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錨に吹き飛ばされ、サンタ・マリア号から吹き飛ばされるセイバー。
華奢な体躯が宙に飛ばされ、真下の海へと落下しようとする。──それを。
「──しっかりしろっ、セイバー!」
直前で跳躍した俺が、セイバーを受け止めてキャッチする。そのまま向こう側の足場に着地。
「主さま……どうして」
俺にお姫様抱っこされているセイバーは、半開きの朦朧しかけた目を向け、か細く呟く。
「だって俺は、君のマスターだろ? 君が戦うと言うのなら──俺も出来る事はっ!」
「仕留め損ないましたか。……ライダー!」
「おうよ! 行けっ、サンタ・マリア!」
ライダーは船から錨付きの鎖を再度放ち、俺たちに襲わせる。
迫りくる攻撃……けれど。
「俺だって、やろうと思えばっ!!」
魔力を使った身体強化を自身にかけ、セイバーを抱きかかえたまま攻撃を逃れる。
飛んで来る錨から全速力で駆けて、跳躍しながら。
「言っておきますがライダー、彼方君をあまり傷つけたり、ましてや殺すような事は止めてくださいよ?
聖杯戦争はサーヴァントを倒す事が目的。人間を殺傷するなんて……したくありませんから」
「分かってるっての。俺のドロップアンカーで追い詰めて、引き離すだけだ。
その後確実にセイバーにトドメを刺す。……相手は人間、余裕ってもんさ」
走る俺の背後から迫る錨の数々。限界ギリギリまで強化した脚力でも、いつ追いつかれてもおかしくないくらいに、ヤバい!
「くそっ! あり得ないって! ……うわっ!」
後ろだけじゃない、横からも錨が飛来して来た。
しかも足場は目の前で途切れている……こうなったら、さっきセイバーがやったみたいにっ!
「──たあっ!!」
一か八か、横から迫って来た錨に飛び移って、そのまま鎖を足場に……向こうの大きめのヨットに飛び移る。
上手く行った。けれど甲板に着地した時、俺は右腕に激痛を覚えた。
「くっ……こんなに……腕から、血が」
あの時、錨に飛び移ろうとした時に触れて抉ったらしい。腕には深々とした傷跡が出来、多くの血が流れ落ちている。
「う……痛……っ」
セイバーも抱え切れずに、腕からずれ落ちる。
「……そんな傷まで」
「気に……するなよ。俺は君のマスターだ。こんな傷くらい、全然……っ!」
激痛で思わず腕をおさえる。また多量の血が、傷口から染み出す。セイバーは振り絞るような声で言った。
「主さまっ! もういいであります……こんなにまで、しなくてもっ……」
「いいからっ! 俺だって何かしたいんだ! 俺の事を助けてくれた──君のように、少しだけでもっ!」
胸の奥から吐き出た、自分の叫び。
「セイバーは……昔から俺を見守って、助けてくれたんだろ?
俺さ、本当に何も覚えてさえいないのにずっと。 だからさ! 守ってくれるばかりじゃなくてもっと──頼って欲しい! これからは俺もセイバーの事を助けたい!」
「──主さまが、ボクのことを」
セイバーは左目を丸くして、俺を見つめていた。
「……」
一瞬の間、互いに顔を合わせていた俺たち。けれど──瞬間に大爆発の音とともに俺たちがいる船ごと大きく揺れた。
「遊びはここまでだぜっ、彼方!」
ここまで響くほどの声で、ライダーが呼びかけるのを聞いた。
「どうやら今ので深手を負ったようだなぁ。俺としてはマスターにまで傷を負わせるつもりはなかったんだが、無茶をやったそっちが悪いんだぜ?
だがそれも終わりだ。アンカーでヨットを包囲させて貰った、もう逃げ場なんてねぇ。それに……な」
「く……っ」
俺たちがいるヨットの四方八方を囲む錨。それに……錨の鎖に縛られて、捕らえられたランサーの姿も。
「既に弱っていたランサーも、これまでよ。次はセイバーの番だ。だからよ……早く出てきてくれねぇか?
──大切なマスターを巻き込みたくないだろ?」
「どう言う……意味でありますか?」
たまらずにセイバーは身を乗り出してライダーに問いただした。……あいつは、不敵な態度で言う。
「見ての通り、てめぇ達のいるヨットはドロップアンカーで包囲しているのは分かるだろ?
つまり、合図一つで一斉にヨットに激突させて跡形もなく粉砕する事も可能ってわけよ。人間だって巻き込まれたらひとたまりもないだろうな」
「お前っ! まさか主さまごとっ!!」
明らかなセイバーの激怒。ライダーはそれをものともせずに軽い調子で言う。
「話が早くて助かるぜぇ。と言う事だからよ……三分くらいは待っててやるさ。それまでには出て来いよ、さもないと──」
本当に追い込まれたこの状況。
(ここからどうすればいい。時間は三分、考えるんだ……俺)
焦りとともに必死で頭を巡らせる。セイバーも何か思い考えるようにして……そして、何か決断したようにして呟く。
「……決めました、主さま」
「言っておくが、望み通り倒されに出ていくと言うなら反対だ」
セイバーの考えを想定して、俺は前もって言っておく。けれどセイバーはゆっくり首を横に振ると。
「違うであります。主さまの流れる血──どうかボクに飲ませて下さい」
唐突すぎる頼み。俺の血を飲みたいだって? 吸血鬼の真似をする暇なんて……。
「サーヴァントはマスターの生命エネルギー、魔力を力にしています。
人間から得る生命力……それは、人の体液を接種すればより多く補給出来るはず。少しでも傷が回復して力が戻れば、きっとまた戦えますから。
ボクには主さまが──頼りであります」
そんな事で傷が治るかはわからない。けれど、それでセイバーの傷が治って勝機が見えるのなら。
頼りにしてくれると言ってくれた。俺でも出来る事があるとしたら──。
「分かった。俺の血で良ければ、すぐにでも」
俺はセイバーをヨットの縁にもたれさせながら、腕の傷部分を口元に近づける。
「口を開けてくれ。今飲ませるから」
言われた通り口を開けてくれる。
自分の血を飲ませるなんて、やはり変な気がする。それでもセイバーの為なら……これくらい!