ほぼ、みはりとみやこ。
台詞だけの所が読みづらくてすみません。最初に謝罪いたします。
「ただいまー!」
元気よくリビングに入ったひなたの後ろをみはりも付いていく。
「お帰りー。今日お母さん帰るの遅いから、私がご飯作るけど何食べた―――ん?」
ひなたを迎えたのはソファーで寝っ転がりながらゲームをしているみやこだった。駆け寄ってきたひなたを一瞥すると、リビングの入り口付近に立っていたみはりと目が合う。
「……」
「お邪魔します」
「……」
「……あのぉ」
「……はっ!」
唖然とした様子のみやこがはっと我に返り、ひなたの後ろに小さくなって隠れる。
「だ、誰……?」
「あはは、えっと、緒山みはりっていいます。まひろちゃんの……姉です」
「……まひろちゃんの?」
「その節はおに……まひろちゃんがお世話になりました」
ぺこりと頭を下げると、みやこも慌てて頭を下げる。
みはりは今日、星野家に来訪した理由を掻い摘んで説明する。
「―――という訳で、本当はきちんとお礼に伺おうと思っていたんですけど、こんな形にで申し訳ありません。手土産も無しに」
「そ、そんな、全然気にしないでください!……そもそも、お漏らしの原因って殆ど私にあるし……」
「?」
最後の方はみやこがぼそぼそ喋っていたので聞こえなかったが、どうやら気にしていない様なのでみはりはほっと胸を撫で下ろす。
「こ、こちらこそありがとうございます。ひなたがご迷惑を……」
「いえいえ、それこそ気にしないでください」
「ひなた、お姉さんにお礼言って!」
みやこに促され頭を下げるひなた。その様子にみはりは微笑み、目が合ったひなたとも笑みを交わす。
「お姉さん夕飯食べていくか?」
「家でまひろちゃんが待ってるからごめんね?」
「そうか……。ならお菓子食べてくれ。みゃー姉のお菓子は宇宙一うまいぞ!」
「そうなんだ。じゃあお言葉に甘えて頂こうかな」
「おう!」
元気よく台所に走っていくひなた。二人のやり取りを見ていたみやこは、少し困惑する。
「―――なんかすごく仲良くない?」
「ひなたちゃん、人懐っこくて可愛いですよね」
「え? あ、そ、そうですかね?」
挙動不審気味のみやこ。その様子を見てみはりは何となく理解する。
(お兄ちゃんが気が合うって言ってたのって、そういう事?)
ひなたが持ってきたみやこ手製のお菓子を食べながら暫く雑談をした。差し出されたお菓子は本当に美味しくその事を称賛すると、みやこはオドオドしながら否定し、ひなたが得意げに肯定する。
姉妹の中の良さに和みながら、一時の時間を楽しんだ。
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「まひろちゃん、お姉さんいたんですね」
「え?」
「お兄さんと妹さんがいるとは聞いてたんですけど」
「あ……あぁ、そうですそうです。ははは」
「よ、四人も兄妹がいるんですね。大変そう……」
「それはもう本当に。大変なんですよ~、ははは」
(お兄ちゃんめ。話をややこしくしたわね……)
「ひなた、口にお菓子ついてる」
「え?」
「もう、じっとしてて」
「んん、ありがと、みゃー姉」
「どういたしまして」
「……」
「あ、あの、何か?」
「いえ、仲いいなぁっと思って」
「そ、そうですかね?」
「ひなたちゃんはお姉さんの事大好きみたいですよ」
「おう!大好きだぞ!」
「もうぉ~、恥ずかしいでしょ!?」
「ふふふ」
「お姉さんもお兄ちゃんが大好きなんだよな?」
「……ん!?」
「そ、そうなんですか?」
「えっと、その……はい」
「私がみゃー姉を好きなくらい好きだぞ!」
「え?」
「?」
(しっかりしてるように見えて、意外とブラコンなのかな?)
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「そろそろお暇しますね」
夕陽が沈み始めている。そろそろ帰らないと腹を空かせた兄が餓死してしまう。
家を出ようとすると玄関まで見送りに来たみやこが絞り出すように、
「あ、あの……!」
「?」
「あ、ありがとうございます! ひなたの事助けてくれて」
「―――どういたしまして。でも、お互い様ですから」
視線を彷徨わせ、それでもはっきりとみはりに向かって感謝を述べるみやこ。その様子に何処か微笑ましさを感じるみはり。
「今度は私がお礼したいので、まひろちゃんと一緒に来てもいいですか?」
「え、あ、は、はい! 是非」
「待ってるぞー!!」
どうしても挙動不審が抜けないみやことは対照的に、真っ直ぐで快活なひなた。二人の返答に満足したみはりは、笑顔で別れを告げて去る。
みはりが去った後の玄関をぼんやりと眺めながら、
「緒山さん、いい人だったなぁ。……でも」
みはりが来客としてきた時から、口にしていいのかどうか迷っていた疑問が零れる。
「どうして白衣だったのかな?」
「コスプレじゃないのか?」
「コスプレ……コスプレだったの!? まさか、ね……?」
「……―――う~ん」
夕飯のハンバーグのひき肉をこねながら、リビングのソファーで寝転がってゲームしているまひろを見つめるみはり。普段通りの光景なのだが、みはりの心だけがその場で浮いていた。
先程の星野姉妹とのやり取りが勝手に脳内に再生される。星野姉妹の姉妹愛にあてられて、みはりも自分の兄妹への『愛情』を口にしてしまった。それが本心かそうでないかは問題ではなく、言葉として発してしまった事に、みはりは身悶えが止まらないでいた。
(確かにお兄ちゃんの事は好きだけど。好きなんだけど……んんっ!!)
思い出すだけで顔が熱くなる。肉をこねる手にも力が入る。ハンバーグの種から空気を抜く作業も、勢い余って種を投げてしまいそうになる。みはりの心境をつゆ知らず、呑気に鼻歌交じりにゲームをしている我が兄にも腹が立つ。
そんな雑念だらけで作業していたせいか、皿を落として割ってしまう。
「うわ! あ~ぁ、やっちゃった~」
粉々になった皿を見て頭を抱えてしまう。普段ではしないミス。集中できていない証拠だ。幾ら慣れた作業といっても常に危険が伴う事を忘れてはならない。
「……拾わないと」
しゃがんで大きき破片を拾おうとした時、先程までゲームに勤しんでいたまひろが台所に駆けてきた。
「大丈夫か!? 怪我してないか?」
「う、うん。大丈夫」
心配そうにするまひろに面食らってしまう。
「まったく。おっちょこちょいだなぁ」
「……お兄ちゃんに言われたくないもん」
反論するが現状全く説得力もなく、思わず顔を逸らしてしまう。
恥ずかしさを誤魔化す様に破片を拾おうとするが、まひろが待ったを掛ける。
「オレが拾うよ」
「え? でも……」
言い返す間もなく、せっせと破片を拾うまひろ。
「怪我したら大変だからな」
ぼそりと、呟いた言葉が聞こえて。
さっきまで考えていた事も相まって、恥ずかしいような、嬉しいような。何とも言えない表情のみはりは、
「――――うん。ありがとう。お兄ちゃん」
親しみと愛情を込めて、そういうのであった。
「いったぁ!? 指斬ったぁ!!」
「……私が拾うから、お兄ちゃんは箒で破片集めて」
もう四人で暮らせばいいんじゃないかな?