Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第三章 ユニオン
第一節 同盟への誘い


 未だ夜の闇に閉ざされた森の中、俺は全速力で駆けた。

 

「はぁ……っ、くっ!」

 

 魔力による身体強化で脚力と体力を底上げしている。多分、短距離走のアスリート選手並み、それ以上の速度で走っていると思う。

 自分でもこんな事まで出来るなんて驚きだけど、今はそれどころじゃない。

 

(セイバーの反応は向こうから感じる。……無事でいてくれ)

 

 バーサーカーの宝具が放たれる直前、俺は令呪でセイバーに逃げるよう命じた。命令通り一撃を受ける前に戦線離脱し……この森の奥に姿を消した。

 俺はその後を追って合流しようと向かっている。反応ではもうすぐ──。

 

「──セイバーっ!」

 

「……主さま、来てくれたでありますね」

 

 森の中、木にもたれながらセイバーは、俺に会えて嬉しそうに笑う。

 だけど笑顔とは裏腹に、身体はバーサーカーとの戦いでひどく殴られてボロボロなはず。俺は傍に歩み寄って声をかける。

 

「あんなに殴られて、身体は大丈夫なのか?」

 

「当然! 全然平気でありますよ! 身体だってこの通り──つっ!」

 

 そう言ってセイバーは立って動こうとする。が、途端に痛みで顔が引きつり倒れそうになる。

 地面に倒れないように俺は受け止める。

 

「ふふ……っ、受け止めて貰えたのはこれで二度目、セイバーは感激であります」

 

 今度は照れ笑いを見せる。感激なのは確かかもしれないけれど、ひどい冷や汗をかく程辛そうなのは放っておけない。

 

「分かった。分かったから、とにかく無理しないでくれ」

 

 俺はセイバーとともに腰を下ろし、林に隠れるようにして座る。アルスとバーサーカーとは大分距離が離れたはずだ。今はセイバーの体力が回復するまでここで休んでいた方がいいだろう。全く慣れない身体強化をかけて走ったせいで俺も酷く疲れていた。座っていた方が大分楽で体力が休まる。

 

(けれど直接戦ったセイバーに比べれば、大したことない。俺に心配かけないように笑ってはいるけれど……)

 

 服の合間から覗く素肌からはバーサーカーに殴られたせいで出来た、痛々しいアザがあちこちに見えて。きっと見えていない服の下にも同じような傷がいくつもあると容易く想像が出来た。

 

(どちらかが倒れるまでサーヴァント同士を戦わせる……これが聖杯戦争。俺自信分かってはいたはずだろ?)

 

 自分の魔力をセイバーに多く回す。そうすれば傷の回復も早いと思ったからだ。だけど、当の本人から視線を外すように、俺は俯いて唇を噛む。

 

「……くそっ」

 

 思わず漏れた悪態。セイバーはそれが聞こえたのか、俺にこう呟いた。

 

「ごめんなさい……戦いに勝てなくて。……主さまの期待を裏切って……ボクが弱いせいで」

 

 全て自分が悪いと、そう言うかのように悲痛が混じった、振り絞るかのような謝罪。いつもの明るいセイバーではない、ひどく落ち込み罪悪感に押しつぶされている様子で……。

 

「──違う! セイバーは強い! 君のせいじゃない……何も悪くなんてない!」

 

 俺は即座に俯いていた顔を上げて、強く言い張った。……それからまた気持ちが沈んで、目を伏せながら続けた。

 

「悪いのは……俺だ。戦いになるのは分かっていたはずなのに、怖気づいて。他のサーヴァントは倒さなきゃいけないはずだって分かっていても躊躇って……セイバーがやられそうになった時も懇願しか出来なかった。

 そんな気持ちで魔力を送ったとしても、上手くなんて行くわけがない」

 

 実際あの時、俺は気持ちが動揺して本気で魔力を送る事が出来ていなかった。もし十分に集中出来ていたなら、セイバーだってもっと力が発揮していたはずだ。

 

「それは……」

 

「セイバーは最後まで戦おうとしてくれた。それでも俺は……令呪で『逃げろ』と命令したんだ。

 あの時、君が立ち向かおうとしているのも知っていた。その望み通りアルスと同じように、戦う為に使っていれば勝てたかもしれない。実際そうするべきだった、でも──」

 

 途中、言葉に詰まった。自分の不甲斐なさと情けなさで涙が出るのを堪えて……代わりに口から自虐めいた笑いがこぼれ出す。

 

「はは、は。とんだ臆病者だ。戦えない分、せめて傍で出来るだけの事はしてみせると決めたはずなのに。

 俺を助けて、想ってくれるなら。俺も……セイバーの為に」

 

「主さま、そんなに…………。──っ!?」

 

 何か俺に言おうとしたセイバー。けれど同時に何か察知したように立ち上がり、太刀を構える。

 傷がろくに癒えてすらいないのに、無理しているのは辛そうな横顔を見れば分かる。俺も立ちセイバーと同じ方向を見据える。……するとそこには、二つの人影が。

 

(まさかアルスとバーサーカーがここまで!?)

 

 一瞬そう思ったけれど影の形が違う。そして二人とも男性のシルエットで……。

 

 

「おやまぁ? 所詮戦いの道具に過ぎない存在にそうも入れ込むとは。ふふふ……変わったマスターですねぇ」

 

 嫌味にも聞こえる丁寧な口調。そう言って前に進み出て来たのは俺より少し身長の、コート着の細身な男。長いストレートの銀髪で糸目。夜中の森には似合わないにこやかな笑みを俺に向けて近づく。

 

(俺をマスターだと知っている? そして右手には──)

 

 右手の甲には例の赤いアザ、令呪もある。彼のものは正四角形、目の前の男もマスターであると言うことだ。

 すると近くに……きっと。

 

「おいおい、そりゃあ俺のことも言ってんのかよ?」

 

 それに対して軽口を挟んで現れるもう一人、大航海時代の船長を思わせる格好をした壮年の男。糸目の男は彼にも笑みを投げかけて言った。

 

「貴方は別ですよ、ライダー。サーヴァントとして戦いの道具である事は否定しませんが、それ以上に……私達は対等なビジネスパートナーなのですから」

 

 ……ライダー! やっぱりサーヴァントを連れて来ていたのかっ! 

 

「まさかっ、戦いを仕掛けるつもりか!」

 

 とっさに俺も身構える。

 バーサーカーとの戦いで俺もセイバーも消耗しきっている。このまま連戦になれば勝ち目なんて一切ない。

 ところが、返って来た言葉は幸運にも、同時に思いもよらないものだった。

 

「そう警戒しなくても大丈夫です。戦いだとか、敵になるつもりは毛頭ございません。

 私達がここに来たのは有益な提案を一つ、持ちかけに来ただけですので」

「……有益な提案だって?」

 

 こんな時に意味が分からない。そう思っていた俺に、糸目の男は手を差し伸べるような仕草とともに応えた。

 

 

「ええ。私達ライダー陣営と、貴方がたセイバーの陣営──共に同盟を結んでみてはいかがでしょうか?」

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