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天宙市、地下通路。
通常は地下にある設備、水道、Aエナジー供給ラインの設備を行う整備ロボットが行き来するための通路で普通の人間は立ち入る事が出来ない。
「ランサー!!」
「オーケー! ここで仕留めてあげるっ!」
僕と、ランサーは敵を追跡して暗い地下通路、その複数の通路が合流する広い空間で対峙していた。
「あーあ、よりによってこのタイミングで他のサーヴァントに見つかるとは……我ながらツイていないものだ」
「サーヴァント、『アーチャー』。お前とマスターの事は教えて貰った。マスター……あの男はどこにいる」
「見ての通り別行動さ。僕は僕で用事ってのがあるからな……おっと!」
僕のサーヴァント、『ランサー』。彼女は小柄な体躯よりも大きく、禍々しい槍を構えて敵──アーチャーに一撃を穿つ。
身体ごと串刺しにする勢いの一撃、けれどアーチャーは軽い身のこなしでひらりと避ける。
「物騒な武器を使うじゃないか! 女の子なら女の子らしく、大人しく花でも愛でていた方がいい」
薄暗い中シルエットでしか確認出来ないアーチャーの姿。袖の長い和服を纏った、長身の男のようで……声を聞いた感じだと颯爽とした若い青年のように思える。
「……っ! このっ!」
ランサーはアーチャーに更に追撃を仕掛ける。少女の姿をしてはいるけれどその動きと槍さばきは人間離れした俊敏さで、槍を突き振るう軌跡が薄闇の中幾筋も浮かんでは、消える。
(これが『サーヴァント』の、力。人の姿はしていても人間とは異なる超常の存在。
ランサーも……そしてアーチャーも)
人間を超えた動きで繰り出される槍の攻撃。けれど、命中する手応えはないようでいた。アーチャーも常人離れした動きで攻撃など考えずに回避に専念しているようで、ランサーは苛立ち混じりの声を上げる。
「ネズミみたいにちょこまかと生意気じゃない! サーヴァントならサーヴァントらしく戦いなさいよっ!」
「生憎君とは違って、僕はマスターが離れた場所にいるせいで魔力の繋がりが弱い。
不利な中まともに戦ってやるほど優しくないのでね」
「何なのよ! もうっ!」
アーチャーはこの場から逃れようと出入り口に向かおうと動く。これを阻むように先回りしたランサーが槍を振り下ろす。
「……ちいっ」
「残念ね、この場から逃しはしないわ」
攻撃を後ろに飛び退き、距離をとってアーチャーは正面から対峙する。
「なかなかやるじゃないか」
「いい加減、貴方も覚悟を決めて戦いなさい。……サクッと殺ってあげるわ」
これは良い状況だ。いくらアーチャーが攻撃を躱し続けても、ランサーはこの空間からは絶対に逃さないように牽制し続けている。
『魔力』……非科学的な名前だけれど、サーヴァントの振るう力の源で、人間も個人差はあるが生成する……生体エネルギーの一種。僕はある『措置』を受けた事でランサーのマスターとなり、彼女にそれを送ることが出来る。そしてその繋がりの強さはマスター、サーヴァントの距離に比例するらしい。アーチャーのマスターが近くにいない今なら倒せる可能性は十分にある。
「ここで終わらせる。……アーチャー、最後にもう一度聞く。
──お前のマスターはどこだ!」
僕はもう一度、アーチャーに詰問する。けれど彼は肩をすくめて言った。
「君のランサーが僕を倒せれば何でも答えてやるさ。最も、それは不可能であると思うが」
「このアタシに、言ってくれるじゃない」
ランサーは頭に来たように、一歩足を踏み出して槍先を向ける。
「確かに、こうなったら僕も戦うしかないな」
アーチャーも戦う気になったようで、刀を抜いて構える。アーチャー……射手であるはずのサーヴァントが刀で戦うのか?
「調子に乗った事……後悔させてあげるっ!」
先に動いたのはランサー。右足で強く床を蹴って跳ね、一瞬でアーチャーの懐に入る。けれど──
「──なんて、冗談だとも!」
アーチャーは瞬時に刀でランサーの持つ槍を弾いて逸らす。同時に左手でボールのような丸い何かを取り出し、思いっきり真下に投げつける。
ボン! ──と大きな爆発音とともに、巻き上がる煙のような物。
「コホッ! コホッ! 何よ、これっ!」
いきなり煙に覆われてランサー、アーチャーは大量の煙に巻き込まれて見えなくなる。さっきアーチャーが投げつけたボールは煙玉か……そんな古典的な手を使うなんて。
煙は数秒もたたずして晴れる。だけど晴れた時には既に、アーチャーの姿は消えていた。
「煙に紛れて……最初からこうするつもりで。…………くうっ!」
鋭い頭痛が襲う。思わず頭を抑える僕。
「大丈夫!? マスター!」
「大したこと……ない。いつもの発作、問題はない」
「そう……なの」
ランサーは僕を気にかけているみたいだ。頭痛は次第に収まって、耐えられるくらいにはマシになった。それから改めて彼女に視線を向けて伝える。
「それよりも逃げたアーチャーを追おう。ランサー、どこに行ったか分かるか?」
「霊体化して逃げたとしても、気配を少しだけ向こうから感じるわ。こっちの通路に行けばもしかすると追いつけるかも」
僕は傍に置いていた小型バイクに跨り、起動させる。人間以上の身体能力を持つサーヴァントを追う手段、動力源のAエナジーも十分にある……これなら。
「完全に痕跡が消える前に、急いで追おう。もしマスターと合流するのなら──その時は」
「オーケーよ。追いましょう、マスター。
けれど無理はしないで。マスターのコンディションはアタシにも関わるし、それに頭痛の辛さは……アタシもよく知っているから」
「……うん」
僕は自分のサーヴァントとともにアーチャーを追跡する。
あの男は必ず仕留める。それが僕が生きる──ただ一つの目的だ。