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「タケル! いるんだろ?」
隣の部屋に引っ越して来たランサーのマスター、竜禅寺タケル。早めに起きて学校への準備を済ませた俺は部屋のドアをノックして呼びかける。
「……何だよ」
ドアを開けて、私服姿のままで現れたタケル、それにランサーも。
「朝っぱらから、アタシのマスターに何か用なの?」
「主さまもタケル殿も同い年でしょう? だから一緒に学校にって、誘いに来たのですよ。
ふふん! 主さまのご厚意、存分に感謝するであります!」
「学校……か」
明らかに乗り気でない様子のタケル。彼はこうも続けて言った。
「僕は学校に通うためにこの街に来たわけじゃない……ガイアスを、そして総帥であるあの男を倒すために来た。
時間を使うなら足取りを探すのに使う。僕には……」
「知っているよ。でも、足取りはハルの方がやってもくれている。街の事は俺達よりも遥かに知り尽くして権限もあるはずだ……今更たった一人が探した所で、そうは変わらないだろ? 彼女に任せればいい」
「そう言う問題じゃ……」
「いいから行こう。学校でも情報収集は出来るしさ!」
半分強引に学校へと誘う俺。タケルは病弱と言うことで不登校気味らしいけれど、あの様子からしてそうは思えない。普通に学校にも通えるはずだし、放っておけない所もあった。
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結局タケルは折れて、俺の言う通り学校へと通った。当然セイバー、ランサーは一緒ではあるものの、いつも通り霊体化した状態で。
いつものように授業を受ける間、今頃どうしているか気にはなる。殆ど不登校だったらしいし、実際少し心配だ。
(ただ弘明が同じクラスにいる。アイツに面倒は見るように頼んでいるから、恐らく問題ないはずだ)
……参った。なかなか授業に集中出来ない。
昼休み、屋上にて。
「まさか彼方が、タケルと知り合いだったとは驚きだぜ」
「ちょっと……な。実は少し、その、学校とは違う所で関わりがあったんだ」
「……」
俺と弘明、そしてタケルの三人でそんな会話をしていた。
「タケル、久しぶりの学校はどうだった。意外と悪くはなかったろ?」
「……別に、大した事じゃない」
相変わらずの素っ気のない態度。弘明は少し苦笑いしながらこう付け足す。
「まぁまぁ。タケルにとっては久しぶりの学校だもんな、緊張しても当然だ」
そう言って彼の肩に腕を回して寄せる。タケルも困惑しているようで、僅かにため息をこぼす。
聖杯戦争に比べれば平穏な時間。学校に来たと言うのにタケルは相変わらずで、いまいちどうすれば良いか分からない。けれど弘明は……。
「なぁタケル、お前ってほとんど学校に来てなかっただろ? まぁ学校はほとんど勉強で退屈だし、行きたくないのは俺だって分かる」
「僕は病弱だって言ったろ。それに……学校自体にも別に興味はない」
タケルのそんな態度にも構わず話を続ける。
「つれない事言うなっての! 学校は確かに勉強が多いけど、面白いことだって色々あるんだ。休み時間とかでダチ同士での会話とか、授業だって結構楽しいんだぜ?」
そんな風に、半ば一方的に学校についてあいつは話し出す。
これまで学校であった話に、変なトラブルなんかも含めた面白い出来事とか。……傍から聞いているだけの俺も、よくそんなに知っていると思ってしまうくらいに多くの話を。
(俺も勉強ばかりであんまり楽しいとか面白いとか考えたりもしなかったしな。そんな風に楽しめる弘明の才能は、尊敬するな)
弘明の一方的な話にタケルは黙って聞いている様子だった。
「──んでさ、スティーブ先生の英語の授業とかはたまーにB級映画を流して英会話を教えたりするんだけど、内容がめちゃくちゃにアレなんだぜ?
サメが人間を襲うパニック映画らしいけど、演技なんか下手くそでCGもチープ。……ほら? これが動画なんだけど見てみろよ。本当酷くて笑っちまうから」
さらには無理やり端末画面を見せて動画を見せたり。
「おいおい弘明! それをタケルに見せるのかよ、冗談だろ?」
あいつは笑っちまうみたいな事を言ってはいたが、あんな映画の動画、あまりにつまらなくて笑えるなんて思えなかった。俺は同じ映画をフルで見せられたことがある。……笑えるどころか貴重な二時間を無駄にしたと心底後悔した。
「……」
無表情で動画を眺めるタケル。ほらな? 俺は一言弘明に文句を言ってやろうと──。
「──ぷっ、この内容で……本当に映画なの?」
かすかだったけれど、ふきだして笑うタケル。 B級映画の動画でそんな反応は意外で、俺も思いもしなかった。
「タケルは分かってるじゃないか! そんな出来で映画になってるのが面白いんだよ。分かってない彼方とは大違いだ」
「はぁ? それってどう言う意味だ」
タケルは相変わらず動画でクスクスと笑っている。俺にはセンスと言うかツボは分からないが、あいつ──ちゃんと笑えるのか。
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放課後。帰り道で俺とタケル、それと実体化したセイバーとランサーも含めた四人で帰路を歩きながら話を交わす。
「な、学校に行くのも悪くないだろ?」
「……ふん」
俺のかけた言葉に、また無愛想な態度をとるタケル。
「またそんな態度かよ。昼休みはあんな風に笑っていたのに……さ」
あの時は確かに笑っていたのは俺も見ていた。タケルのサーヴァントであるランサーも、彼の顔を覗き込みながら表情を緩めて……。
「アタシも安心したわ。──初めて見たもの、マスターの笑った顔」
「そうなのかランサー? タケルは今まで、ずっと」
俺はランサーの言葉に反応して訊いた。
「ええ。と言ってもアタシが召喚されてからだけど、タケルはあんな感じだったわ。
笑ったり、喜んだりなんて無縁で、ひたすらガイアスを倒すことだけ。……怒りと憎しみ、そして悲しみしかなかったもの」
「……それって、どう言う」
核心を突きかけたようなランサーの言葉。けれどこれ以上はタケルが放っておかなかった。
「黙っていて、ランサー。これ以上話すのは君でも許さない」
鋭い視線を向けるあいつ。ランサーはすまないわ、と軽い調子で肩をすくめながら謝る。
俺とセイバーはこそこそと小声で話す。
「やっぱりランサーのマスターは気難しいでありますね」
「……だな」
「主さまは仲良くなろうとしているようでありますが、ちょっと厳しいのでは?
……思ったより何か抱えているみたいですし」
セイバーの言う通り、タケルの様子は俺も薄々感じてもいた。深い苦悩を抱えている事くらい、でも……だからと言って放っておく事は出来もしない。
無理に触れたりはしないが、せめて普通に接する事が出来ればと。
「なぁ、映画も気になるならアニメや漫画とか……好きか?」
話題を変えて俺はタケルに話しかける。向こうは気だるそうにしながらも答えてくれた。
「昔は好きだった。今は別に、そこまでは」
「ははは、俺もタケルと同じ感じだ。あんまりアニメとかは詳しくないけどさ、今度3日後に天宙コミックマーケットって言うアニメ・マンガのイベントがあるっぽいんだ」
「……へぇ」
少しだけ興味を向けるタケル。
「こう言うのは普段行くとかはないけどさ、セイバーが気になるって言うから俺も見に行く予定なんだ。
タケルも一緒にどうだ? 大きいイベントだから、もしかするとガイアスがテロに狙う可能性もあるだろ。その時にセイバーとランサーの力があれば守れるだろうし、手掛かりを掴むきっかけになると思わないか?」
「……」
彼は顎に指をあてて考えるている様子。……やがて口を開くと。
「そうかもしれない。……あくまでガイアスが現れる可能性が高いから同行する、それだけだ」
タケルはコミックマーケットに行く事に同意してくれた。それに、ランサーも俺の傍に来ると小声で伝える。
「礼を言うわ、マスターを気遣ってくれて」
「別にそんなんじゃない。さっき言った理由は本当だから、気にする必要はない」
「ふっ、そう言うことにしておいてあげるわ」
……確かにテロを警戒してと言うのと、ガイアスの手掛かりを掴める可能性があると言うのは本当だ。けれど一方で少しでもタケルの気が楽になればと言う思いも、確かにあった。
学校に連れて行ったりと向こうにとって余計な事だったとしても、俺も誰かのために何か出来ればと思う。──セイバーが俺にしてくれたように。