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タケルたちと分断されて俺は別ルートで研究施設の奥に急ぐ。
「邪魔者が立ち塞がるなでありますよ!」
狭い道で待ち受けていたガイアスの人型機体をセイバーが次々と斬り伏せて道を開ける。
(あれぐらいの敵ならセイバーの敵じゃない。けれど配置が嫌らしい)
道を塞ぐ障壁のように配置された機体。相手を倒す事よりも時間を稼ぐために用意された気がしてならない。
一刻も早く目標地点にたどり着かなければ。セイバーも同じ事を考えていた様子で。
「これじゃあ時間がかかり過ぎであります。……こうなったら!」
対ライダー戦で行ったように、自身の太刀をサーフボードに近い形に変形させる。セイバーいわく航行形態と言うものらしいが。
「時間なんてかけてられませんので一気に突破するでありますよ! 後ろに乗ってください主さま」
……まじかよ。あれに乗るなんて普通なら正気を疑う。ただ今は四の五の言っていられない、言われるままに不思議な力で床から数センチ浮遊しているボードに乗る。
体重がかかって僅かに沈む感触がしたものの、すぐにその分浮かび上がる。二人分乗っても大丈夫らしい。
「じゃあ行くでありますよ! 振り落とされないように掴まっていて下さい!」
俺とセイバーを乗せたボードは高速度で飛翔する。
「!!?」
あまりに速いスピード、強化した腕でセイバーに掴まっていなければ確実に振り落とされている程だ。左右に流れる景色も残像になってろくに見る事さえ出来ない。そして相変わらず阻む人型機体も……。
「いちいち雑魚を相手していられません! 多少無理してでも押し通りますっ!」
放たれる弾道も尽く回避して、立ち塞がる人型機体の合間を縫って突き進む。
猛スピードかつハチャメチャな機動。早く先に進められる一方で……俺の三半規管がめちゃくちゃになりそうだ。
「ゔぇ……っ、これは流石に……やばい」
「あともう少し我慢してください! ──後少しでっ!」
通路の先に出口と思われる光が見える。俺達を乗せたボードはその光に向けて一直線に飛び進む。
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光の先に到達すると、セイバーは航行形態を解除して太刀に戻す。
「ここが研究施設の奥──保管区でありますか。どうやらボク達の一番乗りでありますね」
たどり着いた空間を前にセイバーは呟くも。俺はその傍らでヘルメットを外してうずくまりながら……。
「おえっ! げほ……っ!」
あまりの気持ち悪さで胃の中のモノをゲロっていた。情けないマスターだとは思うが、セイバーのアレに比べたらジェットコースターでさえ公園の遊具みたいなものだ。
「ああっ! 申し訳ありません! 主さまに無理させてしまうなんて……」
「いや、いい。……それよりここは敵地の中だ。しっかりしていない俺が悪い」
ヘルメットを被り直して、俺は立ち上がって前に進む。
広い空間、研究施設で開発されたモノが置かれている保管区。
様々な機械、装置、コズミック・セントラルの新技術が区内に保管されている。当然、一つ一つが区内でも部屋が分けられているわけで、俺はハルに尋ねる。
「……目的地についた。試作炉心の場所は?」
彼女からの通信によれば、区内の更に奥の場所と言うことだ。
俺とセイバーは保管区内の広い通路を進む。
「静かだ。人型機体の姿も、ガイアスの人員の姿もない。俺達が一番乗りなのか」
「だったら……良かったでありますけど」
セイバーはとっくに気配を感じているのか、ぴりぴりとした空気を感じさせる。その答えは間もなく分かる事になる。
「お二人ともお疲れさま。褒めてあげよう、この僕が」
階段を降り、保管区下層の通路に降りた時だった。
奥にある一際大規模と思われる保管室の扉、その手前に人影があるのが見えた。……忘れるはずもない。赤と白の派手な髪に爛々とした瞳を持つ和装の快男子、サーヴァント・アーチャーだ。
「やはり待っていたのはお前ですか、アーチャー。……その左右のマネキンは新しい玩具でありますか?」
アーチャーの左右には人間大の物体がそれぞれ一体並んでいる。白と赤を基調にした色のマネキン人形……を鋭角的にしたデザインのアンドロイド。
アーチャーの護衛と言うように並び立つそれは、限りなく人間に近いハルと違いあまりにも機械、兵器の類と感じさせるもので、彼の武装の類であることを直感した。
「ふっ、サーヴァント以上のオートマタを作り出そうとする魔術師に会ってね。ちょっとした対抗心ってやつだ。
急造品のオートマタでアレには劣るが、性能はなかなかのものだと自負している」
「扉の向こうにマスターもいるのは分かっています、さっさと道を開けるでありますよ」
セイバーは強気でアーチャーに対峙する。彼はふっと瞳を閉じてから、涼し気な表情で鞘に収まっていた刀の柄に手をかける。
「この状況で『はいそうですか』と言わないのは分かっているだろ。これでも僕はサーヴァント、マスターを守りはするとも。
通りたければ実力で押し通って貰おうじゃないか!」
同時に鞘から僅かに抜かれた刀身が、きらりと光る。
明らかな戦意。セイバーはアーチャーが仕掛けるのを待たず正面から突撃した。
「弓兵〈アーチャー〉なんて接近戦で潰してしまえばっ!」
俊敏な加速と太刀を振っての一閃、常人ならまず反応できない。即座に一撃で仕留めうとしたセイバー。
──当然だ。アーチャーは明らかに食わせ物なサーヴァント。何を企んでいるか想像すらつかない。下手に何かされる前に倒し切る事が最適解だ。最もそれは失敗に終わったが。
「──くっ!」
太刀がアーチャーに届く寸前、左右それぞれの腕を針状に変形させたアンドロイド……いや、奴曰くオートマタが受け止めて防ぐ。
「なかなかに便利だろう、これは」
セイバーの攻撃を弾くと同時に、オートマタの守りは解かれて抜刀したアーチャーが居合を仕掛ける。
アーチャー──弓兵の名とは裏腹に流派の達人を思わせる剣筋。攻撃を弾かれたセイバーはとっさに左手で短刀を抜いて受け止める。
「エーテルの刃の短刀とは、面白いじゃないか。まるでSFのライトセーバーって奴だな」
飄々とした態度のまま、更に二閃、三閃と続けて太刀筋を浴びせる。
「剣筋は良いでありますね。生前はさぞ名のある剣士であったとお見受けします」
対してセイバーも刀で攻撃をことごとく捌き切る。
「──ですが! これでもセイバークラスでありますっ! 剣の腕ならボクが幾らか上、近接戦で負けるわけが」
「ああ。もちろんそうだとも」
そう言うやいなや、アーチャーはセイバーと距離を取る。同時に左右上方から放たれるビーム射撃。
「くうっ!」
セイバーもまた後退して避けた。間一髪で無傷であったものの、ビームが当たった床には深々と孔が穿かれていた。
恐ろしく貫通性の高いビーム、それを放ったのは先程のオートマタ。上半身を弓状に変形させ、両腕を弓柄のように開き、正面に向けた頭頂部には銃口が。
「……なんて威力の射撃でありますか」
「ふふ、僕のクラスがアーチャーだと忘れてもらっては困る。言うなれば二体のオートマタは持ち武器同然、簡単に倒せると思わないことだ」
そう話す間にオートマタの一体が真横に迫り、近接攻撃を仕掛ける。セイバーは避ける。しかしそれを予測していたように二体目のオートマタが射撃形態のままビームを放つ。
あの貫通力、恐らく相当なエネルギーを凝縮したもの。まともに防ぐのは難しい。
「同じものには、同じものでっ!」
セイバーは同じくビーム刃の短刀を振るって、オートマタの射撃を受け止める。エネルギーとエネルギーとの衝突。
「──っ! 方向さえ変えれば!」
防ぎ切る事は出来ない威力。セイバーの短刀はビームの方向をそらしただけに留まった。
それでも無傷で済んだ。だけれど……短刀を持つ左手と腕はびりびりと痺れているのが見えて。
「ひゅう! あれを防ぐとはやるねぇ。さすがセイバー……と言っても、その腕はブルブルだけども!」
再度の抜刀。アーチャーもまた攻撃に加わる。
セイバー対、アーチャー及びオートマタ二体との戦闘。
「僕に少しばかり有利で罪悪感を感じてしまうよ。逃げたければ逃げても構わないとも」
振るわれるアーチャーの刀。セイバーは右手に太刀、左手に短刀を持った二刀流で相手する。
「誰が逃げるか、でありますか!」
太刀でアーチャーの相手をしながら、更に攻撃を仕掛ける二体のオートマタを短刀でしのぐ。
刀と刀の切り合いをする横から腕を武器にし、時としてビーム射撃を繰り出すオートマタが同時攻撃をかける。それに応戦するための二刀流だけれど、はっきり言って三体の敵を相手に分が悪い。
「オートマタもっ……せめて一体だけであれば」
オートマタはアーチャーの支援機みたいなものだ。一体辺りの性能が高いのは俺でも分かる、最新式の戦闘アンドロイド並かそれ以上だろう。
それでも単体の戦闘能力はセイバーの方が数段勝っている。問題なのは二体のコンビネーションの合った連携攻撃だ。セイバーは厄介なオートマタを撃破しようと何度も試みていた。今も背後から仕掛けた攻撃を防がれた直後、態勢を崩して隙が出来たオートマタを倒そうと振り向きざまに太刀を振ろうとした。けれど片方のオートマタが割って入り防御する。その間に距離をとって可変、射撃形態となり一撃を放つ。
「くそ……っ、心底邪魔極まりない、であります」
肩を上下させて疲弊を見せるセイバー。呼吸も荒く、特にビーム短刀を握る左腕はだらりと下にさがっている。
(オートマタの射撃はすべて、同じくエネルギーで構成された短刀のビーム刃で方向を反らして防いでいた。だがあの出力のビームの軌道を無理に捻じ曲げるような真似……セイバーにとってもかなり負担がデカい)
あの様子、防げたとしても残り二、三回が限界だと見える。口には出さないがマスターとしてここは戦いを続けるか……撤退するか、決断する時だと考えている。
アーチャーはセイバーの目前に立ち、左右にオートマタを並ばせて得意げに腕を組んで見据える。
「ははっ! そりゃあ僕の発明の中ではそれなりのものだと自負しているからね。最も、一番のとっておきはこんなモノじゃない!」
「一番のとっておき……だと?」
今の言葉に俺も引っかかった。セイバーの表情もはっとしたものに変わっていた。アーチャーもそれに気づいたのかバツの悪い笑みを浮かべる。
「口が滑ってしまったか。まぁ構わないとも。知ったところでどうすることも出来ないし、いずれ分かることだ。
それよりどうする? こんな事は僕も無駄だと思うけれど、まだ続けるかい?」
「……」
セイバーは俯いて沈黙していた。
「戦意喪失ってやつか。まぁ構わないさ、僕の仕事はマスターの目的達成までの時間稼ぎ。
この様子だと達成はもう間もなくって所か。そうなれば──」
「──ふっ!」
突然笑い声をこぼしてセイバーは顔を上げる。見せた表情はギザっ歯を口元に浮かべた好戦的な笑み。
「ようやく勝ち筋が見えたのに、ここで引き下がるバカでないであります。
それに時間稼ぎって言うのでしたらグズグズしていられません! さっさとブッ殺してやるでありますよ、アーチャー!」
強気な態度。何か策があるのか……もしくは単なる無茶か無謀か。アーチャーも刀の切っ先をセイバーに向けて言った。
「面白い事を言うじゃあないか! ならかかって来なよ!」
セイバーはアーチャーに真正面から突っ込む。互いの刀身がぶつかり合う鋭い音が響く。
「ふん、相変わらずの攻撃だな。これじゃ拍子抜けだ」
剣戟を放ちながらアーチャーはつまらなそうに呟く。そしてオートマタが二体とも、射撃形態に変形して同時にセイバーに狙いを定めるのが見えた。
「僕をガッカリさせた罪は、重いとも」
ステップを踏んでアーチャーは距離を話す。それを合図と言うように、オートマタが左右二方向からビームを放つ。
「──これを待っていたのでありますよっ!」
姿勢を下げて、一射目を避ける。
一瞬で右手にビームの短刀を持ち替えて、居合の構えで一閃を放つ。狙ったのは二射目の攻撃。放たれたエネルギーを同じくエネルギーの刃で受け止め──別方向に弾く。
「まさかっ!」
真意を悟ったアーチャーは右斜め後方に視線を向けた。同時だった。その位置にいたオートマタの胴体をビームが一直線に貫いたのは。
(そう言うことか。同じくビーム……エネルギーの刀なら射撃の軌道を変化する事が出来た。つまり──)
それを応用して一方のビームを受け止め、別の位置にいたオートマタに命中するように弾いたと言うことだ。
弾かれたビームに貫かれ、オートマタの一体は倒れる。
「ボクが苦戦したのはサーヴァントと強力なオートマタ二体の連携があったからこそです。──そして! 連携が崩れてしまえば残り一体も!」
セイバーは残る一体のオートマタにも素早く投擲した。
それは自身が使っていたビーム短刀。刃が突き刺さったオートマタも機能を停止して崩れ落ちる。
「少し強力でも所詮オートマタ。まともに戦えばサーヴァントであるボクの敵じゃないであります。
さて、と。これでようやく一対一でありますね。今度はボクから言う番です──まだ続けるでありますか?」