Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第九節 復讐と妄執

 

 

「正確には二体一だわ、セイバー」

 

 後ろから声がした。そこには赤い竜少女のサーヴァント、ランサーの姿があった。激戦を潜ったのかあちこちに傷があって、その傍にはタケルの姿も。

 

「……」

 

 沈黙するタケル。一方セイバーはランサーに声をかける。

 

「その傷、まさか他のサーヴァントと戦っていたのでありますか?」

 

「いえ、魔術師の作ったオートマタとよ。けれど強さはサーヴァント並で、時間もかかってしまったわ。何せ──」

 

 ランサーは続けて何かを言おうとした。しかし余計な事だと思ったのか中断して、アーチャーの方に視線を向ける。

 

「アタシの事はいいわ、それよりもアーチャーよ。

 マスターは一刻も早くあの男の元に向かいたいみたいだし、阻むならここで叩きましょう。あの扉の向こうに居るんでしょ?」

 

 軽く手にした槍をぶんと振るい、タケルとランサーは前に進む。

 アーチャーには何も言うこともない。しかし邪魔をするなら容赦なくここで倒すと言う気迫が伝わる。

 

「……サーヴァント二体を、しかも僕にとって相性が悪い槍兵を相手取るなんてあまりにも分が悪い。

 それに時間もそろそろだ。ここは下がらせて貰う」

 

 アーチャーは扉がある後ろに数歩退きながら呟いた後、姿を消した。

 

「あいつ、霊体化して後ろの部屋に、マスターの所に戻ったでありますね」

 

「手間が省けるわ。アーチャーのマスターもろともここで仕留めるわ。──それが望みなのよね」

 

 ランサーはタケルに言う。あいつは覚悟が決まった鋭い目つきで、自分のサーヴァントにさえほとんど意に介さずに。

 

「当然だ。僕の仇、今まで奪って来た事の報いは受けさせる。

 ──邪魔な扉を破壊しろ、ランサー!」

 

 彼女は悲しげに目を伏せたように見えた。ただそれも一瞬、すぐに厳しい表情に変わると扉に迫り、禍々しい槍で跡形なく破壊する。

 

 

 

 

 

 先に部屋に入るランサーとタケル。俺とセイバーも後に続く。

 

「おい冗談だろ……これは」

 

 部屋にあったのは、常識を疑うような光景。

 奥に鎮座された直径約十メートルの幾何学模様が掘られた球体型の機械装置。俺にとって初めて見たモノだけれど、この保管室にある以上は間違いなく例の試作炉心だろう。

 それはまだいい。問題はその下の床に描かれた奇妙な円陣だ。時代錯誤の独特な模様が描かれた複雑な円陣……まるでファンタジーの魔法使いが使う『魔法陣』ってヤツじゃないか!?

 

「……結局ここまで連れて来おって、アーチャーも役立たずだったと見える」

 

 試作炉心の背後から姿を見せた仮面を被った老人、ガイアス総帥だ。

 

「サーヴァントには傷を与えていないでありますが、僕とランサーがいるこの状態で再び出してもすぐに返り討ちでありますよ。つまり、お前の負けであります!」

 

 セイバーはビシッと指をさして言う。俺もセイバーに合わせて言う。

 

「この魔法陣も……本当に魔術師だと言うのか。

 でも今はどうでもいい、何を企てているかは知らない。けれどすべてここまでだ」

 

 ここでこの男は止める。俺だって同じ気持ちだ。

 

「くくく、若いと言うのはかくも愚かなものか。

 儂を止めようと言うのか。だが準備は既に完了した。転移用の術式が為に用意した魔法陣は完成済みよ。後は詠唱さえしてしまえば儂はこの炉心もろとも拠点へと瞬間転移が叶う。これ以上追うことは不可能だぞ」

 

「言いたいことはそれだけか」

 

「タケル!?」

 

 タケルの手にはハルに渡された銃があった。

 本来は護身用としてのモノ。それでも威力は人型機体を仕留めるに十分な威力、人を相手に撃てばどうなるか想像に難くない。

 

「──どう言うつもり、タケル」

 

 彼の行動にランサーまでも態度が豹変して厳しい視線を向ける。自分のサーヴァントにまで責めるような目で見られてもあいつは全く気にしていない。

 ……と言うより今のタケルには彼女の存在さえ意識にすら入っていない。もちろん俺も、セイバーもことさえ眼中にない。ただ眼の前のガイアス総帥のみしか、あいつの考えにはない。

 

 

「無差別なテロ行為で奪って来た物、大勢の命……僕の家族の命も! お前の薄汚い命で償えっ!!」

 

「はっ、人の命など儂の崇高な目的の前には、くだらん。

 儂ら魔術師にとってはな、所詮命など目的達成の手段に過ぎんわ。必要であれば幾ら消費しようと構わん物だ」

 

 挑発、侮蔑にも取れる総帥の言葉。鬼気迫る表情のタケルは狙いを定めて、今すぐにでも引き金を引きかねない。

 そんなあいつに、意味深なスイッチを持つ右手を総帥は見せる。

 

「俗物ごときが儂を殺すつもりか? やってみせるがいい!

 だがな言っておくぞ、万一の保険として爆弾を仕掛けている。もし儂を害を成そうとするならば躊躇いもなく爆破しよう。炉心に誘爆すればこの施設すべてが吹き飛ぶことになるぞ。儂もお前も全員ここで死ぬ。俗物どもは命が大事なのだろう? ならば……手を引くがいい」

 

 明らかに人間を見下している様子で、総帥は余裕のある態度で言う。

 ただ爆弾の話は冗談じゃない。俺はここで死ぬのはまっぴら……。

 

「僕には失うものなんて、もう何もない。──命さえもいらない。お前さえ殺せるなら」

「おいタケルっ!」

 

 さすがに俺も黙っていられない。

 

「俺だって死ぬのは御免だし、お前だって……こんな所で死なせたくない! またチャンスはある。だから今は見逃してくれ!」

 

「……」

 

 俺の言葉さえも完全に無視している。いや、声さえ届いていないのか。

 タケルのやつ……明らかに異常だ。刺々しい殺気、何をしようと目の前の男を殺すことしか考えていない。

 

「ぐっ……ただの人間ごときが」

 

 その気迫は当の総帥さえも圧されるほどだ。

 一歩、後ろへと下がり、即座に何かの呪文を口にする。──これが魔術師の詠唱と言うものか。

 

「させはしないっ、ここで僕と一緒に──っ!」

 

 

 

 

 

 

 本気で引き金を引こうとした瞬間だった。

 ランサーはタケルの背後に移動し、首に手刀を当てた。言葉を発することなくあいつは昏倒して前に倒れようとする。

 

「……こんな事をするからよ」

 

 倒れる前に彼女はタケルの身体を抱きとめた。

 俺は安堵で息をこぼす。もしランサーが止めなければ俺もここで吹き飛んでいた、命拾いしたのは彼女のおかげだ。

 

「ありがとうランサー。タケルを止めてくれて」

 

「礼には及ばないわ。アタシもマスターを死なせるわけにはいかなかったもの。

 第一アタシが止めるのが後一瞬遅れていたら、代わりにアナタのセイバーがマスターを切り捨てていたのだから」

 

 ぎょっとして俺はセイバーを見た。

 

「気づいていたでありますか」

 

 セイバーは冷徹な表情で刀に手をかけていた。けれどその瞳には僅かに殺気の炎が残っている。ランサーがタケルを止めていなければ、本気であいつを……。

 

「貴方の大切な主さま、カナタまで巻き込もうとしたのですもの。怒るのも無理はないわね。

 ……マスターの仇も取り逃がしてしまった。無駄骨だったわね」

 

 ガイアス総帥の姿も消えていた。あの巨大な試作炉心もろとも、影も形もなく消失。後に残っていたのは床の魔法陣のみだった。

 

『お疲れ様でした、カナタさま。タケルさまの暴走は想定外でしたが……人間の感情はかくも激しいものなのですね、勉強になりました』

 

 ハルからの通信もヘルメットから聞こえる。状況が状況で連絡を取るのも久方ぶりだった。

 

『任務は失敗かもしれませんけれど、全くの収穫がなかったわけではありません。

 今は皆様が無事である事を喜びましょう』

 

 そうかもしれないが、どっと疲れが押し寄せてその場に座り込んでしまう。

 

「はぁ……本当に、死ぬかと思った」

 

「──主さま」

 

 セイバーは俺に真面目な様子で話しかける。

 

「ランサーのマスター、あんな奴と一緒に協力なんて止めにするであります。──ボクは完全に愛想が尽きました」

 

 そう言うとキッとランサーと、彼女に抱えられて気絶したままのタケルを睨む。

 

「ボクと主さまも聖杯戦争に慣れましたし、ここからはボク達だけで十分。ランサー陣営との強力は要りませんし、今回みたいな余計な危険を被るくらいなら同盟なんて捨てるべきです。

 主さまの答えを聞かせて欲しいであります」

 

『話は聞きました。ガイアスへの対処は強制ではありません。もし今後断ると言うのでしたら、私としては手痛いですが、構いません』

 

 ハルも俺に言う。気絶したタケルの代わりに責められているランサーも、両瞳を閉じてため息をつくと。

 

「同盟の破棄……確かに聖杯戦争で協力関係を結ぶこと自体、土台無理な話だったかもね。アタシはサーヴァントですもの、仕方ないマスターかもしれないけど最後まで協力するわ。

 だけどカナタ、アナタまで付き合う義理もない。断ると言うのなら止めはしないわよ」

 

 淡々とした様子の彼女。

 ……どうすればいい。復讐に囚われたタケルの様子、必要であれば俺を巻き込むことさえ厭わなかった。それにセイバーは憤り、ランサーは呆れていた。

 これ以上手を組むのはかえって危険、今手を切った方がいいと俺の理性も言っている。 

 

 

「悪いセイバー、ランサー。少し……考えさせて欲しい」

 

 

 けれど理性とは別の、感情では──。

 

 

 

 

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