快活だった幼馴染が、久しぶりに会ったら様変わりしてた   作:ジョク・カノサ

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第四話

 みんなと遊ぶのが好きだった。

 公園で、校庭で、家の前で。縄跳び、おにごっこ、ボールおに、サッカー。たまには家の中で遊んだりもしたけど、やっぱり外で遊ぶのが一番だった。

 

 中学に上がってから、遊ぶ機会はめっきり減った。それはしょうがない。みんな放課後は部活があるし、私だってそうだった。

 

 ある時、お昼休みにシャツ姿の男子達が他に誰も居ない校庭でサッカーをしてる時があった。

 

 教室から見えるその光景は凄く羨ましくて、私は思わず小学校の頃によく遊んでた子に混ざりに行こう、と声をかけた。

 

 そしたらその子は冗談でも聞いたかのように笑って、行かないよ、って。

 

 私は、私達にとってそれが当たり前だって言われたような気がして、そうだよねって、答えるしかなかった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 公園から出てしばらく走った後、誰も付いてきてないのを確認した俺達は口数も少なく解散した。お互いに息を切らしながらまたな、とか、バイバイ、とか言った気がする。

 

 家に帰った後、改めて思い出したのはあの女。アイツは多分、華が今のようになった原因を知ってる。なんなら原因かもしれない。

 

 詮索はしたくないってのは今もそうだ。ただ、ああいうのが居て華に接触してくるのであれば話は別だ。何があったかアイツから聞き出す。

 

『高村先輩!!明日!先輩の家に行きますから!』

 

 つーわけで、俺はアイツの最後の言葉を利用することにした。華の家なら俺も知ってんだ。

 

「よお」

 

 翌日、同じく夕方。具体的な時間は分からんから朝っぱらから張り込んでた甲斐があった。いや、ホントは途中で帰ろうかとも思ったけども。クソ寒くてもう手の感覚が無いけども。

 

「っ、貴方は昨日の……!」

 

 華の家の前に来たのはあの二人組。その内の一人が俺を睨む。俺は同じように睨み返しながら、昨日の公園の方向を指差した。

 

「ちょっと話そうぜ」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「鈴森だ」

 

「……牧宮です」

 

「神原」

 

 公園内にあるベンチの一つ。そこに俺達は居た。

 

 鈴森と名乗ったメガネの男と、牧宮と名乗った焼けた肌の女がベンチに座り、俺は近くの街灯の寄り掛かる。

 

「で、お前らなんなんだよ」

 

「それを言いたいのはこっちです」

 

「まあ待て牧宮。――俺は春桜高校の二年で、牧宮は一年。二人共陸上部所属で、高村とは部活仲間だ」

 

 メガネの自己紹介は大方こっちの予想通りだった。あからさまに部活帰りの恰好だったし、華を先輩呼びしてたしな。

 

「それで、君は?」

 

「アイツの幼馴染だよ。中学までのな」

 

「なるほど、親し気だったわけだ」

 

「ちょ、こんなガラの悪い人の言い分を信じるんですか!?」

 

「昨日の光景を見ていれば分かるだろう」

 

「……でも」

 

「おい、俺のことはどうでも良いんだよ。俺がしたいのは華の話だ。お前ら、アイツになんかしたのか?」

 

「はあ!?してませんよ!そっちこそ先輩に――」

 

「待て牧宮。……どうやら、こちらが知ってることを話した方が良さそうか」

 

 今にも俺に飛びついてきそうな牧宮を宥め、鈴森は自分のメガネに触れた。

 

「高村は今年の夏頃から学校に来ていない。もちろん部活にも。いわゆる不登校というやつだ」

 

 予想の範疇だ。アイツの髪を見た時からその考えはあった。

 

「原因は分からない。本当に急な話だった。何か前兆のようなものがあったワケでもない。体調不良で一度学校を休んで以降、来なくなった」

 

「部活で何かあったんじゃないのか」

 

「いいや。高村は練習熱心で周囲とのコミュニケーションも円滑だった。不登校の原因になるようなことは……いや、あるにはあるか」

 

「なんだよ」

 

「夏の大会の話だ。そこで高村は足がもつれたのか競技中に倒れてしまってな。周囲の期待もあった分、高村はかなり落ち込んでいたようだし、それが原因と――」

 

「だからそれは有り得ませんよ!そんなことで先輩が不登校になる筈がないです!」

 

「いや、これはあるにはあるという話でだな……んん、まあこんなところだ。だから俺達は事情を聞くべく、折を見て高村の家を度々尋ねようとしてるんだが、その度に門前払いだ。だから昨日、高村が君と外に居た時は驚いたよ」

 

 鈴森の話は、確かに決定的なものになるとは思わなかった。というか立場的には俺と同じで、コイツらはどうして華が今のようになったか分からないと困惑している側だった。

 

「そうか……じゃもう話は終わりだ。疑って悪かったな」

 

「ちょっ、そっちの話は!?」

 

「俺の話なんてねえよ。二日前にここに帰ってきて、なんも分からないままアイツと遊んでただけだ」

 

「……怪しい」

 

「牧宮。……分かった、俺達はもう帰るよ。だから神原君、高村と話せる君に一つ頼みたい」

 

「なんだよ」

 

「クラスメイトも、先生も、友人も、部活仲間も。多くの人間が高村の復帰を望んでいると、そう伝えてくれないか。彼女の人徳と足は、不良の真似事で腐らせておくには惜しい」

 

 メガネのその言葉を聞いて、少なくとも華は疎まれるような存在じゃないんだなって安心する一方、最後の言葉には言い返してやりたくもなった。

 

「分かった。けどな、別に華はお前らのモンじゃねえ。引き籠りたきゃ引き籠ればいいし、陸上やりたくねえんだったらやらなくていいし、髪も染めてえなら染めればいい。お前らの期待に応える応えないは、華の勝手だ」

 

「っ、そんなのおかしいですよ!」

 

 牧宮が俺を睨む。俺は視線を逸らさない。

 

「私は……一年の部活に入りたての頃、先輩にめちゃくちゃ助けられました。その時から先輩を尊敬してます。爽やかで、はつらつとしてて、トラックを走る先輩が好きです。貴方もそうじゃないんですか?先輩が今のままでも良いって、本気で言ってるんですか?」

 

「ああ、そうだよ」

 

 なぜかムキになった時みたいに、負けられない喧嘩の時みたいに、つい言い返してしまう。

 

「不登校だろうが」

 

 多分それは。

 

「口数が少なかろうが」

 

 華は変わったと、自分が思い描いていた姿と違うと。再会した当初に少しでも思ってしまっていた自分に対する。

 

「髪染めてようが」

 

 怒りだった。

 

「華は華だ」

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 俺の親はどちらもクソだった。ロクに働かねえ親父、それを甘やかす母親。昔ならともかく今ならクソだと断言できる。

 

 だからか知らねーけど俺もクソだった。家での鬱憤を晴らす為に好き勝手暴れて嫌われて、次第に同年代のヤツは俺に近づかなくなって、逆ギレしていじけた俺はずっと一人で遊んでた。

 

『いっしょに遊ぼ!』

 

 だから、あの瞬間はずっと俺の中にある。

 

『私は……一年の部活に入りたての頃、先輩にめちゃくちゃ助けられました。その時から先輩を尊敬してます』

 

 だから、俺にとって華は華なんだ。

 

「そうだよな。なんも変わってねえ。俺も、華も」

 

 アイツらが居なくなった公園で、やたら小さく感じるブランコに乗りながらボーっとしていた。

 

 しばらく体が揺れる感覚を感じていると、横のブランコの音が鳴った。そこには華が居た。

 

「二階から見えてた。家の前で三人が話してるの」

 

 帽子もマスクもしてない華は、夕日を浴びながら俺を見ている。どうやらさっきの話も聞かれてたらしい。

 

「……そっか」

 

「海斗」

 

「んだよ」

 

「ちょっとだけ、話聞いてくれる?」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 走るのが好きだった。何も考えず短距離を、ただひたすら速く走るのが好きだった。

 

 だから、中学では陸上部に入ってみた。練習は思ったよりしんどくて、真剣な部の雰囲気はちょっと苦手だったけど、やっぱり走るのは楽しかった。

 

 高校でも陸上部に入った。みんな真剣で、少しでも良い記録を、少しでもいい結果をって、頑張ってた。

 

 どうやら私は部の中でも結構速いらしくて、みんなが私に期待してくれた。

 

 顧問の先生と居残って、先輩達から指導して貰って、自分のフォームを動画で確認して、速い人の走りを研究して。

 

 それで、二年の夏の大会。みんなに背中を押された私は、レーンの真ん中辺りで盛大に転んだ。

 

 競技が終わった後に口数が少ない私を、みんなが励ましてくれた。ミスなんて誰もがするものだと。

 

 私は心底から申し訳なかった。競技中に転んだことじゃない。

 

 マトモな形で記録を残せなかったのに、大して悔しくもない、自分が申し訳なかった。

 

 ――それから、なんとなく学校を休んだ。体調不良とか用事以外で休むのは生まれて初めてだった。

 

 すると、凄く楽になった気がした。誰も居ない寂しい筈の自分の部屋が、妙に居心地がいい。誰とも喋らず一日が終わったのに、なぜか安心する。

 

 それで休み初めて一週間くらいが経って、私は外に出た。

 

 夕方の誰も居ない公園で、何も考えずにただ走ってみた。

 

 それが凄く楽しくて。誰も見てないことが安心出来て、走った後にストップウォッチを見なくても良いんだって思って。

 

 ちょっとだけ、泣いた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「何かがあったってワケじゃないんだよ。誰かが悪いとかそういうのでもなくて。ただ、それでも原因はなんなんだって聞かれたら、それは私自身のせいなんだと思う。だからあの二人だって何も悪くない」

 

 小さく揺れながら語られた華の話は、ぶっちゃけ掴みにくい話だった。

 

「周りが変わっていくのに私は変われなかったから。取り繕い方が下手だったから。ずっと子供のままだったから。そんな、感じ。……昨日さ、海斗と遊ぶのが楽しくて、それが改めて分かったっていうかさ」

 

 ただ、詰まってた栓が取れたかのように、さっぱりした顔で華は話していた。

 

「だから、ありがとうっていうか。気遣ってもらってありがとうっていうか」

 

「……まあ礼は受け取っとくけどさ、昨日のアレが全部気遣いだとか思うなよ」

 

「へ?」

 

「俺も普通に楽しかったっつーの。昨日みたいなことしようってお前から誘われたら、俺は行くよ」

 

「……」

 

「別に、高校行こうが大学行こうが社会人になろうが、ボールが蹴りたきゃ蹴ればいいんだよ。そんで相手が居なくて寂しいってんなら俺を呼べよ」

 

「……海斗は、さ」

 

「あん?」

 

「なんでそこまでしてくれるの?」

 

「……色々あんだよ、色々」

 

「ふーん、色々かあ」

 

「――つーかさ、ずっと気になってたんだけどさ、なんでお前髪染めたの?」

 

「へっ?あ、いや、それは」

 

「それは?」

 

「……少しは大人になれるかなって」

 

「行動力が斜め上なんだよ。普通毛先だけとかだろ。初っ端で全部行くのかよ」

 

「うるさいなあ!海斗も中学の頃染めてたじゃん!金に!」

 

「……それはあんま思い出したくないから止めてくれ。てかお前、学校休むのはいいけど勉強は――」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 中々変わる事の出来ない私が、これからどう生きていくのかは、私自身にも分からない。

 

 それでも、いつになろうともあの日みたいにくだらなく遊ぼう。そんな事を言ってくれる人が居るから。

 

 私は私はでいて良いんだって、そう想えた。

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