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天宙市街外れの、廃路となった高速道路でサーヴァント同士が戦いを繰り広げる。
勇猛で逞しい大男、バーサーカーは両手に持つ剣を振るって猛攻を仕掛ける。ライダーの間近に迫って剣の一薙。相手は後ろに飛び退く……けれど、バーサーカーの薙ぎ払いはコンクリートの路面を粉砕して深く切り裂いたような跡を残す。
空振りでもそれほどの威力。
(さすがバーサーカーだね。あんな攻撃、一撃でも受けたらひとたまりもない)
バーサーカーとされるだけある圧倒的な力。だけどライダーも負けていない。外見こそ昔の老船長でも、次々と迫るバーサーカーの猛撃を回避して致命傷を避けるほどの身体能力を見せる。回避ばかりじゃない。僅かな隙を見つけてピストルで胸と頭部、的確な急所を狙っての射撃を放つ。
(反撃のチャンスが少ないなら、四肢よりも急所を狙うのは正しい。けれどバーサーカーも歴戦の戦士で……簡単に仕留められるわけないか)
狂戦士を意味するバーサーカーでも、ただ力に任せて攻撃を繰り出すだけでなく、急所狙いの射撃は剣で弾くか回避して退ける。考えるよりも早く、戦士の本能と言うものみたいだ。一方でライダーもそれで仕留めるつもりと言うより、敵の回避と防御も考慮に入れた……言うなれば牽制。射撃で守りに入ったバーサーカーに更にサーベルによる攻撃を仕掛ける。
攻撃から防御に転じた間合いを見計らっての攻勢。バーサーカーの対応も間に合わず右腕に腕にサーベルの斬撃を受ける。
僕がこの戦闘で見た初めてのダメージ。ただ、傷を受けたと言ってもごく僅か。バーサーカーはすぐに持ち直して再び猛攻に出る。そうなってはライダーも退き、また回避に専念してチャンスを伺う。
力が上回る相手に、立ち回りで互角に持ち込むなんて……流石だと思う。
(猛攻と、僅かでも隙を利用しての反撃……その繰り返し。これが続くなら持久戦になる感じがする。
……ただ、どっちも本気で戦うと言うより、相手の実力を図るために戦っている気がするな。考えている事は……僕と似ているか)
「──キョウスケ様」
戦いの場から少し離れた林で様子を伺っていた。そんな僕の元に一人──正確には人間ではないけれど──姿を現して言葉をかける。
「あなたは……監督官の、ハル」
黒髪で、左前髪で顔が隠れた赤い瞳の女性……その姿をした機械、アンドロイドのハル。彼女は僕の傍に寄って言葉を続ける。
「この距離なら他のサーヴァントに感づかれてもおかしくはないのに。貴方のサーヴァント、キャスターの力ですか」
「うん。僕のサーヴァントは周囲の空間をある程度なら操ることが出来る。……言うなれば結界の形成がキャスターの能力。外界から気配を遮断し、姿を隠す結界を生み出すくらいは容易……みたいだから」
僕は傍に立つ幼い少女に視線を向ける。
ずっと小さくて、十才にも満たないくらいの幼い、非力に見える黒と桃色のドレスの少女。けれどスカートや裾から顕になった手足の関節は人間ではなく、人工の球体関節。
人の姿をしたサーヴァントではなく、少女人形のサーヴァント。──彼女が僕のサーヴァント、『キャスター』だ。
「……」
彼女は一言も喋ることはない。
「サーヴァントの方は無口ですね。確かに変わったサーヴァントですけれど、普通に会話は出来るはずですが……」
「口を効かないように僕が命じた。これはどんな命令だろうと、強制出来るんでしょ?」
僕はハルに右手の甲を見せる。赤く輝く三画で刻まれたひし形のアザ、その三画の内、一画が煌きを失っていた……欠けたひし形。
令呪によって命じ、キャスターが言葉を話す事を禁じた。欠けた分はその命令で消費した分だ
「令呪をどう使うのかはマスターの自由です。ただそんな事で使うとは、勿体ないとは思いますけれど」
「……別にいいだろ。彼女が、キャスターが僕に余計な事を……言ったりなんてしなければ」
何も言わずにこっちを見つめるキャスター。……思わず視線を反らしてしまう。
(……あんな事を言おうとしたからだ。僕は……別に……っ!)
「何やら複雑な事情があるみたいですね。まぁ、私には構いませんが。
それよりも──」
向こうで戦いを続けるライダー、バーサーカーの様子をハルは眺める。
「キョウスケ様は戦いを眺めているだけですか? それともどちらかが倒れて、消耗した残りを倒すつもり……とか」
彼女からの問いに、薄く笑って僕は答えた。
「僕はただ見ているだけだよ……今は。姿を隠してサーヴァントの能力を調べながら、最後の一組になるまで待つ。
そして僕とキャスターが確実に倒す。卑怯かもしれないけれど、僕にだって……叶えたい願いがあるから」
聖杯戦争──コズミック・セントラルの会長でもある天原銀星が何の為にこんな妙な事をしているかは分からない。けれど勝ち残ればどんな願いでも叶えられる権利が手に入る。
僕にとってはそれで十分。願いを叶えて、この苦悩から開放されるのなら。