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その日は祭日休み。日本は外国に比べて祝日、祭日の数が多いと言う話だ。……だからどうしたと言うわけでもないものの、休みがある事に悪い気はしない。
(進学の為の勉強と、聖杯戦争の両立で体力的にも精神的にも疲れる。今日も含めて明日明後日で三連休。少しくらい休んでもバチなんてあたらないはずだ)
マンションのベッドで横になって天井を見上げる。昼近くまで遅寝をし、昼食を食べてまた二度寝。夕方を越してほぼ夜となった今の今まで、ほとんど寝っぱなしな一日だったと言うわけだ。
「そんなにお眠り続けていましたら、牛さんになってしまうでありますよ?」
「……かもな。いや、いっそ牛にでもなってしまった方が楽かもしれないな、多分」
セイバーの気にかける言葉に、半分冗談で俺はこたえる。……けれど、まぁ正直な所ずっと眠り続けたせいで流石にこれ以上眠れそうにはない。ベッドから起き、固まった身体をほぐすように軽く背伸びをする。
「ふふっ。今度こそお目覚めですね、主さま」
起きたばかりの俺に微笑むセイバー。俺はそうだなと、微笑みを向けて応えた。
とは言っても既に夜。目覚めて少し経った俺に、セイバーは紅茶を淹れて持って来てくれた。
「お目覚めの一杯です。主さまがお眠りの間、美味しい紅茶を淹れられるように練習したのであります」
多分、昨日の黄龍の邸宅で出された紅茶に対抗しての事だろう。俺は紅茶が入ったマグカップを手にとって、口をつける。
「……結構、甘い味だな」
あの時の紅茶に比べて、セイバーのは甘めの味だった。
「起きたばかりには甘いものが良いと聞きましたから。少しだけ甘い紅茶にさせて頂きました。
でも、うーん……主さまには甘すぎましたか」
「ううん。確かに甘いけど、これはこれで美味しい。気を利かせてくれてありがとう、セイバー」
俺は紅茶を少しずつ飲みながら、部屋で時間を過ごす。
「……むぅ」
特に何かするわけでもないゆっくりとした一時。けれど、俺の内心に立つさざ波は収まらないでいた。
「あの男、黄龍からの提案……まだ悩んでいるのですね」
こっちの顔を覗き込んで言うセイバー。俺は苦笑いしてこたえた。
「今後に関わって来るからな。手を結ぶべきか、それとも断るべきか」
考え出すしただけで頭が痛くなる。あの提案に応じるか否か、いまだに決心をつける事が出来ないでいた。
セイバーも俺の悩みに寄り添うような視線を向ける。そしてこう呟く。
「ボクの意見としては、あんな提案なんて断るべきだと思っています。やっぱり胡散臭いですから」
「──そう、だよな」
セイバーが反対なのは俺も分かっていた。
「セイバーは俺とともに聖杯戦争で戦う仲間で、友達だ。だから君の意見を聞いた方が良いとは思っている」
けれど──。俺は項垂れて言葉を続ける。
「俺にはこの先、戦い抜いて行く自信が……ない。
あのバーサーカーとの戦い、マスターのアルスは全身全霊で聖杯戦争に挑んでいた。勝者が勝ち取れる、どんな願いでも叶える権利を手にするために」
彼女が何を願いたいのかは分からない。けれどあの時の勝ちに行こうとする気迫、それほどの強い思いがあるからこそだと思う。
「アルスだけじゃない。恐らくライダーのマスター、黄龍や他のマスターだってそうだと思う。
俺はただセイバーが無事ならそれでいい、守れさえすれば……なのに」
「……」
「そのセイバーを戦わせないといけない。相手のサーヴァントを倒し、マスターの願いを踏みにじらなければいけない。
対して、俺は願いを聖杯戦争で勝ってまで叶える必要はない。出会ったあの時、ただ目の前でセイバーを見捨てたくなかっただけだったんだ。やっぱり俺には……荷が重すぎる」
つい口から吐き出た俺の弱音。そんな中、セイバーは意外な言葉を投げかける。
「……だからいっそあの男に、黄龍に付き従っていた方が楽。そう言いたいのでありますか」
「っつ!?」
胸に突き刺さる言葉の棘。セイバーがそんな事を言うなんて思いもしなかった。
「どうしてもと言うのでしたらボクは止めません。時には楽な方を選ぶ、逃げることも大切な事もありますから。
……でも、大事な選択ではもっとよく考えて欲しいであります。あまりに楽だからと決めた選択は──いい結果なんて産まないでありますよ」
いつもは健気で、俺の事は殆ど全肯定なセイバーから始めて聞く、はっきりとした忠告。
驚きで面食らってしまった。セイバーもはっとしたようで、申し訳なさそうに改まる。
「……っ、すみません。ボクとしたことが、主さまに無礼を言ってしまいました」
謝るセイバー。けれど、そんな必要はない。
「いやいい。弱気になっってしまった俺が悪い。聖杯戦争に参加する以上覚悟はしていたはずなのに、変なことを言ってしまった。
セイバーの言った事も正しい。俺は君のマスターなんだから……ちゃんとしないとな」
「主……さま」
「君の正体はまだ知らない。けれど一度見捨てないと俺は決めた。だから責任もあるし、最後まで見捨てない。聖杯戦争も俺なりに頑張って君を守ってみせる。
──その上で、生き残れる可能性を上げる手段として誰かと手を組むのも考えるべきだ。ライダーのマスターはたしかに怪しい。けれど今、相手になり得るのは彼しかいない」
そう話す俺はセイバーは心配げに見つめている。……やっぱりライダー陣営と手を組む事が不安なんだろう、正直俺もだ。
「まだ、あと二日は考える時間がある。セイバー、一緒にどうするか考えよう。
黄龍の言いなりになって組むより、もっと良い方法が見つかるかもしれないだろ?」
セイバーを、俺自身を元気づけるように言った。
時間は残っている。その間に必ず、納得が出来る答えを見つけてみせる。
「元気になってくれて安心であります。……きっと、大丈夫でありますよ」
そう言うとセイバーは立ち上がって、こんな事を告げた。
「主さま、外に出てきても構わないでありますか?
少し夜風に当たりたいと、そう思いまして」
「そっか。俺は全然構わない、ゆっくりして来て欲しい」
別に断る理由もない。セイバーはありがとうと伝え一礼した後、霊体化して姿を消した。
(セイバーも俺以上に思い悩んでいるはず。一人で考える時間も、きっと必要だ)
今はセイバーが戻ってくるのを、ここで待っていることにする。
ただ考えてばかりも疲れる。その間は聖杯戦争の事は脇に置いて、少し授業の予習でもしておこう。