ブルーアーカイブ 〜欠片の物語〜   作:眠り狐のK

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23話 真相

 暗い暗い空間、そこには何もなく、暑さも、寒さも感じない。

 そんな中でミソラは浮遊感を感じながら、朦朧とした意識の中で声だけがはっきりと聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――もうすぐ、彼が来る。もうすぐ、役目を果たす時が来る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(彼って? 役目って、なに?)

 

 はっきりしない意識の中でその声に問う。しかし、声を出したつもりでその音はない。

 いくら声を出そうとも思考の中で語りかけるだけで止まってしまう。

 暫くすると、ぼんやりと人影が浮かんでくる。しかしそれは、人を形取っているが、全ては黒く塗りつぶされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――貴方のその力は、その為だけにあるのだから―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、ミソラの意識は黒く塗りつぶされていった。

 

 

 

 

 

 


 

「……ここは……?」

 

 ミソラが目を覚ますと、そこは部屋の中。ミソラは布団に寝かされているようだった。

 知らない天井だ……なんてありきたりな台詞を吐こうにもそこはよく知る天井、トリニティの保健室だ。

 ふと気がつけば、左手に温もりを感じる。

 その正体に目を向ければ、大好きな親友(阿慈谷ヒフミ)がミソラの左手を握り、規則正しい寝息を立てながら眠っていた。

 無事に帰ってきたのだ。誰一人欠けることなく、あの戦いを生き抜くことができたのだ。

 

「ぅ……ん……っ、ミソラちゃん!」

 

 ヒフミが目を覚ますと、目を覚ましたミソラを見ては優しく抱きしめた。

 

「心配したんですよ! あれから丸一日起きてこなくて……!」

「ごめん、ヒフミちゃん」

 

 安心したように涙を流しながらミソラを抱きしめるヒフミを、ミソラは優しく抱きしめ返す。

 時計を見てみれば、あれから一日、日が変わっていた。どうやら、ヒフミが言っていた通りに丸一日眠っていたらしい。

 しかし、昨日の戦闘はとてつもなく激しいものだった。初めての命が関わる戦いをしたのだ。

 自分の命が失われるかもしれない、友達の命が失われるかもしれない、そんな緊張感の中、それを防ぐために何時間も何時間も戦い続けた。それだけのことをしたのだから、疲労が限界を超えていたのは簡単に想像出来るだろう。

 

「……ヒフミちゃん」

「はい、なんでしょう、ミソラちゃん?」

 

 ふと、ミソラはヒフミに声を掛ける。とあることを聞くために。

 

「私は人を、『あの子を殺したの?』」

「…………え?」

 

 目を覚ましてから、戦いのことを思い出してから、ずっと考えていた。

 キヴォトスの生徒は基本的に死とは無縁な生徒が殆どだ。何せ、生徒は銃で撃たれても爆弾で爆破されても怪我はしても死ぬことなんてそうそうない。だからこそキヴォトスでは日常のように銃弾が飛び交う。

 だが、今回は違う。

 ミソラは、最後のあの一撃であの化け物が二度と起き上がってこないことをなんとなく理解していた。

 これが、未知の化け物を倒したとかであればまだいい。だが、本当にあれは化け物だったのだろうか?

 化け物なんて呼び方をしているが、見た目は化け物と呼ぶには疑問が多く残る。

 ボロボロで、その動きや力は狂人と呼ぶことすら生温いほど人からかけ離れている。

 しかし、そこを除けば普通、初見の時は誰かにひどい目に遭わされた生徒だと勘違いした程だ。

 そして、化け物から感じていたものは歓喜でも怒りでも憎しみでもなく、僅かな苦しみだけ。

 もしかしたら、誰かに操られたり、何かをされてあんな姿になってしまっただけで、元々は自分達と同じ生徒だったのではないか、そんな可能性が頭を過ぎる。

 どちらにせよ、ミソラがあの子の命を奪った事実は変わらない。汚れた手で友達の手は取れない。

 

「あの子、もう起き上がってこないんだよね?」

「……でも、ミソラちゃんは人殺しなんかじゃありません」

「どうして? だって、私があの子に止めを――」

「違います!!」

 

 ヒフミは、力強い言葉で否定した。

 

「だって、だってあの子はミソラちゃんと会う前から既に死んでいた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)んですから……」

「え……?」

 

 ヒフミが何を言っているのかミソラは理解出来なかった。

 自分が会う前から死んでいた?

 そんなことある筈がないとミソラは心の中で呟いた。

 それなら、どうしてあの子は動いていたのだ。

 多くの生徒を襲い、ミソラを襲撃し、ミソラから受けた傷が一瞬で無くなってしまう程の再生力を見せつけ、その力強い攻撃で何時間に渡ってミソラを苦しませ続けていた。その全てを死人が行ったことなど理解が出来るはずもなかった。

 優しいヒフミのことだ、きっとミソラが責任を感じないように嘘を付いてくれているのだと、そう納得しようとしたその時――保健室の扉が開かれた。

 

「そ、そこからは私が説明する……」

 

 入ってきたのはメリーだった。

 

「実は……お姉さんが倒れた後ね――」

 

 

 


 

「ミソラちゃん、大丈夫でしょうか……」

 

 化け物との戦いを終え、ヒフミとハクアの二人が心配そうな表情でミソラを見る。

 倒れたミソラをメリーが膝枕をしながら診る。

 

「うん……大丈夫、疲れて眠ってるだけ……休んだら治ると思う……」

 

 ヒフミとハクアはほっと胸を撫でおろす。

 メリーは優しくミソラの頬を撫でながら先程までのことについて考える。

 結局、あの化け物は何だったのか。どうしてミソラの奪われた左手は治ったのか。分からないことだらけだった。

 メリーは一通りミソラの手当てを終え、ミソラをヒフミに預ける。その理由は、彼女にしか出来ないことをする為だ。

 

 メリーは倒れた化け物に近づく。

 こう近づいて観察してみると、傷も多く汚れているが、その見た目は自分と同じ唯の女の子にしか見えない。とても先ほどまで人とは思えない姿で、人とは思えない戦いを繰り広げられていたようには見えない。

 そして、砂にまみれたその頬にメリーの手が触れる。

 

「!?」

 

 能力を発動した瞬間、メリーにとてつもない恐怖が、苦しみが、悪寒が襲いかかる。

 

「な……にこれ……」

 

 メリーが見た記憶は、一人の少女の最期の記憶。

 長く長く、続く暗闇の中で永遠に終わらない悪夢。

 悪夢が終わるのは、その命の灯火が消える時。

 そんな記憶がメリーに流れ込んできた。

 

「やだ……くらいよ……」

 

 気がつけばそこは暗闇の空間、ここが何処なのかメリー/少女/には分からない。

 どこかの椅子に座らされているようだが、両手足は縛られているのか動かない。立ち上がろうにも身体はうまく動かず立ち上がることどころか椅子から離れることもできない。

 目を開けている感覚はあるのに、変わらず視界は暗いまま。恐らく、目隠しまでされているのだろう。

 

「ぁ……ぅぁ…………」

 

 見えない視界の中、二人の男の声が聞こえてくる。

 聞いたこともない声。ただ、その会話の内容から自分はこれから実験台にされるのだろう。

 神秘に神秘を適応させる? 一体何をするつもりなのだろう?

 暫くすると、何かが身体に入ってくる感覚がした。

 実際にメリーの身体に何かが入れられているわけではない。しかし、少女の感じた感情、感覚、思考が記憶を辿って流れ込んでくる。

 身体に何かが流し込まれた後に襲いかかってきたのはとてつもない激痛だった。

 

「ぁ……ぅぁ……いや…………」

 

 これが、少女が受けた苦しみだ、痛みだ。こんなものさえなければ、この少女は幸せに生きられたのかもしれない、みんなが傷つかずに済んだかもしれない……この子も、誰も傷つけずに済んだかもしれない。

 再び、少女の身体に何かが流し込まれる。

 その後に襲いかかってきたものは、先程とは比べ物にならない程の苦痛、心の悲鳴、そして憎しみ。ただ、それらの感情は一瞬のものであり、徐々に薄くなっていく。

 それは、諦めたわけでも、別の感情を持ったわけでもない。

 ただただ純粋に、余りの苦痛で何も考えることが出来なくなった、表しようのないもので脳内が埋め尽くされていくことの表れだった。

 

「おね……えさん…………たす……けて……」

 

 これは、まずい。

 視界はかすれ、耳はノイズがかかったように外の音を受け付けなくなってきている。

 五感が失われ、少女の命の灯火が失われていくことの表れだ。

 この能力(過去を視る能力)は対象の記憶を視た中でその人物が亡くなったとしても能力者自身が死ぬことはない。

 しかし、この能力最大の危険要素は対象の感じたこと、考えたこと全てが自らと共有されることだった。

 これは、最大のメリットでもあり最大のデメリットでもある。

 メリットとしては、その人物の視点として何を聞き、何を感じ、何を考えたかを全て知ることができる。その人物がその瞬間に何を隠していたのか、どれだけ幸せを感じられていたのかでさえもその身を以て理解できる。

 だが、その人物の楽しい感情や幸せの感情を理解するというのは、その逆もまた然り。その人物が経験した苦痛や憎悪でさえも理解させられることとなってしまう。

 そして、今実験台にされている少女の思考は停止してしまっている。その思考が共有されているメリーの思考もそれに近づいている。

 これ以上この苦痛を味わい続けていれば能力によってある程度苦痛に耐性のあるメリーであっても精神崩壊は逃れられなくなってしまう。

 しかし、何も考えられなくなりつつある脳内では能力解除までの一歩がとてつもなく重い。

 このままでは―――

 

「……ん! ……ちゃん!!」

 

 ノイズの入った音の中、誰かを呼ぶ声がかすかに聞こえてくる。

 

「……リーちゃん!! ねぇ、メリーちゃん!!」

 

 これは(少女)でなく(メリー)を呼ぶ声だ。

 

「……はぁっ! はっ……は……ぁ…………」

「メリーちゃん、大丈夫!?」

「ハクア……さん……」

 

 全身を温もりに包まれ、気がつくとメリーはハクアに抱きしめられていた。

 戻ってこれたのだ、現実に。

 もう少し戻ってくるのが遅かったら危なかったかもしれない。

 メリーはハクアの温もりに包まれながらその心を落ち着かせていく。

 

「化け物に触れた瞬間メリーちゃん……どんどん辛そうな顔して……息も荒くなってくから……心配したよ……」

「ご、ごめんなさ……その、過去を視た反動で……」

「過去……視たの? この化け物の過去を」

「うん……えっと、あのね――」

 

 そこからメリーは化け物の過去について語り始めた。

 元々は自分達と同じ生徒の一人であったこと、気がついたら暗闇にいて実験台とされていたこと、そしてその実験により死ぬまで苦痛を与えられ、そのまま命を落としたこと。

 

「そんな……ひどい……」

「……つまり、この子は死んだ後であんなに暴走してたってこと……?」

 

 そんなことがあり得るのか、ハクアはそう思わずにはいられなかった。

 死人が動き出す、そんな事象ゲームやアニメでしか聞いたことがない。そんなことが現実として起こるなんて……。

 しかし、メリーが嘘をつくとは思えない。

 果たして、唯の生徒があれだけの力を、再生能力を持つだろうか? 

 そう考えれば、その説明で確かに納得はいく。

 メリーの能力自体もミソラとヒフミが保証しているのだから、疑う余地はない。

 途中から一緒に話を聞いていたヒフミも似たようなことを考えはしたが、それよりも少女の生前に受けた仕打ちに悲しい気持ちになっていた。

 

「連絡はしたんで、暫くしたら正実と救護騎士団が来るはずっす。それまでみんな休んでてほしいっす」

「そっか、ミソラちゃんもメリーちゃんもヒフミちゃんも大分疲れてるみたいだし、それがいいかもね。……ねぇ、みんな、一つお願いがあるんだけど」

 

 いつの間にか眠ってしまったメリーを優しく撫でながら語りかけるハクアの言葉にイチカとヒフミは首を傾げる。

 

「今回の件、私達だけの秘密にしようよ。あんまり大事にしないほうがいいと思うからさ」

「……でも、報告しない訳にはいかないっすよ?」

「だから、簡単に生徒を襲撃していた犯人っぽい敵は倒したってだけ報告するの。どうせこんな話しても信じてもらえるとは思えないし、信じてもらえたとしても無駄に大事になるだけだよ」

「……それに、全部話すならメリーちゃんのことも明かさないといけなくなっちゃいます」

「確かに、それはメリーさんにとって良くないっすね……」

 

 ハクアの話したことも最もだが、全てを明かした場合この中で一番影響が出てしまうのがメリーのことなのだ。

 メリーは自らの能力はメリー自身が信頼できるごく一部の人間にしか明かしていない。

 その理由は単純、悪用されるリスクがあるからだ。

 実際、過去にはその能力を利用しようと悪人から狙われたことがある。

 ミソラがメリーを助けた時の一件も恐らくそうなのだろう。

 だからこそ、メリーの能力は簡単に他人に明かすわけにはいかない。

 だが、今回の件の全てを話そうと思えばメリーの能力はどうしても情報源として明かす必要が出てくる。

 モルモットとして実験されていた過去や、その後死人が動き出して暴走していたことなんて普通に話して信じられるわけがない。

 メリーの能力を明かせば信じてくれるかもしれないが、それでも確実ではないし、あまりにもリスクが高すぎる。

 少なくとも、今回は無理に明かす必要なんてどこにもない。生徒襲撃の犯人は倒して、事件は恐らく解決した、それだけあれば最低限いい。その他の細かい部分はうまく誤魔化す必要はあるが。

 

「でも、その子はどうするつもりっすか?」

 

 イチカは少女の亡骸を指して言う。

 大事にしないと言っても、元生徒の亡骸がある限りはどうしても事は大きくなっていくだろう。

 それは当然、自分達と同じくらいの子供が死んでいるのだから。

 真実は隠すのだから、ミソラが殺人犯と思われる可能性もある。命懸けでみんなを守ったミソラがそんな扱いをされることはこの場の誰も望んではいない。

 

「……私が埋めるよ。お店ほどじゃないけどお墓は作れるし、景色のいい場所を知ってるから」

 

 イチカの問いにハクアが手を挙げた。

 

「んじゃ、よろしくっす」

 

 それにイチカはこくりと頷いて少女の亡骸をハクアに託した。

 

 

 


 

「そんなことが……」

 

 ミソラは俯きながら話を聞いていた。

 ミソラが殺したわけではないことは理解した。しかし、その裏に隠された真相は想像以上のものだった。

 

「結局……あの人をあんなにした悪者は……わからなかった……けど……」

「大丈夫、みんなのことは私が守るから」

 

 ミソラは覚悟を決めた目で言った。

 あの少女を理不尽に傷つけ殺した人間を、みんなを傷つけた人間を許すわけにはいかない。

 

「えへへ、それでこそミソラちゃんです」

「でも……暫くは休も……? お姉さん……」

「うん、そうだね」

 

 こうして、謎の襲撃者の事件は幕を閉じたのだった。




『とある少女の記憶』

 目が覚めると、少女の世界は暗闇だった。
 手足は縛られ、目隠しをされ、どこかに座らされている。

「おや、目が覚めてしまいましたか」
「構いません、このまま実験を再開致しましょう」
「ここ……どこ……? 実験ってなによ……?」

 少女の問いに答えは返ってこない。
 その代わりに返ってきたのは何かが自らの身体に入ってくる感覚だった。

「ぁ……なに……これ…………なにを……いれたの……?」
「安心してください、これは貴方の力ですよ」
「わたしの……ちから……?」
「えぇ、この実験が成功すれば貴方はキヴォトス最高の神秘を手にすることができる」
「なにを……いってるの……? やだ……くらいよ…………ここからだして……」

 少女と話しているのは恐らく大人の男性、声の感じから予想はできる。
 しかし、その姿を見ることは叶わない。抵抗しようとも拘束を解くことはできない。

「さぁ、始めましょう。神秘に神秘を適応させる実験を、神秘に同質の神秘を混合させる、神秘の質と量を増やすことで、人工的に最高の神秘を作り上げる実験を!」
「クックック……これは貴方がいるから可能となった実験です。その結果がどのような形で現れるのか、楽しみにしていますよ」

 神秘に神秘を適応させる?
 少女にはこの人達が何を言っているのか理解できなかった。
 唯一つ理解できたのは、自分はこの人達の実験のモルモットにされているということだけ。
 
「ぁ……ぅぁ…………」

 変わらず何かが自らの身体に入り続ける。
 身体に入って来たナニカはやがて少女に激痛をもたらした。

「ぅ……ぁ……あぁぁぁぁぁぁ!!! いたいいたいいたいいたい!!!」

 腕が、足が、喉が、頭が、内臓が、身体のあらゆる部分に痛みが走る。
 まるで、身体の内側から何度も何度も殴られているような、そんな痛みが次々と襲ってくる。
 少女は痛みに耐えきれずに暴れ出す。
 
「いたい!! いたいよ!!! 誰か助けて!!!」

 少女の悲痛な叫びが暗闇に響き渡る。
 しかし、その声を聞いてくれる人間はその場にはいない。

「ふむ、まだ最高の神秘と呼ぶには足りませんね。これではまだ他で代用が効いてしまいます。最低ラインまでは入れてしまいましょう」

 一体彼は何を言っているのだろうか?
 少女には理解できなかった。理解する余裕もなかった。そんなことはどうでもいいから助けてほしいと、懇願しても誰も応えない。
 再び、少女の中にナニカが入ってくる。

「ぁ"……が…………ぃ"……」

 声にならない声が少女の口から溢れ出してくる。
 身体が軋むように痛む。自分の中から何かが身体を突き破って出てこようとしているような激的な痛みが少女を襲い続ける。

「あぁ、だめで…………うかのじょ……げんかいで………………インまでまだまだだと…………やはりてんねんを…………です」
「やはり…………シノで……」

 声が途切れ途切れに聞こえてくる。
 会話の内容どころか、話している言葉自体少女の脳には入らなくなっていた。

「ぅ………………ぁ…………」

 少女の口から悲痛な叫びが出てくることはもうない。
 出てくるのは自然に出てくるうめき声のみ。
 声を発することでさえ、今の彼女には苦痛なのだ。

「……ぁ………?」

 ふと、少女の視界にうっすら光が差し込んでくる。
 どうやら、何かの切っ掛けで目隠しがずれ、隙間から外が見えるようになったようだ。
 ぼやけた視界の中、少女は光に目を向ける。
 視界の半数以上が石畳で埋め尽くされている。
 少女は気づかないうちに地面に倒れていたようだ。
 そんなことに気が付かないほど、少女の五感はその役割を失っていた。
 もう少女には何も聞こえない。
 先程の大人が何を話しているのか、そもそも喋っているのかさえ、判別ができない。
 ようやく目にした光も少しずつ失われていく。
 少女が最後に見たのは、『土御門ティナ』と書かれた名札と、先程まで話していただろう大人二人の足だけだった。
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