リーニエ、がんばる 作:あきまち
「未来の記憶ねぇ」
リーニエは、アウラやリュグナーとともにテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
一応、ドラートもいる。
場所はグラナト伯爵領の城壁の外。
アウラや首切り役人の三人が暮らす家の中だ。
「うん。私も半信半疑だけど……」
「そうねぇ……」
リーニエは、金色のりんごを食べたことで手に入れた未来の記憶を仲間たちへと話していた。
もっとも、リーニエ自身あの記憶に関しては半信半疑なところもある。
あの赤髪の戦士に負けないように強くなることを決めたわけだけど、それはそれとして簡単に鵜呑みにはできなかった。
リーニエは賢いのだ。疑うことを知っている。
「私とドラートが死んで、リュグナー様もピンチだった。アウラ様はわからないけど」
「俺が負けるかよ」
「ドラートは独断専行して真っ先に死んだ」
「なんだと」
「しかも作戦を台なしにした」
リーニエの言葉に、ドラートは『ガーン』という効果音が出そうな顔で驚愕した。
さすがに面と向かって「能なしの馬鹿」とは言わないでおいてあげた。
リーニエは優しいのだ。
「私もか……リーニエ、敵は誰かわかるか?」
「私を殺したのはアイゼンの弟子の戦士。リュグナー様が戦っていたのは人間の魔法使い」
「お、俺を殺したのは誰だ?」
「葬送のフリーレン」
「フリーレンですって?」
アウラの形のいい眉がはねる。
どうやらアウラはフリーレンを知っているようだ。
「そう、フリーレンが。……でも、敵がフリーレンなら私が負けることはないわ」
「アウラ様、戦ったことあるの?」
「撤退させられたわ。だけど、あの時はフリーレンだけじゃなくて勇者パーティが揃ってた」
アウラは魔王がまだ健在だったころ、魔王直下の幹部である『七崩賢』の一人として活動していた。
そのときに、フリーレンとの戦闘経験があるらしい。
「次は勝てるのですか?」
リュグナーが尋ねると、アウラは小首をかしげて至極当たり前のことを語るような表情で答える。
「ヒンメルはもういないじゃない」
「たしかに」
リーニエは納得した。なぜかすごい説得力を感じたのだ。
きっとアウラならフリーレンとて容赦なく殺してしまうだろう。
「私はフリーレンより魔力が上よ。アイゼンの弟子と、フリーレンの弟子がいたところで『
アウラの固有魔法である『
大魔族であるアウラの魔力は膨大であり、人間がその魔力を超えることはまず不可能。
実質的に無敵の魔法と言っていいほど強力な魔法だ。
過去の対峙でフリーレンの魔力を知っているアウラが断言するのだから、彼女が負けることはない。
従えている不死の軍勢のこともある。
ますます負け筋はない。
自信に満ち溢れる大魔族を前に、リーニエはまったく疑わずに「さすがアウラ様」と尊敬の念を得る。
すごい。
「私がフリーレンに負けることはないけれど、あなたたちが死ぬのはあまり良いことじゃないわ」
「ですが、リーニエの未来の記憶がこれから本当に起こることなのかわかりません」
ドラートはかなり疑っている様子だ。
きっと、未来の自分が失態をおかして真っ先に死ぬことをなんとか無かったことにして隠蔽したいのだ。
涙ぐましい努力である。
「ドラート。記憶がどうであれ、備えておいて損はないだろう。そもそも強さを磨くことは、私たちの本懐だ」
「私はたくさん鍛える」
「……そうですね」
ドラートは納得した。
リュグナーの言う通り、鍛えて強くなるというのは魔族の習性のようなもの。
人が水を飲むように。魔族が人を食べるように。鳥が空を飛ぶように。りんごが木から生るように。
ドラートが馬鹿なように。
誰に言われずとも、それが普通。
魔族の生は研鑽の生だ。
その強度を上げてより一層自己強化に励もうという話。
何も損はしない。
こんな簡単なことがすぐにわからないドラートは、やはりかわいそうな馬鹿なのだ。
リーニエはその認識を深めた。
「アウラ様、不死の軍勢と手合わせがしたい」
「リーニエはやる気満々ね。いいわよ。好きなだけ戦いなさい」
「ありがとう」
リーニエの強みはやはり固有魔法の『
人が動いているときの体内の魔力の流れを記憶し、その動きを模倣する魔法だ。
一目見るだけで達人の動きをその身で再現できるこの魔法は極めて強力。
とてもすごい。
まだ若い魔族であるリーニエが、大魔族であるアウラ直下の幹部として引き立てられている事実は伊達ではないのだ。
現在リーニエは、基本的に最強の戦士である勇者パーティのアイゼンの動きを戦いの際に使用している。
しかし、アウラの不死の軍勢の中には、数多くの猛者たちが眠っているのだ。
そんな彼らの動きのすべてを模倣し『
リーニエは賢いので、未来の記憶で自身が負けた理由はすでにわかっている。
それは戦士アイゼンの動きを最適化できていなかったこと。
リーニエとアイゼンでは身長も体重も、力も腕のリーチも脚の長さも何もかもが違う。
これでは、完璧な模倣などとは到底言えない。
この弱点を自覚した今だからこそわかるが、リーニエはアイゼンの劣化コピーにしか過ぎないのだ。
なるほど、どうりで『軽い』わけである。
このギャップを埋める。
あるいは凌駕する。
そのために、さまざまな戦士の動きを見て己の血肉とする。
リーニエは敗北とその先の死を知った。
魔族という種の精神構造が持つ、人間を下等だと見下す傲りや油断はすでに消えている。
だからできるはずだ。
「それから、将軍」
魔族の中でも、魔力による身体強化を極めた戦士。
それを将軍と呼ぶ。
リーニエは将軍を目指すことを決めた。
固有魔法の『
将軍としての圧倒的な身体能力。
この二つが揃えば、誰が相手だろうと負けることはない。
もちろんあの赤髪の戦士には負けないし。
それどころか最強の戦士アイゼンだって超えてみせる。
やはりリーニエは賢い。
強くなるための道のりは、すでに完璧に想像できている。
イメージするのは、常に最強の自分。
「私が最強の戦士になる」
リーニエは両手を胸の前で握りしめ、ふんすと気合いを入れたのだ。