快活だった幼馴染が、久しぶりに会ったら様変わりしてた   作:ジョク・カノサ

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第三話

 美味しいって話題らしいパスタのお店。みんながみんな届いた料理の写真を撮ってた。SNSに上げるんだって。有名なインフルエンサーが紹介してたんだって。

 

 三年の先輩と二年の先輩が付き合ってるんだって。どこまでいったとかどれくらいで別れそうとか、気になるんだって。

 

 大学生の知り合いが出来たんだって。今度遊びに行くんだって。

 

 みんなと話すのが好きだった。昨日のテレビの話とか、美味しかったお菓子の話とか、面白いゲームとか、そんな何にもならない話。

 

 楽しそうなみんなを前に、私は笑顔を作った。

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「変わってねーな。あさがお公園」

 

 もうすぐ日が暮れ始めるかっていう頃。薄いオレンジ色に染まった公園の中に俺達は居た。

 

 この公園は今来てもそこそこ広い。遊び足りないって顔した子どもが真ん中の方で走り回っているのを見て、俺達は出入口が近い端の方でそれをすることにした。

 

「よっ」

 

 少し離れた場所に立つ華に向けてそれを、知り合いの家から発掘してきたボールを蹴った。レモンみたいな黄色い球がそれなりの勢いで前を進んで、空気を入れたばかりの気持ちいいバウンドをしてから華の足元に辿り着く。

 

 華はそれを、少しの間見つめていた。

 

「ほら、パスだよパス」

 

「……ん」

 

 そうして返って来たのは丁度トラップのしやすいパスだった。俺はそれを足元に収めた後、また同じように返す。

 

 強くしてみたり、浮かしてみたり、変な回転かけてみたり。地面の砂を弾きながら、お互いの間を行き来する。

 

 なんの意味もない。俺も華も別にサッカーを習ってたとか、そういう訳でもない。でもこの時間は何度も繰り返した。

 

「海斗はさ」

 

「んー?」

 

「最近、どう?」

 

「ぼちぼちやってる……けど、バイトがだりーわ」

 

「バイトしてるんだ」

 

「高校出たら絶対一人暮らしするからな。だからモチベはあるけど、だるいもんはだるい」

 

 華が俺の近況を聞いてきたのは初めてだった。昨日今日と、話した内容は大体思い出話か当たり障りのない話だ。

 

「凄いなあ。ちゃんとやってるんだね」

 

「別に凄かねーよ。授業中とか相変わらず居眠り放題だし」

 

「凄いよ。だって私は……」

 

 ボールが止まる。沈黙がしばらく続く中、いつの間にか横で騒いでいた子供の声が無くなっているのに気が付いた。

 

 そろそろ帰るか。そう、俺が言おうとした時だった。

 

「高村先輩!?」

 

 俺の背後からした女の声。振り返ると、公園の外からジャージ姿の男女が俺達の方を見ていた。

 

「……あ」

 

 まずい、とでも言いたげな華の呟きが聞こえる。どうやら顔を会わせたくない相手らしかった。男女、というより女の方が確かめるような歩調でこっちへと向かってくる。

 

「先輩、先輩ですよね!なんでここに、というかその人は……?」

 

「っ……」

 

 対して、華は自分の服を握り締めて俯いてるだけだった。こいつが何なのか気になるし話は聞きたい。

 

 ただそれは今すべきことじゃない。俺は駆け寄りボールを小脇に抱えて、もう片方の手で固まってる華を小突いた。

 

「走るぞ」

 

「へ……?」

 

「走るんだよ!どっちが速く帰れるかってな!ほら!」

 

 無理矢理手を取って走り出す。あっ、と後ろの女が言ったのが聞こえた。

 

「か、海斗っ?」

 

「何も考えなくて良い!走れ!手、離すぞ!」

 

「――!」

 

 手を離して、全力で走り始める。後ろの女は付いてきてるようで、なんか言ってるみたいだがどうでもいい。

 

 冷たい空気を肺に入れて、前に前に足を踏み出す。ボールのせいで十分に腕を振れないのが煩わしい。

 

 そうして丁度公園を出る辺りで、華が俺の横に追いついて来た。

 

「おっ、相変わらずはえーな!」

 

「走りっ、にくい!」

 

「俺もだっつーの!公園出たら右な!」

 

 既に俺を追い越しそうな華のフォームは、素人目に見ても整っているように見える。服のせいで走りにくそうだが。

 

「ははっ」

 

 思わず笑いが漏れる。何やってんだ俺ら、そう思わなくもない。ただ、何も考えずに走るのは楽しくて、怪訝な目で見て来る通行人が一瞬で視界から居なくなるのが馬鹿馬鹿しくて、笑ってしまう。

 

「――あはは!」

 

 それは華も同じようだった。アイツの背中は俺を飛びぬけて目の前へ、ぐんぐん距離を離されていく。

 

「高村先輩!!明日!先輩の家に――」

 

 いつか見たような光景を追いかけながら、諦めたのか後ろで立ち止まりながら何かを叫ぶあの女の声が、俺にははっきりと聞こえていた。

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