「―――ってことがあって……」
私は、急な宣言に首を傾げてるヒフミちゃんに事情を説明してあげていた。
懐中時計に触れてから私の見た夢、よくわからないあまり記憶にも残ってない最初の部分の記憶は省いて、最後に見た少女のことを話す。
「なるほど……わかりました、そういうことなら私もお手伝いします!」
「信じて、くれるの?」
「ミソラちゃんがそんな嘘を付くはずがありませんから。それに、もしそれが本当なら早く何とかしてあげないと、その子が辛い思いをすることになっちゃうと思うんです」
それは、自分に向けられた純粋な信頼の言葉。そして、困っている人を助けたいというヒフミちゃんの優しさ。
「でも、ペロロ様はいいの……?」
「ペロロ様のことよりも友達の方が、困っている人のほうが大事です!」
まさか、あのヒフミちゃんがペロロ様よりも優先なんて言葉を口に出すとは……、ペロロ様とテストのどちらを優先するか天秤にかけてた子なのに……。(※流石にちゃんとテスト受けました)
その優先する対象が自分であるというのもまた、喜ばしいことである。
「でも、どこにいるんだろう……」
「問題はそこですね……」
そう、問題は拉致されていた子がどこにいるか。
今ある情報は、夢で入手した少女の見た目くらい。不良に関しては少女に気を取られていたこともあり明確には覚えていない、少なくとも一目見て識別できるほど特徴的な連中じゃなかったとは思う。
もし、あの夢がほんの少し前の出来事なら、まだブラックマーケット内にいる可能性が高い。しかし、もっと前の出来事なのだとしたら、現状どうなっているかはわからない。もし後者側なのだとしたら、無事であることを祈って探すしかない。
「とりあえず、聞き込みからするしかないね」
「そうですね……ここを通ってるならもしかしたら目撃者がいるかもしれません」
「じゃあ、二手に別れよう。私は少しこの辺りで聞き込みしてみるから、ヒフミちゃんは正実の人に聞いてみてほしい」
「正義実現委員会に……ですか?」
正義実現委員会とは、トリニティにおいて治安維持活動を行っている委員会である。その範囲はトリニティを中心とは書いてあるが、トリニティ外にまでも活動範囲は広がっている。
トリニティ外まで活動範囲が広がっている理由は、不良生徒が身代金目的でトリニティの生徒を誘拐する事件がたまに発生する為、そういうときにトリニティの外で活動するというわけだ。
基本的に、こういう誘拐だとか事件に関しての通報、情報は正義実現委員会に回っていく。
もちろん、ティーパーティーにもそういう情報は回っていくのだが、全てというわけではない。
事件関連でティーパーティーに回っていく情報は基本的に政治に影響がある可能性のあるものだったり、トリニティ生徒に大きな被害が出たものだったり、一定のラインを越えた案件のみとなっている。
不良同士の小さないざこざとか被害があまりない事件とかは正義実現委員会内で全て処理できる案件は正義実現委員会で全てやってるため、そういう意味でトリニティでの事件関連で一番情報を持ってる可能性が高いのは正義実現委員会となる。
同じような組織でトリニティ自警団もあるが、あそこは非公認の組織で基本的に個人で活動しているところになる。
正義実現委員会はティーパーティーの傘下にあることもあって場合によっては動けないことがあるので、そういう制限がないトリニティ自警団が正義実現委員会の持っていない情報を持っている可能性もあるだろう。
しかし、やはり総合的に一番情報が集まるのが正義実現委員会なので、成果がなければ聞いてみる、くらいになる。
「わかりました、聞いてみます」
「それじゃ、私はちょっと行ってくるね」
「気をつけてくださいね!」
こうして私とヒフミちゃんは二手に分かれて情報収集を開始した。
分かれた後、ヒフミは自分の携帯を取り出して正義実現委員会の知り合いに連絡をかける。
『はい、正義実現委員会のイチカっす』
「あ、ヒフミです」
『あれ、ヒフミさんからうちに連絡なんて珍しいっすね~』
電話をかけた相手は正義実現委員会1年生の仲正イチカ。
ヒフミの同級生であり、二人共困っている人を放っておけない性格であるために結構相性が良かったりする。
また、ヒフミからはイチカに対して正義実現委員会として人助けやトラブルの仲裁を当然のようにしっかりとこなしている姿に尊敬の念を抱いており、イチカからヒフミに対しては正義実現委員会の仕事でもなく積極的に困っている人を助けようとしている姿、そして、夢中になれるようなものを持たない自分に対して好きな物に常に全力な姿に尊敬の念を抱いている。そんなお互いがお互いを尊敬し合う関係性でもある。
「あはは……実は―――――――――ということがありまして……その女の子を探しているのですが、なにか知ってないかなと……」
『うーん、ちょっと待っててください。確認してみるっす』
プツッと音声が保留モードを知らせる音楽に切り替わる。
これで情報が得られればありがたい。
考えてみれば、トリニティの人間が何かしら目撃してる可能性は零ではない。
ミソラの話では、ヒフミ達が来た方向から不良がその女の子を連れてきたと言う。ということは、トリニティから私達と同じルートを使ってこの道まで来たことも考えられる。
さらには、不良グループによる誘拐という出来事自体に関して。
不良グループが誘拐事件を起こす動機のほとんどは、身代金目的で事を起こしている場合が多い。つまりは、その誘拐の対象とされる生徒は、お嬢様学校のイメージが強いトリニティの生徒となる可能性が高い。
これらのことから、トリニティで生徒を拉致してここまで連れてきたと考えるなら、目撃者がいる可能性はあると考えられる。
少し時間が経つと保留モードが解除される。
『お待たせしたっす。さっき言ってくれた件、ありましたっす。』
「本当ですか!?」
『少し前に、その子の特徴と一致する生徒が拉致されてるって通報があったっす。そんな子うちの学校にいたっすかねーって感じではありますけど、どちらにせよ放ってはおけないっすね』
正直、ダメ元って思ってた部分もあったが、目撃情報を聞いてほっとする。これで一歩前進できるだろう。
「それで、その子は……」
『それなんすけど、まだなんの情報も掴めてないっす。トリニティ内はある程度調べてみたんすけど、目撃情報以上の情報は出なかったっすね』
「一つも……ですか?」
『一つもっす。なんで、捜索範囲をトリニティの外に広げようって計画してたところではあるっす。時間的にそこまで遠くには行ってないとは思うんすけど、どの方向に逃げたかもわからないんじゃ特定が難しいっすからね』
「そうですか……」
少しでも情報を得られると思っていた為に少し肩を落としてしまう。
しかし、目撃情報があったということだけでも収穫だろう。目撃情報があったということは、少なくともミソラが見た夢は現実で起こったことだということが証明されたということに他ならないのだから。
『ちなみに、ミソラさんがその情報を得た場所ってどこなんすか?』
「あ、えと……その、ブラックマーケットでして……」
ほんの少し冷や汗をかいて目を泳がせながらも正直に答える。知り合いとはいえ、ブラックマーケットはティーパーティーも警戒している場所、ミソラは問題なかったが、正義実現委員会に知られてしまえば何を言われるか……
『ふむ、ブラックマーケットっすか。ということはその辺りで聞き込みするのがよさそうっすね』
「は、はい……そうですね?」
と、思ったが意外と何も言われなかった。
理由を聞いてみると、ミソラがブラックマーケットに遊びに行ってることは知られているらしく、ついでとしてできる範囲で治安維持活動に協力してもらっているとのことだった。
ミソラが正義実現委員会のお仕事もお手伝いしてることもあって、正義実現委員会の中でもミソラの名前は知られていて、特にイチカとは一緒に人助けのお仕事をしたり、その延長として一緒に夢中になれることを探しに遊びに行ったりすることもあるそう。
そのため、ミソラが堂々とブラックマーケットに遊びに行ってることに関しては黙認されているようだ。
そして、ヒフミがブラックマーケットにいることについても何も言われてないので、恐らくミソラがブラックマーケットに遊びに行くのに付き合わされているのだと思われているのだろう。
今回に関してはブラックマーケットに誘ったのは自分なので、心の中でミソラにごめんなさいとひっそりと謝罪するヒフミなのであった。
『んじゃ、私も向かうんで、トリニティ方面の入口付近で合流にしましょうっす』
「え、イチカさんも来るんですか……?」
予想だにしてない流れに困惑するヒフミ。
話の流れからすると、正義実現委員会からも協力して貰えるということでいいのだろうか。
『正義実現委員会の正式な活動ってことにしておいたほうがミソラさんもやりやすいと思うっすからね。それに、通報が来てる以上放置もできないっすから。あ、先輩達からも承認は貰ってるっすよ?』
「なるほど……わかりました」
『じゃ、そういうことで後は現地でよろしくっす』
プツンっと電話が切れてはとりあえずミソラが戻ってくるのを待つことにする。
待ってる間、正義実現委員会からの信頼まで得ているミソラのことを素直に感心していたヒフミであった。
「うーん……」
ヒフミちゃんと分かれた後、私はブラックマーケットで聞き込み調査をしていた。
しかし、めぼしい情報は手に入らなかった。
夢の中に出てきた女の子に関して、同じ特徴の子を見かけたという話はちらほらとあったが、元々不良やら裏の人間ばかりのブラックマーケットでは特別しっかりと観察してるような人は少なかった。簡潔に言えば、ブラックマーケットの人間の中では『よくあること』で済まされてしまっているというのが現状なので、目撃者がいてもみんな見て見ぬふりをしていたのだ。
もし、ブラックマーケットの外の人間が目撃したとなればもう少しいい情報が手に入るだろう。しかし、その人を探すのにもかなり時間がかかるだろう。
あの子を助けられる可能性がまだ存在するとして、時間が経つにつれてその可能性はどんどんとなくなっていく。
そのため、できるだけ急いで探さなくてはならない。
しかし、自分一人でできることにも限界がある。ここは、一度戻ってヒフミちゃんと情報交換して、協力して探す方が効率的だろう。
そして、ヒフミと合流しようとベンチから立ち上がろうとしたそのとき
「知りたいですか?」
「……え?」
声が聞こえた。知らない、大人の声。
声の方向を向くと、そこには黒いスーツ姿に黒い顔、右目は仮面が割れているかのようなヒビ、そこから白い光が出ている。その姿からは不気味とも言えるオーラが出ている。
「黄緑色の髪の少女を探しているのでしょう?」
「貴方は、誰?」
「私は神秘を研究し、観測し、探求している唯の大人です。名乗るほどの者ではありませんので、お好きに呼ぶといいでしょう」
「そう、うーん…………じゃあ黒服って呼ぶね」
「クククッ、黒服ですか。いいですね、その名前を頂きましょう」
目の前の大人は満足気な雰囲気で不気味に笑っている。適当につけた名前だが、気に入ってもらえたようだ。
「気に入りました。これからは黒服と呼ぶといいでしょう。」
「それならよかった。……それで、あの子の居場所を知っているの?」
「はい、知っていますよ。彼女を、助けたいですか?」
「もちろん」
黒服の言い回しはまるで物語の黒幕のよう。こういうときは大体裏ではこの人が糸を引いていて最後に正体を明かしてくるパターンだよね。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。助けを呼んでいた彼女を助けられる絶好のチャンスが目の前にあるのだ。簡単に無下にはできない。
「では、教えてあげましょう。その代わりですが、少し実験に協力していただけませんか? 安心してください、時間は取らせません」
流石に簡単に教えてくれるわけがない。
彼の言う実験が何を指しているのかはわからない。そもそも、彼がどんな実験をしているのかも知らない。神秘を研究しているというのだから、神秘に関する実験なのは予想がつく。だが、なんのために、どのようにして実験を行うのかは想像がつかない。
こんな悪役ムーブしているような大人だ。非道な実験をしている可能性も零ではないと思う。
それでも……
―――たす……けて……―――
夢で見た彼女の声が、瞳が、辛そうな表情が頭をよぎる。
そもそも、今考えていることだって、自分がやったゲームの悪役がこんな動きをしていたなって思った程度でしかない。
確かに全体的に黒い(物理的に)がそこまで疑っているわけではない。
仮に黒だったとしても、そんなことはどうでもいい。それよりも、今はあの子を助けてあげたいと思う。
自分に危険が降りかかる可能性とあの子を助けられる可能性、この2つを天秤に乗せ、私は考えることなく当然の方に片方に手を伸ばす。
「うん、わかった。協力する」
救護騎士団だけでなく正義実現委員会のお手伝いもしているミソラちゃん。
便利屋より便利屋に向いてそう。
おのれ陸八魔アル(言ってみたかっただけ)
ということで今回は黒服が出た回ですね。
ストーリーを読んだ皆様なら黒服がどちら側なのかはわかりきったことでしょう。
ミソラちゃんからの黒服の印象はゲームでこんなムーブしてた悪役いたなーっていうのと(物理的に)黒いなーっていうだけなので実はほとんど疑ってません。
そもそも今のミソラちゃんは闇に触れてないので負の感情はまだほとんど持ってないんですよね。わぁ純粋
だからまぁ、自分の危険を当然のようにかけられるわけなんですけどね。
ということで次回も頑張って書きますのでよろしくお願いするっす〜