リーニエ、がんばる   作:あきまち

4 / 4
身体強化じゃない

 

「むむむ」

 

 リーニエは、静かな森の中で目を瞑って佇んでいた。

 体内の魔力を操作して、身体中を循環させる。

 

「ふっ!」

 

 ふいに目をカッと見開き、瞬時に生成したハルバードをそのまま振り抜く。

 その刃の先にいたのは――ドラートであった。

 

「あっぶね!?」

 

「安心してほしい。当てる気はなかった」

 

「当てる気ないって! 当たってるんだが!? ここ! 服が破けて血がちょっと滲んでるんだが!?」

 

「……失敗した」

 

「失敗するなよ! 俺の命がかかってるんだよ! つかなんでいきなり攻撃してくるんだよ!」

 

「当てる気はなかった」

 

「当たってるんだってっ!」

 

「失敗した」

 

「失敗するなって言ってんの!」

 

「当てる気はなかった」

 

「!? なんなんだこいつはよぉぉおおお!!!」

 

ドラートが地団駄を踏んで叫び出す。

 ――うるさいな、こいつ。

 と、リーニエは思った。

 

「うるさいな、こいつ」

 

 思ったことをすぐに言った。

 リーニエは賢いので、円滑な人間関係のために本音を隠す有効性は知っている。

 だけど、相手がドラートなのでまあいいかと思いすぐに言った。

 

「逆ギレ!?」

 

 ドラートは信じられないものを見たような顔で、『ガーン』と驚愕した。

 

「そのくらいの怪我、我慢するべき」

 

「怪我させたお前が言う言葉じゃねえだろうがよおおおお!!!!」

 

 天を仰いで叫び出すドラートを見て、リーニエはため息を吐く。

 

「はぁ、うるさいな」

 

「うがあああああああああああああ!!!!」

 

 過剰なストレスで発狂したドラートは、天を仰ぎすぎて後ろに向かって倒れ込んだ。

 ブリッジである。マット運動のアレだ。

 

「すごい。ドラートは体が柔らかい」

 

 ぱちぱちと、無表情で。

 まるで他人事のように感心した様子で手を叩くリーニエ。

 

「ふぐんぬばあああああああああああ!!!!」

 

 ストレスのあまりブリッジを超越したドラートは、地面を掘削するのにちょうどよさそうな頭の角を使って穴を作りだした。

 そしてその中に頭を収めたのだ。

 穴の中に収まることで視覚と聴覚を遮断したドラートはさっきまでの姿が嘘のようにしんと静かになる。

 

 きっと、見たくないものや聞きたくない言葉でもあったのだろう。

 リーニエはブリッジしたまま地面に頭を埋めたドラートに同情した。

 

「かわいそうに……」

 

 隣で地面へと頭を収めて静かになったドラートを放置して、リーニエは再び体内の魔力を操作する。

 

「それにしても、さっきの一撃はなかなか良かった」

 

 ドラートへ向けて放った攻撃は魔力を操作して身体強化を施した状態でのものだった。

 普段の技よりも、鋭く速く力強い。

 リーニエは特訓の成果が出ていることに喜んだ。

 

 最近のリーニエは、魔力による身体強化の訓練に励んでいる。

 強くなるためには心技体、すべてが必要だ。

 自分のための技として『千練の斧槍技(エアファーゼン)』を習得したので、次は身体能力の向上に努めることにした。

 

「ドラートが来たことにもすぐ気づいたし」

 

 身体強化によって嗅覚と聴覚が鋭敏になっていたため、目を瞑っていてもドラートの接近に気がついた。

 魔力感知が得意なリーニエにとって、嗅覚や聴覚を使った感知技術なんて必要な場面は少ないかもしれない。

 だけど、手札は多いに越したことはないのだ。

 

「私、才能あるかも」

 

 体内の魔力を操作する。

 ギュンギュンと超速で身体中を循環する魔力の動きは、大胆でありながら極めて精緻。

 リーニエは魔力感知だけでなく、魔力操作についても驚くべき才能を秘めていたのだ。

 すごい。

 

「『模倣する魔法(エアファーゼン)』をずっと使ってきたから、なんとなくできるんだ」

 

 リーニエの固有魔法である『模倣する魔法(エアファーゼン)』は他者の体内の魔力の流れを精密に()()し、自身の体内でそっくりそのまま()()する。

 そういった過程の結果、彼女は他者の技をその身に模倣するのだ。

 

 リーニエは魔族として生まれた瞬間からこの魔法を使い続けてきた。

 それゆえに、魔力感知と魔力操作の卓越した技術を有しているのだろう。

 あるいは、そんな才能があったからこそ『模倣する魔法(エアファーゼン)』がその身に宿ったのか。

 

 とにかく、リーニエは魔力感知と魔力操作がとても得意らしい。

 そして魔力による身体強化は、魔力操作の延長線上にある技術の一つ。

 身体強化を極めた魔族の戦士――将軍。

 リーニエは、もしかしたら将軍になるために生まれてきた魔族なのかもしれない。

 

「よし、がんばる」

 

 才能はあるし、時間もある。

 まだまだ強くなれるのだ。

 

 リーニエは両手を胸の前で握りしめ、ふんすと気合を入れた。

 

「むむむ」

 

 リーニエは再び目を瞑る。

 こうして己の体の中へと意識を集中させて身体強化をとにかく鍛えるのだ。

 一分一秒もおろそかにはしたくない。

 

 思えば、金のりんごを食べて未来の記憶を得てから三年経った。

 人間にとっては長い時間だけど、寿命の長い魔族であるリーニエにとってはとても短い時間だ。

 

 魔族は己の魔法を磨くことを、生涯の導とする。

 

 しかし、その研鑽の日々はかなりゆったりとしたペースの者が多い。

 なぜなら時間が有り余っているから。

 逆に人間は生き急ぐように力を得ようとする。

 たった百年にも満たない時間しか与えられていないから。

 

 人間にとっての一年は、魔族にとっての十年にも匹敵する。

 魔族の十倍の密度で研鑽を積み、十倍の速度で彼らは成長していく。

 だから人間は侮れない。

 だから魔王は負けたのだ。

 

 だけどリーニエは違う。

 彼女は人間と同じように一日も惜しまずに鍛錬を積んでいる。

 それは、魔族としては異常なほどに生き急いでいると言ってもいい。

 

 すべて、あの金色のりんごを食べた瞬間からだ。

 

 今まで、鍛えることをサボっていたわけではない。

 リーニエは偉いからちゃんと日々の研鑽を重ねていた。

 しかし、あの記憶によって敗北と死を追体験した。

 

 その結果、リーニエは魔族が生まれ持つ精神構造の一つである慢心と油断を克服したのだ。

 リーニエは、賢いので気づいた。

 今のままでは死ぬのだと。慢心と油断は身を滅ぼす毒なのだと。

 

 だから鍛えるのだ。

 鍛えて鍛えて、鍛えに鍛え、そして鍛えるのだ。

 彼女は魔族でありながら、その一日の密度と成長は人間のそれに匹敵する。

 

 十倍以上の寿命を持ちながら、人間と同じ速度で成長する魔族。

 その恐ろしさを、人類はまだ知らない。

 

「私は、死なない」

 

 そのために、今日も明日も明後日も。

 リーニエはひたすら鍛錬に励むのだ。

 

 それはいずれ将軍にまで登り詰めて、世界最強の戦士になるその日まで。

 

「そういえば……」

 

 ふと、リーニエは気になった。

 なんでドラートはわざわざ自分に会いにきたのかと。

 

 いきなりやってきてうるさく騒いで。

 突然叫び出したかと思えば自ら地面に埋まった謎の男だ。

 なんだったのだろうか。

 

 気になったリーニエは、隣で地面に埋まっている彼をスポッと引き抜いて尋ねることにした。

 

「――ふぐぉあ!? な、なんだ!?」

 

「ドラート、なんの用事だったの?」

 

「ひぇ、リーニエ……ア、アウラ様がお前のことを呼んでこいって……」

 

 リーニエの姿を見て一瞬怯えた様子を見せたドラートだが、リーニエにじっと見つめられすぐに要件を言った。

 

 しかし、それが思ったよりも重要な案件だったのだ。

 

「アウラ様が? なんで速く言わない。そういうことはすぐに言うべき」

 

「!?」

 

 リーニエは腰に手を当ててドラートを叱り付けた。

 リーニエはドラートと違って賢いので、こうして間違いを指摘しないと部下は成長しないことを知っている。

 リュグナーだってそうしていたのだから、こうするのが正解だ。

 

 ちなみにドラートは別にリーニエの部下ではない。

 

「伝言くらい、ちゃんとやってくれないとみんな困る。難しいことじゃない」

 

「!!??」

 

 驚愕するドラート。

 

「だ、だがリーニエが……」

 

「私? ドラートが仕事できないのと私は関係ない」

 

「!!!???」

 

「まったく。これだからドラートは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああああああ!!!!!」

 

 ドラートは発狂して奇声を上げ、おもむろに地面の穴へと頭を突っ込んだ。

 

「ドラート、どうしたのかな?」

 

 ドラートの奇行がよくわからず、リーニエは不思議そうに首を傾げた。




リーニエ:魔族なので悪意はまったく無い。とっても純粋(サイコパス)
ドラート:同僚からの扱いが雑すぎてハゲそう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。