────
「タケルさま、カナタさま、改めましてごきげんよう」
会場の外で待っていたのはスーツ姿の片目隠れの女性型アンドロイドで聖杯戦争の監督官、ハルだった。
「話通り二人を連れて来た、ハル」
タケルの通話相手はやはり彼女だったらしい。監督官として傍観に徹する彼女が俺達を呼び出すと言うことは……恐らく。
けれどそれよりも、個人的に気になったのは。
「ハルもコミケを周っていたのか?」
「ふふ、私は個人的に人間に興味がありますので。──今回は創作と言うものを楽しむ人間の様子と、実際の作品を知りに、です。
架空の事象を物語として生み出し、形にし、何より現実に近いほどに感情移入する。空想と言うものは人間の特権かもしれませんね」
腕にかけていた袋に入った沢山の同人誌。殆どがハードSFジャンルのマンガ、文学ものらしくハルの趣味なんだろうか?
「そもそもアンドロイドだろ? 機械の塊に同人誌なんて楽しめるのか……」
「人間も究極的には有機物の塊でしょう。であれば私にも出来なくはありません。それにデータベースに接続して直接情報を取得するのではなく、ヒト同様に視覚情報から一ページずつ読み解くのも興味深い。不効率とも思えますがそれも味でしょう」
無機質なハルには珍しくうっすら口元を緩めて話すハル。意外に人間性? があるのかもしれない。
「そんな事はどうでもいい」
一方でタケルは苛立ちが混じった声で割って入る。
「ガイアスが現れたと聞いた。早く詳細を教えろ」
険しい様子のあいつに、ハルもそうでしたねと呟いて、改まって俺達に話す。
「──コズミック・セントラル所有の研究施設にガイアスが再び現れました。
狙いは恐らく、施設で開発された小型Aエナジー生成炉。本体は施設最深に配置し現在は警備で足止めをしていますが、破られるのは時間の問題でしょう。
お二人とそのサーヴァントには至急ガイアスの排除、生成炉の奪取を阻止してください」
「あの男も、来ると思うか」
「敵もランサーの介入は想定している事です。であれば、サーヴァントで対抗するために同行する事は確実と言えます」
「──」
覚悟が決まった目。タケルは当然の事だけれど、俺も覚悟をしなくてはいけない。
(相手は国際的なテロリスト。本格的に命の危険がある可能性が高い。だとしても……)
最終的な狙いは何だろうと放っておけばどれ程の被害が出るかも分からない。止める力があるのなら、俺は出来る事をしたい。
「移動手段は用意していますので詳細は移動中にお伝えします。──さぁ、早く向かいましょう」
────
走る車の窓から覗く道路には、一台の車も人も見えない。おそらくは規制が敷かれているんだろう。
(ここは工業区画の範囲内だ。向こうから上がる炎と煙……あそこに)
「戦闘区域まで間もなくです。お二人ともスーツの具合は問題ございませんか?」
俺とタケルは今、ぴっちりとした黒と銀の二色が入ったボディスーツに着替えていた。
「僕は問題ない」
「俺もだ。身体にフィットして違和感もない。けれど、上から普段着を着て構わないか? この格好のまま外に出るのは流石に恥ずかしい」
身体のラインが出る感じのぴっちりスーツ。女の子が着るのならまだしも男二人でこの格好はさすがにキツイ。
「わぁ……っ! 主様のその格好……すごい格好でありますね」
傍のセイバーも顔を赤くして両手で顔を覆っている。もっとも指の隙間からチラチラ見ているのは丸分かりだが。本当に、早く上から何か着たい。
「研究施設は火災も起こっています。服が燃えても構わないのであれば止めはしませんが……おすすめはできません。
──説明の通り戦闘用ボディスーツは内蔵したAエナジーを消費する事で表面に膜状のシールドを展開し、カナタさまとタケルさまをお守りします。
人型機体の攻撃など一定のダメージは防げる仕組みですが、Aエナジーは消費してしまうため完全ではありません。緊急にはお二人の魔力で代替も可能ではあるものの、十分にご注意を」
こんな装備を用意するくらい、そしてそれでさえも万全ではないと言うくらいに危険だと言うことだ。
思わずごくりと唾を飲む。ハルは俺に赤い瞳を向けて告げる。
「カナタさま、もし止めたいのであれば構いません。タケルさまはともかく貴方まで危険に遭うことはないと私は思いますが」
心配でもしているのだろうか。本音を言えば俺だってそうしたい所だが、首を横に降る。
「覚悟はしている。協力を結ぶためのタケルと約束もした、それに──放ってもおけない」
ガイアスによる被害もそうだけれど、こんな危険な真似を平気でしているタケルの事も。
車は停車し、ボディスーツを着た俺達は付属のヘルメットを被り外に降りようとする。
「護身用ですが武器の所持をお忘れなく。これも、あくまで貴方達自身の身を守るためにお使いください」
彼女から渡されたものはボディスーツとヘルメット、そしてもう一つ。ホルスター付きのAエナジー・ビームガン。
(そう言えばライダーのマスター、黄龍も武器は使ってはいたな。まさか俺まで持つことになるとは)
と言ってもあるに越したことはないのは間違いない。自分の身を守るためにも持っておくことにする。
「……」
タケルは手渡された銃を無言で見つめている。
「早く行こうぜタケル。ガイアスが何を企んでいるにしてもロクな事じゃないのは確かだ、絶対に阻止しよう」
俺の言葉にあいつはかすかに視線を向けて反応し、ああと呟く。
セイバー、ランサーも気を引き締めている様子だ。さぁ──行こうか。