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通路を進んだ途端、後ろで爆発と崩れ落ちる音がした。
「──何だ?」
振り返るとさっき通過した道の天井が崩れて、瓦礫で埋まっていた。
「参ったわね。これじゃあ彼方とセイバーと寸断されちゃったじゃない」
苦虫を噛み潰したような表情で呟くランサー。僕は構わずに背を向ける。
「……最初から期待なんてしてはいない。例え僕だけでも、あいつを」
そして迷うことなく先を急ぐ。今度こそ……必ず仕留めてみせる。
道を進む僕と、追従するサーヴァント・ランサー。
「ねぇ? マスターはこの状況を分かっているの?」
「──」
「アタシ達が戦ったガイアスの人型機体、それにさっきの爆発。敵はアタシ達が阻止に来ることも予測しての手だわ」
敵は馬鹿でもないことくらいは理解している。僕はランサーの言葉に視線を合わせることなく答える。
「だとしても関係ない。僕はただ、ここでガイアスの総帥を倒すだけだ……必ず」
「マスターの気持ちは理解しているわ。
……だけど、ああしてアタシ達を分断したと言うことは、次に仕掛ける手は各個撃破って大体決まっているものよ。あの男のもとにたどり着く前に何かが──」
彼女がそう話す途中に通路の奥から小さく、蒼く瞬く光が見えた。──と思った刹那に光は僕達の寸前にまで迫って、辺りを目も眩むほどに照らし出す。
「えっ!?」
光とともに見えたシルエットは、人型に近い何かだった。眩しい輝きに阻まれて姿ははっきりと見えない。けれど光はその人型の両腕から生える、槍のように長い剣から放たれていたもの。
明らかに敵だ。ただその剣を振るう先は僕ではなく──。
攻撃を受けて通路そのものが破壊された。
俺とランサーは通路真下の空間へと落ちる。少し高さはあったが、身体強化でどうにかなる程度。着地して周囲を確認する。空の資材置場で空間的広さもある場所、その中央で戦闘態勢のランサーと向かい合う敵は。
「魔術世界における最強の使い魔──サーヴァント。その魔力と神秘は魔術師さえも上回り、人知を超えた圧倒的な強さを持つ存在。通常であれば高位の魔術師さえ召喚は敵わない程の、まさに神に近しいモノだろうとも」
最奥にいる誰か。片眼鏡〈モノクル〉をかけた丸頭で肥満体型の男。体格までも丸っこいけれど顔立ちと身なりはまさに貴族を思わせる気品がある。以前にも貴族風の魔術師に遭遇はしたものの、風格で言うなら眼の前の男が数段上だ。魔術師としても……おそらく、そして。
「お前も……ガイアスの一員か」
「いかにも。吾輩の名はレルケン、代々オートマタの鋳造に心血を注いだ魔術師の一族、その当主である」
男の前には、青く蒼みがかった銀色の金属で象られた人型の存在、奴の言うオートマタが立っていた。人型機体のように大きくはなくサイズも人間大で、金属で形作られていても科学技術で作られたロボットの類とは違う、それよりも金属製の美しいオブジェがイメージとして近い。
一目で科学技術とは異なる何かで作られていると思わせる存在。その姿は人間と竜を合わせた存在、ファンタジー世界で言うなら『リザードマン』が全身金属の中世甲冑と一体化した姿だった。
(さっき通路を破壊した攻撃もあれの仕業か。だけどオートマタは僕ではなく、ランサーの方を狙った)
「また妙な敵が現れたわね。でも……あの一撃、ヘタするとサーヴァントに匹敵するかもだわ」
対して僕を守るように前に立つ、ランサーも戦闘態勢に入って呟く。
あの速度ならマスターである僕を狙った方が成功率が高いはず。オートマタはランサーに一撃を仕掛けて、彼女はそれを槍で防いだ。……けれどその衝撃で足場ごと通路は崩壊、下まで落ちて来たわけだ。
「さすがはサーヴァント。あの一撃を防ぐとは。英霊の魂を投影した最強種の使い魔なだけはある。
だが吾輩が完成させた美しく、そして最強。一族が研鑽したオートマタの究極系、アルビ・マキナはそれさえ上回る。数百年に渡り磨き上げた魔術人形の真髄を今……お目にかけよう!」
レルケンは指を鳴らした。それを合図にオートマタ、アルビ・マキナのバイザーが輝き、金属の体躯が動き出す。
一歩、二歩。確実に歩みを進める金属の竜人は、右腕を前に構えて剣状に変形させる。
「倒さなきゃ先に進めないって事ね。確かにオートマタみたいだけれど……厄介な相手だわ」
ランサーも武器を構えていた。後ろ姿からかすかに覗く彼女の表情には、僅かに怖気の色が。
それでも彼女はそれを振り払うように頭を振るとアルビ・マキナを鋭く睨む。そして一気に──。
瞬く間の動作。ゆっくりと迫っていたオートマタに先手を打つべくランサーは駆けた。僕から見て右斜に一直線、無防備に見えた左側面に狙いをつけて槍を薙いだ。
人間の業を超えた速く鋭い攻撃。人型機体が相手なら一瞬で両断出来る程の一撃だ。
──けれどオートマタは難なく受け止めた。長い尾を使い、ランサーの槍を受け止めて防いだんだ。
「尻尾も飾りじゃないってわけ! ──っ!?」
アルビ・マキナの右腕の剣の切っ先がランサーに向けられる。槍は尻尾に防がれて使えない、彼女は地面を蹴って距離を離そうとした。
十分に離れた距離、長い剣ではあるけれどその攻撃範囲からは間を取った状況。問題なく避けられたはずだった。
瞬間オートマタの剣先から一直線に放たれたのは、鋭い光筋──つまりビームだった。まさか剣そのものが光線銃のようにエネルギーを放ち武器にする飛び道具でもあるなんて僕も、ランサーまでも想定していない。
「がぁっ!?」
ビームはランサーの左肩を抉る。それでも、痛みを堪えながら両手は槍から離さずに構え直す。
「……くう、っ。そんな武器で仕掛けるなんて、たかが知れてるじゃない。悔しいなら直接かかって来たらどう? その剣が見掛け倒しじゃなければね」
「ふふ、ではお望み通りに。行くのだ! アルビ・マキナ!」
レルケンの言葉に呼応するように、オートマタの姿は一瞬で掻き消えた。
「えっ!?」
突然の消失に目を見開くランサー。けれどすぐに彼女の丁度背後に──剣を振り下ろそうとする影の姿が。
「──後ろだっ!」
僕は叫んだ。同時にランサーも槍の柄で背後を防御する。
鋭い金属の衝突音。高速で背後に回り込んだアルビ・マキナの一撃をギリギリで受け止めた。
「サーヴァント並の高速移動なんて! それにこの一撃も……重いっ!」
ランサーは攻撃を弾き返し即座に反撃を仕掛ける。もちろんオートマタも同様に仕掛ける。
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サーヴァントの槍とオートマタの剣、幾重にも飛び交う軌跡の数々。
「そこだアルビ・マキナ! お前の強さを証明してみせろ!」
戦いを観ている魔術師、レルケン。自身の傑作の戦いぶりを陶酔した様子で観ていた。俺も……ランサーの戦いに注意を向ける。
(一見互角……いや違う。ランサーが圧されつつある)
互いに一歩も譲らない戦い。けれどオートマタの機動性、スピードがランサーを上回っている。ついて行けていないわけではない。それでも、ギリギリついて行くのがやっとの状態だ。
そしてそれも……限界に近かった。
「こなくそっ!」
槍の突きを繰り出すランサー。確実に仕留めるつもりの一撃を容易に旋回回避、と同時にオートマタは左腕も右腕同様に剣状に変形させる。
(ここで両腕とも剣の展開か! まずいっ!?)
身体をコマのように回した勢いをつけての追撃。左腕の一撃目は受け止めても、続けて右腕の二撃目の勢いは耐えきれなかった。
今度は逆に弾かれて態勢を崩された。アルビ・マキナは逃す事なく両腕の剣で連撃を仕掛ける。
常人なら捉える事すら出来ない剣戟を一方的に浴びせられるランサー。レルケンと言う魔術師の言うように、舞うように剣を振るうアルビ・マキナの姿は美しくもあった。
美しくも、恐ろしいほどに強い。
「くそっ……ただのオートマタが、あり得ないわっ! かはっ!」
ランサーさえも態勢を整えられないままに剣の連撃を浴びせられる。防戦一方で、すべて受け止められずに身体の複数箇所に傷が生じる。
「このままじゃ、負ける。──冗談じゃないわよ!」
無茶をしてでも、彼女は反撃に出た。自身の尾を巨大化させて振るっての激突。アルビ・マキナの僅かな攻撃の合間をついて衝突させた。そして──。
「──!」
「これでフィナーレだわ!!」
槍の切っ先をオートマタの、丁度心臓の位置に狙いを定めた。
迷いは微塵もない。ランサーの槍は銀色の金属装甲を穿ち、突き刺す。
「やったわ! ──っ、これは!?」
突き刺して顕になった内部を見て、彼女は驚愕した。
それが致命的だった。生じた驚愕はそのまま隙を与えることになった。アルビ・マキナは脚でランサーを蹴り飛ばして叩き伏せる。
「……なるほど、どうりでサーヴァント並の強さが出せるわけだわ。オートマタの心臓、炉心に組み込んでいる『遺物』のおかげね」
胸装甲の裂け目から漏れ出す青い光。心臓のように輝きが変動するオートマタのコア。全く未知の技術で作られたそれの中心部には……化石のような欠片が。
コアを目にしているランサーに表情は怯えているようにも見えた。
「……アタシみたいな半端な竜種じゃない……あれは、竜種の中でも最高位に存在する────」
「さすが同じ竜の因子を持つサーヴァントなだけある、アルビ・マキナの対戦相手に選んで正解であったな。
ガイアスに協力したのも、アルビ・マキナを完全とするための『遺物』を手にするための交換条件に従ったまでの事。関係こそあくまで契約に過ぎぬがサーヴァントと戦い、打ち倒す事も悲願なのだ」
だが──。レルケンは傷を受けたアルビ・マキナに視線を向ける。
「吾輩が望むのは完膚なき勝利。サーヴァントを完全に上回るにはさらなる調整が必要だと分かった、吾輩はこれにて失礼させて頂こう」
アルビ・マキナも後方に跳躍して退き、彼の隣に立つ。
「このまま逃がすと思ってるのっ! 今なら倒せなくもないって言うのにっ!」
「君のマスターはガイアスに因縁があるのだろう? これ以上吾輩に時間を使うよりも、一刻も早く先に進むべきではないかね? ──間に合えばの話だが」
レルケンの言う通りだ。僕の本当に倒すべき敵はまだ先にいる。
「もういいランサー。こいつに構う余裕もない、急いで先に進む方が先決だ」
「それは……っ」
一瞬何か言いかけようとした。だけどすぐに口を閉ざした後、ぼそりと言う。
「……分かったわ。マスターの命令なら、従うわよ」
俺はレルケン、アルビ・マキナを置いて急ぎその場を後にする。
「行くといい、ランサーのマスターよ。次に相まみえる時こそ君のサーヴァントの最後になると保証しよう」
走り去る僕の背後からそんな言葉が聞こえた。けれど仇を追う今、どうでもいい言葉だ。