Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第二節 会談

 昨日、バーサーカーの戦いが終わった後……何とか家に帰り着いた。 

 真っ直ぐベッドに向かって眠りについて、一日明けて。いつも通りに学校へと通った。

 

「ふぁ……っ」

 

 授業中、我慢できずに欠伸が出る。夜にあんな事があった疲れ、それに単純な睡眠不足でずっと眠気にさいなまれ、休み時間と昼休みはずっと眠りっぱなしだった。

 おかげでいつもより早く放課後が来た感じがする。足早に帰ろうとする俺に弘明が呼び止めに来た。……いつもより上機嫌な様子で。

 

「よっ! 彼方!」

 

「……弘明か」

 

「昼休みはずっと机に突っ伏して寝ていたみたいじゃないかよ。彼方にしては珍しい、昨日何かあったのか?」

 

 彼の言葉に俺は少し苦笑いしながら誤魔化して言う。

 

「次の期末テストに向けての予習だよ。つい熱が入りすぎて、寝る間も忘れたって言うやつさ」

 

「ぷっ! 相変わらずガリ勉だな、彼方は!」

 

 弘明は吹き出すように笑って、ついでにこんな自慢まで付け足す。

 

「俺はそんな彼方と違って、ちゃあんと青春を満喫してたんだぜ。彼方が勉強ばっかしている間に、同じクラスのカワイ子ちゃん……天音ちゃんとデート!

 デートの最中携帯が無くなったのは焦ったけどよ、それも今日彼女が手渡してくれたんだ。その時の笑顔と来たらまさに天使! ようやく春が来たって感じだぜ!」

 

 あいつが自慢げに話すデート。アルスが言っていたのは、これの事か。

 

(実際誘拐なんてせずに、携帯の方も本当に返したのか。俺が森に放置していたバイクも朝には戻って来ていたし、律儀と言うか……やっぱり根は良いやつなんだな)

 

 しかし彼女は俺とセイバーの事を知っている。今日は学校には来ていなかったみたいだけど、これからが心配だ。バーサーカーも大分傷を受けていたはず、すぐすぐには再戦なんて挑まないとは思うが……。

 

「なぁ、今からゲーセンにでも行かないか? 勉強ばっかじゃなくて、たまに遊んでパーッとするのも大事だぜ」

 

 俺の肩に腕を回して言う弘明。あいつなりに気をつかってくれるのは嬉しい、けれど。

 

「悪い。実は今から知り合いに会いに行く用事があってさ、ゲーセンはまた今度で構わないか?」

 

 やんわりと断った。弘明は残念そうにしながら言葉を返す。

 

「そっか、なら仕方ない。また今度誘うからその時は一緒に行こうぜ」

 

「オーケー。次はちゃんと時間を作るさ」

 

 

 

 弘明と別れて、俺は学校を出た。

 少し歩いて人の目のつかないビルとビルの合間、人気のない路地で霊体化していたセイバーが実体となって現れる。

 目立つ太刀は今は非実体化。サーヴァントならそう言う風にも武器を扱えるらしい。

 

「主さまは本当にあの男の所に行かれるのですか?」

 

「仕方ないだろ。とりあえずは話だけ聞くだけは聞くつもりだ。昨日は襲うどころか、わざわざ街まで送ってくれた礼もある」

 

「はぁ、変な所で義理固いでありますね。──ボクの事も」

 

 最後に何か思わせぶりな言葉。俺はふと気になった。

 

「どうかしたのか?」

 

「……失礼しました、何でもないであります」

 

 いかにも思わせぶりな態度。けれどセイバーが言う気のないのなら、別に構わない。思うことは全てさらけ出さなければいけない決まりは、どこにもないのだから。

 とりあえず話を戻そう。

 

「あの男とサーヴァント、ライダーも、もし倒す気ならあの夜に済ませていたはずだ。

 戦いで消耗した俺たちくらい簡単に倒せたはずなのに、見逃した。すぐすぐに敵になる事はないと思う」

 

「でもでもっ! 途中で気が変わると言う事もあり得るでありますよ!」

 

 なおも抗議するセイバー。確かにその通りかもしれないとも思う、けど。

 

「そう言った所で始まらない。現状をどうにかするには……俺も動かないと」

 

 俺たちが歩く路地。その先に黒いリムジンが一台、道脇に停車してあった。その傍らには運転手と思われる男性も一人。

 

「お待ちしておりました。彼方様と、ご友人の方ですね。さぁ──どうぞお車にお乗り下さい。社長の元へとお送り致します」

 

 まさかリムジンとは、それに社長とも言った。ライダーのマスターは相当の資産力があるらしい。俺とセイバーは車の後部座席に乗り込んだ。

 

「リムジンに乗るなんて、さすがに思いもしなかったな。座席もこんなに座り心地が良いし」

 

「……主さまへのもてなし、まぁ及第点にしておいてやるでありますよ」

 

 運転手も前の運転席に座り、俺たち二人を乗せたリムジンを動かす。

 

 

 車は天宙市内を走る。道を確認すると、どうやら向かう先は街の東南の方角、都市の外周部への道を走っているらしい。

 この天宙市は軌道エレベーター『アマノバシ』を中心に、経済産業区画、居住区画、工業産業区画と言うように中心から外周に向けて同心円状に区分けされている。けれどその区分けにも例外はある。本来は工業、産業区に位置づけられている外周部だけれど、海岸に面する方角には大型船、貨物船の停泊する巨大港、また観光客向けのビーチに市街地、ヨットハーバーなどがあるリゾート区が別に置かれてもいる。

 

(リムジンが向かっているのは……リゾート区の方向だな。それにここは──)

 

 ちょうど街の中間部に位置する居住区画を抜けて、外周部──リゾート区に入った所だ。

 そして今走る通りは、左右に広い庭と高級そうな一軒家が立ち並ぶエリア。まるで海外の……ビバリーヒルズみたいな感じか? そんな高級住宅地を思わせるようなイメージの通りだ。

 

「へー。何か良い所みたいであります」

 

 隣でセイバーはそんな景色を窓から見て呟く。俺はそれにこう答える。

 

「ここは天宙市のリゾート区に位置する金持ち向けの住宅地だよ。……俺には縁なんて無いから行ったことなかったけれど、ここにある家はどれも会社の社長やセレブの邸宅、別荘って話らしい」

 

「どの世界にも、金持ちはいるものでありますね。まぁいくらお金持ちだろうとボクにとっては主さまが一番ですから、関係ないでありますよ。ねー!」

 

「はは……ありがと、セイバー」

 

 そんな言葉に照れる一方、俺は緊張もしていた。

 

(昨日の夜、マスター同士ゆっくり話し合いたいと言われてこの招待を受けた。

 わざわざ罠を仕掛けたり、襲うつもりは恐らくないとは思う。それでも万が一の時には)

 

 セイバーの傷も幸い一日で殆ど回復している。向かい討つか、最悪逃げ出せるようには考えてもいる。

 マスターとなった自分なら、身体強化の術で常人よりも高い力だって扱える。サーヴァントの相手は無理でも……相手のマスターなら。

 

(人間相手の殺傷は控えるように言われてはいる。けれど、向こうが魔力を送る邪魔さえ出来れば……)

 

 そんな事を思っているのを他所に、リムジンは目的地に到着したらしい。

 住宅地の一画、大きな門と新緑の広い芝生、プールまである庭と白い高級邸宅。自動で開いた門、庭に敷かれた道を通り、邸宅の前で停車する。

 運転手が先に車を降り、俺たちがいる座席の後部ドアを開けた。

 

「到着いたしました。どうぞ、お降り下さい」

 

 恭しく一礼しての言葉。それに従って俺とセイバーはリムジンから降りる。

 

「改めて見ても……大きな家だな」

 

 アメリカの有名なホワイトハウス……よりはさすがに一、二回り小さいかもしれない。それでも大きさはなかなかで、イメージとしてもそれに近い。

 そして、邸宅の扉が開いて誰かが現れる。

 

「よう、お二人さん。歓迎するぜ」

 

 大昔の船長着と帽子を被った、恰幅の良い男。深いシワが刻まれた顔と長い白髭からは長年の経験で培われた老練さを感じさせる、不敵と不屈さを兼ね備えたサーヴァント──『ライダー』

 

「サーヴァントが直接、出迎えなんて」

 

 相手のサーヴァントが現れて緊張がはしる。そんな内心を察知したのか、ライダーは人好きのするような表情を投げかける。

 

「そう緊張するなって。言っただろ? 俺とマスターは話し合いをしたいだけだっての。

 改めて手前らがどんな奴か真っ先に拝みたくてな。それに──」

 

 今度は良い冗談が思いついたって顔で続けた。

 

「『サーヴァント』ってのは直訳すれば『召使い』だ、主に代わって出迎えくらい当然だろうぜ。

 これでも生前は人を使う方の地位だったんだがな……まぁたまには悪くねぇ」

 

 相変わらず緊張はしている。いくら俺でも聖杯戦争で勝ち残るのは一人、自分以外のマスターとそのサーヴァントは全て敵、それくらいは分かっている。

 

「主さま……」

 

 セイバーは俺に目配せする。背中にはいつの間に、武器である太刀も実体化させて背負っていた。ライダーの出現に警戒しているのは俺だけじゃない。

 

「……大丈夫、今ここで敵対する気はないと言った。

 そうだろ、ライダー」

 

「おうよ。警戒するのは勝手だが、間違っても斬り掛かっては来ないよう頼むぜ」

 

 まるで知り合いか何かと話すように、軽い様子で言うライダー。それから背を向けて言葉を続ける。

 

「ついて来な。俺のマスターが中で待っている」

 

 

 ライダーに案内されて、俺とセイバーは邸宅の中に入った。

 外見だけではなくて内装も豪華で、そんなエントランス、廊下を通ってある部屋に案内される。

 

「ようマスター、連れて来てやったぜ」

 

 そこは応接室のようだった。広い部屋に、中心に大きなテーブルと椅子、きらびやかなカーテンに装飾、著名そうな画家の絵画も壁に架けられてもいる。

 

(想像はしていたけれど、部屋も立派と言うか……それに、彼も)

 

 俺たちがいる入り口の方向から奥の、一級品のテーブルの奥に座る長い銀髪の、糸目をしたキツネを思わせる顔立ちをした男──鈴黄龍(リンコウリュウ)

 商人であり貿易会社『ゴールデン・ディストリビューション』の社長。……昨日の夜、彼はそう名乗っていた。

 

「一日ぶりです、黄龍さん」

 

 そして黄龍は、サーヴァント・ライダーのマスターでもある。

 

「ようこそ、彼方君。それにセイバー君も。私の邸宅──気に入って頂ければ嬉しいのですが」

 

 少し首をかしげた仕草をしながら、にこやかな笑みを投げかける黄龍。ここまで案内をしてくれたライダーも座っている彼の右横隣に移動し、俺たちと向き合う。

 

「むっふっふっ! 良いだろう? 俺のマスターは。

 こんなに金持ちで、おまけに一会社の社長で商売上手と来た。俺も商売とか金儲けの類は昔から得意で……何より大好きでな、マスターのビジネスもちょいとばかし一枚噛みして大儲けさせて貰っている訳よ!」

 

「私のライダーは商才にも恵まれていますから、会社のコンサルタントをお任せしているのですよ。

 おかげさまで一月もせずに業績は鰻登り。この邸宅と、君たちが乗って来たリムジンも、その儲けで購入した物なのです。……ふふ」

 

 確かにどっちも商売人ってイメージもある。それに戦いだけじゃない。経営、ビジネス面でも協力関係にあるなんて。

 

(サーヴァントは歴史上の英雄、偉人を元にして形作られている存在。だったら当然、人間離れした才覚を一つや二つ、持っていても不思議じゃない)

 

 老人かつ昔の船乗りみたいな風体でビジネスにも長けているなんて、ライダーは一体、どんなサーヴァントなんだ?

 

「お二人はせっかくのお客様、どうぞ席にお座り下さい。上質な紅茶を飲みながらお話をしましょう」

 

 そしてサーヴァント・ライダーのマスター、黄龍は俺たちを歓迎するように言った。

 

 

 

 ────

 

 応接室の席に座り、俺は湯気立つ紅茶を──一口。

 

「本場英国から取り寄せた最高級の紅茶。いかがです? 彼方君のお口に合えば良いのですが」

 

「紅茶の良し悪しは俺には分からない。けれど味は……美味しいと思う。

 ──セイバーも安心してくれ。この通り、飲んでも身体は何ともない」

 

 もてなしで用意された紅茶。実は俺が口にするより前に、先にセイバーが毒見を済ませていた。

 俺は必要ないと言ったんだが、心配していたセイバーにおされて念のためにしてもらった。まぁ、当然向こうも毒を入れるまでもなく、セイバーも俺も身体に異常はなかった訳だけれど。

 

「ふふふ、君のサーヴァントは心配性ですねぇ。わざわざ毒を混ぜるなんて何の得にもならない事、私がするわけがありませんのに」

 

「余計なお世話であります。主さまの安全をお守りするのがボクの役目でありますから」

 

「その見上げた献身ぶり、私のライダーにも見習わせたいですね

 彼は表向きは忠実なのですが、内心では自分の利益と欲望が第一の厄介な男。例えマスターでも自分に不利益と判断すれば容赦なく寝首を掻くでしょう。……我ながら厄介なサーヴァントを引き当てたものです」

 

 やれやれと言うように両手を広げて首を振る黄龍。それはジョークなのか? あるいは本当に……。

 

「おいおい、そりゃあないだろマスター。俺だってセイバー以上にマスターに尽くしている働き者だってのに、あんまりな言い草だぜぇ。

 将来有望な若者を惑わせちまうような、そんな冗談は良くねぇな」

 

 それに苦笑いでたしなめるライダー。……妙な空気だな、これは。

 俺とセイバーは反応に困って、とりあえず紅茶をもう一口。

 

「むぅ。悔しいですが、確かに美味な紅茶であります。ボクもこれくらいのお茶が振る舞えるよう精進しなくては」

 

「別にそこで張り合わなくても。……まぁ、そこがセイバーらしいか」

 

 それから少しの間が空いて、再び黄龍が言葉を切り出す。

 

「先程の話は、まぁともかくとして。そろそろ本題へと入りましょうか」

 

 彼は改まり、まるでビジネスの商談を持ちかけるようにして俺に言った。

 

「彼方君。この聖杯戦争──私と一緒に組みませんか?」

 

 

 

 この提案が出ても俺は驚きはしなかった。

 昨日の段階で見逃し、話し合いたいと来た。考えられる理由として一番に考えられるのがそれだ。誰にだって想像がつく。

 

「手を組む、ですか」

 

 とりあえずは一言、向こうの反応を伺うためにおうむ返しで応える。黄龍もそれが分かっているのか……分かっていても気にしないようで、ビジネススマイルを崩さない。

 

「はい。聖杯戦争は願いを叶える権利を獲るため、マスターとサーヴァントの七組が戦い合うもの。当然他は全て敵、それなのに手を組むなんて矛盾していると。

 今、内心そう思っているのではありませんか?」

 

 確かに図星。彼の言うように俺も気にはなっていた部分だ。

 

「貴方も分かっているのなら、話は早い。俺でも聖杯戦争がどんな物かは──願いの奪い合いである以上、他は敵になるしかないことくらい分かっている。

 手を組む、協力だなんてあり得ないはずだ」

 

 だから堪らずに俺も言った。黄龍はかすかに笑い声を口元から零す。そして……話を続ける。

 

「その通り。最終的に勝ち残るのはただ一組……ですが私達も含めて全七組もいるのです。他のマスター、サーヴァントも恐らく全て手強い存在。何しろ人類史に刻まれる偉人を相手にするようなものですから、単純に戦い合っても勝機は確実ではありません。

 彼方君に──自分たちだけで全て倒せる自信があるのでしたら、話は別ですが」

 

「──くっ」

 

 痛い所を突いて来た。この聖杯戦争、俺がどれだけ甘くて未熟なのかは、昨日の事で十分過ぎるくらい理解していた。

 バーサーカーを相手にもギリギリ無事で済んだ事も幸運だった。けれど次の、さらに次の戦いも乗り切れるかと言われれば……疑問だ。内心で葛藤する俺に畳み掛けるように黄龍は続ける。

 

「ですがサーヴァントの二体一の戦いなら、確実に一体一体を潰して行けるとは思いませんか?

 手を組むのは私達以外の五人が所有するサーヴァントを倒すまで。その後で一対一で、正々堂々と戦い勝者を決める。……どうです? そうすれば彼方君にも、私にも、英霊同士が競い合う苛烈な聖杯戦争で、勝ち残れるチャンスが大幅に増すとは思いますが」

 

 あくまで他のサーヴァントを倒し切るまでの協力、一時休戦と言う事みたいだ。

 

「なるほど……そう言う」

 

 俺は手を顔にあてて考える。その様子を見て取った黄龍は、更にこう告げた。

 

「すぐには答えが出せないようですね。

 いいでしょう。では、三日間の猶予を差し上げましょう。その間二人でゆっくりお考えになられて、そして三日後に答えを聞かせて下さい。

 良い答え──期待していますよ」

 

 

 

 ────

 

 邸宅から出た、俺とセイバー。

 

「主さまと協力関係を結びたいなんてあの男、図々しいヤツでありますね!」

 

 セイバーにとっては悪印象だったらしく、黄龍とライダーも気に入らない様子を見せていた。いくら二人と別れたと言えまだ邸宅の敷地内。にもかかわらずに、こう言って続ける。

 

「あの二人、表向きには友好的なものの、主さまの事を利用する気満々であります。

 それに怪しくて危険な匂いも感じます。協力なんてしたら……主さまさえどうなるか分からないでありますよ」

 

 俺の事を思っての忠告。……もちろん気持ちはありがたい、けれど。

 

「……」

 

「……主さま?」

 

 セイバーの言葉は正しいのかもしれない。彼らは勝利のために俺たちを、いいように利用する気だと。

 それでも俺は……悩まずにはいられないでいた。

 

 

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