ブルーアーカイブ 〜欠片の物語〜   作:眠り狐のK

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セクシーセイアですまない


17話 予言の大天使

「あ、このケーキ美味しい」

 

 私は現在、とある噂で聞いたカフェに足を運んでいた。ここのケーキが凄く美味しいって話だったけど、流石噂になっているだけはある。凄い甘くて生地もふんわりしててとろけるよう、美味しい。今度ヒフミちゃんと食べに来よう。

 新店ということもあってか人がかなり多い、あまり並ばなくて良かったのはラッキーだったかな。

 一口、一口とケーキを食べ進めていると

 

「相席、いいかい?」

 

 ふと、私に話しかける声が聞こえた。

 声の主に目を向けると、そこには私とあまり変わらない背丈に綺麗な金髪の髪ともふもふの耳に尻尾、その手は萌え袖のように垂れた袖に隠れ、その上に小さな白い小鳥が立っている。

 この人は……

 

「百合園……セイアさん」

「セイアで構わないよ」

 

 相席に了承するとセイアさんは向かいの席に腰を下ろす。

 しかし、ちょっと意外かも。ティーパーティーの人って、特にトップの3人はあまり外に出るっていうイメージがなかったから。いや、でも先代ティーパーティーならカレンさんはたまに外で会うこともあったかも。他の二人があまり外に出ないらしいからそんなイメージがついてたのかも。

 

「そんなに意外かい? 私がここにいることが」

 

 そんな考え事をしていると考えていることが読まれたかのような言葉が聞こえた。顔に出ちゃっていたかな。

 

「ま、それも仕方ない。実際、私やナギサはあまりここまで出てくることがないのは事実だからね。ミカに関してはそうでもないようだが……先代のティーパーティーも同じようだと聞く。そんなイメージがついても不思議はない」

 

 ミカ……聖園ミカさん、その人も結構外に出る人なんだ。まだ会ったことはないけど、いつか話せるのかな。

 そんなことを考えていると、セイアさんは話を続ける。

 

「だが、今回はそんな話をしにきたわけじゃない。君に、聞いてみたいことがあるんだ、黒崎ミソラ」

「私のこと、知ってるの?」

「当然だとも。トリニティを守る立場でありながらティーパーティーの傘下にない独立した団体『特別自警部』、その部長である君のことはね」

「部長って言っても、書類上だけの話だけど」

「あぁ、理解しているとも」

 

 こくり、とセイアさんは頷きながら紅茶を口にする。

 

「さて、早速本題といこうか。……本来話す予定だった事柄の他に君に話さないといけないことも出来てしまったのだがね」

「?」

 

 私はセイアさんの言葉に首を傾げた。私に話さないといけないこと? なんだろう?

 

「君は、自分の力についてどれだけ理解している?」

「私の、力?」

 

 セイアさんの表情が真剣なものになり、そんなことを聞かれる。

 自分の力……頑張ったら強くなれる能力のことかな。とりあえず自分の知っている限り、能力のことを話してみることにした。

 

「――ふむ、自己強化能力……か。いや、でもそれだけではあの現象への説明が……っと、すまないね」

 

 私の話を聞いて暫く考え込んでいたセイアさんだったが、ふと我に返ったかのように小さく咳払いをして話を続ける。

 

「恐らく、君には他にも力があると私は考えている」

「他の力……」

 

 そんなもの、私は知らない。私の力は『頑張ったら強くなれる能力』だけのはず。それ以外の力がもしあるのなら何か感じるものがあるはず。『頑張ったら強くなれる能力』がそうだったのだから、他の力もそうであるはず。

 そもそも、どうしてこの人はそんなことを知っているのだろう。

 

「……私はたまに夢の中で未来の出来事を視ることがある。『予知夢』のようなものだと思ってくれていい」

「予知夢……未来の私はその別の力を使ってるの?」

 

 セイアさんは私の質問にゆっくりと首を振り、こう答えた。

 

視えなかった(・・・・・・)のだよ」

 

 視えなかった? 

 それはどういう……

 

「正確に言えば君の存在だけが視えなかった。異変を感じたのは少し前。ある日突然、この予知夢は稀にだがあり得るはずのない未来を映すことが出てくるようになった」

「あり得るはずのない未来?」

「……『本居メリー』、この名前に聞き覚えはあるかい? あるはずだ。半年前、君が助けた人物なのだから」

 

 こくり、と私は頷く。

 忘れるはずがない。あの日の出来事は衝撃的だった。黒服と出会い、ヒフミちゃんに自らの能力を明かし、メリーちゃんという妹みたいな友達もできた。あの子とはたまにモモトークでお話したり遊びに行ったりしている。あれ以来誰かに襲われたという話もないから安心、もし何かあっても私が守る。

 

「それで、そのメリーちゃんがどうしたの?」

「本居メリーは、私の視る未来では半年前から行方不明になっている」

「……えっ?」

 

 そんなこと、あり得るはずがない。メリーちゃんはあのとききちんと助けた。今だってモモトークでやり取りしてたし、元気にしている。

 じゃあ、この人の視ている未来は一体……?

 

「その他にも、私が視た未来に特別自警部という部活は存在しない」

 

 それも、あり得ない。特別自警部は先代のティーパーティーが私のために作ってくれた部活。スズミちゃんやエイリちゃん、ユヅキちゃんにハクアちゃんもいる。存在しないなんてことがあり得るはずが……。

 そんな考えを頭に巡らせている間も、セイアさんは話を続ける。

 

「しかし、ある程度の未来は私の視た通りに動いている。つまり、一部なのか全てなのかは定かではないが、黒崎ミソラが存在していない世界線の未来を観測することがあるのだよ」

 

 私が存在しない世界……そういう世界線も、あるのかな?

 

「今までにこういうことは一度としてなかった。それに、未来予知で視る内容を改変させる力なんてものも聞いたことがない。だからそれを確かめるためにここに来たのだよ。……本当は夢を通じて君に語りかけようと思っていたのだが、何故か君の夢に干渉が出来なくてね。それもまた、ここに来る理由となってしまったよ」

「そう、なんだ」

 

 未来予知を改変させる力、夢への干渉を妨害する力、ほんとにそんな力が私に?

 

「君の反応を見るに、自覚はないようだね。この事象が君の力によるものなのか、君に対して外部から大きな力が働いているのか、それともどちらでもない何かなのか。それは定かではないが、全てが君が関わる事象だ。この先、君には大きな運命が待ち受けているような気がするよ。それが良いことであるのか、悪いことであるのかはわからないがね」

 

 大きな、運命……。

 でも、私もそんな気がする。

 私自身、過去のことはあまり覚えてない。

 メリーちゃんは私の過去が視えないと言っていた。

 セイアさんは未来に私が映らないと言っていた。

 それだけのことがあって何も無いほうがおかしい。

 どんな運命が待ち受けているのかはわからない。でも――

 

「私は、大好きなみんなに幸せになってほしい」

 

 私に色んなことを教えてくれた人達、ヒフミちゃん、セリナちゃん、イチカちゃん、メリーちゃん、エイリちゃん、ユヅキちゃん、ハクアちゃん、スズミちゃん、イロハちゃん、他にもいっぱいいる。みんなみんな私の大切な人達。

 

「もし、そんな力が本当に私にあるなら、みんなのために使いたい」

「……その先にあるのがどんなに虚しい結末だとしても?」

「当然。未来は変えられるから」

 

 そう、未来は変えられる。セイアさんは辛い未来を見てしまったのかもしれないけど、それがさっきの私の存在しなかった世界線の話なのだとしたら、私がいることで何か変わるかもしれない。未来を知っていることで何か変えられるかもしれない。

 

「未来は変えられる、か。そうだね、少なくとも2人の破滅へ向かうはずだった運命を既に変えてしまった君が言う言葉だ、信じてみる価値はありそうだよ」

 

 2人……?

 1人は恐らくメリーちゃんのことだろう。私がいない世界線ではあのまま行方不明になってたって言ってたから。もう1人は誰だろう?

 誰でもいっか。救えたのなら。

 

「結局、この事象のことについてはほぼ分からなかったが、君がどういう人物なのかは見えてきた気がするよ。それだけでもここまで来た甲斐があったというものだね」

 

 役に立てたのならよかった。

 未来が見えることでどんな感情を持つのかは私にはわからないけど、セイアさんの力にもなれたらいいなって思う。

 

 ……そういえば

 

「そういえば、本来話す予定だったことって?」

「あぁ、そのことかい? そうだね、今ではそこまで意味を持たない問いになってしまうが、まだ時間はある。雑談の一種としては話してもいいだろう」

 

 セイアさんは考えるように顎に手を当てる。

 

「君は、キヴォトスの7つの古則を知っているかい?」

「7つの古則……どこかで聞いたことがある気がする」

 

 何処だったっけ……?

 ウイさんの古書館だったかな。そんな気がする。

 

「その5つ目の問い、『楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか』。もし楽園というものが存在するならば、そこに辿り着いた者は至上の満足と喜びを抱くが故に、永遠に楽園の外に出ることはない。もし外に出たのであれば、そこは真の快楽を得られるような本当の楽園ではなかったということ。故に、楽園に辿り着いた者が外で観測されるはずがない。存在しない者の真実を証明することができるのか? そんな元より証明できるはずのないことに対する不可解な問いの話だよ」

 

 5つ目、そんな内容なんだ。

 楽園を証明する方法、証明できないものをどうやって証明するのか……うーん……

 セイアさんの出す問いについて考えていると、セイアさんは少し微笑みながら話を続けた。

 

「これは、未来が視える私にとっては『証明できない』ということを誰よりも知らされることとなってしまった。予知夢で視た未来は変えることができないものだからね。だが、この前提を君は覆してしまった。……だからだろうね。今では、君がいればこの先の破局に向かう未来さえも何か変わるのではないかと思えるようになった」

「私がいれば……」

 

 さっき私が言ったことも影響しているのだろうか、セイアさんの表情も最初に比べれば少し柔らかいものになったような気もする。

 私にそんな力があるのかは分からないし、あったとしてほんとにそれで嫌な未来を変えられるのかどうかも分からない。

 分からないってことは、変えられないかもしれないけど、変えられるかもしれないってこと。

 変えられる可能性があるなら、さっきも言ったようにみんなが幸せになれるように頑張ってみたい。

 

「そう重く捉える必要はないよ。君に世界を救えとか、そういう話をしているわけじゃない。小さな変化で未来が良い方向に変わるかもしれない、そう私が思えるようになった。それだけの話だからね」

 

 少し考えてただけだったけど、セイアさんには重く捉えてると思われたみたいだ。

 全然重く捉えてるつもりはなかったけど。

 

「少し話が脱線してしまったね。この問いを君にしてみたかった理由だが、先程の予知夢のことを抜きにしても、君が良い意味でトリニティにとって異例となっているからだね」

「異例?」

「そう、異例だ。それは特別自警部の存在とその意味が物語っている。その他にも君はゲヘナの生徒とも友好関係を築いていると聞いている。最近連邦生徒会長が話題に出している『エデン条約』はそれを学園として行おうというものではあるが、君は唯一、それを個人で既に達成してしまった人物というわけだ」

 

 『エデン条約』、どこかで聞いたことがあるような。確かトリニティとゲヘナ間の敵対関係に終止符を撃とうっていう話だったかな。

 というより……

 

「私が唯一?」

 

 そこに引っかかった。

 確かにトリニティとゲヘナが敵対関係であってお互いにお互いを憎んでいる生徒も少なくはないことも知っている。

 でも、歩み寄ってみようって思う生徒もいてもおかしくないと思っていた。

 私に関してはゲヘナの付近でお昼寝しようとしてたらお友達が出来ただけだけど、ゲヘナの子とも仲良くなることは出来る。

 トリニティにはヒフミちゃんやセリナちゃんみたいに凄く心優しい子も沢山いるんだから、ゲヘナと仲良く出来た子もいてもおかしくないと思うんだけど……。

 その疑問に答えるようにセイアさんが口を開く。

 

「そう、君が唯一だ。少なくとも私の知る限りではね。それだけ、トリニティとゲヘナの間にある敵対関係というものは深く根付いている。もちろん、全員が全員敵視してるわけではないし、歩み寄ろうとした生徒もいないことはないだろう。だが、それが上手く行ったという話は聞いたことがない。君を除いてね? トリニティとゲヘナではその根本的な在り方が違う、だから合わないことが多いのかもしれない」

 

 確かにそれはそうかも知れない。

 元よりゲヘナのことを毛嫌いしてたり、良くない印象を持ってる人はそもそもゲヘナの人と仲良くしようなんて言わないし、良くも悪くも自由なゲヘナの人達と合わないってことも多いのかな?

 

「その他にもミレニアムや他の学園とも君は交流を持っていると聞く。ブラックマーケットの出入りもトリニティでは禁止されているが、特別自警部には許可が降りている。つまるところ、トリニティの壁を越えて多くの世界をその目で見てきた君がこの問いに対してどのような答えを出すのか、興味があったのだよ」

 

 楽園は存在するのか。存在したとして、そこに辿り着いた人の存在をどうやって証明するのか。

 私は少しの間考え込んで、自分なりの答えを出した。

 

「楽園の存在は証明できない。でも、存在しないことも証明できない。なら、存在することを信じたい」

「存在しないことの証明、新しい視点だね」

「楽園に辿り着いた人が観測されないから存在の証明は出来ない。でも、辿り着いた人がいる可能性があるなら、観測できないっていうのは楽園が存在しない証明にはならないと思う」

「確かに、可能性が残っているのなら、存在しないことも証明は出来ない。そんな考え方もある。実に君らしい回答と言えるだろう」

 

 セイアさんは少し嬉しそうに微笑みながらそのふわふわな耳と尻尾を揺らす。

 

「ありがとう。君と過ごした時間は私にとって有意義な時間だった。そして、そんな君を私は信じてみようと思う」

 

 こうして面と向かって信じてくれるって言われるのは嬉しい。

 

「……君に、一つ依頼をしたい」

「依頼?」

「あぁ、これは特別自警部にではなく、君個人への依頼だ。強制するわけじゃないからね、断ってくれても構わない」

「ううん、受ける。セイアさんが信じてくれるって言うなら」

 

 その答えにセイアさんは小さく笑みを零す。

 

「まだ内容も言ってないのに決めていいのかい?」

「私もセイアさんのこと、信じてるから」

 

 そう言うと、セイアさんは耳をぴくりと動かし、安心したような表情を浮かべる。

 

「そうか、わかった。その内容なんだが――」




破滅の運命を辿るはずだった2人の話
一人目はわかると思いますが、本居メリーちゃんです。
彼女は、あのときミソラちゃんが助けなければあのまま誘拐され、行方不明となっていました。
その後彼女がどうなっていたかは皆さんのご想像におまかせします。まぁ、過去の記憶を視る神秘があってそれに黒服が目をつけたって言うのですから良いことは起こらないのはわかりますよね。

もう一人なんですけど
実は、新風ハクアちゃんです。
彼女は、ミソラちゃんが存在しない世界線では自警部が存在しないため、あのままトリニティ自警部としてルーちゃんと一緒に一人+一匹で活動することとなっていました。その世界線のルートですと、ハクアちゃんは基本的に自由気まま故に誰とも組もうとしません。それが原因か、とある任務で相棒であり唯一の家族でもあるルーちゃんを亡くしてしまいます。
唯一の家族を亡くしてしまったのですから当然彼女は絶望します。バッドエンドルート直行です。
流石に自殺まではしませんがそれを考えてしまう程に彼女は救われなくなります。少なくとも孤独に無気力にその後の人生を歩んでいたことでしょう。先生と関わる機会に巡り会えればもしかしたら立ち直ることはできた可能性もありますね。でも、セイアが視た未来はそのバッドエンドなのです。
セイアは、ミソラの存在がこの2人のバッドエンドを回避させたことを知ったので、破局に向かう未来を視た上でも、ミソラの存在が、それによる行動の変化が、何かを変えるかもしれないと思うようになれたわけですね。
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