────
どれだけ意識を失っていたのかはわからない。
けれど目を覚ました今、僕は誰かの背負われていることに気づく。
「……意識が戻ったのか」
僕を背負って運ぶ誰かが振り向く。その顔には見覚えがある。
「キョウスケさん? 貴方が、どうして?」
「覚えてないのか。アサシンとの戦いで君のサーヴァント、ランサーはおかしくなった。
君を気絶させて連れて行こうとしたのを僕とキャスターが救出した。あのままでは何をされるか分からなかった、だから」
僕も覚えている。ランサーのその変貌と狂気は。
(ランサーがおかしくなった……か)
彼はそう言ったけれど、実際は違う。
彼女の真名、元になった過去の人物。『あれ』がランサーと言う英霊の本来の性質だと、僕は知っている。
彼女は今まで僕のサーヴァントとして戦ってくれた。望む願いが叶えられる報酬、聖杯のためではなく、僕個人の復讐を果たす存在として。
ランサーにとって何の対価もない戦い。それでも力を貸してくれた理由は……罪滅ぼしの為。
英霊として刻まれた罪、『怪物』としての汚名。決して消えることのない罪過、無意味だとしても彼女は自分の宿命に抗おうとしていた。
(本当はずっと前から気づいていた。なのに、僕はランサーの気持ちを無視し続けていた)
一度でも、たった一度でも話していれば。ランサーもあんな事にならなかったかもしれない。
僕は家族の復讐の為に全てなげうって来た。今更自分の命さえ惜しくない、彼女も目的の為の道具としてしか考えていなかった。
「僕は……」
それはただ復讐に呑まれていたに過ぎなかった。
例え大切なものを奪われて──もう、自分の命さえ限られていたとしても、ただ復讐に堕ちればただの外道だ。
あの時彼方を、他人さえ巻き込もうとし手段を選ぼうともしなかった。そんな人間は…………それこそ。
「……だから、ランサーは力を貸してくれたのか」
本当に今更だった。
僕はキョウスケの背から自力で降りた。
「タケル!?」
意識を失っていただけに過ぎない、今ならすぐにでも引き返せる。
僕は目指す先に駆け出そうとした瞬間……キョウスケが手を掴んで制止する。
「駄目だ。君のサーヴァントはもう前までとは違う。もし戻れば、今度こそ」
危険な事は分かっている。
「それでもランサーに会いたい。彼女を『怪物』になんてさせたくはない」
彼は手を離さずに僕を見据える。何かを思う所があるように沈黙した後、ようやく手を離して言った。
「止めても無駄なのか」
「ああ。ランサーの事はマスターである僕の問題だ、彼女に説得を試すくらいの資格はある。──もし本当に言葉が通じなければ、令呪で」
僕は自分の右手に刻まれた令呪に目を向けた。サーヴァントへの絶対的命令の行使権、これでランサーを自害させられる。
最後の手段。けれど、僕が知っている彼女ならそれを望むはずだ。
「分かった。なら僕も同行しよう。
……僕もキャスターを残して来た。手遅れかもしれないけれど、せめて確かめたい」
彼もまた、自分のサーヴァントを気にかけていた。
僕も断る理由はない。キョウスケとともに来た道を引き返す。
進む先の遠くから聞こえる戦闘音。
──戦いはまだ終わってはいない。