リーニエ、がんばる 作:あきまち
「リーニエ、アウラ様の不死の軍勢をバラバラにしてはダメだろう?」
「……はい」
諭すように言うリュグナーに、リーニエは下を向いてしゅんとする。
彼女たちの周りにはバラバラの惨殺死体がたくさん散乱していた。
これらは、アウラの従える不死の軍勢の変わり果てた姿である。
不死の軍勢とはアウラが『
首を断ち、意思を奪われた死後の肉体にも『
彼らは死体なので疲れや怯えとは無縁。
どれだけ攻撃を受けても、すでに死んでいるのだからそれ以上はない。
痛みを無視して進軍する忠実なる軍勢。
故に、不死の軍勢。
アウラにこの不死の軍勢との鍛錬を許可されたリーニエだったが、新技が完成したことで嬉しくてついやりすぎた。
何体もの不死たちをバラバラにしてしまったのだ。
不死といってもこんなふうにバラバラになってしまえば物理的に動けないので無力だ。
もう使い物になることはない。
せいぜい、グラナト伯爵領の城壁の周りに並べて嫌がらせするくらいにしか利用価値はないだろう。
リーニエはやっちまったのである。
「はぁ……」
リュグナーのため息に、びくりと小さな身体を震わせるリーニエ。
ちらりとリュグナーの視線がリーニエのカバンに向けられる。
あの中には、ドラートの命よりも大切なりんごたちが入っていた。
まさか、罰としてあれを没収するつもりでは。
賢いリーニエはその可能性に気づき、戦慄する。
これはまずい。
リーニエは即座に大切なりんごを救うための策を講じた。
「あ、あれは、ドラートがやっていいって……」
「えっ!?」
圧倒的に、嘘である。
しかしリーニエはドラートの命よりも大切なりんごを守る必要があった。
なので、嘘をついてでもりんごを救うため。
いたしかたなくドラートの命を捧げることにしたのだ。
いたしかたなくである。
勘違いしてはいけない。
どう考えても無理がある言い訳に使われたドラートは信じられない表情で『ガーン』と愕然とする。
「ドラート?」
「い、いや、俺はそんなこと言ってないです!」
リュグナーにじろりと睨め付けられたドラートは首を横にぶんぶんと振って否定する。
「……はぁ」
リュグナーのため息に、びくりとするリーニエ。
二度目だ。二度目のため息。
怖い。
許してもらうために慌てて言葉を重ねる。
「ちゃんと補充する」
減ったら、増やせばいい。
賢いリーニエは素晴らしい提案をした。
どうせアウラの不死の軍勢は目の前のグラナト伯爵領からいくらでも収穫できるのだ。
自分が減らした分は自分で増やせば問題はないはず。
完璧な作戦だった。
「それは当然のことだ。リーニエ、私は今の話をしている」
しかし、リュグナーはそれだけじゃ許してくれないらしい。
これで許してもらえないのなら、いったいどうすればいいのだろう。
「ば、倍にして返す」
「それは一生返してくれないやつの言うセリフだ」
リーニエはしゅんとする。
どうやったらリュグナーは怒りを収めてくれるのか。
手詰まりであった。
そんな中、アウラが様子を見に三人のもとにやってきた。
「あら、何があったのかしら」
「アウラ様」
さっと跪くリュグナーに少し遅れて、リーニエとドラートも跪いた。
「アウラ様、大変申し訳ございません。リーニエがアウラ様の不死の軍勢を削ってしまったようでして」
「そうなの?」
「ごめんなさい」
アウラに視線を向けられたリーニエは素直に謝った。
リーニエは賢いので、自分が悪いことをしたというのはしっかりとわかっていた。
「ふーん。どうしてかしら。今までも私の不死の軍勢と鍛錬していたけど、一度もこんなふうになったことなかったじゃない」
こんなふうに。と言ってバラバラの惨殺死体を見やる。
ふいに、死体のかけらがウニョウニョと動き出した。
こんなでもまだ『
蛆虫みたいで気持ち悪かった。
「新しい技ができて嬉しくて、やりすぎちゃった」
「新しい技?」
「うん」
金色のりんごを食べてから二年。
寝ても覚めても修行と鍛錬と訓練と修練に励んできた。
その日々は遂に身を結び、リーニエは新技は会得したのだ。
「へぇ、どんな技なのよ」
「見てて」
ふんすと両手を胸の前で握りしめて気合いを入れる。
完成した新技をアウラに見せるために、リーニエは魔法で武器を作り出した。
それは、戦士アイゼンの技を再現するためにリーニエが好んで使用してきた斧ではない。
リーニエの身の丈以上もある長大な武器。
槍のような形状で穂先に斧頭、その反対に鉤爪が付いたものだ。
いわゆる、ハルバードと呼ばれる武器だった。
このハルバードを手に持ちリーニエは駆ける。
目指す先には、アウラの不死の軍勢だ。
「……すごいわね」
「ほお……」
「すっげ……」
リーニエの戦いは、まるで舞のようだった。
長いハルバードを使いこなし、くるくると踊るように戦場を動き回る。
強力で、鮮烈で、流麗で、危険で。
今までのリーニエの動きとはまるで違う。
固有魔法『
紛れもなく、リーニエ自身に最適化した達人の戦舞だった。
リーニエは記憶してきた百を優に超える達人の技術を組み合わせ、自身の体に適した戦闘技術を確立したのだ。
鋭く、重く、速く、隙がない。
この技を完成させるのに二年の月日を要した。
戦士アイゼンの模倣に頼りきりだったころと比べて、かなり強くなったことをリーニエは自負している。
「名付けて『
やっとの思いで完成した技だ。
リーニエは、新しいおもちゃを自慢するようにうっきうきでみんなに見せびらかす。
見て見てすごいでしょと。
こうやって、ハルバードを振るうたび。
バッタバッタとアウラの不死の軍勢たちがバラバラに吹き飛んでいき――
「――あ」
「リーニエ……」
リュグナーの呆れた声と視線がリーニエに向けられる。
あれだけ怒られたのに、またもや不死の軍勢をバラバラの惨殺死体へと変貌させてしまったのだ。
リーニエは思った。
やっちまったと。
「馬鹿だろ、おま――ふぐぉ!?」
くだらない言いがかりをかけてきたドラートはどこかへと吹き飛んでいった。
リーニエは賢いのだ。
「……リーニエ」
「……はい」
アウラの前で、リーニエはしゅんとする。
きっと怒られるだろう。
自分が悪いことを自覚しているリーニエは、顔を下に向けてそのときをただ待った。
しかし、アウラは思いもよらない言葉をリーニエにかける。
「よくやったわね」
なんと褒めてくれたのだ。
あんなに不死の軍勢をバラバラにしたリーニエを怒らない。
それどころか褒めてくれた。
「アウラ様……怒らない、の?」
「どうして? リーニエは頑張ったじゃない」
「……!」
「不死の軍勢なんて、いくらでも補充できるもの。そんなものより、代えがきかないリーニエが強くなってくれる方が嬉しいわ」
なんてことだ。アウラはとんでもなく懐が深かった。
曇りなき眼で、当たり前のことを言うようにリーニエを褒める。
自身の持ち物を勝手に壊されたのにも関わらず。
こんなことは、なかなかできることじゃない。
「アウラ様……!」
リーニエはアウラの優しさに感動し、ますます尊敬の念を強めた。
彼女は、まごうことなき偉大な大魔族。
大魔族の器だった。
アウラはきっと、いずれ戦うことになるフリーレンなんて余裕で倒してしまうだろう。
UTSUWAが違うのだ。
とてもすごい。
「私、アウラ様のためにもっと頑張る」
「ええ、期待しているわ」
ふんすと両手を胸の前で握りしめ、決意を新たにするリーニエへとアウラは慈母のような微笑みをかけてくれる。
その後、バラバラになった不死の軍勢はグラナト伯爵領の城壁の周りにばら撒いた。
そしたら、城壁の中からたくさんの兵士が出てきたのでリーニエは張り切って首を切る仕事に励んだ。
それはまるで餌の蛆虫に集まってくる魚を収穫するような――
そう、釣りであった。
結果的に、リーニエはバラバラにした不死の軍勢の三倍を自分の手で補充してみせた。
「私はアウラ様の剣、リーニエだ」
――七崩賢『断頭台のアウラ』に付き従う小さな魔族の少女は、千の達人を超える戦士である。
そんな噂が、大陸北方を駆け巡るのは近い未来かもしれない。
リーニエ:賢くて強くてかわいい
アウラ:優しくてとてもすごい
リュグナー:面倒見がいいけど口うるさい
ドラート:能無しのバカ