ブルーアーカイブ 〜欠片の物語〜   作:眠り狐のK

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がんばったらね、つよくなれるらしーよ


8話 がんばったらつよくなれるのーりょく

「ヒフミちゃん」

「あ、おかえりなさいミソラちゃん。収穫はありましたか?」

「うん、あの子の居場所、わかったよ」

「ほんとですか!?」

 

 私は、黒服と分かれた後、ヒフミちゃんと分かれた路地裏に戻り、ヒフミちゃんと合流していた。

 あの後、すぐに黒服の実験の協力に動いたのだが、まさかのまさか、血液を取られるだけで開放された。

 実験というのだからもっとがっつりしたことをするのかと思っていた。何かの薬を飲まされたりとか、何か不思議な機械とか使って調べられたりとかされるのかと思っていた。

 もしかして私の血になにかあるのだろうか?

 いや、私はどこにでもいるごく一般のトリニティ生のはずだ。神秘が多いわけではないし、特別な血統を持っているわけでもないはず。

 もしかしたら、神秘を持っている生徒なら誰でも良かったのだろうか?

 まぁ、それは今考えることじゃない。今はあの子を助けることを考えなくては。

 黒服によると、あの子はこのブラックマーケットから少し離れたとある廃墟に連れて行かれており、その地下にいるらしい。

 あそこの廃墟は何かあるわけでもないほんとに唯の廃墟の一つのはずなので、隠れ家としてはいい物件だろう。でも、あそこに地下なんてあっただろうか?

 まぁ、そんなことよりあの子を助けるためにいち早く行動を開始しよう。

 

「場所はここ、地下にいるらしい」

「ここの廃墟ですか……でも、ここに地下なんてあったでしょうか……?」

 

 ヒフミちゃんも私が感じていたものと同じ疑問を持っていた。 

 やはり、あの廃墟に地下室なんてものはなかったのだろう。騙されたのか、それとも隠されたなにかがあの廃墟にはあるのだろうか。

 その真相は自分にはわからない。わかるのは、真相がどうであれ、あの子を助ける為には行ってみるしかないということだけ。

 このまま聞き込みを続けていたとして、新しい情報が手に入るとは限らない。なら、この情報に賭けてみるしかない。

 

「地下があるかは行ってみないとわからない。でも、今はこれしか情報がないから、行ってみようと思う」

「そうですね……それしかなさそうです。わかりました、イチカさんがこっちに来るそうなので、合流したら行きましょう」

「イチカちゃんが?」

 

 それは初耳だった。

 イチカちゃんが来てくれるということは、正義実現委員会として正式にあの子の救助ができるということ。これでちょっとくらい暴れても許される。

 とはいえ、今は1秒でも時間が惜しいところ。本来なら待つべきなのだろうけど、急いで行かなくてはいけない。

 

「ううん、私は先に行くよ」

「えっ……でも合流してからのほうがいいんじゃ……」

「待ってる間に状況が変わるかもしれないよね。今は時間が惜しいから」

 

 冷静な判断としては、ヒフミちゃんが正しい。危険だっていうのもわかってる。それでも、私は行きたい。

 だって、誰かの都合で誰かが犠牲になるのは、フェアじゃない。

 あの子を、不幸にさせたくない。

 

「ですが……ううん、ミソラちゃんがそう決めたなら私もついていきます!」

「ヒフミちゃん……ありがとう」

 

 私の意思が変わらないのを感じたのか、ヒフミちゃんも覚悟を決めた表情で私についてくることを選ぶ。

 そして、私とヒフミちゃんは目的の廃墟に向かって走り出した。

 

 ……イチカちゃんには移動しながら廃墟の位置情報を送っておこう。

 

 

 


 

「……ここだね」

「ここですね……」

 

 私達は、目的の廃墟にたどり着き、入口の様子を伺っていた。

 入口には見張りが2人、左右にそれぞれ立って待機している。

 ここが黒服の言っていた場所で間違いなさそうだ。

 

「……暇だなぁ」

「そう言うなって、生徒一人攫うだけで大量の金が手に入るんだ。楽な仕事だろう?」

「それもそうだなぁ」

 

 見張りをしている不良は、襲撃されるとは思っていないのか、かなり油断しているように見える。

 今なら、簡単にやれる。

 

「……いくよ、ヒフミちゃん」

「わ、わかりましたっ」

 

 閃光手榴弾を取り出してはピンを引っこ抜き、不良の足元に投げ込んだ。

 

「ん?」

「なんだ―――!?」

 

 不良2人の視線が転がってきた閃光手榴弾の方に向く。

 その直後、激しい閃光が炸裂し、不良達の視界を襲う。

 そして、視界を奪われて身動きのとれない不良達の背後に回り込み、私とヒフミちゃんで一人ずつ殴りつけた。

 

「がっ……!?」

「うっ……!?」

 

 身動きを取れなくなった不良達は、体勢を立て直す暇もなく、唐突に襲われた後頭部への強い衝撃によってその意識を暗闇に沈めていった。

 

「ふぅ……なんとかうまくいきましたね……」

「まだだよ、中にはたくさんいるだろうから、気をつけていこう」

 

 銃弾ですら痛いで済んでしまうキヴォトスの住人であっても、不意に大きく脳を揺らされればその影響は大きく出る。

 そこら辺の不良程度ならこのやり方でも充分気絶させられる。

 ……最も、一定以上の神秘を持ってたり、神秘自体の性質によってはこの例に当てはまらないのだが。

 

 私達は、不良達が気絶したことを確認して、音を立てないように廃墟の中に入っていった。

 


 

――廃墟内――

 

「うーん……どうしようか……」

 

 廃墟の中に潜入してから数十分。私達はとある一室の前で隠れている。

 ちょこちょこ不良達と遭遇したりはしたが、なんとか気づかれないように気絶させてここまで来れた。

 ここの部屋には不良が十数人。そんな部屋の前で私達は身を隠して様子を伺っている。

 倉庫とかも別にあったし、休憩所というわけでもなさそうな場所にこの数。

 更には、他の部屋でこんなに人がいる場所は今のところなかった。つまり、明らかに異様な程ここに人が密集している。

 どうやって地下室を探そうと、ここに来てからずっと考えていたが、これだけあからさまに人を集めてれば、ここに何かを隠してますと言っているようなもの。ここを探せば何かは見つかりそうだ。

 とはいえ、ここをどうやって突破しようか。

 これだけ人が密集しているとなると、これまでみたいに気づかれないようにこっそり後ろからというのは難しいだろう。

 中に隠れられそうな場所もちらっと覗いた限りでは見当たらなかった。

 となれば、時間のことも考えてここからは正面突破してしまうほうがいいだろう。

 幸い、ここは既に天井が崩れてる場所なので、手榴弾で一掃してしまっても、崩れてくる心配はなさそうだ。

 

「ヒフミちゃん、お願いできる?」

「わかりましたっ。ペロロ様、お願いします!」

 

 不良達に気づかれないようにヒフミちゃんにアレをお願いする。それを承諾したヒフミちゃんは、自分のバッグの中から白い円盤を取り出しては、不良達がいる部屋の中に投げ込んだ。

円盤は地面を跳ねながら不良たちの前に止まり、止まった円盤からは巨大なペロロ様のホログラムが映し出される。

 

「「!?」」

「な、なんだこいつ!?」

 

 不良たちは、唐突に現れたホログラムに驚き、一斉に目線がペロロ様のほうに向く。

 その隙を狙いすまして、円盤付近に手榴弾を投げ込んだ。

 

「「「ぐわぁぁぁ!!!」」」

 

 ペロロ様に気を取られていた不良たちは逃げる間もなく爆発に飲み込まれていった。

 

「あぁ……ペロロ様が……」

「いや……ペロロ様をデコイにしてるのヒフミちゃんだから……」

 

 そして、ホログラムとして姿を現していたペロロ様が爆破されたことにより隣りにいたヒフミは肩を落としていた。

 こんな反応をするならどうしてペロロ様をデコイとして使っているのかとツッコみたくなる。

 ちなみに、前にどうしてか聞いてみたことがあるが、要約して説明すると

 

 

①デコイとして使うものは注目されるほどデコイとしての役割が果たせやすいですよね?

 

②一番注目を集められるものと言えばペロロ様ですよね?

 

 

ということらしい。なるほど、確かに。

 爆発の煙が晴れると不良たちがみんな気絶しているのが確認できる。

 ヘイローがついてる不良がいないので、綺麗に全員気絶させることに成功したようだ。

 そして、部屋の奥の壁。木っ端微塵になった木片が床に散らばるその先に、地下室へ繋がるであろう階段が出現している。

 手榴弾を投げ込む前に覗いたときには見えなかったので、本棚かなにかで隠されていたのだろう。

 

「……いこう」

「……はい、行きましょう」

 

 私達は階段の先に進んでいった。

 

 


 

「ここは……?」

「なんでしょう……不自然なほどなにもないですね……」

 

 階段を降りた先、一つの部屋に繋がっていた。

 ヒフミちゃんの言うように、この部屋には不自然なほどなにもない。しかし、最近まで使われてたのか、もしくは片付けるときに掃除したのか、廃墟というには異様な程に塵一つない綺麗な部屋、そして僅かに鼻に付く薬品の匂い。どちらかというとなにもない部屋じゃなくて何かがあった部屋という方が正しいような……

 部屋を探索していくと、ふと、壁に不自然な四角い切れ目が目に入る。

 

「これ、なんだろう……?」

 

 切れ目に近づき、押したり引っ張ったりする。すると、ガコンッと切れ目の部分の石が外れて、スイッチが出現する。

 

「スイッチ?……わわっ」

 

 何のスイッチだろうと、なんの警戒もなくスイッチを押してみると、地面が揺れるほど壮大な音を鳴らしながらすぐ隣の壁が徐々に上に上がっていき、新しい部屋への道が開かれる。

 さっきの部屋の本棚で扉を隠す仕組みやら今回の大掛かりな隠し扉やら、ゲームをそれなりにしてる自分からすると目を輝かせたくなってしまう光景だ。

 でも、今は隠し扉にロマンを感じている場合でもない。

 こっそりと音を立てないように開いた扉から僅かに顔を出して中を覗き込もうとしたその瞬間……

 

「っ……!?」

 

大きな銃声とともに、覗き込んだ自分の顔の僅か横で火花が散り、私は反射的に顔を引っ込めた。

 

「だ、大丈夫ですか、ミソラちゃん……?」

「うん、大丈夫」

 

 幸いなことに掠りもしなかったが、一瞬見えた部屋の中には6,7人は人影が見えた。これでは下手に突っ込んだら蜂の巣にされてしまいかねない。

 

「上が騒がしいと思ったらここまで嗅ぎつけてやがったか」

「この子の命が惜しかったら回れ右して帰ることだね~」

 

 カチャッと銃を構える音が聞こえる。

 撃たれないように警戒しながら再び僅かに顔を覗かせると、その先では、例の少女に銃口を突き付けている不良たちの姿が目に入る。

 

「ミソラちゃん……どうしましょう……?」

「うーん……」

 

 下手な動きをしてしまうとあの子が撃たれてしまう。

 いくらキヴォトスの住人が頑丈だからといって撃たれていいわけじゃない。

 それに、もしあの子の神秘が普通よりも低かったら? 

もし撃たれたときに当たりどころが悪かったら? 

もしあの子が実は身体が弱い子だったら?

 不良とは言っても、自分たちと同じ唯の生徒。彼女たちにそこまでできるはずがない。

 しかし、先程の可能性を考えれば、彼女たちにそのつもりがなくとも最悪の事態に陥ってしまう可能性も捨てきれない。

 せめて、あの子を助けられる隙が作れれば……

 

(いや、あの子が撃たれなければ問題ない……それでいい)

「ミソラちゃん……?」

 

 私の足は無意識のうちに不良たちの方向に動いていた。

 部屋に入り確認してみると、少女のヘイローは消えていて、眠るように壁にもたれ掛かっている。まだ気絶しているようだ。

 私は、警戒されないように愛銃を床に落とし、両手を上げる。

 これは少し疲れるけど、あの子を助けるためだから、出し惜しみはしない。

 全神経をあの子を助けるために集中させる。

 

「うんうん、投降とは賢い選択だね~」

「んじゃ、ここを知られちまったからにはちょっと眠って貰わねーとな?」

 

 不良たちが何かを言っているが自らの耳には聞こえない。

 この力をどんな原理で使っているのかなんて自分自身でもわからない。どうしてこんなことができるのかもわからない。

 わかるのは、この力を使えばあの子を助けられるということ。

 

「……人質を盾に、なんてフェアじゃないからね」

「あ? なんか言ったか……っ!?」

「!?」

 

 少し近づいたところで、スカートの下に隠していた拳銃を即座に取り出して少女に向けられていた銃に銃弾を撃ち込み、弾き飛ばした。

 

「こ、こいつ……!!」

「撃て!!」

 

 リーダーっぽい不良の合図と共に、銃を持ってる不良達の銃口がこちらに向けられる。

 

 

 ――あぁ、銃口を向けられるのがその子じゃなくてよかった――

 

 

 ほんの少し安堵しながらも前に進み、進んでる間に左手に神秘が集まっていくのを感じる。銃を弾き飛ばしてからここまでの時間コンマ数秒。

 次の瞬間、不良達から向けられた銃口から次々と銃弾が放たれる。

 私は、銃声を認識すると同時に身体を動かし、少し動かすだけで避けられる弾は避け、避けられない弾は左手で全て掴んで受け止めた。

 

「!?」

「なっ!?こいつ、銃弾を素手で!?」

「ば、化け物……!!」

 

 銃弾を素手で止められるなんて人外じみた芸当を見せつけられた不良たちは驚愕した表情でその動きを止めてしまう。

 

「終わり」

「ぐぁ……!!」

「うっ……!!」

 

 しかし、戦闘においてその大きな隙は致命的でしかない。もちろん私もそこを見逃すはずはなく、固まってる不良たちに片っ端から銃弾を撃ち込み、気絶させていった。

 

「ミソラちゃん!! 大丈夫ですか?」

「はぁ……ひ、ヒフミちゃん……うん、大丈夫だよ」

 

 不良たちを無事にみんな気絶させられたことを確認すると、後ろからヒフミちゃんが心配そうに寄ってくる。

 ヒフミちゃんは私の左手を掴んではその状態を確認し、怪我一つないことを認識すると、ほっと息を吐いて安堵した表情を浮かべる。

 

「無事でよかったです…………それにしても、ミソラちゃんってあんなに強かったんですね……」

「まぁ、あれはちょっと……はぁ……ズルみたいな力っていうか……はぁ……」

「ミソラちゃん大丈夫ですか……? 随分とお疲れみたいですね……?」

 

 息切れを起こしながらも説明する私に、ヒフミちゃんの表情は再び心配そうな顔に戻ってしまう。

 といっても、ちょっと疲れただけなのでヒフミちゃんに大丈夫と伝えて息を整える。

 

「ん……ふぅ……この能力は、ちょっと疲れちゃうから」

「能力……ですか?」

 

 そう、これが私の能力。

 どんな能力かはわからないけど、多分一時的に自分自身を強化する能力。

 使わなければ、私の実力は平均的といったところでしかない。

 でも、これを使えばさっきみたいなことも出来てしまう。色々なものが視えるようになって、どう動くかの判断が瞬時に出来るようになる。

 その代わり、使うととてつもなく疲れるのがデメリット。

 簡潔に一言で言えば、いつもより疲れる代わりにいつもより強くなれる力なのである。

 この能力があれば、俗に言う天才と呼ばれるような人にも手が届くかも知れない。

 

 いつからだろう、この能力に気づいたのは。

 いつの間にか、この力の存在を知っていて、これが私の能力なのだと認識していた。

 この能力について、漠然としか知らない筈なのに、最初から使い方を私は知っていた。

 使い方は知ってるのに、どうやって使っているのかはわからない。アニメとかゲームの展開の一つにあるところで例えたら、『頭では覚えてないけど身体が覚えている』って例えたらいいのだろうか。

 どうしてこの力を私が使えるのかはわからない。たまたまどこかで手に入れたのかもしれないし、何か理由があるのかもしれない。

 そこは気になるけど、今はこの力をみんなを助けるために使いたい。

 

 

 

そんな能力の名前は……

 

 

 

「……『頑張ったら強くなれる能力』?」

「そ、そのまんまですね……」

 

 能力の名前なんて知らないからとりあえず適当に考えた名前を出してみるとヒフミちゃんから苦笑いが帰ってきた。それはどういう感情?

 

「ん……ぅ……」

 

 そんな話をしてると、後ろから小さく声が聞こえた。

 振り向いて確認すると、少女が目を覚まして起き上がっていた。

 

「大丈夫?」

 

 起き上がった少女に駆け寄って、その状態を確認する。

 大雑把な確認ではあるけど、見た感じ大きな怪我とかはしてないようだ。

 

「う、うん……だいじょーぶでしゅ……」

 

 大きな怪我はなさそうだけど、少し怖がられてるかなと、少女の反応を見て感じた。

 誘拐された後だ、無理もないことだろうとは思う。

 

「大丈夫、君は私が守るから」

「う、うん……ありがとう……お姉さん……」

 

 安心させるように抱きしめてあげると、きゅっと服を摘んで返してくる。

 ほんの少しだけど、警戒は解けたかな?

 

「じゃあ、帰ろうか」

「はい、そうですね」

「は、はい……」

 

 ほんとはゆっくりお話したいところだけど、ここはまだ敵地の中。

 気絶させた敵がいつ目を覚ますかもわからないし、増援が来ても面倒くさい。

 この子を守りながらなら、尚更危険は避けていきたい。

 そうしてその場を立ち上がり自分の愛銃を拾った後、部屋を出て階段に向かおうとしたその時……

 

「っ……足音……」

「これは……」

「……っ!」

 

 階段の上から複数人の足音が聞こえてきた。

 やがて、足音はどんどんと近づいてきて、階段の上から不良たちがぞろぞろと降りてきた。

 増援だろうか、それとも上で気絶してた不良たちが起きてきたのだろうか。そのどちらかはわからない。一つ、確実なのは先程まで危惧していた面倒事が見事に今起こってしまったということ。

 

「さっきはよくもやってくれたな、許さねぇ」

 

 不良の数は十数程、今喋った不良の言葉からして、上で気絶してた不良が起きてきたパターンか。

 

「とりあえず一回引くよっ」

「は、はい!」

 

 少女を優しく抱え、先程の部屋まで退避し、扉側の壁に張り付く。

 この状態は少しまずい。

 逃げ場所は不良たちが防いでる階段のみ、この部屋から別の道に繋がるとかもないので、ほんとにその一箇所しかない。

 となれば、迎撃するか、正面突破で階段を駆け上がるかの2択しかない。

 選ぶなら後者。

 能力はこの疲労してる状態で使うのは、突破した後のことを考えて避けたい。

 逃げるだけの体力を残すなら能力の乱用は避けたい。

 でも、能力を使わないなら前者のほうはかなり難しい。この子を守りながらやるなら尚更難易度は高くなる。

 袋の鼠とも言えるこの状態、突破口を無理やりこじ開けるなら、まだここの入口が固められてない今しかない。

 すぐに行動に移ろうと息を整えた、その瞬間……

 

「ぐぁっ!?」「がっ!?」「うぁ!?」

 

 大きな複数の銃声とともに、不良たちの悲鳴が部屋に響き渡る。

 

「えっ?」

 

 慌てて部屋を覗き込むと、階段の上には見覚えのある人物が一人

 

「こっちっすよ!」

「イチカちゃん……!」

 

 応援に来てくれたイチカちゃんが愛銃を構えながらこちらに手を振っていた。

 行くなら今しかない。私は、腰からとある物を取り出して構える。

 

「ヒフミちゃん、行こう」

「はい!……って、ミソラちゃん? 手榴弾でなにを……?」

 

 私が取り出したのは手榴弾。それを見て困惑するヒフミちゃんの反応は正しい。

 確かに、こんなところで手榴弾なんて使うのはリスクが高すぎる。最悪敵味方共々生き埋めになるだろう。

 でも、その心配はいらない。

 

「これは、脅しに使うだけだから」

「わ、わかりました。ミソラちゃんを信じますね!」

「いくよ」

 

 掛け声と共に取り出した手榴弾を不良たちに投げつけた。

 

「はっ!? 手榴弾!? こいつ正気か!?」

「自爆する気!?」

 

 そして、私は手榴弾を投げつけたと同時に少女を優しく抱えて階段まで走り出した。

 手榴弾を見て驚いた不良たちは反射的に逃げる体制に入る。

 しかし、階段の入口はイチカちゃんが塞いでいる。つまり、左右に避けるしかない。

 走り出して部屋の中央辺りまで着いた頃、投げた手榴弾は僅か目先の下、不良たちは予想通り壁側に避け、階段までの道が開けていた。

 そして、そのままその横を通り過ぎて階段まで突っ切っていく。

 その後ろで地面に接触した手榴弾は、爆発することなく、カランッと中身のない音だけを部屋に鳴り響かせた。

 そう、投げたのは手榴弾そっくりの偽物。見た目だけならどう見てもただの手榴弾だが、その中に爆薬は一切入っていない。

 先程、不意打ちで同じように爆破されたのだ。誰だって、同じやり方で爆破されそうになれば逃げようとする。それを逆手に取った作戦。

 作戦は上手くいき、イチカちゃんと合流する。

 

「よし、このまま逃げるっすよ!」

「うん!」

「はい!」

 

 そして私達は階段を進んで行って廃墟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 とある廃墟での出来事。

 ある少女を巡った2人のトリニティ生と不良たちの戦い。

 その一連の出来事を影で見ていた人物がいた。

 

「クククッ、神秘転移にあの力、『記憶の少女』を手放したのは正解でした」

 

 黒服は顎に手を当てて先程の少女のことを思い返していた。

 あの少女を初めて見たとき、他の生徒と違うものを感じていた。

 神秘とは似て、違う力を持っているような、そんな違和感を感じていた。

 だからこそ、彼女に興味を持った。

 だからこそ、当初の予定を変更した。

 

 元々は、不良たちを利用して記憶の少女を手に入れて実験する予定だった。

 しかし、記憶の少女みたいに特殊な能力を持っているのとはまた違う、神秘と似た何かを持っている彼女、それが何かを知りたくなった。

 だから、本来不良に誘拐させた記憶の少女を餌に彼女の血液を手に入れた。

 彼女の血液を調べれば何か分かるかもしれない。

 そして、彼女の持つ力を客観的に観察すればそれもまた興味深いものが見られると踏んでいた。

 後者の部分を確認するために、彼女の全ては求めず、不良たちとぶつけてみることにした。

 結果、今回はその力の一端を観察することが出来た。しかし、黒服はあれが力の全てではないと推察している。

 

「今回は記憶の少女を助けること、そして無事に逃げることを目的としてましたから、恐らく全てを出し切れてはないでしょう」

 

 恐らく、力の全てをこの目で観察するには、それ相応の舞台を用意しなくてはいけない。

 今回は記憶の少女という人質がいたからこそ力の一端を見られたというだけのこと。

 普通に考えれば唯の不良ではいくら用意しても役不足だろう。

 今回の実験で自分の推測が間違っていないことは確認できた。

 あの僅か数秒だけ見せたあの動き。あれには確実に神秘とは別の力が働いている。

 次に観察するなら、その力の性質と全力で使えばどうなるか、どこまでのことができるのか。

 

「そのときは、相応の舞台を用意することにしましょう。マエストロが興味を持てば、彼に協力して貰うのもいいですね」

 

 彼女の力について、不明点、気になること、今回見たことで推測できること、それぞれをメモに残しながら黒服は不気味な笑みを浮かべる。

 

「彼女には感謝致しましょう。興味深い力、そして副産物も用意して頂けましたからね」

 

 彼女を観察して得たのが未知の力、そして副産物としてもう一つ、それが『神秘転移』。

 神秘転移とは、生徒の身体に流れている神秘を、一点に集められるのではないかと推測していた一つの仮説である。

 神秘は、キヴォトスの全ての生徒が持つものであり、その量には個人差があるものの、ヘイローを持つ人間は例外なく持っており(逆に言えばその人間が持つ神秘を形として可視化させたものがヘイローであるとも言える)、その神秘は血液と同じように身体中を巡っている。

 銃弾を受けても痛みを感じるだけで済む、それは神秘が身体中を巡っているからこそ実現していること。

 それなら、身体中にある神秘を身体の一部に集束させることも可能なのではないか?

というのが黒服が立てていた一つの仮説。

 彼女たちの持つ神秘は、身体を循環する血液とは違い、自分である程度操作ができる。

 わかりやすい例が、彼女たちの扱う銃。

 彼女たちは、自らの持つ銃に神秘を込めて撃つことで、その威力を上げたり、普通の使い方じゃありえない現象を発生させたりしている。

 また、彼女たちの意志に反応して増幅されることも確認している。

 それなら、身体を流れる神秘を別の部位に転移させて、その部位だけでもその人の持ちうる神秘を超えた強度を叩き出せるのではないかというのが仮説の詳細。

 いつか実験しようかと考えていた一つの仮説だが、その答えを彼女は見せてくれた。

 彼女以外の人間でも可能なのか等、新たに観察したいこともできたが、この仮説については、現実的に再現が可能であることは証明された。

 

「ククククッ、さて、次の実験の準備と参りましょう」




はい、実はこれ黒服が仕組んだことなんですね。
流石は黒服汚い

今回はミソラちゃんの能力を少し明かす回でした。
言い回しが少し分かりづらかったかもしれないので、想像しやすいように言ってみましょう。
皆さん、なにかをするとき、急に覚醒していつもより上手くなったりすることがありますよね?
それを極端に故意的に出せる能力と言えばいいでしょうか。
まぁ、明確な詳細を言ってしまえばちょっと違うんですけど、そこは後々明かされます。
努力して強くなるじゃなくて、意思を持って意識をそのことに集中させることで、そのときだけ普段より強くなれる、その代わり強くなった分疲れるのが彼女の能力です。

ちなみに、彼女の能力と黒服が話していた神秘転移はまったくの別物です。
彼女の能力で銃弾を見切れるくらいにまで強くなって、銃弾掴みを実現させられるように神秘転移で左手を強化させたというのが流れですね。
神秘転移使わなかったら今頃左手は赤く染まってます。

神秘転移について、黒服の解説を読んで察しの良い人は想像できたかもしれませんが、これかなり危険な技です。
身体にある神秘を一つの部分に集めてるわけですから、集めた部分以外の防御力は著しく下がります。つまり今回のを例にすると、左手以外に銃弾が当たった場合痛いじゃ済まなくなっちゃうわけですね。
黒服が最後に考えた新たな疑問について物語中でその実験結果を描くつもりはないので明かしちゃいますけど、この技術、他の生徒も練習すれば普通に使えるようになります。
でも、先程のリスクがあるので、万が一考えついたとしても誰もやろうとは思いません。
銃で撃たれて痛いで済む世界でわざわざ即死する可能性を作る必要はありませんからね。
ハ◯ターハ◯ターが分かる人なら念能力の応用技の『コウ』をイメージして貰えれば分かりやすいかも

撃たれて即死といえば、今回、ミソラちゃんが少女を助けるときの懸念として、神秘が弱かったら、身体が弱かったら、当たりどころが悪かったらというのが挙げられてましたね。
原作では、方法としてヘイローを壊すだとか、時間をかければ殺せるみたいな描写はありました。
銃弾で生徒が死ぬ可能性については触れられてなかった気がしますが、僕はそこについて場合によってはあると考えてます。
神秘は生徒によってその量に個人差があります。
普通撃たれたら気絶する弾丸を頭に受けてもどこかの風紀委員長はびくともしてなかったりするかもしれません。
エデン条約にて、ミサイルでの爆撃を受けてヒナが怪我を負うシーンがありましたね。でも、先程のことを込みで考えてみると、同じ条件でモブ生徒が爆撃されたとして、ヒナのときと同じダメージで済むのかというと、多分違うんですよね。最悪、ってことも考えられるかもしれません。あくまで神秘の力で耐久力が上がってるだけですからね。
他の部分で言うと、当たりどころが悪かったらって部分だと、例えば銃弾が目に当たってしまったとか。そういうところっていくら神秘で守られてるからといってもそれでカバーしきれない部位って存在すると思うんですよね。っていうのが一つ
身体が弱かったらって部分だと、セイアとかヒマリみたいに生まれつき身体が弱い人は普通にいます。
例えば心臓が生まれつき弱い子が心臓部分に銃弾を受けたら、なんて考えたらもしもがあるかもしれません。
結構なこと話してる自覚はありますが、明確に描写されてないだけでキヴォトスにもそういう例外は存在すると考えています。

さてさて、色々話しましたが、次回は助けた少女兼黒服が『記憶の少女』と呼んでた子とお話する回ですね
次回もよろしくお願いします
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