ブルーアーカイブ 〜欠片の物語〜   作:眠り狐のK

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4カ月ぶり?
嘘でしょ……


22話 決着

 眩い光によって引き起こされた砂煙は少しずつ晴れ、何時間と見た光景が戻ってくる。そんな中、身体を起こしたミソラはこの一瞬で起きた出来事に首を傾げていた。

 

「今の声……誰だろう?」

 

 この一瞬、ヒフミのヘイローが破壊されようとしていたその瞬間、ミソラの耳に一つの声が聞こえていた。

 

 

 

―――今回だけ、お手本を見せてあげる―――

 

 

 

 と。

 お手本とは何のことなのだろうと、そもそも声の主は誰なのだろうかと。それ以前に絶望を感じたことによって幻聴が聞こえてきただけの可能性も考えられるが、初めて聞くはずなのに何故か聞き馴染みのある声に対するその感覚だけは今も尚残っていた。

 と、ここでミソラは思い出す。

 

「っ……! ヒフミちゃん!」

 

 絶望を知ったことによる焦りの感情はミソラのいつもの感情の出づらいその表情を見事にまで崩していた。しかし、今のミソラにそんなことは気にする余裕はない。今重要なのはヒフミの生死。自らの左腕を奪った攻撃がヒフミに直撃してしまった、だからこそ助かるはずがないというのは本当は理解していた。それでも僅かな奇跡の可能性を信じてまだ晴れきってない砂煙の中ヒフミの姿を探す。

 そして、倒れている人の影が目に入る。それがヒフミである可能性が皆無であることはわかっている。きっと、メリーかイチカかハクアの内の誰かなのだろう、それでもまだ納得のしてないその脳は倒れてる影の正体を確かめるためにその身体を動かしていた。

 そして見つけた、そこに倒れているヒフミの姿を(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「ヒフミ、ちゃん」

 

 ミソラは倒れているヒフミに近づき、ヒフミの身体を揺らす。

 

「ん……んん……。あぅぅ……全身が痛いです……」

「っ……ヒフミちゃん!」

「ひゃわ!? み、ミソラちゃん痛いですよぉ……って……あれ……?」

 

 急にミソラに強く抱きしめられたヒフミは光線によるダメージも相まって顔をしかめる。しかし、直後気がついた二つの違和感によって痛みはすぐに忘れ去られる。

 一つは、ヒフミ自身があの光線の直撃を受けたにも関わらず生きているということ。

 あの光線は、メリーからミソラの左腕を奪った攻撃だと伝えられている。普通に考えれば、そんな攻撃が直撃すれば無事では済まない。しかし、事実としてヒフミはこうして五体満足で、ミソラに起こされるまでの短い間気絶していた程度で済んでいる。その理由はわからないが、ヒフミはそれを『ミソラが頑張ってくれたから弱くなった』か『奇跡が起きた』のどちらかなのだと納得することにした。

 そして、もう一つ――

 

「ミソラちゃん……腕が……」

「あ……ほんとだ」

 

 ミソラに両腕で抱きしめられていたこと(・・・・・・・・・・・・・・)

 ミソラの失われた筈の左腕は何故だか何も無かったかのように元通りになっていた。それは、ヒフミが無事だったことよりも理解の出来ない事象だった。無くなった筈の腕が治った、何が起こってそうなったのか。

 目の前の化け物が再生能力なんてものを持っているのだから、ミソラも同じ能力を持っていたのだろうか、それとも別の要因があるのか……しかし、ヒフミにとってはそんなことはどうでもよかった。今のヒフミの中にあるのは、自らが生きていることと、ミソラの左腕が治ったことに対する安堵の気持ちだけだった。

 

「メリーちゃん、ヒフミちゃんをお願い」

「お姉さん……」

 

 メリーは目の前で起こったあり得ない出来事に頭を悩ませそうになるが、今は考えてる場合じゃないと頭を切り替える。ヒフミの治療をしなくてはいけない、そして目の前の化け物もまだ倒せていないのだから。

 メリーは、ミソラからヒフミを受け取ると、治療を開始する。そして、化け物の元に向かって歩き出すミソラを見たメリーは再び困惑した。その動きはどこかミソラのようでミソラじゃないような、そんな感覚を感じたからだ。

 いつものように、仲間を守るために全力で敵に向かっていく、そんな感じではない。そこにあるのはひたすらに無。どことなく写るのは目の前の化け物を倒すという意思とそれ以外の虚無のみ、動きはほぼミソラのものであっても、そこから出る雰囲気は違っていた。

 そして、それはミソラ自身も感じていたことだった。

 

(ヒフミちゃんをメリーちゃんに預けてから、私の身体が私じゃないみたい)

 

 でも、ミソラはそれに抵抗はなかった。自分の意志と関係なく動く身体、しかしそれが自分にできる動きの中で最善の動きなのだろうと理解していた。

 

「イチカちゃん、ハクアちゃん、サポートお願い」

 

 メリーと同じようにミソラの様子に困惑していたイチカとハクアの二人もミソラの指示にこくりと頷いた。

 瞬間、ミソラは即座に動いた。アサルトライフルを構え的確に銃弾を撃ち込んでいく。その銃弾は、化け物に少しずつ傷を負わせていく。

 化け物はその場から飛び上がり、空中から銃を構える。そこをハクアのサブマシンガンの銃弾が襲いかかり化け物を撃ち落とす。落ちたところにミソラの猛攻が襲いかかる。

 

「すご……」

 

 ミソラの戦いぶりにハクアはぽつりと零す。特別自警部として共に過ごしてきたハクアはミソラの戦い方をこの中で一番良く理解していた。だからこそ出てきた言葉。

 ミソラは、基本的に支援にまわる時や団体戦を重視する時を除けば基本的に相手に突っ込んでいく戦闘スタイルだ。相手に撃たれてもお構い無し、まるで痛みなんて感じてないかのように敵の攻撃を無視しながら敵を沈めていく。時には自分が爆発範囲内にいるにも関わらず爆弾を爆破させ敵を一網打尽にするなんて作戦まで当たり前のように取ってしまうほど。

 それが、今はどうだ。足払いをかけて体勢が崩れたところに銃弾を撃ち込む。反撃が飛んでくれば後ろに飛んで避けながらも同時に化け物の足元に手榴弾を落とし、距離を取りながらも攻撃を行う。地面を揺らす程の殴打が飛んでくれば、腕を掴み相手の勢いを利用してそのまま投げ飛ばす。今までのようなゴリ押しの戦法ではなく、あらゆる技術・環境を使ったテクニカルな戦法。

 どうして急に戦い方が変わったのかは分からない。だが、今で苦戦を強いられていた相手に、覚醒したミソラ、そこにハクアとイチカの援護が加わり優勢を取っていた。

 

「あれ……?」

 

 敵の様子を見ていたハクアがふととあることに気がつく。

 

「再生能力がなくなってる……? ……いや、僅かにだけど再生はしてる。でも、さっきほど速くない」

 

 ミソラが次々と付けていく傷。その治りが遅いのだ。先程までであれば傷を付けた瞬間に即その傷が消えるほどに回復速度が速かった。それが、今では戦闘を再開して最初に付けた傷がようやく治ったかというレベル。

 

「再生能力が弱まってるってことっすか」

「うん、今ならいけるかもしれない」

 

 無限の再生能力、それがないのであれば勝機がある。

 

「ミソラちゃん、このまま押し切ろう!」

「……うん」

 

 ミソラは小さく頷いた。

 ミソラは、この戦いは負けることはないと考えていた。

 今、ミソラの身体を動かしているのはミソラではない。恐らく、この身体を動かしている人物は、先程お手本を見せてくれると言っていた人物なのだろう。今回に限り、この人物に身体を預けていれば勝てる、そう判断した。

 普通であれば、得体のしれない相手に身体を使われるなんていう事象に現れるのは恐怖だったり、不安という感情なのだろう。しかし、今のミソラにそんなものはない。本能的に、この相手は信じていいと感じている。そんな相手がお手本と見せてくれているのがこれなのであれば、恐らく自分もこの戦い方が出来るのだろう。そうであるならば、しっかりとこの戦いを脳に刻みつけなければいけない。先程得た、もう二度と感じたくないと思ってしまった感情。大好きな人を失う時に現れる感情。そのために必要なものが今この目の前にあるのだ。

 

 ミソラは再び動き出す。化け物の再生能力が弱くなったとはいえ、完全になくなったわけではない。時間を浪費させてしまえば、その分だけ相手の傷も治っていく。だからこそ早々に決着をつける必要がある。

 ミソラは化け物距離を一気に詰めた。化け物はそれに合わせるように腕を横に振るうも、ミソラは分かっていたかのようにしゃがんで避ける。その瞬間、化け物の眼前に激しい閃光が襲いかかる。

 閃光手榴弾だ。化け物の腕がミソラの顔があった場所を通り過ぎた後、化け物の目の前で閃光手榴弾が閃光を放つように投げていたのだ。

 化け物はその視界を激しい光に覆われ、数秒経って視界が回復する頃には、目の前にミソラはいなかった。

 

「これで、終わり」

 

 声が聞こえたのは化け物の背後だった。閃光に覆われた僅か数秒のうちにミソラは背後までまわっていたのだ。そして、ミソラが止めと銃を構えようとした瞬間、化け物のショットガンを持った腕が薙ぎ払わんと動き出す。

 見た目はボロボロでありながらも他の生徒と同じような少女の姿。しかし、その反応速度は最早人間ができる範疇を超えていた。このまま薙ぎ払われてしまえば、ミソラの銃から銃弾が放たれるより先にショットガンで殴られる方が早いだろう。しかし、その瞬間、一発の銃声と共に化け物のショットガンが弾き飛ばされる。

 

「……させないっすよ?」

 

 銃声の正体はイチカだった。イチカはミソラが閃光手榴弾を使った時点でミソラの次の行動を予想していた。そして、その行動――死角からの攻撃に対して反撃することまで直感していた。今までの化け物の動きを見る限り可能性は高かった。だからこそ、イチカは反撃を止めることだけを、ミソラの攻撃が確実に当たるようにすることだけを考えて構えていたのだ。

 銃が弾き飛ばされ、化け物の動きが一瞬止まる。その一瞬はミソラの攻撃に対する反撃の機会を無へと還した。そして、神秘転移によりミソラの出せる最大限の銃撃が化け物の身体を軽々と吹き飛ばす。そのまま受け身も取れず倒れ込んだ化け物に追い打ちをかけるように一発、一発と弾倉の弾がなくなるまで神秘を込めた銃弾を叩き込む。やがて、弾倉が尽きると同時に、化け物の背中にあった光輪は光の粒子となって消えていった。そこから、化け物が動くことはなかった。

 

「……終わった」

「っ……! ミソラちゃん!」

 

 戦いが終わったことへの安心感か、はたまた長時間戦闘を続けていたことの疲労からか、ミソラはその場に倒れ、その意識はフェードアウトしていった。薄れゆく意識の中でミソラが最後に見たのは慌てて駆け寄ってくるヒフミの姿だった。

 




筆が遅いことで有名な狐さんです。
今は とにかく 執筆速度を 上げたい
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