ブルーアーカイブ 〜欠片の物語〜   作:眠り狐のK

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アズサってかわいいよね


18話 氷の魔女

 とある秘密の部屋。その部屋の静寂さは遅い夜だからか、それとも隠された秘密の部屋故か。

 薄暗い部屋の中、その静寂を破るように部屋の扉が開かれる。

 

「……百合園セイア?」

「あぁ、そうだよ。君を待っていたんだ、アリウス分校所属『白洲アズサ』」

 

 部屋の中に入ってきたのは白く長い髪の少女。その背中には白くて華麗な羽根が生えており、頭の左側には紫色の花がついている。顔にはガスマスクをつけており、その素顔を確認することはできない。

 

「……待ってた? 私を?」

「あぁ、このシーンは視ていたからね」

 

 見ていた、というセイアの言葉にアズサは首を傾げる。その言い方だとまるで、この状況を予め知っていたかのように、アズサがここに来ることを分かっていたかのようではないか、と。

 アリウスの情報は漏れていないはず。もし情報を漏らしていたとするならば一体誰が……と、アズサが思考を巡らせていると、その問いに答えるかのようにセイアは口を開く。

 

「視ていたというのは、そうだね……『予知夢』のようなものだと思ってくれていい。たまに視えてしまうんだ。後で現実として起こってしまうような、そんな夢が。もちろん、それ以外の夢もね」

「つまり、これからすることも分かっている……と?」

「破壊するつもりだろう? 私のヘイローを」

 

 アズサの問いかけにセイアはこくりと頷き答えた。

 『予知夢』……ほんとにそんな力が存在しうるのか。そう考えるも、この状況で嘘を付くメリットはない。自分のことを知っていたことも踏まえ、彼女の言っていることは事実なのだろうと結論付けた。

 しかし、そうなってくると新たな疑問が浮かび上がってくる。

 

「どうして、逃げなかった?」

 

 そう、この状況が分かっていてどうして逃げなかったのかだ。

 襲撃のことも、アズサがここに辿り着くことも知っていたのなら、身を隠すなり迎え撃つなり出来たはずだ。

 自分達以外に人の気配は感じる。恐らく後者の方を選んだのだと予想できる。が、もしそうだとするなら何故この状況になって尚、姿を現さないのか理解できない。

 セイアとアズサの距離はそれほど離れていない。このまま銃を撃てば確実に当てられる、そういい切れるほどの距離。そんな距離にまで近づいても姿を現さない。この距離まで近づいて尚止められるという自信があるのか、若しくは別に理由があるのか……そんな思考を頭に巡らせている間に、質問に対する答えが返ってくる。

 

「無意味だから……と、少し前の私なら言っていただろうね。『vanitas vanitatum』……全ては虚しいものである、この言葉はアリウスの大好きな言葉だったね。それは、未来を視ている私にとっても同じこと、抗うことは無意味なことだと、ね」

「今は違うと?」

 

 肯定を示すようにセイアはゆっくりと頷いた。

 

「未来は変えられると、実際に私の視た未来を覆してしまう存在に出会ってしまったからね。そんな存在に出会ってしまっては、抗うことにも意味があると思わざるを得なくなってしまうよ」

 

 セイアは机の上に座らせた小鳥の背中を優しく撫でながら嬉しそうに語った。その表情は、今まで希望を失っていた心に光が宿ったような、そんな輝きを放っていた。そして、続け様にこう言った。

 

「そして、抗うことに意味があると思っているのは、君も同じではないかい?」

 

 ぴくりと、アズサはその言葉に反応してしまった。その、自らの心を見透かしたかのような言葉に。

 

「どうして……」

 

 ほんの僅かだとしても動揺してしまっている、そんな自分の心情を悟られないようにその心を問いた。

 

「視たからだよ。『人殺し』を恐れる君の姿を、『人殺し』になってしまった君の絶望する姿を。『全ては虚しいものである』このアリウスの考えに君が同意しているのは事実。しかし、『たとえ虚しくとも、抗わなくてはいけない』この考えこそが君の根底にあるものなのだろう?」

 

 合っている。

 実際、アズサはアリウスで一輪の花を眺めながらそんなことをずっと考えていた。

 

「ちなみに、今までにヘイローを壊したことは?」

「……いや、ない。でも、やり方は習った」

「……『習った』、ね」

 

 まだ取り返しのつかないラインは越えていないと、首を振るアズサにセイアは安堵するも、その次に出た言葉に僅かに顔をしかめる。

 ヘイローを壊すやり方を習う。すなわち、人の殺し方を習う。

 アリウスのトリニティへの憎悪はそこまで増大してしまっているのか、と。

 

「肉体に取り返しのつかない、致命的なダメージを与え続ける。普通の銃弾を何発撃ったところでほとんど致命傷にはならないはず。でも、ダメージがないわけじゃない。尋常じゃない量の弾薬にダメージを与え続けられる圧倒的優位と時間があれば銃火器だけでヘイローを壊すことも不可能じゃない。その他にも、病気がないわけでもないし薬も通用する、呼吸を止めれば当然窒息するし、時間をかけて流血させれば失血もする。『死』に至らせる方法はいくらでもあるはず」

 

 アズサが提示した方法は確かにどれも効果はあるだろう。

 いくらキヴォトスの人間が頑丈とはいえ、銃で撃たれれば痛い。病気にもかかる。薬で不調を良くすることが出来るのであればその逆だって可能。呼吸だって血液だって生きる為には当然必要なものだ。

 セイアはアズサの話を黙って聞き、アズサは話を続ける。

 

「それら全て、アリウスで習ったこと。でも、今回はそこまでする時間はない。だから、これを使うように言われている」

「これは……?」

 

 アズサが取り出したのは一つの爆弾。そのデザインはセイアの見たことのないものだった。

 少なくとも、一般の店で流通しているようなものではない。特注か、自ら作成したのか。そして、この小さな爆弾にそれほどの莫大な威力があるのか。

 その答えは、アズサの口から語られる。

 

「これは『ヘイローを破壊する爆弾』。これで、確実にヘイローを破壊できると聞いている」

「『ヘイローを破壊する爆弾』……聞いたことがない技術だ」

 

 アズサのその口ぶりからこの爆弾の真の力は『ヘイローを破壊する』ことにあるのだろう。

 実際のところ、ヘイローを破壊できる程の攻撃力を用意するなら、恐らく核ミサイル級以上、それだけあっても足りるのかはわからない。

 ヘイローが破壊されるなんて話をほとんど耳にしないからこそ、そのために必要な攻撃力がどれほどなのか、それは計り知れない。しかし、ある程度の銃弾や爆弾は痛いで済んでしまうキヴォトスの人間であるならば、相当な威力が必要……少なくともこの小さな爆弾にそれが出来る程の威力が込められるとは到底思えない。であるならば、その性質に何か仕掛けがあるのだろう。

 考えられる可能性としては……肉体にダメージを与えるものではなく、ヘイローに直接ダメージを与える、とか。

 それが真実なのか、真実だったとしてアリウスがどうやってそんな技術を手に入れたのか、多くの疑問が浮かび上がってくるが、もしそれが可能であるのならば、この小さな爆弾でも言葉通り『ヘイローを破壊する』ことも不可能ではないのだろう。

 

「……本題に入ろうか」

 

 疑問に残ることは多いが、今はそれらを考えている時間はない。

 この3人(・・)だけでいられる時間のうちに事を終わらせなくてはいけない。

 

「……本題?」

「君はエデン条約のことは知っているかい?」

 

 首を傾げるアズサにセイアはそう問いかける。

 アリウスがどこまでの情報を持っているのかはわからないが、エデン条約のことを知っているのならば話は早くなる。

 

「……うん、その情報ならアリウスにも伝わっている。トリニティとゲヘナ、対立関係であるこの2つの学校が和解するために作ろうとしている条約……」

「その通り、それがわかっているなら話は早い。これを結びトリニティとゲヘナ間の紛争がなくなれば、じきにアリウスの問題も解決できるかもしれない。少なくとも、現状トリニティとゲヘナの問題を解決できるのはこのエデン条約しかないからね。しかし、アリウスは私達ティーパーティーのヘイローを破壊しようとしている。もしそれが実行されてしまえばキヴォトスは本物の戦場へと変わってしまうだろう」

「……だから、今は退けと?」

 

 アズサの言葉にセイアはゆっくりと首を振る。

 

「今ここで何もなく君を帰してしまえば君がどうなるかわからない。少なくとも、君達にヘイローの壊し方を教えていた人間がこの話を素直に受け入れてくれるとは思わない」

「なら……どうしてその話を?」

 

 アズサは理解できなかった。

 襲撃を止めるつもりがないのであれば、どうしてこの話をしたのか。まさか、時間稼ぎのつもりなのだろうか?

 しかし、時間稼ぎが本当に目的なのであれば、先程から潜んでいる人物は何故未だに姿を現さないのだろうか? 先程の話で自らが少なからず動揺してしまった自覚はある。少なくともそのタイミングは奇襲を仕掛けるには絶好のタイミングだった筈だ。しかし、実際そのタイミングになっても動きは一切なかった。

 だからこそ、理解ができなかった。

 

「白洲アズサ、君はアリウスを止めたいかい?」

「アリウスを……止める?」

「私は知っている。ここで君が私のヘイローを破壊する気がないことも、その上でこのままずっと足掻き続けようとしていることも…………元より、君がここに来た理由は私のヘイローを壊すためではなく、この先どうやって足掻くべきなのか助言を貰いに来たから、そうなのだろう?」

「っ……!?」

 

 セイアの言葉にアズサは驚愕する。

 セイアは、最初から知っていたのだ。

 よく考えてみれば当然のこと、この状況になることが分かっているのなら、このあとアズサが取る行動だって分かっていて当然なのだ。

 最後まで抗い続けるためにどうするべきなのか助言を貰おうとしていたことも、その上でこのままここを爆破し、セイアの死を偽装し、アリウスにはヘイローを破壊したと報告しようとしていたことも。

 そこまでの流れをセイアは全て知っていた。

 

「例えここで私のヘイローが破壊されたとしても、されなかったとしても、アリウスはまたトリニティを襲撃するだろう。未来を知っているが故に、全てが破局へと向かった未来も知っている。そして、このまま抗い続けたとして、結末が変わらない可能性は高いだろう。それでも、君がこのまま抗い続ける選択をするのであれば…………私の知恵と、力を貸そう」

 

 それは、アズサにとって魅力的な提案だった。

 たとえ虚しくとも、最後まで足掻くと決めていたアズサに、その考えにティーパーティーの一人が協力してくれるというのだ。アズサとして断る理由はない。

 こくりと、アズサは静かに頷いた。

 

「そうか……それなら、私の知る限りの未来を君に伝えよう。その後、当初の予定通り、ここを爆破して逃げるといい。その後の偽装についてはそうだね……救護騎士団のミネ団長に助っ人を頼むといい、事情を話せば力になってくれる筈だ」

「百合園セイア……貴方は、それで構わないのか?」

 

 ヘイローを破壊する爆弾は使わない。それでも、死を偽装するためにここは爆破する。

 爆破するということは、気絶するほどの衝撃が、それに伴う痛みがセイアに降りかかるということ。

 『セイアの身体が弱い』という情報もアズサは事前に聞いていた。それが事実であるならばそれらの降りかかるものも普通のキヴォトス生徒に比べて大きくなるだろう。

 拷問や痛みに慣れている人物ならまだしも、そうでない人間がこうも簡単に受け入れてしまえるのか?

 偽装とはいえ、ティーパーティーの一人が不在となればトリニティにとって大きな問題にもなるだろう。それを、簡単に許してしまえるのか?

 

「これが、現状考え得る最善策だからね、仕方ないさ。君達がこれから抗い続けるために、必要な工程だろう」

「君……達……?」

「もう、出てきて構わないよ」

 

 困惑するアズサを横目にセイアは誰かに呼びかける。すると、先程まで一切動きのなかった気配に動きが見えた。

 静かな部屋に響く足音、そして姿を現すアズサと同じような長い白髪、背中に広がる白と黒の羽根。

 

「紹介しよう。この先、君が抗うための、協力者――」

「黒崎ミソラ、よろしくね」

「黒崎……ミソラ……」

 

 その名前は、アズサに聞かされていた一つの名前。

 正義実現委員会と並んで警戒するように言われていた特別自警部、ティーパーティーの傘下にない独立した部活、その部長。

 そんな彼女が、どうしてここに……

 

「私が彼女に依頼したのだよ。白洲アズサが抗う選択をしたとき、力になってやってほしいとね」

「力になる? 一体どうやって?」

 

 アリウスに連れていけとでも言うのだろうか? そんなことをしてしまえば怪しまれるのは確実だろう。

 それとも、アリウスの外で接触する? それも、勘付かれてしまった場合のことを考えれば簡単に頷けるものではない。

 

「その部分の話も含めて、未来の話をしよう。時間もあまり残されていないだろうからね」

 

 セイアはそのまま予知夢で視たことを、知る限りの情報をアズサに伝えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその夜、トリニティと一室から大きな爆発音が鳴り響いた。

 




ということでアズサ初登場回でした
さてさて、原作読んでる人にはアズサがエデン条約編でどういう動きをするかは知っているかと思いますが、その協力者となったミソラ、この変数がエデン条約編にどのような影響を及ぼすのか、楽しみですね
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