Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第五節 信じるココロ(Side セイバー)

 ────

 

 主さまがお暮らしになられている、マンションの屋上。

 

「……」

 

 ここは街の住宅区画と言ってましたっけ。周りの建物は高層住宅ばかりで……どれだけ多くの人が暮らしているのでしょうか?

 

(規格も統一化、高さも形も同じ建物が均等に並ぶ大規模な団地、二十階くらいはあるでありますね)

 

 照明も屋上には届かず暗闇で、人気もありません。ここにいる所を見られる心配もないであります。

 ──ここなら。

 

 

 

 ボクは自分の刀──エーテル短刀のグリップを取り出し、起動させます。エネルギーで形成された刀身がグリップ先端から放出展開。蒼い輝きがぼんやりと暗闇を照らしているでありますね。

 

「……『  』は」

 

 思わずそう呟きながら、短刀の刃を自身の首筋に向けました。

 

(主さまのためにも……こうした方が良いかもしれません)

 

 短刀を握る手に力が入るであります。後もう一押しさえすれば、自分の細い首なんて簡単に落とせてしまいます。

 ……ですが。

 

「主──さま」

 

 主さまの顔が頭をよぎって、刀を動かすことは出来ませんでした。

 

(消えてしまえば、主さまはもうお会いできないであります。ずっと待ち望んで……ようやく再会出来たのに)

 

 この期に及んで我が儘な思いを抱くなんて、小姓失格でありますね。複雑な思いに囚われている……そんな最中に。

 

 

 

「『  』。それが貴方の本当の名前、真名と言うわけですか」

 

 後ろから突然声をかけられました。

 前にも一度聞き覚えがある声。その主は聖杯戦争の監督官、ハルでありました。

 

「機械の気配は察知しにくいであります。それに、盗み聞きとは関心しないですよ」

 

「失礼。ですが聖杯戦争を監督する事が私の役目。各々のマスター、及びサーヴァントに注意を払うのは当然の事ですので」

 

「主さまさえ忘れてしまった、ボクの名前。お前なんかに先に知られるなんて……気に入りません」

 

 許せない思い。このまま手にした刀で切り捨ててしまいたい気持ちを、抑えるので精一杯でありました。

 

「その表情、私に怒っているのですか? 

 サーヴァントと言うものは人類史に刻まれた人物を元にして生み出される存在。貴方と同名の人物も、過去の歴史において記録が残っています。……ですが」

 

 ハルの表情は変わりません。でも赤い瞳を模した精巧なセンサーアイは、まるで興味を示すように内部のレンズを伸縮させながらボクの姿を捉えているであります。

 

「不思議ですね。見目麗しい姿である事は記録と共通してはいますが、その格好とテクノロジーを備えた武装、史実とは大きく異なっているようです」

 

「……」

 

 ボクはそれに沈黙で答えます。これには、ハルも諦めたように瞳を閉じたようでした。

 

「まぁ、良いでしょう。貴方の存在も私とギンセイさまの観測対象ではありますが、現在最優先なのは聖杯戦争の進行。今は置いておくことにしましょう」

 

 話しながら彼女はボクに歩み寄る。そして更に言葉を続けます。

 

「それよりもセイバー、何故先程は自害を試みようとしたのですが。監督官として見ても……あまり褒められた行為とは言えませんね」

 

 やはり、そこまで見ていたわけでありますか。これにも答えるつもりはなかったのですが、恨み言ついでに言ってやるであります。

 

「聖杯戦争だか何だか知らないですけど、こんな馬鹿げた事に主さまを巻き込んだからでありますよ」

 

 どうせ意味ないでありますけど、ボクがハルを睨みながら続けます。

 

「主さまは……本当はこんな事したくなかったのでありますよ。ただボクを助けるためにしたくもない戦いを続けるしかなくて、苦しんでいるのですから」

 

「──」

 

「……だからボクが消えれば戦わないで済むであります。主さまをきっと悲しまれますけれど、ずっとボクの事を知らずに生きて来られたのですから……すぐに立ち直ります。

 ボクの存在が、主さまを苦しめるくらいなら」

 

 最後の言葉は小さな呟きになって、口元からこぼれました。

 

「だとしても自害は困りますね。ギンセイさまはサーヴァントのデータ収集も聖杯戦争の目的としていますので、ただ消失されては勿体ありません。

 貴方のようなイレギュラーであれば、尚更に」

 

 でも意を示さないようなハルの言葉。これには空笑いするしかないでありますね。

 

「機械なんかには分からないでありますよ、ボクの心も……人間の心さえも」

 

「確かに理解を欠いている事は認めましょう。それでも、私自身は理解しようと試みているのですよ。

 監督官としてヒトや、サーヴァントを観察し続ける事によって『心』と言うものを。だからこそ──」

 

 この瞬間、無機質なハルの雰囲気が一瞬変わった気がしたのでありました。

 

「マスターであるソラカミ・カナタさまは、それほどに貴方を大切に想っている事は分かります。

 貴方が自害などすれば彼の悲しみだけではなく、その想いさえも裏切る事になるのでは?」

 

「……っ」

 

「それともう一つ。貴方の信じるマスターはそれで挫けてしまうような人なのでしょうか?

 例え巻き込まれたとしてもカナタさまなら聖杯戦争くらい切り抜けられると……信じることも大切だと私は考えます。

 ただ想い、身を案じるだけよりも」

 

 

 

 ボクは……何も言う事は出来ませんでした。

 

「──監督官の役目でありながら、話しすぎてしまいましたね。

 まぁ私が言いたい事は、ただの自害などは控えて頂けたら有り難いと。それだけですので」

 

 そう言いますとハルはボクから視線を外して、横を歩き過ぎて行きました。

 振り返ると屋上の端に立つ彼女の後ろ姿が見えたであります。もうこっちを見ようとする素振りもなく、ただ一言告げて。

 

「では失礼、セイバー。引き続き聖杯戦争の健闘をお祈りしています」

 

 瞬間、ハルは屋上から飛び降りて姿を消しました。ボクは後を追って飛び降りた場所から下を見下ろすであります。……でも彼女の姿は見当たりません。どこに消えたでありますでしょうか。

 

「お祈りなんて、機械のくせによく言うであります。……けど」

 

 悔しいですけれど、ハルの望み通り自害する気は失せてしまいました。

 

(主さまを信じる……ですか)

 

 確かにそうかもしれません。ボクは気にかけるあまり、信じることを怠っていたでありますね。

 自分の主さまですもの。もっと……ちゃんと、信じなければ。

 

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