかけてこなかった…」

 

 清水先輩が代わりに言ってくれた。

 

「だぁー!俺が助けていれば〜!」

 

「お前もなかなか、やらかすな…」

 

「裏で動く黒幕だな」

 

 先輩達に揶揄われる。オレから仕掛けたことではないのに…

 オレたちも体育館に入り、荷物をまとめる。

 

 前の試合が終わり、コートに入る。

 

「ひぁっふぅーい!!!」

 

 と、コートに飛び込む対戦相手…条善寺

 

「相手がレシーブ選択しました。先サーブです。」

 

 皆緊張している雰囲気だったが、1年の馬鹿二人がいつもの調子であったため、皆の雰囲気がいつも通りに戻った。

 

 

 

『ピーーーーーー!』

 

 審判の笛が響く

 

「「「「お願いします!」」」」

 

条善寺高校 VS 烏野高校 試合開始

 

Starting order

 

 

ーーーーーネットーーーーー

 

 

縁下 影山 月島

 

 

西谷 澤村 東峰

 

 

 オレは今回始めから出ている。

 今回はミドルブロッカーとしてなので、現在は西谷先輩と交代している。

 オレが立てた作戦とはいえ、オレが出る必要などなかったろうに…

 

 試合開始の合図とともに、東峰さんのサーブが放たれる。

 レシーブは崩れ、二回目のパスもコートの後ろの方になった。しかし...

 

「照島ラスト!」

 

 烏野のチャンスボールになると思われたが、コートの後ろからの強打…そのまま烏野側のコートに落ち、相手の先制点。

 

「なるほど…これが言ってたやつか…」

 

「はい」

 

 一発目を決められたが、烏野には一切の焦りも見えない。

 

 

▽▽▽

 

 

1週間前...

本日の練習は軽めのランニングやストレッチで、その後はミーティングだった。

 

「てな感じだ…はい、次は綾隆からだ」

 

「ん?綾隆?」

 

「あやぽんが?」

 

「どうしたんだ?」

 

「喜べ、綾隆が自ら敵の分析を引き受けてくれた。

また、梟谷の時みたいに、相手の弱点を突く嫌らしい策を考えて来たんだろう」

 

「ほう…それはそれは…楽しみだ」

 

「うぉー!またあの性格の悪い策で戦えるのか!」

 

「ついにあやぽん始動かぁ!?」

 

「……」

 

「話を聞くぞ」

 

「「はい……」」

 

「先ずは、次の初戦の相手からです。

相手はIHでベスト4だったところです。

条善寺高校...全員が二年ですね。三年は残っていません。

遊びがモットーで自由奔放な戦い方です。

勢いづかせると面倒な相手です。」

 

「ひぇ~それは手強いな」

 

「ああ...そうだな」

 

「なんか、もう緊張してきた」

 

「ですが...オレが相手のビデオを見て感じたことは…烏野の完全下位互換ですね」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 一斉にオレの顔を見て固まる。

 

「お前…言い方に容赦ねぇな…」

 

「事実を言ったまでです。

烏野には唯一無二の攻撃がありますし、常にあらゆる武器を磨いてきました。

それに遊ぶにはちゃんとした土台が必要ですからね。」

 

 主将を見て話す。

 

「それは…嬉しいことを言ってくれる」

 

「それに比べ条善寺は2年が主体で、そう言った人はもういません」

 

「なるほど…いつも通りの烏野を発揮できれば勝てると…」

 

「そうですね…それでも勝てるとは思いますが、他校にはまだこちらの手札を余り見せたくはありませんので、策を出しておきます」

 

「まだ?」

 

「ええ、日向影山の超速攻以外にも烏野には多彩な武器があります」

 

「それを成るべく隠そうと...」

 

「そう言うことです。

最も…厳しくなりそうなら、使うしかありませんが…。」

 

「ほう…なら、策を聞こうかな…」

 

「はい。

では、なぜ人は遊ぶことが好きだと思いますか?」

 

「はい!楽しいから!!」

 

 日向がすぐに答える。

 

「そうだな...なら、バレーをしていて楽しいと思うときは?」

 

「おれはスパイクを打って、スパン!と決まったとき!」

 

「俺はブロックを欺けたとき」

 

「俺は相手のスパイクを完璧に取ったときだ!」

 

「気持ちよくスパイクが決まるときは最高だぜ!」

 

「ああ...俺もそうだな...」

 

「ええ、人によって楽しいと感じるときは色々あります。

では、それらができなくなれば?」

 

「「「「「おっ…」」」」」

 

「つまらなく感じますよね?」

 

「「「「「ああ…」」」」」

 

「もう何をするか分かって来たかも…」

 

「ああ...俺もだ」

 

「今回は音駒の真似っ子です。」

 

「だ…だがよ…お世辞にもウチのレシーブはそこまで…」

 

「ええ…だからこそ…レシーブが得意な人と交代しても良いと思います。」

 

「「うげぇ」」

 

主に二人のレギュラーが嫌そうな顔をした。

 

「まあ、安心してください...二セット目の心が折れ欠けたときには畳みかけますので、日向や田中先輩の攻撃が必要になります」

 

「「ふぅ~」」

 

と、二人とも安心したように息を吐いた。

 

「ん?隠しておいた方がいいんじゃなかったのか?」

 

「日向と影山の超速攻は既に知られていますし、それを見せておけば観戦している相手は更に警戒するようになりますから…それに、自分たちの攻撃が決まらない中、こっちの攻撃が決まるようになれば、打つ手がなくなるでしょう」

 

「お前には人の心がねぇのか!?」

 

「悪魔だ」

 

「これも春高に行くためですよ」

 

「「「「おおっ!!??」」」」

 

 オレがそう言うとみんなが一様に驚いた。

 

「お前がそんなことを言うなんて…」

 

「やべ...何か泣けてきた」

 

「それでは、次に...」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 ここからは、ひたすらに粘り対応していく。

 始めリードを取られようと、一つ一つ対応していき、打つコースを無くしていく。

 相手はすこしずつイラついてきているのが感じ取れた。

 今から畳みかけても構わなかったが、この機会を逃したくはない...烏野には無かったスタイルが出来上がりつつあったからだ。

 とは言っても、音駒と比べれば酷いものではあったが…

 

16-15 条善寺リード

 

『ピーーーー!』

 

 相手がタイムを取った。

 

「ウチがこんな戦い方ができるとはな...」

 

「ええ、何か違うチームみたいですね」

 

 コーチと先生が感嘆している。

 

「ちくしょ…!この…!な…ないすレシーブ、あやたか…」

 

「お前らすげぇな!」

 

 日向と田中先輩がオレと縁下さんをほめたたえる。

 

「主将と縁下先輩のおかげですよ」

 

「オレも今回は縁下の活躍が大きいと思うぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 頭を下げる。この人は来年の主将だな

 

「このまま、行くんだろ?」

 

「はい」

 

「よし!行くぞ!!」

 

「「「「おおう!!」」」

 

 相手は、突然調子を取り戻したが、それでも烏野がやることは変わらない。

 ただひたすらに、対応し繋いでいく。

 

23-24 烏野リード

 

 遂にオレ達が逆転した。こちらもなかなか消耗しているが、相手はそれ以上だ。

 

「ラストぉぉ!!!」

 

 第一セット最後の得点は東峰さんで終了した。

 

「日向、頼むぞ」

 

「おっしゃあああ!!!行くぞぉぉぉぉおおお!!!!!」

 

「うるさい!!!!」

 

 主将の一喝で黙る日向...さて、少し辛い現実を味わって貰わないとな…

 

 

第二セット開始

 相手の顔には疲労の色が見える。

 いくら相手が2対2を常にしているとはいえ、こうも対策をされ打つ手が無くなっていくと、精神的に疲れが出てくる…

 縁下先輩とオレが、田中先輩と日向と交代した。

 

「もってこぉーい!」

 

 日向の超速攻が決まり、会場は大歓声である。

 しかし、相手チームも同じように笑顔になっていた。

 それもそのはず、向こうにとっては打ち合いこそが楽しい遊びなのだから…

 

 点の取り合いでは烏野が優勢であるが、日向のサーブになると日向が狙われる…数点だが、それでも日向は少しずつ狙われるようなっていった。

 そして、前衛ではサーブで前を狙われ、攻撃に入れなかったりとストレスが溜まっていく…しかし、それでも烏野が優勢であり、超速攻が決まる場面もあった。

 

 結果的に

 

25-19 烏野の勝利

 

 で、終了した。

 しかし、試合が終わり、コートをズンズンと出ていく日向…かなりストレスが溜まっているようだ…

 

「おめでとう!!勝ったね!」

 

 と、ハイタッチをしに来たひとかだったが、日向にはそれが見えておらず、廊下を進んでいく

 

「あ、あれ?日向…??」

 

 心配そうに日向の背中を見るひとかにオレが話しかける。

 

「今回は敵に穴だと思われ、狙われたからなかなりストレス溜まったんだろうな…」

 

 オレがそうひとかに説明すると、ひとかは心配そうな顔をした。

 

「だ、大丈夫なの?今日はまだ、試合あるけど…」

 

「今、吐き出しに行ったんだろ…大丈夫さうぐっ」

 

 ひとかを安心させようとしていたら、後ろから腹に手刀が飛んできた。

 

「これも綾隆の計画なんでしょ…責任持って行きなさい」

 

 清水先輩からお叱りを受けてしまった。

 だが、今は吐き出す時間を与えた方が良い。

 

「いや…吐き出してから…」

 

「行きなさい…仲間なんでしょ」

 

「はい…」

 

 オレは日向の後を追いかけることにした。

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