Fate/Cosmic Light   作:双子烏丸

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第十九節 分離作戦

 

 ランサーは確かに強大だった。

 

「全然無駄だって分からないのっ!」

 

 繰り出す槍の攻勢はセイバーを上回る。

 更に続けてバーサーカーが繰り出す拳。彼女も竜化した拳で受け止める。

 

「この程度の力でバーサーカー? 冗談でしょ」

 

 拳の一撃で彼さえも圧し返す。霊器強化されたランサーは明らかに強い。

 

「くっ!?」

 

 隙をついて彼女本体に一太刀浴びせようとしても、即座に一部を竜化した鱗で防御する。

 セイバーとバーサーカー、二人がかりの戦いでも傷一つ与えられない。俺達も万全ではないと言え、その差はあまりにも大きかった。

 

「また防がれるなんて、反則です……っ!」

 

 再度仕掛けた攻撃を防がれたセイバー。ランサーは……。

 

「今度こそミンチにしてあげる! その綺麗な面をね!」

 

 即座に変化させた竜の左手でセイバーの頭部ごと握りつぶそうと迫る。──が。

 

「させねえって、嬢ちゃん」

 

 その真横から黒く大きな影、バーサーカーが飛び蹴りをかます。

 ランサーは防御に切り替え手の甲で防ぐ。

 

「レディに蹴りをかますなんて野蛮ね。原始人のサーヴァントなの?」

 

「言ってくれるじゃねぇか。まっ、小娘の憎まれ口ってことで聞き流してやるぜ」

 

 続けて剣を首筋を狙って振るう。流石に防御が厳しいのかランサーは身体をそらして避けたけれど、頬に刃がかすり傷がつく。

 

「よくも……アタシに傷を。しかも顔にっ!?」

 

 ランサーとの戦闘の中で初めてつけた僅かな傷。それでも精神面では違う。

 

「お前っ!!」

 

 瞬間右足を竜化させて、今度は彼女が強烈な回し蹴りを放つ。

 躱しきれず一撃を受けたバーサーカーは俺達の方に飛ばされる。俺達マスター三人と、サーヴァント二人。これでまとまった位置に集まってしまう。

 

「もうウンザリだわ。サーヴァントも、三匹の人間(ブタ)もまとめて串刺しにしてあげる!」

 

 ランサーは血を周囲に散布する。

 空中に舞った血は多数の槍に形成されて、宙に浮かぶその切っ先は……俺達に。

 

「──まじぃ! マスター!」

 

「ボクが守ります!」

 

 射程距離には俺達がいる。セイバーとバーサーカーは前に出て剣と短刀を構える。

 

「貫きなさい! 血槍(ブラッドランス)!」

 

 一斉に射出される血の槍。迫るその一撃一撃をサーヴァント達は己の武器で防ぐ。

 マスターを守るために飛来する槍を次々と弾いて無効化する。強力な攻撃ではあった、飛来する幾つもの朱い槍を二人の交叉する剣筋が阻み、全てを防ぎ切った。

 

「はぁ……っ、やったであります」

 

 ランサーの攻勢を辛うじて防ぎ切った。セイバー、バーサーカーも大きく消耗しているのが見て分かる。

 

「ははっ、結構魔力を使っちまったな。──だがよ」

 

 そう言ってバーサーカーが見据えるのは、二人以上に疲弊した表情で、息を吐き出すランサーの姿。

 

「……くっ」

 

「私のアサシンの霊基を取り込んで強化されたと言っても、限りある魔力を消費し続ければ当然です。今なら有効打も与えられるはず!」

 

 早速セイバーが跳んでランサーに迫る。

 ブースター加速の太刀の一閃、槍で防御を取ろうとするが、セイバーの力が上回り弾かれる。

 続けて左手で短刀を握っての一撃。ランサーは竜化した腕で防ぐ、今までなら無傷で済んでいた……が。

 

「!!」

 

 ダメージを通さない程に強固だった鱗に傷が入る。

 魔力を消耗した事で竜化の守りも脆弱になっているんだろう。ランサー本人も焦燥の表情を浮かべる。

 

「さっきまでの余裕はどうした、嬢ちゃん!」

 

 続けてバーサーカーの剣戟が繰り出される。

 黒い剣筋を尽く槍で受け止め、怒りに任せ真紅の一突きを放つ。

 

「調子に乗らないで!!」

 

 力は弱まっても、強力なサーヴァントなのは変わっていない。

 それでも……今なら俺とアルスのサーヴァントで!

 

「行けっ! バーサーカーっ!」

 

「頼む、セイバー!」

 

 俺達の呼応に応じるように二人はランサーに立ち向かった。

 彼女もまた自身の槍、鋭い爪で拮抗する戦いを見せる。

 

「このアタシに、勝てるとでもっ」

 

 バーサーカーの剣を竜化した手で防ぐ、そして反対側から迫るセイバーの太刀を槍で受け止める。

 

「合わせろセイバー!」

 

「乗ってやるであります! バーサーカー!」

 

 二人は同時に武器に力を込める。──耐えきれずにランサーは弾かれる。

 

「──っ!?」

 

 この機を逃さない。セイバー、バーサーカーは再度武器を構えて彼女に迫り……。

 

「「これでも喰らえっつ!!」」

 

 互いの剣と刀、二つの交差した剣筋がランサーを切り裂いた。

 

「くはっ!!」

 

 傷を追った彼女は数歩後ろに下がり、槍を杖代わりにして踏みとどまる。

 

「弱った今なら。美星さん!!」

 

 一緒に同行して来た美星に合図した。

 彼女は頷くと、上辺が欠けた逆三角形の令呪をかざす。

 

「ここまでですランサー。いえ──」

 

 令呪が赤く輝く。そして言葉を言い放つ。

 

「令呪を以て命令します。ランサーの霊基から離れなさい、アサシン!」

 

 命令と同時に逆三角形の右辺までも輝きを失う。瞬間、ランサーが胸を抑えて両膝をつく。

 

「くぅっ! ……そう言うコトなの、っ。アタシから霊基を……分離させることが」

 

 彼女の言う通り、これが俺達──美星の考えた作戦だ。

 

 

 

 

 ────

 

『アサシンは自分の事をカーミラと名乗りました。物語上に登場する残忍な女吸血鬼、架空のキャラクター。

 けれど実際には、そのイメージの元になった人物こそが彼女の元になった英霊。宝具としていたアイアンメイデンを目にして二人も想像はしていたのではありませんか?』

 

 出発する前に美星は俺達にアサシンについて話してくれた。

 

『中世の時代に存在した貴族。自分の若さを得られると信じて数多くの少女の生き血を絞り取り、犠牲にして来た女領主──エリザベート・バートリー。それがアサシンでもあり、ランサーの真名よ』

 

 エリザベート・バートリー。俺も歴史上の人物の一人として知ってはいる。

 名門貴族バートリー家の令嬢として生まれ、後にチェイテ領を支配する領主となった貴族。不自由もなく、女性としての美貌に恵まれていた彼女は最初こそ幸福だったんだろう。

 けれどいくら貴族でも人間である以上老いは避けられない。若い頃には当然だった美貌も年齢とともに失われ、それが狂気へと駆り立てた。

 エリザベートは若さを維持するために怪しい術、黒魔術にまで手を出し、その末に生娘の生き血を浴びれば若さを得られると信じるようになる。……そこから先は言うまでもない。

 領地に住む庶民の娘を攫い、拷問で生き血を絞り、無惨な死を遂げさせた。アイアンメイデンも彼女が少女を串刺しにして血を絞るために用いられた、言うなれば彼女の残忍さの象徴と言える。

 最後は同じ貴族の娘にまで手を出した事で、他の貴族達に裁かれ、暗く狭い独房に幽閉され生涯を終えたとされている。

 

『おいおい待てよ。じゃあ同じ人物が二人いるってことか? あり得るのかよ』

 

 アルスは美星の説明に反論した。

 

『サーヴァントとはそう言うものみたいね。同じ人物──英霊が元になっても、顕れる側面が異なれば別のクラスのサーヴァントとして召喚し得る。

 私の推測ですけれど、アサシンはエリザベートの領主時代、老いを恐れ、少女を惨殺し血を浴び続けたと言う悪名が轟いていた当時のもの。対してランサーは幼い外見からして、彼女の幼少時代……まだ罪を知らない少女としての側面が強いサーヴァントかしら』

 

 改めての言葉に彼女は少し思案してから、理解したように見据えて言う。

 

『なるほど。要は同一の英霊から生み出された二体のサーヴァントだからこそ霊基の親和性が高く、そのせいで混じり合ってああなったと言うわけか。

 サーヴァントとしての力も増し、性格、狂気までも元の英霊、エリザベート・バートリーの濃度が強くなった。分かりはしたけどよ……アタイ達が知りたいのは、結局どうするつもりだってことだろ? 

 良い作戦があるってんなら早く教えてくれよ』

 

 ここからが本題だ。今こうしている間にもタケルは危険で、凶暴なランサーも街に向かっている。

 時間が惜しい俺達に美星は作戦を伝える。

 

『話なら簡単。二体分の霊基が混ざっていると言うことは、大部分はランサーであると同時に一部はアサシンでもある。

 その一部になら私の令呪も通用する。令呪の力を使ってアサシンの霊基を引き剥がせば、理論上は元のランサーに戻るはず。暴走も止まるわ』

 

 本当に簡単な作戦だった。令呪は一画で一度、サーヴァントさえも従わせる力がある。

 ただそれを使うだけ、聞いてしまえば簡単なことに思える。

 

『じゃあさっさと──』

 

『話なら簡単と言ったはず。別々の霊基でもああなっては混ざり合って殆ど一体化してしまっている、今の状態で令呪を使っても無駄に消費して終わるだけ。

 だからこそ彼方とアルス、二人のサーヴァントの力を借りなければいけない。戦闘で可能な限り消耗させて霊基の結合と令呪への耐性を弱めた上でアサシンの部分を引き剥がします。

 当然、リスクの伴う作戦ですので。覚悟はしてくださいね』

 

 いや、簡単なことではない。あそこまで力を増したランサーを相手に結局は戦うことになる。

 ……けれど今更引き下がる気はない。俺達は必ずタケルを──ランサーを救ってみせる。

 

 

 

 ────

 

「私の推測は正しかった。このままアサシンの霊基が分離されるはず」

 

 膝をついたままのランサー。その身体から光の粒子が溢れ出ていくのが見える。あれがランサーと一体化していたアサシンの霊基か。

 

「う……あぁ……っ」

 

 弱々しく呻く彼女。このまま行けば、目論見通り元に戻るはずだ。

 

「ははっ、やったか!?」

 

 アルスは軽く笑い声を上げて言う。それをバーサーカーが苦笑いを浮かべながらたしなめる。

 

「ったくマスター、安心するのは早いってもんだ」

 

「別にいいだろ? 確かに大変ではあったけどよ、何だ。終わっちまえば案外大したこと──」

 

 

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