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アタシたちの前に現れた、マスターとアサシン。
「はじめまして。赤い髪の貴女がランサーで、傍にいる君は彼女のマスターね。せっかくの
スカイブルーを基調にした清潔感のあるカジュアルコーデの服の上から白衣を纏っている、銀のメッシュが混じったライトグリーンのロングヘアーの女性。年齢は二十代中頃か後半くらいの……アタシからすれば少し年増ね。だけどスタイルはまぁまぁだし、メガネも似合っていて顔立ちも結構聡明そうなイメージがするわ。
(言い回しや見た感じからして女科学者か博士みたいね。でも、よりによってあのアサシンのマスターだなんて……そもそも科学者なんて聖杯戦争にミスマッチじゃないかしら?)
分からないマスターだわ。イメージ的に聖杯で願いを叶えたいとか言うタマではなさそうだし、単にマスターの適正で選ばれたとかかしら。
……でも今は置いておくわよ。アタシの関心は隣にいるサーヴァントにあるのだから。
「あらあら、やはり貴方も召喚されていたのね。──気配ですぐに分かったわ」
彼女が連れているサーヴァント・アサシン。
彼女が引きずる、鎖で繋がれた
「アタシもよ。分からないはずなどないもの。その姿とアイアンメイデン……同じ聖杯戦争に召喚されているなんて、残酷な運命だわ」
アタシの言葉にサーヴァント・アサシンは口元に指をあてて優雅に笑ってみせた。
「あら、残酷ですって? 私はそうは思わないわ。だって最も私が嫌いで、許せない存在をこの手で屠ることが出来るのだから。
ごきげんよう、そして──」
その時、アサシンの傍にあったアイアンメイデンが消えているのに気づいた。
まさか──
「──さようなら。もう一人の、『私』」
アタシの頭上から、鉄で象られた乙女の顔が見下ろしていた。
鋼鉄の包容で数多くの少女から生き血を絞り取ってきた
「……上だ! 避けろ!」
マスターの声で上を見た時には、鉄乙女の微笑みと、開いた胴体から無数に生える金属の棘が目の前に見えていたわ。
(アイアンメイデン──人間を中に入れて、蓋を閉じることで内側の鋭い棘で生きたまま串刺しにする器具。それを……このアタシに使うなんて!)
皮肉ってものね。でも、大人しくやられるわけないじゃない!
「そっちがその気ならっ!」
アタシは寸前に空中に飛び上がって回避したわ。
……ドラゴンの翼を広げて空に、アサシンの射程から離れる。
「ほう? 本当に空が飛べるとは。伝説上の生き物ドラゴンの姿を取り込んだランサー、実に面白い」
アサシンのマスターのやつ、眼鏡を光らせて実験動物を見るかのような好奇と探求の瞳でアタシを見ているわ。
「人類史に記録された高次の魂、英霊の一端を宿すエネルギー半実体存在『サーヴァント』。……興味深い、もっとその力を見てみたい。
──アサシン。ランサーのデータを取りたいので、すぐにデリートはせずに出来る限り力を引き出して貰えたら助かります。」
「全く……私に向かっての言葉、恐れ知らずも良いところね」
マスターの言葉に彼女は額に指をあてるような仕草で呟いた。それからアタシの方を見て……。
「でもまぁ、いいわ。一思いに殺すだけでは飽き足らない……貴方は私がじっくりと、いたぶって殺してあげるわ」
アサシンから放たれる、こっちにまで突き刺さるほどの殺気。やっぱり殺る気ね。
「やれるものならやってみなさい。アタシが逆に潰してジュースにでもしてあげるわ!
マスター! ついでにアサシンのマスターも、耳は塞いでいた方がいいわよ!」
アタシは下にいるアサシンに向けて狙いを定める。
「アイアンメイデンを喰らわせようとしたお返しよっ! 雷鳴と暴風の名を冠するアタシの声、味合わせてあげる。
人間を超えたドラゴン並の肺活量で放つ特大ボイスで、アタシの宝具。例え声や叫びにすぎなくても……共鳴・増幅すれば最強の音響兵器ってやつだわ。
その威力はアサシンがいる範囲の道路上にヒビを入れてへこませる程で、彼女自身も音圧で動きがとれないでいるわ。
「くぅ──っ!? 本当にっ、酷いボイスだわっ!」
余計なお世話よっ! そのボイスで押しつぶされそうになっているクセに、よく言うわねっ!?
アタシは音響宝具、竜鳴雷声で動きを封じながらアサシンに接近する。距離が短くなればなるほど音圧も上がって、アサシンも更に圧されて動きが難しくなる。
(いい加減声を出し続けるのも辛くなってきたし、動きを封じ続けても勝てない。直接攻撃を与えるしかないじゃない。
けれど竜鳴雷声を出したまま槍を振るうのは難しいわ。あと少し接近して、解除した一瞬で突き刺してあげる!)
反撃の機会なんて与えないわよ。十分な距離を確保したアタシは宝具を止めてすぐさまに槍の一突きをアサシンに放つ。サーヴァントの急所、丁度心臓の位置にある霊核を狙っての一撃必殺。さっきまで動きを封じられて反撃も防御もする暇さえ与えないわ。これで──!
「私を──舐めないで頂戴」
その時アサシンの足元から半径二メートルの範囲が赤黒く変色している事に気がついた。せっかくのチャンスだけれど、攻撃を中断して左後方に飛び退こうとする。
瞬間にアタシの真下、アサシン周囲の地面から赤い棘が伸び放たれたわ。
「小癪ねっ!」
アサシンは血液を自在に操る能力がある。自分自身は動けなくても周りに血を染み込ませて陣地を作って、範囲に入った相手に向かってその血を固めた棘を放つ迎撃手段を用意していたってわけ。寸前で回避は出来たけれど、あのまま攻撃を続けていたら相打ち……逆にアタシがやられていたかもしれないわ。
「今度は私の番だわ、小娘」
杖を持っていない左手に血液を纏わせて鋭い爪を形成するアサシン。そして道路脇、工場壁付近にまで後退したアタシに向かって引き裂こうと迫る。
右横に躱す。アサシンの
「!?」
左翼の一部が攻撃を受けて裂けていた。翼を広げればその分命中範囲が大きくなる、うかつだったわ。
ダメージのせいで飛行が難しくなる。それに、このまま翼を広げ続けても下手にまた喰らうだけ。アタシは翼を消して壁を蹴って跳躍、少し離れた工場の敷地内の柱を足場にして屋上に飛び移る。
当然、アサシンも追って来る。今度は茨のようにトゲトゲした杖を構えて追撃しようとする彼女。アタシも槍でそれを迎え撃つわ。
「「はあぁぁっ!」」
巨大な工場の屋上を舞台に、アタシとランサーは猛攻をぶつけ合う。
まさに本気の殺し合い。サーヴァントが持つ力の、衝突の連続。
「叩き斬ってあげるっ!」
上に跳躍してアタシは槍を振り下ろす。
「……無駄よ!」
アサシンも自身の杖で受け止める……いえ、槍ごと砕いて仕留める勢いで振るう。
力は互角。互いに受けた攻撃の勢いで吹き飛ばされる。けれど間髪入れずに再び迫って激突する。
「……本当に、貴方の事は大嫌いだわ!」
今度はアタシの攻撃を受け止めながらアサシンは言ったわ。
「そんなのっ、こっちのセリフよっ」
「自らの若さと未熟さを堪能して、好き勝手に振る舞う。
自分が何であるのか──知っているはずなのにっ!」
そう叫ぶと血のカッターを形成して、アタシに向けて飛ばす。
当然避けはするけれど、更に続けて小型のカッターを生み出しては連続で放って来る。……ちいっ、厄介じゃないの。
「どう振る舞おうとアタシの勝手でしょっ! アタシはアタシよ!」
「いいえ、違うわ。貴方は『私』、その罪過からは逃れられないわよ。善人ぶろうともね」
「──はあっ!?」
ふざけた事を言うじゃない! 放たれたカッターは尻尾で全て弾いて、その勢いのままにアサシンの右横に回り込む。
「つまらない冗談ね! いつアタシが……善人ぶってるって言うの。アタシは好きでやっているだけだわっ!」
横から接近して薙ぎ払いを仕掛けた。けれど、アサシンの奴は空中高くに跳躍してアタシを嘲笑するように笑みを向けてきたわ。
「なら聞くわ。貴方は何のために聖杯戦争に戦っているの? 叶えたい願いは? そして……どうしてそこまでマスターを気にかけるの?」
「それは……っ」
アタシとした事が、言葉に詰まってしまう。その時にアサシンは杖の先に血液を溜めて、今度は球体の形にして集めていた。
「やっぱり答えられないわけ。私には見て分かるわ。貴方には叶えたい願いはない、なのに……こうして戦っていると」
「関係ないじゃない! ならそっちはどうなのよ!」
「当然あるわ。……貴方だって分かるでしょう?」
アサシンは杖をアタシに向ける。そして球体状にして集めた血液を、無数の弾丸に換えて撃ち放ったわ。
さっきのナイフよりも小さくて数が多い攻撃、アタシは槍を回転させて防御をとる。血の弾丸を放ち続けながらアサシンは話を続ける。
「私の願いは生前からの悲願であった、『永遠の若さ』。その為にあの女とも協力関係は結ぶし、聖杯戦争で戦うわ。
どう? 実にシンプルで分かりやすいでしょう?」
弾丸の数は多く、それに一つ一つに魔力を込められて……固い! 槍で弾き切れずに肩、足首に食らって傷を受けてしまう。
「……痛っ」
思わず口元からそう溢してしまうけれど、全然戦えるわ。何よりあの女に弱音なんて零せないじゃない。
「確かに私は残忍、残虐な女よ。でも自分の願いすらなく他の人間のために戦う貴方に比べれば遥かに正常だわ。
それとも貴方…………自分の罪滅ぼしのため、なんて訳ないでしょうね?」
けれど今の言葉でアタシは我慢出来なくなった。
あの女、よくも言って……くれたわね!
「──アサシンっ!!」
アタシは防御よりも攻勢をとった。致命傷だけギリギリ防御しながら、四肢と身体に弾丸を受けるのを構わずアサシンのもとに向かう。
これ以上口が利けないように、今すぐトドメを差してあげるわっ!
「ふふふ、怒ったみたいね?
でも無駄よ。何をしようと私達に刻まれた罪は消えることはない。怪物は死んでも怪物……でしょう?」
うるさいっ! アサシン!
あと少し……あと少しで切先が彼女に届く。それで戦いは終わり、生き残るのはアタシ──
「──えっ?」
そんなアタシの左右に迫る、鋼の顎。
正体はアサシンの
「愚かな小娘ね。私の仕込みに二度も引っかかるなんて。……そんなにムキになるから、こうなるのよ」
「この……っ!」
アタシに向かって閉じられようとするアイアンメイデン。そしてアサシンは冷ややかに、こう言い放ったわ。
「だから言ったのに。…………全て、無駄なのよ」