Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第十四節 初めての勝利の後に

 ────

 

 戦いが終わって、急いでセイバーの元に駆け寄った。

 

「セイバー! 無事か!?」

 

 目の前には気を失って倒れた黄龍と、セイバーの後ろ姿。俺の方に振り向いて笑顔でこう応えてくれた。

 

「もちろんであります! ボクと主さまの大勝利ですっ!」

 

 良かった。一時はどうなるかと思ったけれど、無事に勝つことが出来て。……けれど。

 

「それで……ライダーは、本当に倒したんだな」

 

 俺の言葉に、セイバーも少し複雑そうな様子を見せて。

 

「はい、彼はボクの手で。『ライダー』クリストファー・コロンブス……最後まで立派な船乗りで、強敵でした」

 

「──そうか」

 

 戦いなら倒しもするし、倒されもする。……だからこそ。

 俺は無事に戻って来てくれたセイバーを抱きしめる。

 

「──!」

 

「今はセイバーが無事でいてくれた事が嬉しい。……おつかれさま」

 

 俺はセイバーのマスター、敵を倒す責任と罪も俺にある。そしてそれを背負った上でセイバーが聖杯戦争で生き残れるように尽力する。

 これが、俺が選んだ決断だ。

 

「お望み通り、主さまの元へと戻って参りました。──ただいま、であります」

 

 

 

「あらあら、見せつけてくれちゃって。いくら戦いが終わったからって、アタシでもそこまではさすがにしないわよ?」

 

 声が聞こえて見ると、ランサーとタケルも近くに来ていた。

 

「……タケル」

 

「無事に生き残れて良かった。おかげで僕もランサーを失わずに済んだ、礼を言うよ」

 

 タケルもランサーを守りたかったらしい。けれど……。

 

(あの態度、俺と違ってガイアスと戦うための手段として考えているみたいだ。……そう言う所は気に入らないが)

 

「俺の方こそ、ランサーの助けがなかったらライダーを倒すなんて出来なかった。

 ありがとう──そして改めてよろしく」

 

 俺はタケルに握手を求めて手を伸ばす。彼は相変わらず無愛想ではあったけれど、握手を返してくれた。

 

「僕は君たちを襲わないし、出来る限り生き残ることに協力する。けれどその分、君たちの力を僕の目的のために貸してもらう。

 ──ランサーも構わないか?」

 

「……ふん」

 

 彼の言葉にランサーは両腕を組んで俺達にそっぽを向きながらも、こう答えてくれた。

 

「気に入らないけれど助けて貰ったのは事実だし、少しだけ認めてあげる。せいぜいアタシたちのために尽力なさい」

 

「その高飛車な所、あいも変わらないでありますね。

 でもボクからも礼を言うでありますよ。最後の最後でランサーの助けがなければ、無事に主さまの元に戻れたかも怪しいですし。……さすがであります、ランサー」

 

 セイバーがそう言うなんて、ちょっと意外だった。ランサーもそれを聞くとそっぽ向いていた視線を戻して、得意げに笑う。

 

「当然。分かってるじゃない、アナタ。そっちの活躍も悪くなかったわよ」

 

 サーヴァント同士でも戦いを通じて打ち解けたらしい。良かった、これなら良い強力関係を築けるかもしれない。……そう思っていたら。

 

「まぁでも、宝具だから仕方ないと言え、よーくあんな破壊的な声を出せるものですね。思わずボクの方が墜落しそうになったくらいです」

 

「はぁっ? アタシの声のどこが破壊的に音痴ですって!」

 

「耳が詰まっているんでありますか? 音痴とまでは言ってないですよ。まぁでも、あんな酷い声が出せるんですから音痴だったとしても不思議ではありませんが」

 

「ムッキーッ! よくも言ったわねっ!!」

 

 いきなり口喧嘩からの、頭に来て掴みかかって来るランサー。セイバーも負けじと掴み返して。

 

「可愛いボクに何するでありますかっ!」

 

「自分で自分を可愛いって言うなんて変人じゃないのっ!」

 

 戦い終えて仲が良くなったと思った次の瞬間に取っ組み合いの喧嘩を始めた二人。

 

 

「止めるんだランサー。まだ傷だって完治していないのに……」

 

「セイバーは言い過ぎだ! 喧嘩を止めてランサーに謝ってくれ」

 

 タケルと俺は喧嘩を止めようとする。……が、止めるよりも前にセイバーもランサーも取っ組み合いの最中、ぶっ倒れた。決して喧嘩でダメージを与えたわけじゃなかった。原因は──。

 

「ゔぇっ! 今になって身体全体が、ズキズキ痛みだしたわ」

 

「……ボクも、主さまより頂きました魔力も使い果たして、スッカラカンであります」

 

 そうか、どっちともライダーの戦いでは無理をしていたんだった。

 

「やっぱり無理のし過ぎだよ、ランサー。さて……と」

 

 タケルは動けないランサーを背中に背負って、俺たちに言う。

 

「僕達はこれで失礼するよ。あの戦いのせいで野次馬も集まっているし、早めに退散したいから」

 

「俺もそうするつもりだが。けどこの破壊、一体どう説明するんだ?」

 

 あの戦いでヨットハーバーも、十何隻ものヨットも破壊されて惨状を呈している。聖杯戦争は一般には秘密にしているはずだ。戦いだって人にこれだけ見られている……本当に隠せているのか。

 

「聖杯戦争を動かしているのは都市のトップでもある天原銀星。情報操作なんて幾らだって出来るだろうし、戦いだって映画の撮影か何かと言って誤魔化すか……どうでもいいけど。

 それじゃあ。他のサーヴァントやマスターに見つからないように、気をつけて帰ることだね」

 

 

 

 

 タケルとランサーは戦いの場から立ち去った。僕とセイバーも続けてあの場から離れて、帰路についた。

 ──夕暮れの街並み。夕日の陽光を反射して辺りがオレンジ色に染まる中、俺もセイバーを背負っての帰り道を歩く。

 

「……ねぇ主さま」

 

 おぶっている背中越しに、セイバーが声をかける。

 

「うん?」

 

「今日の主さま、格好良かったであります。

 もちろんいつも格好良いでありますが、あの時はもっと、ずっと。人間なのにサーヴァントであるボクのために頑張ってくれて──頼もしかったのです」

 

 ……頼もしかった。俺なんかよりもずっと力が強いセイバーに言われて、俺も嬉しくなった。

 包帯で巻いて応急処置した腕がまだズキズキと痛んでも、そんなことなんか気にならないくらいに。

 

「ふふっ、そうだろ? セイバーが俺に尽くしてくれるのは助かるけれど、これからはもっと俺の事も頼ってくれ!」

 

 自分でも分かるほどに今セイバーに向ける笑顔は清々しいもので、セイバーもクスクスと笑い返す。

 

「そうでありますね! なら早速、体力が回復したら美味しいスイーツをご馳走してくださいませ。また一緒にパフェとか食べに行きたいです……主さま!」

 

「了解だ。良いスイーツのお店を見つけて、セイバーに奢るよ。今日の戦いで頑張ったご褒美って事で」

 

 そう言う所は遠慮がないんだな。俺の言葉に、セイバーは心底嬉しげに返事を返した。

 

「ありがとうございます。今からでも待ち遠しいでありますよー♪」

 

 二人で会話するこの時間。そして、セイバーが来てからの俺の日常。……決して悪くない時間だった。

 

 

 

 ────

 

 四日後。

 

「あーるじさまっ!」

 

 すっかり体力が戻ったセイバー。自習中の俺に、わくわくとした様子で話しかけて来た。

 

「聞きましたか? お隣の空き部屋に誰か引っ越して来るみたいですよ」

 

「引っ越すって……誰が?」

 

「それはまだ分からないでありますが、部屋に荷物が運び込まれたのが見えましたから。多分そのうち来ると思います!」

 

「へー、そうなのか」

 

 そんな事を話半分に聞いてはいた。

 

(引っ越しか。けれど隣人交流なんて特にするわけでないし、同居人のセイバーくらいで沢山だ)

 

 俺にとっては関係ない事だった。

 何事もなく自習に戻ろうとした。その時に、セイバーがこんな事を呟くのを聞いた。

 

「──この気配、何でここに」

 

「今度はどうしたんだ」

 

「ええ。四日前に主さまが同盟を結んだ、ランサーの気配が近づいて来るのを感じましたから。

 一体何しに……」

 

 ランサーがここに来るって? このマンションに用事があるとするなら、俺とセイバーに対してか?

 続けて俺はセイバーに尋ねる。

 

「気配はこの部屋に迫っているのか?」

 

「はい。もうすぐ扉の前に辿り着く頃です……念のために注意はしておきますね」

 

「一応仲間になったんだ、変に警戒する必要はないとは思う。

 用があって来たのなら俺が出迎える」

 

 玄関に行ってドアを開ける。扉を開けた先にはセイバーの感じた通りにランサーと、彼女のマスターであるタケルの二人がいた。

 タケルは手に土産袋を持っているみたいで、尚更どう言う事か分からない。

 

「来てあげたわよ彼方、それにセイバーも」

 

「別に来て欲しいと頼んだわけではありませんよ。でもその様子、傷も完全に回復したのでありますね」

 

「ふふん! 数日もあればこれくらい当然だわ。

 後はここに来た理由だけど、よろしくマスター!」

 

 ランサーに話を振られて、タケルは面倒くさそうにして息を吐いたあと俺にこう告げた。

 

「ライダーとの戦いでは世話になった。けれど、おかげで僕達の隠れ家はなくなったから……別の拠点としてマンションの部屋を借りた。

 ……彼方の部屋の隣に。手を組んだのなら情報交換に万一の時とか、場所が近い方が便利だから」

 

「話は分かった。けれど、何もすぐ隣の部屋じゃなくたって……」

 

「空き部屋がそこしかなかったから、仕方ない。

 じゃあ、そう言う事だから。あと……」

 

 タケルは持っていた土産袋を俺に渡す。

 

「引っ越しの挨拶。隣人にはお土産を持ってくのが礼儀って聞いたし……そこのセイバーと食べてよ、美味しいと思うから。

 改めて宜しく、二人とも」

 

「シーユー! まぁすぐ隣だから、暇だったら遊びに来てもいいわよ?」

 

 ランサーはひらひらと手を振って、タケルと一緒に玄関前を後にした。

 そしてすぐ隣の部屋に入り扉を閉める音も。……まじか。あの二人、本当に隣の部屋で暮らすのかよ。

 

「……和菓子、か」

 

 中身は和菓子の箱、どこかの銘菓の羊羹らしい。

 

「ボクも驚きでありますよ。聖杯戦争で、他のマスターとサーヴァントと隣部屋なんて落ち着かないでありますね」

 

「ほんとだよ。……確かに協力関係を結んではいるけれど、俺でも緊張する。これじゃ勉強にも身が入らない」

 

 思わず頭を抱えてしまう。セイバーはそんな俺の肩にポンと手を置くと安心させるように言ってくれる。

 

「ボクが側におりますのでご安心ください、主さま! 

 ──そんな事よりもお土産ですっ! 高級そうな羊羹とは案外気が利くでありますね……こう言うお菓子も大好物なのですよ。早速一緒に食べましょう?」

 

 こう言う時にセイバーの前向きさは助かる。それにランサーとタケルにしても、あの様子だと俺達をどうこうするつもりもないはず。裏切って寝込みを襲うなんて事もしないだろう。

 安心しても良いかもしれない、だから。

 

「分かった。なら俺が切り分けよう。全部一気に食べるのも勿体ないし、少しだけにして残りはとっておこうか」

 

 聖杯戦争でライダーを倒しはした。それでもまだ戦いは続く、ずっと力んだままでは身体も心も保たない。適度に力を抜いて、日常を過ごすのも大切なことだ。

 

 

 例え──これから先にどれほど大変な事が、待っていたとしても。

 

 

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