Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第十六節 可哀想なひと

 ────

 

 邪魔……邪魔……っ、ジャマだわ!!

 

「鉄クズどもがっ!」

 

 一薙ぎで立ちふさがるガラクタ人形を粉砕する。

 

「アタシの邪魔をっ……」

 

 魔力を込めた血弾を放ち、金属のカトンボを堕とす。

 

「するんじゃないわ!!」

 

 行く手を邪魔する鉄クズをスクラップにするわ。

 いくら数が多くてもアタシにとってはザコよ、簡単に蹴散らせる。もっとも……。

 

「ちっ!」

 

 複数のドローンからの四方射撃。間近な大木を盾代わりにして避けて血弾で撃ち落とす。

 血を操る力。アサシンほどではないけれど、彼女の霊基を取り込んだことで少しは使えるようになったのよ。遠距離攻撃が出来るのは便利なものね。

 だけど、片腕に抱えている『コレ』を狙って来るのは忌々しい。

 

(アタシよりもマスターを仕留めようとするなんて、当然の戦術ね。……面倒だわ)

 

 ただのブタに過ぎないのに、何より忌々しいのはコレがアタシの存在に直結し、守らなければならないと言う事実。

 ……まぁ我慢してあげるわ。こんな『死に損ない』よりマシなブタを見つければいい。そうなれば用済みなのだから。

 

 

 

 鉄クズどもはあらかた片付けた。

 距離も大分進んだ。……向こうに見える無数の明かりに照らされる街、その眼の前まで。ふふっ、まるでアタシを出迎える王冠みたいじゃない。

 けれど一番の目的は、街に無数にいるであろう……ブタ〈人間〉ども。

 

(ふふふ、っ。あれだけの街なら腐る程……。若い生娘だって数え切れないくらいに)

 

 ああ、早く悲鳴を聞きたい。

 柔肌を切り裂いて、温かい血を浴びたい。思わず舌なめずりしてしまうわ。

 

(その血、魂は全てアタシへの捧げ物。だからこそ──)

 

 元よりサーヴァントの性質は魂喰い、街の人間の魂全てを魔力として取り込めば──アタシに敵はない。

 数多の屍と鮮血に彩られた玉座…………それこそアタシらしい、とても素敵だわ。

 

「ふっ、アハハハハハッ!!」

 

 心底愉快だわ。前のように無用な良心と理性から自由になれて最高の気分! そのはず──なのに。

 

「ッ……くうっ!」

 

 なのに、この頭痛は何なのよ。

 さっきからずっと、ズキズキと痛くてたまらない。頭の中が喰い破られるような不快で、悍ましい激痛。

 

「……何なのよ、っ。アタシの何が……悪いって言うの」

 

 この力を得る前、単なる矮小な存在の奴隷に過ぎなかった時にはあまり痛みはなかったって言うのに。

 忌々しく『タケル』と言う名の子ブタを睨む。

 

(こんなちっぽけな存在に従順だった……惨めなアタシ。──今のアタシの方が強大で、ブタなんかに従わない……より優れた存在なのにっ!)

 

「うう……っ! 冗談じゃ……ない」

 

 なのに頭が痛い。この苦しみ、心底腹立たしい。

 

「……いいわよ。ブタどもの悲鳴と、鮮血を浴びればこの痛みはマシになるはずよ。ふふ……ふっ」

 

 誰だっていい。一刻も早くこの槍で切り刻みたいわ。

 ──誰だろうと。

 

 

 

「タケルを離してもらう、ランサー」

 

 誰かがアタシに声を掛けた。

 それに気づいた時、思わず笑みがこぼれてしまうわ。

 

「くくく、生贄のブタが一匹、ノコノコ来てくれるなんて嬉しいわ。

 今からそのハラワタを引き摺り出して、無様な叫びと生暖かいモノを味わってやる。──そうすれば、アタシも」

 

 姿を現したのは根暗な顔をした若いオスブタ。オスは趣味じゃないけれど、この際どうでもいいわ。早速その血を浴びてやる。

 アタシはブタに迫ろうとした。けれどその隣にいた存在に気づいて、一旦足を止めた。

 

「へぇ。貴方もマスターと言うわけ」

 

 隣にいるサーヴァントの姿と、右手の甲に見える『残り一画』の令呪。

 珍しい、少女人形の霊基なんて変わっているわね。 何のサーヴァントかは知らないけれど……

 

「そんな矮小な霊基で挑もうって言うの。ふっ、可愛いものね」

 

 けれど大した相手ではないわ。あんな木偶、ジャンクにするのに一分もいらない。

 

「ごめんキャスター。僕の我儘に付き合わせて」

 

「──そんなこと気にしなくていいわ。大切な読者を守りたい気持ち、素敵だもの」

 

 キャスターは自身のマスターに声をかけた後、アタシの方を見た。

 

「ねぇ、あなたが抱えているその子を開放してくれないかしら。

 マスターの物語を好きでいてくれたひと、無事に帰してあげたいの」

 

 はっ! コレはアタシが現界しておくために必要なモノよ。

 自由になんてさせるわけないじゃない!

 

 

 先にサーヴァントを仕留めてあげる。

 アタシは抱えていたブタを投げ捨てて、キャスターに迫り一薙を放つ。これ以上ゴチャゴチャと聞いてられないわ!

 

「……戦うしかないのなら」

 攻撃はあのちっぽけな身体に命中した……はずだった。

 

「ちっ!」

 

 けれどキャスターの身体と思っていたものは霞のように掻き消えた。──幻覚!?

 同時に左真上から風刃が飛び迫る。そんなチャチな攻撃なんて!

 アタシは簡単に弾き消すわ。

 

「そんな攻撃でアタシを倒せるとでも──」

 

 その最中、右足に違和感を覚えた。

 

「アタシの足を……っ」

 

 足元が地面ごと凍結されていた。

 してやられたって言うの。まさか今の攻撃の目的は──。

 

「しまった!?」

 

 さっき放り捨てたアタシのブタはっ……! 

 

「気を失っているだけか。──安心した」

 

 キャスターのマスターが奪い抱きかかえていた。

 そう言うこと。最初から彼女の攻撃はアタシへの気をそらす事と、足止め。本命はマスターの動きにあった。たかがブタ一匹なんて眼中になかった、痛恨のミスだわ。

 

「ブタ風情がっ、ソレはアタシのものよっ! 今すぐ返しなさい!」

 

 けれどアタシのマスターを抱えたまま、背を向けて逃げ出そうとした。

 

「馬鹿めッ!! 逃げられるわけないじゃない!」

 

 掌を向け、逃げようとするブタに血弾を放つ。

 逃げようとした罰よ。これでズタズタになればいいわ。

 

「させないわ!」

 

 お邪魔虫ねっ! キャスターは風の防壁を形成して攻撃を阻んで来たわ。

 

「マスターを追わせはしないわ。あなたは私が相手をしてあげる」

 

 空気中の水分を集めて冷却化、今度は宙に多数の氷弾を生み出してアタシに放つ。

 槍で攻撃を防ぐけれど……柄や槍先に衝突した氷弾は砕け、冷気とともの張り付くわ。足元を氷漬けにしたのもこのせいって訳。

 

「邪魔……くさいわねっ」

 

 アタシの武器も、そして弾ききれなかった弾で身体が徐々に氷漬けにされていく。でも──それくらいで。止められるわけないじゃない!

 

「この程度!」

 

 全身からの強力な魔力放出で身体を覆っていた氷を砕く。そしてキャスターが対応するよりも早く迫り、腕を伸ばす。

 

「──うっ」

 

 細い首を鷲掴みにして、嗜虐的な感情が湧き上がる。

 

「このまま首ごと引き抜いてあげるわ。ふふふ、さぞ良い光景が見られるでしょうね」

 

「甘いわ、竜のお嬢さま」

 

 瞬間、直感でアタシは手を離して退いた。

 同時にキャスターが放った斬撃が空を切る。あと一瞬遅れていたら逆にアタシの胴体が裂かれていたわ。

 

「残念。本体なら非力だと油断させた騙し討ち、失敗するなんて」

 

 その手に握っていたのは氷のナイフ。確かに半分は油断していたわ。

 

「ちっぽけな木偶サーヴァントの分際で……!」

 

 

 

 

 ここからは少し本気で行くわ。アタシは槍を構え直して追撃を繰り出す。

 ちっぽけな姿のキャスター。けれど意外とやるみたいで、それなりに渡り合ってみせてくれるわ。

 でも……もう底は見えているのよ。

 

「キャスターっ!」

 

 槍の切り払いを避けて上空に浮かぶキャスター。

 

「ふふ。とっておきを見せてあげる、ランサー」

 

 空気を固めた風の刃……いえ、より凝縮して強度を上げたそれは、風の槍とも呼べる代物だわ。随分とナメた真似をしてくれるじゃない。

 

「槍使いに槍で対抗するなんてね、面白い!」

 

 翼を生やしてキャスターに向けて翔び迫るアタシに、キャスターは生成した風の槍を撃ち放つ。槍には槍だわ。アタシの槍で全てへし折ってあげる!

 多少強度を上げても魔術師の小手先に過ぎないのよ。

 

「この程度でアタシを止めようだなんて──やっぱり甘いわ!」

 

 キャスターはすぐ目の前。アタシは強烈な一閃をお見舞いするわ。

 

「!!」

 

 胴体に傷を負った彼女は下に落下する。

 アタシも空中から着地して、起き上がろうとするキャスターをフッと嘲笑してみせた。

 

「これがアナタの限界だわ、木偶人形」

 

 傷を負ったのにまだ立ち上がって、無様ね。

 

「私は……まだ倒れない。……マスターのためにも、あと少しは」

 

 何よ、それ。

 

「意味がわからないわ。たかがブタのため、誰かのために何でそこまでするの。

 誰だって自分は一番じゃない、他者なんて全て己が満ち足りるための贄に過ぎない。それなのに」

 

「……可哀想な人ね、ランサー」

 

「はぁ!?」

 

 可哀想……このアタシが? 

 

「物語だけでは物語として完成しない。物語は読んでくれる人、読者がいてくれるから物語として存在するの。私もマスターもそれを知っているから、今あなたと戦っているのよ。

 誰かを必要とするのはきっと人も同じだわ、だから人は人を大切に出来るの。……時には自分をなげうってでも。前のあなたなら分かっていたはず。だから──」

 

 

 キャスターを中心にして周囲の空間が置き換わる。

 白い地面と黒い空の何も無い空間、キャスターの固有結界ね。

 

「変わり果ててしまったのなら、何としてもあなたを止めてみせる。

 わたしのマスターも、マスターの物語を好きでいてくれた読者も、傷つけたりなんてさせない」

 

 術者以外の現実性そのものを奪い、最後には消滅させる固有結界。前のアタシには成すすべもなかった。

 

「みすぼらしい固有結界、やっぱり使って来たわね」

 

 だけどそれは以前の話。今のアタシには前までにはない力がある。

 

「可哀想。アタシにそう言ったわよね」

 

 ふざけた事を言って、お説教までして来たキャスター。

 ……頭痛がする。とっても……イライラするわね!

 

「人形の分際でこのアタシに、チェイテの女領主であるエリザベート・バートリーに口答えするなんて。

 ──無礼者には身の程を教えてあげるわ」

 

 見せてあげるわキャスター、このアタシのさらなる力を。

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