「ははっ、バレてしまったのなら仕方がない!」
「「!!」」
声がした方向……倒壊した建物の真上に立つ二人。セイバー、ランサーはそれぞれ武器を構える。
「ここまで追って来るとは、さすがじゃないか。執念は褒めてやるとも……この僕が」
そう話すのは二人の内、赤と濃紺と白が交じった、後ろに束ねた派手な長髪の青年だった。
胸元が大きく開いた、袖と袴の長い、左肩に派手な龍の模様が目立つ白い和服を着た……一見頭の良さそうな優男に見えるが、野心に燃える真紅の瞳を持つ男。そして──。
「……アーチャー、貴様が勝手に単独行動を行った結果だ。他のサーヴァントを呼び寄せるとは、無能な奴め」
もう一人、赤黒いマントとフードで身体を覆い、白と灰色の組み合わさった仮面で顔を隠す謎の人物。姿は分からないが声の感じからして、恐らくそれなりに高齢な男性だと思う。
「それくらい許して貰いたいものだね。今度の聖杯戦争、ある意味特異な物だとは言えせっかく現界出来たんだ。俺が生きた世と異なる時代、世界、気ままに観てまわりたいのさ。
いくら僕がサーヴァントだろうとも、四六時中マスターの傍にいなければならないだなんて……つまらん」
「おのれ……っ」
苛立ちを覚えるかのような仮面の男の声。その時、俺の傍にいたランサーのマスター……パーカー着の少年が前に出て詰問する。
「お前が……『ガイアス』の総帥か!」
ガイアス、母なる地球と自然への帰化を唱えテロを行う危険組織で、今の惨状を引き起こした存在。そのトップには『総帥』と呼ばれる人物がいると……聞いたことはあるけれど。
さっきまでの陰気さは掻き消え、内心に隠していた激情をむき出しにするような彼の叫び。仮面の男もそれに反応し仮面の顔を向ける。
「何者かは知らないが、どうやら君たちもマスターのようだな。それに免じて特別に答えよう。
いかにも。人類を母なる大地に、あるべき場所へと導く使命を受けガイアスを組織し、総帥の座にあるのはこの儂だ。そして──」
仮面の男──ガイアスの総帥は右腕を伸ばし、手に付けていた黒い革の手袋を外す。
「──サーヴァント・アーチャーのマスターである」
手袋を外した手の甲には、少年と同じあの赤いアザがあった。けれど、模様は別の✕の字を三画に分けた模様で、それに……妙な所がもう一つ。
(手の肌はやや浅黒い。けれど、僅かに見える付け根からの腕先の肌は……白くて皺が目立つ。これって……)
少年も同じ事に気づいたらしく、総帥に問い詰めた。
「その手は、他の人間から奪ったのか!?」
「その通り。儂は貴様らのように、『あの男』が模造した聖杯戦争に駒として用意された、魔力に秀でただけの一般人とは違う。
儂こそ真の聖杯戦争を知る正真正銘、この世界に僅かしか残っていない本物の……魔術師なのだ。他者よりマスターの権限を奪い自らに与えるなど造作もない。
大義のための、必要な犠牲だ」
「──はははっ!」
ここまでの話を聞いて、俺はから笑いの声が出てしまう。
「何がおかしい? セイバーのマスター」
「何もかも俺は分からないことに巻き込まれてばかりだった。けれど、魔術師だって!?
科学技術が発達して人が他の惑星にまで行けるようになったって言うのに、そんな迷信めいた事を本気で言っているのかよ。──どうかしている!」
つい言葉に出た本心。
「……主さま」
「信じられないのは、まぁ当然よね」
セイバーとランサーは俺に同情するような視線を向ける。
(くそっ! 何なんだよ……俺ばかり何も知らないみたいじゃないか)
対して少年は俺の事さえ眼中にない。あの仮面の、ガイアス総裁のみを睨み身構えている。感情に呼応するように……右手のアザも強く輝いていた。
「大義……だって?
ふざけるな、そのためにお前はどれだけの人間を犠牲にして来た! その償いを今ここで受けさせる! ──ランサー!」
「……分かったわ!」
ランサーは彼の呼びかけに呼応するように、アーチャー……いや、そのマスターである総裁を狙って迫る。俺は思わず叫んだ!
「おいっ! 相手は人間だぞっ!?」
「この男だけは別よっ! マスターに代わって──アタシがっ!」
その槍で総裁の身体を刺し貫こうとした……その間際だった。
「──悪いね」
「!!」
アーチャーの呟き。瞬間ランサーの右側面の方向から放たれた砲弾が直撃して爆発──瓦礫の山に吹き飛ばされる。
「ランサー!」
「そっちにも事情はあるようだけれど、僕には僕の事情ってのがある。だから……マスターを殺られるわけにはいかない」
砲弾が飛んで来た方角、そこには……腕の砲口から煙を上げる人型機体RMG−88が。ランサーが戦った七体の内、見逃していた残り一体。伏兵として潜ませていたのか。
「愚かな奴らめ。所詮はただの俗人に過ぎぬか」
「……お前っ!」
今度は少年自身が向かって行きそうな勢いだった。……けれど瓦礫の山から、槍で身体を支えてランサーは立ち上がる。
人型機体のキャノン砲を直撃したはずなのに、五体とも無事な姿。ただ、多少のダメージは受けているようで……彼女は自身のマスターに言う。
「マスターが出る必要は、ないわ。戦うのは……アタシの役目、ですもの」
その様子を上からアーチャーとそのマスター、ガイアス総帥が眺める。
「ランサー、そして新たなサーヴァントとそれらのマスター。どのような物かと観には来たが……とんだ期待だな。
戻るぞ、アーチャー」
「待てっ! 逃げるのか!!」
少年の激昂にも意に介すことなく、総帥は俺達に背を向け……そしてアーチャーに告げる。
「これ以上阻まれるのも、面倒だ。貴様の力を奴らに思い知らせてやれ」
「──いいとも」
先程ランサーに攻撃した最後のRMG−88がアーチャーの傍に移動する。彼は右手で機体に触れ……俺達に言う。
「例え旧式の装備だろうと最先端の武装へと改変可能な僕の能力。科学が発達した時代において最強の力を、今堪能させてやろうじゃないか」
その言葉とともにRMG−88の機体は膨らむように変形し、大型化……左手のキャノン砲も形態変化して、もっと別の武装へと姿を変える。
「さぁ──どうする? この時代最新の武器とサーヴァントの力、どちらが上か……面白いと思わないか」
さっきまで三メートルだった機体は五メートルの大きさにまで大型化して、胸には赤く輝くAエナジー動力コアが盛り上がってむき出しになる。通常は青い光を放つAエナジー。けれどエネルギーの転換の違いによって、輝きは変化を起こす。
赤い輝きの多くはAエナジーを兵器目的にした転換過程で起こるもの。そして赤いAエナジーの輝きは胴体のコアから伸びる四本のケーブルを伝達し……左の武器腕に繋がっている。その武装は──。
「あれは、高圧縮Aエナジー砲! あんな武器を……本当に形成するなんて」
ケーブルに繋がった六角形型をした独特のジェネレーターと太い砲口部、あれはコズミック・セントラルの開発した、文字通りAエナジーを高圧縮したエネルギーを撃ち出す……最新の武器。
ただ、この世界では二十年前を最後に戦争は起こってはいない。この高圧縮Aエナジー砲の本来の用途は宇宙航行を阻むスペースデブリ、小惑星の破壊。
本当は武器ですらない平和利用の道具。だけれど、その破壊力は一撃で辺りをクレーターと化すほどの威力。当然──俺達まとめて簡単に消し飛ぶ。
「あの武器はさすがに……まずいです」
俺の傍にいたセイバーも危険を察したのか、俺の前に出て厳しい表情を見せる。
RMG−88の高圧縮Aエナジー砲はエネルギーの充填を始めている。セイバーは考えを巡らせるように呟く。
「それに動力炉も意図的に暴走させているみたいで、破壊しても爆発するかも。主さまを安全圏まで逃がすとしても……間に合うか」
「──なら、相殺すればいいじゃない。アタシたち二人の力で」
「ランサー!?」
セイバーの近くに、槍を握る赤い角の少女……ランサーが来て言った。
「確かにあの武器は凄いかもしれないけど、サーヴァント二人分の力ならどうにかなると思わない?」
「……分かったであります。主さまを守るために力を貸して貰うでありますよ」
二人は高圧縮Aエナジー砲の砲口を前に、槍と太刀をそれぞれ構えた。エネルギーは既に充填が完了している。ジェネレーターの赤熱した輝きは砲口部に伝達し、そして──砲口からAエナジーを破壊的エネルギーに変換した大口径のビームが放たれる。
「来るわよっ!!」
迫る巨大ビーム、セイバーとランサーは二人がかりで受け止めた。エネルギーの塊を近接武器を持った生身で。当然あり得ない光景ではあるけど、立て続けにそんな事ばかりでもう受け入れるしかない。
「ぐっ! かなり厳しいです」
エネルギーを互いの武器を盾にして防ぐ。けれど、威力に圧されてじりじりと後ろへと下がる。
「頑張るしかないわっ! 貴方だってマスターを守りたいでしょ!?」
「主さま……っ」
瞬間、セイバーは太刀の柄を強く握り、刀身後方に内蔵されたブースターユニットを起動。青い粒子状のエネルギーが一気に放出される。
「また主さまに直接会えたから。こんな所で……負けないでありますっ!!」
蒼く大きな太刀筋と、紅く鋭い槍の一閃が──空間を裂いた。
セイバーの機械太刀によるブースト斬りと、ランサーの渾身の薙ぎ払い。その合わせ技は大口径ビームを弾き飛ばし、高圧縮Aエナジー砲を装備した強化型RMG−88は自分で放ったエネルギーに巻き込まれて跡形もなく消し飛んだ。
「……これが貴方の力と言うわけね、意外とやるじゃない」
ランサーは素っ気なさげにセイバーを見る。けれど、すぐに視線を外して辺りの様子を確認する。
「アーチャー達は……もういないわ。目的はアタシ達の足止めもあったと言うわけね。……ごめんなさい、マスター」
「──くっ!」
彼女からの言葉にマスターの少年は唇を噛む。けれどすぐに気を取り直すと、俺達を無視してランサーの元へと向かう。
「ならここに用はない。じきに人も来る、この場は引き上げよう」
ランサーも頷いて応える。二人はこの場から去ろうとする……それに俺は。
「おいっ! 詳しい事まで教えろとは言わない。けれど、せめて名前くらいは言っても良いだろ!?
俺は彼方……
せめて名前くらいは知ろうと呼び止める。少年は少し無言のままでいた後、一言呟く。
「……タケル」
それだけ言い残して少年とランサーは──去って行った。
────
瓦礫と残骸の中に取り残された僕と、セイバー。
「何だったんだ、一体」
さっきまでの騒ぎが嘘だったかのような静けさ。けれど戦いの後に遺った多数の人型機体の残骸が、今までの事は決して夢なんかではないと思い知らされる。
「主さまの混乱する気持ち……ボクにも分かります」
訳が分からないでいる俺を気にかけるセイバー。俺は横目で視線を向けて、呟く。
「お前の方こそ……何なんだ。人型機体と対等以上に戦える力。人と同じ姿をしていても人間じゃあない、サーヴァントと言う謎の存在なんだろ?
同じサーヴァントのランサー、それにアーチャーとの関係は? マスター、聖杯戦争と言うのは何なんだ? 俺を主だと言うなら今すぐにでも教えてくれ」
「それは……えっと、どこから話せば……」
「いいから早く話──」
俺が更に問い詰めようとしたその時、突然セイバーがふらついて前に倒れ込む。地面に倒れる前にその細身の身体を支える。重さも少し軽いくらいで人の体重と変わらない。
「……大丈夫か!?」
「すみま、せん。さっきの戦いで魔力を使い過ぎ……ました」
セイバーは意識も朦朧としている様子で。言葉さえもおぼつかないでいた。
「……でも、主さまを……守れて、良かった……」
「セイバー!?」
そう言うとセイバーは完全に意識を失った。
俺は身体を抱いたまま運んで、丁度良さそうな瓦礫に横に寝かせる。
(意識を失っただけみたいだ……けれど。)
魔力を消耗したと言っていたけれど、どうすればいいか分からない。自然に回復すれば良いけれど……もしそうでないのなら。誰かがじきにここに来るかもしれない、この状況を説明する自信すらもない。どうすればいいのか分からなくなっていた、その時。
「どうやら、お困りのようですね」
俺にかけられた別の声。
声の主はランサーと少年に出会う直前に助けた、スーツを着た黒髪、左目隠れの眠たそうにしている女性。正直色々ありすぎて存在さえ忘れていた。
「……お前は!」
「ソラカミ・カナタ様。イレギュラータイプのAエナジー人型構成体……『サーヴァント』のマスター。貴方が知りたい事は、私が代わりに答えましょう。
……心配なく。会場外を警戒中の部隊にも手は回しています。ここに誰も来ることはありませんので、落ち着いてお話ができますよ」
丁寧な口調で言う女性。俺は彼に言う。
「その右目、間近で見て気づいたけれど、本物の目ではなくて……そっくりに出来た精巧なセンサー機器だった。
それに人間とも違う、無機質な雰囲気も感じていた。お前も人間ではない──ヒトに近い形で作られた、アンドロイドだろ?」
彼女の右半分の顔から覗く赤い瞳。一見すれば人のそれを思わせるものだけれど、よく見ると瞳はまるで高性能カメラのように、人工的なレンズが稼働して拡大、縮小するのが見て取れる。
「はい。私の身体は人類のような有機体ではなく、金属、カーボンでヒトの外観に限りなく模造された、貴方の言うようにアンドロイドと言う存在でしょう。
──同時に」
女性の姿をした機械、アンドロイドは俺達に告げた。
「私はゲームマスター、アマハラ・ギンセイさまが管理する対戦式高次エネルギー収集プログラム──通称『聖杯戦争』の監督官、ハル。
人類の未来の為に貴方と、そしてイレギュラーにも協力をお願いします」