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天宙市西区中央広場。そこはかなり広い緑地公園でいつもは憩いの場や遊びの場として使われている。
もちろん今みたいに大きなイベントがある時には、その会場としても。
「失礼します。入場前の安全検査にご協力下さい」
入り口には全長三メートルで分厚い鎧のような姿の警備用人型機体が並んで立ち、対テロ部隊による検査が入場者に対して行われた。それが済んで会場に入ると……そこには各ブースに分けられた幾つもの建物と巨大テント、そして数えきれない程の人だかりで全体が賑わっていた。
「さすが……コズミック・セントラル企画のイベント。厳戒態勢もあって多少人は減っていると思うけど、それでもこの賑わいだ」
会場にまだ入ったばかりなのに、空気感だけで気分が高揚するのが分かる。
「スゲーじゃないか! どれも面白そうなものばっかだし、早速観に行こうぜ!」
弘明の言う通り俺も待ちきれない。大人気の宇宙技術展、思いっきり楽しもう。
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会場のブース内容は、これまでコズミック・セントラルが開発した技術をアピールするもの。
技術やそれを用いた製品の紹介、実物の体験コーナー。会社が開発したロボットを実際に動かし、操縦が出来るブースなんかが良い例だ。
──宇宙開発企業コズミック・セントラル、二十世紀のアポロ計画で人類が月面にたどり着いて以降、発展を続けていた宇宙産業を担っていた日本の一企業、科学者であり資産家の
二十世紀後半にはそうした企業は数多くあった。けれど当時力を持っていた企業は冷戦期に政府主導で先んじて宇宙開発を行っていた、アメリカ、ロシアの企業。それに比べれば規模も技術力も大したものではない、その他多くの中小企業の一つに過ぎなかった。
けれど2001年、外宇宙から小惑星が地球圏内に漂着して来た。会社の探査シャトルはこれを調査。……そこで何を発見したのかは明らかになっていない。恐らくは新発見の未知の鉱物ではないかと言われている。
未だにそれは社外秘。分かっているのは、小惑星の発見以降コズミック・セントラルは数多くの新技術、テクノロジーを生み出したと言うことだ。そのタイミングは会社のトップが天原煌星からその息子の天原
コズミック・セントラルが生み出したもの。代表的な物で言うなら、工学技術の革新による汎用人型ロボットなどの開発に、宇宙空間の長距離さえタイムラグを要さない惑星間通信システム、既存の物より頑丈で軽量かつ生産コストが低く加工が容易な合金の発明と熱核融合炉の実用化、小型化低コスト化など今後の課題はまだあるもの重力制御技術の確立、その他様々な技術革新にも関わっている。
もちろん宇宙開発に関わる宇宙船、コロニーに基地、街の軌道エレベーター『アマノバシ』だってそうだ。
そして新エネルギー……『Aエナジー』も生み出した。
コズミック・セントラルにより発見、実用化された電気、ガスなど、これまでの物とは異なる万能かつ環境被害のないクリーンなエネルギー。推進機関も含めた宇宙船のエネルギーに使う計画もあるようで、Aエナジーには使える可能性はまだまだ多く今もなお模索中だと言う。
その一環の実例が──この天宙市。さっき見た街を張り巡らせる青い光のライン、そこに流れる新エネルギーがAエナジーそのものだ。天宙市の設立背景は軌道エレベーター直下の地上拠点としてと同時に、これまで開発した多くの新技術、そしてAエナジーを利用した巨大試験都市でもある。実際、街を走る車、各種インフラに動力、ロボットを稼働させるエネルギーも全てAエナジーが使われている。
新エネルギーは問題なく街全体を動かしていて、少なくともこれまでの大半の技術には応用可能と言うのは、暮らしていて俺たちも分かる。
技術展のブースの一つに展示されていた、そうしたコズミック・セントラルの歴史と略歴。
「へー。コズミック・セントラルは思ったより色々やってんだな」
眺めながら弘明は軽い感じで呟く。半分呆れながら俺は言葉を返す。
「と言うか、これくらいの内容なら学校の授業で教えられたこともあるだろ。もう忘れたのか?」
「そっか? 多分ずっと前だったから忘れたかもな。……ほら、俺は彼方とは違って、勉強はあまり得意じゃないだろ?」
「はぁ、自慢する事じゃないよ」
「彼方は宇宙に行くために頑張ってるもんな。学校を卒業したら確か、月にある宇宙航行士官校に行くんだろ?」
宇宙に行くことが俺の夢。天宙学園は宇宙関連の進学先も充実していて、僕が目指すのは月面都市アルテミスにある宇宙航行士官校、その探査士官コース。
(宇宙航行士官育成の学校の中ではアルテミスの士官校がトップ。そして探査士官コースは、今後ずっと遠く未開の宇宙探査を将来任される事が約束されているコースで……)
「……まだ知らない宇宙の先を目指す、それが俺の夢。倍率は厳しいけれど頑張るしかないから」
俺の言葉に、弘明は一瞬思う所があるような表情を見せた後、かすかに笑みを返して言った。
「そっか。彼方の夢、だもんな」
少し妙な空気になった気がする。ここは話題を変えるために、場所を変えることにする。
「弘明、そろそろあそこの大きなブースを見に行かないか。俺が後の楽しみにとっておいた場所だ」
俺の提案に弘明ものってくれた。
「分かった。彼方がそこまで言うなら、きっと面白いものだろうし……な」
そうして俺たちは今のブースを出て、向こうに見える一際大きなブースに向かう。
相当人気なのか人で込み合い、人混みに揉まれながら移動する。そんな時…………。
「──はっ!?」
一瞬、横目に妙な人影と目があった。妙な太刀のような物を背負った、変わった黒い衣装を纏った可憐な、中性的な外観の人影。
けれど本当に一瞬だけ。すぐに群衆に紛れてどこにも見えなくなって、正直本当に見たのかも怪しくなる。
(もし見たのが事実なら、あれは俺の夢に出る剣士とそっくりそのまま……)
「……まさか」
いくら何でも夢に出てくるような格好の誰かがちょうど現実にいるなんてあり得ない。普通に、ただ夢の記憶が混同して錯覚したと考えるのが正しい答えだ。
本当に実在なんて、するわけがない。
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宇宙技術展の各ブースは大体見て回ることが出来た。けれどこれから行くのは、宇宙技術展の一番の目玉だ。
会場の中央、直径三十メートル、高さ十メートル、それなりの建物と同等かそれ以上のドーム型テントの中。俺たちが入ると、そこにあったのは巨大宇宙船──の縮小レプリカだった。
黒に近い灰色、横に長い長方形のボックスの船体に海上船舶のように艦橋、ブリッジが伸びた外観。船全体に巡らされた青く発光するAエナジーが流れるライン。
「すげーな。レプリカなのに……この大きさかよ」
縮小レプリカと言っても巨大なテント内の空間の大半を占める規模。そして本物はこれの百倍はある、つまり本物の全長は見積もって三キロメートル。宇宙に幾らかある宇宙都市、スペースコロニーの大きさには若干及ばないものの、今、2051年までに製造されている宇宙船の中でも間違いなく過去最大級のもの。
もちろんこの船が凄いのはそれだけじゃない。
「なぁ彼方、これは一体どう言う船なんだ?」
弘明の質問に、俺は説明してかえす。
「コズミック・セントラルの計画する次世代型巨大宇宙船、アーク級宇宙艦。
これまでの技術を惜しみなく投入した最新鋭艦で、動力、エネルギーは熱核融合炉と連動した生成・変換炉で生み出したAエナジーが使われている。……ここ天宙市と同じように。実用化した重力制御による人工重力と船そのものを浮遊させることで巨体に関係なく地球も含めた重力のある惑星上での航行と着陸が可能で、船の整備、運用はロボット、人型機体で大部分が行われているんだ」
この新開発の宇宙船については前々から調べて、色々と知っていた。俺はもう少し解説を続ける。
「けれど凄いのは、Aエナジーを用いた船のドライブユニットは光速の四分の一に近い速度まで加速が可能だと言う事。これが実現すれば土星……冥王星を含めた太陽系の全範囲を一日もかからずに移動が可能で、人類の開拓圏に収めるのも夢じゃない」
「──へぇ! 本当に今まで以上にずっと凄い宇宙船なんだな! これならこの先の宇宙開拓も楽勝じゃないか?」
「……まさか」
コズミック・セントラルによる多くのテクノロジー、宇宙開発の革新によって、2001年までは月までだった開拓圏の範囲も、火星、木星にまで広がった。宇宙空間、星の地表に多くのコロニーも作られて、今や全人口の三分の一が宇宙で暮らし発展を遂げている。このアーク級宇宙艦が実現すれば太陽系の端にまで到達し、将来的には全太陽系を人類の文明圏に収めることも可能だ。
ただ、それでも大きな課題は残っていた。
(確かに、宇宙開発はたった半世紀で格段に進歩した。けれど宇宙はずっと広い。太陽系なんて距離に入らない程。
一番の問題は……数百、数千光年単位のある距離。この船は最高速度が大体光の四分の一、本格的に恒星間航行するとすれば最も近くて数十年、少し離れただけでも数百年単位は必要になる)
もちろん、それでもたった半世紀で凄い進歩だと思う。アーク級宇宙艦の全長三キロもある巨体も大型化したAエナジードライブユニットの搭載も理由ではあるけれど、船内には長い年月の宇宙航海を考え、万単位の人間が不自由なく生活出来る環境……自己完結した一つのコロニーを内包して、将来計画されている恒星間航行、その問題になる航行にかかる長い年月の問題を生活環境の確保で解決しようとしている。
「近い恒星系なら、この船で何十年かかければどうにかなる。けれどそれでも片道で数十年、少し遠くなるだけで百年は超える距離だ。……そんな範囲さえ宇宙の、この銀河系の中でさえたった僅かにすぎない。
人類がもっと自由に、遠くの宇宙に旅立つにはもっと上のテクノロジーが必要だと思う。例えば──」
宇宙船のレプリカ模型を眺めて思いを巡らせていた。けれど、弘明に対して言葉を続けようとした次の瞬間──。
──突如、俺たち目の前で大爆発が起こった。
「「!!」」
巨大なレプリカの各部で次々と誘発する、爆発と炎。あまりにも突然すぎる出来事に周りは一瞬何が起こったか分からず固まる。けれど次々起こる爆発で我に返り、一目散にここから逃れようと出口に急ぐ。
「くそっ! 俺たちも早く逃げようぜ!」
俺と弘明も急いでこの場から逃げようとする。大勢の人に押されてどうにか出口に向かおうとする……しかし。
「……誰か、助けてくれ!」
会社員くらいの男性が一人、崩れたレプリカの瓦礫に足を挟まれて動けないでいた。それを見て俺は逃げる足取りが重くなる。
「おい彼方! 早くしないと巻き込まれるぞ!?」
急かす弘明の声。本当はすぐにでも逃げるべきだと言うのは、分かっている。……けれど、それでも。
「ああ、もう……仕方ない」
「彼方!?」
「悪い弘明! 先に逃げてくれ、俺もすぐに追いつく!」
俺はとっさに言い残すと、出口に逃げる逆方向に走る。
(……ったく! こんなに人がいるなら誰か助けに行けよ!
何で……俺が!)
俺だってこんな危ない事はしたくなかった。でも、このまま放っておいて、そのせいで……なんて事になったら。
(多分、いや絶対、一生後悔するくらい後味悪いに決まっている。大丈夫……すぐに助けて逃げれば済む!)
炎が上がる宇宙船のレプリカの真横を全力で駆け戻って、動けない男性のもとへ向かう。
「──足は動きますか?」
「ああ、幸い挟まっているだけだ。助けに来てくれたのか?」
「……放って行けなかっただけです。今……持ち上げます!」
俺は瓦礫を力いっぱい持ち上げようとする。
「くっ、結構……重い」
早く逃げないと俺も危ないのに……焦っていたその時、レプリカ模型の側面が大きく吹き飛び、大きな影が姿を現した。
「──これは……っ!」
内部から現れたのは黒とダークグリーンの機体色をした大型ロボット──人型機体、会場外を守っていた警備用人型機体と同じ三メートル級で、右腕は人と同じマニピュレーターで、左腕がそのまま重火器になっている……明らかに戦闘用だ。
一体だけじゃない、同型の人型機体が巨大レプリカを突き破って次々に湧き出てくる。まるで寄生バチの幼虫が青虫の体内から何匹も食い破る、そんなイメージで。
(頭部のモノアイに片腕が武器、それに鋭角的なフォルム。シリウス・マシナリー社のRMG−88、二十年前のシベリア内戦で使用された軍事用無人人型機体か。そして今目の前にいるのは、更に独自にテロ使用に改良した……ガイアスの特別仕様。
最初からレプリカの中に潜んでいた? それとも地下を進んで真下から出てきたのか?)
ニュースでも話はあった。今、この惨状を引き起こしたのは反科学、宇宙開発テロ組織、ガイアス。
あんな軍事機体まで持ち出した大規模テロ。ここだけじゃない……会場全体を破壊し尽くすつもりだ。
(まずい! 本当に早く逃げないと危ないぞ、これは!)
俺はどうにか瓦礫を少し上げることが出来た。
「これで大丈夫か! 早く逃げてくれ!」
「……すまない、ありがとう!」
男性は瓦礫の隙間から足を抜いて、先に出口に向かって逃げ出した。俺も早く──
「!!」
瓦礫を起き、振り向きざまに急いで駆け出そうとした……けれど、急な動き過ぎて足がもつれて転倒した。
「つっ!」
転んで足を打って痛む。すぐに起き上がろうとする、が、その時にはすぐ近くにまで軍事人型機体、RMG−88が迫っていた。
向こうは会場の破壊がインプットされた無人機。人間の事なんて気にすらしない。だから今みたいに、構わず俺ごと踏み潰そうと足を踏み出す。
逃げ出そうとしても、間に合わない。
(嘘だろ? こんな事で俺の人生は……終わるのか)
大きな金属の足が迫るのがスローモーションに見えて、その間に考えがいくつも頭をよぎる。
──これなら助けに戻るなんてしなければ良かった。でも、後悔しても遅い。人助けした結果がこのザマか。
(せめて誰でもいい。俺のことも……誰か──)
──誰か俺を助けてくれ。そう願っていた中……何故かあの夢を、スペースオペラな宇宙で佇む、太刀を背中にかけたサイバーパンクな剣士の姿が頭に浮かぶ。
馬鹿馬鹿しいのは分かっているはずなのに。俺は思わず願い──叫んだ。
「──来てくれっ!」
機体の足が容赦なく踏み降ろされ、押しつぶされようとする。……俺は目を閉じてしまおうとした、瞬間。
天井を穿ち、空から蒼く輝く──流星が落ちて来た。
流星は俺に迫っていたRMG−88に衝突し、機体は後ろに地響きを当てて倒れた。衝撃で頭部と胴体が潰れて動かなくなった機体。その上に立ち落ちてきた流星……いや、人の形をした何かは、俺の方へと振り返った。
「……無事で良かったであります、主さま」
姿はまさに……人間そのものだった。流星を思わせた青い輝きは手にしている武器──ハイテク技術で作られた機械の太刀、その刀身に走る一直線のパネルラインから発光していたもので。Aエナジーによる発光現象と酷似していた。
「君は一体、誰なんだ?」
謎の人物は俺に可憐な笑みを見せた。そして……。
「またこうして会えて嬉しいであります!
だって貴方はボクの主さま──マスターなのでありますから!」