Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第十四節 アサシンの消滅

 ────

 

 サーヴァント・アサシンの急襲。

 

「あはははっ! そんなボロボロの霊基で私を相手にするなんて、可愛いわ!」

 

 高笑いする彼女の正面、後方、両面同時に攻撃を仕掛けるセイバーとバーサーカー。

 アサシンは血液をムチのように固めて薙ぎ払う。

 

「くぅ──っ」

 

 背中に深手を置い、息を荒げながら太刀を持つセイバー。

 

「……二人がかりでも敵わないのか。傷に……魔力も使いすぎたか」

 

 バーサーカーも胸の傷口を抑えて、もう片方の手に剣を握っている。

 アサシンとの戦いで俺達はとっさに休戦し手を結んだ。セイバー、バーサーカーともに対抗すれば何とかなると思った。……それでも俺達の消耗、そしてアサシンの強さは想像以上だった。

 

 

「くそっ、セイバー戦で消耗していなければ……っ」

 

 自分の生命力に相当する魔力を送り続けたせいか立っているのさえおぼつかないアルス。俺だって魔力消耗が激しすぎてヘトヘトだ。

 

「この状況、どうするんだっ! 彼方!」

 

「俺のセイバーだってバーサーカーとの戦いで消耗はしている。とにかく今は協力して切り抜けるしかない。でないと俺達のサーヴァントは両方とも、ここで──」

 

 俺達は優雅に笑う仮面の死神と、そのマスターとして後ろに控える女性を睨む。

 

「しぶとく抗うあなた達も好きよ? もうすぐサーヴァントを失って絶望する様子を想像すると、ゾクゾクしてたまらないわ」

 

「貴女の趣味は理解に苦しみますね。ですが、二体のデータは十分に集めました。

 用は終わりましたので始末して構いません」

 

「──喜んで」

 

 ゆっくりと歩み寄るアサシン。

 今度こそ二人を仕留めるつもりだと思った。しかし……彼女は何かに気づいたように歩みを止めて他所を見た。

 そして一言。

 

「あらあら、まさかこんなサプライズを用意してくれるなんて」

 

 

 

 次の瞬間に飛来した真紅の一撃。

 

「絶望するのはアナタの方よ! アサシン!」

 

 アサシンは杖で攻撃を防ぐ。飛び退いて彼女の前に対峙するのはランサー、向こうにはタケルの姿もある。

 

「タケル! どうしてお前が?」

 

「……あの時は悪かった。許して欲しいとは言わないけれど、せめてもの償いとして君たちを助ける。

 ランサー、行けるか?」

 

 彼女はすでにアサシンとの一騎打ちに入っていた。

 

「もちろんよっ! 見てなさい、今度こそ引導を渡してやるんだから!」

 

 猛攻を仕掛けるランサー。アサシンは最初こそ圧されていたものの……。

 

「その程度なの? 魔力が足りていないのではなくて!」

 

 繰り出される槍技を杖で防ぎ、そのまま押し返す。

 間髪を入れず血液を凝固させた鋭い棘を放つ。ランサーの左肩を抉り深く傷をつけた。

 

「……ぐぅっ」

 

「何よ、貴女まで消耗しているじゃない。運がいいわ、まとめてここで──」

 

 アサシンが言葉を言い終わらないうちに、巨大な影が襲う。

 それは剣を振り下ろすバーサーカー。とっさに彼女は飛び退く。

 

「ちいっ……まだ戦えるって言うの」

 

「当然でありますっ!」

 

 同時にセイバーの放った短刀の投擲。そのエネルギーの刃はアサシンの脇腹に突き刺さる。

 

「──!?」

 

「はっ! ざまぁないわね……アサシン!」

 

 傷を受けてわずかによろめく彼女。苛立たしく身体に刺さる短刀を抜き、投げ捨てる。

 

「まずいですね、これは」

 

 顎に指を当て、思案を巡らせる様子のアサシンのマスターが呟く。

 

「アサシン、ここは撤退を勧めます。いくら満身創痍でも三体のサーヴァント相手では分が悪いですので」

 

 マスターとしての進言。……だがアサシンはくくくと笑い声を響かせると。

 

「冗談言わないで。せっかくサーヴァントを三体……いえ、あの小娘を仕留められる好機。この程度の傷で逃す手はないわ。

 戦いは私に任せたはず、マスター」

 

「……」

 

 アサシンのマスターはこれ以上言うことを諦めた様子で、両目を瞑り言った。

 

「そこまで言うのなら構いません。私は聖杯戦争そのものにはあまり関心はありませんので」

 

「──だそうよ。死にぞこない共、まとめて潰してあげるわ」

 

 手にする杖の先端に血液を渦のように纏わせ、浮かばせる。その殺気はこの場では傍観者でしかない俺に分かるほどに強烈。

 激戦が今、始まる。

 

 

 

 ────

 

セイバー、ランサー、バーサーカーの三人はただ一人、アサシンを相手にして戦う。

 血を自在に操り、武器として扱う彼女の強さは相当のもの。セイバー達は苦戦を強いられた。けれど次第に──。

 

「く……ぅ!」

 

 ランサーの斬撃を受けて腕を抑えるアサシン。

 いくら消耗してもサーヴァント三人の相手、最初は優勢だった彼女も今では追い詰められていた。

 

「ふふ……っ、泥臭いのは好きじゃないけど、アタシ達の粘り勝ちね」

 

 にやりと笑うランサー。ここまでアサシンを追い詰められたのも彼女がいたからだ。

 

(確かにランサーも消耗はしている。けれど深手を追ったセイバーとバーサーカーに比べればまだ戦える)

 

「せっかくアタイとバーサーカーが力を貸してやっているんだ! これぐらいは当然だぜ!」

 

 だからこその、ランサーをメインに二人は援護に回っての戦法。アルスも俺が言うまでもなくバーサーカーにサポートの指示を出した。

 

「主役を引き立てる良いバックダンサー、サンキューだわ」

 

「はぁ、後で覚えておくでありますよ」

 

「言っておくが仕方なくだ。体力って所も正直限界に近い。さっさと決着をつけてくれよ」

 

 三人の連帯も即席にしては上々だった。

 対して、アサシンは苦々しく吐き捨てる。

 

「虫の息だって言うのに、なんてしぶとさ……だわっ。……忌々しい」

 

「──アサシン」

 

 彼女のマスターは一言、はっきりと言う。

 それがどんな意味なのかは、アサシンは理解していた。

 

「……分かったわよ、ここが潮時と言うことね。──けれどねぇ!」

 

「!!」

 

 弾丸のように地を脚で突いた縮地。狙ったのはランサー、あまりにも突然だったこと、そして彼女の消耗も重なり反応が遅れた。

 左手に鋭利な爪として血液を纏わせ、彼女の胸、心臓の位置に向ける。

 

「せめて貴女だけは、ここで葬ってあげるわ!」

 

 ランサーも槍で刺し貫こうと動く。だが、多分コンマ一秒の差で爪先がランサーの身体を貫く方が早い。セイバー、バーサーカーも阻止に間に合わない。

 

 

 

 ──その直前、遠くから飛来した何かがアサシンの腕を斬った。

 

「これは……っ」

 

 驚くアサシン、彼女を傷つけたのは別方向からの風の刃。俺達とは別の何者かの攻撃だ。

 腕に負傷したことで攻撃が遅れる。これが彼女の運命を決定した。

 

「かはっ!」

 

 アサシンの身体を貫き伸びる、鮮血でなお赤く染まった槍先。逆に刺し貫かれたのは彼女の方だった。

 口から血を溢しながら攻撃が飛んできた方向に視線を移す。その先、遠くの崖上では一人の青年と、人形のように小柄な少女のような影が見えた。

 

「……キョウスケと、キャスターか?」

 

 夜と距離のせいではっきりとは分からないけれど、心あたりがあるのかタケルが呟くのが聞こえた。人影はすぐに崖の後ろへと下がり見えなくなる。

 更に別のサーヴァントとマスター。何を考えてか知らない、それでも助けてくれたのは確かだ。

 

 

 致命的な一撃を受けたアサシン。傷口からも多量の出血をしながらも、彼女は──。

 

「こんな……筈ではっ。……まぁ、いいわ。…………だって」

 

「……う……っ」

 

 ランサーもアサシンの貫手によって胸を突き刺されていた。

 

「──っ! ランサー!」

 

 タケルが動揺する。胸を穿かれ苦痛に歪んだ表情で睨むランサー。自身の命が消えゆこうとする中でさえ、アサシンは笑みを浮かべて。

 

「……ふふふ。このまま霊核を潰して道連れになんて、味気がないもの。

 怪物の分際でみっともなく足掻く貴女には…………死よりも残酷な絶望を与えてあげる」

 

 そう言うとともに左手をランサーから抜き、後ろへと下がる。

 アサシンの消滅はすでに始まっていた。身体が粒子に変わり消えゆく中で、最後に言い残す。

 

「忌まわしき鮮血魔嬢。その邪悪な本性のままに、狂乱に塗れるといいわ」

 

 

 

 彼女は完全に消失した。戦いは俺達の勝利、そのはずだった。

 

「……ぐっ、あ……ああっ!!」

 

 アサシンに穿かれた胸の傷を押さえて、ランサーは苦痛の声で呻く。

 

「くっ! その傷のせいか!」

 

 自分のサーヴァントに近づこうとするタケル。けれど、ランサーは背を向けて叫ぶ。

 

「近づかないでっ! 早く……にげ、なさい。アタシが、正気でいられるうちに……っ」

 

 そう言うと再び言葉にならない呻きに変わる。

 タケルも異質さを感じて歩みを止める。俺も少し離れた位置から様子を伺っていた。けれど同じサーヴァントであるセイバーは、よりランサーの変化を感じ取ったのか冷や汗を垂らす。

 

「ランサーの霊基が……変質し出している? 今までとは違う、ドロついた禍々しい魔力。……むしろこれこそが彼女本来の──」

 

 戸惑いを見せながらの言葉の最中、ランサーは急に呻くのを止めてキッと振り向いた。

 

「「!!」」

 

 狂気を孕んだ、光彩のない水色の瞳。俺達は確信した。あれはもう知っているランサーではないと。

 

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